説明

PCD成形体の製造方法

超硬合金基板に結合した多結晶ダイヤモンド(PCD)成形体を含む複合ダイヤモンド成形体の製造方法が提供される。この方法は、PCD板、好ましくは、ダイヤモンド−ダイヤモンド結合及び第2の相の材料を含まない多孔質微細構造をもつPCD板を用意するステップ、PCD板及び超硬合金基板を結合材の存在下で1つにまとめ、未結合組立品を形成するステップ、未結合組立品に、少なくとも4.5GPaの圧力、及び結合剤の融点未満の温度で、少なくとも150秒の間、初期圧縮を受けさせるステップ、並びに、次いで、未結合組立品に、結合剤の融点を上回る温度、及び少なくとも4.5GPaの圧力を、結合剤が溶融し、基板にPCD板を結合させて、複合ダイヤモンド成形体を形成するのに十分な時間で受けさせるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶ダイヤモンド(PCD)材料の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド研磨材成形体としても知られている多結晶ダイヤモンドは、実質的な量の直接的なダイヤモンド−ダイヤモンド結合を含有する多数のダイヤモンド粒子を含む。多結晶ダイヤモンドは、一般に、コバルト、ニッケル、鉄、又は1種若しくは複数のこのような金属を含有する合金等のダイヤモンドの触媒/溶媒を含有する第2の相を有するであろう。
【0003】
ダイヤモンド粒子を適切な金属の溶媒/触媒と組み合わせると、この溶媒/触媒により、ダイヤモンド粒子間のダイヤモンド−ダイヤモンド結合が促進され、相互成長構造又は焼結構造を生じる。したがって、この相互成長ダイヤモンド構造は、元々のダイヤモンド粒子と、これらの元々の粒子を橋渡しする、新たに沈殿又は再成長したダイヤモンド相とを含む。最終的な焼結構造の中において、溶媒/触媒の材料は、焼結ダイヤモンド粒子間に存在する隙間の中に存在したままである。焼結PCDは、積極的な摩耗、切削及び掘削の用途における使用のための十分な耐摩耗性及び硬度を有する。
【0004】
しかし、この種のPCD成形体に関し経験された周知の問題は、微細構造の隙間の中に残留する溶媒/触媒の材料の存在が、高温における成形体の性能に悪影響を有することである。熱的に厳しい条件下における性能のこの減少は、金属のダイヤモンド成形体の、2種の異なる挙動から生じることが仮説として成り立つ。
【0005】
第1に、隙間の溶媒/触媒と焼結ダイヤモンドネットワークとの間の熱膨張特性の違いにより生じる。400℃を大きく上回る温度において、金属成分は、相互成長ダイヤモンドネットワークよりはるかに膨張し、ダイヤモンド骨格の微小破壊を生じることがある。この微小破壊により、高温における結合ダイヤモンドの強度が著しく低減される。
【0006】
さらに、高圧、高温の焼結条件下においてダイヤモンド−ダイヤモンド結合を促進する溶媒/触媒の金属材料は、高温及び減圧においてダイヤモンドがグラファイトに逆戻りすることにも触媒作用を及ぼし、明らかな性能上の結果を伴うことがある。この特有な影響は、たいてい、約700℃超の温度において観測される。
【0007】
結果として、金属の溶媒/触媒の存在下において焼結されたPCDは、その優れた研磨及び強度の特性にもかかわらず、700℃未満の温度に保持しなくてはならない。このことにより、この材料についての潜在的な工業的用途と、使用できる潜在的な製作経路とが著しく制限される。
【0008】
この問題の潜在的な解決策は、当技術分野において周知である。
【0009】
ある重要な取組みは、PCD層のバルク(bulk)の中、又はPCD工具の作用面に隣接する体積の中のいずれかにおいて、PCD材料から触媒/溶媒、すなわちバインダーの相を除去することである(ここで、作用面は一般に、摩擦現象のためにこの用途において最も高い温度にさらされる)。
【0010】
米国特許第4224380号及び第4288248号には、初期に金属の触媒/溶媒の存在下で焼結された多結晶ダイヤモンド成形体が記載されており、ここで、実質的な量のこの触媒/溶媒の相は、ダイヤモンドネットワークから浸出されている。この浸出済み製品は、未浸出の製品より熱的に安定であることが示されている。
