説明

RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計装置、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の作製方法、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計プログラム、及びRNA干渉ポリヌクレオチド混合物

【課題】 高いゲノム多様性をもち、頻繁に変異が発生する病原性微生物に対して、広汎かつ高い有効性を有するRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を提供する。
【解決手段】 設計装置20は、HIV−1のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての配列情報を複数取得し、これに基づいて、標的サイトの塩基配列情報を複数取得し、この標的サイトの塩基配列情報に基づいて、標的サイトに対するsiRNAの塩基配列情報を複数取得する。そして、取得したsiRNAから、HIV−1のゲノム多様性および変異の発生に対応可能な、より好ましい組み合わせを選択する。組み合わせの選択は、siRNAの組み合わせがHIV−1の配列情報のうちのいくつに対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、HIV−1の配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能なsiRNAが組み合わせのうち幾つあるかに関する重複性と、に基づいて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度のゲノム多様性を示す病原性微生物を標的とするRNA干渉法及びそれを用いた核酸創薬に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNAi)は、機能阻害したい遺伝子の特定領域と相同なセンスRNAとアンチセンスRNAからなる2本鎖RNA(double-stranded RNA、以下「dsRNA」
という)が標的遺伝子の転写産物であるmRNAの相同部分を干渉破壊するという現象で、1998年に線虫を用いた実験により初めて提唱された。そして、およそ21〜23塩基対の短い2本鎖RNA(short interfering RNA、siRNA)が、哺乳類細胞系でも
細胞毒性を示さずにRNA干渉を誘導できることが示された。
【0003】
RNA干渉は、生命現象の解析の極めて有力な手段としてだけでなく、様々な感染症やがんなどに対する新しい治療技術として脚光を浴びている。しかし、RNA干渉で用いられるsiRNAについて、RNA干渉効果を示すものは限られている。このため、RNA干渉に有効なsiRNAの配列規則性の同定が試みられ、この規則性に沿って有効なsiRNA配列を設計する方法が考えられている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1には、RNA干渉の標的遺伝子の塩基配列から、特定の規則に従う配列部位を検索し、検索結果に基づいてRNA干渉を生じさせるsiRNAの設計、合成等を行う方法が開示されている。
【0004】
一方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、現在、HIV−1型とHIV−2型の2つの型が知られているRNAウイルスであり、HIVの配列データベース(http://www.hiv.lanl.gov/)には、全長又はほぼ全長の400近くのHIV−1ゲノム配列が登録されており、登録されている配列は、どの配列も少しずつ異なっている。このように、HIV−1は高度のゲノム多様性を有している。
【特許文献1】国際公開第2004/048566号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
著しく高いゲノム多様性をもつHIV等のウイルスを含む病原性微生物をRNA干渉の標的とする場合、かかるゲノム多様性に対応した網羅的なアプローチを行う必要があるが、このようなアプローチに最適なsiRNAをデザインする技術は未だ確立されていない。また、HIVは、被感染体(宿主)の体内で増殖する際に変異が入る。このため、当初はHIVに対してRNA干渉効果のあるsiRNA等のRNA干渉機能分子であっても、HIVのブレークスルー変異により、効かなくなる場合がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高いゲノム多様性をもち、頻繁に変異が発生する病原性微生物に対して、広汎かつ高い有効性を有するRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計装置、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の作製方法、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計プログラム、及びRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、病原性微生物のゲノム又は転
写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法であって、前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得工程と、取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得工程と、取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得工程と、取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択工程と、を含み、前記組み合わせ選択工程は、RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記組み合わせ選択工程は、前記網羅性と前記重複性とを高めるように前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記組み合わせ選択工程は、前記網羅性を前記重複性よりも優先して前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することを要