説明

NOxセンサ及びその劣化診断装置

【課題】NOx触媒の下流側に配設されたNOxセンサの場合であってもその劣化を容易に診断できるようにする。
【解決手段】NOxセンサのセンサセル75,70の近傍に劣化検出用セル80,70を設ける。そしてこれらセルの出力I1,I4に基づいてNOxセンサの劣化を診断する。劣化検出用セルからセンサセルの劣化品相当の出力を得られるので、両セルの出力を比較することでNOxセンサの劣化を容易に診断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガス中のNOx(窒素酸化物)の濃度を検出するためのNOxセンサ及びその劣化診断装置に係り、特に、内燃機関の排気ガス中に含まれたNOxの濃度を検出するためのNOxセンサ及びその劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検出ガス中のNOx濃度、特に内燃機関から排出された排気ガス中のNOx濃度を検出するものとして、NOxセンサが公知である。こうしたNOxセンサは、例えば、ディーゼルエンジンにおける選択還元型NOx触媒を用いた排気浄化システム(所謂尿素SCRシステム)において、NOx触媒の下流側に配設され、その検出NOx濃度がNOx触媒に対する還元剤添加量の制御等に利用される。
【0003】
NOxセンサは、ポンプセル、モニタセル及びセンサセルからなる3セル構造を有し、ポンプセルではセンサ室内に導入した排気ガス中の酸素の排出又は汲み出しが行われる。またモニタセルではポンプセル通過後のセンサ室内の残留酸素濃度が検出され、センサセルではポンプセルを通過した後のガスからNOx濃度が検出される(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、NOxセンサが劣化すると正確なNOx濃度が検出できなくなり、その結果排気エミッションが悪化するなどの不具合が生じる。実際、自動車の分野では、排ガスが悪化した状態での走行を未然に防止するため、車載状態で各種排ガス関連部品の劣化を診断すること(OBD; On Board Diagnosis)が法規化されつつある。
【0005】
【特許文献1】特開平9−288084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、NOx触媒の下流側に配設されたNOxセンサの場合、NOxセンサの劣化を診断することは一般的には困難である。なぜなら、エンジンの運転状態にばらつきがあることに加え、NOxセンサに供給される排気ガスがNOx触媒を通過した後のガスであり、センサ検出濃度の比較対象となる真のNOx濃度の推定が難しいからである。
【0007】
そこで、本発明の目的は、NOx触媒の下流側に配設されたNOxセンサの場合であってもその劣化を容易に診断できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態によれば、センサセルの近傍に劣化検出用セルを備えたことを特徴とするNOxセンサが提供される。
【0009】
かかる劣化検出用セルを設けると、この劣化検出用セルから、センサセルの劣化品相当の出力を得ることができる。よってセンサセルの出力(即ちNOxセンサの出力)を劣化検出用セルの出力と比較することで、NOxセンサの劣化度を検出でき、ひいてはNOxセンサが正常か劣化かを診断することができる。NOxセンサの上流側に位置するNOx触媒等の影響を受けないので(即ち、両セルの被検出ガスが同一なので)、NOx触媒の下流側に配設されたNOxセンサの場合であってもその劣化を容易に診断できる。
【0010】
好ましくは、前記NOxセンサは、第1の拡散律速部材を通じて被検出ガスが導入される第1室と、第2の拡散律速部材を通じて前記第1室内のガスが導入される第2室と、前記第1室に配設されポンプセルを構成する第1の電極と、前記第1室及び前記第2室の少なくとも一方に配設されモニタセルを構成する第2の電極とを備え、
前記第2室に、前記センサセルを構成する第3の電極と前記劣化検出用セルを構成する第4の電極とを備え、
前記第1の電極及び第2の電極が、劣化に伴ってこれら電極から飛散する金属材料を含み、前記第3の電極が前記金属材料を含まず、前記第4の電極が前記金属材料を含む。
【0011】
本発明者の鋭意研究の結果によれば、劣化に伴って第1の電極及び第2の電極から金属材料が飛散し、これが第3の電極に付着してNOxセンサの出力が次第にズレていくことが判明した。よって劣化検出用セルを構成する第4の電極に、そのような金属材料を予め含ませておくことにより、第4の電極を第3の電極の劣化品相当とすることができ、好適な劣化検出用セルを構成することができる。