【0011】
改善された熱安定性を達成するためのこの取組みに起因するいくつかの問題がある。まず、これらの浸出済PCD片は、空の細孔の連続的なネットワークを含み、実質的に増大された表面積を有し、これにより、酸化に対する(特に高温における)脆弱性が増大することがある。そして、これにより、異なる機構を経たとしても、高温におけるPCD成形体の強度が低減されることがある。この種の多孔質の浸出済PCD成形体は、これらを使用前にカーバイド基板になおロウ付けしなければならないという点で、技術的な接合の問題も抱えている。従来のPCD成形体は、一般に、焼結ステップに続いて接合されたカーバイド基板とともに生成される。このロウ付けステップは、技術的に難しく、しばしば、成形体工具の構造内部にその結果生じる弱点をもたらす。
【0012】
米国特許第4944772号には、好ましくは熱的に安定である上部層を有する二層焼結PCD成形体の形成が開示されている。ある好ましい実施形態において、浸出済PCD成形体及び超硬合金支持体を別々に形成する。未焼結ダイヤモンド結晶(30〜500μmの最大寸法を有する)の中間層を、カーバイドと熱安定なPCD(TSPCD)層との間に配置する。触媒/焼結助剤の材料の供給源も、この挿入された結晶層に関連して得られる。次いで、この組立品に、高圧高温(HpHT)条件を受けさせ、中間層を焼結し、全体を結合して二層支持成形体にする。この用途において、TSPCD層の明らかな再浸潤は、有利とはみなされないが、ある低程度の再浸潤は、良好な結合を達成するために必要であると認められる。
【0013】
米国特許第5127923号により、基板から除去された熱安定性多結晶ダイヤモンド(TSPCD)成形体の表面に隣接する第2の「不活性」な浸潤材供給源を用意して、多孔質のTSPCD層を、第2の高圧高温(HpHT)サイクルの間にカーバイド基板に再接合する、この取組みの改善が教示されている。この第2の浸潤材によるTSPCD体の浸潤は、カーバイド基板の金属バインダーによる著しい再浸潤を防止する。慎重に選択すれば、第2の浸潤材により、前もって浸出されたTSPCD体の熱安定性が損なわれることはない。例えばケイ素等の適切な浸潤材は、基板のバインダーの融点より低い融点を有していなくてはならない。
【0014】
これらの教示に従って生成される成形体は、浸出済/多孔質の層と、下の焼結PCD及びカーバイド基板との間の、著しい物性の違いのために、強い内部応力を受けることが観測されている。これは、浸出済成形体の一体性により悪化し、第2の接合の際の高圧高温(HpHT)サイクルの間に、PCD−基板の界面において、又はPCD層自体の中にわたって、クラッキングをしばしば生じさせる。さらに、再接合工程自体を、TSPCD層の明らかな再浸潤が第2の高圧高温(HpHT)サイクルの間に生じないように制御するのは困難なことがある。
【0015】
さらに、懸念をもたらすさらなる要因は、要求される浸出済又は多孔質のTSPCD成形体の提供についてである。一般に、現在の用途により要求されるより微粒でより厚いPCD板から、金属バインダーの大部分を効果的に除去することは、非常に困難で時間がかかる。一般的に、現在の技術は、高ダイヤモンド密度のPCDと、それに相当する金属バインダープールの非常に微細な分布を有するPCDとを得ることに一般に集中している。この微細なネットワークは、浸出剤による浸透に抵抗するので、残りの触媒/溶媒は、浸出済成形体の中にしばしば残存し、その最終的な熱安定性を損なう。さらに、かなりの浸出深さを達成することは、商業的に実行困難であるほどに時間がかかることがあるか、又は例えば、極度の酸処理、若しくはバルクPCD中に浸透チャネルを掘削する等の、望ましくない処置を必要とすることがある。
【0016】
当技術分野において開示されているさらなる取組みは、PCD成形体からの金属バインダーの部分的な除去に関する。JP59119500により、作用面を化学的に処理した後における、PCD焼結材料の性能の改善が特許請求されている。この処理により、作用面に直接に隣接する領域中の触媒/溶媒のマトリックスが、溶解及び除去される。この発明は、マトリックスが除去されている領域内で、焼結ダイヤモンドの強度を損なうことなくPCD材料の耐熱性を増大させることを主張している。
