説明

PAS系樹脂組成物およびエンジン冷却系部品

【課題】耐冷却水性、高温機械強度物性にすぐれ、耐衝撃性も備え、薄肉でも耐久性を有する自動車用エンジン冷却系部品およびこれを構成するPAS系樹脂組成物を得る。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)30〜55重量部と、繊維径10μm以下のガラス繊維(C)160〜200重量部とを含有したPAS系樹脂組成物。上記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、ASTM D1238−86による316℃、5000g荷重下におけるメルトフローレートが300〜15000g/10分であることが好ましい。充填材を0.1〜50重量部を含有することが好ましく、ASTM D790における曲げ弾性率が10000MPa以上であることが好ましい。上記のPAS系樹脂組成物を成形してエンジン冷却系部品とする。









【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジンの冷却系部品およびこれを構成するPAS系樹脂組成物に関し、耐冷却水分解性、高温機械強度物性にすぐれ耐衝撃性も備えたエンジン冷却系部品が得られるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車部品であるエンジン冷却系部品には、軽量性及び加工性の良さ等を考慮して、熱可塑性樹脂が使用されている。熱可塑性樹脂をこの冷却系部品に使用するためには、耐衝撃性、耐薬品性及び耐熱水性が要求される。
エンジン冷却系部品の使用環境は、内部にグリコール類を主成分とする冷却水が流れ、これが高温高圧になるため、過酷な環境となる。例えば、エンジンの冷却のために使用する冷却水は、定常状態では85℃付近で循環しているが、エンジン停止時には瞬間的には130℃付近にまで液温が上昇し、内圧は0.15MPa程度に達する。また、エンジンルーム内も高温になり外表面も100℃程度に加熱される。従って、エンジン冷却系部品に使用する熱可塑性樹脂は高温での冷却水に耐えるために耐薬品性、とくに耐熱薬品性が必要となる。
【0003】
また、ボンネットを開ければ露出した状態になるので、メンテナンスなどで衝撃荷重を受けることもあり、衝撃等による破壊に対して安全性を向上させるために耐衝撃性も必要である。
【0004】
現在エンジン冷却系部品に使用されている材料は、ポリアミド(以下、PAと記す。)系樹脂であり、通常ガラス繊維(以下、GFと記す。)で強化して使用されている。しかし、このGF強化PA樹脂は耐熱性には優れているが、冷却水液を吸収して強度が低下するという欠点がある。また、今後はエンジンの高性能化等が進み、更に冷却水の液温が上昇する傾向にあるため、現在使用されているPA樹脂を上廻る長期安定性を有する材料が要求されている。
【0005】
また、寒冷地域の一部では、道路凍結防止剤として塩化カルシウムが使用されているが、PA樹脂からなるエンジン冷却系部品は、条件により塩化カルシウムに起因するクラックを生じる場合もある。このため、PA612やPA610を複合した材料も使用されているが、耐冷却水性は充分でない。
このような事情のため、自動車エンジン冷却系部品の耐久性を確保するため、従来のPA系樹脂からなるエンジン冷却系部品では、その肉厚を3mm以上に厚肉とすることで対応してきた。
【特許文献1】特開2003−261687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明の課題は、以下に示すような耐熱薬品性、耐衝撃性及び機械的強度に優れたエンジン冷却系部品およびこれを構成するPAS系樹脂組成物を提供することにある。
130℃の50%冷却水に500時間以上浸漬後の引張り強度が100MPa以上であり、
170℃の50%冷却水に24時間浸漬した成形品について、クラックの発生や溶解が無く、3.0mm厚の平板状成形品に先端曲率半径が1/4インチの撃芯をあて、1kg錘を落下させたときに、該錘の落下距離が130mmで破損せず、
塩化カルシウムクラックが発生せず、
130℃、内圧123kPa、50%冷却水内密にて、1000時間以上耐圧容器として機能すること。
なお、前記50%冷却水とは、自動車用ロングライフクーラントの50容量%希釈液である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため、検討を重ね、以下の知見を得た。
(1)ポリアリーレンスルフィド(以下PASと略す)樹脂は、PA系樹脂と比較して、高温の冷却水の吸水が起きにくく、PA系樹脂を用いた場合よりも耐熱薬品性が向上する。
(2)PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを溶融混練し、更に、GFで強化したPAS系樹脂組成物でエンジン冷却系部品を成形すると、耐熱性と機械的強度に優れる。