【0012】
好ましくは、前記金属材料が、NOxを還元し得る触媒能を有しないか又はその触媒能が低い金属材料からなる。
【0013】
本来、第3の電極は、NOxを還元し得る触媒能を有し又はその触媒能が高い金属材料を含み、この金属材料の作用により第2室内のNOxを分解するものである。しかしながら、NOxを還元し得る触媒能を有しないか又はその触媒能が低い金属材料が第1の電極及び第2の電極から飛散して第3の電極に付着すると、第3の電極のNOx分解能が低下し、NOxセンサの出力が次第にズレていく。そこで第4の電極に、NOxを還元し得る触媒能を有しないか又はその触媒能が低い金属材料を予め含ませておくことにより、第4の電極を第3の電極の劣化品相当とすることができ、好適な劣化検出用セルを構成することができる。
【0014】
好ましくは、前記金属材料が金である。
【0015】
本発明の他の形態によれば、前記NOxセンサの劣化を診断するための装置であって、前記センサセル及び前記劣化検出用セルの出力に基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する判定手段を備えたことを特徴とするNOxセンサの劣化診断装置が提供される。
【0016】
被検出ガスの同一のNOx濃度に対し、センサセルの出力は劣化に伴って徐々に低下するのに対し、劣化検出用セルの出力は殆ど変化しない。よってこれら出力同士を比較することで、NOxセンサの劣化を好適に判定することができる。
【0017】
好ましくは、前記判定手段は、前記センサセル及び前記劣化検出用セルの出力の比又は差に基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する。これら比又は差は、NOxセンサの劣化度を表すパラメータとして好適である。
【0018】
好ましくは、前記NOxセンサの劣化診断装置は、前記判定手段により前記NOxセンサが正常と判定されたとき、前記センサセル及び前記劣化検出用セルの出力に基づいて前記NOxセンサの出力を補正する補正手段を備える。
【0019】
この補正後のNOxセンサ出力を用いることにより各種制御を精度良く安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、NOx触媒の下流側に配設されたNOxセンサの場合であってもその劣化を容易に診断できるという、優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関の概略的なシステム図である。図中、10は、自動車に搭載された圧縮着火式内燃機関即ちディーゼルエンジンであり、11は吸気ポートに連通されている吸気マニフォルド、12は排気ポートに連通されている排気マニフォルド、13は燃焼室である。本実施形態では、不図示の燃料タンクから高圧ポンプ17に供給された燃料が、高圧ポンプ17によりコモンレール18に圧送されて高圧状態で蓄圧され、このコモンレール18内の高圧燃料がインジェクタ14から燃焼室13内に直接噴射供給される。エンジン10からの排気ガスは、排気マニフォルド12からターボチャージャ19を経た後にその下流の排気通路15に流され、後述のように浄化処理された後、大気に排出される。なお、ディーゼルエンジンの形態としてはこのようなコモンレール式燃料噴射装置を備えたものに限らない。またEGR装置などの他の排気浄化デバイスを含むことも任意である。
【0023】
他方、エアクリーナ20から吸気通路21内に導入された吸入空気は、エアフローメータ22、ターボチャージャ19、インタークーラ23、スロットルバルブ24を順に通過して吸気マニフォルド11に至る。エアフローメータ22は吸入空気量を検出するためのセンサであり、具体的には吸入空気の流量に応じた信号を出力する。スロットルバルブ24には電子制御式のものが採用されている。
【0024】
排気通路15には、排気ガス中のNOxを還元して浄化するNOx触媒、特に選択還元型NOx触媒34が設けられている。なお排気ガス中の未燃成分(特にHC)を酸化して浄化する酸化触媒や、排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集して燃焼除去するDPR(Diesel Particulate Reduction)触媒が追加して設けられてもよい。また、NOx触媒34に還元剤としての尿素水を添加するための尿素添加装置48が設けられている。具体的には、NOx触媒34の上流側の排気通路15に、尿素水を噴射するための尿素添加弁40が設けられている。尿素添加弁40には供給ライン41を通じて尿素供給ポンプ42から尿素水が供給され、尿素供給ポンプ42は尿素タンク44に貯留された尿素水を吸引して吐出する。
