説明

PET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法

【課題】PET装置の時間分解能を上げなくても、同時計数のタイミング補正値の精度を上げることができる方法を提供する。
【解決手段】基準線源からPET装置の検出器リングの検出面に対し放射線を照射する(1)。PET検出器によって放射線を検出したとき、その検出時刻を、当該放射線を検出したPET検出器の識別情報とともに記録する(2)。記録情報に基づき、PET装置の視野内に位置する全てのPET検出器の対について、当該対をなすPET検出器の間に生じる検出時刻の差を算出し、PET検出器の対毎に検出時刻の差をカウントすることによってPET検出器の対毎のタイミングヒストグラムを取得する(3)。PET検出器の対毎に、タイミングヒストグラムのピーク位置を、その時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求めることにより、PET検出器の対毎のタイミング補正値を取得する(4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RI線源を含む薬剤の投与を受けた被検体内から互いに180°反対向きに放出される放射線を検出することによって、被検体の機能画像を生成するPET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核医学診断装置の1つとして、PET(Positron Emission Tomography)装置が知られている。PET装置は、RI線源(陽電子放出核種)を含む薬剤の投与を受けた被検体内から互いに180°反対向きに放出されるγ線の対を同時計数することにより、RI線源の体内分布を画像化したPET画像を生成し、生体機能を見るための装置であり、生体や疾病患の臨床検査等に応用されている。
【0003】
PET装置は、γ線を検出するための複数個のPET検出器モジュールから構成された検出器リングを備えている。PET検出器モジュールは、一般に、シンチレータ結晶の2次元的配列からなるシンチレータアレイを有するシンチレータブロックと、このシンチレータブロックに光結合された光電子増倍管とから構成されている。
【0004】
被検体内から放出された放射線は、PET検出器モジュールのシンチレータ結晶に光電吸収され、それによってγ線のエネルギーが光に変換され、さらに、この光はPET検出器モジュールの光電子増倍管によってパルス状の電気信号に変換され、この信号に基づいてγ線の入射位置、エネルギーおよび検出時刻が特定される。
【0005】
PET装置においては、PET検出器によるγ線の検出時刻の遅れや、検出回路による処理の遅れ等を考慮して時間窓(Time Window)が設定され、前後して2度のγ線の検出がなされた場合に、それらが時間窓内にあれば、検出された2つのγ線は1つの電子・陽電子対の消滅によって同時に発生したγ線であると判定され、この電子・陽電子対の消滅地点が、それらのγ線を検出したPET検出器を結ぶ直線上において特定される。
そして、PET装置は、被検体内から互いに180°反対向きに放出される一対のγ線を同時計数し、一定時間にわたって収集した同時計数データに基づいて、被検体内におけるRI線源の分布画像(PET画像)を再構成し、ディスプレイ表示する。
【0006】
この場合、より正確なPET画像を得るために、γ線対を検出する一対のPET検出器間に生じる検出時刻の差が、検出器リングの全体にわたって一様になるように同時計数のタイミングが補正される。
この同時計数のタイミングの補正においては、検出器リングの中央開口部内に基準線源を配置して基準線源から放射線を照射し、PET検出器によって放射線を検出したとき、その検出時刻を、当該放射線を検出したPET検出器の識別情報とともに記録し、記録した情報に基づき、PET装置の視野内に位置する全てのPET検出器の対について、対をなすPET検出器の間に生じる検出時刻の差を算出し、検出時刻の差をカウントすることによってタイミングヒストグラムを取得した後、タイミングヒストグラムのピーク位置を求めることによってタイミング補正値が得られる。
【0007】
しかしながら、タイミングヒストグラムのピーク位置は、ヒストグラムのビン数に基づいて決定されるので、タイミング補正値の精度は、放射線の検出時刻の測定精度(PET装置の時間分解能)による制限を受け、そのため、タイミング補正値の精度を上げるには、PET装置の時間分解能を向上させねばならないが、これを実現することは容易ではない。
【0008】
また、PET画像の精度を上げるためには、PET検出器の空間分解能、すなわち、PET検出器に対するγ線の入射位置の検出精度を上げる必要がある。
ところで、γ線の入射位置は、γ線との相互作用により発光したシンチレータ結晶を識別することによって検出されるので、γ線がPET検出器の検出面に斜めに入射してシンチレータ結晶の深部で発光が生じた場合には、実際のγ線の入射位置とγ線の検出位置との間にずれが生じ、それによってPET検出器の空間分解能が低下する。
