説明

PCRのための方法および組成物

熱安定性PolB DNAポリメラーゼと式Iの改変因子試薬の、基本的に水性条件下における反応によって産生された、改変熱安定性PolB DNAポリメラーゼ、ここでその反応は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の熱的に可逆的な不活性化をもたらし、そのポリメラーゼはホットスタートPCRに適当である。改変の方法、ポリ核酸増幅方法、およびPCR反応混合物および改変熱安定性PolB DNAポリメラーゼを含むキットも開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性DNAポリメラーゼの可逆的不活性化のための組成物および方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
非特異的増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の適用を長く悩ませてきており、そしてこの問題を最小限にするために、かなりの資源が費やされてきた(例えば非特許文献1を参照のこと)。反応の設定またはPCRの最初の加熱期の間の、ミスプライミングしたオリゴヌクレオチドの伸長によって生じる非特異的増幅産物に関連する障害を克服するために、いくつかの「ホットスタート」PCR技術が使用された。1つの方法において、オリゴヌクレオチドプライマー、ヌクレオチド3リン酸塩、マグネシウムイオンまたは熱安定性核酸ポリメラーゼのような必須のPCR成分を、より高い温度でのみ加え、それによって非特異的ハイブリダイゼーションを有する可能性、またはミスプライミングしたオリゴヌクレオチドを伸長する可能性を抑制する。特許文献1において記載された、別の方法において、鋳型−プライマーミックスおよび残りの反応混合物の間に、固体ワックスバリアを用いる。このワックスバリアは、高い温度でのみ融解し、そのため、全ての反応成分は高い温度でのみ混合し、ミスプライミングおよびミスプライミングしたオリゴヌクレオチドの伸長を防ぐ。別の方法は、米国特許出願第2006/0029952A1号において開示されたように、1本鎖結合タンパク質のような、1本鎖DNA(プライマー)に熱可逆的な方式で特異的に結合する化合物を用いて、ミスプライミングしたオリゴヌクレオチドの伸長を防ぐ。核酸ポリメラーゼの、非共有結合および共有結合両方の、可逆的改変も使用された。本明細書中で全体として参考文献に組み込まれる、特許文献2は、ポリメラーゼの活性を阻害するために、核酸ポリメラーゼに特異的な抗体の使用を開示する。しかし、この方法は、操作工程の数の増加による混入のリスクを有する。これも本明細書中で参考文献に組み込まれる、Birchらに対する特許文献3(「Birch 「152特許」)は、化学的または共有結合的に改変した熱安定性ポリメラーゼを用いるPCR法を記載する。具体的には、DNAポリメラーゼを、ジカルボン酸無水物を用いて可逆的に不活性化し、そしてその熱安定性DNAポリメラーゼを、高い温度で一定期間インキュベートした後活性化し得る。最後に、特許文献4は、アルデヒド、好ましくはホルムアルデヒドを用いた、熱安定性ポリメラーゼの可逆的不活性化を開示する。
【0003】
ミスプライミングによる非特異的増幅とは別に、核酸増幅およびクローニングにおいて心配な別の領域は、DNAポリメラーゼの忠実度である(例えば非特許文献2を参照のこと)。Taq DNAポリメラーゼの低い忠実度のために、Pfu、Vnet(登録商標)、Deep Vent(登録商標)、KOD、PhusionTM、iProofTM、Tli、およびPfxを含む、いくつかの熱安定性PolB酵素が開発および上市された。Taq DNAポリメラーゼと異なり、50℃より低い温度におけるファミリーBのDNAポリメラーゼ(PolB)の残存ポリメラーゼ活性は小さく、これらの酵素の有力ないくつかの製造業者は、それらはPCRの「天然の」ホットスタートDNAポリメラーゼであると主張する。しかし、これらの酵素は室温でかなりの3’−5’ヌクレアーゼ活性を示し、かなりのプライマーの分解およびプライマーの特異性の変化をもたらす。プライマーの分解は、後に行うPCRの間に、ミスプライミングおよび/またはプライマーダイマーの形成をもたらし得る。例えば、いくつかの製造業者は、望ましい結果を得るために、その製品の3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を、よくコントロールしなければならないと使用者に警告する。3’−5’エキソヌクレアーゼ活性をコントロールする方法の1つは、1つはDNAポリメラーゼ活性のための、および1つは3’−5’ヌクレアーゼ活性のための、酵素に結合する2つの抗体を使用することである。例えば非特許文献3を参照のこと。同グループはまた、PCRを行う温度において過剰に活性なプルーフリーディング活性を有するKODは、PCRに対して有利ではなく、そしてより低いプルーフリーディング活性を有する変異体が、より良いPCR酵素となったことを示した(非特許文献4)。この系統単独の市販の製品も入手可能である(Takara Shuzo Co.,Ltd.、JapanによるKOD DNAポリメラーゼ)。しかし、上記で示したように、酵素の抗体結合は混入のリスクを伴う。それに加えて、抗体は高価であり、そして調達するのが困難である。
【0004】
よって、存在する熱安定性DNAポリメラーゼの欠点を克服する方法および組成物の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,411,876号明細書
【特許文献2】米国特許第5,338,671号明細書
【特許文献3】米国特許第5,677,152号明細書
【特許文献4】米国特許第6,183,998号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chouら、Nucleic Acids Research、20(7):1717−1723(1992)
【非特許文献2】Hengen、1995、Methods and reagents−Fidelity of DNA polymerases for PCR.Trends in Biochemical Sciences 20(8):324−325
【非特許文献3】Mizuguchiら、J Biochem(Tokyo)、1999、126:762−8
【非特許文献4】Kuroitaら、Structual mechanism for coordination of proofreading and polymerase activities in archaeal DNA polymerases。J Mol Biol.2005、351:291−8
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある実施態様において、本発明は、DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の両方を有する、改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼを提供し、ここでその改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼは、基本的に水性の条件下で、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、式Iの改変因子(modifier)試薬と反応させることによって産生し、
【0008】
【化1】

ここでRおよびRは水素であるかまたは連結し得るC−Cアルキルであり、ここでその反応は熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の不活性化をもたらし、そしてここでその熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は復元可能である。特定の実施態様において、そのPolB DNAポリメラーゼはPfu、KOD、Tli、またはPfxであるか、またはVent(登録商標)、Deep Vent(登録商標)、PhusionTM、またはiProofTMの商品名で販売されているDNAポリメラーゼ、またはDNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するその断片またはその変異体である。その改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼはまた、Pfu、KOD、Tli、またはPfx、またはVent(登録商標)、Deep Vent(登録商標)、PhusionTM、またはiProofTMの商品名で販売されているDNAポリメラーゼ、またはDNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するその断片またはその変異体を含む融合タンパク質であり得る。具体的には、本発明のために適当なその改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼは、Pfuを含む融合タンパク質であり得る。より具体的には、そのPolB DNAポリメラーゼは、10His−Pfu−Pae3192である。
【0009】
ある実施態様において、本発明による改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、無水マレイン酸または置換無水マレイン酸を改変因子試薬として用いることによって得る。ある実施態様において、その改変因子試薬は、シトラコン酸無水物、シスアコニット酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、エキソ−シス−3,6−endoxo−δ−テトラヒドロフタル酸無水物;または3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物である。
【0010】
ある実施態様において、本発明の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼにおいて、ポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、高い温度でインキュベートすることによって復元可能である。ある実施態様において、その高い温度は、50℃またはそれより高い、特に95℃またはそれより高い温度である。ある実施態様において、その高い温度は、約98℃である。
【0011】
ある実施態様において、改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを高い温度でインキュベートすることによって復元された。
【0012】
ある実施態様において、ポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、約7.5および約8.5の間のpHを有する反応緩衝剤中でインキュベートすることによって復元された。ある実施態様において、ポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、約8.0のpHを有する反応緩衝剤中でインキュベートすることによって復元された。
【0013】
ある実施態様において、ポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の間の比は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼが改変因子試薬によって改変される前と基本的に同じ値まで復元される。
【0014】
ある実施態様において、本発明は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを改変するための方法を提供し、その方法は熱安定性PolB DNAポリメラーゼと式Iの改変因子試薬とを反応させることを含む。
【0015】
【化2】