【0025】
また、エンジン全体の制御を司る制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)100が設けられる。ECU100は、CPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。ECU100は、各種センサ類の検出値等に基づいて、所望のエンジン制御が実行されるように、インジェクタ14、高圧ポンプ17、スロットルバルブ24等を制御する。またECU100は、尿素添加量を制御すべく、尿素添加弁40及び尿素供給ポンプ42を制御する。ECU100に接続されるセンサ類としては、前述のエアフローメータ22の他、NOx触媒34の下流側に設けられたNOxセンサ50、NOx触媒34の上流側と下流側にそれぞれ設けられた触媒前排気温センサ52及び触媒後排気温センサ54が含まれる。NOxセンサ50は排気ガスのNOx濃度に比例した大きさの出力信号を発する所謂限界電流式NOxセンサである。その構造については後に詳しく述べる。
【0026】
他のセンサ類として、クランク角センサ26、アクセル開度センサ27及びエンジンスイッチ28がECU100に接続されている。クランク角センサ26はクランク角の回転時にクランクパルス信号をECU100に出力し、ECU100はそのクランクパルス信号に基づきエンジン10のクランク角を検出すると共に、エンジン10の回転速度を計算する。アクセル開度センサ27は、ユーザによって操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)に応じた信号をECU100に出力する。エンジンスイッチ28はユーザによってエンジン始動時にオン、エンジン停止時にオフされる。
【0027】
選択還元型NOx触媒(SCR: Selective Catalytic Reduction)34は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持したものや、その基材表面にCu等の遷移金属をイオン交換して担持させたもの、その基材表面にチタニヤ/バナジウム触媒(V25/WO3/TiO2)を担持させたもの等が例示できる。選択還元型NOx触媒34は、その触媒温度が活性温度域にあり、且つ、還元剤としての尿素が添加されているときにNOxを還元浄化する。尿素が触媒に添加されると、触媒上でアンモニアが生成され、このアンモニアがNOxと反応してNOxが還元される。
【0028】
NOx触媒34の温度は、触媒に埋設した温度センサにより直接検出することもできるが、本実施形態ではそれを推定することとしている。具体的には、ECU100が、触媒前排気温センサ52及び触媒後排気温センサ54によりそれぞれ検出された触媒前排気温及び触媒後排気温に基づき、触媒温度を推定する。なお推定方法はこのような例に限られない。
【0029】
NOx触媒34に対する尿素添加量は、NOxセンサ50により検出されるNOx濃度に基づき制御される。具体的には、検出NOx濃度の値が常にゼロになるように尿素添加弁40からの尿素噴射量が制御される。この場合、検出NOx濃度の値のみに基づいて尿素噴射量を設定してもよいし、或いは、エンジン運転状態(例えばエンジン回転速度とアクセル開度)に基づいてNOx濃度をゼロとするような基本尿素噴射量を設定し、且つ、この基本尿素噴射量を検出NOx濃度の値がゼロになるようにフィードバック補正してもよい。NOx触媒34が尿素添加時のみNOxを還元可能なので、基本的に尿素は、エンジン運転中且つ燃料噴射実行時に常時添加される。また、NOx還元に必要な最小限の量しか尿素が添加されないよう、制御が行われる。過剰に尿素を添加するとアンモニアが触媒下流に排出されてしまい(所謂NH3スリップ)、異臭等の原因となるからである。
【0030】
次に、NOxセンサ50の詳細について説明する。図2にはNOxセンサ50のセンサ部の構造を示す。NOxセンサ50のセンサ部は互いに積層された6つの酸化ジルコニア等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなり、これら6つの固体電解質層を以下、上から順に第1層L1、第2層L2、第3層L3、第4層L4、第5層L5、第6層L6と称する。
