説明

NOxセンサの劣化診断装置

【課題】NOxセンサの劣化を排気エミッションを悪化させることなく診断する。
【解決手段】電圧印加時に被検出ガスの酸素を排出するポンプセル67,68と、ポンプセルによる酸素排出後の被検出ガスのNOx濃度に応じた出力I1を発するセンサセル75,70とを備えたNOxセンサの劣化診断装置において、ポンプセルへの印加電圧Vpを切り替えた際のセンサセルの出力変化に基づいてNOxセンサの劣化を判定する。内燃機関の燃焼状態等を変化させる必要がないため、診断時における排気エミッションの悪化を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガス中のNOx(窒素酸化物)の濃度を検出するためのNOxセンサの劣化診断装置に係り、特に、内燃機関の排気ガス中に含まれたNOxの濃度を検出するためのNOxセンサの劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検出ガス中のNOx濃度、特に内燃機関から排出された排気ガス中のNOx濃度を検出するものとして、NOxセンサが公知である。こうしたNOxセンサは、例えば、ディーゼルエンジンにおける選択還元型NOx触媒を用いた排気浄化システム(所謂尿素SCRシステム)において、NOx触媒の下流側に配設され、その検出NOx濃度がNOx触媒に対する還元剤添加量の制御等に利用される。
【0003】
NOxセンサは一般に、ポンプセル、モニタセル及びセンサセルからなる3セル構造を有し、ポンプセルではセンサ室内に導入した排気ガス中の酸素の排出又は汲み出しが行われる。またモニタセルではポンプセル通過後のセンサ室内の残留酸素濃度が検出され、センサセルではポンプセルを通過した後のガスからNOx濃度が検出される。
【0004】
ところで、NOxセンサが劣化すると正確なNOx濃度が検出できなくなり、その結果排気エミッションが悪化するなどの不具合が生じる。実際、自動車の分野では、排ガスが悪化した状態での走行を未然に防止するため、車載状態で各種排ガス関連部品の劣化を診断すること(OBD; On Board Diagnosis)が法規化されつつある。
【0005】
かかるNOxセンサの劣化診断については、例えば特許文献1に開示されたものがある。これにおいては、NOxセンサに到達する排気ガス中のNOx濃度を強制的に変動させ、このときにNOxセンサが出力する出力値の変動が当該NOxセンサが正常であるときに取りうる変動からずれている場合に、NOxセンサに異常があると判定する。
【0006】
【特許文献1】特開2003−120399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、NOx触媒の下流側に配設されたNOxセンサの場合、その劣化を診断することは一般的に困難である。なぜなら、エンジンの運転状態にばらつきがあることに加え、NOxセンサに供給される排気ガスがNOx触媒を通過した後のガスであり、センサ検出濃度の比較対象となる真のNOx濃度の推定が難しいからである。
【0008】
また、特許文献1に開示された装置の場合、内燃機関の燃焼状態や混合気状態を変動させてNOxセンサに供給する排気ガスのNOx濃度を変動させるため、劣化判定に比較的大きな変動幅が必要なことも相俟って、排気エミッションの悪化が懸念される。また燃焼状態や混合気状態の変動から輸送遅れを伴ってNOxセンサ出力が変動するため、その時間遅れの存在により診断精度が悪化する可能性もある。さらにNOx濃度が変動する排気ガスがNOx触媒を通過した後にNOxセンサで検知される場合には、前記同様、NOx触媒が介在することによる診断精度の悪化も懸念される。
【0009】
そこで、以上の事情に鑑みて本発明は創案されたものであり、その目的は、NOxセンサの劣化を好適に、しかも排気エミッションを悪化させることなく診断することができるNOxセンサの劣化診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態によれば、
電圧印加時に被検出ガスの酸素を排出するポンプセルと、該ポンプセルによる酸素排出後の被検出ガスのNOx濃度に応じた出力を発するセンサセルとを備えたNOxセンサの劣化診断装置において、
前記ポンプセルへの印加電圧を切り替える印加電圧切替手段と、