本発明は、このような知見に基づくものである。
【0008】
請求項1にかかる発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)30〜55重量部と、繊維径10μm以下のガラス繊維(C)160〜200重量部とを含有したPAS系樹脂組成物である。
請求項2にかかる発明は、上記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、ASTM D1238−86による316℃、5000g荷重下(オリフィス:0.0825±0.002インチ径×0.315±0.001インチ長さ)におけるメルトフローレートが300〜15000g/10分である請求項1記載のPAS系樹脂組成物である。
【0009】
請求項3にかかる発明は、さらに、ポリアリレーンスルフィド樹脂100重量部に対して充填材0.1〜50重量部を含有する請求項1または2記載のPAS系樹脂組成物である。
請求項4にかかる発明は、ASTM D790における曲げ弾性率が10000MPa以上である請求項1ないし3のいずれかに記載のPAS系樹脂組成物である。
請求項5にかかる発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のPAS系樹脂組成物を成形してなるエンジン冷却系部品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、耐熱薬品性、耐衝撃性及び機械的強度に優れたエンジン冷却系部品を得ることができる。また、従来の製品と比較して薄肉化が可能であり、20%近く軽量化することが可能である。さらに、冷却水劣化に起因する耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のPAS系樹脂組成物は、PAS樹脂(A)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)30〜55重量部と、繊維径10μm以下のガラス繊維(以下、GFと略記することがある)(C)160〜200重量部とを含有した樹脂組成物である。
前記PAS系樹脂組成物に用いるPAS樹脂(A)とは芳香環を硫黄原子で結合した構造を主鎖に持つポリマーを総称するものである。
【0012】
前記PAS樹脂(A)としては、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する、いわゆるポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略記する。)であることが、得られるエンジン冷却系部品の耐熱性、機械特性及び耐薬品性の点から好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
前記PAS樹脂(A)には、必要に応じて、他の共重合体構成単位を含有させることができる。このとき含有可能な共重合体構成単位の具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、下記構造式(2)〜(8)で表されるものが挙げられる。
【0015】
【化2】

【0016】
本発明で用いるPAS樹脂(A)としては、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を70モル%以上含有するPPS樹脂であることが、耐熱性、機械特性及び耐薬品性に優れたポリマーとしての特徴が発揮されやすいため好ましい。
【0017】
また、前記一般式(8)のような結合基が3個、またはそれ以上有する芳香環を含有するPAS樹脂(A)を用いた場合には、成形時におけるPAS系樹脂組成物の溶融粘度が高いため、該組成物の流動性を阻害しやすくなる。これを防ぐためにはこのタイプの構造はPAS樹脂(A)中、5モル%以下であることが好ましく、特に3モル%以下であることが好ましい。
【0018】
前記PPS樹脂の製造方法としては、特に制限されるものではなく、例えば以下の方法で製造出来る。
(i)ジハロゲン芳香族化合物類を硫黄と炭酸ソーダの存在下に重合させる方法。
(ii)ジハロゲン芳香族化合物類を極性溶媒中でスルフィド化剤の存在下に重合させる方法。
(iii)P−クロルチオフェノールを自己縮合させる方法。
(iv)有機極性溶媒とジハロゲン芳香族化合物を混合し加熱しておき、その中に含水スルフィド化剤を反応混合物中の水分量が有機極性溶媒の2〜50モル%の範囲内になる様な速度で加えジハロゲン芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させる方法。
その他、各種方法が有り、どの方法で得られたPAS樹脂でも使用することができる。
【0019】
本発明に使用するPAS樹脂(A)としては、ASTM D1238−86による316℃、5000g荷重下(オリフィス:0.0825±0.002インチ径×0.315±0.001インチ長さ)におけるメルトフローレートが300〜15000g/10分、特に好ましくは400〜3000g/10分であるものが成形性が良好となって好ましい。
