NMR検出器
【課題】LF近傍にゴースト信号が出現するのを防止することができる平衡回路方式のNMR検出器を提供する。
【解決手段】高い高周波HFと、ロック帯域の高周波(ロック周波数)に対して2重同調する平衡共振回路と、低い高周波LFに対して共振する高周波回路と、を備えたNMR検出器において、前記平衡共振回路のHFに共振する部分は、主に、HFに共振するサンプルコイルL1、該L1の両端を結ぶ第1の容量素子C0、および該L1の両端をそれぞれ接地するほぼ同容量の容量素子C2、C3からなり、前記平衡共振回路のロック周波数に共振する部分は、主に、前記L1の両端に接続された分離回路DCPL1、DCPL2と、該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部を互いに結ぶ容量素子C100とからなる。
【解決手段】高い高周波HFと、ロック帯域の高周波(ロック周波数)に対して2重同調する平衡共振回路と、低い高周波LFに対して共振する高周波回路と、を備えたNMR検出器において、前記平衡共振回路のHFに共振する部分は、主に、HFに共振するサンプルコイルL1、該L1の両端を結ぶ第1の容量素子C0、および該L1の両端をそれぞれ接地するほぼ同容量の容量素子C2、C3からなり、前記平衡共振回路のロック周波数に共振する部分は、主に、前記L1の両端に接続された分離回路DCPL1、DCPL2と、該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部を互いに結ぶ容量素子C100とからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMR装置に用いられるNMR検出器に関し、特に、異なる周波数で共振する複数の同調回路を備えたNMR検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、多核観測用のNMR検出器では、水素核(1H核)などを測定する高い周波数f1(例えば、700MHz、以降HF周波数と呼ぶ)で共振するコイル(以降HFコイルと呼ぶ)と、炭素核(13C核)、窒素核(15N核)、リン核(31P核)などを測定する低い周波数f2(例えば、13C核では176MHz、15N核では71MHz、31P核では284MHz、これらを以降LF周波数と呼ぶ)で共振するコイル(以降LFコイルを呼ぶ)とを備えており、HFコイルには、重水素核(2D核)を測定するロック用の周波数f3(例えば、123MHz、以降ロック周波数と呼ぶ)でも共振可能なように、二重同調回路が備えられている。
【0003】
図1は、従来の多重同調NMR検出器の一例を示す図である。最初に、HFの共振モードについて説明する。図1中、L1がサンプルコイルである。HF周波数を持ったRFは、HF入力ポートf1から導入される。f1から導入されたRFは、サンプルコイルL1、HF同調コンデンサC0、C2、およびC3、HF整合コンデンサC1により構成されるLC共振回路で平衡型共振し、サンプルコイルL1近傍に置かれた図示しないNMR試料にHF周波数のRF磁界を照射する。これにより、NMR試料中で磁気共鳴が起きれば、試料から発生したNMR信号がサンプルコイルL1により検出され、ポートf1を介して外部に取り出される。尚、このモードでは、ヘリカルコイルL3、L4は、分布インダクタンスとして働き、HFの1/4波長共振器として作用する。たとえば、HFが700MHzの場合、1/4波長は102〜107mm程度になる。そのため、HFは、ノード1、2で電界振幅が最大になり、コンデンサC4とコンデンサC6の接地端で電界振幅がゼロになるような電磁界分布を取る。その結果、ノード1からヘリカルコイルL3側寄り、および、ノード2からヘリカルコイルL4側寄りの部分ではHFは反射され、共振に関与しない。尚、HFの上記波長共振器としては、1/4波長共振器として作用させる場合が一般的であるが、n/4波長共振器(nは奇数)として作用させても良い。
【0004】
次に、ロック周波数の共振モードについて説明する。図1中、サンプルコイルL1、ヘリカルコイルL3、ヘリカルコイルL4を合わせたものが、ロック周波数に共振する共振コイルである。このモードでは、ヘリカルコイルL3、L4は、集中インダクタンスとして働く。L3とL4のインダクタンスは、L1のインダクタンスよりも数倍大きいため、L1のインダクタンスは共振にほとんど寄与しない。ロック周波数を持ったRFは、ロック用RF入力ポートf2から導入される。ポートf2から導入されたRFは、L1、L3、L4、および、ロック用同調コンデンサC4およびC6、ロック用整合コンデンサC5により構成されるLC共振回路で平衡型共振し、サンプルコイルL1近傍に置かれた図示しないNMR試料にロック周波数のRF磁界を照射する。これにより、NMR試料中で磁気共鳴が起きれば、試料から発生したロック信号がサンプルコイルL1により検出され、ポートf2を介して外部に取り出される。
【0005】
図1のヘリカルコイルL3、L4の代わりに、L3とC7から成る第1のLC並列共振回路とL4とC8からなる第2のLC並列共振回路をHFリジェクト回路に採用したNMR検出器が図2に示されるNMR検出器である。また、図1のヘリカルコイルL3、L4の代わりに、第1の波長共振器TL1(例えばヘリカル共振、1/4波長レゾネータ)と第2の波長共振器TL2をHFリジェクト回路に採用したNMR検出器が図3に示されるNMR検出器である。
【0006】
図4は、図1のヘリカルコイル、図2のLC並列共振回路、図3の波長共振器を総じて、一般的にDCPL(分離回路decoupling circuitの略称)とし、かつ更に一般的なNMR検出器である多核(13C核、15N核、31P核など、いわゆるLF周波数核種と呼ぶもの)も観測できる機能を備えた標準的なNMR検出器を示す。
【0007】
LFの共振モードについて説明する。図4中、L2はLFコイル(第2のサンプルコイル)である。LF周波数を持ったRFは、LF入力ポートf4から導入される。ポートf4から導入されたRFは、LFコイルL2、LF同調コンデンサC00、C11、およびC12、LF整合コンデンサC10により構成されるLC共振回路で平衡型共振し、LFコイルL2近傍に置かれた図示しないNMR試料にLF周波数のRF磁界を照射する。これにより、NMR試料中で磁気共鳴が起きれば、試料から発生したNMR信号がLFコイルL2により検出され、ポートf4を介して外部に取り出される。