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記組み合わせ選択工程は、前記RNA干渉ポリヌクレオチド情報取得工程で取得した前記RNA干渉ポリヌクレオチドの複数の塩基配列情報の各々について、前記病原性微生物塩基配列情報の集合におけるRNA干渉ポリヌクレオチド単独の網羅率を算出する単独網羅率算出工程と、算出した前記単独の網羅率に基づいてRNA干渉ポリヌクレオチドの、より好ましい組み合わせを検討する組み合わせ検討工程と、を含み、前記組み合わせ検討工程は、前記単独の網羅率が高い前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数選択して組み合わせ候補配列群を形成するとともに、前記組み合わせ候補配列群から所定数の前記塩基配列情報を選択して組み合わせ、組成の異なる複数の組み合わせを特定する組み合わせ候補特定工程と、特定した前記複数の組み合わせの各々について、一の組み合わせにおける前記病原性微生物塩基配列情報の集合における網羅率を算出する網羅率算出工程と、算出した組み合わせの網羅率を前記複数の組み合わせの間で比較する比較工程と、を含むことを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記組み合わせ検討工程は、前記組み合わせ候補配列群から選択する前記塩基配列情報の数を変化させるとともに、変化させた各々の場合について、前記組み合わせ候補特定工程と、前記網羅率算出工程と、前記比較工程とを実行し、所定の終了条件を満たすまで当該一連の処理を繰り返すことを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記組み合わせ検討工程は、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で複数取得した前記病原性微生物塩基配列情報の各一の病原性微生物塩基配列情報についての重複性に基づいて、前記組み合わせ候補特定工程で取得した複数の前記組み合わ
せの各々について、前記病原性微生物塩基配列情報の集合に対する前記RNA干渉ポリヌクレオチドが重複する前記病原性微生物塩基配列情報の割合を示す指標である組み合わせ内重複率を算出する重複率算出工程を含み、前記比較工程は、算出した前記組み合わせ内重複率を前記複数の組み合わせの間で比較する工程をさらに含むことを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程は、前記病原性微生物の塩基配列情報のデータベースから前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列の病原性微生物塩基配列情報を取得することを要旨とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程は、宿主に感染する前記病原性微生物のゲノム解析の結果に基づいて前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列の病原性微生物塩基配列情報を取得することを要旨とする。
【0013】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記病原性微生物がRNAウイルスであることを要旨とする。
【0014】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法において、前記病原性微生物が、ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、SARS、コロナウイルス、マラリア原虫、真菌のいずれか1つであることを要旨とする。
【0015】
請求項11に記載の発明は、病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計装置であって、前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得手段と、取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得手段と、取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得手段と、取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択手段と、を備え、前記組み合わせ選択手段は、RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得手段で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することを要旨とする。
【0016】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか1つに記載の設計方法により取得されるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の組成にしたがってRNA干渉ポリヌクレオチドを混合することを特徴とすることを要旨とする。
【0017】
請求項13に記載の発明は、病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレ
オチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を、コンピュータを用いて設計するためのRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計プログラムであって、前記コンピュータを、前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得手段と、取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得手段と、取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得手段と、取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択手段として機能させ、前記組み合わせ選択手段を、RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得手段で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択する手段として機能させることを要旨とする。
【0018】