【0009】
そこで、微小なシンチレータ結晶を複数段積層したものを2次元的に配列してシンチレータブロックとし、それに光電子増倍管を光結合したDOI検出器が提案されている。DOI検出器によれば、シンチレータ結晶の深さ方向の放射線検出情報が得られるので、放射線がDOI検出器の検出面に斜めに入射した場合でも、空間分解能の低下が抑制出来る(例えば、特許文献1、2参照)。
【0010】
しかしながら、シンチレータ結晶中では、γ線は光速で伝播するのに対し、蛍光(シンチレータ結晶による発光)は光速の1/3程度の速度でしか伝播しない。このため、DOI検出器のようにシンチレータ結晶の積層構造を有するPET検出器の場合、光電子増倍管に近いシンチレータ結晶の層による検出時間の方が、光電子増倍管から遠いシンチレータ結晶の層による検出時間よりも短くなる。さらには、1つのDOI検出器内においてもシンチレータ結晶の層毎に品質にバラツキが生じ、シンチレータ結晶の層毎に検出回路による測定誤差が異なる。
このため、従来と同じ方法で同時計数のタイミング補正を行うことができないという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−43104号公報
【特許文献2】特開2005−90979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の課題は、PET装置の時間分解能を上げなくても、同時計数のタイミング補正値の精度を上げることができる方法を提供することにある。
また、本発明の課題は、検出器リングがDOI検出器から構成されている場合であっても、PET装置の同時計数のタイミング補正値を高精度で求めることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、第1発明は、複数個のPET検出器から構成された検出器リングを有し、前記検出器リングの中央開口部内に、RI線源を含む薬剤の投与を受けた被検体が配置されたとき、前記被検体の内部から180°反対向きに放出される一対の放射線を、互いに対向する前記PET検出器によって同時計数し、蓄積した同時計数情報を用いて前記被検体内におけるRI線源の分布画像を再構成するPET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法であって、
(1)前記検出器リングの前記中央開口部内に基準線源を配置し、前記基準線源から前記検出器リングの検出面に対し放射線を照射するステップと、
(2)前記PET検出器によって前記放射線を検出したとき、その検出時刻を、当該放射線を検出したPET検出器の識別情報とともに記録するステップと、
(3)前記ステップ(2)で記録した情報に基づき、前記PET装置の視野内に位置する全ての前記PET検出器の対について、前記対をなす前記PET検出器の間に生じる検出時刻の差を算出し、前記PET検出器の対毎に前記検出時刻の差をカウントすることによって前記PET検出器の対毎のタイミングヒストグラムを取得するステップと、
(4)前記PET検出器の対毎に、前記タイミングヒストグラムのピーク位置を、前記タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求めることにより、前記PET検出器の対毎のタイミング補正値を取得するステップと、を有することを特徴とする方法を構成したものである。
【0014】
第1発明において、前記PET検出器が、シンチレータ結晶の積層構造を有するDOI検出器であるとき、前記DOI検出器内に前記シンチレータ結晶の層毎に異なる前記PET検出器が形成されたものとして、前記ステップ(1)〜(4)を実行することが好ましい。
【0015】
上記課題を解決するため、また、第2発明は、複数個のPET検出器から構成された検出器リングを有し、前記検出器リングの中央開口部内に、RI線源を含む薬剤の投与を受けた被検体が配置されたとき、前記被検体の内部から180°反対向きに放出される一対の放射線を、互いに対向する前記PET検出器によって同時計数し、蓄積した同時計数情報を用いて前記被検体内におけるRI線源の分布画像を再構成するPET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法であって、
(1)前記検出器リングの前記中央開口部内に基準線源を配置し、前記基準線源から前記検出器リングの検出面に対し放射線を照射するステップと、
(2)前記PET検出器によって前記放射線を検出したとき、その検出時刻を、当該放射線を検出したPET検出器の識別情報とともに記録するステップと、
(3)前記ステップ(2)で記録した情報に基づき、前記PET装置の視野内に位置する全ての前記PET検出器の対について、前記対をなす前記PET検出器の間に生じる検出時刻の差を算出し、前記検出時刻の差をカウントすることによってタイミングヒストグラムを取得するステップと、