【0008】
図5は、この標準プローブのサンプルコイルL1、L2の相対的な配置を、同心円状に配する場合で示している。観測コイルは内側に位置するL2コイル、照射コイルは外側に位置するL1コイルである。一般に、感度を得たい核を観測する場合、試料に一番近い配置を取る(つまり内側に位置する)サンプルコイルにその核の同調をする。従って、場合によっては、L1とL2の配置は逆配置であっても良い。
【0009】
図5の例では、ポートf4の核種が最も感度を欲する核になる。f4側の回路は、単同調回路を示している。平衡回路の例と不平衡回路の例を併記した理由は、その利用方法において、適当と思われる場合、いずれかを選択して使用するからである。
【0010】
本題に関わる技術内容なので、ここで平衡回路と不平衡回路を簡単に説明する。サンプルコイルの両端がキャパシタで浮いている回路を構成するのが平衡共振回路である。逆にサンプルコイルの一端が接地され、他端がキャパシタで浮いている回路を構成するのが平衡共振回路である。その違いは2つほどあり、1つは、平衡共振回路の場合、接地から浮いているので、サンプルコイルおよびその周辺の浮遊容量が共振容量に寄与する割合が軽減されて、より高域の周波数範囲をカバーできることである。
【0011】
2つには、サンプルコイル両端の共振電圧が仮に4kVppとすると、平衡共振回路ではサンプルコイルの両端のキャパシタで電圧分割ができるため、1つのキャパシタにかかる電圧が軽減されることである。仮に図5に示す回路で言うと、C11とC12がほぼ似たような容量であれば、個々のキャパシタにかかる電圧は2kVppとなる。ところが、不平衡回路では、C11に4kVppが直接かかることになる。つまり、不平衡回路では、キャパシタの耐電圧仕様がたいへん厳しくなるので、このような回路では放電を心配して、検出器には大きなRF電圧を入れることができない。
【0012】
逆を言えば、平衡回路では、2倍大きなRF電力を入れることができる。耐電圧仕様が半分で済むということは、電圧比の2乗、つまり4倍の電力を平衡回路では入れられることになる。これは、不平衡回路に対し、大きく優る特徴である。
【0013】
図6と図7は、これまで述べてきた二重共鳴(HF/LF)と違い、更に1回路が増設された三重共鳴回路(HF/LF/LF)を含む検出器について、従来技術を記載している。このように、分離回路を介して、順に所望の周波数の同調回路を増設することができるが、平衡回路を組み込んだ構成では、必ずゴーストと呼ばれる不要信号共振モードが副次的に生成される。
【0014】
図6と図7では、このような回路網解析に使用されるネットワークアナライザ測定器のSパラ解析グラフに基づいて、出現するゴースト信号の大まかな背景、つまりどのような範囲に出るかなど、本来の周波数群との相対的な関係を模式的に分かるようにしている。ちなみに、グラフの縦軸は随意の指数で示す反射特性周波数分布で、話題の周波数に対し、ゴースト信号が出る位置関係の手助けを示す程度のものである。
【0015】
仮に、HFが600MHzの装置で話をすると、図6、図7のいずれの場合でも、ゴースト信号は隣り合う周波数に影響が及ぶことが想像できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
特開2006−208216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
標準プローブの話に戻るが、例として、LF観測(またはLF照射)、HF照射(またはHF観測)2D(重水素)NMR-ロックがあるとする。ここで、LF回路側は、言葉で説明できる範囲に入るので、図を省略する。ただし、説明の中では、LF回路は常に存在しているものとして話を進める。
【0018】
例として、f1(HF:1H)、f2(ロック:2D)を得る二重同調回路の分離回路が波長共振回路で構成されている例で説明する。図8で示す。この分離回路は既に述べたように、種々の回路が想定されるが、ここでは適度な特性インピーダンスと適度な長さ(一般的には、1/4波長共振する線路に設計するが、その奇数倍などの変形も当然ある)で波長共振させ、周波数を分離する。
【0019】
図8では、HF共振回路は、L1、C0、C2、C3を主要素子として構成され、ロック共振回路は、TL1、TL2、C4、C6を主要素子として構成される。また、先に述べたゴースト信号の共振回路は、TL1、TL2、C4、C6、C2、C3の素子群から生じ、LFと干渉する。
【0020】
図8のように構成された回路を600MHzNMR装置に使用する場合、その周波数特性は、図9のようなものとなる。左図はf1端子での反射特性(直線で示す線)とf1端子からf2端子への通過特性である。右図はf2端子での反射特性(直線で示す線)とf2端子からf1端子への通過特性である。
【0021】
この例では、ゴースト信号は、326MHzに出ている。省略しているLF側の周波数f4が例えば31P(243MHz)の場合、ゴースト信号がこの31Pの共鳴周波数に干渉する。本例では、比較的穏やかなデバイス定数配置に設定されているが、極端な場合では、ゴースト信号の出る位置が〜270MHz付近となる。図10に示す。
【0022】
図10では、f1(1H:HF)、f2(2D:ロック)、f3(ゴースト)、f4(31Pの例:LF)を含めたネットワーク仕様の各周波数のSパラ特性を示している。その中で、本案に関係するところだけ記述する。
【0023】
ゴースト信号は、ほぼ270MHz付近に現れ、31P(243MHz)と干渉している。仮に干渉が起きない場合での31Pの感度を100%とすると、この程度の干渉でも感度は50〜70%ぐらいに低下する。パルス幅にすると、1.4〜2倍に長くなる。
【0024】
HF側の同調は、その多くが19F核(600MHzNMR装置では565MHz)までの同調範囲をカバーしているが、このような場合、図11に示すように、ゴースト信号は完全にf4にかぶさってしまい、その感度を著しく低下させる。パルス幅も著しく長くなる。
【0025】
このような問題を抱えているのが従来技術である。かなり古い技術である不平衡回路では、このようなゴースト信号は現れない。図12と図13に示す。しかしながら、先ほど説明したように、現代のように超高磁場NMR装置が現れ、広い励起帯域を望み、かつ、高感度を要求される時代では、大きなRF電力を投入でき、なお700/800/900MHz級の高域周波数まで設計対応が利く平衡回路の優位性は絶大で、不平衡回路のような古い技術はどうしても陳腐になる。