該印加電圧切替手段により印加電圧を切り替えた際の前記センサセルの出力変化に基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する判定手段と
を備えたことを特徴とするNOxセンサの劣化診断装置が提供される。
【0011】
これによれば、NOxセンサの劣化診断に際して内燃機関の燃焼状態や混合気状態を変化させる必要がないため、診断時における排気エミッションの悪化を確実に防止することができると共に、その変化からNOxセンサが応答するまでの時間遅れに基づく診断精度の悪化も確実に防止することができる。また、ポンプセルへの印加電圧を切り替えてNOxセンサ内部のガス成分を強制的に変化させて診断を行うため、NOxセンサの上流側に位置するNOx触媒等の影響を何等受けず、NOxセンサの劣化を好適に診断することができる。
【0012】
好ましくは、前記判定手段は、前記印加電圧切替手段により印加電圧を切り替えた際の印加電圧変化量とセンサセル出力変化量とに基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する。
【0013】
ポンプセルへの印加電圧を切り替えた場合、切替前後の間の印加電圧変化量とセンサセル出力変化量との間にはNOxセンサの劣化度に応じた相関が存在する。従ってこの相関を利用することでNOxセンサの劣化を好適に診断することができる。
【0014】
好ましくは、前記判定手段は、前記印加電圧変化量と前記センサセル出力変化量との比に基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する。当該比は、NOxセンサの劣化度を表すパラメータとして好適である。
【0015】
好ましくは、前記NOxセンサの劣化診断装置は、前記判定手段により前記NOxセンサが正常と判定されたとき、前記印加電圧変化量と前記センサセル出力変化量とに基づいて前記センサセルの出力を補正する補正手段を備える。
【0016】
この補正後のセンサセル出力を用いることにより、NOxセンサの劣化度の大小に拘わらず各種制御を精度良く安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、NOxセンサの劣化を好適に、しかも排気エミッションを悪化させることなく診断することができるという、優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関の概略的なシステム図である。図中、10は、自動車に搭載された圧縮着火式内燃機関即ちディーゼルエンジンであり、11は吸気ポートに連通されている吸気マニフォルド、12は排気ポートに連通されている排気マニフォルド、13は燃焼室である。本実施形態では、不図示の燃料タンクから高圧ポンプ17に供給された燃料が、高圧ポンプ17によりコモンレール18に圧送されて高圧状態で蓄圧され、このコモンレール18内の高圧燃料がインジェクタ14から燃焼室13内に直接噴射供給される。エンジン10からの排気ガスは、排気マニフォルド12からターボチャージャ19を経た後にその下流の排気通路15に流され、後述のように浄化処理された後、大気に排出される。なお、ディーゼルエンジンの形態としてはこのようなコモンレール式燃料噴射装置を備えたものに限らない。またEGR装置などの他の排気浄化デバイスを含むことも任意である。
【0020】
他方、エアクリーナ20から吸気通路21内に導入された吸入空気は、エアフローメータ22、ターボチャージャ19、インタークーラ23、スロットルバルブ24を順に通過して吸気マニフォルド11に至る。エアフローメータ22は吸入空気量を検出するためのセンサであり、具体的には吸入空気の流量に応じた信号を出力する。スロットルバルブ24には電子制御式のものが採用されている。
【0021】
排気通路15には、排気ガス中のNOxを還元して浄化するNOx触媒、特に選択還元型NOx触媒34が設けられている。なお排気ガス中の未燃成分(特にHC)を酸化して浄化する酸化触媒や、排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集して燃焼除去するDPR(Diesel Particulate Reduction)触媒が追加して設けられてもよい。また、NOx触媒34に還元剤としての尿素水を添加するための尿素添加装置48が設けられている。具体的には、NOx触媒34の上流側の排気通路15に、尿素水を噴射するための尿素添加弁40が設けられている。尿素添加弁40には供給ライン41を通じて尿素供給ポンプ42から尿素水が供給され、尿素供給ポンプ42は尿素タンク44に貯留された尿素水を吸引して吐出する。
