説明

N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法

【課題】N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】トリアリールアミン類を溶解することができる溶媒Aと、酸化剤を溶解することができる溶媒Bの共溶媒中に、該トリアリールアミン類と該酸化剤を溶解させ、酸化反応により、N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子や電子写真感光体、有機トランジスタ等の電子材料用素子材料およびその中間体として有用なN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を工業的に効率良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を合成する方法として、ジフェニルアミン類とジハロゲノビフェニール類とを銅触媒で反応させるUllmann−Goldberg反応が知られている。(例えば特許文献1、2参照)
しかしながらこの方法は多量の銅触媒を使用することが必要であり、これを除去することが精製操作の際の大きな負担となり、実用化への妨げとなっている。また、高温かつ長い反応時間がしばしば必要とされ、反応物の着色が著しく、副生物も多量に生成することから、N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の収率が低くなり、また用途に応じて精製の手間がかかるという欠点がある。
【0003】
このためUllmann−Goldberg反応の条件を温和にするための検討もされてきており、例えばGoodbrandは芳香族炭化水素溶媒(キシレン)の還流温度にて塩化銅(I)、水酸化カリウム、1,10−フェナントロリン配位子を用い、N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を得ている。(非特許文献1参照)
しかしながら、この反応系は、高価な配位子を使用する必要があるという工業面での課題を有する。
【0004】
また過塩素酸銅の存在下アセトニトリル中、トリフェニルアミン誘導体を2量化しN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を得る方法も報告されている。(非特許文献2参照)
しかしながら、生成したN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体がアセトニトリル溶媒中に溶存するため、過反応によりオリゴマーが生成し、N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の得量が減少し、また不純物である該オリゴマーが再結晶などでは除去できないなどの生産効率・品質的な問題がある。
さらに塩化鉄を用い2量化する方法も報告されているが、やはり同様な問題点を有している。(非特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭58−52983号公報
【特許文献2】特開平5−9159号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Org.Chem.64,670−674(1999)
【非特許文献2】J.Org.Chem.73,3245−3251(2008)
【非特許文献3】Chem.Lett.1999,79−80(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、実用的な条件下で反応を行うことができ、反応後の精製操作も簡便なN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、これらの課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、トリアリールアミン類と該トリアリールアミン類が溶解可能な溶媒Aおよび酸化剤と該酸化剤が溶解可能な溶媒Bを用い、共溶媒系にて該トリアリールアミン類を該酸化剤により酸化反応させることによって、生産効率が向上し、副生物の生成も抑制されることを見出し、工業的利用価値の高いN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の[1]〜[11]の構成を有する。
【0009】
[1]
下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン類、酸化剤および少なくとも2種類以上の溶媒を用いてトリアリールアミン類を酸化反応させることを特徴とする下記一般式(2)で表されるN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0010】
【化1】

(式中、PおよびQはそれぞれ独立に無置換または1ないし2以上の置換基を有する芳香族炭化水素基を表し、該置換基はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、フルオロ基、フェニル基から選ばれ、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはフルオロ基を表し、またRとRは連環してベンゼン環を形成してもよく、その場合、該ベンゼン環はメチル基またはフルオロ基を置換基に有してもよい。)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、P、QおよびR〜Rは、上記一般式(1)のP、QおよびR〜Rとそれぞれ同一である。)
【0013】
[2]
前記溶媒が前記トリアリールアミン類を溶解することができる溶媒Aと、前記酸化剤を溶解することができる溶媒Bからなる共溶媒であり、該トリアリールアミン類と該酸化剤とが該共溶媒に溶解した状態で酸化反応することを特徴とする、[1]に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0014】
[3]
前記酸化剤が、過塩素酸銅、過塩素酸鉄およびテトラフルオロほう酸銅から選ばれる1種であることを特徴とする、[1]または[2]に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0015】
[4]
