説明

NbとVを含有する酸化物、及びその製造方法

【課題】5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有するゲートハウスタングステンブロンズ構造を有する酸化物を提供すること。
【解決手段】本発明は、NbとVを含有するする酸化物において、CuKα線をX線源として得られるX線回折図で回折角(2θ)が、7.1±0.3°、22.4±0.5°の位置に回折ピークを有することを特徴とする酸化物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NbとVを含有する酸化物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、プロピレン又はイソブチレンに代わって、プロパン又はイソブタンを原料とし、気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造する技術が着目されており、多数の触媒が提案されている。
【0003】
それらの中でも特に注目されている触媒は、モリブデンを主成分とするMo−V−Te−Nb又はMo−V−Sb−Nbから構成される酸化物触媒であり、例えば特許文献1や特許文献2等に開示されている。これらが着目される理由は、不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸の選択率が比較的高く、そのうえ反応が420〜450℃と低い温度で運転されているためである。
【0004】
上記特許文献等に開示されている酸化物触媒には、特許文献3、4等に開示されているように2種類の複合酸化物が含まれていることがわかっている。2種類のうちの一つの複合酸化物は、Cu−Kα線を用いて得られるX線回折図において、6.7°、7.9°、9.0°、22.2°、27.3°、35.4°、45.2°付近にピークをもつ複合酸化物であり、かかる複合酸化物は、特許文献3ではphase−iと呼ばれている。前述の2種類のうちの他の複合酸化物は、Cu−Kα線を用いて得られるX線回折図において22.2°、28.3°、36.2°、45.1°、50.0°付近にピークをもつ複合酸化物であり、かかる複合酸化物は、特許文献3ではphase−kと呼ばれている。
【0005】
このうちプロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造することに有用な相はphase−iであり、特許文献3や4の実施例等に記載されているように、phase−iを含む触媒は酸化反応やアンモ酸化反応に対する触媒活性が大きいものの、phase−iを含まずphase−kのみを含む触媒は酸化反応やアンモ酸化反応に対する触媒活性がない。
【0006】
以上は、ある特定の構造を作ることが極めて重要であることを物語るものであり、特に今注目されている構造であるphase−iについてはこのことがいっそう顕著に重要である。
【0007】
phase−iとphase−kの構造上の違いは、公知の文献に記載されている(例えば、非特許文献1、2など多数)。phase−i及びphase−kもタングステンブロンズ構造と呼ばれる構造であり、酸素八面体(WO6)の単位ブロックが頂点、稜を共有して連なった構造をとる。ここで、タングステンブロンズ構造とは、一般的には、AxWO3(A=H、Li、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Cu、Agなどのカチオン性元素、x≧0)がよく知られており、酸素八面体(WO6)の単位ブロックが頂点、稜を共有して連なった構造である(結晶構造ハンドブック(共立出版)p.832、第4版実験化学講座16無機化合物(丸善)p.448、Lars Kihlborg, Renu Sharma, J.Microsc. Spectrosc. Electron.,7.387(1982)など)。タングステンブロンズ構造を有する酸化物のひとつの特徴は、層状的な構造をとるためCuKα線によって測定されたX線回折図において、層の面間隔(c軸を面ベクトルにとった場合(001))に相当する22.5±1°、通常は22.5±0.5°に強いピークを有していることである。
【0008】
phase−kは6中心のみのトンネル構造を有するのに対して、phase−iは5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有している。そして、5中心、6中心、7中心のトンネル構造の有無は、Cu−Kα線を用いて得られるX線回折図において、回折角(2θ)が10°よりも小さい値におけるピークの有無で確認することができることも知られている。
【0009】
以上のように、5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有する構造は、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造する再の有用な触媒構造として知られている。一方で、phase−iという結晶構造は、特許文献1、2以来開発されつくした感もある。このことは、例えば、特許文献1、2以降に出願されている特許文献において、大多数が特許文献1、2とほぼ同じ組成で得られていることからも明らかである。