(4)前記タイミングヒストグラムのピーク位置を、前記タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求めることにより、前記検出器リングのタイミング補正値を取得するステップと、を有することを特徴とする方法を構成したものである。
【0016】
第2発明において、前記PET検出器が、シンチレータ結晶の積層構造を有するDOI検出器であるとき、前記DOI検出器内に前記シンチレータ結晶の層毎に異なる前記PET検出器が形成されたものとして、前記ステップ(1)〜(4)を実行することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、検出器リングを構成するPET検出器の対毎に得られたタイミングヒストグラム、または、検出器リングを構成するPET検出器の全ての対について得られたタイミングヒストグラムのピーク位置を、当該タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求め、PET装置の同時計数のタイミング補正値を求めるようにしたので、放射線の検出時刻の測定精度(PET装置の時間分解能)は従来のままで、PET装置の時間分解能を上げた場合に得られるのと同様の精度でタイミング補正値を得ることができる。
【0018】
また、本発明によれば、PET検出器が、シンチレータ結晶の積層構造を有するDOI検出器であるときは、DOI検出器内にシンチレータ結晶の層毎に異なるPET検出器が形成されたものとして、従来のPET検出器の場合と同様に、同時計数のタイミング補正値を高精度で容易に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の1実施例によるPET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法のフロー図である。
【図2】本発明の別の実施例によるによるPET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法のフロー図である。
【図3】本発明の方法が適用されるPET装置の主要部の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の方法が適用されるPET装置のPET検出器モジュールの構成を示す斜視図である。
【図5】シンチレータ結晶の2層構造を有するDOI検出器を備えたPET装置の時間分解能を0.5nsとした場合のタイミングヒストグラムを示すグラフである。
【図6】シンチレータ結晶の2層構造を有するDOI検出器を備えたPET装置の時間分解能を2nsとした場合のタイミングヒストグラムを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例について説明する。図1は、本発明の1実施例によるPET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法のフロー図であり、図3は、本発明の方法が適用されるPET装置の主要部の概略構成を示す図である。また、図4は、本発明の方法が適用されるPET装置のPET検出器モジュールの構成を示す斜視図である。
図3を参照して、PET装置は、複数のPET検出器モジュール2から構成された検出器リング1を備えている。そして、RI線源を含む薬剤の投与を受けた被検体4を臥位に支持した天板5が、被検体4の体軸と検出器リング1の軸とが平行になるような配置で検出器リング1の中央開口部3に配置されるとともに、検出器リング1の軸方向に沿って往復運動せしめられる。
【0021】
PET検出器モジュール2は、この実施例では、図4(A)に示すように、シンチレータ結晶11の2次元的配列(検出素子マトリクスが9×10)からなるシンチレータアレイを有するシンチレータブロック12と、このシンチレータブロック12に光結合された4本の光電子増倍管13とから構成されている。
【0022】
PET検出器モジュール2においては、各1個のシンチレータ結晶11と、それに光結合された光電子増倍管13とから各1個のPET検出器が形成され、被検体4内から放出された放射線は、PET検出器のシンチレータ結晶11に光電吸収され、それによって放射線のエネルギーが光に変換され、さらに、この光は光電子増倍管13によって電気信号に変換される。
【0023】
各PET検出器モジュール2の後段には前置回路6が接続され、各前置回路6からは、検出した放射線の波高値、検出時刻のデータおよびPET検出器の識別情報を含むデータが出力される。同時計数回路7は、検出時刻のデータおよびPET検出器の識別情報に基づいて同時計数を行い、放射線の検出位置を特定し、メモリ部8に記録する。画像再構成部9は、メモリ部8に記録された同時計数データに基づいて画像再構成処理を行い、PET画像を生成する。生成されたPET画像は表示装置10に表示される。
