説明

NERDの治療のための(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸の使用

本発明は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療又は予防のための、(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸若しくはその光学異性体、又はその薬学的に許容される塩の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療又は予防のための、(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸若しくはその光学異性体、又はその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
下部食道括約筋(LES)は、間欠的に弛緩する傾向があり、これは、一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)として公知である。結果として、このようなときに機械的バリアが一時的に失われるため、胃からの流体が食道中へ流れ得る;以下において「逆流」と呼ばれる事象。胃食道逆流症(GERD)は、最も一般的な上部GI障害の1つであり、西欧世界において有病率は10〜20%である。GERD患者は、2つの主要なカテゴリー:びらん性胃食道逆流症(ERD)及び非びらん性胃食道逆流症(NERD)へ細分される。後者はしばしばより軽症の形態と見なされる一方、症状の重篤度及び発生率は、2つのグループにおいて同一である。2つのグループへの患者の分布は、研究間で相違するが、一般的に、NERDは、GERD集団の少なくとも半分を構成する(非特許文献1)。
【0003】
胃食道逆流症(GERD)の新しい定義が、非特許文献2によって開示された。
【0004】
非びらん性胃食道逆流症(NERD)は、食道炎へ至らない逆流障害である。NERDに苦しむ患者は、通常の、普通の解像度の、内視鏡検査によって判断されると、正常な食道粘膜を有し、典型的に、内視鏡検査陰性逆流症を有すると分類される。NERD患者は、異常又は正常な酸曝露を有し得、即ち、該患者は、弱酸性又はアルカリ性逆流に悩まされる。
【0005】
非特許文献3は、一過性下部食道括約筋弛緩の率を減少させるためのバクロフェンの使用、及びそれによるNERDの治療を報告している。
【0006】
非特許文献4は、持続性非酸性十二指腸胃食道逆流を有する患者におけるバクロフェンの使用を報告している。バクロフェンは、胆汁逆流及び逆流症状の発生を抑制することが示された。
【0007】
しかし、バクロフェンは、眠気、めまい、精神障害、不眠、不明瞭発語、運動失調、緊張低下(hypotonia)、低血圧、疲労、錯乱、頭痛、発疹、悪心、便秘及び多尿などの副作用を伴う。従って、バクロフェンのCNS副作用プロフィールは、NERDの治療における該化合物の有用性を制限する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Martinez SD, Malagon IB, Garewal HS, Cui H, Fass R. Alimentary Pharmacology & Therapeutics 2003;17:537-45
【非特許文献2】Vakil N et al., Am J Gastroenterol 2006; 101: 1900-1920; “The Montreal Definition and Classification of Gastroesophageal Reflux Disease: A Global Evidence Based Consensus”
【非特許文献3】Dekel R., Fass R., Minerva Gastroenterol. Dietol. (2003), 49(4), 277-287
【非特許文献4】Koek G.H. et al., Gut (2003), 52, 1397-1402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、バクロフェンの使用に伴うものと比べてより少ない副作用を伴う、非びらん性胃食道逆流症(NERD)を治療する新規の方法を見出すことであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある局面は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療のための(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸である。
【0011】
本発明のある局面は、NERDの治療又は予防用の医薬の製造のための(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸の使用に関する。
【0012】
本発明のさらなる局面は、NERDの治療又は予防用の医薬の製造のための(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸の使用である。
【0013】
本発明のなおさらなる局面は、NERDの治療又は予防のための(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸である。
【0014】
本発明のさらなる局面は、薬学的に及び薬理学的に有効な量の(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸を、このような予防又は治療の必要がある被験者へ投与する、NERDの治療及び/又は予防のための方法である。
【0015】
本発明のさらなる局面は、薬学的に及び薬理学的に有効な量の(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸を、このような予防又は治療の必要がある被験者へ投与する、NERDの治療及び/又は予防のための方法である。
【0016】
本発明のなおさらなる局面は、非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療のための(2S)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸である。
【0017】
本発明のさらなる局面は、NERDの治療又は予防用の医薬の製造のための(2S)−3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸の使用に関する。
【0018】