【0017】
米国特許第6544308号及び同第6562462号には、触媒材料を実質的に含まない切削面に隣接する領域を特に特徴とするPCD切削要素が開示されている。これらの切削具の性能の改善は、この領域内のPCDの耐摩耗性の増大の結果であり、ここで、触媒材料の除去は、この用途におけるPCDの熱劣化の低減につながる。
【0018】
作用面から約200〜500μmの深さまでのこの領域内の触媒/溶媒の実質的な除去により、特定の用途における切削要素の性能が著しく改善されるが、特定の問題をなお抱えている。この取組みは、一般に、切削要素全体に、すなわちカーバイド基板を接合したまま適用されるので、脆弱な基板、及びPCD−基板の界面を、金属除去又は浸出ステップの間においてマスク又は保護しなければならない。このマスキング工程は、技術的に瑣末ではなく、保護しなければならない切削具の部分に著しい損傷を引き起こすことなく用いることができる浸出処理の種類をさらに制限する。
【0019】
この取組みに固有のさらなる技術的な制限がある。PCD層は、カーバイド基板上にその場(in situ)で製造され、次いで、そこに接合されたままで処理される。したがって、カーバイド基板の性質及び種類は、浸潤及びPCD焼結の工程の助けになるものに制限される。このことにより、基板の機械的特性の最適化が、適切な浸潤特性に結びつくものに制限される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明により、
多結晶ダイヤモンド(PCD)板を用意するステップ、
該PCD板及び超硬合金基板を、結合剤の存在下で1つにまとめて、未結合組立品を形成するステップ、
該未結合組立品に、少なくとも4.5GPaの圧力、及び結合剤の融点未満の温度で、少なくとも150秒の間、初期圧縮を受けさせるステップ、並びに、次いで
該未結合組立品に、該結合剤の融点を上回る温度、及び少なくとも4.5GPaの圧力を、該結合剤が溶融し、該基板に該PCD板を結合させて、複合ダイヤモンド成形体を形成するのに十分な時間で受けさせるステップと
を含む、超硬合金基板に結合したPCD成形体を含む複合ダイヤモンド成形体の製造方法が提供される。
【0021】
本発明の方法は、結合剤の融点未満の温度における初期圧縮を、必須のステップとして有する、PCD板又はPCD体を、超硬合金基板に結合又は接合する方法を提供する。この初期圧縮には、いわゆる低温若しくは高温の圧縮法、又は好ましくは高温及び低温の両方の圧縮法の使用が含まれ得る。
【0022】
低温圧縮を用いた場合において、一般に、4.5GPaから5.5GPaの間の圧力が、いかなる熱を加えることもなく、すなわち大気温度において、又はほぼ大気温度で、少なくとも150秒、より好ましくは200秒超の間、PCD板にかけられる。
【0023】
高温圧縮を用いた場合において、PCD板は、大気温度を超える、好ましくは900℃を超える温度を、少なくとも150秒の間で受ける。
【0024】
結合剤は、金属であってよく、コバルト、アルミニウム、銀、銅、ケイ素、又はそれらの合金を含むことができる。結合剤の供給源は、超硬合金基板であってもよく、又はPCD板及び超硬合金基板の間に用意された結合剤のシム(shim)若しくは層であってもよい。
【0025】
PCD板又はPCD体は、当技術分野において公知の方法により製造される焼結材料であろう。これは、ダイヤモンド−ダイヤモンド結合及び多孔質微細構造を有するであろう。多孔質微細構造の細孔は、溶媒/触媒等の、第2の相の材料を含有することができる。
【0026】
PCD板又はPCD体の形状は、任意の適切な形状であることができ、製造されるべき製品の性質及び種類に依存する。形状は、一般にディスク状であろう。
【0027】
