説明

NT−プロBNPと組み合わせてのCT−プロET−1による急性冠症候群の診断および危険性の分類

本発明は、急性冠症候群(ACS)、特に、急性心筋梗塞(AMI)および狭心症(AP)ならびに/または心筋梗塞後のための診断および/または危険性の分類のための方法に関する。ここでC末端プロエンドセリン(CT−プロET−1)またはそのフラグメントおよび部分ペプチドの測定は、NT−プロBNPと組み合わせて行われる。一実施形態において、本発明は、急性冠症候群、特に、心筋梗塞、狭心症、および/または心筋梗塞後の増大した危険性および/または好ましくない予後を有する患者を同定するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性冠症候群(ACS)、特に、急性心筋梗塞(AMI後)の診断および/または危険性の分類のための方法に関し、ここでC末端プロ−エンドセリン(CP−プロET−1)またはそのフラグメントおよび部分ペプチドの測定は、NT−プロBNPと組み合わせて行われる。
【背景技術】
【0002】
上記危険性の分類は、徴候を示す患者もしくは無徴候性の患者に拘わらず、心疾患の領域において増大しつつある重要性を有する。特に、急性冠症候群(ACS)および急性心筋梗塞(AMI)および狭心症(AP)、ならびに心筋梗塞後(AMI後)の領域において、適切な危険性の分類についての需要が高い。
【0003】
適切な治療は、救急救命室においてすぐ臨床的決定を行うための必要性に関連して、急性冠症候群の初期診断および鑑別を要する。急性冠症候群における特定されていない症状(胸痛)に起因して、他の病気の鑑別および範囲、ならびに急性冠症候群の認識の両方が必須である。これはまた、心筋梗塞後の場合において必要である。
【0004】
生化学的マーカー、特に、心筋トロポニン、ミオグロビン、およびCK−MB−massのような伝統的なものは、心筋梗塞の予後のために、先行技術において行われてきた(非特許文献1)。ナトリウム利尿性タンパク質のBタイプ(BNP)は、プロ−BNP、NT−プロBP(特許文献1、特許文献2)とともに、親近の診断においてさらに有効な生化学的マーカーであることが分かった。
【0005】
C末端プロ−エンドセリンフラグメント(CT−プロ−ET−1)は、プレプロ(pepro)−エンドセリン(配列番号1)のアミノ酸配列93〜212もしくは168〜212とともに、エンドセリン−1の間接的測定もしくは大きなエンドセリン−1含有量についての心血管疾患の診断に関して、特許文献3に記載されている。さらに、ANP、BNPおよびプロBNPのような心臓パラメーターが、マルチパラメーター診断のために、心臓診断において利用され得ることは、特許文献3から公知である。
【0006】
しかし、現在公知のマーカーを利用する公知の診断法の1つの欠点は、危険性のある患者の時期尚早のおよび完全な決定が、十分に成功していないことである。従って、本発明に基づく1つの目的は、危険性のある患者の改善された決定を可能にする、急性冠症候群および心筋梗塞後の危険性の分類のための方法を開発することである。
【0007】
別の欠点は、先行技術によれば、上記マーカーの十分な感度および/または特異性がしばしば得られないことである。
【0008】
別の目的は、急性冠症候群および心筋梗塞後の危険性の分類のための方法を提供することであり、ここで少なくとも1つのマーカー、マーカー組み合わせは、インビトロ診断において十分な感度および特異性を有する。
【0009】
従って、本発明の課題は、急性冠症候群および心筋梗塞後の診断および/または危険性の分類のための方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第1363128号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1666881号明細書
【特許文献3】欧州特許第1564558号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Katus,H.A.;Remppis,A.;Scheffold,T.;Diederich,K.W. and Kuebler,W:Intracellular compartmentation of cardiac troponin T and its release kinetics in patients with reperfused and nonreperfused myocardial infarction,Am J Cardio(1991)67(16):1360−1367
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、急性冠症候群および心筋梗塞後の診断および危険性の分類のための方法によって解決される。ここで上記CT−プロET−1の測定は、NT−プロBNP(配列番号4)と組み合わせて、遊離フラグメント(配列番号2および/または配列番号3)(要するに:「CT−プロET−1」)、またはそのフラグメントおよび部分ペプチドに対して行われる(本明細書中以降、本発明に従う方法といわれる)。
