説明

NC−OFDMを用いた通信方法

【課題】N次微分連続OFDMは、OFDMシンボル間を高次微分まで連続に接続することで通常のOFDM信号に比べて低いサイドローブが得られる変調技術である。しかし、この方法はシンボル誤り率が高いという問題があった。
【解決手段】送信シンボルにM種類の乱数系列ベクトルを要素ごとに乗算し、M種類の異なる仮信号シンボルの中で、受信機側で最もエラーが小さくなると想定される仮信号シンボルをNC−OFDMで送信し、どの乱数系列を選択したかという情報はサイドインフォメーションとして送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はOFDMを用いた通信分野に関する。
【背景技術】
【0002】
直交周波数分割多重(OFDM)は様々な通信システムに採用されている。OFDMの利点は高速な伝送速度とマルチパスに対する頑健性である。しかし、OFDMではシンボル間が不連続に接続されることから高いサイドローブが発生するという問題がある。サイドローブを抑圧する手法がさまざまに提案されている(非特許文献1乃至3)。N次微分連続OFDM(Ncontinuous OFDM、以下「NC−OFDM」という:非特許文献4)は、OFDMシンボル間を高次微分まで連続に接続することで通常のOFDM信号に比べて低いサイドローブが得られる変調技術である。
【0003】
OFDM方式でのサイドローブを低減させるという課題に対しては、従来特許文献1が提案されていた。
【0004】
具体的には、並列送信シンボル列を入力してOFDM信号を出力する逆フーリエ変換手段と、該逆フーリエ変換手段から出力される前記OFDM信号を入力し帯域制限をする送信フィルタと、該送信フィルタの出力を直交変調することにより受信装置に送信する送信信号を出力する送信装置であって、前記受信装置側の受信フィルタを含めた総合伝送特性がナイキスト第1基準を満たすロールオフ特性であり、送信フィルタは前記ナイキスト第1基準を満たすロールオフ特性の一部を分配された特性であり、かつ、前記逆フーリエ変換手段が出力する前記OFDM信号の帯域該輻射レベルを低減する特性を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−173153号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.A.Mahmoud and H.Arslan, “Sidelobe Suppression in OFDM−Based Spectrum Sharing Systems Using Adoptive Symbol Transition,” IEEE Commun. Lett., vol. 12, no. 2, pp. 133−135, Feb. 2008.
【非特許文献2】S.Brandes, I.Cosovic, and M.Schnell, “Reduction of out−of−band radiation in OFDM systems by insertion of cancellation carriers,”IEEE Commun. Lett., vol. 10, no. 6, pp. 420−422, June 2006.
【非特許文献3】I.Cosovic, S.Brandes, and M.Schnell, “Subcarrier weighting: a method for sidelobe suppression in OFDM systems, ”IEEE Commun. Lett., vol. 10, no. 6, pp. 444−446, June 2006.
【非特許文献4】J. van de Beek, and F. Berggren,“N−continuous OFDM,” IEEE Commun. Lett., vol. 13, no. 1, pp. 1−3, Jan. 2009.
【非特許文献5】R.W.Bauml, R.F.H.Fischer and J.B.Huber, “Reducing the peak−to−average power ratio of multicarrier modulation by selected mapping,”Electronics Lett., vol. 32, no. 22, pp. 2056−2057, Oct. 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、NC−OFDMはシンボル誤り率が高いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明は、NC−OFDMの誤り率特性を実験的に解析し、選択的マッピングを用いてNC−OFDMを改善する方法を提供する。
【0009】
より具体的には、本発明の伝送方法は、
送信シンボルにM種類の乱数系列ベクトルを要素ごとに乗算し、M種類の異なる仮信号シンボルを作成する工程と、
前記M種類の異なる仮信号シンボルの中でエラーレートが最も小さくなると想定される最小エラー想定仮信号シンボルを選択する工程と、
前記最小エラー想定仮信号シンボルをNC−OFDMで伝送し、前記最小エラー想定仮信号シンボルを得る事ができた乱数系列ベクトルの番号をサイドインフォメーションで送信する工程と、
前記送信された信号から前記最小エラー想定仮信号シンボルをNC−OFDMで受信し、前記乱数系列ベクトルの番号をサイドインフォメーションから取り出す工程と、
前記乱数系列ベクトルの番号に相当する乱数系列ベクトルを前記最小エラー想定仮信号シンボルに乗算し前記信号シンボルを取り出す工程を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の伝送方法は、NC−OFDMの特徴であるサイドローブが低減でき、なおかつ通常のOFDM並みのシンボル誤り率で通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】各サブキャリア毎のE{|wk,i}とE{|Xk,i}を示すグラフである。
【図2】各サブキャリア毎のシンボル誤り率を示すグラフである。
【図3】16QAMの信号点配置を示す図である。
【図4】Prob(Z(m*)>Y)のM=1およびM=8における実験結果および理論値である。
【図5】N=5、M=8のときの電力スペクトル密度である。
【図6】AWGN(加法性白色ガウス雑音)通信路を仮定したときのシンボル誤り率特性を示している。
【図7】行列Pの要素の絶対値を示す図である。
【図8】(17)式を用いてmを決定するための計算時間を示す。
【図9】SNR=18dBのときのLに対するシンボル誤り率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書では、式中の太文字で表される行列を言う場合は、例えば「行列A」などのように「行列」という文字を記号の前に付して記載する。また、行列が1行若しくは1列だけの要素からなるものは、例えば「ベクトルx」などのように「ベクトル」という文字を記号の前に付して記載する。
【0013】
N次微分連続OFDM(NC−OFDM)は、OFDMシンボル間を高次微分まで連続に接続することで通常のOFDM信号に比べて低いサイドローブが得られる変調技術である。しかしNC−OFDMはシンボル誤り率が高いという課題がある。そこで本発明ではNC−OFDMの誤り率特性を実験的に解析し、選択的マッピング(selected mapping.以下「SLM」という:非特許文献5)を用いてNC−OFDMを改善した伝送方法を提供する。
【0014】
NC−OFDMの基本的なアイデアは、ベースバンド帯域信号がN次微分まで連続になるように送信シンボルをプレコーディングする、という点にある。プレコーディング後のi番目のNC−OFDMシンボルs(t)は以下で定義される。
【0015】
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
ここで(50)式は、元の送信シンボルを表す。
【0018】
【数3】