【0022】
また、エンジン全体の制御を司る制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)100が設けられる。ECU100は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。ECU100は、各種センサ類の検出値等に基づいて、所望のエンジン制御が実行されるように、インジェクタ14、高圧ポンプ17、スロットルバルブ24等を制御する。またECU100は、尿素添加量を制御すべく、尿素添加弁40及び尿素供給ポンプ42を制御する。ECU100に接続されるセンサ類としては、前述のエアフローメータ22の他、NOx触媒34の下流側に設けられたNOxセンサ50、NOx触媒34の上流側と下流側にそれぞれ設けられた触媒前排気温センサ52及び触媒後排気温センサ54が含まれる。NOxセンサ50は排気ガスのNOx濃度に比例した大きさの出力信号を発する所謂限界電流式NOxセンサである。その構造については後に詳しく述べる。
【0023】
他のセンサ類として、クランク角センサ26、アクセル開度センサ27及びエンジンスイッチ28がECU100に接続されている。クランク角センサ26はクランク角の回転時にクランクパルス信号をECU100に出力し、ECU100はそのクランクパルス信号に基づきエンジン10のクランク角を検出すると共に、エンジン10の回転速度を計算する。アクセル開度センサ27は、ユーザによって操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)に応じた信号をECU100に出力する。エンジンスイッチ28はユーザによってエンジン始動時にオン、エンジン停止時にオフされる。
【0024】
選択還元型NOx触媒(SCR: Selective Catalytic Reduction)34は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持したものや、その基材表面にCu等の遷移金属をイオン交換して担持させたもの、その基材表面にチタニヤ/バナジウム触媒(V25/WO3/TiO2)を担持させたもの等が例示できる。選択還元型NOx触媒34は、その触媒温度が活性温度域にあり、且つ、還元剤としての尿素が添加されているときにNOxを還元浄化する。尿素が触媒に添加されると、触媒上でアンモニアが生成され、このアンモニアがNOxと反応してNOxが還元される。
【0025】
NOx触媒34の温度は、触媒に埋設した温度センサにより直接検出することもできるが、本実施形態ではそれを推定することとしている。具体的には、ECU100が、触媒前排気温センサ52及び触媒後排気温センサ54によりそれぞれ検出された触媒前排気温及び触媒後排気温に基づき、触媒温度を推定する。なお推定方法はこのような例に限られない。
【0026】
NOx触媒34に対する尿素添加量は、NOxセンサ50により検出されるNOx濃度に基づき制御される。具体的には、検出NOx濃度の値が常にゼロになるように尿素添加弁40からの尿素噴射量が制御される。この場合、検出NOx濃度の値のみに基づいて尿素噴射量を設定してもよいし、或いは、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度とアクセル開度)に基づいてNOx濃度をゼロとするような基本尿素噴射量を設定し、且つ、この基本尿素噴射量を検出NOx濃度の値がゼロになるようにフィードバック補正してもよい。NOx触媒34が尿素添加時のみNOxを還元可能なので、基本的に尿素は、エンジン運転中且つ燃料噴射実行時に常時添加される。また、NOx還元に必要な最小限の量しか尿素が添加されないよう、制御が行われる。過剰に尿素を添加するとアンモニアが触媒下流に排出されてしまい(所謂NH3スリップ)、異臭等の原因となるからである。
【0027】
次に、NOxセンサ50の詳細について説明する。図2にはNOxセンサ50のセンサ部の構造を示す。NOxセンサ50のセンサ部は互いに積層された6つの酸化ジルコニア等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなり、これら6つの固体電解質層を以下、上から順に第1層L1、第2層L2、第3層L3、第4層L4、第5層L5、第6層L6と称する。