ここでRおよびRは水素であるかまたは連結し得るC−Cアルキルであって、そしてここでその反応は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の不活性化をもたらし、そしてここでその熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は復元可能である。
【0016】
ある実施態様において、本発明は、以下の工程を含む、サンプル中に含まれる標的核酸を増幅する方法を提供する:(a)サンプルを、標的核酸に相補的なプライマーおよび本発明による改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼを含む増幅反応混合物と接触させる工程;および(b)工程(a)の生じた混合物を、約50℃より高い温度で、PolB DNAポリメラーゼを再活性化し、そしてプライマー伸長産物の形成を可能にするために十分な時間インキュベートする工程。ある実施態様において、その増幅はポリメラーゼ連鎖反応である。
【0017】
ある実施態様において、本発明は、少なくともプライマーおよび本発明の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼを含む、ポリメラーゼ連鎖反応増幅反応混合物を提供する。ある実施態様において、本発明は、本発明のポリメラーゼ連鎖反応増幅反応混合物および適当な容器を含むキットを提供する。
【0018】
本教示のこれらの特徴および他の特徴が、本明細書中の説明からより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の他の目的、利点、および新規な特徴が、付随する図面を組み合わせて考える場合に、以下の詳細な説明から明らかになる。当業者は、下記で記載する図面は、説明目的のためのみであることを理解する。その図面は、いかなる方法においても、本教示の範囲を制限することを意図しない。
【図1】図1は、ECA001Gが、活性化の前に検出可能なポリメラーゼ活性(Polとして表される)およびエキソヌクレアーゼ活性(Exoとして表される)を有さないが、活性化後は両方の活性を示したことを示す。(詳細は実施例2.1を参照のこと)
【図2】図2は、再活性化に対するpHの影響を示す。(詳細は実施例2.2を参照のこと)
【図3】図3は、AmpliTaq DNAポリメラーゼが、ECA001Goldより特異的でないAmpliTaq Goldよりも多くの非特異的産物を産生することを示す。(詳細は実施例3を参照のこと)
【図4】図4は、それぞれのピーク活性と比較して、室温で、PolB酵素が、Taqよりも低いポリメラーゼ活性を有することを示す。
【図5】図5は、改変および再活性化後、AmpliTaqのエキソヌクレアーゼ活性対ポリメラーゼ活性の比が変化したことを示す。(詳細は実施例5を参照のこと)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
DNAポリメラーゼは、当業者に公知である。DNAポリメラーゼは、DNAを鋳型として用いるDNA依存性ポリメラーゼ、またはRNAを鋳型として用いる、逆転写酵素のようなRNA依存性ポリメラーゼを含む。
【0021】
配列相同性に基づいて、DNAポリメラーゼは7つの異なるファミリー:A、B、C、D、X、Y、およびRTに細分し得る。DNA依存性DNAポリメラーゼは、6つのファミリー(A、B、C、D、X、およびY)のうち1つに含まれ、ほとんどが3つのファミリー(A、B、およびC)のうち1つに含まれる。例えばItoら(1991)Nucleic Acids Res.19:4045−4057;Braithwaiteら(1993)Nucleic Acids Res.21:787−802;Fileeら(2002)J.Mol.Evol.54:763−773;およびAlba(2001)Genome Biol.2:3002.1−3002.4を参照のこと。あるDNAポリメラーゼは、1本鎖ポリペプチド(例えばあるファミリーAおよびファミリーBのポリメラーゼ)、またはサブユニットの1つがポリメラーゼ活性を有する、複数サブユニットの酵素(例えばあるファミリーCポリメラーゼ)であり得る。同上文献。融合タンパク質は、ファミリーA、B、C、D、X、またはYのポリメラーゼから選択されるDNAポリメラーゼを含み得る。
【0022】
ファミリーAのポリメラーゼ(「PolA」)は、複製ポリメラーゼおよび修復ポリメラーゼを両方含む。このファミリーの複製メンバーは、広範囲に研究されたT7DNAポリメラーゼおよび真核生物ミトコンドリアDNAポリメラーゼyを含む。修復ポリメラーゼには、E.coli DNA PolI、Thermus aquaticus PolI(Taq DNAポリメラーゼ)、およびBacillus stearothermophilus PolIが含まれる。これらの修復ポリメラーゼは、切除修復およびラギング鎖合成の間に産生される岡崎フラグメントのプロセシングに関与する。ほとんどの熱安定性PolA酵素は、3’から5’へのエキソヌクレアーゼ活性を有さないので、それらは新規に合成された核酸鎖をプルーフリーディングすることができず、そして従って高いエラー率を有する。例えば、Taq DNAポリメラーゼは、市販されているポリメラーゼの中で最も高いエラー率の1つを有することが公知である。
【0023】
ファミリーBのポリメラーゼ(「PolB」)は主に複製ポリメラーゼを含み、そして主な真核生物DNAポリメラーゼα、δ、εおよびDNAポリメラーゼζも含む。PolBポリメラーゼはまた、いくつかの細菌およびバクテリオファージによってコードされるDNAポリメラーゼを含み、そのうち最もよく特徴付けられているのがT4バクテリオファージ、Phi29バクテリオファージ、およびRB69バクテリオファージ由来のものである。これらの酵素は、リーディング鎖およびラギング鎖両方の合成に関与する。ポリメラーゼのPolBファミリーの特徴は、複製中のその顕著な正確性および多くが強力な3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有することである(プルーフリーディング活性を有さないDNAポリメラーゼαおよびζを除く)。
【0024】