請求項14に記載の発明は、病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物であって、前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得工程と、取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得工程と、取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得工程と、RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することにより、前記取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択工程と、により設計されたことを要旨とする。
【0019】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、以下の工程により、病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を設計する。すなわち、前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得し、取得した病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する。そして、取得した標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得する。そして、取得した複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して
、より好ましい組み合わせ情報を取得する。組み合わせの選択は、RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することにより行う。これにより、ゲノム多様性をもつ病原性微生物において、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を設計できる。なお、転写産物とは、ゲノム又はその特定部分配列の転写とかかる転写後のスプライシングにより取得されるものを含む。転写産物では、例えば、スプライシングにより取得される、ゲノム自体には存在しない塩基配列が存在する。RNA干渉ポリヌクレオチドはこのような転写産物特有の塩基配列に対してRNA干渉を起こしてもよい。
請求項2に記載の発明によれば、前記網羅性と前記重複性とを高めるように前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択する。従って、ゲノム多様性をもつ病原性微生物において、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を設計できる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、前記網羅性を前記重複性よりも優先して前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択する。従って、ゲノム多様性をもつ病原性微生物において、広汎なゲノム配列に効くRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を優先的に設計できる。
請求項4に記載の発明によれば、前記RNA干渉ポリヌクレオチド情報取得工程で取得した前記RNA干渉ポリヌクレオチドの複数の塩基配列情報の各々について、前記病原性微生物塩基配列情報の集合におけるRNA干渉ポリヌクレオチド単独の網羅率を算出する。そして、算出した前記単独の網羅率に基づいてRNA干渉ポリヌクレオチドの、より好ましい組み合わせを検討する。組み合わせの検討は、前記単独の網羅率が高い前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数選択して組み合わせ候補配列群を形成するとともに、前記組み合わせ候補配列群から所定数の前記塩基配列情報を選択して組み合わせ、組成の異なる複数の組み合わせを特定する組み合わせ候補特定工程と、特定した前記複数の組み合わせの各々について、一の組み合わせにおける前記病原性微生物塩基配列情報の集合における網羅率を算出する網羅率算出工程と、算出した組み合わせの網羅率を前記複数の組み合わせの間で比較する比較工程とを含む。これにより、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異の出現の確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を構成するRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択できる。
請求項5に記載の発明によれば、前記組み合わせ検討工程は、前記組み合わせ候補配列群から選択する前記塩基配列情報の数を変化させるとともに、変化させた各々の場合について、前記組み合わせ候補特定工程と、前記網羅率算出工程と、前記比較工程とを実行し、所定の終了条件を満たすまで当該一連の処理を繰り返す。これにより、効率的に、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異の出現の確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を構成するRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択できる。
請求項6に記載の発明によれば、前記組み合わせ検討工程は、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で複数取得した前記病原性微生物塩基配列情報の各一の病原性微生物塩基配列情報についての重複性に基づいて、前記組み合わせ候補特定工程で取得した複数の前記組み合わせの各々について、前記病原性微生物塩基配列情報の集合に対する前記RNA干渉ポリヌクレオチドが重複する前記病原性微生物塩基配列情報の割合を示す指標である組み合わせ内重複率を算出する重複率算出工程を含み、前記比較工程は、算出した前記組み合わせ内重複率を前記複数の組み合わせの間で比較する工程をさらに含む。これにより