【0010】
このような状況下、5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有していて、その配置の異なる酸化物を製造する技術が強く望まれている。
【特許文献1】特開平5−208136号公報
【特許文献2】特開平9−157241号公報
【特許文献3】特開平10−330343号公報
【特許文献4】特開平11−239725号公報
【非特許文献1】Catalysis Communication 4巻 pp537−542(2003年)
【非特許文献2】Topics in Catalysis 23巻 pp23−38(2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有するphase−i構造の類似構造であるゲートハウスタングステンブロンズ構造(以下、単に「GTB構造」と称する。)を有する酸化物、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有する酸化物を鋭意検討した結果、NbとVを含有する酸化物において、CuKα線をX線源として得られるX線回折図で回折角(2θ)が、7.1±0.3°、22.4±0.5°の位置に回折ピークを有する酸化物を見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明の第一の態様では、
[1] NbとVを含有する酸化物において、CuKα線をX線源として得られるX線回折図で回折角(2θ)が7.1±0.3°、22.4±0.5°の位置に回折ピークを持つ、酸化物
[2] NbとVを含有する酸化物が、下記式(I)で示される組成を含有する、
Nb1abn(I)
(式中、XはBi、Sbから選ばれる少なくとも一種の元素であり、a、bおよびnはNb1原子あたりの原子比を表し、a、bは各々0≦a<0.8、0.01≦b<0.8であり、nは構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
前項[1]に記載の酸化物、
[3] 9.0±0.5°の位置に回折ピークをさらに持つ、前項[1]又は[2]に記載の酸化物、
[4] 4.8±0.5°の位置に回折ピークをさらに持つ、前項[1]ないし[3]のうち何れか一項に記載の酸化物、
[5] 6.3±0.5°の位置に回折ピークをさらに持つ、前項[1]ないし[4]のうち何れか一項に記載の酸化物、
[6] Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をNb1原子に対して、0.001〜0.5含有する、前項[1]ないし[5]のうち何れか一項に記載の酸化物、
を提供する。
【0013】
また、本発明の第二の態様では、
[7] 前項[1]ないし[6]のうち何れか一項に記載の酸化物を製造する方法であって、
Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をNb1原子に対して、0.001〜0.5添加する工程を含む、酸化物の製造方法、
[8] Cs及びRbの炭酸塩及び/又は硝酸塩を用いる、前項[7]に記載の製造方法、
[9] 実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下で焼成する工程を含む、前項[7]又は[8]に記載の製造方法、
[10] 実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下での焼成の前に、大気下で200℃〜420℃で前焼成する工程を含む、前項[9]に記載の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、NbとVを含有する酸化物であり、5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有するphase−i構造に類似したGTB構造を有する酸化物を生成させることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0016】
本発明に係るNbとVを含有する酸化物は、CuKα線をX線源として得られるX線回折図で回折角(2θ)が7.1±0.3°、22.4±0.5°の位置に回折ピークを持つGTB構造を有する酸化物である。本発明では、NbとVを含有する酸化物の例として、下記式(I)で示される組成を含有する酸化物を例示することができる。
Nb1abn(I)
式中、XはBi、Sbから選ばれる少なくとも一種の元素であり、a、bおよびnはNb1原子あたりの原子比を表し、a、bは各々0≦a<0.8、0.01≦b<0.8である。なお、式(I)において、Nb1原子あたりの原子比であるa及びbの値は、構成元素の仕込み組成を示し、nは構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。本発明の式(I)において、aは、好ましくは0.02≦a≦0.5、より好ましくは0.03≦a≦0.2である。bは、好ましくは0.02≦b≦0.5、より好ましくは0.03≦b≦0.2である。Xは好ましくはBiである。