【0026】
平衡回路ではこのようなゴースト信号がなぜ出るのかを説明する。図8で示す回路で説明する。TL1、TL2を誘導成分で簡略的に近似すると、L(TL1)、L(TL2)である。共振する容量成分を関係する周辺容量も含めて丸め、C2はC2*、C3はC3*、C4はC4*、C6はC6*になるとする。
【0027】
関係するf1、f2、f3であるが、f1はHFなので、L1とC0、C3*、C2*から成る並列共振で生成される信号である。さて、f2、f3は図14、図15に模式的に示すような信号である。
【0028】
図14では、本来は2つのコイル間にサンプルコイルL1が入る。しかし、HF共振を考えると、L1のインダクタンスとしての値は〜20nH前後に過ぎないので、ここでは無視している。すなわち、図15と釣り合いを取るため、意図的に省いている。
【0029】
図15の平衡回路では、2つの並列共振ができ、その間を容量で結合する場合は双峰に分裂した周波数特性となる。また、容量の代わりにサンプルコイルが入ると、図15のように直結状態と等価になるので、シングルの合成周波数が生成される。これがゴーストと呼ばれるもので、このような平衡回路の構成を取る場合は必然的に現れる。
【0030】
このため、HFの同調容量、C2*またはC3*のいずれかを変化させると、この合成周波数は大きく移動することになる。図11で示すようなゴーストの動きを起こす理由である。図16は、そのようにしてHF同調相当Cを適当に大きく変化させた場合のゴーストの変化を示したものである。
【0031】
図16から明らかなように、当初3百数十MHzにいたゴースト信号が、219MHz域まで変化しており、極めて大きな変化を起こしている。このような問題を抱えたゴースト信号の存在は重大で、このようなゴースト信号が出ない回路構成のアイディアが発案されることが長い間期待されていた。
【0032】
本発明は、上述した点に鑑み、LF近傍にゴースト信号が出現するのを防止することができる平衡回路方式のNMR検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
この目的を達成するため、本発明にかかるNMR検出器は、
サンプルコイルL1、該L1の両端を結ぶ第1の容量素子C0、および該L1の両端をそれぞれ接地するほぼ同容量の容量素子C2、C3からなり、
水素核(1H核)やフッ素核(19F核)などの高い共鳴周波数を持つ観測核を共鳴させるための第1の高周波HFと、重水素核(2D核)の共鳴周波数である第2の高周波(ロック周波数)に対して、2重同調できる平衡共振回路を構成し、
前記HFは前記L1の一端に接続されたポートから入出力されるNMR検出器において、
前記平衡共振回路のロック周波数に共振する部分は、
前記L1の両端に接続されてロック周波数共振回路にインダクタンス成分を提供すると共に、前記L1に接続された端部とは反対側の端部がロック周波数入出力ポートに接続されて該ロック周波数入出力ポートへの前記HFの進入を遮断する分離回路DCPL1、DCPL2と、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部を互いに結ぶ容量素子C100と、
を備え、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部は、接地電位から浮いていることを特徴としている。
【0034】
また、前記容量素子C100は、複数の容量素子から構成されていることを特徴としている。
【0035】
また、前記容量素子C100を構成している容量素子の一端からロック周波数を入出力させるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0036】
本発明にかかるNMR検出器によれば、
サンプルコイルL1、該L1の両端を結ぶ第1の容量素子C0、および該L1の両端をそれぞれ接地するほぼ同容量の容量素子C2、C3からなり、
水素核(1H核)やフッ素核(19F核)などの高い共鳴周波数を持つ観測核を共鳴させるための第1の高周波HFと、重水素核(2D核)の共鳴周波数である第2の高周波(ロック周波数)に対して、2重同調できる平衡共振回路を構成し、
前記HFは前記L1の一端に接続されたポートから入出力されるNMR検出器において、
前記平衡共振回路のロック周波数に共振する部分は、
前記L1の両端に接続されてロック周波数共振回路にインダクタンス成分を提供すると共に、前記L1に接続された端部とは反対側の端部がロック周波数入出力ポートに接続されて該ロック周波数入出力ポートへの前記HFの進入を遮断する分離回路DCPL1、DCPL2と、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部を互いに結ぶ容量素子C100と、
を備え、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部は、接地電位から浮いているので、
LF近傍にゴースト信号が出現するのを防止することができる平衡回路方式のNMR検出器を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】従来のNMR検出器の一例である。
【図2】従来のNMR検出器の一例である。
【図3】従来のNMR検出器の一例である。
【図4】従来のNMR検出器の一例である。
【図5】従来のNMR検出器の一例である。
【図6】従来のNMR検出器の一例である。
【図7】従来のNMR検出器の一例である。
【図8】従来のNMR検出器の一例である。
【図9】従来のNMR検出器のSパラ特性である。
【図10】従来のNMR検出器のSパラ特性である。
【図11】従来のNMR検出器のSパラ特性である。
【図12】従来のNMR検出器の一例である。
【図13】従来のNMR検出器のSパラ特性である。
【図14】従来のNMR検出器がロック周波数に共振する機構である。
【図15】従来のNMR検出器がゴースト周波数に共振する機構である。
【図16】ゴースト共振のSパラ特性である。
【図17】本発明にかかるNMR検出器の一実施例である。
【図18】本発明にかかるNMR検出器のSパラ特性である。
【図19】本発明にかかるNMR検出器のSパラ特性である。
【図20】本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。