【0019】
また、(51)式は、プレコーディング後の送信シンボルを表す。
【0020】
【数4】

【0021】
また、(52)式はデータ送信のために使用されるサブキャリアの番号の集合を表す。
【0022】
【数5】

【0023】
さらにKはデータ用サブキャリアの数、TsはNC−OFDMシンボルの周期を表す。また、Tgはガードインターバル長で、n∈{0,...,N}である。
【0024】
(2)式に(1)式を代入すると以下の(3)式が得られる。
【0025】
【数6】

【0026】
ここでφ=−2π(Tg/Ts)である。
【0027】
(3)式をベクトル表現すると以下の(4)式となる。
【0028】
【数7】

【0029】
ここで行列Φは(53)式であり、かつ、行列Aは(5)式で表される。
【0030】
【数8】

【0031】
【数9】

【0032】
Jaap van de Beek らは以下の(6)式、(7)式で表されるようなプレコーディングを提案した。なお、(7)式中の行列Φの右肩の「H」はエルミート行列であることを表す。
【0033】
【数10】

【0034】
【数11】

【0035】
ここで、行列Pは(54)式で表される。なお、右辺第1項の括弧の右肩にある十字架印はダガーとよび、括弧の行列に対するムーア・ペンローズの疑似逆行列である。
【0036】
【数12】

【0037】
このプレコーディングは(4)式を満たしており、(55)式で表される挿入されるシンボルであるベクトルwはユークリッドの意味で最小電力である。なお、右辺括弧の右肩の「T」は転置行列を表す。
【0038】
【数13】

【0039】
次に、ここではFFTのポイント数を512、Kを300、ガードインターバル長をTg=(9/128)Ts、各サブキャリアを16QAM変調するとして、NC−OFDMの性能を述べる。なお、これらのパラメータはLTEに準拠する。ここでは、K={−150,...,−1,+1,...,+150}として、N=5次の微分まで連続となるようにOFDMシンボル間を接続するとした。
【0040】
図1は各サブキャリア毎のE{|wk,i}とE{|Xk,i}である。ここでE{x}とはxの期待値である。ここでは、ベクトルXは(56)式のように定義しており、信号点配置において信号点間の最小距離は1としている。
【0041】
【数14】