【0013】
驚くべきことに、CT−プロET−1またはそのフラグメントおよび部分ペプチドは、NT−プロBNPと組み合わせて、急性冠症候群および心筋梗塞後の診断についての高い感度および特異性を有する(実施例および図面を参照のこと)。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プローブ(抗体)によるその検出での、CT−プロET(配列番号3)の診断的利用可能性の方式
【図2】NT−プロBNPもしくはCT−プロET−1による、または論理的回帰モデルから得られる両方のパラメーターの組み合わせから死亡/心機能不全の予後についてのROC曲線。
【図3】示したCT−プロET−1およびNT−プロBNP(ともにpmol/l単位)についてのカットオフ濃度に従う、上記心臓発作患者を亜群に分けることによる事象(死亡、心機能不全)の速度。上記カットオフ濃度は、ROC分析からの濃度として各々決定した。ここで感度および特異性の積は、事象予後の最大にあった。
【図4】すべての心臓発作患者の測定値のそれぞれのメジアンに基づいて、CT−プロET−1およびNT−プロBNPについての測定値の位置に従う、上記心臓発作患者を亜群に分けることによる事象(死亡、心機能不全)の速度。上記メジアンは、CT−プロET−1については77pmol/lであり、NT−プロBNPについては914pmol/lであった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
用語「急性冠症候群」とは、生命の直接的な驚異である冠動脈心疾患の種々の相を含む。これは、救急救命医療、実際に、急性心筋梗塞および/または狭心症、ならびに突然心臓死に適用される。WHO基準(WHO(1979): Nomenclature and criteria for diagnosis of ischemic heart disease. Report of the Joint International Society and Federation of Cardiology/World Health Organization task force on standardization of clinical nomenclature,Circulation 59(3):607−609))に従って定義される急性心筋梗塞に加えて、20分間を超えて持続する急性胸痛事象は、ST部分の上昇および/または心筋酵素の増加と合わさっていたので、不安定性狭心症(AP)という用語は除去され、この用語は、本発明によれば、「急性冠症候群」の下で、文献中で見いだされる(Hamm CW:Guidelines:Acute Coronary Syndrome(ACS)-Part 1:ACS without persisting elevation of ST segment.Z Kardiol(2004)93:72−90;Pschyrembel,De Gruyter,Berlin 2004もまた参照のこと)。
【0016】
「心筋梗塞後患者における不利な(ネガティブな)事象」とは、特に、さらなる(その後の)心筋梗塞、冠動脈不全(Herzversagen)、もしくは死亡、または本発明の過程において患者の予後の他の悪化を意味する。
【0017】
「心筋梗塞」(心臓発作、AMI(急性心筋梗塞))とは、本発明の過程において、心臓の急性かつ生命を脅かす疾患を意味する。ここで心筋(Herzmuskel)(心筋(Myokard))の死滅もしくは一部の組織壊死は、通常、20分間より長く持続する循環障害(虚血)に起因して生じる。心臓発作の主要な症状は、突然生じる、20分間より長く持続する、胸部における大部分は強い疼痛(「胸痛」)である。この疼痛は、肩、腕、下顎、および上腹部へ拡がり得、そして発汗、悪心、およびおそらく嘔吐が付随し得る。冠動脈不全は、おそらく心筋梗塞に起因する。
【0018】
用語「心筋梗塞後」とは、過去に、例えば、1時間にわたって、特に、20時間にわたって、特に、1〜5日間にわたって、または3〜5日間にわたって、心筋梗塞に既に罹患しており、後(post)の(「後の(Danach)」)相で現在生存している患者、および直接的死亡を経験しなかったが、さらなる不利な事象を経験した患者は、直接的または間接的に予期され得ることを意味する。
【0019】
すべての示される適応症は、例えば、Pschyrembel,De Gruyter,Berlin 2004においてさらに記載されている。
【0020】
用語「危険性の分類」は、できるだけ有利である過程を可能にするという目的とともに、急性冠症候群、特に、心筋梗塞、狭心症、および/または心筋梗塞後のより集中的な診断および治療/処置の目的で、患者、特に、救急救命室の患者および危険性のある患者におけるより悪い予後を含む。危険性の分類は、本発明によれば、経皮的冠状動脈介入およびより新たな医薬品を利用して、急性冠症候群で適切である、連続して有効な処置プロセスを可能にする。