前記溶媒Aが、SP値が8〜9であり、ラジカルのクエンチ効果の弱い溶媒から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0016】
[5]
前記溶媒Aが、トルエン、キシレン類、シクロヘキサンから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0017】
[6]
前記溶媒Bが、SP値が10〜18であり、ラジカルのクエンチ効果の弱い溶媒から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0018】
[7]
前記溶媒Bが、ニトリル系溶媒であることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0019】
[8]
前記ニトリル系溶媒が、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびベンゾニトリルから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0020】
[9]
前記N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法において、生成したN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を塩基、酸または水でクエンチすることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0021】
[10]
前記N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法において、前記酸化剤が過塩素酸銅およびテトラフルオロほう酸銅から選ばれる1種である場合、アンモニア水でクエンチすることを特徴とする[9]に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0022】
[11]
前記N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法において、前記酸化剤が過塩素酸鉄である場合、希塩酸でクエンチすることを特徴とする[9]に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、使用するトリアリールアミン類は、窒素原子に芳香族炭化水素が3つ結合した化合物であり、各芳香族炭化水素は無置換でも置換したものでもよく、これら芳香族炭化水素は、そのうちの少なくとも一つがベンゼン環であれば、互いに異なったものでも同一のものでもよい。具体例してはトリフェニルアミン、4,4’−ジメチルトリフェニルアミン、N−フェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン、N−(3−メチルフェニル)−ビス(4−ビフェニリル)アミン、N,N−ジフェニル(4−ビフェニリル)アミン、N−(3,5−ジメチルフェニル)−ビス(4−ビフェニリル)アミン、N−3−ビフェニリル−ビス(4−ビフェニリル)アミン、N−3−フルオロフェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン、N,N−ジフェニル(1−ナフチル)アミン、N−1−ナフチル−ビス(4−ビフェニリル)アミンなどが挙げられる。
【0024】
本発明において、前記溶媒Aは、前記トリアリールアミン類を溶解させ、該トリアリールアミン類の下記酸化剤による酸化反応を阻害しないものであれば、特に限定するものではない。溶剤Aとして、SP値が8〜9であり、ラジカルのクエンチ効果が弱い溶媒から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、トルエン、キシレン類、シクロヘキサンから選ばれる1種または2種以上を用いることが特に好ましい。
ここでSP値とは、溶解度パラメーターのことであり、2成分系溶液の溶解度の目安となるものである。
【0025】
本発明において、反応に使用する酸化剤は、過塩素酸銅、過塩素酸鉄およびテトラフルオロほう酸銅から選ばれる1種を用いることが好ましい。その量は、使用するトリアリールアミン類に対し、1当量以上使用するのが好ましく、特に1〜3当量の範囲が好ましい。反応に用いる酸化剤の量が1当量未満では、得られるN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の収率が低くなる場合があり、好ましくない。また、反応に用いられる酸化剤を大過剰に加えた場合、副生物が増加し、反応終了後の後処理操作が煩雑になり、また結果として得られるN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の収率が低下し、好ましくない。
【0026】
本発明において、前記溶剤Bは、前記酸化剤を溶解させ、前記トリアリールアミン類の該酸化剤による酸化反応を阻害しないものであれば、特に限定するものではない。溶剤Bとして、SP値が10〜18であり、ラジカルのクエンチ効果が弱い溶媒から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。好ましい溶媒としては、酸化還元電位の特性からニトリル系溶媒を挙げることができる。ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびベンゾニトリルから選ばれる1種または2種以上を用いることが特に好ましい。
【0027】
本発明において、前記トリアリールアミン類、溶媒A、酸化剤および溶媒Bの溶解・混合順序に特に制限はない。トリアリールアミン類を溶媒Aに溶解し、また酸化剤を溶媒Bに溶解し、その後に両溶液を混合して該トリアリールアミン類と該酸化剤を溶媒Aと溶媒Bからなる共溶媒系で反応させてもよく、あるいは、あらかじめ溶媒Aと溶媒Bを混合して共溶媒を作り、該共溶媒に該トリアリールアミン類と該酸化剤とを溶解し、その後に共溶媒系で反応させてもよい。
【0028】
本発明において、反応温度は−20〜100℃の範囲であれば特に限定するものではないが、加熱冷却の必要のない室温付近で行なうのが好ましい。
【0029】
本発明において、反応時間は、反応に用いられるトリアリールアミン類、酸化剤の種類、量および反応温度によって異なるため、適宜選択すればよく、通常は1〜24時間程度である。