さらに、使用するPAS樹脂(A)の形態としては特に制限はなく、ペレットのような粒状でもあるいは粉状でもよい。
【0020】
ただし、メルトフローレート値が小さすぎる場合は、成形時における樹脂組成物の粘度が高いため、該組成物の流動性を阻害しやすくなり、成形不良などの問題が発生する可能性があるので、下限を300g/10分とした。
【0021】
また、前記PSA系組成物には、耐衝撃性の改良のために熱可塑性エラストマー(B)が加えられる。該熱可塑性エラストマー(B)としては、PAS樹脂(A)を混練する際の温度で溶融し、混合分散出来ることが好ましく、そのため融点が280℃以下であり室温でゴム弾性を有するエラストマーであることが好ましい。
【0022】
特に、得られる成形品が0℃や−15℃の低温下でも耐衝撃性を発現するために、熱可塑性エラストマー(B)のガラス転移温度は−25℃以下であることが好ましい。
【0023】
また、特にPAS樹脂(A)との混合が容易であり、得られる成形品の耐衝撃性の向上が顕著である点で、ポリオレフィン系エラストマーを用いることが好ましく、α−オレフィン類の共重合体、α−オレフィン類とα、β―不飽和カルボン酸のエステル類との共重合体、α−オレフィン類とカルボン酸の不飽和エステルとの共重合体等が挙げられ、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0024】
さらに、熱可塑性エラストマー(B)としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、及びビニル基などの官能基を有するものが好ましく、特に化学的に結合したカルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基の何れか1個以上の官能基を有するエラストマーであることがPAS樹脂との分散性が良好になり、均一混合されたPAS系樹脂組成物を得ることが容易で、かつ得られるエンジン冷却系部品の耐衝撃性などが向上する点から好ましい。
【0025】
これらの官能基を有するエラストマーとしては、例えば、熱可塑性エラストマー(B)を製造する際の共重合成分として所望の官能基を有するモノマーを併用することによって得ることができ、例えば、エチレンとアクリル酸メチル、アクリル酸グリシジルエステルの共重合体等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマー(B)と所望の官能基を有する化合物とを反応せしめて得ることもでき、例えば、エチレン−ブテン共重合体と無水マレイン酸とを過酸化物等の存在下で溶融混練して得られる酸変性エチレン−ブテン共重合体等が挙げられる。
【0026】
また、これらの官能基類を複数個、同時に含有するものでもよく、例えば、α−オレフィン類、無水マレイン酸、アクリル酸グリシジルの三元共重合体等が挙げられる。
【0027】
熱可塑性エラストマー(B)の添加量としては、耐冷却水性、高温機械強度物性および耐衝撃性から、PAS樹脂(A)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)が30〜55重量部とされ、特に40〜50重量部であることが好ましい。熱可塑性エラストマーの配合量が30重量部未満となると、耐衝撃性が不満足となり、55重量部を越えると耐圧性が不満足となる。
【0028】
本発明に使用する繊維径10μm以下のガラス繊維(C)は、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物またはポリマーで表面処理又は収束処理を施していることが好ましい。これらの化合物はあらかじめ表面処理又は収束処理を施して用いるか、または材料調製の際同時に添加してもよい。
【0029】
本発明における繊維径10μm以下のGF(C)の添加量は、PAS樹脂(A)100重量部に対して、160〜200重量部であることが必要である。前記GFの添加量が160重量部未満である場合は、PAS系樹脂組成物の弾性率が低いため、加熱加圧時に成形品が変形するなどの問題が発生する可能性があるので好ましくない。
【0030】
また、GFの添加量が200重量部を越えると、成形時におけるPAS系樹脂組成物の溶融粘度が高いため、該組成物の流動性を阻害しやすくなり、成形不良などの問題が発生する可能性があるので好ましくない。
【0031】