【図21】本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。
【図22】本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。
【図23】本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0038】
図17は、本発明にかかるNMR検出器の一実施例である。図17(a)に示すように、本実施例では、2つの分離回路DCPL1、DCPL2の端末が、キャパシタC100を介して、グランドから浮く形で互いに連結してある。また、図17(b)は浮遊容量があることを想定して、動作上の最適化を図るために、調整用の補助容量αを加味して、C101として記載した例である。
【0039】
尚、当然のことながら、DCPL1、DCPL2は、このような平衡回路においては、ほぼ同一の回路構成を取ることが一般的なので、f2としての入出力結合容量C102は、図の位置の反対側、すなわち、DCPL1とC100の共通ノードに当たる*側をf2としての入出力結合容量C102の結合位置としても良い。
【0040】
また、場合によっては、C100を複数の直列連結容量にして、連結中の任意のノードからC102としてf2の入出力結合を行なっても良い。これは設計の範囲である。
【0041】
要は、ゴーストの発現理由で説明したように、図5で示すC6*やC4*なる並列共振の条件を作らないことが重要である。
【0042】
また、分離回路は一般的な総称であり、これまで述べてきたような種々のリアクタンス回路で構成されていることは言うまでもない。
【0043】
図15で説明したゴーストは、C6*相当容量とC4*相当容量が直列連結されることで、存在しなくなるか、または極めて小さな値の浮遊容量で共振する合成周波数を形成することによって、はるか高域の周波数、つまり本願がターゲットとして考慮している周波数範囲からまったく関係しない高域領域へシフトすることになり、LF(31P)への影響がなくなる。
【0044】
この回路の動作は次の通りである。C100は、図4の従来技術におけるC4とC6に相当する容量をそのまま直列に連結した値にほぼ近い値とすることができる。この例では、C4とC6の直列容量なので、C100≒C4×C6/(C4+C6)なる合成容量と考えれば良い。
【0045】
図18は、本実施例の回路でのSパラ特性をネットワーク仕様により表わしたものである。f1(HF:この場合は1H核)、f2(ロック:この場合は2D核)、f4(LF:この場合は31P核)としたときの、3モード周波数の周波数特性である。図9、図10、図11に示すようなゴーストはもはや存在しない。
【0046】
端的な例として、HL側の同調を図11のように19F核の共鳴周波数まで変えてみる。図11では、ゴーストが250MHz付近までシフトし、31P核の共鳴周波数243MHzに近接干渉を起こし、2つの周波数が双峰になって著しく性能を低下させていたが、図19に示すように、本実施例ではまったく干渉していない。そのため、LF側の性能は、100%保証される。つまり、装置感度をスポイルすることはないと言える。同時に、パルス幅も著しく長くなることはない。
【実施例2】
【0047】
図20は、本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。本実施例は、HF回路内の平衡共振回路を構成する容量のうち、一方がグランドに対して明確に容量により接地されていない場合である。これは、浮遊容量でグランドに接地している。
【実施例3】
【0048】
図21は、本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。本実施例は、実施例1の中で述べた変形例を具体的に記述したものである。
【実施例4】
【0049】
図22は、本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。本実施例も、実施例1の中で述べた変形例を具体的に記述したものである。
【実施例5】
【0050】
図23は、本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。本実施例は、LF側とHF/ロック側のクロストークにより、プローブ端子と外部につながるケーブルやフィルターなどの回路のインピーダンス条件によってNMR検出器側の回路インピーダンスが変化して、性能が低下する場合などに備えて、例としてフィルター回路を付加した例である。
【0051】
インピーダンスの変化が著しい場合などでは、NMR検出器内の所定の場所に固定の抵抗R100などを入れて、インピーダンスを維持する場合もある。R100では、例として、システムインピーダンス50Ωに設定する場合もある。
【実施例6】
【0052】
本実施例は、実施例1〜5までの目的で付加される容量デバイスに、誘導デバイスが付加されたり、波長共振器が付加されたりする場合があり、その変形例について一言述べたものである。
【実施例7】
【0053】
本発明のLF側は、メインではないので、一例の平衡回路形式しか示していないが、不平衡回路や、すでに図7で開示した三重同調回路を含むものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
多重共鳴のNMR検出器に広く利用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMR装置に用いられるNMR検出器に関し、特に、異なる周波数で共振する複数の同調回路を備えたNMR検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、多核観測用のNMR検出器では、水素核(1H核)などを測定する高い周波数f1(例えば、700MHz、以降HF周波数と呼ぶ)で共振するコイル(以降HFコイルと呼ぶ)と、炭素核(13C核)、窒素核(15N核)、リン核(31P核)などを測定する低い周波数f2(例えば、13C核では176MHz、15N核では71MHz、31P核では284MHz、これらを以降LF周波数と呼ぶ)で共振するコイル(以降LFコイルを呼ぶ)とを備えており、HFコイルには、重水素核(2D核)を測定するロック用の周波数f3(例えば、123MHz、以降ロック周波数と呼ぶ)でも共振可能なように、二重同調回路が備えられている。