【0031】
第1層L1と第3層L3との間には、例えば、多孔質材料または細孔を形成されている材料からなる第1の拡散律速部材62と第2の拡散律速部材63とが配置されている。これら拡散律速部材62,63間には、第1室64が形成される。第2の拡散律速部材63と第2層L2との間には、第2室65が形成されている。また、第3層L3と第5層L5との間には、外気に連通している大気室66が形成されている。一方、第1の拡散律速部材62の外端面はセンサ外部の被検出ガスとしての排気ガスと接触されている。したがって排気ガスは第1の拡散律速部材62を通じて第1室64内に導入される。
【0032】
一方、第1室64に面する第1層L1の内周面上には、陰極側第1ポンプ電極67が形成されている。第1層L1の外周面上には、陽極側第1ポンプ電極68が形成されている。これら第1ポンプ電極67,68間には第1ポンプ電圧源69により電圧が印加される。第1ポンプ電極67,68間に電圧が印加されると、第1室64内の排気ガス中に含まれる酸素が陰極側第1ポンプ電極67と接触して酸素イオンとなる。この酸素イオンは、陽極側第1ポンプ電極68に向かって第1層L1内を流れる。したがって、第1室64内の排気ガス中に含まれる酸素は第1層L1内を移動して室外に汲み出されることになる。このとき汲み出される酸素量は第1ポンプ電圧源69の電圧が高くなるほど多くなる。
【0033】
このように、本実施形態では、陰極側第1ポンプ電極67および陽極側第1ポンプ電極68が、それぞれ、第1室64内の排気ガスから酸素を排出するための第1のポンプセルの対面する2つの電極板を構成する。
【0034】
一方、大気室66に面する第3層L3の内周面上には、基準電極70が形成されている。ところで酸素イオン伝導性のある固体電解質からなる層(以下、固体電解質層と称す)では、固体電解質層の両側において酸素濃度に差があると、酸素濃度の高い側から酸素濃度の低い側に向かって酸素イオンが固体電解質層内を移動する。図2に示されている例では、大気室66内の酸素濃度の方が第1室64内の酸素濃度よりも高いので、大気室66内の酸素は基準電極70と接触することによって電荷を受け取って酸素イオンとなる。この酸素イオンは第3層L3、第2層L2および第1層L1内を移動し、陰極側第1ポンプ電極67において電荷を放出する。この結果、基準電極70と陰極側第1ポンプ電極67との間に符号71で示した電圧(起電力)V0が発生する。この電圧V0は大気室66内と第1室64内との酸素濃度差に比例する。
【0035】
図2に示されている例では、排気ガス中のNOx濃度を検出するときには、この電圧V0が、第1室64内の酸素濃度が高濃度側の所定値、例えば1ppmのときに生ずる電圧に一致するように、第1ポンプ電圧源69の電圧がフィードバック制御される。すなわち、第1室64内の酸素は第1室64内の酸素濃度が1ppmとなるように第1層L1を通って汲み出され、それによって、第1室64内の酸素濃度が1ppmに維持される。
【0036】
このように、本実施形態では、基準電極70および陰極側第1ポンプ電極67が、それぞれ、第1室64内の排気ガス中の酸素濃度をモニタするための第1のモニタセルの対面する2つの電極板を構成する。
【0037】
一方、第2室65に面する第1層L1の内周面上には、陰極側第2ポンプ電極72が形成されている。陰極側第2ポンプ電極72と陽極側第1ポンプ電極68との間には、第2ポンプ電圧源73によって電圧が印加される。これらポンプ電極72,68間に電圧が印加されると、第2室65内の排気ガス中に含まれる酸素が陰極側第2ポンプ電極72と接触して酸素イオンとなる。この酸素イオンは第1層L1内を陽極側第1ポンプ電極68に向かって流れる。したがって、第2室65内の排気ガス中に含まれる酸素は第1層L1内を移動して室外に汲み出されることになる。このときに室外に汲み出される酸素量は第2ポンプ電圧源73の電圧が高くなるほど多くなる。
【0038】
すなわち、本実施形態では、陰極側第2ポンプ電極72および陽極側第1ポンプ電極68が、それぞれ、第2室65内のガスから酸素を排出するための第2のポンプセルの対面する2つの電極板を構成する。
【0039】
