説明

PCB汚染機器無害化施設の浄化方法

【課題】PCB汚染機器無害化施設を効率良く浄化すること。
【解決手段】PCBを含んだ空気に曝露されたPCB汚染機器無害化施設の壁面に液体塗料で塗膜を形成させ、該塗膜を硬化させた後に剥離することによって前記壁面に付着しているPCBを前記塗膜に付着させて除去することを特徴とするPCB汚染機器無害化施設の浄化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB汚染機器無害化施設の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、安定性、不燃性、電気絶縁性に優れていることから、過去においてコンデンサやトランス等の電気機器の絶縁油に多用されていたが、後に、その難分解性と毒性とが明らかとなり現在では使用が禁じられている。
そして、その使用を規制するとともにPCBを含有する絶縁油が既に含まれているコンデンサやトランス等の機器(以下「PCB汚染機器」ともいう)については回収措置がとられて下記特許文献1に示されているように管理区域が設けられた特別な施設において無害化処理がなされている。
このようなPCB汚染機器無害化施設の前記管理区域においては、PCB汚染機器からPCB含有絶縁油を抜油したり、PCB汚染機器を解体処理するような工程が実施されるために、空気中に低濃度ながらもPCBを含有させており、該管理区域から屋外への排気は、活性炭フィルターを通じて行われたりしている。
【0003】
ところで、コンデンサやトランス等のPCB汚染機器は、これまでの無害化処理によって処理対象数を大きく減少させており、今後は、PCB汚染機器の無害化処理をどのように終結させるかが新たなる課題となる。
例えば、PCB汚染機器の無害化処理が終了した時点においては、PCB汚染機器からのPCB含有絶縁油の抜油に利用される装置や、PCB汚染機器を解体する装置などのPCBがある程度付着している装置の無害化処理を実施する必要がある。
また、これらの設備が設置されているPCB汚染機器無害化施設の建物そのものを最終的には無害化処理する必要が生じる。
例えば、前記管理区域の間仕切壁、床、天井などは、PCBを含んだ空気に長期に渡って曝露され続けているために、その壁面からある程度の深さに達するまでの間に処理を要する濃度以上にPCBが浸透しているおそれを有する。
しかし、このような壁面からPCBを除去してPCB汚染機器無害化施設を浄化することについては殆ど検討されている事例がなく、有効な方法が確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−035044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑み、効率良くPCB汚染機器無害化施設を浄化することができるPCB汚染機器無害化施設の浄化方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのPCB汚染機器無害化施設の浄化方法に係る本発明は、PCBを含んだ空気に曝露されたPCB汚染機器無害化施設の壁面に液体塗料で塗膜を形成させ、該塗膜を硬化させた後に剥離することによって前記壁面に付着しているPCBを前記塗膜に付着させて除去することを特徴としている。
【0007】
なお、本明細書中における“塗膜を剥離する”等の表現は、壁面との界面から塗膜を剥離する場合のみを意図しているものではなく、壁や床の表面部分を塗膜に付着させた状態で該塗膜を壁や床などから剥離するような場合をも包含する意図で用いている。
【発明の効果】
【0008】
PCB汚染機器の無害化処理が行われる施設の間仕切壁、床、天井は、種々の素材で形成されており、例えば、表面平滑な金属板などで形成されているようであれば洗浄剤を含浸させた布帛などで表面付着しているPCBを拭き取り除去することが容易に実施し得るものの一般的なコンクリートや軽量気泡コンクリート(ALC)などのように表面に微細な凹凸が形成されているもので壁面が形成されている場合には微細な凹入部分にまでPCBの除去効果を発揮させることは困難である。
一方で本発明においては、液体塗料を用いることから壁面への追従性に優れた塗膜を形成させることができる。
そして、この塗膜を硬化させた後に剥離することによって壁面に付着しているPCBを前記塗膜に付着させて除去することから微細な凹入部分にまでPCBの除去効果を発揮させ得る。
【0009】