【0021】
従って、本発明はまた、特に、徴候のある患者および/または無徴候性の患者、特に、救急救命室の患者において、急性冠症候群、特に、心筋梗塞、狭心症、および/または心筋梗塞後の増大した危険性および/または不利な予後を有する患者を同定することに関する。
【0022】
安全な分類は、本発明に従う方法によって、特に、救急救命医療および/または集中医療の場合において、特に有利に生じ得る。従って、本発明に従う方法は、迅速な治療の成功および死亡の回避をもたらす臨床的決定を可能にする。このような臨床的決定はまた、急性冠症候群、特に、心筋梗塞(AMI)および/または狭心症(AP)および/または心筋梗塞後の処置もしくは治療のための医薬品による継続した処置を含む。
【0023】
従って、本発明はまた、好ましくは、時間的に重要な集中医療もしくは救急救命医療において、患者の入院の決定を含む、臨床的決定(例えば、医薬品による継続した処置および治療)を行うための、急性冠症候群および/または心筋梗塞後を有する患者の診断および/または危険性の分類のための方法に関する。
【0024】
従って、さらなる好ましい実施形態において、本発明に従う方法は、急性冠症候群、特に、心筋梗塞(AMI)、および狭心症(AP)、ならびに心筋梗塞後の治療制御に関する。
【0025】
本発明に従う方法のさらなる好ましい実施形態において、予後、鑑別診断的初期検出および認識、重篤度の程度の評価、ならびに過程の治療に付随する評価の診断および/または危険性の分類が行われる。
【0026】
さらなる好ましい実施形態において、本発明は、急性冠症候群、もしくは心筋梗塞、もしくは狭心症、および/または心筋梗塞後の初期診断もしくは鑑別的診断または予後のための、インビトロ診断のための方法に関する。ここでマーカーCT−プロET−1またはそのフラグメントおよび部分ペプチドの測定は、試験されるべき患者に対して、NT−プロBNPと組み合わせて行われる。
【0027】
本発明はさらに、急性冠症候群の診断および危険性の分類のための方法、あるいは上記の実施形態のうちの1つに従う、急性冠症候群、特に、心筋梗塞もしくは狭心症および/または心筋梗塞後の初期診断もしくは鑑別的診断または予後のための方法に関する。ここで上記の実施形態において、診断および/または危険性の分類のための感度および特異性の最大において、上記症状の発生の後に、CT−プロET−1またはそのフラグメントおよび部分ペプチドと、NT−プロBNPとの組み合わせについてのカットオフ値(閾値)は、CT−プロET−1については80〜150pmol/l、特に、90〜130pmol/l、特に、109.5pmol/lであり、NT−プロBNPについては750〜1100pmol/l、特に、800〜950pmol/l、特に、827.2pmol/lである(図3および4を参照のこと)。
【0028】
上記に基づいて、本発明に従う方法は、有利には、感度が高くかつ特異的である。
【0029】
本発明に従う方法の一実施形態において、体液、好ましくは血液が、試験されるべき患者から抜かれ(必要に応じて、全血もしくは血清、または利用可能な血漿)、そして上記診断は、インビトロ/エキソビボで(例えば、ヒトもしくは動物の身体の外で)行われる。NT−プロBNPと組み合わせて、マーカーCT−プロET−1またはそのフラグメントおよび部分ペプチドの測定に基づいて、急性冠症候群、心筋梗塞、および狭心症ならびに/または心筋梗塞後についての高感度および特異性が得られ、そして次いで、上記診断または危険性の分類は、少なくとも1種の患者サンプルに存在する量に基づいて行われ得る。
【0030】
「CT−プロET−1」とは、本発明の過程におけるヒトタンパク質もしくはポリペプチドを意味する。これは、プレプロエンドセリンから得られ得、およびプレプロエンドセリン(配列番号1)の過程において、アミノ酸93〜212を有する遊離フラグメント(129AS、配列番号2:ALENLLPT KATDRENRCQ CASQKDKKCW NFCQAGKELR AEDIMEKDWN NHKKGKDCSK LGKKCIYQQL VRGRKIRRSS EEHLRQTRSE TMRNSVKSSF HDPKLKGKPS RERYVTHNRA HW)またはアミノ酸168〜212を有する遊離フラグメント(44AS、配列番号3:RSS EEHLRQTRSE TMRNSVKSSF HDPKLKGKPS RERYVTHNRA HW、図もまた参照のこと)、ならびにこれから利用可能なフラグメントもしくは部分ペプチドもまた含む。本発明に従う上記ポリペプチドはまた、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、脂質化、または誘導体化)を有し得る。
【0031】
本発明の過程における「NT−プロBNP」は、ナトリウム利尿性ペプチドのBタイプのN末端プロ−ホルモン、配列番号4(76AS:HPLG SPGSASDLET SGLQEQRNHL QGKLSELQVE QTSLEPLQES PRPTGVWKSR EVATEGIRGH RKMVLYTLRA PR)に従うアミノ酸配列を有するヒトタンパク質、もしくはポリペプチドを意味する。