一方、上述したように、固体電解質層の両側において酸素濃度に差があると、酸素濃度の高い側から酸素濃度の低い側に向けて固体電解質層内を酸素イオンが移動する。図2に示されている例では、第2室65内の酸素濃度よりも大気室66内の酸素濃度のほうが高いので、大気室66内の酸素は基準電極70と接触することによって電荷を受け取って酸素イオンとなる。この酸素イオンは第3層L3、第2層L2および第1層L1内を移動し、陰極側第2ポンプ電極72において電荷を放出する。その結果、基準電極70と陰極側第2ポンプ電極72との間に符号74で示した電圧(起電力)V1が発生する。この電圧V1は大気室66内と第2室65内との酸素濃度差に比例する。
【0040】
図2に示されている例では、排気ガス中のNOx濃度を検出するときには、この電圧V1が、第2室65内の酸素濃度が低濃度側の所定値、例えば0.01ppmのときに生ずる電圧に一致するように、第2ポンプ電圧源73の電圧がフィードバック制御される。すなわち、第2室65内の酸素は第2室65内の酸素濃度が0.01ppmとなるように第1層L1を通って汲み出され、それによって第2室65内の酸素濃度が0.01ppmに維持される。
【0041】
すなわち、本実施形態では、基準電極70および陰極側第2ポンプ電極72が、それぞれ、第2室65内のガス中の酸素濃度をモニタするための第2のモニタセルの対面する2つの電極板を構成する。
【0042】
一方、第2室65に面する第3層L3の内周面上には、NOx検出用の陰極側ポンプ電極75が形成されている。陰極側ポンプ電極75はNOxに対して強い還元性を有する。したがって第2室65内のNOx、実際には大部分を占めるNOが陰極側ポンプ電極75上においてN2とO2とに分解される。図2に示されているように、陰極側ポンプ電極75と基準電極70との間には、一定電圧76が印加されており、したがって、陰極側ポンプ電極75上において分解生成されたO2は酸素イオンとなって第3層L3内を基準電極70に向けて移動し汲み出される。このとき、陰極側ポンプ電極75と基準電極70との間には、この酸素イオン量に比例した符号77で示した電流I1が流れる。分解生成された酸素量と窒素量とは互いに比例関係にあるから、結局、電流I1が排気ガス中のNOx濃度を示すNOxセンサ50の出力となる。
【0043】
すなわち、本実施形態では、陰極側ポンプ電極75および基準電極70が、それぞれ、排気ガス中のNOxを分解して生成された酸素を排出すると共に、被検出ガスたる排気ガス中のNOx濃度に応じたセンサ出力を発するセンサセルの対面する2つの電極板を構成する。
【0044】
排気ガスに接触する第1室64内の陰極側第1ポンプ電極67と第2室65内の陰極側第2ポンプ電極72とは、NOxを還元し得る触媒能を有しないか又はその触媒能が低い材料から構成されている。例えばこれら電極67,68は、金Auと白金Ptとセラミックスのサーメットからなる。一方、第2室65内の陰極側ポンプ電極75は、NOxを還元し得る触媒能を有し又はその触媒能が高い材料を含む。例えば陰極側ポンプ電極75は、ロジウムRhと白金PtとセラミックスとしてのジルコニアZrO2からなる多孔質サーメットから構成され、このうちロジウムRhがNOx、特にNOをも還元し得る高いNOx触媒能を有する。
【0045】
第1室64内では、第1のポンプセル及びモニタセルの作用により第1室64内の酸素濃度が1ppmとなるように第1室64内の酸素が排出される。このとき排気ガス中に含まれるNO2がNOに還元されることはあるものの、NOはそれ以上還元されない。したがって、第1室64内でNOxがNOにほぼ単ガス化され、このNOxを含む排気ガスが第2の拡散律速部材63を通って第2室65内に流入する。
【0046】
第2室65内では、第2のポンプセル及びモニタセルの作用により第2室65内の酸素濃度が0.01ppmとなるように第2室65内の酸素が排出される。また、センサセルの作用により、第2室65内のNOx(殆どがNOである)が陰極側ポンプ電極75上においてN2とO2とに分解され、分解生成された酸素O2が排出されると共に、分解生成された窒素の量に応じた出力電流I1が発せられる。
【0047】
なお、第5層L5と第6層L6との間には、NOxセンサ50のセンサ部を加熱するための電気式ヒータ79が配置されている。このヒータ79は、NOxセンサ50による通常のNOx検出時に約750〜800℃に加熱制御される。
【0048】