なお、上記のような場合において、塗膜を形成させることなく所謂“削(はつ)り”と呼ばれる作業を行ってALC等の表面の一部を除去しようとするとPCBを含んだ微細な粉塵を大量発生させてしまい、壁面に固定されているPCBを拡散させてしまう結果、かえって多大な手間を要するおそれがある。
一方で、本発明のごとく、塗膜を形成させた上であれば、“削り”作業を実施しても、塗膜によってALCの破片が細かく散らばることが防止され、粉塵の発生が抑制され得る。
従って、本発明は、このような点においても効率的なPCB除去が実施可能なものであるといえる。
即ち、本発明によれば効率的にPCB汚染機器無害化施設を浄化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
本実施形態に係るPCB汚染機器無害化施設の浄化方法においては、PCBを含んだ空気に曝露されたPCB汚染機器無害化施設の壁面に液体塗料で塗膜を形成させる塗膜形成工程、該塗膜を硬化させる硬化工程、該硬化した塗膜を剥離する剥離工程を実施し、該剥離工程において前記壁面に付着しているPCBの除去を実施する。
【0011】
なお、PCB汚染機器無害化施設を構成している浄化対処物としては、例えば、日常的にPCBを含んだ空気に曝露されている作業室の間仕切壁、床、天井等が挙げられるが、以下には、コンクリート製の間仕切壁の浄化を行う場合を例に挙げて各工程について説明する。
【0012】
(塗膜形成工程)
当該塗膜形成工程において前記間仕切壁の壁面に塗布する塗料としては、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、ポリウレタン系塗料などが採用可能である。
また、前記塗料は、水系溶媒によってポリマー成分が希釈されている水系塗料であっても有機溶媒によってポリマー成分が希釈されている有機溶媒系のものであってもよい。
この塗料として、水系の塗料を採用すると、塗膜形成作業の作業環境を有機溶媒系の塗料を用いる場合に比べてクリーンなものとすることができる。
一方で、有機溶媒系の塗料を用いると、塗料に含まれている有機溶媒によって壁面よりも内部に浸透しているPCBを表面側に抽出させる作用を期待することができる。
【0013】
なお、本実施形態においては、後段において詳述するが、間仕切壁の表面部を削って壁面を塗膜側に付着させた状態で該塗膜を間仕切壁から剥離する剥離工程を実施する。
この間仕切壁の削(はつ)りは、塗膜の上から打撃を与えることによって実施させるため、打撃力の伝達性に優れた硬質な塗膜を形成させることが好ましく、前記のような塗料の中でも比較的硬質な塗膜を形成させることができるエポキシ樹脂系塗料を採用することが好ましい。
【0014】
また、用いる塗料としては、その塗布領域を把握することができるように壁面とは異なる色合いに着色されていることが好ましい。
このようにして塗料を壁面とは異なる色合いに着色しておくことにより、後段の剥離工程において間仕切壁の表面部を削った結果、多くのコンクリート片を発生させた場合でも、どのコンクリート片が間仕切壁の壁面を形成していたかが色合いの異なる塗膜の付着によって把握することができ、PCB濃度の高いコンクリート片を容易に把握することができるという効果も発揮される。
【0015】
この塗料によって形成させる塗膜は、ある程度の厚みを有していないと剥離が困難となる一方で、過度に厚みを厚くしても硬化に要する時間を長期化させるおそれを有する。
このようなことから、用いる塗料の材質にもよるが、形成させる塗膜の乾燥厚みは、通常、0.2mm〜2mm程度とされる。
【0016】
なお、塗料の粘度が低いと上記のような厚みを確保することが困難になる一方で過度に粘度が高いと壁面に対する濡れ広がりが不十分になって、壁面の凹凸への追従が不十分になるおそれを有する。
このようなことから、塗料は施工時に粘性を有していれば良く、塗料の粘度は、例えば40℃の状態で1Pa・s以下、更には、0.01Pa・s〜0.1Pa・s程度とされる。
なお、ここでいう粘度とは、回転粘度計などの非ニュートン流体用の粘度計によって測定されるものを意図している。
【0017】
この塗料の間仕切壁への塗布方法としては、ローラー塗布、はけ塗り、スプレー塗布等といった一般的な方法を採用することができる。
【0018】
(硬化工程)
前記塗膜形成工程において形成させた塗膜は、要すれば、輻射加熱が可能なヒーターや温風ヒーターなどを用いて硬化促進を図ってもよく、硬化塗膜が形成されるまでの間、室温のままにしておき、単に一定の硬化期間を設けるようにしてもよい。