、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせにおける複数のRNA干渉ポリヌクレオチドがRNA干渉可能であることを示す指標である組み合わせ内重複率にさらに基づいてRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を構成するRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択できる。従って、ブレークスルー変異の出現の確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を構成するRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択できる。
請求項7に記載の発明によれば、病原性微生物の塩基配列情報のデータベースから前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列の病原性微生物塩基配列情報を取得する。これにより、病原性微生物の塩基配列情報のデータベースを用いて、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を設計できる。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、宿主に感染している前記病原性微生物のゲノム解析の結果に基づいて前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列の病原性微生物塩基配列情報を取得する。これにより、宿主に感染している病原性微生物のゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を設計できる。
請求項9に記載の発明によれば、前記病原性微生物をRNAウイルスとすることができる。
請求項10に記載の発明によれば、前記病原性微生物をヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、SARS、コロナウイルス、マラリア原虫、真菌のいずれか1つとすることができる。
請求項11に記載の発明によれば、以下の手段を備えた、病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計装置を提供する。すなわち、前記RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計装置は、前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得手段と、取得した病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得手段と、取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得手段と、取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択手段と、を備える。そして、前記組み合わせ選択手段は、RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得手段で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択する。これにより、ゲノム多様性をもつ病原性微生物において、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を設計できる。
【0022】
請求項12に記載の発明によれば、請求項1〜10のいずれか1つに記載の設計方法により取得されるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の組成にしたがってRNA干渉ポリヌクレオチドを混合することにより、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物を作製する。これにより、ゲノム多様性をもつ病原性微生物において、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレ
オチド混合物を作製できる。
請求項13に記載の発明によれば、コンピュータを用いて、以下のようにして、病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を設計する。すなわち、前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得し、取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する。そして、取得した標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得する。そして、取得した複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する。組み合わせの選択は、RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得手段で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することにより行う。これにより、ゲノム多様性をもつ病原性微生物において、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を設計できる。
請求項14に記載の発明によれば、以下の工程により設計した、病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を提供する。すなわち、前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得し、取得した病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する。そして、取得した標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得する。そして、RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することにより、前記取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する。これにより、ゲノム多様性をもつ病原性微生物において、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を提供できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高いゲノム多様性をもち、頻繁に変異が発生する病原性微生物に対して、広汎かつ高い有効性を有するRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図3を用いて説明する。本実施形態では、高いゲノム多様性をもち、頻繁に変異が発生する病原性微生物に対して、広汎かつ高い有効性を有するRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法、RNA干渉ポリヌクレオ