【0024】
図1を参照して、本発明の方法によれば、まず、検出器リング1の中央開口部3内に基準線源が配置され、基準線源から検出器リング1の検出面に対し放射線が照射される(ステップ1)。この実施例では、基準線源は、511keVのγ線を放出する核種からなっている。
【0025】
次に、PET検出器によって放射線(γ線)が検出されたとき、その検出時刻が、当該放射線(γ線)を検出したPET検出器の識別情報とともに記録される(ステップ2)。
この場合、PET検出器モジュール2中の放射線(γ線)を検出したPET検出器(シンチレータ結晶11)の特定が、前置回路6において、次のようにしてなされる。すなわち、収集された各光電子増倍管13の出力信号を用いて重心演算がなされ、得られた重心位置が9×10領域に区分けされた2次元位置マップ上に投影される。そして、2次元位置マップ上における各シンチレータ結晶11に対応する位置ルックアップテーブルが作成され、それによって、放射線(γ線)と相互作用したシンチレータ結晶11が特定される。
【0026】
さらに、このとき、前置回路6において、PET検出器(シンチレータ結晶11)による放射線(γ線)の検出時刻が、例えば、LET(Leading Edge Trigger)方式、またはCFD(Constant Fraction Discriminator)方式によって決定される。LET方式は、γ線のエネルギー(強度)が立ち上がる際に、エネルギーが予め設定した閾値に到達した時点を検出時刻とする方式である。CFD方式は、放射線(γ線)の時間−エネルギー(強度)曲線について、測定値を所定値だけ増大させた曲線と、測定値のままの曲線とを、時間軸方向にずらすとともに、エネルギー軸方向にもずらして(Walkを履かせて)、両曲線の交点を求め、その交点を放射線(γ線)の検出時刻とする方式である。また、TDC(Time to Digital Converter)素子を用いても良い。
【0027】
そして、ステップ2で記録された情報に基づき、PET装置の視野内に位置する全てのPET検出器の対について、当該対をなすPET検出器の間に生じる検出時刻の差が算出され、PET検出器の対毎に検出時刻の差をカウントすることによってPET検出器の対毎のタイミングヒストグラムが取得される(ステップ3)。
【0028】
さらに、PET検出器の対毎に、タイミングヒストグラムのピーク位置が、タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求められ、PET検出器の対毎のタイミング補正値が取得される(ステップ4)。
【0029】
このステップ4について具体的に説明する。
タイミングヒストグラムは、検出時刻の差毎に計数値がプロットされたものであるから、ヒストグラムの時間軸のスケールの単位は検出時刻の測定精度で決まる。例えば、放射線の検出時刻の測定精度(=PET装置の時間分解能)が2nsであれば、タイミングヒストグラムの時間軸の単位は2nsとなる。この場合、従来法によれば、タイミングヒストグラムのピーク位置は2ns単位で求められるので、タイミング補正精度も2nsとなる。したがって、従来法では、タイミング補正精度を上げるには、PET装置の時間分解能を上げなければならなかった。
本発明では、タイミングヒストグラムのピーク位置を、タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求め、求めたピーク位置からタイミング補正値を算出することにより、PET装置の時間分解能は従来のままで、タイミング補正精度を上げた。
【0030】
タイミングヒストグラムのピーク位置の算出法としては、例えば、タイミングヒストグラムが基本的にピークを中心にして左右対称となるという点に鑑み、ピーク位置を重心演算から求める方法、あるいは、タイミングヒストグラムをガウス関数によって近似し、この近似曲線に基づき、タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位でピーク位置を求める方法を用いることができる。
【0031】
こうして、本発明の方法によれば、検出器リングを構成するPET検出器の対毎に得られたタイミングヒストグラムのピーク位置を、タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求め、PET装置の同時計数のタイミング補正値を求めることにより、PET装置の時間分解能は従来のままで、PET装置の時間分解能を上げた場合に得られるのと同様の精度でタイミング補正値を得ることができる。
【0032】