【0032】
別の実施形態において、NT−プロBNPと組み合わせて、CT−プロET−1またはそのフラグメントおよび部分ペプチドの測定は、さらなるマーカー、実際に、このようなマーカー(これは、急性冠症候群、特に、心筋梗塞、もしくは狭心症、ならびに心筋梗塞後を既に示す)を用いてさらに行われ得る。
【0033】
従って、本発明は、本発明に従う方法のこのような実施形態に関する。ここで本発明に従う組み合わせに加えて、上記測定は、炎症マーカー、心血管マーカー、神経ホルモンマーカー、または虚血マーカーの群から選択される少なくとも1種のさらなるマーカーを用いて、試験されるべき患者に対して行われる。
【0034】
本発明によれば、上記炎症マーカーは、C反応性タンパク質(CRP)、TNF−αのようなサイトカイン、IL−6のようなインターロイキン、プロカルシトニン(1−116、3−116)、およびVCAMもしくはICAMのような接着分子の群の少なくとも1種のマーカーから選択され得、そして上記心血管マーカーは、心筋組織の壊死を特に示すマーカー、および血圧に対する影響を有するマーカーから、クレアチニンキナーゼ、ミオグロビン、ミエロペルオキシダーゼ、さらなるナトリウム利尿性タンパク質、特に、ANP(もしくはANF)、プロANP、NT−プロANP、BNP、プロ−BNP、またはこれらの部分配列、心筋トロポニン、CRPの群から選択される少なくとも1種のマーカーから選択されうる。さらに、これらはまた、循環調節(プロ)ホルモン、特に、プロ−ガストリン放出ペプチド(プロGRP)、プロ−レプチン、プロ−ニューロペプチド−Y、プロ−ソマトスタチン、プロ−ニューロペプチド−YY、プロ−オピオメラノコルチン、もしくはプロ−アドレノメデュリン(プロADM)またはこれらの部分配列を意味する。
【0035】
上記虚血マーカーは、トロポニンIおよびT、CK−MBの群から選択される少なくとも1種のマーカーから選択されうる。さらに、上記神経ホルモンマーカーは、少なくとも1種のさらなるナトリウム利尿性タンパク質、特に、ANP(もしくはANF)、プロANP、NT−プロANP、BNP、プロBNP、またはこれらの部分配列であり得る。
【0036】
本発明のさらなる実施形態において、本発明に従う方法は、上記マーカーの並行した測定もしくは同時測定によって(すなわち、96穴以上を有するマルチタイタープレート)、インビトロ診断の過程内で行われ得る。ここで上記測定は、少なくとも1種の患者サンプルに対して行われる。
【0037】
さらに、本発明に従う方法およびその測定は、診断デバイスにおいて、自動分析デバイスによって、特に、Kryptor(http://www.kryptor.net/)によって行われうる。
【0038】
さらなる実施形態において、本発明に従う方法およびその測定は、単一パラメーターもしくは複数パラメーターの測定に拘わらず、迅速な試験(すなわち、ラテラルフロー試験(lateral−flow Test)もしくはポイント・オブ・ケア(point−of care))によって、行われ得る。特に好ましい実施形態は、自己診断(Selbsttest)または救急救命診断に適したデバイスである。
【0039】
さらに、本発明は、急性冠症候群、心筋梗塞、もしくは狭心症および/または心筋梗塞後の危険性の分類のための、ならびに/あるいは急性冠症候群、心筋梗塞、もしくは狭心症および/または心筋梗塞後の初期診断もしくは鑑別診断もしくは予後のインビトロ診断のための、NT−プロBNPと組み合わせた、CT−プロET−1またはそのフラグメントおよび部分ペプチドの使用に関する。
【0040】
さらなる目的は、本発明に従う方法を行うための診断デバイス、またはその使用をそれぞれ提供することである。
【0041】
本発明の過程において、このような診断デバイスは、アレイ、もしくはアッセイ(例えば、免疫アッセイ、ELISAなど)、さらなる意味において本発明に従う方法を行うためのデバイスである。
【0042】
本発明はまた、NT−プロBNP(配列番号4)および必要に応じて、上記のさらなるマーカーと組み合わせて、CT−プロET−1と、その遊離フラグメント(配列番号2および/または配列番号3)またはフラグメントおよび部分ペプチドを測定するための検出試薬を含む、急性冠症候群、心筋梗塞、および/もしくは狭心症、ならびに/または心筋梗塞後の診断および/または危険性の分類のためのキットに関する。このような検出試薬は、例えば、抗体などを含む。
【0043】
以下の実施例および図面は、本発明を詳細に説明するために供されるが、本発明を上記実施例および図面に限定することはない。
【実施例】
【0044】
(実施例および図面)
(実施例1)
血液サンプルを、胸痛の主症状と関連する心臓発作を有するとして病院の救急救命室に入った983名の患者から採取した。
【0045】
上記患者を、342日間のメジアン期間にわたって観察したところ、上記患者のうちの10.3%は死亡し、そして5.0%は、心機能不全に起因して、再入院した。