その結晶構造に基づいて、熱安定性PolB酵素は、ドーナツ様の構造を有する(例えばHopfnerら、Crystal structure of a thermostable type B DNA polymerase from Thermococcus gorgonarius。Proc Natl Acad Sci USA(1999)96:3600−5;Hashimotoら、Crystal structure of DNA polymerase from hyperthermophilic archaeon Pyrococcus kodakaraensis KOD1.J Mol Biol.(2001)306:469−77を参照のこと)。その酵素は、ポリメラーゼ活性の活性部位として中心部に大きな凹部を有する。中心部から突出するが「ドーナツ」の表面上にあるのは、それぞれ2本鎖DNAの結合、1本鎖鋳型の結合、およびプライマーの3’末端におけるエラーを編集するための、それぞれ裂け目D、裂け目Tおよび裂け目Eと名付けられた3つの裂け目である(Hopfnerら、前出)。プルーフリーディング活性中心が存在する裂け目Eは、ポリメラーゼ活性中心が存在する中央の凹部よりかない狭い。
【0025】
本発明者は、裂け目Eは、シトラコン酸無水物のような小さい改変試薬によって容易に接近可能であるが、ジフェニルマレイン酸無水物のような大きな対応物によっては容易に接近できないことを発見した。改変試薬を注意深く選択することによって、様々な実施態様において、本発明は、2つの酵素活性の間の適当な比を維持しながら、低い温度(例えば50℃またはそれより低い)におけるPolBのDNAポリメラーゼ活性およびエキソヌクレアーゼ活性の両方の不活性化、および高い温度における両方の酵素活性の復元を達成し得る。そのような適当な比が、満足のいくPCR結果のために重要であることが容易に認識される。例えば、もしエキソヌクレアーゼ活性が、ポリメラーゼ活性と比較して高過ぎるなら、意味のある鎖の伸長を達成することは不可能であり、少なくとも十分に長いPCR産物を得ることは困難である。他方、もしエキソヌクレアーゼ活性が、ポリメラーゼ活性と比較して低過ぎるなら、不適切なプルーフリーディングおよび高いエラー率が生じる。
【0026】
今や驚くべきことに、あるジカルボン酸無水物、特に十分に小さい置換基を環に有するジカルボン酸無水物は、プルーフリーディング活性中心が存在するPolBポリメラーゼの裂け目Eに近づくことができ、そしてポリメラーゼの3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を不活性化し、ならびにPolB酵素の5’−3’ポリメラーゼ活性を不活性化できることが発見されている。そのヌクレアーゼ活性およびポリメラーゼ活性はどちらも熱再活性化工程後に回復が可能であり、その2つの活性の適当な比を維持して、高い忠実度および高い効率のDNA増幅を達成する。言い換えると、今や驚くべきことに、小さいジカルボン酸無水物によるPolB酵素の熱可逆的改変により、プライマーダイマーの形成を排除するが、高い増幅忠実度を可能にし得ることが発見された。
【0027】
よって、様々な実施態様において、本発明は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを可逆的に不活性化するための方法および組成物、可逆的に不活性化された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ、および「ホットスタートPCR」を行うことに関しその酵素を用いるための方法および試薬を提供する。
【0028】
熱安定性PolB DNAポリメラーゼ
あらゆる熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、本発明の方法によって可逆的に不活性化し得る。上記で議論したように、DNAポリメラーゼのBファミリーの特徴は、複製中のその顕著な正確性でありそして多くが強力な3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を持ち、そしてPfu、KOD、Tli、およびPfxとして記載されるものを含むいくつかの熱安定性PolB DNAポリメラーゼは市販されているか、あるいはVent(登録商標)、DeepVent(登録商標)、PhusionTM、iProofTMの商品名で販売されており、および米国特許出願第20060228726号において開示された融合タンパク質である。本発明のために適当な熱安定性PolB DNAポリメラーゼは、天然に存在するPolBポリメラーゼおよびキメラポリメラーゼまたは組換えPolB DNAポリメラーゼを含む。
【0029】
ある実施態様において、本発明のために適当なPolB DNAポリメラーゼは、ファミリーBのDNAポリメラーゼであるかまたはポリメラーゼ活性を有するその断片またはその変異体を含み得る。あるそのような実施態様において、そのファミリーBのポリメラーゼは、Thermococcus属、Pyrococcus属、またはPyrobaculum属由来のポリメラーゼのような、古細菌ファミリーBのポリメラーゼである。あるそのような実施態様において、そのファミリーBのポリメラーゼは、Pfu DNAポリメラーゼであるかまたはポリメラーゼ活性を有するその断片またはその変異体である。ある実施態様において、Pfu DNAポリメラーゼの変異体は、少なくとも50%、70%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のPfuとの同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0030】
ある化学的改変因子
様々な実施態様において、本発明は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを改変して、それによって3’−5’エキソヌクレアーゼ活性およびDNAポリメラーゼ活性が完全にまたはほとんど完全に不活性化され、そしてその不活性化は適当な条件下で高い温度において逆転し得る方法に関連する。
【0031】
本発明のある実施態様によって、熱安定性PolB DNAポリメラーゼは、適当な化学的化合物または化学的改変因子と反応することによって、可逆的に不活性化される。好ましくは、その化学的改変因子は、ジカルボン酸無水物であり得る。上記で示したように、DNAポリメラーゼ活性の可逆的不活性化は、活性部位のリシンのε−アミノ基をブロックすることによって、酵素を可逆的に不活性化することが当該技術分野で公知であった。しかし、5’−3’ポリメラーゼの活性部位および3’−5’エキソヌクレアーゼの活性部位が、ジカルボン酸無水物分子によって可逆的に不活性化され、得られた再活性化ポリメラーゼがPCRにおいて機能し得るかどうかは今まで未知であった。
【0032】
いくつかの実施態様において、本発明のための化学的改変因子は、式Iのジカルボン酸無水物を含み:
【0033】
【化3】