【0042】
図2は各サブキャリア毎のシンボル誤り率を示している。これらの図から、wk,iやXk,iの電力が大きいほど、シンボル誤り率が高いことがわかる。また高周波領域で電力が高く、シンボル誤り率も劣化していることがわかる。
【0043】
そこで本発明ではwやXの高周波領域での高い電力を抑圧するために、選択的マッピングをプレコーディングに導入する。送信シンボルdに、(57)式で表されるM種類の乱数系列ベクトルであるベクトルq(m)を要素毎に乗算する。
【0044】
【数15】

【0045】
乗算した結果は(8)式で表される。
【0046】
【数16】

【0047】
ここでm∈{0,...,M−1}で、q(m)∈{+1,1}であり、同じ乱数系列が受信側にも格納されているとする。この乗算の結果、M種類の異なる仮送信シンボルとなるベクトルd(m)が生成される。
【0048】
次に以下の(58)式が最小となる仮送信シンボルをM種類の中から選択し、プレコーディングして送信する。具体的には(58)式を(10)式とおき、(10)式の右辺Z(m)が最小になるmを(9)式のようにmとして求め、mに対応する乱数系列を乗じた送信信号をプレコーディングし、NC−OFDM方式で送信する。
【0049】
【数17】

【0050】
【数18】

【0051】
【数19】

【0052】
ここで、ベクトルX(m)は(11)式である。
【0053】
【数20】

【0054】
選択された乱数系列の番号mはサイドインフォメーションとして受信機に送信する。mのビット数はlogMであり、たとえばM=8の場合高々3ビットで、そのビット量は極めて小さい。受信機では従来のNC−OFDM受信機で受信シンボルを計算したのち、サイドインフォメーションで受信したmを用いて受信シンボルにベクトルq(m*)を乗算することで、最終的な受信シンボルを決定する。
【0055】
以下では本発明の伝送方法について理論的に解析する。図3のような16QAMの信号点配置を考えるとき、dk,iは平均0、分散σ=10の複素一様分布である。行列Pのk行l列の要素をpklと書くとき、Xk,iは複素ガウス分布となり、平均は0、分散は(12)式となる。
【0056】
【数21】

【0057】
したがって、第k番サブキャリアの|Xk,iはレイリー分布となる。以上より|Xk,iがあるしきい値電力Y以下になる確率は、(13)式のようになる。
【0058】
【数22】

【0059】
ところで表1は|Xk,iの(59)式で表される最大値Zがいずれのサブキャリア番号で発生するかの割合を実験的に調べたものである。
【0060】
【数23】

【0061】
【表1】

【0062】
この表より最大電力はほとんど±150番のサブキャリアで発生していることがわかる。したがって、すべてのサブキャリアの|Xk,iが、あるしきい値電力Yを超えない確率は、k=±150のサブキャリアの|Xk,iが共にYを超えない確率(14式)に近似的に等しい。
【0063】
【数24】

【0064】
逆に、すべてのサブキャリアのうち一つでも|Xk,iがあるしきい値電力Yを超える確率は、(15)式で表される。
【0065】
【数25】

【0066】
(8)式で示したように、送信シンボルにM種類の乱数系列を乗じるとM種類の仮送信シンボルであるベクトルd(m)が生成される。各仮送信シンボルのZ(m)がしきい値電力Yを超える確率は(14)式で与えられる。M個の仮送信シンボルのすべてのZ(m)があるしきい値電力Yを超えるとき、当然、Z(m)の中で最小のものZ(m*)もYを超えている。したがって、Z(m*)がYを超える確率は以下で求められる。なお、前文中の「Z」の右肩中の「m*」は「m」の意味である(以下も同じ)。
【0067】
【数26】

【0068】
図4はProb(Z(m*)>Y)のM=1およびM=8における実験結果および理論値である。図より理論値と実験結果がほぼ一致していることがわかる。またMが増加するにしたがって、Prob(Z(m*)>Y)が減少することがわかる。これは試行回数Mが多いほど小さな電力をもつシンボルが得られることを示している。
【0069】
本発明の伝送方法の有効性を検証するために数値実験を行った。電力スペクトル密度は、4倍のオーバーサンプリング信号を4,096サンプルのHanning窓をかけ、512サンプルだけオーバラップさせた信号にWelch’s averaged periodogram法を用いて計算した。
【0070】
図5はN=5、M=8のときの電力スペクトル密度である。この図から、本発明の伝送方法は、従来のNC−OFDMと同程度のサイドローブ抑圧性能があることがわかる。図6はAWGN(加法性白色ガウス雑音)通信路を仮定したときのシンボル誤り率特性を示している。この図よりシンボル誤り率特性は大幅に改善されており、通常のOFDMの誤り率特性(最適値)とほぼ同じ性能であることがわかる。
【0071】
<SLMにおける計算量の削減>
を探索するための(9)、(10)、(11)式の計算量はO(MK)で、これは極めて膨大な計算を必要とする。したがって実現可能な計算量まで削減する必要がある。今、行列Pの要素の絶対値を図7に示す。この図から、行列Pの左上と右下(これらは1行1列目とK行K列目の要素にそれぞれ対応している)に2つのピークがあることがわかる。
【0072】
このことから(11)式の計算において、行列Pの左上と右下の周りの主要ないくつかの要素以外をすべて0として計算することで近似値が得られることがわかる。よって、ここでは(11)式の代わりに以下の式で計算する。
【0073】
【数27】