さて、このような基本構成を持つNOxセンサ50においては、当該NOxセンサ50が劣化するにつれ、第1室64内の陰極側第1ポンプ電極67と第2室65内の陰極側第2ポンプ電極72から、NOx触媒能を有しないか又はその触媒能が低い金属材料(以下、低触媒能金属材料ともいう)が飛散すると共に第2室65内の陰極側ポンプ電極75の表面に徐々に付着していき、当該陰極側ポンプ電極75のNOx触媒能を徐々に低下させていくことが判明した。この低触媒能金属材料とは本実施形態の場合金Auであり、この金Auが飛散して陰極側ポンプ電極75に付着する結果、陰極側ポンプ電極75のロジウムRhの持つNOx触媒能を低下させてしまう。この結果、排気ガスの同一NOx濃度に対するNOxセンサ50の出力は、NOxセンサ50の劣化につれ低濃度側に徐々にズレていってしまう。陰極側ポンプ電極75への金付着量がNOxセンサ50の劣化度と相関する。
【0049】
そこでかかる劣化メカニズムに着目し、本実施形態では、センサセルの近傍に劣化検出用セルを追加して設けている。図2に示すように、劣化検出用セルは、第2室65内の第3層L3の内周面上に、陰極側ポンプ電極75に隣接して配設された劣化検出用陰極側ポンプ電極80と、基準電極70と、これら電極間で酸素イオンを移動させるための第3層L3とから構成されており、センサセルとほぼ同様の構成を有する。異なるのは、劣化検出用陰極側ポンプ電極80が、陰極側第1ポンプ電極67と陰極側第2ポンプ電極72とから飛散してくる低触媒能金属材料である金Auを含む点にある。具体的には劣化検出用陰極側ポンプ電極80は、ロジウムRhと白金PtとジルコニアZrO2に加え、金Auを含む多孔質サーメットから構成されている。あたかも金Auが付着した陰極側ポンプ電極75のように、金Auは劣化検出用陰極側ポンプ電極80の主に表面部に含ませられている。金Auを含ませることにより劣化検出用陰極側ポンプ電極80のNOx触媒能が低下され、劣化検出用陰極側ポンプ電極80は、あたかもセンサセルの陰極側ポンプ電極75が金Auの付着により劣化したときのような、劣化品相当の電極となる。
【0050】
劣化検出用陰極側ポンプ電極80と基準電極70との間にも、センサセルと同じ大きさの一定電圧81が印加されている。したがって劣化検出用陰極側ポンプ電極80上において分解生成されたO2が酸素イオンとなって第3層L3内を基準電極70に向けて移動し汲み出される。このとき、劣化検出用陰極側ポンプ電極80と基準電極70との間には、酸素イオン量に比例した符号82で示す電流I4が流れる。但しこの電流I4は、センサセルの陰極側ポンプ電極75が劣化したときに出力されるような小さい値である。この電流I4は基本的にNOx濃度検出のためには用いられない。
【0051】
かかる劣化検出用セルを設けると、この劣化検出用セルから、センサセルの劣化品相当の出力を得ることができる。よってセンサセルの出力(即ちNOxセンサ50の出力)を劣化検出用セルの出力と比較することで、NOxセンサ50の劣化度を常時検出でき、ひいてはNOxセンサ50が正常か劣化かを確実に診断することができる。そしてNOxセンサ50の上流側に位置するNOx触媒34等の影響を何等受けないので(即ち、両セルの被検出ガスが同一なので)、NOx触媒34の下流側に配設されたNOxセンサ50の劣化を容易に診断できる。
【0052】
図3に、排気ガスのNOx濃度と、センサセル及び劣化検出用セルからの出力電流I1,I4との関係を示す。センサセル出力電流I1はNOx濃度に比例して変化するが、このときの傾きは、NOxセンサ50が新品(実線参照)から劣化するにつれ小さくなる(破線参照)。一方、劣化検出用セル出力電流I4は、NOx濃度に比例して変化するものの、このときの傾きは非常に小さく、新品時からセンサセルの劣化品相当である。そしてこの出力特性はセンサの劣化が進んでも殆ど変化しない。金Auが劣化検出用陰極側ポンプ電極80に十分に含ませられているからである。同一のNOx濃度で比較したときの劣化検出用セル出力電流I4は、新品時のセンサセル出力電流I1に対して例えば10〜20%程度である。そこで、NOxセンサ劣化度を表すパラメータとしての両出力電流I1,I4の比(出力比R=I1/I4)又は差(出力差D=I1−I4)をモニタすることで、センサセルの陰極側ポンプ電極75の金付着量ひいてはNOxセンサ50の劣化度を検出し、NOxセンサ50が正常か劣化かを診断することができる。NOxセンサ劣化度が大となるほど、出力比R及び出力差Dは小さくなる。
【0053】
なお、劣化検出用セルを設けたことによるNOxセンサ本来のNOx濃度検出性能への影響は実際上皆無である。NOxセンサは公知の限界電流特性を有し、センサセルへの印加電圧76とNOx濃度とに対応した出力電流I1を発するものであるが、実用上、第2室65内にはNOx濃度検出に十分すぎるほど多くのNOxが存在し、その一部が劣化検出用セルに分解されたとしても、センサセルにおけるNOx分解作用には何等影響を与えないからである。印加電圧76,81を極端に大きくすれば第2室65内のNOxが不足がちとなり影響を及ぼすことも考えられるが、実用上はそのような大きさの印加電圧76,81を与えることはなく、従って劣化検出用セルの影響も皆無である。