本発明のさらなる局面は、薬学的に及び薬理学的に有効な量の(2S)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸を、このような予防又は治療の必要がある被験者へ投与する、NERDの治療及び/又は予防のための方法である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に従う有用な化合物は、両性であり、内部塩の形態で提示され得る。本明細書において使用される化合物はまた、酸付加塩及び塩基との塩を形成し得る。このような塩は、薬学的に許容される酸付加塩、並びに塩基を用いて形成された薬学的に許容される塩である。このような塩の形成に有用な酸の例としては、例えば、鉱酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、若しくはリン酸、又は有機酸、例えば、スルホン酸及びカルボン酸が挙げられる。塩の形成のために有用な塩基の例は、例えば、アルカリ金属塩、例えば、ナトリウム若しくはカリウム塩、又はアルカリ土類金属塩、例えば、カルシウム若しくはマグネシウム塩、並びにアンモニウム塩、例えば、アンモニア若しくは有機アミンとのものである。
【0020】
本発明において有用な化合物は、ラセミ体の形態又は単一のエナンチオマーの形態で存在し得る。
【0021】
本発明に従う有用な化合物はまた、本明細書に記載されるように使用される場合、異なる結晶形、又は、溶媒和物、例えば水和物、の形態で存在し得る。
【0022】
非びらん性胃食道逆流症(NERD)は、食道炎へ至らない逆流障害である。NERDに悩む患者は、通常の、普通の解像度の、内視鏡検査によって判断されると、顕微鏡的に正常な食道粘膜を有し、典型的に、内視鏡検査陰性逆流症を有すると分類される。NERD患者は、異常又は正常な酸曝露を有し得、即ち、該患者は、弱酸性又はアルカリ性逆流に苦しみ得る。
【0023】
本明細書で使用される表現「治療」はまた、それと逆の特別な表示がない限り、予防又は防御を含む。
【0024】
本発明に従う有用な化合物は、WO01/42252に記載されるようにして製造され得る。
【0025】
薬学的製剤
臨床用途について、本発明に従って使用される活性化合物は、経口投与用の薬学的製剤に製剤化され得る。また、非経口又は任意の他の投与経路が、製剤の技術分野の当業者に考えられ得る。従って、本発明に従って使用される活性化合物は、少なくとも1つの薬学的に及び薬理学的に許容される担体又はアジュバントと共に製剤化され得る。担体は、固体、半固体又は液体希釈剤の形態であり得る。
【0026】
本発明に従う有用な化合物の経口薬学的製剤の作製において、製剤化される活性化合物は、固体粉末成分、充填剤、崩壊剤、及び滑沢剤と共に混合され得る。次いで、混合物は、顆粒剤に加工処理され、及び/又は錠剤に圧縮される。
【0027】
軟ゼラチンカプセル剤は、活性化合物及び他の好適な薬学的薬剤及び/又は軟ゼラチンカプセル剤用のビヒクルの混合物を含有するカプセルを用いて作製され得る。硬ゼラチンカプセル剤は、固体粉末成分と共に活性化合物を含有し得る。
【0028】
経口投与用の液体調製物は、活性化合物と、糖又は糖アルコール、並びにエタノール、水、グリセロール、プロピレングリコール及びポリエチレングリコールの混合物からなる製剤の残りとを含有する、シロップ剤又は懸濁剤、例えば、液剤又は懸濁剤の形態で調製され得る。必要に応じて、このような液体調製物は、着色剤、矯味矯臭剤、サッカリン、及びカルボキシメチルセルロース又は他の増粘剤を含有し得る。経口投与用の液体調製物はまた、使用前に好適な溶媒で再構成される乾燥粉末の形態で調製され得る。
【0029】
非経口投与用の液剤は、薬学的に許容される溶媒中の活性化合物の溶液として調製され得る。これらの液剤はまた、安定化成分及び/又は緩衝化成分を含有し得、アンプル又はバイアルの形態の単位用量へ調剤される。非経口投与用の液剤はまた、使用前に即座に好適な溶媒で再構成される乾燥調製物として調製され得る。
【0030】
(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、若しくは(2S)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、又は本発明に従う有用な前記化合物のいずれか1つの塩の一日量は、2200mg/日まで、例えば、480mg/日までであり得る。前記化合物は、例えば、1日1回又は2回投与され得る。本発明の1態様において、前記化合物は、240mg bid(即ち、合計480mg/日になるように1日2回)の用量で投与され得る。
【0031】
さらにある態様において、本発明に従って使用される化合物の日用量は、30mg bid、60mg bid、120mg bid及び240mg bidなどの投薬量で投与され得る。表現、bidは、化合物が1日2回投与されることを意味し、従って、化合物の一日量は、60mg、120mg、240mg及び480mgであり得る。
【0032】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される、表現「化合物」又は「活性化合物」は、(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、(2S)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、又は前記化合物のいずれか1つの薬学的に及び薬理学的に許容される塩、並びに、前記化合物のいずれか1つの結晶形態、又はその塩の結晶形態と本明細書において定義される。
【0033】
(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸若しくはその薬学的に許容される塩;(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸若しくはその薬学的に許容される塩;又は、(2S)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸若しくはその薬学的に許容される塩のいずれか1つの結晶形態の使用も本発明の範囲内にある。
【0034】
(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸は、A型及びB型などの異なる結晶形で存在し得る。
【0035】
(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、A型の製造
メタノール(960ml、23.72モル)中に溶解された(2R)−3−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−2−フルオロ−プロピルホスフィン酸アンモニウム塩320g(1.11モル)を、55℃にて硫酸(105.43ml、1.90モル)で処理した。反応が完了した後、反応混合物を30℃に冷却し、メタノール中に溶解された酢酸アンモニウム(180g、2.34モル、420mlメタノール)の添加によってpHをおよそ5に調節した。pH調節の間、硫酸アンモニウム、残りの酢酸アンモニウム及び他の塩が沈殿した。中和した反応混合物を透明に濾過した。イソプロパノール(3.84L、50.23モル)を50℃で添加し、(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、A型が結晶化した。スラリーを0℃に冷却した。結晶を単離し、真空乾燥した。
1H-NMR (400 MHz, D2O): (1.93 (1 H, m), 2.13 (1 H, m), 3.31 (2 H, m), 5.14 (1 H, dm, J=50 Hz), 7.07 (1 H, d, J=528 Hz).
