説明

RANTES誘導阻害薬

【課題】 本発明の課題は、RANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬を提供することにある。
【解決手段】 本発明によれば、ウルソデオキシコール酸、その抱合体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルソデオキシコール酸、その抱合体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するRANTES誘導阻害薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ケモカインとは、白血球走化に対する作用(ケモタキシス)を有するサイトカインの総称であり、炎症部で大量に産生され、血管内から炎症組織内への白血球の遊走をもたらす。白血球走化性は免疫生体防御反応に重要な役割を有していることから、ケモカインはアレルギー性炎症、自己免疫性炎症などに深く関わっていることが予想され注目されている。中でも、Regulated upon activation, normal T cells expressed and secreted(RANTES)は、CCR1、CCR3及びCCR5などのケモカインレセプターに対するリガンドであることが知られており(非特許文献1)、主に、アレルギー喘息、アレルギー性鼻炎及びアトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患、あるいは、変形性関節症及び関節リウマチ等の疾患に関与する可能性が報告されている(非特許文献2)。
【0003】
RANTESは、主に線維芽細胞やTリンパ球などから産生されるといわれているが、ヒト肝癌細胞株において疎水性胆汁酸が転写因子の活性化を介してRANTES発現を増強することが報告されている(非特許文献3)。さらに、アルコール性肝炎患者及びC型慢性肝炎患者等の肝臓においては、RANTESの発現が増強しているとの報告もあることから(非特許文献4)、RANTES発現と肝炎との関連性及び肝細胞からのRANTES産生の可能性が示唆されている。
【0004】
ウルソデオキシコール酸(以下、本明細書において、ウルソデオキシコール酸を「UDCA」と称することがある。)は、胆汁酸製剤であり、胆汁うっ滞性肝疾患等の慢性肝炎に広範に使用されている薬剤である。UDCAの薬理作用としては、利胆作用、細胞障害性を有するケノデオキシコール酸(CDCA)あるいはデオキシコール酸(DCA)等の内因性疎水性胆汁酸のUDCAへの置換作用、細胞保護作用、抗アポトーシス作用などが知られている。(特許文献1、2、3及び非特許文献5)。
【0005】
胆汁酸とRANTESとの関係について言えば、肝癌細胞株を用いた試験において、疎水性の強い胆汁酸はRANTES蛋白の発現を増強させるが、親水性の強いUDCAには、RANTES蛋白の発現を増強させる作用はほとんど認められないことが報告されている(非特許文献3)。
【0006】
また、ヒト肝癌細胞株を用いた検討において、培養液中のCDCAとUDCAの総胆汁酸量を一定にしたときの総胆汁酸量に占めるCDCAの比率が減少するにつれて、RANTES mRNAの発現量は低下するが、CDCAによって誘導されたRANTES mRNAはUDCAの添加によってほとんど変化しないことが報告されている(非特許文献6)。このように、CDCA等の疎水性胆汁酸によるRANTES発現の増強に対して、UDCAがその置換作用により軽減させることは報告されているが、これまでにRANTES発現に対するUDCAの直接的な作用について報告されたものはない。
【0007】
また、TNF-αはTリンパ球、肺血管上皮細胞、気管支上皮細胞等において、RANTES産生を誘導することが報告されているが(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)、初代培養肝実質細胞に関してTNF-αが直接RANTES産生を誘導するかどうかについては報告がない。
【特許文献1】特開平9-59162号公報
【特許文献2】特開平9-315979号公報
【特許文献3】特開2004−35503号公報
【非特許文献1】J Leukoc Biol 2005 78 442
【非特許文献2】Allergy 2004 59 1243、FEBS Letters 1999 455 238
【非特許文献3】Biochem Biophys Res Commun 2001 288 1095
【非特許文献4】Hepatology 1996 24 1156, Laboratory Investigation 2000 80415
【非特許文献5】J Hepatol 2001 35 134
【非特許文献6】肝胆膵 2000 415 801-806
【非特許文献7】J Immunol 1997 158 3483
【非特許文献8】Allergy 1999 54 1168
【非特許文献9】Clin Exp Allergy 2000 30 48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、RANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ウルソデオキシコール酸、その抱合体又はその薬理学的に許容される塩がRANTES誘導阻害作用を有し、RANTES誘導に起因する疾患の予防及び又は治療薬として有用であることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ウルソデオキシコール酸、その抱合体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬。
(2)RANTES誘導が、TNF-αの刺激により生じるRANTES誘導である上記1に記載のRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬。