以上、本発明の好ましい1実施例について説明したが、本発明の構成は、上記実施例に限定されない。例えば、上記実施例では、検出器リングを構成するPET検出器モジュールが、シンチレータ結晶の2次元的配列からなるシンチレータアレイの単層構造を有するようなPET装置に本発明を適用したが、本発明を、図4(B)に示すようなDOI検出器モジュールから構成された検出器リングを備えたPET装置にも適用することもできる。図4(B)において、DOI検出器モジュール2’は、シンチレータ結晶11’の2次元的配列(検出素子マトリクスが9×10)からなるシンチレータアレイの2層構造を有するシンチレータブロック12’と、このシンチレータブロック12’に光結合された4本の光電子増倍管13とから構成されている。
DOI検出器モジュール2’においては、上下に積み重ねられた各1個のシンチレータ結晶11’の対と、それに光結合された光電子増倍管13とから各1個のDOI検出器が形成される。
【0033】
そして、DOI検出器モジュールの場合には、DOI検出器内に、シンチレータ結晶の層毎に異なるPET検出器が形成されたものとして、図1のステップ1〜4が実行される。それによって、上述した通常のPET検出器の場合と同様にして、高精度でタイミング補正値を求めることができる。
すなわち、図4(B)に示すような2層のDOI検出器の場合、1対のDOI検出器について、2=4通りのPET検出器の対が存在する。したがって、これらの4つのPET検出器の対のそれぞれについて放射線(γ線)の検出時刻の差をカウントしてタイミングヒストグラムを取得し、そのピーク位置を求めてタイミング補正値を算出する。
【0034】
次に、本発明の方法によってタイミング補正値の精度を上げると、PET装置の時間分解能を高めたのと同等の効果が得られるのかを確認するために、PET装置の時間分解能とタイミング補正値の精度との関係を実験で調べた。この実験では、図4(B)に示したDOI検出器モジュールから構成された検出器リングを備えたPET装置を用いた。そして、各DOI検出器について、光電子増倍管から遠い側にあるシンチレータ結晶の層をDOI0層、近い側にあるシンチレータ結晶をDOI1層として、DOI層毎に別々のPET検出器が形成されたものとして、放射線(γ線)が検出されるたびに、検出時刻と、検出したPET検出器の識別情報を記録した。そして、この記録情報に基づき、PET装置の視野内に位置する全てのPET検出器の対について、PET検出器間に生じる検出時刻の差を算出し、PET検出器の対毎に検出時刻の差をカウントしてタイミングヒストグラムを取得した。
【0035】
取得したタイミングヒストグラムを図5および図6のグラフに示す。なお、図5および図6においては、明瞭のために、DOI1層から形成されたPET検出器、およびDOI0層から形成されたPET検出器の対に関するタイミングヒストグラムのみを示した。また、図5のタイミングヒストグラムは、PET装置の時間分解能を0.5nsとした場合のものであり、図6のタイミングヒストグラムは、PET装置の時間分解能を2nsとした場合のものである。
【0036】
そして、図5および図6のタイミングヒストグラムのそれぞれのピーク位置を求め、タイミング補正値を求めた。図5のタイミングヒストグラムからは、−1.5ns(DOI0層‐DOI1層の対)と、2.5ns(DOI1層‐DOI0層の対)のタイミング補正値が得られた。また、図6のタイミングヒストグラムからは、−2ns(DOI0層‐DOI1層の対)と、2ns(DOI1層‐DOI0層の対)のタイミング補正値が得られた。
すなわち、時間分解能が高いほど得られるタイミング補正値の精度も上がることがわかる。このことから、本発明の方法によってタイミング補正値の精度を上げると、PET装置の時間分解能を高めたのと同等の効果が得られることがわかった。
【0037】
図1の実施例では、検出器リングを構成するPET検出器の対毎に、タイミング補正値を求めたが、本発明によれば、検出器リングのタイミング補正値を求めることもできる。図2には、検出器リングのタイミング補正値を求める実施例のフロー図を示した。
図2に示すように、この実施例では、ステップ1〜ステップ2までは、図1の実施例と同様の構成となっている。
【0038】
そして、ステップ2で記録された情報に基づき、PET装置の視野内に位置する全てのPET検出器の対について、当該対をなすPET検出器の間に生じる検出時刻の差が算出されるとともに、検出時刻の差がカウントされることによってタイミングヒストグラムが取得される(ステップ3)。
【0039】
さらに、タイミングヒストグラムのピーク位置が、タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求められ、検出器リングのタイミング補正値が取得される(ステップ4)。この場合、タイミングヒストグラムのピーク位置の算出法は、図1の実施例の場合と同様である。
【0040】
また、この実施例の場合も、図1の実施例と同様、シンチレータ結晶の単層構造を有するPET検出器だけでなく、シンチレータ結晶の積層構造を有するDOI検出器についても、DOI検出器内にシンチレータ結晶の層毎に異なるPET検出器が形成されたものとして、ステップ1〜4を実行することにより、高精度のタイミングヒストグラムを容易に取得することができる。