【0003】
図1は、従来の多重同調NMR検出器の一例を示す図である。最初に、HFの共振モードについて説明する。図1中、L1がサンプルコイルである。HF周波数を持ったRFは、HF入力ポートf1から導入される。f1から導入されたRFは、サンプルコイルL1、HF同調コンデンサC0、C2、およびC3、HF整合コンデンサC1により構成されるLC共振回路で平衡型共振し、サンプルコイルL1近傍に置かれた図示しないNMR試料にHF周波数のRF磁界を照射する。これにより、NMR試料中で磁気共鳴が起きれば、試料から発生したNMR信号がサンプルコイルL1により検出され、ポートf1を介して外部に取り出される。尚、このモードでは、ヘリカルコイルL3、L4は、分布インダクタンスとして働き、HFの1/4波長共振器として作用する。たとえば、HFが700MHzの場合、1/4波長は102〜107mm程度になる。そのため、HFは、ノード1、2で電界振幅が最大になり、コンデンサC4とコンデンサC6の接地端で電界振幅がゼロになるような電磁界分布を取る。その結果、ノード1からヘリカルコイルL3側寄り、および、ノード2からヘリカルコイルL4側寄りの部分ではHFは反射され、共振に関与しない。尚、HFの上記波長共振器としては、1/4波長共振器として作用させる場合が一般的であるが、n/4波長共振器(nは奇数)として作用させても良い。
【0004】
次に、ロック周波数の共振モードについて説明する。図1中、サンプルコイルL1、ヘリカルコイルL3、ヘリカルコイルL4を合わせたものが、ロック周波数に共振する共振コイルである。このモードでは、ヘリカルコイルL3、L4は、集中インダクタンスとして働く。L3とL4のインダクタンスは、L1のインダクタンスよりも数倍大きいため、L1のインダクタンスは共振にほとんど寄与しない。ロック周波数を持ったRFは、ロック用RF入力ポートf2から導入される。ポートf2から導入されたRFは、L1、L3、L4、および、ロック用同調コンデンサC4およびC6、ロック用整合コンデンサC5により構成されるLC共振回路で平衡型共振し、サンプルコイルL1近傍に置かれた図示しないNMR試料にロック周波数のRF磁界を照射する。これにより、NMR試料中で磁気共鳴が起きれば、試料から発生したロック信号がサンプルコイルL1により検出され、ポートf2を介して外部に取り出される。
【0005】
図1のヘリカルコイルL3、L4の代わりに、L3とC7から成る第1のLC並列共振回路とL4とC8からなる第2のLC並列共振回路をHFリジェクト回路に採用したNMR検出器が図2に示されるNMR検出器である。また、図1のヘリカルコイルL3、L4の代わりに、第1の波長共振器TL1(例えばヘリカル共振、1/4波長レゾネータ)と第2の波長共振器TL2をHFリジェクト回路に採用したNMR検出器が図3に示されるNMR検出器である。
【0006】
図4は、図1のヘリカルコイル、図2のLC並列共振回路、図3の波長共振器を総じて、一般的にDCPL(分離回路decoupling circuitの略称)とし、かつ更に一般的なNMR検出器である多核(13C核、15N核、31P核など、いわゆるLF周波数核種と呼ぶもの)も観測できる機能を備えた標準的なNMR検出器を示す。
【0007】
LFの共振モードについて説明する。図4中、L2はLFコイル(第2のサンプルコイル)である。LF周波数を持ったRFは、LF入力ポートf4から導入される。ポートf4から導入されたRFは、LFコイルL2、LF同調コンデンサC00、C11、およびC12、LF整合コンデンサC10により構成されるLC共振回路で平衡型共振し、LFコイルL2近傍に置かれた図示しないNMR試料にLF周波数のRF磁界を照射する。これにより、NMR試料中で磁気共鳴が起きれば、試料から発生したNMR信号がLFコイルL2により検出され、ポートf4を介して外部に取り出される。
【0008】
図5は、この標準プローブのサンプルコイルL1、L2の相対的な配置を、同心円状に配する場合で示している。観測コイルは内側に位置するL2コイル、照射コイルは外側に位置するL1コイルである。一般に、感度を得たい核を観測する場合、試料に一番近い配置を取る(つまり内側に位置する)サンプルコイルにその核の同調をする。従って、場合によっては、L1とL2の配置は逆配置であっても良い。
【0009】
図5の例では、ポートf4の核種が最も感度を欲する核になる。f4側の回路は、単同調回路を示している。平衡回路の例と不平衡回路の例を併記した理由は、その利用方法において、適当と思われる場合、いずれかを選択して使用するからである。
【0010】
本題に関わる技術内容なので、ここで平衡回路と不平衡回路を簡単に説明する。サンプルコイルの両端がキャパシタで浮いている回路を構成するのが平衡共振回路である。逆にサンプルコイルの一端が接地され、他端がキャパシタで浮いている回路を構成するのが平衡共振回路である。その違いは2つほどあり、1つは、平衡共振回路の場合、接地から浮いているので、サンプルコイルおよびその周辺の浮遊容量が共振容量に寄与する割合が軽減されて、より高域の周波数範囲をカバーできることである。
【0011】
2つには、サンプルコイル両端の共振電圧が仮に4kVppとすると、平衡共振回路ではサンプルコイルの両端のキャパシタで電圧分割ができるため、1つのキャパシタにかかる電圧が軽減されることである。仮に図5に示す回路で言うと、C11とC12がほぼ似たような容量であれば、個々のキャパシタにかかる電圧は2kVppとなる。ところが、不平衡回路では、C11に4kVppが直接かかることになる。つまり、不平衡回路では、キャパシタの耐電圧仕様がたいへん厳しくなるので、このような回路では放電を心配して、検出器には大きなRF電圧を入れることができない。
【0012】
逆を言えば、平衡回路では、2倍大きなRF電力を入れることができる。耐電圧仕様が半分で済むということは、電圧比の2乗、つまり4倍の電力を平衡回路では入れられることになる。これは、不平衡回路に対し、大きく優る特徴である。
【0013】
図6と図7は、これまで述べてきた二重共鳴(HF/LF)と違い、更に1回路が増設された三重共鳴回路(HF/LF/LF)を含む検出器について、従来技術を記載している。このように、分離回路を介して、順に所望の周波数の同調回路を増設することができるが、平衡回路を組み込んだ構成では、必ずゴーストと呼ばれる不要信号共振モードが副次的に生成される。
【0014】