チド混合物の設計装置、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の作製方法、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計プログラム、及びRNA干渉ポリヌクレオチド混合物について説明する。
本実施形態では、siRNAがRNA干渉ポリヌクレオチドに該当する。RNA干渉ポリヌクレオチドはRNA型及びDNA型のいずれであってよく、例えば、RNA型のものとしてはsiRNA、また、DNA型のものとしてはshRNA発現ベクターやsiRNA発現2本鎖DNA断片が挙げられる。ここでは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)に対して、広汎かつ高い有効性を有するsiRNA混合物(RNA干渉ポリヌクレオチド混合物に相当)を構成するsiRNA混合物の設計方法、設計装置、作製方法、設計プログラム、及び、これらにより取得されるsiRNA混合物について説明する。
本実施形態では、HIVの配列データベース(http://www.hiv.lanl.gov/)に全長又はほぼ全長のゲノムが登録された400近くのHIV−1ゲノム配列を対象として、汎用的なsiRNA混合物(カクテル)を構成するsiRNAを選択する場合について説明する。このようにして選択されたsiRNAのカクテルは、患者に感染しているHIV−1のゲノム配列が不明な場合でも、有効であると期待される。
【0025】
図1に示すように、設計装置20は、制御部21、入力部22、出力部23及び記憶部24を備えている。
制御部21は、図示しない制御手段(CPU)、記憶手段(RAM、ROM等)を有し、RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計プログラムを実行することにより、後述する処理を行う。
【0026】
制御部21は、ゲノム情報取得手段、標的サイト情報取得手段、siRNA情報取得手段、単独網羅率算出手段、組み合わせ候補特定手段、網羅率算出手段、重複率算出手段、比較手段、終了条件判定手段、組み合わせ特定手段を備えている。
ゲノム情報取得手段は、病原性微生物としてのHIV−1のゲノム情報を取得する。このゲノム情報取得手段は、特許請求の範囲に記載の病原性微生物塩基配列情報取得手段として機能する。
標的サイト情報取得手段は、HIV−1のゲノム情報に基づいて、HIV−1ゲノムのsiRNAの標的サイトの塩基配列情報を取得する。この標的サイト情報取得手段は、特許請求の範囲に記載の標的サイト情報取得手段として機能する。
【0027】
siRNA情報取得手段は、取得した標的サイトの塩基配列情報に基づいて、標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を取得する。このsiRNA情報取得手段は、特許請求の範囲に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得手段として機能する。
【0028】
単独網羅率算出手段は、各siRNAの単独の網羅率を算出する。組み合わせ候補特定手段は、単独の網羅率が高いsiRNA配列を複数選択して組み合わせ候補配列群を形成するとともに、この候補配列群から所定数の塩基配列情報を選択して組み合わせ、組成の異なる複数の組み合わせを特定する。網羅率算出手段は、特定した複数の組み合わせの各々について、一の組み合わせにおける網羅率を算出する。重複率算出手段は、特定した複数の組み合わせの各々について、一の組み合わせにおける重複率を算出する。比較手段は、算出した組み合わせの網羅率及び重複率を、組み合わせ候補特定手段により特定した複数の組み合わせの間で比較する。終了条件判定手段は、組み合わせ検討処理を終了するかどうかの判定を行う。組み合わせ特定手段は、組み合わせ検討処理の結果に基づいて、siRNAの組み合わせを選択する。すなわち、単独網羅率算出手段、組み合わせ候補特定手段、網羅率算出手段、重複率算出手段、比較手段、終了条件判定手段及び組み合わせ特定手段は、特許請求の範囲に記載の組み合わせ選択手段として機能する。
制御部21は、後述する処理を行い、siRNAの設計を行うとともに、カクテルを構
成する複数のsiRNAを選択する。
入力部22は、キーボード、マウス等で構成され、カクテルを構成するsiRNAの個数(n個)を入力する場合等に使用される。
【0029】
出力部23は、ディスプレイ装置等の出力装置に接続される。本実施形態では、カクテル(siRNA混合物)を構成する選択されたsiRNAに関する情報を表示する。
記憶部24は、ハードディスク等の記憶装置であって、HIV−1配列データ記憶部25、HIV−1配列/siRNAデータ記憶部26及びカクテルデータ記憶部27を備えている。
【0030】
HIV−1配列データ記憶部25には、HIV−1ゲノム配列に関するデータを記録する。このデータは、公的なHIVの配列データベースに登録されたデータ、具体的には、HIVの配列データベース(http://www.hiv.lanl.gov/)よりダウンロードすることにより入手可能である。本実施形態では、外部システム40のHIVの配列データベース45に全長又はほぼ全長のゲノムが登録された、400近くのHIV−1ゲノム配列を入手し、HIV−1配列データ記憶部25に記録する。
【0031】
HIV−1配列/siRNAデータ記憶部26には、HIV−1配列データ記憶部25に記録されたHIV−1ゲノム配列について所定のガイドライン、例えば、Ui−Teiらによるガイドライン(Ui-Tei,K., Naito,Y., Takahashi,F., Haraguchi,T., Ohki-Hamazaki,H., Juni,A., Ueda,R. an d Saigo,K., 'Guidelines for the selection of highly