(3)RANTES誘導が、TNF-αにより、肝実質細胞、線維芽細胞及びT細胞を刺激することにより生じるRANTES誘導である上記1に記載のRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬。
(4)ウルソデオキシコール酸、その抱合体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するRANTES誘導阻害薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウルソデオキシコール酸、その抱合体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
ウルソデオキシコール酸(UDCA)は、胆汁酸の一種であり、特開2001−261696号公報に記載の方法又はそれに準じた方法により容易に合成できる。また、三菱ウェルファーマ株式会社より「ウルソ(登録商標)」として市販されている。本発明においては、市販の「ウルソ(登録商標)」をそのまま使用することも可能である。
【0014】
ウルソデオキシコール酸の抱合体としては、タウリン抱合体及びグリシン抱合体が含まれる。ウルソデオキシコール酸の抱合体は、公知の方法、例えば特開2001−261696号公報などに記載の方法により得ることができる。
【0015】
ウルソデオキシコール酸の薬理学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどの有機塩基との塩などが挙げられる。これらの塩は、公知の方法、例えば特開2001−261696号公報などに記載の方法により得ることができる。
【0016】
本発明において、RANTES誘導に起因する疾患とは、RANTES誘導を伴う疾患と同義である。
【0017】
本発明のRANTES誘導に起因する疾患としては、例えば、慢性肝炎、アレルギー性疾患(例えば、アレルギー喘息、アレルギー鼻炎、アトピー性皮膚炎等が挙げられる)、変形性関節症、慢性関節リウマチ等が挙げられ、好ましくは慢性肝炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明のRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬は、TNF-αの刺激により生じるRANTES誘導を抑制する作用を有しており、より好ましくは、TNF-αにより肝実質細胞、線維芽細胞又はT細胞を刺激することにより生じるRANTES誘導を抑制する作用を有している。さらに好ましくは、ヒト肝実質細胞を刺激することにより生じるRANTES誘導を抑制する作用を有している。
【0019】
本発明のRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬は、RANTES誘導抑制剤として有用であり、特に血中RANTES誘導抑制剤として有用である。
【0020】
本発明のRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬を医薬として用いる場合には、上記の有効成分と1種又は2種以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物を調整して投与することが好ましい。経口投与に適した医薬組成物としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤等を挙げることができ、非経口投与に適した医薬組成物としては、例えば、液剤あるいは懸濁剤等の殺菌した液状の形態の医薬組成物を例示することができる。
【0021】
医薬組成物の調製に用いられる製剤用添加物の種類は特に制限されず、種々医薬組成物の形態に応じて適宜の製剤用添加物を選択することが可能である。製剤用添加物は固体又は液体のいずれであってもよく、例えば固体担体や液状担体などを用いることができる。固体担体の例としては通常のゼラチンタイプのカプセルを用いることができる。また、例えば、有効成分を1種又は2種以上の製剤用添加物とともに、あるいは製剤用添加物を用いずに錠剤化することができ、あるいは粉末として調製して包装することができる。これらのカプセル、錠剤、粉末は、一般的には製剤の全重量に対して5〜95重量%、好ましくは5〜90重量%の有効成分を含むことができ、投与単位形態は5〜500mg、好ましくは25〜250mgの有効成分を含有するのがよい。液状担体としては水、あるいは石油、ピーナツ油、大豆油、ミネラル油、ゴマ油等の動植物起源の油又は合成の油が用いられる。また、一般に生理食塩水、デキストロールあるいは類似のショ糖溶液、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類が液状担体として好ましく、特に生理食塩水を用いた注射液の場合には通常0.5〜20%、好ましくは1〜10%重量の有効成分を含むように調製することができる。
【0022】
本発明のRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬を医薬として用いる場合の投与量は、疾患の種類、投与方法、病態、患者の年令などによっても異なるが、通常、成人に対し1日当り、経口で30〜3000mg、好ましくは150〜1200mg、静注で5〜400mg、好ましくは50〜200mgであり、これを1〜6回、好ましくは1〜3回に分割して投与することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。なお、以下で用いたウルソデオキシコール酸としては、CALBIOCHEM社が製造しているウルソデオキシコール酸・ナトリウム塩を使用した。
【0024】
実施例1:TNF-αによるRANTES産生誘導に対するウルソデオキシコール酸の効果