【0054】
次に、具体的な劣化診断処理を図4に基づいて説明する。図示されるルーチンはECU100により所定周期(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
【0055】
最初のステップS101では、劣化診断を行うのに適した所定条件が成立しているか否かが判断される。例えば、1)エンジン暖機完了(冷却水温が所定値以上)及び2)NOxセンサ活性済み(ヒータ温度が所定値以上)という条件に加え、3)NOxを含む排気ガスをNOxセンサ50に供給できるような条件が整ったとき、所定条件成立となる。本実施形態のようなディーゼルエンジンの場合、通常、空燃比は理論空燃比より著しくリーンであり、燃焼室から排出される排気ガスにはNOxが含まれる。そしてNOx触媒未活性時や尿素添加停止時などでNOxを含む排気ガスをNOxセンサ50に供給し得るようになったとき、3)の条件が満たされる。
【0056】
所定条件が成立していないと判断された場合、本ルーチンが終了される。他方、所定条件が成立していると判断された場合、ステップS102において、センサセル及び劣化検出用セルからの出力電流I1,I4が取得される。
【0057】
次いで、ステップS103において、これら出力電流I1,I4に基づき出力比R=I1/I4が算出される。そしてステップS104において、出力比Rが所定の劣化判定値Rsと比較される。
【0058】
出力比Rが劣化判定値Rsより大きい場合、ステップS105においてNOxセンサ50は正常と判定される。そしてステップS106において、センサセル即ちNOxセンサ50の出力I1が、正常範囲内にある一定の劣化度相当の値になるように補正される。本実施形態では、NOxセンサ50の出力I1が新品相当の値になるように補正され、具体的には式:I1’=I1・(R0/R)により、取得したセンサ出力I1が補正される。ここでI1’は補正後のセンサ出力、R0はセンサ新品時の出力比である。こうしてセンサ正常時にNOxセンサ出力を一定の劣化度相当の値(新品時の値)I1’に補正することで、センサ劣化度の影響のないセンサ出力値I1’を利用して尿素噴射量制御等の各種制御を精度良く安定して行うことが可能になる。
【0059】
他方、出力比Rが劣化判定値Rs以下の場合、ステップS107においてNOxセンサ50は劣化と判定される。そしてステップS108において、チェックランプ等の警告装置がオンされ、ユーザに対して警告がなされると同時にNOxセンサ50の交換が促される。
【0060】
なお、センサ劣化度を表すパラメータとして出力比Rの代わりに出力差Dを用いる場合、同一劣化度でもNOx濃度に応じて出力差Dが変わるので(図3参照)、既知のNOx濃度となるようなエンジン運転条件下で実際の出力差Dを取得し、これを所定の劣化判定値Dsと比較して正常か劣化かを判定する。また、正常判定の場合、実際の出力差Dに基づいて、一定の劣化度相当の値となるようNOxセンサ出力I1を補正する。
【0061】
以上の説明から理解されるように、本実施形態では、陰極側第1ポンプ電極67が本発明にいう第1の電極をなし、陰極側第2ポンプ電極72が本発明にいう第2の電極をなし、陰極側ポンプ電極75が本発明にいう第3の電極をなし、劣化検出用陰極側ポンプ電極80が本発明にいう第4の電極をなす。本実施形態の場合、ポンプセルが、第1のポンプセル及び第2のポンプセルという二つのポンプセルによって構成され、またモニタセルが、第1のモニタセル及び第2のモニタセルという二つのモニタセルによって構成されている。しかしながら、要は、第2室65内の酸素濃度が低濃度側の所定値(0.01ppm)となるようにフィードバック制御すればよいのである。第1室64内から酸素排出を行うポンプセル(第1のポンプセル)を設けるのは必須であり、このポンプセルを、第1室64内又は第2室65内で検出した酸素濃度に応じてフィードバック制御することが必要である。こうした意味において、第1のポンプセル及びこれを構成する電極は必須であるが、第2のポンプセル及びこれを構成する電極は必ずしも必須ではない。また、第1のモニタセル及びこれを構成する電極と、第2のモニタセル及びこれを構成する電極との少なくともいずれか一方があればよい。NOxセンサの構成は本実施形態のものに限られないが、本実施形態のように、二つずつのポンプセル及びモニタセルを設け、第1室64及び第2室65の酸素濃度を二段階でフィードバック制御することは、第2室65内の酸素濃度を高精度で制御できるという点で当然ながら好ましい。