【0046】
心臓発作を有する患者におけるCT−プロET−1の血漿濃度は、正常範囲(メジアン値:44.3pmol/l、範囲10.5〜77.4pmol/l)とは対照的に、4.6〜671pmol/lの範囲の71pmol/lのメジアンにおいて増大した。いかなる後の事象もない患者と比較して、上記CT−プロET−1は、後に死亡した患者、または心機能不全により再入院した患者においてより高かった(メジアン[範囲]pmol/l、123.5;[14〜671] 対 74;[4.6〜530;p<0.0001)。NT−プロBNPはまた、いかなる後の事象もない患者とは対照的に、事象を有する患者において増大した(p<0.0001)。さらなる詳細は、表1および表2に例示される。
【0047】
死亡/心機能不全の推定のためのCox比例ハザードモデルは、独立した予測変数としてCT−プロET−1およびNT−プロBNPを同定した(log CT−プロET−1(HT 6.82)、log NT−BNP(HR 2.661)。CT−プロET−1の受容者操作者曲線は、0.77の曲線下面積(AUC)を生じた(95% CI:0.71〜0.83,p<0.001);NT−プロBNPについては、AUCはまた、0.77であった(95% CI:0.71〜0.83,p<0.001);論理モデルにおける両方のマーカーの組み合わせは、0.82のAUCを生じ(95% CI:0.77〜0.87,p<0.001)、また、上記2つの個々のマーカーのものより大きなAUCを生じた(図2)。
【0048】
両方の個々のマーカーとは対照的に、両方のマーカーCT−プロET−1およびNT−プロBNPの組み合わせから生じるさらなる利益はまた、図3および図4に示され、ここで60日間後の事象速度を、基本として採取する。上記患者を、カットオフ値に従って分類し、このようにして得られる上記亜群において得た上記事象速度は、例示される。図3において、それらの濃度を、カットオフ値としてROC分析から検出した。ここで感度と特異性との積は、事象予後の最大において存在した。図4において、患者集団全体のメジアンは、カットオフ値として機能する。
【0049】
【表1−1】

【0050】
【表1−2】

【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性冠症候群、および/または心筋梗塞後のインビトロ診断および/または危険性の分類のための方法であって、該方法は、CT−プロET−1と、その遊離フラグメント(配列番号2および/または配列番号3)もしくはフラグメントおよび部分ペプチドの測定は、試験されるべき患者においてNT−プロBNP(配列番号4)と組み合わせて行われることで特徴づけられる、方法。
【請求項2】
前記方法は、急性冠症候群、特に、心筋梗塞、狭心症、および/または心筋梗塞後の増大した危険性および/または好ましくない予後を有する患者を同定するためのものである、請求項1に記載の、急性冠症候群、および/または心筋梗塞後の診断および/または危険性の分類のための方法。
【請求項3】
前記患者は、徴候を示すおよび/または無症候性の患者、特に、救急救命室の患者である、請求項1または2に記載の、急性冠症候群、および/または心筋梗塞後の診断および/または危険性の分類のための方法。
【請求項4】
前記方法は、急性冠症候群、特に、心筋梗塞(AMI)および狭心症(AP)、ならびに/または心筋梗塞後の治療制御のための、特に、集中医療もしくは救急救命医療におけるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の、急性冠症候群、および/または心筋梗塞後の診断および/または危険性の分類のための方法。
【請求項5】
前記方法は、前記患者を入院させるための決定を含む、臨床的決定、特に、医薬品による、特に、集中医療もしくは救急救命医療における継続的な処置および治療を行うためのものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の、急性冠症候群、および/または心筋梗塞後の診断および/または危険性の分類のための方法。
【請求項6】
前記方法は、予後のための、鑑別診断的初期検出および認識のための、重篤度の程度の評価のための、ならびに経過の治療に付随する評価のためのものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の、急性冠症候群、および/または心筋梗塞後の診断および/または危険性の分類のための方法。
【請求項7】