【0030】
本発明の製造方法で、上記のように2種類以上の溶媒を用いることにより、前記トリアリールアミン類から前記酸化剤の作用によりN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体が生成されると、該N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体は生成の場となった溶媒中での溶解度が低下し、もはや溶存することができず、析出してくる。したがって、生成した誘導体がさらに反応して生じるオリゴマー等の生成を抑えて反応効率を上げることができ、さらに生成した誘導体が析出するので、目的物を容易に回収し精製することができるのである。
【0031】
本発明において、酸化反応終了後に、生成したN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体のラジカルをクエンチする。ラジカルをクエンチする方法としては、クエンチ効果を有するものであれば特に限定されないが、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミドまたはアンモニア水、炭酸カリウムなどの塩基、希塩酸などの酸あるいは水を加えるのが好ましい。特に、前記酸化剤として過塩素酸銅またはテトラフルオロほう酸銅を用いる場合には、銅の析出を防ぎろ過等による目的物の回収を容易にする面からアンモニア水を用いることがより好ましく、前記酸化剤として過塩素酸鉄を用いる場合には、鉄の析出を防ぎろ過等による目的物の回収を容易にする面から希塩酸を用いることがより好ましい。
【0032】
クエンチ後の処理は特に限定されないが、ろ過、洗浄などの常法によって行えばよく、目的とするN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の製造方法によれば、N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を、効率よく、副生物の生成も抑制して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明をなんら制限するものではない。なお反応進行状況の把握は、HPLC分析(カラム Inertsil ODS−3(ジーエルサイエンス社製)4.6×150mm、3μm;検出器UV254nm;カラム温度40℃;流速0.7ml/min.)にて行った。
【実施例1】
【0035】
[実施例1]
温度計を備えた100mlの三つ口フラスコに、N−フェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン1.74g(3ミリモル)、トルエン40mlを加え、室温にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物2.22g(6ミリモル)をアセトニトリル20mlに溶解した溶液を加え、室温にて9時間攪拌後、一夜(15時間)放置した。室温にて3%アンモニア水10mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水にて洗浄後、40℃で減圧乾燥した。HPLC分析にて、原料残存は0.8%、オリゴマーは0.2%であった。o−ジクロロベンゼン60mlにて再結晶し、N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン990mg(収率85%)を得た。
【実施例2】
【0036】
[実施例2]
温度計を備えた100mlの三つ口フラスコに、N−フェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン1.74g(3ミリモル)、トルエン40mlを加え、室温にて溶解した。この中に過塩素酸鉄・7水和物2.8g(6ミリモル)をアセトニトリル20mlに溶解した溶液を加え、室温にて9時間攪拌後、一夜(15時間)放置した。室温にて3%塩酸10mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%塩酸、続いて水にて洗浄後、40℃で減圧乾燥した。o−ジクロロベンゼン60mlに加熱溶解後熱時濾過した。濾液を室温まで放冷することにより析出した結晶を濾取後、乾燥し、N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン950mg(収率81%)を得た。
【実施例3】
【0037】
[実施例3]
温度計を備えた100mlの三つ口フラスコに、N,N−ジフェニル(4−ビフェニリル)アミン0.96g(3ミリモル)、シクロヘキサン40mlを加え、室温にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物2.2g(6ミリモル)をアセトニトリル20mlに溶解した溶液を加え、室温にて8時間攪拌後、一夜(16時間)放置した。室温にて3%アンモニア水10mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水にて洗浄後、40℃で減圧乾燥した。カラムクロマトにより精製(担体:富士シリシア化学(株)製 NHシリカゲル 50g、溶離液:シクロヘキサン/クロロホルム=10/1)して、N,N’−ジ(4−ビフェニリル)−N,N’−ジフェニルベンジジン830mg(収率86.5%)を得た。
【実施例4】
【0038】
[実施例4]
温度計を備えた100mlの三つ口フラスコに、トルエン20ml、アセトニトリル10mlを加え混合した。この中にN−フェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン0.59g(1.5ミリモル)、過塩素酸銅・6水和物1.11g(3ミリモル)を加え室温にて9時間攪拌後、一夜(15時間)放置した。室温にて3%アンモニア水10mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水にて洗浄後、40℃で減圧乾燥した。o−ジクロロベンゼン30mlにて再結晶し、N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン440mg(収率75%)を得た。
【実施例5】
【0039】
[実施例5]