【0062】
劣化検出用陰極側ポンプ電極80については、少なくとも第2室65内に配設されていればよく、必ずしも図2に示すように陰極側ポンプ電極75に対してセンサ長手方向に直列に配置されている必要はない。陰極側ポンプ電極75と並列に配置されていてもよい。また劣化検出用陰極側ポンプ電極80の表面積は陰極側ポンプ電極75より小さいのが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば、本発明に係るNOxセンサ及びその劣化診断装置は内燃機関以外の用途にも適用可能である。また内燃機関に適用した場合でも、内燃機関の種類、型式、用途等は限定されず、例えば火花点火式内燃機関、特に直噴リーンバーンガソリンエンジンにも適用可能である。
【0064】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の概略的なシステム図である。
【図2】NOxセンサのセンサ部の構造を示す断面図である。
【図3】被検出ガスのNOx濃度とセンサ出力の関係を示すグラフである。
【図4】劣化診断処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
10 エンジン
15 排気通路
34 NOx触媒
50 NOxセンサ
62 第1の拡散律速部材
63 第2の拡散律速部材
64 第1室
65 第2室
67 陰極側第1ポンプ電極
72 陰極側第2ポンプ電極
75 陰極側ポンプ電極
80 劣化検出用陰極側ポンプ電極
100 電子制御ユニット(ECU)
1 センサセル(NOxセンサ)の出力電流
4 劣化検出用セルの出力電流
R 出力比
D 出力差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサセルの近傍に劣化検出用セルを備えたことを特徴とするNOxセンサ。
【請求項2】
第1の拡散律速部材を通じて被検出ガスが導入される第1室と、第2の拡散律速部材を通じて前記第1室内のガスが導入される第2室と、前記第1室に配設されポンプセルを構成する第1の電極と、前記第1室及び前記第2室の少なくとも一方に配設されモニタセルを構成する第2の電極とを備え、
前記第2室に、前記センサセルを構成する第3の電極と前記劣化検出用セルを構成する第4の電極とを備え、
前記第1の電極及び第2の電極が、劣化に伴ってこれら電極から飛散する金属材料を含み、前記第3の電極が前記金属材料を含まず、前記第4の電極が前記金属材料を含む
ことを特徴とする請求項1記載のNOxセンサ。
【請求項3】
前記金属材料が、NOxを還元し得る触媒能を有しないか又はその触媒能が低い金属材料からなることを特徴とする請求項2記載のNOxセンサ。
【請求項4】
前記金属材料が金であることを特徴とする請求項3記載のNOxセンサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のNOxセンサの劣化を診断するための装置であって、
前記センサセル及び前記劣化検出用セルの出力に基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する判定手段を備えたことを特徴とするNOxセンサの劣化診断装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記センサセル及び前記劣化検出用セルの出力の比又は差に基づいて前記NOxセンサの劣化を判定する
ことを特徴とする請求項5記載のNOxセンサの劣化診断装置。
【請求項7】
前記判定手段により前記NOxセンサが正常と判定されたとき、前記センサセル及び前記劣化検出用セルの出力に基づいて前記NOxセンサの出力を補正する補正手段を備えた
ことを特徴とする請求項5又は6に記載のNOxセンサの劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−175014(P2009−175014A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14199(P2008−14199)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)