本発明は、多孔質微細構造の細孔が空で、実質的に第2の相の材料を含まないPCD板に、特に適用される。このようなPCD板について、溶融した結合剤は、結合ステップの間に空の細孔に浸潤する。結合剤の浸潤は、多孔質微細構造全体にわたって、又は多孔質微細構造の一部のみ、例えばPCD板と超硬合金基板との間の界面に近接する領域にわたって広がることができる。
【0028】
多孔質微細構造の細孔が第2の相の材料を含有するPCD板について、溶融した結合剤はPCD微細構造にいくらか浸透又は浸潤し、第2の相の材料と混合する。
【0029】
高圧高温(HpHT)条件下で焼結することによりPCD板を製造する際に、コバルト、鉄、ニッケル、又はそれらの合金等の、従来の金属の、ダイヤモンド用の溶媒/触媒が一般に用いられる。金属粉末を未焼結ダイヤモンド結晶と混合すること、若しくは隣接するカーバイド基板からの焼結中における浸潤により供給することにより、又はこれらの方法の組合せにより、この金属触媒を導入することができる。このようなPCDは、油又はガスの掘削業において用いられる。
【0030】
超硬合金基板に結合したPCD層を最初に形成することによりPCD板を製造する場合、次いで、形成済PCD層を、当技術分野において公知の技術を用いて超硬合金基板から除去する。
【0031】
形成済PCD板に、溶媒/触媒のバインダーのすべて又は大部分が除去される浸出を受けさせることができる。生成した浸出済PCD板は、多孔質微細構造を有する。
【0032】
本発明のある実施の形において、溶媒/触媒のバインダー材料をできるだけ全部除去するような方法で、PCD板を浸出させるのが好ましい。しかし、ある量の残留した触媒/溶媒の材料が、浸出済の空孔内表面に付着すること、又は特に浸出法では溶媒/触媒の材料を有効に除去できない層中央の体積のPCD構造内に結合することのいずれかにより、残存し得ると予想される。
【0033】
PCD板を超硬タングステンカーバイド基板に結合するための結合ステップにおいて、PCD板に、変更された高圧高温(HpHT)処理を受けさせる。これは、塑性変形中の粒子再配列により、より高いダイヤモンド連結性及び密度を有する製品を製造するための時間を増加させるために、PCDの低温圧縮及び高温圧縮の時間間隔の増加を用いることができる工程により行われる。したがって、本発明の方法により、より良好な耐研磨性及び耐熱性を有する製品を製造するための変更された高圧高温(HpHT)工程の後に、PCDの微細構造に変化が生じる。これは、PCD板が、第2の相の材料を実質的に含まない多孔質微細構造を有する場合に特に当てはまる。
【0034】
出発PCD板を製造するために用いられる未焼結ダイヤモンド粒子は、単峰性であってもよく、すなわち、ダイヤモンドが単一の平均粒径であってもよく、又は多峰性であってもよい、すなわち、ダイヤモンドが1つ以上の平均粒径の粒子の混合物を含んでもよい。
【0035】
形成する相の中における本発明のPCD材料は、好ましくは、超硬合金基板の表面に結合したPCD板の形を取り、複合ダイヤモンド成形体を形成する。溶媒/触媒の供給源は、一般に、少なくとも部分的には、カーバイド基板からであろう。カーバイドは、好ましくは、出発原料であるPCD成形体のための溶媒/触媒の供給源であるタングステンカーバイドの形である。当技術分野において知られているように、出発原料であるPCD成形体を製造する工程における溶媒/触媒の存在は、一般にダイヤモンドが85から95体積%である稠密な相互成長PCD構造を生成する、ダイヤモンド粒子間の結合形成をもたらす。
【0036】
PCD板を基板に接合又は結合する際に、PCD板と超硬合金基板との間の結合を形成又は促進するために結合剤を用いる。したがって、結合剤が溶媒/触媒である金属である必要はない。
【0037】
初期圧縮ステップにおける低温圧縮中において、PCDは、温度を上昇させることなく圧力を加えた結果として弾性一体化(elastic consolidation)。塑性変形は、結合剤が溶融する前に、高温圧縮中に生じる。これらの圧縮機構により、PCD構造のさらなる稠密化が促進され、通気孔の体積が減少するので、次いで細孔を浸潤及び充填する再浸潤材料の体積が減少する。したがって、耐研磨性及び耐熱性の改善は、ダイヤモンドの充填及び接触の改善に起因する。PCD構造の稠密化は、PCD板の多孔質微細構造の細孔が空である、すなわち第2の相の材料を実質的に含まない場合に、特に明らかである。