温度計を備えた500mlの三つ口フラスコに、N−(3−メチルフェニル)−ビス(4−ビフェニリル)アミン6.17g(15ミリモル)、トルエン200mlを加え、50℃にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物11.12g(30ミリモル)をアセトニトリル100mlに溶解した溶液を加え、40℃にて8時間攪拌後、一夜(15時間)放置した。室温にて3%アンモニア水100mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水にて洗浄後、40℃で減圧乾燥した。o−ジクロロベンゼン100mlにて2回再結晶し、2,2’−ジメチル−N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン4.07g(収率66.1%)を得た。
【実施例6】
【0040】
[実施例6]
温度計を備えた500mlの三つ口フラスコに、N−(3,5−ジメチルフェニル)−ビス(4−ビフェニリル)アミン6.38g(15ミリモル)、トルエン200mlを加え、50℃にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物9.26g(25ミリモル)をアセトニトリル100mlに溶解した溶液を加え、50℃にて1時間攪拌後室温まで冷却した。室温にて3%アンモニア水100mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水にて洗浄後、40℃で減圧乾燥した。クロロベンゼン75mlにて再結晶し、2,2’,6,6’−テトラメチル−N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン6.0g(収率94.2%)を得た。
【実施例7】
【0041】
[実施例7]
温度計を備えた50mlの三つ口フラスコに、N−フェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン294mg(0.75ミリモル)、トルエン10mlを加え、室温にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物556mg(1.5ミリモル)をブチロニトリル5mlに溶解した溶液を加え、室温にて9時間攪拌後、一夜(15時間)放置した。室温にて3%アンモニア水10mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水、メタノールにて洗浄後、40℃で減圧乾燥し、N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン264mg(収率90.3%)を得た。
【実施例8】
【0042】
[実施例8]
温度計を備えた50mlの三つ口フラスコに、N−フェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン294mg(0.75ミリモル)、トルエン10mlを加え、室温にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物556mg(1.5ミリモル)をプロピオニトリル5mlに溶解した溶液を加え、室温にて9時間攪拌後、一夜(15時間)放置した。室温にて3%アンモニア水10mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水、メタノールにて洗浄後、40℃で減圧乾燥し、N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン271mg(収率92.5%)を得た。
【実施例9】
【0043】
[実施例9]
温度計を備えた50mlの三つ口フラスコに、N−フェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン294mg(0.75ミリモル)、トルエン10mlを加え、室温にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物556mg(1.5ミリモル)をベンゾニトリル5mlに溶解した溶液を加えるとゲル化した様相を呈するが、そのまま室温にて9時間攪拌後、一夜(15時間)放置した。室温にて3%アンモニア水10mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水、メタノールにて洗浄後、40℃で減圧乾燥し、N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン263mg(収率89.7%)を得た。
【実施例10】
【0044】
[実施例10]
温度計を備えた200mlの三つ口フラスコに、N−3−ビフェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン2.37g(5ミリモル)、トルエン80mlを加え、45℃にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物3.70g(10ミリモル)をアセトニトリル40mlに溶解した溶液を加え45℃にて8時間半攪拌後、同温度にて3%アンモニア水80mlを加え、30分攪拌した。一夜(13時間)放置後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水、メタノールにて洗浄後、40℃で減圧乾燥し、2,2’−ジフェニル−N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン2.03g(収率85.9%)を得た。
【実施例11】
【0045】
[実施例11]
温度計を備えた200mlの三つ口フラスコに、N−3−フルオロフェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン2.91g(7ミリモル)、トルエン50mlを加え、室温にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物5.19g(14ミリモル)をアセトニトリル20mlに溶解した溶液を加え室温にて8時間半攪拌後、同温度にて3%アンモニア水100mlを加え、30分攪拌した。一夜(13時間)放置後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水、メタノールにて洗浄後、40℃で減圧乾燥し、2,2’−ジフルオロ−N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)ベンジジン1.09g(収率37.6%)を得た。