ここでRおよびRは水素であるかまたは連結し得るC−Cアルキルである。RおよびRは、炭素−炭素結合または炭素−酸素結合、炭素−窒素結合、または炭素−硫黄結合のような、炭素−ヘテロ原子結合によって、環に直接結合し得る。有機基(radical)も、例えば3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物におけるように、お互いに連結して環構造を形成し得る。
【0034】
ジカルボン酸無水物は、タンパク質のアミノ基と反応して、対応するアシル化産物を生じることが公知である(例えば米国特許第5,677,152号を参照のこと)。アシル化反応および脱アシル化反応の両方の妥当なメカニズムの説明に関して、本明細書中で参考文献に組み込まれる、Palacianら、1990、Mol.Cell.Biochem.97:101−111も参照のこと。cis−炭素−炭素二重結合、および潜在的に他の置換基は、アミド基との相互作用、および続く脱アシル化にとって適当な空間的配向にある、アシル化残基の末端カルボキシル基を維持するので、上記ジカルボン酸無水物の可逆性を増強すると考えられる。
【0035】
本発明に適当な適した化学的改変試薬の例は、無水マレイン酸;シトラコン酸無水物、シス−アコニット酸無水物、および2,3−ジメチルマレイン酸無水物のような置換無水マレイン酸;エキソ−シス−3,6−エンドキソ(endoxo)−δ−テトラヒドロフタル酸無水物;および3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物を含む。その試薬は、例えばAldrich Chemical Co.(Milwaukee、Wis.)、Sigma Chemical Co.(St.Louis、Mo.)、またはSpectrum Chemical Mfg.Corp.(Gardena、Calif.)から市販されている。置換無水マレイン酸試薬シトラコン酸無水物およびシス−アコニット酸無水物を用いた、PolB熱安定性DNAポリメラーゼの改変を、実施例で記載する。
【0036】
可逆的に不活性化された熱安定性酵素の調製
いくつかの実施態様において、PolB DNAポリメラーゼの改変は、PolB熱安定性DNAポリメラーゼ酵素の分子を、適当な温度で、例えば4℃で、一般的に水性条件下のアルカリ性pHで、酵素の活性を許容可能なレベルまで抑制するのに十分な時間、化学的改変因子と反応させる工程を含む。
【0037】
その改変は、典型的には1時間から12時間の反応時間内に、または60分未満で、最も好ましくは15分から30分未満で行い得るが、これは使用する試薬に幾分依存して変動する。
【0038】
適当な反応条件は当該技術分野で公知であり、そして本明細書中および本実施例においてさらに記載される。リシン残基の化学的改変は、アルカリ性pHにおいて有利であることが公知である。その改変反応を、pH7−10で、好ましくはpH7.0およびpH9.0の間で、またはより好ましくは7−8.5の間で、水性緩衝剤中で、室温またはそれより低い温度において行う。加水分解の速度はpHと共に増加するが、約9より高いpHで起こる加水分解は、タンパク質の最適以下のアシル化をもたらし得る。
【0039】
その反応は約1時間のインキュベーション後実質的に完了するが、12−24時間の間で続き得る。
【0040】
ジカルボン酸無水物は、水と容易に反応して対応する酸を生じる。従って、試薬の大部分はタンパク質のアミノ基の改変の間に加水分解される。
【0041】
一般的に、タンパク質と比較してモル過剰の改変因子試薬をアシル化反応に用い、そして最適なモル比を経験的に決定する。例として、ECA001は、20倍またはそれより高いモル過剰のシトラコン酸無水物との反応によって、基本的に完全に不活性化される(もとの活性の5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.1%未満)。
【0042】
本発明の方法において、熱安定性PolB DNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、両方とも完全に不活性化される(そのもとの活性の1%未満)、またはほとんど完全に不活性化される(そのもとの活性の5%未満)。本発明の改変された熱安定性酵素は、37℃でアッセイした場合、37℃で1時間またはそれを超えてインキュベートした後でさえ、いかなる有意な検出可能な活性も有さない。他方、本化学的に改変された酵素の酵素活性は、より高い温度において、すなわち約50℃で、好ましくは75℃から100℃の温度で、そして最も好ましくは98℃でインキュベートした場合、30分以内に3倍増加する。そのような化学的に改変された酵素を、DNA増幅、ライゲーション、エキソヌクレアーゼ反応またはエンドヌクレアーゼ反応のような、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを含む全ての適用において採用し得る。
【0043】
本発明の熱で活性化が可能な酵素の重要な局面は、その保存安定性である。一般的に、本明細書中で記載された酵素は、長期間安定であり、それは各使用直前の調製の必要性を排除する。例えば、シトラコニル化ECA001は、25℃で保存した場合、少なくとも4週間不活性なままであることが見出された。
【0044】
増幅方法
本発明の熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、プライマーに基づく核酸合成または増幅反応に使用し得る。本発明の方法は、可逆的に不活性化された熱安定性PolB DNAポリメラーゼを含む反応混合物を使用して、その反応混合物を増幅反応の前に、または不可欠な一部として、高温インキュベーションにかける工程を含む。高温インキュベーションは、アミノ基の脱アシル化およびポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性両方の回復をもたらす。
【0045】
改変アミノ基の脱アシル化、および酵素活性の再活性化は、温度の増加および同時に起こるpHの低下の両方から起こる。増幅反応は、典型的には8.0から9.0までのpHに調合されたTris−HCl緩衝剤中で、室温で行う。室温において、アルカリ性の反応緩衝剤条件は、アミノ基のアシル化形式に有利である。反応緩衝剤のpHは室温で8.0から9.0までのpHに調整されるが、Tris−HCl反応緩衝剤のpHは、温度の増加と共に低下する。従って、反応緩衝剤のpHは、増幅が行われる、そして特に活性化インキュベーションが行われる高い温度において低下する。反応緩衝剤のpHの低下は、アミノ基の脱アシル化に有利である。
【0046】
反応に使用する緩衝剤システムによって、高温反応条件の結果として起こるpH変化を決まるということはよく認識されており、そして生物学的反応において使用される様々な緩衝剤のpHの温度依存性は周知である(例えばGoodら、1966、Biochemistry 5(2):467−477を参照のこと)。増幅反応は、典型的にはTris−HCl緩衝剤中で行われるが、温度によってより小さいかまたは大きいpHの変化を示す緩衝剤中で増幅反応を行い得る。使用する緩衝剤に応じて、幾分安定な改変酵素が望ましいであろう。例えば、安定がより低い改変酵素を生じる改変試薬を使用する場合、より小さな緩衝剤pHの変化の下での十分な酵素活性の回復が求められる。
【0047】
改変酵素の活性化は、好ましくはプライマーの結合特異性を保証するために増幅反応において使用されるプライマーのハイブリダイゼーション(アニーリング)温度と同じかまたはそれより高い温度におけるインキュベーションによって達成される。酵素活性を回復するために必要なインキュベーションの長さは、反応混合物の温度およびpH、および改変酵素の調製に使用された改変因子試薬に依存する酵素のアシル化アミノ基の安定性に依存する。広い範囲のインキュベーション条件が使用可能である;最適な条件を、各反応に関して経験的に決定し得る。一般的に、増幅反応緩衝剤中で、約50℃より高い温度で、約1秒と約20分の間の時間、インキュベーションを行う。例証されない酵素の再活性化、または例証されない反応混合物に関するインキュベーション条件の最適化を、本明細書中で提供されたガイダンスに従って日常的な実験によって決定し得る。
【0048】
好ましい実施態様において、PCR増幅を、可逆的に不活性化された熱安定性DNAポリメラーゼを用いて行う。PCR増幅において使用されるアニーリング温度は、典型的には約50−75℃であり、そして反応前インキュベーションを、アニーリング温度と同じかまたはそれより高い温度で、好ましくは約90℃より高い温度で行う。増幅反応混合物を、好ましくは約90−100℃で、約12分までインキュベートして、温度サイクリングの前にDNAポリメラーゼを再活性化する。典型的なPCR増幅のための適当な反応前インキュベーション条件は、反応前インキュベーション条件を変動することの増幅に対する影響と共に、実施例において記載される。
