説明

PHAの製造方法

【課題】プラント建設コスト及びランニングコストを低減することができるPHAの製造方法を提供する。
【解決手段】廃食用油を炭素源として、水素細菌と混ぜ、水素細菌の菌体内にPHAを産生させる。次に、菌体を回収し、回収した菌体と次亜塩素酸水溶液とを混合して溶菌する。その後、PHAを単離する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、PHAの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、一般家庭で年間約42万トンの食用油が消費されているが、食品産業や外食産業と異なり、そのほとんどが回収されることなく可燃ゴミとして廃棄されている。そして、ゴミ焼却の際に大量の熱量と二酸化炭素(CO )を発生するため、地球温暖化や酸性雨の原因として、また、廃食用油の一部は下水に流れて河川や湖沼・海洋汚染の原因になるなど、地球規模での環境問題となっている。
【0003】
植物油廃液からの生分解性プラスチックの製造方法として、植物油廃液を嫌気処理し、酸発酵により植物油廃液中の有機物を有機酸に変換し、次いで固液分離手段により嫌気処理液からスラッジを分離除去し、固形物を除去した有機酸液を濃縮し、この濃縮有機酸液から水素細菌によりPHAを生成する方法が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−189183号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記発明では、その工程が多段階にわたっており、手間がかかっていた。また、プラント建設コスト及びランニングコストが高いという欠点があった。また、上記特許文献1には、PHAの単離および精製について明確に記載されていない。
【0006】
そこで、本発明は、簡便にPHAを製造することができるPHAの製造方法を提供することを目的とする。また、プラント建設コスト及びランニングコストを低減することができるPHAの製造方法を提供することを他の目的とする。さらに、菌体を凍結乾燥することなく、エーテルやヘキサン等の有機溶媒を使用せず、簡易にかつ低コストにてPHAを単離・精製することができるPHAの製造方法を提供することを別の目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明に係るPHAの製造方法は、廃食用油を炭素源として、水素細菌と混ぜ、該水素細菌の菌体内にPHAを産生させる方法である。
【0008】
また、廃食用油を炭素源として、水素細菌と混ぜ、該水素細菌の菌体内にPHAを産生させ、次に、上記菌体を回収し、回収した該菌体と次亜塩素酸水溶液とを混合して溶菌し、その後、PHAを単離する方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態を示す図面に基づき、本発明を詳説する。
【0010】
図1は、本発明の実施の一形態を示したフローチャート図であって、このPHAの製造方法は、廃食用油───大豆油、ごま油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、こめ油、綿実油、ひまわり油、コーン油、べにばな油、なたね油、椿油等から成る植物油の廃油───を原料として、生分解性プラスチックの一種であるPHA(すなわち、ポリヒドロキシアルカノエート)を製造する方法である。PHAの化学構造式を、化学式(1) に示す。
【0011】
【化1】