【0038】
次に、本発明を、単に例として、添付の図を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の好ましい実施形態の高圧高温(HpHT)接合工程のための圧力、温度のサイクルの一部を示す。
【図2A】本発明の好ましい実施形態の高圧高温(HpHT)接合工程を受ける前のPCD材料の低倍率SEM画像を示す。
【図2B】本発明の好ましい実施形態の高圧高温(HpHT)接合工程を受けた後のPCD材料の低倍率SEM画像を示す。
【図3A】図2AのPCD材料の高倍率SEM画像を示す。
【図3B】図2BのPCD材料の高倍率SEM画像を示す。
【図4A】本発明の好ましい実施形態の高圧高温(HpHT)接合工程を受ける前及び後のPCD板のダイヤモンドの連結性を比較するグラフを示す。
【図4】本発明の好ましい実施形態の高圧高温(HpHT)接合工程を受ける前及び後のPCD板のダイヤモンド含有率を比較するグラフを示す。
【図5】本発明の好ましい実施形態の高圧高温(HpHT)接合工程を受ける前及び後のPCD板の花崗岩磨砕結果を比較するグラフを示し、熱安定性を示す。
【図6】本発明の好ましい実施形態のHpHT接合工程を受ける前及び後のPCD板の花崗岩旋盤加工試験の結果を比較するグラフを示し、耐研磨性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、PCDが、改善された耐摩耗性及び熱安定性を有することができる、複合PCD成形体の製造方法に関する。
【0041】
本発明の方法によれば、ダイヤモンド−ダイヤモンド結合及び多孔質微細構造を有する焼結PCD板が提供される。PCD板を、任意の適切な方法で提供することができるが、これは一般に、多段階の合成工程の第1の段階で得られる。PCD板は、一般に、焼結PCD板を製造するための高圧高温(HpHT)条件下の標準的な方法により、従来のダイヤモンドの溶媒/触媒の存在下で形成される。これは一般に、支持されたPCD成形体、すなわち超硬合金基板を伴うPCD板である。焼結PCD板が超硬合金により支持されている場合、PCD板は後で、カーバイドのEDM切削、ラップ若しくは磨砕、又は当技術分野において知られている任意の同様な技術により、カーバイド基板から剥離される。
【0042】
標準的なPCD板を製造するために用いられるダイヤモンドの溶媒/触媒を、焼結前に未焼結ダイヤモンド粉末(すなわち、未処理の状態の生成物)に導入することができ、かつ/又は焼結中にカーバイド基板からの浸潤により導入することができる。ボールミル磨砕(湿式及び乾式)、振動ミル磨砕並びにアトライターミル磨砕を含む、機械的な混合並びに磨砕等の、当技術分野において周知の、溶媒/触媒の様々な導入方法は、未焼結ダイヤモンド粉末に触媒/溶媒を導入するために適しているであろう。粉末の形である場合、このような溶媒/触媒の材料の粒径は、好ましくは、未焼結ダイヤモンド粒子の粒径と同等である。触媒が、ダイヤモンド粒子より、大きさにおいて微細であることは、なおより好ましい。
【0043】
形成済、焼結済のPCD板を製造するために用いられる高圧高温(HpHT)条件は、一般に、溶媒/触媒の性質により決定される。これらは、当業者に周知である。溶媒/触媒が、従来の遷移金属の元素又は合金である場合、これらの条件は、一般に、1300℃から1550℃、及び5から6GPaの間である。他の公知の金属系及び非金属系の溶媒/触媒の系も、焼結PCD板を製造するのに適している。PCDが相互成長の性質を有することが重要である。
【0044】
溶媒/触媒は、好ましくは、電解エッチング、酸浸出及び蒸発の技術等の、当技術分野において公知の様々な浸出技術を用いて、形成済PCD板から除去される。溶媒/触媒の材料が、遷移金属又はその合金である場合、それは、一般に酸浸出により除去される。
【0045】