SD系雄性ラットから調製した初代培養肝実質細胞を用い、TNF-αによって誘導されるRANTES発現が、ウルソデオキシコール酸を予め添加することによってどの程度抑制されるかを蛋白レベル及びmRNAレベルで検討した。ここで、TNF-αによるRANTES産生誘導に対するウルソデオキシコール酸の効果を検討するに際して、初代培養肝実質細胞を用いた理由としては、初代培養肝実質細胞は、肝癌細胞等に比べて、形態的にヒト肝実質細胞に近い可能性が考えられることが挙げられる。
【0025】
方法
ラット初代培養肝細胞をコラゲナーゼ肝灌流と低速遠心(50Xg 1分を3回)により単離、精製した(“新培養細胞実験法”羊土社 1999)。その後、コラーゲンIコーティング6ウェルプレート(BECTON DICKINSON社製)に、精製した細胞を各1×106個/2mL/ウェルずつ播種し、プレートに付着させ、一晩培養後実験に用いた。
1)UDCA群:予め10%血清含有William’s E培地(GIBCO社製)に溶かし込んで調製しておいたUDCA50、100あるいは200μmol/mLを1.8mL/wellずつ添加後4時間37℃でインキュベートした。
【0026】
4時間インキュベートした後に、予め10%血清含有William’s E培地に溶かし込んで調製しておいたTNF-α100ng/mLを0.2mL/wellずつ各ウェルに添加した(TNF-α終濃度:10ng/mL)。
【0027】
その後、さらに24時間37℃でインキュベートした。
2)Control群:10%血清含有William’sE培地を1.8mL/wellずつ添加後4時間37℃でインキュベートした。
【0028】
4時間インキュベートした後に、予め10%血清含有William’s E培地に溶かし込んで調製しておいたTNF-α100ng/mLを0.2mL/wellずつ各ウェルに添加した(TNF-α終濃度:10ng/mL)。
【0029】
その後、さらに24時間37℃でインキュベートした。
3)Normal群:10%血清含有William’s E培地を1.8mL/wellずつ添加後4時間37℃でインキュベートした。
【0030】
4時間インキュベートした後に、10%血清含有William’s E培地を0.2mL/wellずつ各ウェルに添加した。
【0031】
その後、さらに24時間37℃でインキュベートした。
【0032】
UDCA群、Control群及びNormal群をそれぞれインキュベートした後、培養上清を採取し、培養上清中のRANTES蛋白量をQuantikine RANTES Immunoassay kit(R&D Systems社製)を用いて測定した。培養上清除去後、プレートに付着した細胞をRNA抽出用試薬ISOGEN(ニッポンジーン社製)に溶かし込んだ後RNAを抽出した。得られたtotal RNA濃度を吸光度測定により算出後、RANTES mRNAをリアルタイムPCR装置にて定量した。
結果
図1に、RANTES蛋白量を示す。図中「##」はP <0.01 vs. Normal群(t検定)を示し、「**」はP <0.01 vs Control群(Dunnett多重比較検定)を示す。
【0033】
この結果、TNF-αにより上昇したRANTES蛋白産生量はUDCA 100あるいは200μmol/Lの4時間前添加により有意に抑制されることが明らかとなった。
【0034】
図2にRANTES mRNA発現量を示す。図中「##」はP <0.01 vs. Normal群(t検定)を示し、「*」はP <0.05 vs Control(Dunnett多重比較検定)を示し、「**」はP <0.01 vs Control(Dunnett多重比較検定)を示す。
【0035】
この結果、TNF-αによるRANTES mRNA発現上昇はUDCA 50、100あるいは200μmol/Lの4時間前添加により有意に抑制されることが明らかとなった。
【0036】
図3にtotal RNA濃度を示す。この結果、各群のtotal RNA濃度には有意な差がなかったことから、図1及び図2で確認された各群のRANTES誘導の差は細胞数減少に伴うtotal RNA減少によるものではないことが確認された。
【0037】
以上より、ラット初代培養肝細胞において、TNF-αによるRANTES発現誘導は、UDCA添加により有意に抑制されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、新規なRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】各群のRANTES蛋白量を示す図である。
【図2】各群のRANTES mRNA発現量を示す図である。
【図3】各群のtotal RNA濃度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルソデオキシコール酸、その抱合体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項2】
RANTES誘導が、TNF-αの刺激により生じるRANTES誘導である請求項1に記載のRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項3】
RANTES誘導が、TNF-αにより、肝実質細胞、線維芽細胞及びT細胞を刺激することにより生じるRANTES誘導である請求項1に記載のRANTES誘導に起因する疾患の予防及び/又は治療薬。
【請求項4】
ウルソデオキシコール酸、その抱合体又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するRANTES誘導阻害薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−106730(P2007−106730A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302089(P2005−302089)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】