【0049】
典型的なPCR増幅の最初の工程は、2本鎖標的核酸の熱変性を含む。サンプル核酸の変性に必要な正確な条件は、サンプル核酸の長さおよび組成に依存する。典型的には、90−100℃における、約10秒から最大約4分までのインキュベーションが、サンプル核酸を完全に変性するために有効である。最初の変性工程は、DNAポリメラーゼを再活性化するための反応前インキュベーションとなり得る。しかし、最初の変性工程の長さおよび温度に依存して、そしてDNAポリメラーゼを不活性化するために使用された改変因子に依存して、DNAポリメラーゼ活性の回復は不完全であり得る。もし酵素活性の最大限の回復が望ましいなら、反応前インキュベーションを延長してよいか、あるいは、増幅サイクルの数を増やすことができる。
【0050】
ある実施態様において、その改変酵素および最初の変性条件を、回復可能な酵素活性の一部のみが最初のインキュベーション工程の間に回復されるように選択する。それぞれ高温の変性工程を含む、続くPCRのサイクルが、酵素活性のさらなる回復をもたらす。従って、酵素活性の活性化は、増幅の最初のサイクルの後まで遅れる。DNAポリメラーゼ活性のこの「持続性」により、非特異的増幅がさらに減少することが観察された。過剰なDNAポリメラーゼが非特異的増幅に寄与することが公知である。本方法において、標的配列の数が少ない増幅の最初の段階の間は、存在するDNAポリメラーゼ活性の量が低く、それは形成される非特異的伸長産物の量を抑制する。標的配列の数が多い増幅の後期の段階の間は、最大のDNAポリメラーゼ活性が存在し、そしてそれによって高い増幅収量が可能となる。もし必要なら、最初のサイクルに存在するDNAポリメラーゼ活性の量の低さを補うために、増幅サイクルの数を増加させ得る。
【0051】
本発明の方法の利点は、その方法が、反応混合物を最初に調製した後に、その反応混合物の操作を必要としないことである。従って、その方法は、最初の変性工程後に試薬を加えること、またはワックスバリアを使用することが不便であるかまたは非実用的である、自動化増幅システムにおいて、およびインサイツ増幅方法と共に使用するために理想的である。
【0052】
本発明の方法は、高い重合忠実度を有するPCRにおいて非特異的増幅の抑制のために特に適当である。よって、本発明の組成物および方法は、ゲノミクス研究におけるような、標的核酸配列の増幅のため、およびそのような長い配列のクローニングのために特に適当である。
【0053】
しかし、本発明の方法および組成物は、いかなる特定の増幅システムにも制限されない。本発明の可逆的に不活性化された酵素を、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを使用し、そして増幅の特異性を達成するために反応温度に依存する、あらゆるプライマーに基づく増幅システムにおいて使用し得る。本方法を、熱安定性の酵素を用いる、等温増幅システムに適用し得る。酵素活性を回復するために、高い温度における一時的なインキュベーションのみが必要である。酵素活性を回復するために反応混合物を高温インキュベーションにかけた後、適当な反応温度で反応を行う。PCR(米国特許第4,683,195号;同第4,683,202号;および同第4,965,188号)に加えて、他の増幅方法は、以下のものを含むがこれに限らない:リガーゼ連鎖反応(LCR、WuおよびWallace、1989、Genomics 4:560−569およびBarany、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:189−193);ポリメラーゼリガーゼ連鎖反応(Barany、1991、PCR Methods and Applic.1:5−16);Gap−LCR(PCT特許公開第WO90/01069号);修復連鎖反応(欧州特許公開第439,182A2号);3SR(Kwohら 1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173−1177;Guatelliら、1990、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874−1878;PCT特許公開第WO92/0880A号)、およびNASBA(米国特許第5,130,238号)。上記の参考文献は全て、本明細書中で参考文献に組み込まれる。本発明は、いかなる特定の増幅システムにも制限されない。他のシステムが開発される場合、それらのシステムは本発明の実施によって利益を得ることができる。増幅システムの最近の調査が、本明細書中で参考文献に組み込まれる、AbramsonおよびMyers、1993、Current Opinion in Biotechnology 4:41−47において刊行された。
【0054】
各増幅反応のために適当なサンプル調製方法が、当該技術分野において記載される(例えばSambrookら、前出、および上記で引用した増幅方法を記載する参考文献を参照のこと)。標的配列のPCR増幅のためのサンプルを調製する簡単かつ迅速な方法が、Higuchi、1989のPCR Technology(Erlich編、Stockton Press、New York)において、およびPCR protocols、18−20章(Innisら編、Academic Press、1990)において記載されており、それらはどちらも本明細書中で参考文献に組み込まれる。当業者は、適当なプロトコールを選択しかつ経験的に最適化し得る。
【0055】
増幅産物を検出するための方法は、文献において広範囲に記載されている。標準的な方法は、ゲル電気泳動によるかまたはオリゴヌクレオチドプローブを用いるハイブリダイゼーションによる分析を含む。プローブと増幅された核酸の間に形成されたハイブリッドの検出を、Saikiら、1986、Nature 324:163−166;Saikiら、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6230;PCT特許公開第89/11548号;米国特許第5,008,182号および同第5,176,775号;PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications(Innisら編、Academic Press、San Diego、Calif.):337−347を含む、ドットブロットアッセイ形式およびリバースドットブロットアッセイ形式を含む、様々な形式において行い得、それらはそれぞれ本明細書中において参考文献に組み込まれる。マイクロウェルプレートを用いるリバースドットブロット法が、例えば米国特許第5,232,829号;Loeffelholzら、1992、J.Clin.Microbiol.30(11):2847−2851;Mulderら、1994、J.Clin.Microbiol.32(2):292−300;およびJacksonら、1991、AIDS 5:1463−1467において記載され、それらはそれぞれ本明細書中で参考文献に組み込まれる。
【0056】
5’ヌクレアーゼアッセイと呼ばれる、別の適当なアッセイ方法が、米国特許第5,210,015号およびHollandら、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7276−7280において記載され、それらはどちらも本明細書中で参考文献に組み込まれる。5’ヌクレアーゼアッセイにおいて、標識プローブが、DNAポリメラーゼ、例えばTaqDNAポリメラーゼの5’から3’へのエキソヌクレアーゼ活性によるプライマー伸長と同時に分解される。プローブ分解産物の検出により、プローブと標的DNAの間のハイブリダイゼーションが起こったこと、および増幅反応が起こったことの両方が示される。
【0057】
反応混合物における2本鎖DNAの全量の増加をモニターすることによる、核酸の増幅を検出する代替方法が、Higuchiら、1992、Bio/Technology 10:413−417;Higuchiら、1993、Bio/Technology 11:1026−1030;および欧州特許公開第487,218号および同第512,334号において記載され、それらはそれぞれ本明細書中で参考文献に組み込まれる。2本鎖標的DNAの検出は、エチジウムブロミド(EtBr)および他のDNA結合標識が、2本鎖DNAに結合した場合に示す蛍光の増加に依存する。標的配列の合成から生じる2本鎖DNAの増加は、蛍光の検出可能な増加をもたらす。この方法における問題は、非標的配列の合成、すなわち非特異的増幅が、蛍光の増加をもたらし、それが標的配列の合成から生じる蛍光の増加の測定を妨害することである。従って、本発明の方法は、非特異的増幅を抑制し、それによって非標的配列の増幅から生じる蛍光の増加を最小限にするので、特に有用である。
