説明

PM燃焼触媒

【課題】都市内走行時等の排気ガス温度が低い場合でも、PMを効率よく低減でき、PMの堆積によるフィルタの目詰まりが生じ難い、ディーゼルエンジン用のPM燃焼触媒を提供すること。
【解決手段】ディーゼルエンジン用PM燃焼触媒は、酸化物を含有するセラミックス繊維又は金属繊維から成る繊維集合体を備える。このディーゼルエンジン用PM燃焼触媒は、所謂ディーゼルパティキュレートフィルターとして機能し得る
繊維集合体の空隙率が50%超である。酸化物がセリウムとプラセオジムを含有する。酸化物がセラミックス繊維又は金属繊維の内部にも含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バス、トラック、船舶及び発電機等のディーゼルエンジンから排出される排気ガス中のパティキュレート(PM)等の固形成分を燃焼させるPM燃焼触媒に係り、更に詳細には、セラミックス繊維又は金属繊維の集合体を備え、所謂ディーゼルパティキュレートフィルターとして機能し得るPM燃焼触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バスやトラック等のディーゼルエンジンから排出される排気ガス中には、パティキュレート(Particulate Matter;粒子状物質)や、NOx(窒素酸化物)等が含まれている。
そして、上記パティキュレート中には、煤(炭素;C)や軽油中の硫黄が酸化されて生成するサルフェート(Sulfate;硫酸塩)等の不溶性有機成分(Insoluble Organic Fraction)、及び未燃HC(炭化水素)や潤滑油HC等の可溶性有機成分(SOF;Soluble Organic Fraction)等が含まれている。
【0003】
これらは、大気中に排出されると、大気汚染や人体に悪影響を与えるので好ましくない。このため、最近では、バスやトラック等のディーゼル車に対して、排気ガス中のPM等を低減・除去する装置を装着することが法令や条例等で義務付けられる方向になりつつある。
【0004】
従来から、ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(以下、「PM」ということもある。)を、排気ガスの排気系において捕集するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として、セラミックス系材料から成形されたハニカムフィルタが知られている。
【0005】
このハニカムフィルタには、ストレートフロー型とウォールフロー型の2種類がある。
前者のストレートフロー型ハニカムフィルタは、基材内に多数のセルが形成されていて、各セル間が薄肉の多孔性隔壁で仕切られた構造からなり、その隔壁の表面には、触媒が担持されているので、セル内を通過する排気ガス中のPM、CO(一酸化炭素)、HC等は、隔壁に接触する間に、低減・除去される仕組みになっている(従来技術1)。
【0006】
後者のウォールフロー型ハニカムフィルタは、基材が多孔質材料からなる多数のセルから構成され、多数のセルの入口と出口が交互に塞がれた構造からなっている。
このハニカムフィルタにおいて、セル入口から流入した排気ガスは、仕切られた多孔質の薄いセル隔壁を通過し、出口へ排出される。
そして、PM中の煤成分は隔壁表面や隔壁内部の細孔内に、捕集されるようになっている。
【0007】
このウォールフロー型ハニカムフィルタには、さらに、セル隔壁表面及び隔壁内の細孔に触媒が担持されているものと、このような触媒が担持されていないものの2種類がある(従来技術2)。
前者の場合、セル隔壁表面や内部に捕集されたPMは触媒により、酸化除去される。
後者の場合は、捕集されたPMはバーナやヒータで燃焼させて除去されるようになっている。
【0008】
さらに、上記ストレートフロー型とウォールフロー型のハニカムフィルタを排気ガスの流路方向にそれぞれ組み合わせた排気ガス浄化装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この装置では、ディーゼルエンジンの排気管の上流側に、再生用酸化触媒としてストレートフロー型を用い、下流側にはPM捕集用のウォールフロー型が用いられている。