図6と図7では、このような回路網解析に使用されるネットワークアナライザ測定器のSパラ解析グラフに基づいて、出現するゴースト信号の大まかな背景、つまりどのような範囲に出るかなど、本来の周波数群との相対的な関係を模式的に分かるようにしている。ちなみに、グラフの縦軸は随意の指数で示す反射特性周波数分布で、話題の周波数に対し、ゴースト信号が出る位置関係の手助けを示す程度のものである。
【0015】
仮に、HFが600MHzの装置で話をすると、図6、図7のいずれの場合でも、ゴースト信号は隣り合う周波数に影響が及ぶことが想像できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
特開2006−208216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
標準プローブの話に戻るが、例として、LF観測(またはLF照射)、HF照射(またはHF観測)2D(重水素)NMR-ロックがあるとする。ここで、LF回路側は、言葉で説明できる範囲に入るので、図を省略する。ただし、説明の中では、LF回路は常に存在しているものとして話を進める。
【0018】
例として、f1(HF:1H)、f2(ロック:2D)を得る二重同調回路の分離回路が波長共振回路で構成されている例で説明する。図8で示す。この分離回路は既に述べたように、種々の回路が想定されるが、ここでは適度な特性インピーダンスと適度な長さ(一般的には、1/4波長共振する線路に設計するが、その奇数倍などの変形も当然ある)で波長共振させ、周波数を分離する。
【0019】
図8では、HF共振回路は、L1、C0、C2、C3を主要素子として構成され、ロック共振回路は、TL1、TL2、C4、C6を主要素子として構成される。また、先に述べたゴースト信号の共振回路は、TL1、TL2、C4、C6、C2、C3の素子群から生じ、LFと干渉する。
【0020】
図8のように構成された回路を600MHzNMR装置に使用する場合、その周波数特性は、図9のようなものとなる。左図はf1端子での反射特性(直線で示す線)とf1端子からf2端子への通過特性である。右図はf2端子での反射特性(直線で示す線)とf2端子からf1端子への通過特性である。
【0021】
この例では、ゴースト信号は、326MHzに出ている。省略しているLF側の周波数f4が例えば31P(243MHz)の場合、ゴースト信号がこの31Pの共鳴周波数に干渉する。本例では、比較的穏やかなデバイス定数配置に設定されているが、極端な場合では、ゴースト信号の出る位置が〜270MHz付近となる。図10に示す。
【0022】
図10では、f1(1H:HF)、f2(2D:ロック)、f3(ゴースト)、f4(31Pの例:LF)を含めたネットワーク仕様の各周波数のSパラ特性を示している。その中で、本案に関係するところだけ記述する。
【0023】
ゴースト信号は、ほぼ270MHz付近に現れ、31P(243MHz)と干渉している。仮に干渉が起きない場合での31Pの感度を100%とすると、この程度の干渉でも感度は50〜70%ぐらいに低下する。パルス幅にすると、1.4〜2倍に長くなる。
【0024】
HF側の同調は、その多くが19F核(600MHzNMR装置では565MHz)までの同調範囲をカバーしているが、このような場合、図11に示すように、ゴースト信号は完全にf4にかぶさってしまい、その感度を著しく低下させる。パルス幅も著しく長くなる。
【0025】
このような問題を抱えているのが従来技術である。かなり古い技術である不平衡回路では、このようなゴースト信号は現れない。図12と図13に示す。しかしながら、先ほど説明したように、現代のように超高磁場NMR装置が現れ、広い励起帯域を望み、かつ、高感度を要求される時代では、大きなRF電力を投入でき、なお700/800/900MHz級の高域周波数まで設計対応が利く平衡回路の優位性は絶大で、不平衡回路のような古い技術はどうしても陳腐になる。
【0026】
平衡回路ではこのようなゴースト信号がなぜ出るのかを説明する。図8で示す回路で説明する。TL1、TL2を誘導成分で簡略的に近似すると、L(TL1)、L(TL2)である。共振する容量成分を関係する周辺容量も含めて丸め、C2はC2*、C3はC3*、C4はC4*、C6はC6*になるとする。
【0027】
関係するf1、f2、f3であるが、f1はHFなので、L1とC0、C3*、C2*から成る並列共振で生成される信号である。さて、f2、f3は図14、図15に模式的に示すような信号である。
【0028】
図14では、本来は2つのコイル間にサンプルコイルL1が入る。しかし、HF共振を考えると、L1のインダクタンスとしての値は〜20nH前後に過ぎないので、ここでは無視している。すなわち、図15と釣り合いを取るため、意図的に省いている。
【0029】
図15の平衡回路では、2つの並列共振ができ、その間を容量で結合する場合は双峰に分裂した周波数特性となる。また、容量の代わりにサンプルコイルが入ると、図15のように直結状態と等価になるので、シングルの合成周波数が生成される。これがゴーストと呼ばれるもので、このような平衡回路の構成を取る場合は必然的に現れる。
【0030】
このため、HFの同調容量、C2*またはC3*のいずれかを変化させると、この合成周波数は大きく移動することになる。図11で示すようなゴーストの動きを起こす理由である。図16は、そのようにしてHF同調相当Cを適当に大きく変化させた場合のゴーストの変化を示したものである。
【0031】
図16から明らかなように、当初3百数十MHzにいたゴースト信号が、219MHz域まで変化しており、極めて大きな変化を起こしている。このような問題を抱えたゴースト信号の存在は重大で、このようなゴースト信号が出ない回路構成のアイディアが発案されることが長い間期待されていた。
【0032】
本発明は、上述した点に鑑み、LF近傍にゴースト信号が出現するのを防止することができる平衡回路方式のNMR検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
この目的を達成するため、本発明にかかるNMR検出器は、
サンプルコイルL1、該L1の両端を結ぶ第1の容量素子C0、および該L1の両端をそれぞれ接地するほぼ同容量の容量素子C2、C3からなり、
水素核(1H核)やフッ素核(19F核)などの高い共鳴周波数を持つ観測核を共鳴させるための第1の高周波HFと、重水素核(2D核)の共鳴周波数である第2の高周波(ロック周波数)に対して、2重同調できる平衡共振回路を構成し、