effective siRNA sequences for mammalian and chick RNA interference', Nucleic Acids Research, 2004, Vol. 32, No.3, 936-948)に従って設計されたsiRNA配列に関するデータを記録する。具体的には、(1)アンチセンス鎖の5’末端がA又はUであり、(2)センス鎖の5’末端がG又はCであり、(3)アンチセンス鎖の5’の7塩基中の4塩基以上はA又はUであり、(4)10塩基以上のGC連続配列が存在しない、という条件を満たすという条件に従ってsiRNA配列を設計し、このsiRNA配列に関するデータを記録する。さらに、各siRNAが、それぞれ、どのHIV−1ゲノム配列を標的としうるかについて、siRNA配列とHIV−1ゲノム配列とを関連付けて記録する。具体的には、後述する図2と同様のマトリックスを記録する。なお、siRNAの設計について用いるガイドラインは上記に限定されるものではない。
【0032】
なお、一般的に、siRNAは、分解したいmRNAの一部に対応する21塩基(もしくは、オーバーハングも考慮して23塩基)の配列から設計する。HIV−1がコードするタンパクのmRNAに対応する21塩基を使ってゲノムを分解するものでもよいし、HIV−1はゲノム自体がプラス鎖RNAなので、ゲノム配列の一部に対応する21塩基を使ってゲノムを分解するものでもよい。
【0033】
カクテルデータ記憶部27には、選択された複数のsiRNAの配列に関するデータが記録される。
(siRNAのカクテルの網羅率及び重複率)
次に、本発明におけるsiRNAの混合物(カクテル)の網羅率及び重複率について説明する。
【0034】
HIV−1に対するsiRNAについて効果的なカクテルを作製するためには、「カクテルのHIV−1の集合に対する網羅率(coverage)」と「各HIV−1についての重複性(或いは冗長性)(redundancy)」という2つの指標を考慮する必要がある。
【0035】
「カクテルのHIV−1の集合に対する網羅率(coverage)」とは、あるカクテルがHIV−1の配列の集合のうちのどのくらいの割合に対して効くかということに対する指標
である。ここで言う「効く」とは、カクテルに含まれるsiRNAの最低1種類が、HIV−1の配列に完全一致している状態をいう。網羅率が高ければ、対象のHIV−1配列が未知であっても、そのカクテルが有効である確率が高くなると考えられる。
図2を用いて具体的に説明する。図2には、10種類のHIV−1配列と10種類のsiRNAから構成される表が示されている。この表において、siRNAが標的にできるHIV−1配列について、「×」が示されている。例えば、「siRNA_001」が標的にできるHIV−1配列は、「HIV_001」、「HIV_004」、「HIV_007」、「HIV_009」である。この表の下には、各siRNAについて、それぞれ標的にできるHIV−1配列の個数が示されている。例えば、「siRNA_001」が標的にできるHIV−1配列の個数は、「4」である。この個数を、対象とするHIV−1配列の個数で割ったものが、このsiRNAの単独の網羅率となる。すなわち、「HIV_001」〜「HIV_010」の10個のHIV−1(これが請求項4等における「病原性微生物塩基配列情報の集合」に相当)に対して「siRNA_001」の単独の網羅率は「0.4」である。
【0036】
「カクテルのHIV−1に対する網羅率(coverage)」について、「siRNA_00
6」及び「siRNA_007」により構成されるカクテルを例にして説明する。「siRNA_006」及び「siRNA_007」の少なくともいずれか1つが効くHIV−1配列は、「HIV_001」、「HIV_003」、「HIV_005」、「HIV_006」、「HIV_007」、「HIV_008」、「HIV_009」、「HIV_0010」の合計8個である。すなわち、「siRNA_006」及び「siRNA_007」により構成されるカクテルの網羅率は「0.8」である。
「各HIV−1についての重複性(或いは冗長性)(redundancy)」とは、ある1つのHIV−1配列に着目したときに、カクテル中のsiRNAのうち、何種類のsiRNAが効くか(HIV−1の配列に完全に一致するか)ということに関する指標である。特定のHIV−1について重複性が高ければ、このHIV−1が耐性を獲得する確率を下げることができる。従って、このHIV−1が耐性を獲得するまでの時間を引き伸ばすことができる。
【0037】
例えば、「siRNA_006」及び「siRNA_007」により構成されるカクテルは、「HIV_001」については2種類のsiRNAが効くこととなる。
HIV−1配列の集合においては、集合を構成する各HIV−1における重複性(或いは冗長性)(redundancy)が高いことが好ましい。「各HIV−1についての重複性(或いは冗長性)(redundancy)」は、1つのHIV−1のゲノム配列に注目した場合の値であるため、HIV−1配列の集合において、この集合における重複性(或いは冗長性)(redundancy)を定義する必要がある。ここでは、集合における重複性(或いは冗長性)(redundancy)を、網羅率についての概念を拡張した「集合の重複率」(以下、単に「重複率」という。)を用いて判断する。
【0038】
すなわち、網羅率についての概念を以下のように拡張する。例えば、「第1の網羅率」を、HIV−1配列の集合において、あるカクテルを構成するsiRNAのうち最低1つが標的とするHIV−1配列の割合と定義する。また、「第2の網羅率」を、HIV−1配列の集合において、あるカクテルを構成するsiRNAのうち2つ以上が標的とするHIV−1配列の割合と定義する。「第3の網羅率」を、HIV−1配列の集合において、あるカクテルを構成するsiRNAのうち3つ以上が標的とするHIV−1配列の割合と定義する。このように、「第nの網羅率」を、HIV−1配列の集合において、あるカクテルを構成するsiRNAのうちn個以上が標的とするHIV−1配列の割合と定義する。
【0039】
ここで、先に説明した網羅率は、「第1の網羅率」に一致する。一方、重複率について
は、本実施形態では、HIV−1配列の集合において、2種類以上のsiRNAが効くHIV−1配列の割合と定義する。すなわち、本実施形態では、重複率は、上記の「第2の網羅率」に該当する。
例えば、「siRNA_005」、「siRNA_006」及び「siRNA_007」により構成されるカクテルにおいて、2つ以上のsiRNAが効くHIV−1配列は、「HIV_001」,「HIV_003」,「HIV_005」,「HIV_008」,「HIV_0010」の合計5個である。したがって、「HIV_001」〜「HIV_010」の10個のHIV−1(「病原性微生物塩基配列情報の集合」に相当)に対してカクテルの重複率(請求項6における組み合わせ内重複率に相当)は「0.5」である。