【0058】
上記で記載したような、改変した、不活性化核酸ポリメラーゼを使用することに加えて、反応混合物における核酸の融解反応に影響を与える添加物を用いることによって、PCR反応を改善し得る。例えば、非特異的産物を生じる反応のような、困難なPCR増幅、および特に高いGC含有量を有するか、または大規模な2次構造を有する鋳型の増幅を、AT−およびGC−塩基対形成をAT−塩基対の安定性のレベルまで「等しく安定化する(isostabilize)」添加物を採用することによって改善し得る。適当なそのようなPCR添加物は、多機能性ポリオール、好ましくは三機能性ポリオール、最も好ましくはグリセロール;アミド、好ましくはカルバミド、最も好ましくはホルムアミド;アルカリ性アンモニア塩、好ましくはアルキル化アンモニア塩、最も好ましくは塩化テトラメチルアンモニウム;スルホキシド、好ましくはアルキル化スルホキシド、最も好ましくはジメチルスルホキシド;硫酸塩、好ましくは無機硫酸塩、最も好ましくは硫酸アンモニウムポリアルキレングリコール、最も好ましくはポリエチレングリコールを含む。さらに、SSBタンパク質(1本鎖結合タンパク質)、好ましくはE.coli SSBタンパク質(Schwarzら、E.coli SSB protein、Nucleic Acids Research、18:1079(1990)を参照のこと)、T4遺伝子32タンパク質、または酵母SSBタンパク質も使用し得る。好ましいPCR添加物はまた、仔ウシ胸腺タンパク質UP1(Amruteら、Biochemistry、33(27):8282−8291(1994)を参照のこと)を含む。
【0059】
この目的のために特に好ましいPCR添加物は、ベタイン(1−カルボキシ−N,N,N−トリメチル−メタンアミニウム分子内塩)および他の−OOC−CH−NMe+基(集合的に「ベタイン」)によって特徴付けられる双性イオン塩基である。そのPCR添加物を、増幅産物の特異性を改善するために有効な量で、PCR反応混合物に有利に加える。典型的には1mMから5Mまでの、好ましくは約1Mの添加物の濃度を用いるが、添加物の非存在下で行ったPCR反応物と比較して、特異的増幅産物の収量を改善するあらゆる量が適当である。
【0060】
逆転写を含むPCR(RT−PCR)反応において、本発明の材料および方法は、さらなる操作工程によって酵素反応を中断することなく、1つの容器において連続的な反応を行うことを可能にする。
【0061】
本発明はまた、キット、本方法を実施するために有用な成分を含む複数容器のユニットに関連する。有用なキットは、可逆的に不活性化された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ、およびオリゴヌクレオチドプライマー、基質ヌクレオシド3リン酸塩、補助因子、および適当な緩衝剤のような、増幅反応を行うための1つまたはそれを超える試薬を含む。
【0062】
ある実施態様において、本発明は、Tris緩衝化反応緩衝剤またはTris緩衝化反応混合物と共に、そのような不活性化された熱安定性酵素を含むキットに関連する。
【0063】
ある実施態様において、本発明は、さらなる操作工程による酵素反応の中断無しに、単一の反応チューブにおいて連続的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行うための、不活性化PolB DNAポリメラーゼと組み合わせたRNアーゼH陽性逆転写酵素およびRNアーゼH陰性逆転写酵素の使用に関連する。
【0064】
下記に示す本発明の実施例は、説明目的のためのみに提供され、そして本発明の範囲を制限しない。実施例に続く特許請求の範囲内の、本発明の多くの実施態様が、前述の本文および以下の実施例を読むことより当業者に明らかである。
【0065】
分子生物学の適用、酵素学、タンパク質化学および核酸化学の標準的なプロトコールが、Molecular Cloning−A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、N.Y.(Sambrookら、1989);PCR Protocols−A Guide to Methods and Applications、Academic Press、N.Y.(Innisら編、1990)、PCR Primer−A Laboratory Manual、CSHL Press (DieffenbachおよびDveksler編、1995);およびMethods in Enzymology、Academic Press,Inc.のような、印刷された出版物においてよく記載されている。本明細書中で引用された全ての特許、特許出願、および出版物は、参考文献に組み込まれる。
【0066】
本教示の局面は、以下の実施例に照らしてさらに理解され得るが、それらはいかなる方法においても本教示の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0067】
実施例1 ECA001の改変
ECA001と呼ばれる、ファミリーBのDNAポリメラーゼ融合タンパク質を、本発明の方法による改変のために使用した。ECA001は、全長のPfuDNAポリメラーゼのC末端に結合した、crenarchaeon Pyrobaculum aerophilum由来の核酸結合ポリペプチドPae3192を含む。ECA001は、米国特許出願第20060228726号において10His−Pfu−Pae3192と記載され、それは本明細書中でその全体として参考文献に組み込まれる。ECA001を以下のように構築した。全長PfuDNAポリメラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を、Pae3192をコードするポリヌクレオチド配列と共にフレームに含むNdeI−XhoI制限断片を、標準的な組換え法を用いて、pET16bベクター(Novagen、Milwaukee、Wis.)のNdeI部位およびXhoI部位にクローニングした。得られた組換えベクター(pDS2r)は、Gly−Thr−Gly−Gly−Gly−Glyペプチドリンカーによって、Pfu DNAポリメラーゼのC末端に結合したPae3192を含む融合タンパク質をコードする。10×His親和性タグが、融合タンパク質のN末端に存在する。
【0068】
ECA001の改変を、以下のように行った:DMF中27mMのシトラコン酸無水物(CAD)の50mlを、4℃で保持していた1リットルの精製ECA001と混合し、そして50mMのTris、pH9、0.1mMのEDTA、および0.01%のTweenを含む緩衝剤によって、A280=1の吸光度および9.0のpHに調整した。その混合物を、4℃で60分間混合し続けてから、保存緩衝剤に移した。上記で記載したCAD対酵素比は約100対1であり、そして酵素溶液と混合するCADの濃度を調整することによって、800:1、400:1、200:1、100:1、50:1、および20:1のような他の比を使用し得る。
【0069】
得られた改変タンパク質を、ECA001GoldまたはECA001Gと呼ぶ。
【0070】
実施例2 改変ECA001Gは、検出可能なDNAポリメラーゼ活性および3’−5’ヌクレアーゼ活性を有さない
この実施例は、(1)改変後、活性化の前にはDNAポリメラーゼ活性および3’−5’ヌクレアーゼ活性は検出されず、そして熱活性化後検出可能となること;(2)ECA001Gは、pH8において最適に活性化され、そして活性化された酵素はPCRにおいて有用であること;(3)ECA001Gは、プライマーダイマーの形成を排除することによって、PCRを改善することを示す。
【0071】
実施例2.1 この実施例は、ECA001Gは、活性化の前にはポリメラーゼ活性およびエキソヌクレアーゼ活性の両方において不活性であるが、そのような活性は、熱活性化の後に復活することを実証することを意図する。この目的のために、2つの活性アッセイ、ポリメラーゼ活性アッセイおよびエキソヌクレアーゼ活性アッセイを用いて、(1)改変前、(2)改変後だが再活性化前、および(3)改変してかつ再活性化後に、それぞれタンパク質サンプルを試験した。
【0072】
活性アッセイは、1×AmpliTaq Gold緩衝剤、1.5mMのMgCl、50mMのKCl、0.25mMの各dNTP、および500nMの基質を含む。ポリメラーゼ活性アッセイに関して、5’から3’への以下の配列を有するPolsub14と呼ばれる基質を用いる:
【0073】
【化4】