好ましくは多孔質であるPCD板が提供され、この触媒/溶媒の材料の実質的な除去がなされた場合、PCD板は、添付の図1に表すような本発明の高圧高温(HpHT)工程の好ましい実施形態において、好ましくはタングステンカーバイドの、支持基板に結合することにより接合される。
【0046】
接合をうまく達成する際に重要な本発明の態様は、接合法の後半に溶融する適切な結合剤の存在である。この結合剤により、PCD層が高圧高温(HpHT)処理後に超硬合金基板に良好に結合でき、特に、多孔質微細構造が、第2の相の材料を実質的に含まない場合において、通常は浸出済PCDを少なくとも部分的に浸潤する。故意に導入した浸潤剤がない場合、カーバイド基板の超硬金属、例えばコバルトが適している。アルミニウム、銀、銅、ケイ素、又はそれらの合金等の他の金属も適しており、シム(shim)又は粉末層の形でPCD層−カーバイドの界面に導入され得る。結合剤は、多孔質微細構造の細孔が第2の相の材料を実質的に含まない場合、PCD板の上面から導入されることもでき、基板をこの板に結合するためにPCD板を通して浸透する。
【0047】
本発明の一実施形態において、そして図1の圧力/温度のサイクルにおいて参照される様に、浸出済PCD板に、「低温圧縮」のステップを最初に受けさせる、すなわち、同時に温度をかけることなく荷重又は圧力を加える(段階A参照)。低温圧縮のこの時間は、PCDの密度増加を生じるPCD板の低温弾性一体化につながると思われる。この低温圧縮の段階には、一般に、少なくとも150秒、より好ましくは200秒超の時間にわたって、4.5GPaから5.5GPaの間の最高又は最大の圧力に達する工程が含まれる。したがって、圧力サイクル中のこの段階の重要な特徴は、最大又は最高の圧力を得るために必要とされる荷重が、一般に、温度をかける前に大部分が達せられることである。このことにより、PCDが最大の程度の低温圧縮を受けることが確保される。熱をかけた後に、熱増幅効果によりさらなる内圧が生じるが、この大部分は、故意に外部荷重を加えたことではなく、内部の加熱過程の結果であると予想される。
【0048】
低温圧縮の段階に続く、図1の温度の軌跡を参照すると、PCD板は、次いで、「高温圧縮」のステップを受ける、すなわち、圧力を加えつつ温度をかけられる(段階B参照)。外部の熱を加えることにより、温度を、大気から、少なくとも900℃、より好ましくは少なくとも950℃であるが、結合剤の融点未満に、70から150秒の間、より好ましくは120秒の時間をかけて上昇させる。この高温圧縮の段階の間に、PCDは塑性変形し、PCDの粒子間結合は、溶媒/触媒の相がなくてもなおさらに増進されることが仮説として成り立つ。溶融した結合相なしに生じる、この塑性変形の段階は、次いで一般に、約150から250秒、好ましくは180秒の間において維持される(段階C参照)。
【0049】
次いで、温度を、結合剤の融点を上回るまでさらに上昇させて、溶融した結合剤を生成し、この温度は、一般に、100から200秒の間、好ましくは120秒の時間にわたって、1350℃から1500℃の間の温度で最高になる(段階D参照)。高温において起こり得るPCDの特性悪化を引き起こすことなく、PCDの十分な塑性変形をもたらすために、温度を、段階的に最高温度まで上昇させることができる。
【0050】
温度が、結合剤の融点に到達したら、結合剤は、溶融し、一般に少なくとも部分的にPCD板に浸透する。次いで、次の温度及び圧力の条件は、PCDと基板層との間の有効な結合を達成するために維持される。この接合ステップ中において、処理圧力は、PCDの(本発明の方法の第1のステップで用いたような)標準的な焼結のために用いられる処理圧力に比べて、一般に0.5GPaから1GPaの間で低くすることができる。これは、高圧高温(HpHT)の機器の寿命を改善する際に重要なことである。最適な結合が達成されたら、圧力及び温度の条件を、用いられる機器及び条件に適切なように、かつ当業者に知られているように、大気条件に戻して低下させる。
【0051】
低温圧縮による低温弾性一体化、及び高温圧縮中の塑性変形により、標準的なPCD成形体の構造に比べて、改善された構造の接合PCD成形体が得られる。したがって、接合PCD成形体は、改善された耐摩耗性及び熱安定性を有する。