【0017】
本発明の(I)式の組成に任意成分として、Cr、Mo、W、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、In、Ge、Sn、P、Pb、Y、Ga、希土類元素及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を添加してもよく、好ましくは、Mo、W、Ti、Al、Zr、Ge、Sn、Re、B、In、P、Y、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を添加することができる。添加量はNbのモル数に対して0.8未満であり、0.2未満が特に好ましい。
【0018】
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、本発明に係る酸化物の回折ピーク(回折角(2θ)の位置は、7.1±0.2°、22.4±0.3°が好ましく、7.1±0.1°、22.4±0.1°が特に好ましい。該酸化物は、9.0±0.5°の位置、4.8±0.5°の位置、6.3±0.5°の位置に回折ピークをもってもよい。9.0±0.3°の位置、4.8±0.3°の位置、6.3±0.3°の位置が好ましく、9.0±0.1°の位置、4.8±0.1°の位置、6.3±0.1°の位置が特に好ましい。該酸化物は、27.6±0.5°の位置、好ましくは27.6±0.3°の位置、より好ましくは27.6±0.1°の位置に回折ピークを持つ。該酸化物は、26.7±0.5°の位置、好ましくは26.7±0.3°の位置、特に好ましくは26.7±0.1°の位置に回折ピークを持つことが好ましい。また、該酸化物は、46.1±0.5°の位置、好ましくは46.1±0.3°の位置、より好ましくは46.1±0.1°の位置に回折ピークを持つ。
【0019】
ところで、本発明者らは、NbとVを含有し、還元型タングステンブロンズ構造を有する酸化物を、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリル、あるいは気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造するための触媒として用いると、比較的低い反応温度で、高活性で反応させることができ、さらに不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を高い選択率で製造することを見出している。この酸化物は、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、22.5±0.5°。28.4±0.5°、36.7±0.5°、46.3±0.6°にピークを持つ、層の面間隔(c軸を面ベクトルにとった場合(001))に相当する22.5±0.5°において強いピークを有することが特徴である。回折ピークをアサインメントした結果、Inorganic Crystal Database(ICSD)に収録されている番号1840(K.Kato, S.Tamura., Acta Crystal. B,31,673(1975))の構造を有する還元型タングステンブロンズ構造を有する酸化物である。
【0020】
このように、NbとVを含有し、タングステンブロンズ構造を有する酸化物は、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリル、あるいは気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造するために用いる触媒として有用であることから、NbとVを含有する触媒をより優れた触媒にするためには、触媒の構造制御、すなわち、タングステンブロンズ構造の一種であるphase−iと類似の構造を有し、phase−iと同様の5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有し、その配置の異なるGTB構造を有する酸化物、および該酸化物の製造技術が重要な課題となっている。
【0021】
本発明に係る酸化物は、担体に担持させてもよい。担体としては公知の担体を用いることができるが、好ましくはシリカである。シリカの重量は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20重量%〜50重量%である。シリカの重量%は、(I)式の酸化物の重量をW1、シリカの重量をW2として、下記の式(II)式で定義される。W1は、仕込み組成と仕込み金属成分の酸化数に基づいて算出された重量である。W2は、仕込み組成に基づいて算出された重量である。
シリカの重量%=100×W2/(W1+W2) (II)
【0022】
本発明に係る酸化物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、原料調合、乾燥および焼成の3つの工程を含む。
【0023】
本発明に係る酸化物は、Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をNb1原子に対して0.001〜0.5含有させることによって、本発明による酸化物の生成が促進され、好ましくは0.01〜0.3であり、より好ましくは0.05〜0.3であり、さらに好ましくは0.15〜0.25含有させる。好ましくは、上記元素は、好ましくはCsである。