【0041】
本発明では、タイミングヒストグラムのピーク位置を、PET装置の時間分解能よりも細かい単位で求めることで、タイミング補正値の精度を上げるようにしたが、タイミング補正値の精度を上げる別の方法として、検出器リングの各PET検出器から出力される放射線の検出時刻のデータに、乱数を用いて、下位1ビットを付加することで、データのビット数を増大させ、それによってPET装置の時間分解能を擬似的に拡張することによって、タイミング補正値の精度を上げることも考えられる。
【符号の説明】
【0042】
1 検出器リング
2 PET検出器モジュール
2’ DOI検出器モジュール
3 中央開口部
4 被検体
5 天板
6 前置回路
7 同時計数回路
8 メモリ部
9 画像再構成部
10 表示装置
11、11’ シンチレータ結晶
12、12’ シンチレータブロック
13 光電子増倍管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のPET検出器から構成された検出器リングを有し、前記検出器リングの中央開口部内に、RI線源を含む薬剤の投与を受けた被検体が配置されたとき、前記被検体の内部から180°反対向きに放出される一対の放射線を、互いに対向する前記PET検出器によって同時計数し、蓄積した同時計数情報を用いて前記被検体内におけるRI線源の分布画像を再構成するPET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法であって、
(1)前記検出器リングの前記中央開口部内に基準線源を配置し、前記基準線源から前記検出器リングの検出面に対し放射線を照射するステップと、
(2)前記PET検出器によって前記放射線を検出したとき、その検出時刻を、当該放射線を検出したPET検出器の識別情報とともに記録するステップと、
(3)前記ステップ(2)で記録した情報に基づき、前記PET装置の視野内に位置する全ての前記PET検出器の対について、前記対をなす前記PET検出器の間に生じる検出時刻の差を算出し、前記PET検出器の対毎に前記検出時刻の差をカウントすることによって前記PET検出器の対毎のタイミングヒストグラムを取得するステップと、
(4)前記PET検出器の対毎に、前記タイミングヒストグラムのピーク位置を、前記タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求めることにより、前記PET検出器の対毎のタイミング補正値を取得するステップと、を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記PET検出器が、シンチレータ結晶の積層構造を有するDOI検出器であるとき、前記DOI検出器内に前記シンチレータ結晶の層毎に異なる前記PET検出器が形成されたものとして、前記ステップ(1)〜(4)を実行することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数個のPET検出器から構成された検出器リングを有し、前記検出器リングの中央開口部内に、RI線源を含む薬剤の投与を受けた被検体が配置されたとき、前記被検体の内部から180°反対向きに放出される一対の放射線を、互いに対向する前記PET検出器によって同時計数し、蓄積した同時計数情報を用いて前記被検体内におけるRI線源の分布画像を再構成するPET装置の同時計数のタイミング補正値を求める方法であって、
(1)前記検出器リングの前記中央開口部内に基準線源を配置し、前記基準線源から前記検出器リングの検出面に対し放射線を照射するステップと、
(2)前記PET検出器によって前記放射線を検出したとき、その検出時刻を、当該放射線を検出したPET検出器の識別情報とともに記録するステップと、
(3)前記ステップ(2)で記録した情報に基づき、前記PET装置の視野内に位置する全ての前記PET検出器の対について、前記対をなす前記PET検出器の間に生じる検出時刻の差を算出し、前記検出時刻の差をカウントすることによってタイミングヒストグラムを取得するステップと、
(4)前記タイミングヒストグラムのピーク位置を、前記タイミングヒストグラムの時間軸のスケールの単位よりも細かい単位で求めることにより、前記検出器リングのタイミング補正値を取得するステップと、を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
前記PET検出器が、シンチレータ結晶の積層構造を有するDOI検出器であるとき、前記DOI検出器内に前記シンチレータ結晶の層毎に異なる前記PET検出器が形成されたものとして、前記ステップ(1)〜(4)を実行することを特徴とする請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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