(ただし、式中Rは任意のアルキル基を示す。)
【0012】
このPHAの製造方法は、廃食用油を唯一の炭素源として、水素細菌と混ぜ、水素細菌の菌体内にPHAを産生させ、次に、菌体を回収し、回収した菌体と次亜塩素酸水溶液とを混合して溶菌し、その後、PHAを単離する方法である。
【0013】
具体的には、まず、水素細菌を定法により培養し、炭素源及び窒素源を制限した培地に交換する。次に、廃食用油を添加し、30℃で所定時間好気性条件化で培養する。水素細菌は、汎用培地(例えば、LB培地)で容易に培養することができる。また、単糖類(例えば、果糖)やアルキル鎖長の短い有機酸を炭素源として、窒素源を欠乏させた飢餓状態で培養したとき、生分解性プラスチックのPHAを産生することは公知である。培養中、酸性度(PH)の上昇が観測されるが、特に制御装置(例えば、PHセンサー)を使用することなく通常の回分式でPHAは効率よく産生することができる。
【0014】
培養終了後、自然沈降、濾過、あるいは遠心分離により菌体を分離する。濾過方法については重力濾過、減圧濾過、加圧濾過等の濾過方式が挙げられる。次に、分離した菌体に次亜塩素酸水溶液を滴下し、菌体を溶菌させる。この際、次亜塩素酸水溶液に不溶のPHAのみが沈殿し、他の菌体由来成分は水溶液中で可溶状態にある。
【0015】
PHAは、自然沈降、濾過、あるいは遠心分離により単離する。このようにして得られたPHAは、水(蒸留水)やエタノールで洗浄することにより精製することができる。
【0016】
なお、本発明は、設計変更可能であって、例えば、廃食用油に、水素細菌を添加するも良い。
【0017】
【実施例】
LB培地で前培養した水素細菌(Ralstonia eutropha)を遠心分離により集菌し、 500mlのさかぐちフラスコに 300mgの菌体と炭素源及び窒素源を欠いた培地を加え、微量塩類を添加する。ここへ、唯一の炭素源として、ごま油の廃油を1ml加えて、30℃で3日間振とう培養を行なう。培養終了後、遠心分離によって菌体を分離し、10mlの30%次亜塩素酸水溶液を滴下した。30℃で90分溶菌させた後、重力濾過によりPHAを分離した。このようにして得られたPHAを蒸留水とエタノールで洗浄し、減圧乾燥により精製した。
【0018】
分析は、以下の通りに行なった。
1)核磁気共鳴( H−NMR);Varian Gemini−200(200MHz) を用い、溶媒は重水素化クロロホルムであり、内部基準にテトラメチルシランを用いて化学シフトを求めた。
2)フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FT−IR);島津製作所社製 FTIR−8200を用い、岩塩板を用いたキャスト法で行なった。
【0019】
3)熱示差走査測定(DSC);島津製作所社製DSC−50を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで行なった。
4)サイズ排除クロマトグラフィー(GPC);本体は島津製作所社製LC−10AD 型ポンプ、同 CR−7A型データ処理器、同RID−6A型示差屈折率検出器を用い、カラムは東ソー社製 TSKgelG4000H8と G2500H8(いずれも内径 7.5mm、長さ 300mm)とを直列連結して用いた。溶離液はエタノールを 0.5%含有クロロホルム、カラム温度35℃、流速0.7 ml/minの条件で測定した。検量線は、定法通りに標準ポリスチレンを用いて作成した。
【0020】
測定結果を、図2〜図8に示す。
これらの測定結果より、次の各値を得た。
▲1▼ H−NMR(重水素化クロロホルム);デルタ値/ppm;1.30(d、3H、−CH )、2.55(m、2H、−CH −)、5.27(m、1H、−CH−)
▲2▼ C−NMR(重水素化クロロホルム);デルタ値/ppm;19.8(−CH )、40.8(−CH −)、67.6(−CH−)、169.2 (>C=O)
▲3▼FT−IR;カルボニル基の伸縮振動1727cm−1
▲4▼DSC;融点 170.0℃
▲5▼GPC;重量平均分子量 228kD
すなわち、本発明のPHAの製造方法によって、上述のようなPHAが得られたことが分かる。具体的には、ポリヒドロキシブチレート(PHB)が得られた。
【0021】
【発明の効果】
本発明は、上述の如く構成されるので、次に記載する効果を奏する。
【0022】
(請求項1,2によれば)廃食用油からPHAが簡便にかつ非常に安価で製造することが可能となる。例えば、製造コストを従来の製造方法の約60分の1に低減することができる。また、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の削減はもとより、ゴミ減量、河川・湖沼・海洋の汚染防止などの環境問題を克服できる有力な解決策の一つとなる。また、これまでPHAの問題であったコスト面でも解決可能であり、石油代替材料としての用途や利用分野が拡大される。さらに、資源循環型社会への転換に大きく寄与することができる。また、廃食用油の種類によって、種々のPHAを製造することができる。
【0023】
(請求項2によれば)菌体を凍結乾燥することなく、かつ、エーテルやヘキサン等の有機溶媒を使用せず、簡易にかつ低コストにてPHAを単離・精製することができる。そして、環境への負荷を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態を示すフローチャート図である。
【図2】水素細菌と生分解性プラスチックの重量変化の関係を示すグラフである。
【図3】図2における生分解性プラスチックの菌体中の割合を示すグラフである。
【図4】廃食用油濃度と水素細菌及び生分解性プラスチックの重量変化の関係を示すグラフである。
【図5】図4における生分解性プラスチックの菌体中の割合を示すグラフである。
【図6】実施例で得られたPHAの1H−NMRスペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例で得られたPHAのFT−IRスペクトルを示すグラフである。
【図8】実施例で得られたPHAのDSC曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃食用油を炭素源として、水素細菌と混ぜ、該水素細菌の菌体内にPHAを産生させることを特徴とするPHAの製造方法。
【請求項2】
廃食用油を炭素源として、水素細菌と混ぜ、該水素細菌の菌体内にPHAを産生させ、次に、上記菌体を回収し、回収した該菌体と次亜塩素酸水溶液とを混合して溶菌し、その後、PHAを単離することを特徴とするPHAの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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