【0024】
本発明に係る酸化物において、Cs、Rbが、7.1±0.5°、22.4±0.5の位置に回折ピークを持つ酸化物を生成させる理由は定かではないが、かかる元素が複雑なトンネル構造を形成させるテンプレートとして働き、結果として該位置に回折ピークを持つ酸化物を生成させると考えられる。
【0025】
本発明に係る酸化物を製造するための原料は下記の化合物を用いることができる。
Cs及びRbの原料としては、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、酸化物を用いることができるが、好ましくは炭酸塩、硝酸塩である。より好ましくは、炭酸セシウム、硝酸セシウムである。
【0026】
ニオブの原料としては、ニオブ酸、酸化ニオブ、二塩基酸にニオブ酸を溶解させた水溶液などを用いることができる。シュウ酸水溶液にニオブ酸を溶解させた水溶液を好適に用いることができる。シュウ酸/ニオブのモル比は1〜10であり、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である。得られた水溶液に過酸化水素を添加してもよい。過酸化水素/ニオブのモル比は好ましくは0.5〜10であり、より好ましくは2〜6である。
【0027】
バナジウム原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)、バナジウムのオキシ塩化物、バナジウムのアルコキシド等を用いることができ、好ましくはメタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)である。
【0028】
ビスマス原料としては、硝酸ビスマス・五水和物、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、炭酸酸化ビスマス、酢酸ビスマス、酢酸酸化ビスマス等を用いることができ、好ましくは硝酸ビスマスである。
【0029】
アンチモン原料としては、酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(IV)、酸化アンチモン(V)、メタアンチモン酸(III)、アンチモン酸(V)、アンチモン酸アンモニウム(V)、塩化アンチモン(III)、塩化酸化アンチモン(III)、硝酸酸化アンチモン(III)、アンチモンのアルコキシド、アンチモンの酒石酸塩等の有機酸塩、金属アンチモン等を用いることができ、好ましくは酸化アンチモン(III)、アンチモンの酒石酸塩である。
【0030】
本発明において、担体としてシリカを用いる場合は原料としてシリカゾルが好適に用いられる。
【0031】
任意成分の原料としては、シュウ酸塩、水酸化物、酸化物、硝酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩、アルコキシド等を用いることができる。
【0032】
本発明に係る酸化物の製造方法は、例えば、下記の原料調合、乾燥および焼成の3つの工程を含む、本発明による酸化物を製造することができる。
【0033】
<原料調合工程>
ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解してニオブ原料液を調製する。このときニオブ原料液に過酸化水素水を添加してもよい。硝酸ビスマスを硝酸水溶液に溶解させてビスマス原料液を調製する。メタバナジン酸アンモニウムを水に溶解させてバナジウム原料液を調製する。ニオブ原料液にバナジウム原料液を添加して、ついでビスマス原料液を添加し、触媒原料液を調製する。
Csを添加する場合は、上記調合順序のいずれかのステップにおいて、硝酸セシウムを添加して酸化物原料液を得ることができる。
任意成分を含む酸化物を製造する場合には、上記調合順序のいずれかのステップにおいて任意成分を含む原料を添加して酸化物原料液を得ることができる。
シリカ担持酸化物を製造する場合には、上記調合順序のいずれかのステップにおいてシリカゾルを添加して酸化物原料液を得ることができる。
【0034】
<乾燥工程>
原料調合工程で得られた酸化物原料液を噴霧乾燥法または蒸発乾固法によって乾燥させ、乾燥粉体を得ることができる。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式または高圧ノズル方式を採用することができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。このとき熱風の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましい。噴霧乾燥は簡便には100℃〜300℃に加熱された鉄板上へ酸化物原料液を噴霧することによって行うこともできる。
【0035】
<焼成工程>
乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成することによって酸化物を得ることができる。焼成は回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用い、実質的に酸素を含まない窒素等の不活性ガス雰囲気下、好ましくは、不活性ガスを流通させながら、500〜1000℃、好ましくは600〜950℃、より好ましくは800〜900℃で実施することができる。焼成時間は0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。不活性ガス中の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィー又は微量酸素分析計で測定して1000ppm以下、好ましくは、100ppm以下である。この焼成は反復することができる。この焼成の前に大気雰囲気下又は大気流通下で200℃〜420℃、好ましくは250℃〜350℃で10分〜5時間前焼成することができる。また、焼成の後に大気雰囲気下で200℃〜400℃、5分〜5時間、後焼成することもできる。
【0036】
このようにして製造された酸化物は、そのままあるいは後処理して、ブロンズ構造の用途として知られている用途、例えば、酸化反応の触媒、燃料電池用の触媒、導電性材料として用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に示す本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の実施例等に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
【0038】
[実施例1]
(酸化物の調製)
組成式が、Nb10.12Bi0.12Cs0.15nで示される酸化物を次のようにして調製した。
水2350gにNb25換算で76重量%を含有するニオブ酸200g、シュウ酸二水和物[H224・2H2O]389.5gを加え、攪拌下、60℃にて加熱して溶解させた後、30℃にて冷却してニオブ原料液を得た。
硝酸ビスマス・五水和物[Bi(NO33・5H2O]66.6gを10重量%硝酸水溶液200gに溶解させてビスマス原料液を得た。
メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]16.1gを5重量%過酸化水素水211gに溶解させてバナジウム原料液を得た。
硝酸セシウム[CsNO3]33.4gを400gの水に溶解させてセシウム原料液を得た。
ニオブ原料液にバナジウム原料液を添加し、ついでビスマス原料液を添加し、ついでセシウム原料液を添加し30分間攪拌して酸化物原料液を得た。
得られた酸化物原料液を遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度230℃と出口温度120℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体10gを250℃で2時間空気中で前焼成したのち、石英容器に充填し、350Ncc/min.の窒素ガス流通下、900℃で2時間焼成して酸化物触媒を得た。
【0039】
<X線回折測定>
マックサイエンス(株)製MXP−18型X線回折装置を用いてX線回折の測定を行った。試料の調製方法とX線回折の条件は以下の通りである。
【0040】
(試料の調製)
酸化物約0.5gをメノウ乳鉢にとり、メノウ乳棒を用いて2分間手でに粉砕した後に分級し、粒子径53μm以下の触媒粉末を得た。得られた触媒粉末を、XRD測定用の試料台の表面にある窪み(長さ20mm、幅16mmの長方形状、深さ0.2mm)に乗せ、平板状のステンレス製スパチュラを用いて押しつけて、表面を平らにした。
【0041】
(測定条件)X線回折図は以下の条件で得た。
X線源 :CuKα1+CuKα2、
検出器 :シンチレーションカウンター、
分光結晶 :グラファイト、
管電圧 :40kV、
管電流 :190mA、
発散スリット :1°、
散乱スリット :1°、
受光スリット :0.3mm、
スキャン速度 :1°/分、
サンプリング幅:0.02°、
スキャン法 :2θ/θ法。
【0042】
(XRDの測定結果)
X線回折図には、7.1°、22.4°の位置のピークに加えて、4.8°、6.3°、9.0°、26.6°、27.6°、46.1°の位置にピークを有していた。
【0043】
ところで、Inorganic Crystal Structure Database(ICSD)エントリー67738に記載の結晶構造を、解析により粉末X線回折パターンを求めたところ(計算に用いたソフトウエアはアクセルリス社のCerius2)、タングステンブロンズ構造に共通である層の面間隔(c軸を面ベクトルにとった場合(001))に相当する22.5付近に最も強いピークを有することにくわえて、7.1付近にピークを有した。この7.1付近にピークは、ゲートハウスタングステンブロンズ構造をとったときに出現するピークであることは当業者には容易に理解できる。
【0044】
以上のことから、本発明による実施例1で得られた酸化物のX線回折ピークの結果から、本発明の実施例1で得られた酸化物は、ゲートハウスタングステンブロンズ構造として帰属された。
【0045】
[実施例2]
(酸化物の調製)