ここで、BHQ1はBlackhole Quencher1、Biosearch Biotechnologies、Novato、Calif.の製品であり、そしてFAM−dTは塩基にフルオレセイン(FAM)が結合したデオキシチミンである。FAMは、520nmで発光するフルオロフォアであり、そしてBHQ1(登録商標)が近傍に留まる場合それによって消光し得る。その構造を下記に示す:
【0074】
【化5】

Polsub14は、下記に示すように、ポリメラーゼ活性をアッセイするその天然の状態においてヘアピン構造が想定されている:
【0075】
【化6】

最後から2番目の位置でdTの塩基に結合したフルオレセイン(FAM)FRETドナーは、主に1本鎖領域によってBHQ1から離されている。この配置は、BHQ1がフルオレセインを有効に消光することを可能にする。一旦基質がポリマー化したら、1本鎖領域は、下記に示すように2本鎖になり:
【0076】
【化7】

それはより硬い2本鎖DNAによってBHQ1をフルオレセインから離し、フルオレセインを発光させる。
【0077】
3’−5’ヌクレアーゼアッセイに関して、基質(Exo−MM HP)は、配列
【0078】
【化8】

を有し、それも天然の状態で下記に示すヘアピン構造を形成する。
【0079】
【化9】

この基質は、2つの特徴を有する:(1)3’末端においてdTの塩基に結合したFAMは、BHQ1によって消光される;(2)FAMが結合しているdTは鋳型とミスマッチである。PolB酵素がこのヘアピンに結合した場合、3’−5’ヌクレアーゼ活性がそのミスマッチを認識し、そしてそれに結合したFAMと共に塩基を切除し、FAMの発光をもたらす。
【0080】
反応緩衝剤において、基質無しで、98℃で10分間、活性化を行った。図1は、100μl中の1.5ユニットの酵素に関する活性化前および後の、60℃において決定した活性を示す。
【0081】
図1に示すように、ECA001G(001Gと呼ばれる)は、活性化前には検出可能なポリメラーゼ活性を示さなかったが、活性化後には活性を示した(Act001Gと呼ばれる)。非改変酵素、ECA001G(001と呼ばれる)をコントロールとして用いた。
【0082】
実施例2.2 この実施例は、ECA001GがpH8において最適に活性化され、そして活性化された酵素はPCRにおいて有用であることを実証するために役立つ。
【0083】
PCR反応を、pH8、pH8.5、およびpH9のそれぞれにおいて、1.5mMのMgCl、50mMのKCl、0.25mMの各dNTP、全長のGAPDHcDNAクローンを含む10コピーのプラスミド、およびそれぞれ500nMのGAPDH前向き(GAAGGTGAAGGTCGGAGTC)(配列番号3)およびGAPDH逆向き(GAAGATGGTGATGGGATTTC)(配列番号4)プライマーを含む、50mMのTris中で、5ユニット/100μlのECA001Gを用いて行った。サイクリング条件は、98℃における10分間の活性化と、それに続く98℃で15秒間および60℃で1分間の40サイクルであった。サイクリングが終了した後、PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した。その結果を図2に示す。pH8における活性化が、最も高い収量を生じた;一方pH8.5は最適以下の収量を生じ、そしてpH9は増幅産物を生じなかった。
【0084】
実施例3.ECA001Gは、厳しいPCR条件下で標的核酸をうまく増幅した
この実験は、厳しいPCR条件下におけるECA001Gの有用性を実証する。これらの条件下で、もしホットスタート技術が採用されなかったら、PCR反応混合物においてプライマーダイマーが形成する傾向がある。ホットスタートの性質によって、PCR反応はプライマーダイマーがないか、またはプライマーダイマーによる妨害の減少を示す。
【0085】
この実施例は、PCR Residual Activity Assayと呼ばれる反応を含み、それはそれぞれ3つのセットのプライマーを含む。そのプライマーのセットは、Applied Biosystems、Foster City、Calif.から市販されている。具体的にはセット1はHs00378363_g1;セット2はHs00399572_m1およびセット3はHs00372859_m1である。
【0086】
その成分を下記に列挙する:
1×PCR緩衝剤
1×MgCl
0.2mMの各dNTP
50ユニット/mlのDNAポリメラーゼ
1×プライマーミックス
および0.8ng/μlのcDNA(ヒト)
個々のポリメラーゼの必要性のために、1×緩衝剤および1×MgClは下記に示すように異なる:
【0087】
【表1】

ECA001のサイクリング条件を下記に列挙する:
プレインキュベーション 25℃で60分間
98℃で30秒間
40サイクルの
98℃で5秒間
60℃で1分間
ECA001−Goldのサイクリング条件
プレインキュベーション 25℃で60分間
95℃で10分間
40サイクルの
98℃で5秒間
60℃で1分間
AmpliTaqのサイクリング条件
プレインキュベーション 25℃で60分間
95℃で30秒間
40サイクルの
95℃で10秒間
60℃で1分間
AmpliTaq Goldのサイクリング条件
プレインキュベーション 25℃で60分間
95℃で10分間
40サイクルの
95℃で10秒間
60℃で1分間
各反応を、2組で行った。サイクリング後、産物を図3に示すようにエチジウムブロミドアガロースゲルに流した。
【0088】
図3は、AmpliTaqが、記載した条件下で3つのプライマーセット全てに関して、主に非特異的/プライマーダイマー産物を産生したが、AmpliTaq Goldは主に特異的産物を産生することを示す。ECA001は、生来AmpliTaqよりも非特異的産物の形成またはプライマーダイマーの形成が少なく、そしてECA001Gは非特異的産物/プライマーダイマーの産生を示さなかった。これらのECA001Gの結果は、非特異的産物を欠くことに関してAmpliTaq Goldの結果に匹敵するが、ECA001Gからの収量は、特にプライマーセット2に関して、Taq Goldの収量より多かった。
【0089】
実施例4 PolB酵素は、室温においてTaqよりも低いポリメラーゼ活性を有する
PolB DNAポリメラーゼ酵素は、室温において比較的低いポリメラーゼ活性を有するが、Taq DNAポリメラーゼは依然としてそのピーク活性の>5%を保持する(図4)。
【0090】
実施例5:エキソヌクレアーゼ活性対ポリメラーゼ活性比は、活性化後も変化しない
我々のデータ(図3)は、プライマーダイマーまたは非特異的産物を形成する傾向が殆どないことを示した。リシンは多くの酵素において見出し得る、よくあるアミノ酸であることは本当である。Birch’152特許における化学物質は、我々の手で、Taqの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性(プルーフリーディング活性とは異なる)を改変し得ることが証明された。しかし、エキソヌクレアーゼ活性対ポリメラーゼ活性比は変化した(図5)。
【0091】
一般的な酵素、Taqの代わりにPolB酵素を使用するいくつかの利点が存在する。(1)PolB酵素はプルーフリーディング活性を有しており、従って、PCR産物のエラー率は典型的には有意により低い。(2)PolB酵素は、ECA001と同様、図3に示すように、プライマーダイマーおよび非特異的産物を形成する傾向もより少ない。(3)PolB酵素は、最終PCR産物に余分のアデノシンを付加する傾向がなく、それゆえその産物は2つのプライマーによって規定される正確な長さである。対照的に、Taqは+1産物と正確な産物の混合物を産生する。もし均一な産物が望ましいなら、72℃における長いPCR後のインキュベーションが必要である。
【0092】
実施例6:不活性化KOD DNAポリメラーゼの調製
KODの改変を以下のように行った:DMF中27mMシトラコン酸無水物(CAD)の50mlを、4℃で保持していた1リットルの精製KODと混合し、そして50mMのTris、pH9、0.1mMのEDTA、および0.01%のTweenを含む緩衝剤によって、A280=1の吸光度および9.0のpHに調整した。その混合物を、4℃で60分間混合し続けてから、保存緩衝剤に移す。上記で記載したCAD対酵素の比は、約100対1であり、そして800:1、400:1、200:1、100:1、50:1、および20:1のような他の比も、酵素溶液と混合するCADの濃度を調整することによって試した。エキソヌクレアーゼ活性およびポリメラーゼ活性を、ECA001に関して上記で記載したようにアッセイする。
【0093】
実施例7:2,3−ジフェニルマレイン酸無水物を用いた、不活性化ファミリーB DNAポリメラーゼの調製
2,3−ジフェニルマレイン酸無水物によるECA001の改変を、以下のように行った:DMF中27mMの2,3−ジフェニルマレイン酸無水物(DPMA)の50mlを、4℃で保持していた1リットルの精製ECA001と混合し、そして50mMのTris、pH9、0.1mMのEDTA、および0.01%のTweenを含む緩衝剤によって、A280=1の吸光度および9.0のpHに調整した。その混合物を、4℃で60分間混合してから、保存緩衝剤に移した。上記で記載したDPMA対酵素の比は、約100対1であり、そして800:1、400:1、200:1、100:1、50:1、および20:1のような他の比も、酵素溶液と混合するDPMAの濃度を調整することによって試した。エキソヌクレアーゼ活性およびポリメラーゼ活性を、実施例2において上記で記載したようにアッセイした。
【0094】
我々は、DPMAによるECA001の改変は、酵素の不活性化をもたらすことを見出した。95℃で10分間加熱することが、ポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の両方を回復させた。しかし、回復した酵素は、PCR反応において機能できなかった。
【0095】
前述の説明および実施例は、単に本発明を説明するために述べられ、そして制限することを意図しない。本発明の精神および物質を含む、開示された実施態様の改変が当業者に起こり得るので、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその同等物の範囲に入る全てのバリエーションを含むよう広く解釈されるべきである。さらに、本明細書中で引用された全ての参考文献の教示および開示は、その全体として参考文献に明確に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の両方を有する、改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼであって、ここで該改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼは、基本的に水性の条件下で、熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、式Iの改変因子試薬と反応させることによって産生され、
【化10】