【0036】
結晶をX線粉末回折(XRPD)によって解析した。A型のディフラクトグラムは、下記のオングストロームで与えられるd値及び相対強度を示した:
【0037】
【表1】

【0038】
相対強度を下記の定義によって示した:
使用される定義 % 相対強度
vs(非常に強い): 100−70
s(強い): 70−40
m(中間): 40−10
w(弱い): 10−5
vw(非常に弱い): <5
【0039】
相対強度は、可変スリットで測定したディフラクトグラムから誘導した。
【0040】
(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸、B型の製造
(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸A型40gを、メタノール150mL及び水65mLへ添加した。全てが溶解するまで、スラリーを40℃に加熱した。アセトン320mLを、10時間にわたって前記溶液へ添加した。スラリーを40℃で33時間撹拌した。次いで、得られた結晶を濾過し、一晩40℃で真空乾燥した。乾燥後に、(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸B型36.67gが得られた。
1H-NMR (400 MHz, D2O): (1.95 (1 H, m), 2.15 (1 H, m), 3.33 (2 H, m), 5.16 (1 H, dm, J=50 Hz), 7.08 (1 H, d, J=528 Hz).
【0041】
結晶をX線粉末回折(XRPD)によって解析した。B型のディフラクトグラムは、下記のオングストロームで与えられるd値及び相対強度を示した:
【表2】

【0042】
相対強度を下記の定義によって示した:
使用される定義 % 相対強度
vs(非常に強い): 31−100
s(強い): 8.1−31
m(中間): 3.1−8.1
w(弱い): 0.7−3.1
vw(非常に弱い): 0−0.7
【0043】
相対強度は、可変スリットで測定したディフラクトグラムから誘導した。
【0044】
生物学的評価
(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸の臨床研究を行った。研究は、健康なボランティアにおける単純盲検、無作為化、並行群間、プラセボ対照研究であった。各被験者に、2用量の(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸を増加順に、及び1プラセボ用量を与えた。1用量の(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸0.8mg/kgをプラセボと比較し、バクロフェン(40mg)をポジティブコントロールとして使用した。治療の順序を無作為化した。標準食事の摂取(薬物摂取の1時間後に完了した)の0〜3時間後の一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)の数は、プラセボと比較して、(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸及びバクロフェンについて、それぞれ、36%及び47%減少された(図1)。
【0045】
(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸は、TLESRの抑制について有効であり、また十分に許容されることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】薬物摂取(プラセボ、(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸0.8mg/kg、バクロフェン40mg)の1時間後に完了した標準食事の摂取の0〜3時間後の一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)の数を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療又は予防用の医薬の製造のための、(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸若しくはその光学異性体、又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項2】
非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療又は予防のための、(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸若しくはその光学異性体、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療又は予防用の医薬の製造のための、(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項4】
非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療又は予防のための、(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸又はその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
活性化合物の一日量が2200mg/日までである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
薬学的に及び薬理学的に有効な量の(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸若しくはその光学異性体、又はその薬学的に許容される塩を、このような予防又は治療の必要がある被験者へ投与する、非びらん性胃食道逆流症の治療又は予防のための方法。
【請求項7】
薬学的に及び薬理学的に有効な量の(2R)−(3−アミノ−2−フルオロプロピル)ホスフィン酸又はその薬学的に許容される塩を、このような予防又は治療の必要がある被験者へ投与する、非びらん性胃食道逆流症の治療又は予防のための方法。
【請求項8】
活性化合物の一日量が2200mg/日までである、請求項6又は7に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−534239(P2010−534239A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518149(P2010−518149)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/SE2008/050890
【国際公開番号】WO2009/014491
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】