実施例1の酸化物の調製において、250℃で2時間空気中で前焼成に代えて、330℃で2時間空気中で前焼成を行ったこと、900℃で2時間焼成に代えて、800℃で2時間焼成した以外は実施例1の酸化物の調製を反復して、組成式がNb10.12Bi0.12Cs0.15nで示される酸化物を調製した。
【0046】
(XRDの測定結果)
X線回折図には22.4°、28.4°、36.7°、46.1°付近の位置にピークに加えて、4.8°、6.3°、7.1°、9.0°、27.6°の位置にピークを有していた。回折ピークをアサインメントした結果、ゲートハウスタングステンブロンズ構造と同型な構造を含む酸化物であった。
【0047】
[実施例3]
(酸化物の調製)
硝酸セシウム〔CsNO3 〕33.4gに代えて、55.7gを用いた以外は実施例1の酸化物の調製を反復して、組成式がNb10.12Bi0.12Cs0.25nで示される酸化物を調製した。
【0048】
(XRDの測定結果)
X線回折図には22.4°、28.4°、36.7°、46.1°付近の位置にピークに加えて、4.8°、6.3°、7.1°、9.0°、27.6°の位置にピークを有していた。回折ピークをアサインメントした結果、ゲートハウスタングステンブロンズ構造と同型な構造を含む酸化物であった。
【0049】
[実施例4]
(酸化物の調製)
実施例3の酸化物の調製において、250℃で2時間空気中で前焼成に代えて、330℃で2時間空気中で前焼成を行ったこと、900℃で2時間焼成に代えて、800℃で2時間焼成した以外は実施例3の酸化物の調製を反復して、組成式がNb10.12Bi0.12Cs0.25nで示される酸化物を調製した。
【0050】
(XRDの測定結果)
X線回折図には22.4°、28.4°、36.7°、46.1°付近の位置にピークに加えて、4.8°、6.3°、7.1°、9.0°、27.6°の位置にピークを有していた。回折ピークをアサインメントした結果、ゲートハウスタングステンブロンズ構造と同型な構造を含む酸化物であった。
【0051】
以上の結果より、NbとVを含有する酸化物であって、5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有するphase−i構造に類似構造であるGTB構造を有する酸化物を生成させることが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により得られるGTB構造を有する酸化物は、5中心、6中心、7中心のトンネル構造を有するタングステンブロンズ構造を有する酸化物が用いられる用途に利用できる。例えば、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造する際の触媒として利用が考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NbとVを含有する酸化物において、CuKα線をX線源として得られるX線回折図で回折角(2θ)が7.1±0.3°、22.4±0.5°の位置に回折ピークを持つ、酸化物。
【請求項2】
NbとVを含有する酸化物が、下記式(I)で示される組成を含有する、
Nb1abn(I)
(式中、XはBi、Sbから選ばれる少なくとも一種の元素であり、a、bおよびnはNb1原子あたりの原子比を表し、a、bは各々0≦a<0.8、0.01≦b<0.8であり、nは構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
請求項1に記載の酸化物。
【請求項3】
9.0±0.5°の位置に回折ピークをさらに持つ、請求項1又は2に記載の酸化物。
【請求項4】
4.8±0.5°の位置に回折ピークをさらに持つ、請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の酸化物。
【請求項5】
6.3±0.5°の位置に回折ピークをさらに持つ、請求項1ないし4のうち何れか一項に記載の酸化物。
【請求項6】
Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をNb1原子に対して、0.001〜0.5含有する、請求項1ないし5のうち何れか一項に記載の酸化物。
【請求項7】
請求項1ないし6のうち何れか一項に記載の酸化物を製造する方法であって、
Cs及びRbから選ばれる少なくとも1種の元素をNb1原子に対して、0.001〜0.5添加する工程を含む、酸化物の製造方法。
【請求項8】
Cs及びRbの炭酸塩及び/又は硝酸塩を用いる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下で焼成する工程を含む、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下での焼成の前に、大気下で200℃〜420℃で前焼成する工程を含む、請求項9に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−326737(P2007−326737A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158908(P2006−158908)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】