【0074】
ここで、2Lは最大電力に影響を与えるサブキャリア数で、計算量を削減するためにKよりもずっと小さく設定する。この場合、乗じる乱数系列の長さは2Lで済み(行列Pの要素を0とするため)、乱数系列が乗算される送信シンボルの数はKから2Lとなる。また(17)式の計算量はO(ML)であり、(11)式に比べて計算時間は劇的に減少する。
【0075】
図8に(17)式を用いてmを決定するための計算時間を示す。ここで計算時間は、従来のNC−OFDMを用いた送信シンボルの生成にかかった計算時間を1として正規化している。この図から、たとえば2L=32のとき、提案法は送信信号を生成するために、正規化時間で1.05必要としていることがわかる。
【0076】
図9にSNR=18dBのときのLに対するシンボル誤り率を示す。これらの図は2L=32のときシンボル誤り率は10-3から10-5に改善されていることがわかる。以上より5%の計算時間の増加でシンボル誤り率を10-3から10-5に改善できることがわかる。
【0077】
<挿入シンボル生成のための計算量の削減>
本発明の伝送方法によって決定された乱数系列を用いて、送信シンボルは位相回転され、(6)、(7)式によってプレコーディングされる。ここで(7)式の行列Pとベクトルd、および、行列PとベクトルΦdi1の乗算の計算量はO(K)とたいへん膨大である。そこでこの計算量を削減する。
【0078】
まず(7)式を以下の(18)式のように整理する。
【0079】
【数28】

【0080】
ここでベクトルxは(60)式で表される。
【0081】
【数29】

【0082】
行列Pはその定義からP=Pの性質を持ち、そのランクはN+1で、その固有値はN+1個が1で、その他は0である。そこでこの行列は以下の(19)式のように特異値分解できる。
【0083】
【数30】

【0084】
ここで「′」は共役転置である。行列Sは最初のN+1個の対角要素が1、残りのKN1個の対角要素が0の対角行列である。行列U、行列VはK×Kのユニタリ行列である。今、行列Uの先頭のN+1列によって構成されるK×(N+1)の行列を行列Q、行列V′の先頭のN+1行によって構成される(N+1)×Kの行列を行列Rとすると、行列Pとベクトルxの積は、(20)式のように記載できる。
【0085】
【数31】

【0086】
まず行列Rとベクトルxの乗算を行い、つぎにその結果と行列Qとの乗算を行う。最初の乗算の計算量はO((N+1)K)であり、次の乗算の計算量はO(K(N+1))である。以上より計算量は大幅に削減される。たとえばK=300,N=5のとき、従来であれば300×300=90,000回の積和演算が必要であったが、本発明によると300×6×2=3,600回となり、計算量は25分の1になる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明はOFDM方式を使う伝送方式に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信シンボルにM種類の乱数系列ベクトルを要素ごとに乗算し、M種類の異なる仮信号シンボルを作成する工程と、
前記M種類の異なる仮信号シンボルの中でエラーレートが最も小さくなると想定される最小エラー想定仮信号シンボルを選択する工程と、
前記最小エラー想定仮信号シンボルをNC−OFDMで伝送し、前記最小エラー想定仮信号シンボルを得る事ができた乱数系列ベクトルの番号をサイドインフォメーションで送信する工程と、
前記送信された信号から前記最小エラー想定仮信号シンボルをNC−OFDMで受信し、前記乱数系列ベクトルの番号をサイドインフォメーションから取り出す工程と、
前記乱数系列ベクトルの番号に相当する乱数系列ベクトルを前記最小エラー想定仮信号シンボルに乗算し前記信号シンボルを取り出す工程を有する通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−15810(P2012−15810A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150470(P2010−150470)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】