この装置では、ストレートフロー型ハニカムフィルタ内の再生用酸化触媒により、排気ガス中のNO(一酸化窒素)が酸化されて酸化力の強いNO(二酸化窒素)が生成され、下流側のウォールフロー型ハニカムフィルタで、捕集されたPMをNOで酸化してCOにしてPMの低減を行っている。
【0010】
この技術によれば、フィルタに堆積されたPMが連続的に低減されるので、過剰にPMが堆積してフィルタがPMの捕集を行なえなくなることを防止できる。
つまり、連続的にフィルタの再生処理を行なうことができるという特徴がある(従来の技術3)。
【特許文献1】特許第3012249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、かかる従来の技術において、従来技術1にあっては、PM中の煤(炭素;C)を酸化しないので、煤はそのまま大気中に排出されるという問題があった。
さらに、エンジン始動時等における排気ガス温度の低いときに、PMがセルの入口や内壁面にそのまま堆積し、セル細孔を閉鎖し、圧力損失が増大する問題があった。
【0012】
また、従来技術2では、セル隔壁表面や内部に触媒が担持されていない場合、セル隔壁面に堆積したPMをバーナやヒータで燃焼させるので、バーナやヒータなどの加熱・燃焼手段が必要で、装置が複雑で、故障が起こり易く、コスト高である等の欠点があった。
それに加え、ヒータを使用するのでフィルタに堆積したPMが異常燃焼を引き起こし、フィルター基材の溶損や割れが起こり易いという問題もあった。
【0013】
更に、セル隔壁に触媒を担持した場合では、フィルタに堆積したPMが比較的低温で酸化除去されるので、基材の溶損や割れが生じない利点はあるが、その反面、エンジン始動時や低速時及び低負荷運転時など排気ガス温度の低い時にPMの酸化が不十分で、PMがフィルタのセル隔壁表面や内部に堆積し易い問題があった。
これに加え、排気ガスがセル隔壁の細孔内を通過するときに、目詰まりが起こり易く、排気ガスの背圧上昇による排気温度の上昇や、堆積したPMの異常燃焼、フィルタの溶損等の問題があった。
【0014】
更に、従来技術3では、排気ガスがフィルタのセル隔壁を通過する時間が僅であるので、PMを酸化した残りのNOがNOに還元されず、そのまま外部に排出される問題があった。
また、このフィルタは、排気温度が、例えば250℃以下の低い状態では、NOによるPMの酸化が不十分であり、PMがフィルタの隔壁表面に堆積し、目詰りを引き起こし、排気ガスの背圧上昇によるエンジン負担や、排気温度の上昇によるPMの異常燃焼、フィルタの熔損、破損等の問題があった。
【0015】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、都市内走行時等の排気ガス温度が低い場合でも、PMを効率よく低減でき、PMの堆積によるフィルタの目詰まりが生じ難い、ディーゼルエンジン用のPM燃焼触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、酸化物を含有するセラミックス繊維又は金属繊維を用いることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明のPM燃焼触媒は、酸化物を含有するセラミックス繊維又は金属繊維から成る繊維集合体を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のPM燃焼触媒の好適形態は、上記酸化物がセリウムとプラセオジムを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸化物を含有するセラミックス繊維又は金属繊維を用いることとしたため、都市内走行時等の排気ガス温度が低い場合でも、PMを効率よく低減でき、堆積によるフィルタの目詰まりが生じ難い、ディーゼルエンジン用のPM燃焼触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のPM燃焼触媒につき詳細に説明する。なお、本明細書において、濃度、配合量及び充填量などについての「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0021】
上述の如く、本発明のPM燃焼触媒は、酸化物を含有するセラミックス繊維又は金属繊維から成る繊維集合体を備える。
かかる繊維集合体は、三次元網目構造を有するものであり、排気ガス中のPMとの接触機会が多くPMの捕集や除去を効率良く行うことができる。