また、本発明のPSA系樹脂組成物には、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、充填材を添加しても差し支えない。充填材としては、粉粒状、平板状、鱗片状、針状、球状、または中空状および繊維状が挙げられる。具体的には、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム、クレー、タルク、アルミナ、珪砂、ガラス粉、金属粉、グラファイト、炭化珪素、窒化珪素、シリカ、窒化硼素、窒化アルミニウム、カーボンブラックなどの粉状充填材、雲母、ガラス板、セリサイト、アルミフレークなどの金属箔、黒鉛などの平板状もしくは鱗片状充填材、シラスバルーン、金属バルーン、ガラスバルーンなどの中空状充填材、GF、炭素繊維、グラファイト繊維、ウィスカー、金属繊維、アスベスト、ウォラストナイト等の無機繊維状充填材、芳香族ポリアミド繊維等の有機繊維状充填材を挙げることができる。
【0032】
これらの充填材は、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物またはポリマーであらかじめ表面処理または収束処理を施して用いるか、または材料調整の際同時に添加してもよい。
【0033】
本発明において、必要に応じ、弾性率を向上させるなどの目的で、前記充填材を添加する場合の添加量は、PAS樹脂(A)100重量部に対して、充填材0.1重量部以上が好ましく、耐衝撃性が良好であることから50重量部以下であることが好ましい。
【0034】
また、本発明の組成物には、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、即ち可塑剤、少量の離型剤、滑剤、耐熱安定剤、耐候性安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、着色剤、結晶化促進剤、核剤等を添加してもよい。
【0035】
また、本発明のPAS系樹脂組成物は、ASTM D790における曲げ弾性率が10000MPa以上であることが好ましい。これは、PAS系樹脂組成物の弾性率が10000MPa未満であると、加熱加圧時にエンジン冷却系部品が変形するなどの問題が発生する可能性があるためである。
【0036】
本発明のエンジン冷却系部品は、上述のPAS系樹脂組成物を成形して得られた部品である。これの成形には、射出成形、押出成形などの周知の成形方法を採用することができる。また、ここでのエンジン冷却系部品とは、内部にエンジン冷却用の冷却水が流れ、外気と冷却水とを隔てるための隔壁をなす部品を言う。このエンジン冷却系部品は、他の材料との複合化や、接着、カシメ等により、他材料と合わせて、またその一部として使用することもでき、その使用形態としては限定されない。
本発明のエンジン冷却系部品は、特に、耐熱薬品性、耐熱性及び機械的強度に優れたものとなる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例により、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0038】
測定方法と評価方法及び評価基準は、以下の通りである。
メルトフローレート:ASTM D1238−86に準じ、316±1℃、5000g荷重(オリフィス:0.0825±0.002インチ径×0.315±0.001インチ長さ)にて行った。
【0039】
曲げ弾性率:ASTM D790に準じ、曲げ弾性率を測定した。測定温度は23℃。
【0040】
耐冷却水性(1):130℃の50%冷却水に500時間浸漬後、ASTM D638に従って引張り強度を測定した。測定温度は23℃。
【0041】
耐冷却水性(2):170℃の50%冷却水に24時間浸漬した成形品について、外観を観察した。クラック発生や溶解がみられた場合を×、クラック発生や溶解がみられなかった場合を○とした。
【0042】
耐衝撃性:図1に示す構造のデュポン式衝撃試験器を使用した。厚さ3mmの平板状試験片1を外径45mm、肉厚2mmの真鍮製円筒2上に置き、試験片1上に先端の曲率半径が1/4インチのステンレス鋼製撃芯3を置く。そして、撃芯3上に重量1kgの錘4を落下させ、試験片1が破損しない最大高さを測定した。
【0043】
耐塩化カルシウム性:樹脂平板から厚さ3mm、長さ120mm、幅20mmの短冊状の試験片を切り出し、これを(1)ビーカーに入れた水に浸漬し、100℃の恒温槽に12時間以上入れる(途中、水の蒸発により試験片が乾燥しないようにする)。(2)そして、図2に示すように、取り出した試験片13を試験冶具11の柱12にその一端を固定して取り付け、他端に重さ500gの錘14を固定し、この状態で30wt%塩化カルシウム水溶液を噴霧器15から霧状に吹き付ける。(3)この状態で80℃で2時間乾燥させる。
(4)上記(1)から(3)の操作を5回繰り返す。
試験片にクラックが発生した場合を×、クラックが発生しなかった場合を○とした。
【0044】
耐圧性:130℃、内圧123kPaで50%冷却水内密にて、1200時間経過後、外観を観察した。クラックが発生した場合を×、クラックが発生しなかった場合を○、クラックを発生しなくとも変形が発生した場合を△とした。
【0045】
実施例、比較例で用いたPAS樹脂(A)、熱可塑性エラストマー(B)、繊維径10μm以下のGF(C)の具体的な材料は以下の通りである。