【0052】
走査電子顕微鏡(SEM)により捉えた微細構造の画像を用いて、初期の標準的な形成済PCD板の構造を、再接合工程後に得られた構造と比較した。SEM画像を用いて、ダイヤモンド全体の密度(ダイヤモンドを含有するそれぞれの画像の面積分率から算出)と、ダイヤモンドの連結性との尺度を得るために、PCDの微細構造の定量画像分析も行った。ダイヤモンドの連結性は、PCDの微細構造中のダイヤモンド−ダイヤモンドの粒子間結合の程度の尺度であり、従来の画像解析アルゴリズムを用いて得られる。
【0053】
本発明の再接合PCD成形体の改善された耐摩耗性、及び改善された熱安定性等の、特性の及び機械的な挙動の利点を、花崗岩の旋盤加工試験(耐摩耗性の尺度として使用)及び磨砕試験(熱安定性の指標として使用)等の、用途に応じた試験を用いて観測した。
【0054】
本発明を、以下の非限定的な実施例によりさらに説明する。
【実施例】
【0055】
最初に、焼結PCD板を、当技術分野において周知の方法による従来の高圧高温(HpHT)サイクルを用いて形成した。超硬タングステンカーバイド基板により支持された多峰性ダイヤモンド粉末混合物を組立て、真空炉中で処理して任意の不純物を除去した。次いで、この未処理の状態の生成物に、高圧高温(HpHT)焼結条件を受けさせて、超硬合金基板に結合されたPCD板を含む標準的な成形体を製造した。この方法を用いて生成された、支持されたPCDの対照の試料を、比較の目的のために、とり分けた。この比較の試料の微細構造を、SEMを用いて調査した。
【0056】
比較の形成済PCDのSEM分析(図2A及び3A)により、このPCD板の中のダイヤモンド相互成長の存在が明らかに示されている。顕微鏡画像中の暗領域は、ダイヤモンドの相を表し、グレーの領域は、バインダー/触媒のコバルトを表し、明領域は、タングステンカーバイドの相を表す。グレーの領域、及び明領域は、第2の相を表し、ダイヤモンドの相にわたって散在している。
【0057】
次いで、この標準的な方法により形成されたPCD板を、厚さ2.0〜2.2mmの焼結PCD板が残るまで、EDM磨砕を用いてカーバイド基板から除去した。
【0058】
次いで、このPCD板を、HF/HNO中で酸処理して結合ダイヤモンド構造の細孔中のCo触媒及びWCを除去し、入念に洗浄して細孔中に残存するいかなる汚染物質も除去した。
【0059】
次いで、この浸出済の形成済PCD板を、タングステンカーバイドの基板により支持し、図1に示すような初期の圧力及び温度のサイクルを伴う高圧高温(HpHT)サイクルを受けさせた。残りの圧力及び温度処理は、従来のPCDの高圧高温(HpHT)焼結サイクルに典型的なものであった。溶融コバルト浸潤剤(超硬合金基板から供給)の結合作用により、タングステンカーバイド基板に良好に結合したPCD層をもつ再接合PCD成形体が得られた。
【0060】
得られた再接合成形体のSEM分析(図2B及び3B)は、相互成長のPCD構造が維持されていることを示している。しかし、初期の形成済PCD板と比べた場合に、再接合PCDの微細構造の金属バインダーのプールが有する微細なダイヤモンド粒子が減少していると思われることは注目に値する(図2A及び3A)。これは、低温圧縮の増進と、第2のHpHTサイクルの処理の塑性変形との結果としての、粒子の一体化及び再配列に起因している。定量的な画像分析の比較の結果を、図4に示す。
【0061】
第2の高圧高温(HpHT)処理が、PCDの微細構造への著しい影響を有することは明らかである。図4Bに示すように、再接合PCD全体のダイヤモンド含有率は、初期の形成済PCD成形体全体のダイヤモンド含有率より大きいと思われる。さらに、図4Aにおけるダイヤモンドの連結性のグラフにより示されるように、隣接するダイヤモンド粒子間の接触又は連結の面積は増加した。この構造的な改善は、低温弾性一体化及び塑性変形の両方(上述のとおり)に起因している。
【0062】