ここでRおよびRは水素であるかまたは連結し得るC−Cアルキルであり、ここで該反応は熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の不活性化をもたらし、そしてここでその熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は復元可能である、改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項2】
前記PolB DNAポリメラーゼは、Pfu、KOD、Tli、またはPfxであるか、またはVent(登録商標)、Deep Vent(登録商標)、PhusionTM、またはiProofTMの商品名で販売されているDNAポリメラーゼ、またはDNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するその断片またはその変異体である、請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項3】
前記PolB DNAポリメラーゼは、Pfu、KOD、Tli、またはPfx、またはVent(登録商標)、Deep Vent(登録商標)、PhusionTM、またはiProofTMの商品名で販売されているDNAポリメラーゼ、またはDNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するその断片またはその変異体を含む融合タンパク質である、請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項4】
前記PolB DNAポリメラーゼは、Pfuを含む融合タンパク質である、請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項5】
前記PolB DNAポリメラーゼは、10His−Pfu−Pae3192である、請求項4に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項6】
前記改変因子試薬は、無水マレイン酸または置換無水マレイン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項7】
前記改変因子試薬は、シトラコン酸無水物、シス−アコニット酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、エキソ−シス−3,6−endoxo−δ−テトラヒドロフタル酸無水物;または3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物である、請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項8】
前記改変因子試薬は、シトラコン酸無水物である、請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項9】
前記ポリメラーゼ活性および前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、前記熱安定性PolB DNAポリメラーゼを高い温度でインキュベートすることによって復元可能である、請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項10】
前記高い温度が>50℃である、請求項9に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項11】
前記高い温度が95℃である、請求項10に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項12】
前記高い温度が96.5℃である、請求項9に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項13】
前記高い温度が98℃である、請求項9に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項14】
前記ポリメラーゼ活性および前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、前記熱安定性PolB DNAポリメラーゼを高い温度でインキュベートすることによって復元されている、請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項15】
前記ポリメラーゼ活性および前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、前記熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、約7.5および約8.5の間のpHを有する反応緩衝剤中でインキュベートすることによって復元されている、請求項14に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項16】
前記ポリメラーゼ活性および前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は、前記熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、約8.0のpHを有する反応緩衝剤中でインキュベートすることによって復元されている、請求項14に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項17】
前記ポリメラーゼ活性と前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性との比は、改変される前と基本的に同じ値まで復元される、請求項4に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項18】
熱安定性PolB DNAポリメラーゼを改変するための方法であって、該方法は熱安定性PolB DNAポリメラーゼと式Iの改変因子試薬とを反応させる工程を含み、
【化11】

ここでRおよびRは水素であるかまたは連結し得るC−Cアルキルであって、そしてここで該反応は、熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の不活性化をもたらし、ここで該熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性は復元可能である、方法。
【請求項19】
前記PolB DNAポリメラーゼは、Pfu、KOD、Tli、またはPfxであるか、またはVent(登録商標)、Deep Vent(登録商標)、PhusionTM、またはiProofTMの商品名で販売されているDNAポリメラーゼ、またはDNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するその断片またはその変異体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記PolB DNAポリメラーゼは、Pfu、KOD、Tli、またはPfx、またはVent(登録商標)、Deep Vent(登録商標)、PhusionTM、またはiProofTM、またはPfu Ultra FusionTMの商品名で販売されているDNAポリメラーゼ、またはDNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有するその断片またはその変異体を含む融合タンパク質である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記PolB DNAポリメラーゼは、Pfuを含む融合タンパク質である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記PolB DNAポリメラーゼは、10His−Pfu−Pae3192である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記改変因子試薬は、無水マレイン酸または置換無水マレイン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記改変因子試薬は、シトラコン酸無水物、シス−アコニット酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、エキソ−シス−3,6−endoxo−δ−テトラヒドロフタル酸無水物;または3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物である、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記改変因子試薬は、シトラコン酸無水物である、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリメラーゼ活性および前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を、前記熱安定性PolB DNAポリメラーゼを高い温度でインキュベートすることによって復元する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記高い温度が>50℃である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記高い温度が98℃である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、約7.5および約8.5の間のpHを有する反応緩衝剤中でインキュベートすることによって、前記ポリメラーゼ活性および前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を復元する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
前記pHは、約8.0である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、約8.0のpHを有する反応緩衝剤中でインキュベートすることによって、前記ポリメラーゼ活性および前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を復元する工程をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記ポリメラーゼ活性と前記3’−5’エキソヌクレアーゼ活性との比は、改変される前と基本的に同じ値まで復元される、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
サンプル中に含まれる標的核酸を増幅するための方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)該サンプルを、該標的核酸に相補的なプライマーおよび請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼを含む増幅反応混合物と接触させる工程;および
(b)工程(a)の生じた混合物を、約50℃より高い温度で、PolB DNAポリメラーゼを再活性化し、そしてプライマー伸長産物の形成を可能にするために十分な時間インキュベートする工程
を含む、方法。
【請求項34】
前記増幅はポリメラーゼ連鎖反応である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
DNAポリメラーゼ活性および3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の両方を有する、改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼであって、ここで該改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼを、基本的に水性の条件下で、式Iの改変因子試薬と反応させており、
【化12】

ここでRおよびRは水素であるかまたは連結し得るC−Cアルキルであり、それにより、該熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および該3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の両方が不活性化され、そして該熱安定性PolB DNAポリメラーゼ活性および該3’−5’エキソヌクレアーゼ活性の両方は、高い温度でインキュベートすることによって復元可能であり、それにより該ポリメラーゼ活性と該3’−5’エキソヌクレアーゼ活性との比は、該熱安定性PolB DNAポリメラーゼが該改変因子試薬と反応される前と基本的に同じ値まで復元される、改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項36】
ポリメラーゼ連鎖反応において検出可能な増幅産物を産生することができる、請求項35に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼ。
【請求項37】
少なくとも一つのプライマーおよび請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼを含む、ポリメラーゼ連鎖反応増幅反応混合物。
【請求項38】
請求項1に記載の改変された熱安定性PolB DNAポリメラーゼおよび適切な容器を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−537637(P2010−537637A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523109(P2010−523109)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/074432
【国際公開番号】WO2009/029648
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(500069057)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (120)
【Fターム(参考)】