カットオフ値は、CT−プロET−1については80〜150pmol/l、特に、90〜130pmol/l、特に、109.5pmol/lであり、そしてNT−プロBNPについては750〜1100pmol/l、特に、800〜950pmol/l、特に、827.2pmol/lであることで特徴づけられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種のさらなるマーカーの決定がさらに行われ、該少なくとも1種のさらなるマーカーは、炎症マーカー、心血管マーカー、神経ホルモンマーカー、または虚血マーカーの群から選択されることで特徴づけられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記炎症マーカーは、C反応性タンパク質(CRP)、TNF−αのようなサイトカイン、IL−6のようなインターロイキン、プロカルシトニン(1−116、3−116)、およびVCAMもしくはICAMのような接着分子の群の少なくとも1種のマーカーから選択されることで特徴づけられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記心血管マーカーは、クレアチニンキナーゼ、ミオグロビン、ミエロペルオキシダーゼ、ナトリウム利尿性タンパク質、特に、ANP(もしくはANF)、プロANP、NT−プロANP、BNP、プロ−BNP、またはこれらの部分配列、心筋トロポニン、CRP、およびプロ−ガストリン放出ペプチド(プロGRP)、プロ−エンドセリン−1、プロ−レプチン、プロ−ニューロペプチド−Y、プロ−ソマトスタチン、プロ−ニューロペプチド−YY、プロ−オピオメラノコルチン、もしくはプロ−アドレノメデュリン(プロADM)のような循環調節(プロ)ホルモン、またはこれらの部分配列の群から選択されることで特徴づけられる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記虚血マーカーは、トロポニンIおよびT、CK−MBの群の少なくとも1種のマーカーから選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記神経ホルモンマーカーは、少なくとも1種の、ナトリウム利尿性タンパク質、特に、ANP(もしくはANF)、プロANP、NT−プロANP、BNP、プロBNP、またはこれらの部分配列であることで特徴づけられる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記マーカーの並行した測定もしくは同時測定を行うことができることで特徴づけられる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記測定は、少なくとも1つの患者サンプルに対して行われることで特徴づけられる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記測定は、自動分析デバイスで、特に、Kryptorによって行われることで特徴づけられる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記測定は、迅速な試験、特に、単一パラメーターもしくは複数パラメーターの測定によって行われることで特徴づけられる、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
急性冠症候群、心筋梗塞、狭心症、および/または心筋梗塞後の診断および/または危険性の分類のための、NT−プロBNOP(配列番号4)および必要に応じて、請求項8〜12のいずれか1項に記載のさらなるマーカーと組み合わせた、遊離フラグメント(配列番号2および/または配列番号3)またはそのフラグメントおよび部分ペプチドとのCT−プロET−1の使用。
【請求項18】
NT−プロBNP(配列番号4)および必要に応じて、請求項8〜12のいずれか1項に記載のさらなるマーカーと組み合わせて、CT−プロET−1と、その遊離フラグメント(配列番号2および/または配列番号3)またはフラグメントおよび部分ペプチドを測定するための検出試薬、ならびに補助的手段を含む、急性冠症候群、心筋梗塞、狭心症、および/または心筋梗塞後の危険性の分類のためのキット。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法を行うための診断デバイス。
【請求項20】
NT−プロBNP(配列番号4)および必要に応じて、請求項8〜12のいずれか1項に記載のさらなるマーカーと組み合わせて、CT−プロET−1と、その遊離フラグメント(配列番号2および/または配列番号3)またはフラグメントおよび部分ペプチドを測定するための検出試薬、ならびに補助的手段を含む、急性冠症候群、心筋梗塞、および/または狭心症の診断のためのキット。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−513880(P2010−513880A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541763(P2009−541763)
【出願日】平成19年12月22日(2007.12.22)
【国際出願番号】PCT/DE2007/002313
【国際公開番号】WO2008/077396
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(509091332)ブラームズ アクチェンゲゼルシャフト (12)
【Fターム(参考)】