次いで、両方のPCD成形体(標準的に形成されたもの、及び再接合したもの)に、熱安定性の指標としての花崗岩磨砕試験を受けさせた。この試験において、切削長さが長いほど、材料は良好である、すなわち熱的に安定である。この試験により、再接合PCD成形体の熱安定性の改善が明らかに示されている。結果を、図5にグラフで示す。
【0063】
成形体間の比較を、用途に応じた耐研磨性試験で行った。図6においてグラフで参照できるように、再接合PCD成形体は、標準的なPCD成形体より優れた耐研磨性を示している。
【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶ダイヤモンド(PCD)板を用意するステップ、
該PCD板及び超硬合金基板を、結合剤の存在下で1つにまとめて、未結合組立品を形成するステップ、
該未結合組立品に、少なくとも4.5GPaの圧力、及び結合剤の融点未満の温度で、少なくとも150秒の間、初期圧縮を受けさせるステップ、並びに、次いで
該未結合組立品に、該結合剤の融点を上回る温度、及び少なくとも4.5GPaの圧力を、該結合剤が溶融し、該基板に該PCD板を結合させて、複合ダイヤモンド成形体を形成するのに十分な時間で受けさせるステップと
を含む、超硬合金基板に結合したPCD成形体を含む複合ダイヤモンド成形体の製造方法。
【請求項2】
前記PCD板が、ダイヤモンド−ダイヤモンド結合と、多孔質微細構造と、該多孔質微細構造の細孔中に第2の相の材料を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の相の材料が溶媒/触媒である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質微細構造の前記細孔が、前記第2の相の材料を実質的に含まない、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記初期圧縮の温度が、大気温度である、又はほぼ大気温度である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記初期圧縮の温度が大気温度を上回る、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記初期圧縮の温度が、前記時間の一部の間において、大気温度である、又は大気温度付近であり、前記時間の残りの部分の間において、大気温度を上回る、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記初期圧縮の温度が、少なくとも200秒の間維持される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記圧力が、前記初期圧縮中において、4.5GPaから5.5GPaの間である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記結合剤の供給源が前記超硬合金基板である、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記結合剤が、前記PCD板と前記超硬合金基板との間のシム又は層として提供される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記結合剤が、コバルト、アルミニウム、銀、銅、ケイ素、及びそれらの合金から選択される、請求項1から11までのいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−525143(P2011−525143A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512264(P2011−512264)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【国際出願番号】PCT/IB2009/052344
【国際公開番号】WO2009/147629
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(507142155)エレメント シックス (プロダクション)(プロプライエタリィ) リミテッド (44)