前記HFは前記L1の一端に接続されたポートから入出力されるNMR検出器において、
前記平衡共振回路のロック周波数に共振する部分は、
前記L1の両端に接続されてロック周波数共振回路にインダクタンス成分を提供すると共に、前記L1に接続された端部とは反対側の端部がロック周波数入出力ポートに接続されて該ロック周波数入出力ポートへの前記HFの進入を遮断する分離回路DCPL1、DCPL2と、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部を互いに結ぶ容量素子C100と、
を備え、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部は、接地電位から浮いていることを特徴としている。
【0034】
また、前記容量素子C100は、複数の容量素子から構成されていることを特徴としている。
【0035】
また、前記容量素子C100を構成している容量素子の一端からロック周波数を入出力させるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0036】
本発明にかかるNMR検出器によれば、
サンプルコイルL1、該L1の両端を結ぶ第1の容量素子C0、および該L1の両端をそれぞれ接地するほぼ同容量の容量素子C2、C3からなり、
水素核(1H核)やフッ素核(19F核)などの高い共鳴周波数を持つ観測核を共鳴させるための第1の高周波HFと、重水素核(2D核)の共鳴周波数である第2の高周波(ロック周波数)に対して、2重同調できる平衡共振回路を構成し、
前記HFは前記L1の一端に接続されたポートから入出力されるNMR検出器において、
前記平衡共振回路のロック周波数に共振する部分は、
前記L1の両端に接続されてロック周波数共振回路にインダクタンス成分を提供すると共に、前記L1に接続された端部とは反対側の端部がロック周波数入出力ポートに接続されて該ロック周波数入出力ポートへの前記HFの進入を遮断する分離回路DCPL1、DCPL2と、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部を互いに結ぶ容量素子C100と、
を備え、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部は、接地電位から浮いているので、
LF近傍にゴースト信号が出現するのを防止することができる平衡回路方式のNMR検出器を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】従来のNMR検出器の一例である。
【図2】従来のNMR検出器の一例である。
【図3】従来のNMR検出器の一例である。
【図4】従来のNMR検出器の一例である。
【図5】従来のNMR検出器の一例である。
【図6】従来のNMR検出器の一例である。
【図7】従来のNMR検出器の一例である。
【図8】従来のNMR検出器の一例である。
【図9】従来のNMR検出器のSパラ特性である。
【図10】従来のNMR検出器のSパラ特性である。
【図11】従来のNMR検出器のSパラ特性である。
【図12】従来のNMR検出器の一例である。
【図13】従来のNMR検出器のSパラ特性である。
【図14】従来のNMR検出器がロック周波数に共振する機構である。
【図15】従来のNMR検出器がゴースト周波数に共振する機構である。
【図16】ゴースト共振のSパラ特性である。
【図17】本発明にかかるNMR検出器の一実施例である。
【図18】本発明にかかるNMR検出器のSパラ特性である。
【図19】本発明にかかるNMR検出器のSパラ特性である。
【図20】本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。
【図21】本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。
【図22】本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。
【図23】本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0038】
図17は、本発明にかかるNMR検出器の一実施例である。図17(a)に示すように、本実施例では、2つの分離回路DCPL1、DCPL2の端末が、キャパシタC100を介して、グランドから浮く形で互いに連結してある。また、図17(b)は浮遊容量があることを想定して、動作上の最適化を図るために、調整用の補助容量αを加味して、C101として記載した例である。
【0039】
尚、当然のことながら、DCPL1、DCPL2は、このような平衡回路においては、ほぼ同一の回路構成を取ることが一般的なので、f2としての入出力結合容量C102は、図の位置の反対側、すなわち、DCPL1とC100の共通ノードに当たる*側をf2としての入出力結合容量C102の結合位置としても良い。
【0040】
また、場合によっては、C100を複数の直列連結容量にして、連結中の任意のノードからC102としてf2の入出力結合を行なっても良い。これは設計の範囲である。
【0041】
要は、ゴーストの発現理由で説明したように、図5で示すC6*やC4*なる並列共振の条件を作らないことが重要である。
【0042】
また、分離回路は一般的な総称であり、これまで述べてきたような種々のリアクタンス回路で構成されていることは言うまでもない。
【0043】
図15で説明したゴーストは、C6*相当容量とC4*相当容量が直列連結されることで、存在しなくなるか、または極めて小さな値の浮遊容量で共振する合成周波数を形成することによって、はるか高域の周波数、つまり本願がターゲットとして考慮している周波数範囲からまったく関係しない高域領域へシフトすることになり、LF(31P)への影響がなくなる。
【0044】
この回路の動作は次の通りである。C100は、図4の従来技術におけるC4とC6に相当する容量をそのまま直列に連結した値にほぼ近い値とすることができる。この例では、C4とC6の直列容量なので、C100≒C4×C6/(C4+C6)なる合成容量と考えれば良い。
【0045】
図18は、本実施例の回路でのSパラ特性をネットワーク仕様により表わしたものである。f1(HF:この場合は1H核)、f2(ロック:この場合は2D核)、f4(LF:この場合は31P核)としたときの、3モード周波数の周波数特性である。図9、図10、図11に示すようなゴーストはもはや存在しない。