【0028】
第1層L1と第3層L3との間には、例えば、多孔質材料または細孔を形成されている材料からなる第1の拡散律速部材62と第2の拡散律速部材63とが配置されている。これら拡散律速部材62,63間には、第1室64が形成される。第2の拡散律速部材63と第2層L2との間には、第2室65が形成されている。また、第3層L3と第5層L5との間には、外気に連通している大気室66が形成されている。一方、第1の拡散律速部材62の外端面はセンサ外部の被検出ガスとしての排気ガスと接触されている。したがって排気ガスはまず第1の拡散律速部材62を通じて第1室64内に導入され、次いで第2の拡散律速部材63を通じて第2室65内に導入される。
【0029】
一方、第1室64に面する第1層L1の内周面上には、陰極側ポンプ電極67が形成されている。第1層L1の外周面上には、陽極側ポンプ電極68が形成されている。これらポンプ電極67,68間にはポンプ電圧源69により電圧Vpが印加される。ポンプ電極67,68間に電圧Vpが印加されると、第1室64内の排気ガス中に含まれる酸素が陰極側ポンプ電極67と接触して酸素イオンとなる。この酸素イオンは、陽極側ポンプ電極68に向かって第1層L1内を流れる。したがって、第1室64内の排気ガス中に含まれる酸素は第1層L1内を移動して室外に汲み出されることになる。このとき汲み出される酸素量はポンプ電圧源69の電圧Vpが高くなるほど多くなる。
【0030】
このように、本実施形態では、陰極側ポンプ電極67および陽極側ポンプ電極68が、それぞれ、第1室64内の排気ガスから酸素を排出するためのポンプセルの対面する2つの電極板を構成する。
【0031】
一方、第2室65に面する第1層L1の内周面上には、モニタ電極72が形成され、大気室66に面する第3層L3の内周面上には、基準電極70が形成されている。酸素イオン伝導性のある固体電解質からなる層(以下、固体電解質層と称す)では、固体電解質層の両側において酸素濃度に差があると、酸素濃度の高い側から酸素濃度の低い側に向かって酸素イオンが固体電解質層内を移動する。図2に示されている例では、大気室66内の酸素濃度の方が第2室65内の酸素濃度よりも高いので、大気室66内の酸素は基準電極70と接触することによって電荷を受け取って酸素イオンとなる。この酸素イオンは第3層L3、第2層L2および第1層L1内を移動し、モニタ電極72において電荷を放出する。この結果、基準電極70とモニタ電極72との間に符号74で示した電圧(起電力)V1が発生する。この電圧V1は大気室66内と第2室65内との酸素濃度差に比例する。
【0032】
図2に示されている例では、排気ガス中のNOx濃度を検出するときには、この電圧V1が、第2室65内の酸素濃度が低濃度の所定値(例えば0.01ppm)のときに生ずる電圧に一致するように、ポンプ電圧源69の電圧Vpがフィードバック制御される。すなわち、第2室65内の酸素は第2室65内の酸素濃度が0.01ppmとなるように第1層L1を通って汲み出され、それによって第2室65内の酸素濃度が0.01ppmに維持される。
【0033】
すなわち、本実施形態では、基準電極70およびモニタ電極72が、それぞれ、第2室65内のガス中の酸素濃度をモニタするためのモニタセルの対面する2つの電極板を構成する。
【0034】
一方、第2室65に面する第3層L3の内周面上には、NOx検出用のセンサ電極75が形成されている。センサ電極75はNOxに対して強い還元性を有する。したがって第2室65内のNOx、実際には大部分を占めるNOがセンサ電極75上においてN2とO2とに分解される。図2に示されているように、センサ電極75と基準電極70との間には、一定電圧76が印加されており、したがって、センサ電極75上において分解生成されたO2は酸素イオンとなって第3層L3内を基準電極70に向けて移動し汲み出される。このとき、センサ電極75と基準電極70との間には、この酸素イオン量に比例した符号77で示した電流(分解電流)I1が流れる。分解生成された酸素量と窒素量とは互いに比例関係にあるから、結局、電流I1が排気ガス中のNOx濃度を示すNOxセンサ50の出力となる。
【0035】