また、要すれば、この硬化工程を実施して、塗膜を硬化させた後で、再び塗料を重ね塗りして塗膜の厚膜化を図ってもよい。
さらには、硬化した塗膜の上に、粘着シートを貼り付けるなどして後段における剥離工程でのコンクリート片の飛散抑制を図るようにしてもよい。
【0019】
(剥離工程)
前記のように本実施形態においては、間仕切壁の表面を削る形で剥離工程を実施する。
即ち、本実施形態においては、硬化させた塗膜を間仕切壁の表面部とともに間仕切壁から剥離する工程を実施し、この間仕切壁の壁面に付着しているPCBから内部に浸透しているPCBまでをも塗膜に付着させた形で除去させる。
このような態様による剥離工程は、チゼルやロッドを装着させたチッパーなどの工事用具を用いて実施することができる。
なお、そのような場合には、微細なコンクリート片を周囲に飛散させないように、例えば、間仕切壁から1〜2m離れた位置において対向するように工事用シートなどのシート材を配置し、その間に作業員を配して剥離工程を実施させることが好ましい。
【0020】
なお、この剥離工程においては、過度に深い位置まで間仕切壁の表面部を削ると、処理対象物の量を必要以上に増大させることになるため、コンクリートやモルタルなどであれば、通常、平均して5mm〜10mm深さまで削るようにすればよい。
【0021】
この剥離工程後、間仕切壁からPCBが十分除去され、当該間仕切壁が十分に浄化されているかどうかは、剥離させた後の部材について、部材採取試験法によりPCB濃度を測定し、0.01mg/kg以下であることにより確認する。
といった方法で確認することができる。
なお、剥離工程で得られる塗膜とコンクリートとを混在させた処理対象物は、プラズマ溶解炉などを利用して含有するPCBを熱分解させるとともにスラグ化して無害化させればよい。
【0022】
本実施形態に係るPCB汚染機器無害化施設の浄化方法は、必ずしも、PCB汚染機器無害化施設全体を取り壊す場合においてのみ実施されるものではなく、設備レイアウトの変更に伴って管理区域を変更したりするような場合においても実施が可能なものである。
即ち、削った部分を新たなコンクリートで埋め戻してこの間仕切壁で仕切られている部屋を非管理区域として改めて利用することもでき、逆に、非管理区域であった部屋と管理区域であった部屋との間の間仕切壁を取り除いて2部屋続きの状態にして新たに利用するのに際して、この間仕切壁から一旦PCBに汚染されている部分を取り除く場合においても本発明を採用することも可能である。
【0023】
また、本実施形態においては、間仕切壁を浄化の対象としているが、天井や床の壁面に対して付着しているPCBを除去するような場合も本発明が意図する範囲である。
さらには、本実施形態においては、浄化対象物である壁の表面部を塗膜側に付着させて前記浄化対象物から塗膜を剥離しているが、例えば、塗膜と壁面との界面で塗膜を剥離するような場合も塗膜にPCBを付着させて除去する上においては本発明が意図する範囲のものである。
【0024】
なお、本実施形態においては壁面(間仕切壁)表面を削ることによって剥離工程を実施したが、これに限定されず、単に表面に塗布した塗料のみを剥離するようにしても良い。特に壁面が非含浸性の部材であればPCBに暴露し、付着しているのは表面だけであるため、表面に強固に付着したPCBのみを除去すれば足りる。
即ち、塗料を塗布することによって壁面表面のPCBが塗料に吸着されるため、この塗料により形成された塗膜のみを剥離すればよい。
また、剥離の方法も打撃による剥離に限定されず、塗膜が柔軟性を有しているような場合には、塗膜の一部を切り起したり、塗膜の端をめくり上げて掴みしろを形成させ、該掴みしろを壁面から離れる方向に引張って塗膜を剥離するようにしてもよくこのような方法によれば塗膜粉砕時の飛散を抑制しうる。
その他にも上記例示の方法に各種変更を加えて本発明を実施することができ、PCBの除染技術に係る事項については、本発明の効果が著しく損なわれない範囲においては、本発明に採用が可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBを含んだ空気に曝露されたPCB汚染機器無害化施設の壁面に液体塗料で塗膜を形成させ、該塗膜を硬化させた後に剥離することによって前記壁面に付着しているPCBを前記塗膜に付着させて除去することを特徴とするPCB汚染機器無害化施設の浄化方法。
【請求項2】
剥離した塗膜の破片が飛散することを抑制し得るように塗膜の剥離を行う壁面に対向するようにシート材を配置して前記塗膜の剥離を実施する請求項1記載のPCB汚染機器無害化施設の浄化方法。