【実施例12】
【0046】
[実施例12]
温度計を備えた50mlの三つ口フラスコに、N−1−ナフチル−ビス(4−ビフェニリル)アミン179mg(0.4ミリモル)、トルエン20mlを加え、室温にて溶解した。この中に過塩素酸銅・6水和物222mg(0.6ミリモル)をアセトニトリル10mlに溶解した溶液を加え室温にて8時間攪拌後、同温度にて3%アンモニア水20mlを加え、30分攪拌した後不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水、メタノールにて洗浄後、40℃で減圧乾燥した。カラムクロマトにより精製(担体:富士シリシア化学(株)製 NHシリカゲル 100g、溶離液:シクロヘキサン/クロロホルム=25/1)して、N,N,N’,N’−テトラ(4−ビフェニリル)−1,1’−ビナフチル−4,4’−ジアミン110mg(収率61.5%)を得た。
【0047】
[比較例]
温度計を備えた50mlの三つ口フラスコに、N−フェニル−ビス(4−ビフェニリル)アミン0.59g(1.5ミリモル)、アセトニトリル20mlを加え、室温にて攪拌した。この中に過塩素酸銅・6水和物1.11g(3ミリモル)をアセトニトリル10mlに溶解した溶液を加え、室温にて9時間攪拌後、一夜(15時間)放置した。室温にて3%アンモニア水10mlを加え、30分攪拌した後、不溶物を濾取した。3%アンモニア水、続いて水にて洗浄後、40℃で減圧乾燥した。HPLC分析にて、原料残存は6.1%、オリゴマーは11.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
有機電界発光素子や電子写真感光体、有機トランジスタ等の電子材料用素子材料およびその中間体として有用なN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を、効率良く、副生物の生成も抑制して製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン類、酸化剤および少なくとも2種類以上の溶媒を用いてトリアリールアミン類を酸化反応させることを特徴とする下記一般式(2)で表されるN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【化1】

(式中、PおよびQはそれぞれ独立に無置換または1ないし2以上の置換基を有する芳香族炭化水素基を表し、該置換基はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、フルオロ基、フェニル基から選ばれ、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはフルオロ基を表し、またRとRは連環してベンゼン環を形成してもよく、その場合、該ベンゼン環はメチル基またはフルオロ基を置換基に有してもよい。)
【化2】

(式中、P、QおよびR〜Rは、上記一般式(1)のP、QおよびR〜Rとそれぞれ同一である。)
【請求項2】
前記溶媒が前記トリアリールアミン類を溶解することができる溶媒Aと、前記酸化剤を溶解することができる溶媒Bからなる共溶媒であり、該トリアリールアミン類と該酸化剤とが該共溶媒に溶解した状態で酸化反応することを特徴とする、請求項1に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、過塩素酸銅、過塩素酸鉄およびテトラフルオロほう酸銅から選ばれる1種であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒Aが、SP値が8〜9であり、ラジカルのクエンチ効果の弱い溶媒から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒Aが、トルエン、キシレン類、シクロヘキサンから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒Bが、SP値が10〜18であり、ラジカルのクエンチ効果の弱い溶媒から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒Bが、ニトリル系溶媒であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記ニトリル系溶媒が、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびベンゾニトリルから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項7に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法において、生成したN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体を塩基、酸または水でクエンチする工程を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項10】
前記N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法において、前記酸化剤が過塩素酸銅またはテトラフルオロほう酸銅である場合、アンモニア水でクエンチすることを特徴とする請求項9に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。
【請求項11】
前記N,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法において、前記酸化剤が過塩素酸鉄である場合、希塩酸でクエンチすることを特徴とする請求項9に記載のN,N,N’,N’−テトラアリールベンジジン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2010−202638(P2010−202638A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52(P2010−52)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】