すなわち、本実施形態では、センサ電極75および基準電極70が、それぞれ、排気ガス中のNOxを分解して生成された酸素を排出すると共に、被検出ガスたる排気ガス中のNOx濃度に応じたセンサ出力を発するセンサセルの対面する2つの電極板を構成する。このセンサセルは、ポンプセルによる酸素排出後の排気ガスのNOx濃度に応じた出力を発することとなる。
【0036】
第1室64内のポンプ電極67と第2室65内のモニタ電極72とは、NOxを還元し得る触媒能を有しないか又はその触媒能が低い材料から構成されている。例えばこれら電極67,72は、金Auと白金Ptとセラミックスのサーメットからなる。一方、第2室65内のセンサ電極75は、NOxを還元し得る触媒能を有し又はその触媒能が高い材料を含む。例えばセンサ電極75は、ロジウムRhと白金PtとセラミックスとしてのジルコニアZrO2からなる多孔質サーメットから構成され、このうちロジウムRhがNOx、特にNOをも還元し得る高いNOx触媒能を有する。
【0037】
第1室64内では、ポンプセル及びモニタセルの作用により第2室65内の酸素濃度が0.01ppmとなるように第1室64内の酸素が排出される。このとき排気ガス中に含まれるNO2がNOに還元されることはあるものの、NOはそれ以上還元されない。したがって、第1室64内ではNOxがNOにほぼ単ガス化され、このNOxを含む排気ガスが第2の拡散律速部材63を通って第2室65内に流入する。
【0038】
第2室65内では、センサセルの作用により、第2室65内のNOx(殆どがNOである)がセンサ電極75上においてN2とO2とに分解され、分解生成された酸素O2が排出されると共に、分解生成された窒素の量に応じた出力電流I1が発せられる。
【0039】
なお、第5層L5と第6層L6との間には、NOxセンサ50のセンサ部を加熱するための電気式ヒータ79が配置されている。このヒータ79は、NOxセンサ50による通常のNOx検出時に約750〜800℃に加熱制御される。
【0040】
さて、このような基本構成を持つNOxセンサ50においては、酸素排出を行うポンプセルに印加する電圧Vpを切り替えると、これに伴ってセンサセルの出力I1が変化することが判明した。そして印加電圧を切り替えた際のセンサセルの出力変化の仕方が、NOxセンサ50の劣化度に応じて異なることが判明した。
【0041】
図3は、ポンプセルの印加電圧Vpとセンサセルの出力I1との相関を概念的に示すグラフである。なおこの相関はNOxセンサ50に供給される排気ガスのNOx濃度が一定であるという条件下のものである。図示するように、センサセル出力I1はポンプセル印加電圧Vpに対して比例的に変化する。しかしながら、ポンプセル印加電圧の変化量が一定であるときのセンサセル出力の変化量はNOxセンサ50の劣化度に応じて異なり、センサセル出力変化量はNOxセンサ50の劣化度が大きいほど小さくなる。
【0042】
例えば2点でのポンプセル印加電圧をVp1,Vp2(Vp1<Vp2)、これら印加電圧の間の変化量をΔVp=Vp2−Vp1、各印加電圧Vp1,Vp2に対応するセンサセルの出力I1をI11,I12、これら出力間の変化量をΔI1=I12−I11とする。この場合、ポンプセル印加電圧変化量ΔVpとセンサセル出力変化量ΔI1との比R=ΔI1/ΔVp(即ちグラフの傾き)は、実線で示すようにNOxセンサ50が新品であるときが最も大きく、また破線で示すように、その新品状態から劣化度が増すにつれ次第に小さくなる。従ってこのような相関を利用することによりNOxセンサ50の劣化度を検出し、NOxセンサ50が正常か劣化かを診断することができる。
【0043】
なお、NOxセンサ50の劣化度が増すにつれ比Rが小さくなる理由は、NOxセンサ50の劣化度が増すほどにセンサ電極75のNOx分解能が低下し、大きなNOx分解電流を得られなくなるからである。
【0044】
また、センサセル出力I1は、ポンプセル印加電圧Vpを増大させるほど大きくなり、ポンプセル印加電圧Vpを減少させるほど小さくなる。その理由は次の通りである。ポンプセル印加電圧Vpを減少させると、ポンプセルによって汲み出され或いは排出される酸素量が少なくなると共に、NOxをNOに単ガス化し難くなり、NOx中における酸素数が2以上の窒素酸化物(主にNO2)の割合が高くなる。このようなポンプセル通過後のガスをセンサセルに供給すると、センサセルの出力電流I1は、NOにほぼ単ガス化されたNOxを含むガスの場合に比べて小さくなる傾向にある。よってポンプセル印加電圧Vpを減少させるほどセンサセル出力I1は小さくなり、ポンプセル印加電圧Vpを増大させるほどセンサセル出力I1は大きくなる。