【0046】
端的な例として、HL側の同調を図11のように19F核の共鳴周波数まで変えてみる。図11では、ゴーストが250MHz付近までシフトし、31P核の共鳴周波数243MHzに近接干渉を起こし、2つの周波数が双峰になって著しく性能を低下させていたが、図19に示すように、本実施例ではまったく干渉していない。そのため、LF側の性能は、100%保証される。つまり、装置感度をスポイルすることはないと言える。同時に、パルス幅も著しく長くなることはない。
【実施例2】
【0047】
図20は、本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。本実施例は、HF回路内の平衡共振回路を構成する容量のうち、一方がグランドに対して明確に容量により接地されていない場合である。これは、浮遊容量でグランドに接地している。
【実施例3】
【0048】
図21は、本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。本実施例は、実施例1の中で述べた変形例を具体的に記述したものである。
【実施例4】
【0049】
図22は、本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。本実施例も、実施例1の中で述べた変形例を具体的に記述したものである。
【実施例5】
【0050】
図23は、本発明にかかるNMR検出器の別の実施例である。本実施例は、LF側とHF/ロック側のクロストークにより、プローブ端子と外部につながるケーブルやフィルターなどの回路のインピーダンス条件によってNMR検出器側の回路インピーダンスが変化して、性能が低下する場合などに備えて、例としてフィルター回路を付加した例である。
【0051】
インピーダンスの変化が著しい場合などでは、NMR検出器内の所定の場所に固定の抵抗R100などを入れて、インピーダンスを維持する場合もある。R100では、例として、システムインピーダンス50Ωに設定する場合もある。
【実施例6】
【0052】
本実施例は、実施例1〜5までの目的で付加される容量デバイスに、誘導デバイスが付加されたり、波長共振器が付加されたりする場合があり、その変形例について一言述べたものである。
【実施例7】
【0053】
本発明のLF側は、メインではないので、一例の平衡回路形式しか示していないが、不平衡回路や、すでに図7で開示した三重同調回路を含むものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
多重共鳴のNMR検出器に広く利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルコイルL1、該L1の両端を結ぶ第1の容量素子C0、および該L1の両端をそれぞれ接地するほぼ同容量の容量素子C2、C3からなり、
水素核(1H核)やフッ素核(19F核)などの高い共鳴周波数を持つ観測核を共鳴させるための第1の高周波HFと、重水素核(2D核)の共鳴周波数である第2の高周波(ロック周波数)に対して、2重同調できる平衡共振回路を構成し、
前記HFは前記L1の一端に接続されたポートから入出力されるNMR検出器において、
前記平衡共振回路のロック周波数に共振する部分は、
前記L1の両端に接続されてロック周波数共振回路にインダクタンス成分を提供すると共に、前記L1に接続された端部とは反対側の端部がロック周波数入出力ポートに接続されて該ロック周波数入出力ポートへの前記HFの進入を遮断する分離回路DCPL1、DCPL2と、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部を互いに結ぶ容量素子C100と、
を備え、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部は、接地電位から浮いていることを特徴とするNMR共振器。
【請求項2】
前記容量素子C100は、複数の容量素子から構成されていることを特徴とする請求項1記載のNMR検出器。
【請求項3】
前記容量素子C100を構成している容量素子の一端からロック周波数を入出力させるようにしたことを特徴とする請求項1または2記載のNMR検出器。
【請求項1】
サンプルコイルL1、該L1の両端を結ぶ第1の容量素子C0、および該L1の両端をそれぞれ接地するほぼ同容量の容量素子C2、C3からなり、
水素核(1H核)やフッ素核(19F核)などの高い共鳴周波数を持つ観測核を共鳴させるための第1の高周波HFと、重水素核(2D核)の共鳴周波数である第2の高周波(ロック周波数)に対して、2重同調できる平衡共振回路を構成し、
前記HFは前記L1の一端に接続されたポートから入出力されるNMR検出器において、
前記平衡共振回路のロック周波数に共振する部分は、
前記L1の両端に接続されてロック周波数共振回路にインダクタンス成分を提供すると共に、前記L1に接続された端部とは反対側の端部がロック周波数入出力ポートに接続されて該ロック周波数入出力ポートへの前記HFの進入を遮断する分離回路DCPL1、DCPL2と、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部を互いに結ぶ容量素子C100と、
を備え、
該DCPL1、DCPL2のL1側接続端とは反対側の端部は、接地電位から浮いていることを特徴とするNMR共振器。
【請求項2】
前記容量素子C100は、複数の容量素子から構成されていることを特徴とする請求項1記載のNMR検出器。
【請求項3】
前記容量素子C100を構成している容量素子の一端からロック周波数を入出力させるようにしたことを特徴とする請求項1または2記載のNMR検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2011−58867(P2011−58867A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206871(P2009−206871)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
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