(A)PPS1(メルトフローレート;250g/10分)
PPS2(メルトフローレート;450g/10分)
PPS3(メルトフローレート;2800g/10分)
PPS4(メルトフローレート;14000g/10分)
PPS5(メルトフローレート;17000g/10分)
(B)ELA1 エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体
ELA2 無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体
(C)GF1 繊維径10μm以下のGF
GF2 繊維径13μm以下のGF
(D)PA1 東レ株式会社製 アミランCM3006G−30(GF30%強化PA66)
【0046】
PAS系樹脂組成物の調製および成形
表1〜2の配合にて原料を均一に混合し、35mm径の2軸押出機を用いて290〜330℃で溶融混練押出しして、ペレット化した。次いで、得られたペレットを射出成形機により各試験に必要な成形品を成形した。
【0047】
実施例1〜7
表1に示す如く、本発明範囲内のPAS系樹脂組成物を調製・成形し、前記試験を行った。
比較例1〜10
表2および表3に示す如く、本発明範囲外の樹脂組成物、あるいは本発明に必須の成分を含有しない樹脂組成物を調製・成形し、前記試験を行った。
結果を表1、2、3に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
本発明範囲内のPAS系樹脂組成物である実施例1〜7の成形品においては、いずれの場合も曲げ弾性率、耐冷却水性、耐衝撃性、耐塩化カルシウム性、耐圧性に優れているものであることを確認した。
【0052】
一方、従来主に使用されてきたGF強化PA樹脂である比較例1では、曲げ弾性率、耐冷却水性、耐衝撃性、耐塩化カルシウム性、耐圧性ともに要求性能を満足しない。また、高粘度のPPS樹脂を用いた比較例2では成形時の流動性が不足し、エンジン冷却系部品を成形することは困難である。低粘度のPPS樹脂を用いた比較例3や熱可塑性エラストマーの配合量を減らした比較例4では、耐衝撃性が著しく劣る。熱可塑性エラストマーの配合量を増やした比較例5では、耐圧性が満足できない。比較例2は、成形時の流動性が不足し、耐圧性評価用の試験片を成形できなかった。
【0053】
また、GFの配合量を減らした比較例7では、耐衝撃性が著しく劣り、耐圧性が満足できない。さらにGFの配合量を大きく減らした比較例6では、曲げ弾性率が満足できるレベルではなく、耐圧性が満足できない。GFの配合量を増やした比較例8では、耐衝撃性が劣る。更に、繊維径13μmのGFを用いた比較例9では、耐衝撃性が満足できるレベルではない。熱可塑性エラストマーを用いない比較例10では、耐衝撃性が著しく劣る。GFを用いない比較例11では、耐冷却水性(引張り強度)が満足できるレベルではなく、曲げ弾性率や耐衝撃性、耐圧性でも著しく劣ることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例における耐衝撃性試験に用いられた試験器を示す概略構成図である。
【図2】実施例における耐塩化カルシウム性試験に用いられた試験器を示す概略構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)30〜55重量部と、繊維径10μm以下のガラス繊維(C)160〜200重量部とを含有したPAS系樹脂組成物。
【請求項2】
上記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、ASTM D1238−86による316℃、5000g荷重下(オリフィス:0.0825±0.002インチ径×0.315±0.001インチ長さ)におけるメルトフローレートが300〜15000g/10分である請求項1記載のPAS系樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、ポリアリレーンスルフィド樹脂100重量部に対して充填材0.1〜50重量部を含有する請求項1または2記載のPAS系樹脂組成物。
【請求項4】
ASTM D790における曲げ弾性率が10000MPa以上である請求項1ないし3のいずれかに記載のPAS系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のPAS系樹脂組成物を成形してなるエンジン冷却系部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−36833(P2006−36833A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215437(P2004−215437)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】