【0022】
また、繊維集合体の空隙率は50%超であることが好ましく、空隙率が50%以下では、PMが接触せずすり抜けてしまうことがあり、好ましくない。
【0023】
なお、本発明者らの研究によれば、PM堆積厚みが薄いほど排気ガスとの接触性が良好であると判断できる。厚みが薄いほど触媒成分との反応が起き易いからである。
ここで、従来のウォールフロー型DPFの空隙率とPM堆積厚みの関係を図1に示す。
PM堆積厚みは、SEM写真からセラミックス体や繊維体に接触したPMの厚みのうち、上位2つを取り平均化している。
【0024】
図1において、充填率が約50%を示しているのは後述する比較例1で用いたウオールフロー型DPFであるが、300μとPM堆積厚みが大きい。
これ以上の空隙率を示すものとして、アルミナ繊維を用いたが、空隙率が高いほどPM堆積厚みが薄く接触の良いことが分かる。
【0025】
上記繊維集合体を構成するセラミックス繊維としては、1000℃程度に対する形状安定性などの耐熱性を有すれば特に限定されるものではなく、アルミナ、アルミナシリカ、ステンレス、炭化珪素、窒化珪素及びコージェライトなどを用いることができる。
【0026】
また、上記酸化物としては、PM燃焼を促進する触媒機能を有するものであればよく、セリウム(Ce)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)及びプラセオジム(Pr)を挙げることができるが、セリウムとプラセオジムの双方を含有する酸化物が好ましい。
この両元素を含有する酸化物は、PM燃焼温度を低温化することができ、PM燃焼効率の促進機能が大きく好適である。
【0027】
更に、本発明のPM燃焼触媒においては、上記酸化物が上記セラミックス繊維又は金属繊維の内部にも含まれていることが好ましい。
酸化物が繊維表面にのみ被覆されていると、実際の使用条件下における振動により剥離する可能があるが、内部にも含まれていると剥離が緩和される。また、PMが異常燃焼を引き起こした場合でも、熱膨張率の差による剥離の問題が生じない。
【0028】
なお、上記酸化物の繊維表面及び内部での含有については、当該酸化物が繊維表面から内部にかけて均一に分散しているよりは、繊維表面及びその近傍の酸化物濃度が高くなるように含まれていることが好ましい。
このような濃度勾配を設けることにより、PM燃焼に関与する酸化物量を多くすることができ、PM燃焼効率を向上できる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各例では、PM燃焼触媒の一例としてのDPFを作製し、性能を評価した。
【0030】
(実施例1)
[繊維集合体DPFの作成]
<Ce70mol%Pr30mol%溶液の準備>
CeOとして15%の濃度のCeゾルと、硝酸プラセオジムを混合し、Ce70mol%Pr30mol%となるように溶液を作成した。この溶液の塗布(コート)を、電気化学製アルミナシリカ繊維(商品名B80)(図2参照)に対し、以下のような手順で実施した。
【0031】
・溶液準備:上記溶液をスプレー機の中に入れる。
・繊維準備:1枚づつ剥がしておく。
・噴霧:表面全体が均等に色が付くまで噴霧、裏面も同様に行う。
・乾燥:120℃×1hr
・焼成:400℃×1hr
【0032】
コート前重量は0.5959g、コート後の重量は1.3313gであり、Ce70mol%Pr30mol%の塗布量は、0.7354gであり、繊維全体の55%であった(図2(A)参照)。
【0033】
<試料管への設置>
この繊維を、反応管の試料部位(円柱状)に0.02g充填した(図2(B)参照)。触媒量はこの55%であると考えられ、0.011g使用している計算となる。
試料部位のサイズは半径0.2cmで高さ6cmであり、試料体積は0.75cmであった。繊維の重量は0.009gであり、密度は0.012gであった。この繊維の真比重は2.8g/cmであるので、空隙率は99.6%である。
【0034】
<PMとの接触>
実機ディーゼルエンジンから採取したパティキュレートマター(PM)0.01gを上記反応管の上方から投入し(図2(C)参照)、5回振盪を3回繰り返し、後述の比較例と接触条件を合致させた。
【0035】
(比較例1)
[ウオールフロー型DPFの準備]
<Ce70mol%Pr30mol%スラリーの準備>