【0045】
次に、具体的な劣化診断処理を図4に基づいて説明する。図示されるルーチンはECU100により所定周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0046】
最初のステップS101では、劣化診断を行うのに適した所定条件が成立しているか否かが判断される。例えば、1)エンジン暖機完了(冷却水温が所定値以上)、2)NOxセンサ活性済み(ヒータ温度が所定値以上)、3)エンジンが定常運転中、4)NOx触媒34非作動という全ての条件が整ったとき、所定条件成立となる。条件3)については、例えばエアフローメータ22によって検出された吸入空気量の変動幅が所定値以内であるとき、条件3)が満たされる。また条件4)については、例えばNOx触媒34の未活性時を選択したり、NOx触媒34への尿素添加を一時的に中断したりすることにより、条件4)を満たすことができる。エンジンの定常運転中且つNOx触媒34の非作動中なので、ほぼ一定のNOx濃度の排気ガスをNOxセンサ50に供給することができる。
【0047】
所定条件が成立していないと判断された場合、本ルーチンが終了される。他方、所定条件が成立していると判断された場合、ステップS102において、NOxセンサ50の通常のNOx濃度検出状態におけるポンプセル印加電圧(第1のポンプセル印加電圧)Vp1と、センサセル出力I11(第1のセンサセル出力)との値がそれぞれ取得される。このときには前述したように、モニタセル出力電圧V1に基づくポンプセル印加電圧Vpのフィードバック制御が行われている。
【0048】
次いで、ステップS103において、ポンプセル印加電圧Vpのフィードバック制御が一時的に中止されると共にポンプセル印加電圧Vpがアクティブ且つ強制的に異なる所定値Vp2に切り替えられ、このときのポンプセル印加電圧(第2のポンプセル印加電圧)Vp2と、センサセル出力I12(第2のセンサセル出力)との値がそれぞれ取得される。本実施形態の場合Vp1<Vp2であり、従って第2のセンサセル出力I12は第1のセンサセル出力I11より強制的に増大させられる。しかしながら代替的に、Vp1>Vp2として第2のセンサセル出力I12を第1のセンサセル出力I11より減少させてもよい。
【0049】
次にステップS104において、これらポンプセル印加電圧Vp1,Vp2とセンサセル出力I11,I12とに基づき、ポンプセル印加電圧変化量ΔVp(=Vp2−Vp1)とセンサセル出力変化量ΔI1(=I12−I11)との比R=ΔI1/ΔVpが算出され、且つこの比Rが所定の劣化判定値Rsと比較される。
【0050】
比Rが劣化判定値Rsより大きい場合、ステップS105においてNOxセンサ50は正常と判定される。そしてステップS106において、センサセル即ちNOxセンサ50の出力I1が、正常範囲内にある一定の劣化度相当の値になるように補正される。本実施形態では、センサセルの出力I1が新品相当の値になるように補正され、具体的には式:I1’=I1・(R0/R)により、ステップS102で取得した通常のセンサセル出力I11が補正される。ここでI1’は補正後のセンサセル出力を表し、R0は予め実験的に把握され且つ記憶されたセンサ新品時の比を表す。こうしてセンサ正常時にセンサセル出力即ちNOxセンサ出力を一定の劣化度相当の値(新品時の値)I1’に補正することで、センサ劣化度の影響のないセンサ出力値I1’を利用して尿素噴射量制御等の各種制御を精度良く安定して行うことが可能になる。
【0051】
他方、比Rが劣化判定値Rs以下の場合、ステップS107においてNOxセンサ50は劣化と判定される。そしてステップS108において、チェックランプ等の警告装置がオンされ、ユーザに対して警告がなされると同時にNOxセンサ50の交換が促される。
【0052】
