説明

Pdコロイド溶液の製造方法

【課題】高濃度のパラジウムを含み、しかも実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しない有機溶媒系のパラジウムコロイド溶液の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるカルボン酸


(I)
(R1、R2及びR3は水素または炭素数1から8までのアルキルを表し、R1、R2及びR3の炭素数の合計が6以上24以下。)
のパラジウム化合物を有機溶媒中で還元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボン酸のパラジウム化合物を有機溶媒中で還元することによる実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しないパラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造は知られている。例えば、塩化パラジウム酸を分散剤のポリビニルピロリドン存在下、メタノール中で加熱することにより、パラジウムコロイドのメタノール溶液が得られることが知られている。(W. Yu et al., J. Colloid Interface Sci., 210, 218(1999))。
【0003】
しかしながら、この方法ではPd濃度が約0.01%と低い上、不純物元素としてNaやClを含むという問題点がある。
【0004】
また、実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しないパラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造方法としては、酢酸パラジウムを分散剤のポリスチレン−b−ポリアクリル酸コポリマーまたはポリスチレン−b−ポリエチレンオキシドコポリマー存在下、エタノール中で加熱することにより、パラジウムコロイドのエタノール溶液が得られることが知られている。(A. B. R. Mayer and J. E. Mark, Colloid Polym. Sci., 275, 333(1997)。
【0005】
しかしながら、この方法では、実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しないパラジウムコロイドの有機溶媒溶液を製造することができるが、Pd濃度は約0.007%と極めて低い。
【0006】
パラジウムコロイドを電子材料用ナノ素材として用いる場合、NaやClなどの不純物元素の存在は好ましくなく、実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しないことが望まれる。また、パラジウム濃度が薄いと一定量のパラジウムを固定化するために固定化操作を繰り返さねばならずプロセスのコスト面で不利であり、高濃度のパラジウムであることが望まれる。
【0007】
低濃度のパラジウムコロイド溶液を濃縮して高濃度のパラジウムコロイド溶液を製造する方法も考えられるが、濃縮倍率が数10〜100倍程度と大きいため、プロセスのコスト面で不利な上、溶媒を蒸発させるための多量のエネルギーが必要となり、地球環境の保全にとっても好ましくない。
【0008】
そこで、高濃度のパラジウムを含み、しかも実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しない有機溶媒系のパラジウムコロイド溶液の効率的な製造方法の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は下記一般式(I)で表されるカルボン酸

(I)
(R1、R2及びR3は水素または炭素数1から8までのアルキルを表し、R1、R2及びR3の炭素数の合計が4以上24以下。)
のパラジウム化合物を有機溶媒中で還元することを特徴とする実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しない高濃度のパラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明者は、高濃度のパラジウムを含み、しかも実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しない有機溶媒系のパラジウムコロイドの製造法について鋭意検討した結果、一般式(I)で表されるカルボン酸のパラジウム化合物を有機溶媒中で還元することにより、目的のパラジウムコロイド溶液が生成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は一般式(I)で表されるカルボン酸のパラジウム化合物を有機溶媒中で還元することを特徴とする実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しない高濃度のパラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の、実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しない高濃度のパラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造方法は、一般式(I)で表されるカルボン酸のパラジウム化合物を有機溶媒中で還元することを特徴とする。
【0013】
一般式(I)で表されるカルボン酸は、R1、R2及びR3の炭素数の合計が4以上24以下であれば特に制限するものではないが、6以上12以下が特に好適である。
【0014】
一般式(I)で表されるカルボン酸のパラジウム化合物については、実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しないものであれば特に制限するものではない。パラジウムの配位子として、一般式(I)で表されるカルボン酸のみを含むパラジウム化合物でもよいし、それ以外の配位子を含有していてもよい。そのような配位子の例としては、アンミン、ニトロ、オキサラト、エチレンジアミン、アセチルアセトナト、2,2−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、グリシナト、アセタトなどがあげられる。
【0015】
使用する有機溶媒については、実質的に水素、炭素、窒素及び酸素以外の元素を含有しないものであれば、特に制限するものではないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、キシレン及びN,N−ジメチルホルムアミドなどが使用できる。
コロイドを安定化するための分散剤については、実質的に水素、炭素、窒素及び酸素以外の元素を含有しないものであれば、特に制限するものではないが、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)が好適である。
【0016】
原料のパラジウム化合物をパラジウムコロイドにするための還元剤としては、実質的に水素、炭素、窒素及び酸素以外の元素を含有しないものであれば、特に制限するものではないが、溶媒を還元剤として用いることもできるし、還元剤を別途添加してもよい。そのような還元剤の例としては、前述した溶媒の他、水素ガス、ヒドラジン、蟻酸、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドなどが使用できる。
【0017】
コロイド調製時のパラジウム濃度については、0.01%〜10%が好適であるが、0.1%〜3%がより好適である。
【0018】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
ネオデカン酸パラジウムを原料とするパラジウムコロイドの2−プロパノール溶液の調製。
【0020】
ネオデカン酸パラジウムをパラジウムとして1.0g相当及びポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)5.0gを2−プロパノール94gに添加し攪拌した。窒素気流下、加熱還流したのち冷却してパラジウムコロイドの2−プロパノール溶液を得た。沈殿の生成は見られなかった。パラジウム含有率1.0%、Pdコロイド粒径約3-4nm。
【比較例】
【0021】
酢酸パラジウムを原料とするパラジウムコロイドの2−プロパノール溶液の調製。
【0022】
酢酸パラジウムをパラジウムとして1.0g相当及びポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)5.0gを2−プロパノール94gに添加し攪拌した。窒素気流下、加熱還流したのち冷却した。多くの金属パラジウムと思われる沈殿が生成していた。沈殿をろ別してパラジウムコロイドの2−プロパノール溶液を得た。パラジウム含有率0.05%、Pdコロイド粒径3-6nm。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるカルボン酸

(I)
(R1、R2及びR3は水素または炭素数1から8までのアルキルを表し、R1、R2及びR3の炭素数の合計が6以上24以下。)
のパラジウム化合物を有機溶媒中で還元することを特徴とする実質的に水素、炭素、窒素、酸素及びパラジウム以外の元素を含有しないパラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造方法。
【請求項2】
分散剤としてパラジウムコロイド溶液にポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)を含むことを特徴とする請求項1に記載のパラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒が炭素数1から3のアルカノールを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のパラジウムコロイドの有機溶媒溶液の製造方法。