Ce70mol%Pr30mol%(阿南化成製)を92.9%、アルミナを4.6%、ベーマイトアルミナを2.4%を10%硝酸と水を用い、ボールミルで粉砕した。
得られたスラリーを60ccのウオールフロー型DPF(SiC製)に(図3参照)、14.4g/Lとなるように乾燥・焼成を繰り返してコートした(図3(A)参照)。
焼成は400℃で1時間で空気中で行った。この60ccに含まれるCe70mol%Pr30mol%粉末は0.797gである。このウオールフロー型DPF(SiC製)は充填率50.1%であり空隙率は49.9%である。
【0036】
<燃焼試験前準備>図3−B
この60ccの試料を、反応管の試料部位(円柱状)になるまで切断した(図3(B)参照)。具体的なサイズは半径0.2cmで高さ6cmであり、体積は0.75cmである。
この体積に含まれる触媒量は、0.797×0.75/60=0.009963であり約0.010gとなり、繊維状DPFと触媒使用量をほぼ同程度にした。
【0037】
<PMとの接触>図3−C
実機ディーゼルエンジンから採取したパティキュレートマター(PM)0.01gを上記試料管の上から投入し、5回振盪を3回繰り返し、PMがセルの中に納まるのを確認した(図3(C)参照)。
【0038】
[燃焼試験]
上述のようにして得られた実施例1及び比較例1のDPFを、下記条件にて燃焼試験に供した。得られた燃焼試験の結果を、表1にイオン強度で示す。また、図4及び図5には、それぞれ500℃及び550℃における実施例1及び比較例1のDPFの燃焼試験結果の詳細を図示した。
【0039】
・温度:500℃、550℃
・前処理:上記の温度でHeを50cc/minで10分間流通させた。
・反応:10%/Oに切り替えて50cc/minで流通させた。
・検出:四重極質量分析計(アネルバ製)で質量44と32をモニターした。
・燃焼性能の判断時点:酸素導入後100秒後とした。
【0040】
【表1】

【0041】
表1、図4及び図5より、空隙率が約99%である実施例1のDPFは、比較例1のDPFに対して100秒後のM/Z=44、即ちCOの生成量が多く、燃焼効率が高いことが分かる。
【0042】
また、このような性能を有する本実施例のDPFによれば、PMを除去するためのバーナやヒータを使用せずにPMを効率良く低減できる、ディーゼルエンジン用のPM燃焼触媒を実現できる。
更に、目詰まりによる排気ガス温度の上昇もなく、PMの堆積による異常燃焼やフィルタの溶損が起こり難い。また、高速走行時におけるエンジンの高速回転(高負荷)時でも、捕集したPMのブローオフ現象が起こり難く、且つ触媒の再生が行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】空隙率とPM堆積厚みの関係を表す関係図である。
【図2】実施例1のDPFの製造工程を示す工程図である。
【図3】比較例1のDPFの製造工程を示す工程図である。
【図4】燃焼試験の結果を示すグラフである。
【図5】燃焼試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物を含有するセラミックス繊維又は金属繊維から成る繊維集合体を備えることを特徴とするディーゼルエンジン用PM燃焼触媒。
【請求項2】
上記繊維集合体の空隙率が50%超であることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジン用PM燃焼触媒。
【請求項3】
上記酸化物がセリウムとプラセオジムを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のディーゼルエンジン用PM燃焼触媒。
【請求項4】
上記酸化物が上記セラミックス繊維又は金属繊維の内部にも含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のディーゼルエンジン用PM燃焼触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−136936(P2008−136936A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325460(P2006−325460)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】