本実施形態によれば、NOxセンサ50の劣化診断に際して内燃機関の燃焼状態や混合気状態を変化させる必要がないため、診断時における排気エミッションの悪化を確実に防止することができると共に、その変化からNOxセンサ50が応答するまでの時間遅れに基づく診断精度の悪化も確実に防止することができる。また、NOxセンサ50内部のガス成分を強制的に変化させて診断を行うため、NOxセンサ50の上流側に位置するNOx触媒34等の影響を何等受けず、NOxセンサ50の劣化を好適に診断することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば、本実施形態ではポンプセル印加電圧を既定状態の1点(Vp1)から他の1点(Vp2)に切り替えて劣化判定を行ったが、既定状態の1点から他の2点、3点等に切り替えてもよい。この場合、これら複数点での平均的な比Rを求めてこの比Rに基づいて劣化判定するのが好適である。また既定状態の1点を、ポンプセル印加電圧のフィードバック制御が行われる通常状態即ちNOx濃度検出状態の1点としたが、この既定状態の1点を通常状態以外の1点、即ち通常状態からアクティブにポンプセル印加電圧を切り替えたときの1点としてもよい。本実施形態ではポンプセル及びモニタセルが各一つずつのNOxセンサを例示したが、これらポンプセル及びモニタセルの少なくとも一方が複数設けられているNOxセンサであってもよい。本発明に係るNOxセンサの劣化診断装置は内燃機関以外の用途にも適用可能である。また内燃機関に適用した場合でも、内燃機関の種類、型式、用途等は限定されず、例えば火花点火式内燃機関、特に直噴リーンバーンガソリンエンジンにも適用可能である。
【0054】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の概略的なシステム図である。
【図2】NOxセンサのセンサ部の構造を示す断面図である。
【図3】ポンプセル印加電圧とセンサセル出力との相関を示すグラフである。
【図4】劣化診断処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
10 エンジン
15 排気通路
50 NOxセンサ
67 陰極側ポンプ電極
68 陽極側ポンプ電極
70 基準電極
75 センサ電極
100 電子制御ユニット(ECU)
Vp ポンプセル印加電圧
1 センサセル出力
ΔVp ポンプセル印加電圧変化量
ΔI1 センサセル出力変化量
R 差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧印加時に被検出ガスの酸素を排出するポンプセルと、該ポンプセルによる酸素排出後の被検出ガスのNOx濃度に応じた出力を発するセンサセルとを備えたNOxセンサの劣化診断装置において、
前記ポンプセルへの印加電圧を切り替える印加電圧切替手段と、
該印加電圧切替手段により印加電圧を切り替えた際の前記センサセルの出力変化に基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する判定手段と
を備えたことを特徴とするNOxセンサの劣化診断装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記印加電圧切替手段により印加電圧を切り替えた際の印加電圧変化量とセンサセル出力変化量とに基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する
ことを特徴とする請求項1記載のNOxセンサの劣化診断装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記印加電圧変化量と前記センサセル出力変化量との比に基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する
ことを特徴とする請求項2記載のNOxセンサの劣化診断装置。
【請求項4】
前記判定手段により前記NOxセンサが正常と判定されたとき、前記印加電圧変化量と前記センサセル出力変化量とに基づいて前記センサセルの出力を補正する補正手段を備えた
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のNOxセンサの劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−175013(P2009−175013A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14198(P2008−14198)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)