なお、HIV−1配列の集合における3種類以上のsiRNAが効くHIV−1配列の割合等、n(n≧3)種類以上のsiRNAが効く割合を考慮して重複率を定める場合については後述する。
【0040】
(カクテルを構成するsiRNAの選択の例)
次に、カクテルの網羅率及び重複率を高めるようにsiRNAを選択する場合の具体例を、図2を用いて説明する。
【0041】
この表の例において、3つのsiRNAを混合してカクテルを作製する場合について説明する。ここで、単独の網羅率の高いものから順番に2つのsiRNAを選択すると、「siRNA_006」(7つ)と、「siRNA_009」(6つ)が選択される。ここで、カクテルがすべてのHIV−1配列に効く(カクテルの網羅率が「1」となる)ようにカクテルを構成するsiRNAを選択することを考える。この場合、「siRNA_006」及び「siRNA_009」では網羅していない「HIV_007」について効くsiRNAを選択する必要がある。
【0042】
ここでは、「siRNA_001」,「siRNA_007」,「siRNA_010」が、「HIV_007」に効く。このため、カクテルがすべてのHIV−1配列に効くようにsiRNAを選択するためには、さらに、「siRNA_001」,「siRNA_007」,「siRNA_010」のいずれかを選択すればよい。
【0043】
ここで、さらに「siRNA_010」を選択したとする。このカクテルを用いた場合、各HIV−1配列を標的とできるsiRNAの数は、以下のようになる。
「HIV_001」に対しては「siRNA_006」が有効であり、有効なsiRNAの数は「1」になる。「HIV_002」は「2」、「HIV_003」は「1」、「HIV_004」は「2」、「HIV_005」は「1」、「HIV_006」は「2」、「HIV_007」は「1」、「HIV_008」は「2」、「HIV_009」は「2」、HIV_010は「2」となる。
【0044】
カクテルの重複率を上げるためには、各HIV−1配列を標的とできるsiRNAの数について、2以上となるものが多くなるように選択する必要がある。なお、この例では、「siRNA_001」,「siRNA_007」,「siRNA_010」のいずれを選択した場合も、重複率は「0.6」となる。
【0045】
なお、実際には、これよりずっと多くのHIV−1配列やsiRNAについて、カクテルを構成するsiRNAの組み合わせを選択することとなる。このため、コンピュータを用いて、siRNAの組み合わせそれぞれについて、カクテルの網羅率や重複率を算出し、最適な組み合わせを選択する。しかし、すべての組み合わせをチェックしようとすると計算に長時間を要する。
【0046】
例えば、siRNAの候補が10個、HIV−1の配列が10個ある場合、n個のsi
RNAを混合したカクテルは、10n通り存在する。siRNAの候補が多くなっており
、nが大きくなると、計算に長時間を要する。例えば、siRNAの候補が10000、n=7の場合、100007=2×1024通りを計算しなければならない。これは、実際上非常に困難なので、近似を考える。このための処理について、次に説明する。
【0047】
(処理手順)
次に、網羅率及び重複率をより大きくし、オフターゲット効果の低いsiRNAの組み合わせを選択する場合の処理手順を説明する。なお、オフターゲット効果とは、RNA干渉の対象となるHIV−1の標的配列以外の遺伝子の発現に影響を与えることをいう。siRNAにより宿主の遺伝子の発現が抑制されてしまうのは好ましくないため、オフターゲット効果の低いものを選択する必要がある。
本実施形態では、HIVの配列データベース45から入手したHIV−1ゲノム配列について、siRNAを設計し、siRNAのカクテルを作製する。
【0048】
具体的には、まず、制御部21は、病原性微生物塩基配列情報取得工程として、ゲノム情報取得手段により、ネットワーク50を介してHIVの配列データベース45からHIV−1ゲノム配列に関するデータを入手し、HIV−1配列データ記憶部25に記録する。
そして、制御部21は、標的サイト情報取得工程として、標的サイト情報取得手段により、HIV−1配列データ記憶部25に記録したHIV−1ゲノム配列について、上記の所定のガイドラインに従ってsiRNAの標的サイトを特定し、特定した標的サイトに関する情報を取得する。
そして、制御部21は、RNA干渉ポリヌクレオチド情報取得工程として、siRNA情報取得手段により、標的サイトに関する情報に基づいて、siRNAの配列情報を取得する。具体的には、HIV−1ゲノム配列の標的サイトに関する情報に基づいて上述した所定のガイドラインに従って特定された標的サイトに対応するsiRNA配列を設計し、このsiRNA配列に関するデータをHIV−1配列/siRNAデータ記憶部26に記録する。さらに、制御部21は、siRNA情報取得手段により、各siRNAが、それぞれ、どのHIV−1ゲノム配列を標的としうるかについて、siRNA配列とHIV−1ゲノム配列とを関連付けてHIV−1配列/siRNAデータ記憶部26に記録する。具体的には、後述する図2と同様のマトリックスを記録する。本実施形態では、このマトリックスを用いて処理を行う。なお、ここでは、図2のマトリックスを用いて説明する。
【0049】
そして、制御部21は、組み合わせ選択工程として、以下の処理を行う。この処理を図3に従って説明する。
ユーザは、処理の開始要求を行う際に、カクテルを構成するsiRNA配列の数(n個)の指定を行う。具体的には、ユーザは、入力部22を用いてsiRNA配列の数を入力する。制御部21は、このsiRNA配列の数(n個)の入力を受け入れると、これを、選択するsiRNA配列の数として、制御部21内の記憶手段に記録する。
【0050】
siRNA配列の数の設定が行われ、処理の開始要求が入力されると、制御部21は、カクテルを構成するsiRNAの候補を特定する(ステップS1)。具体的には、制御部21は、まず、ゲノム情報取得手段により、HIV−1配列/siRNAデータ記憶部26に記録されたHIV−1配列の中から、対象とするHIV−1配列の集合を特定し、siRNA情報取得手段により、この集合に含まれるHIV−1ゲノム配列を対象として設計されたsiRNAを選択する。ここでは、HIV−1の配列データベースに全長又はほぼ全長のゲノムが登録された400近くのHIV−1ゲノム配列を対象として、これらのHIV−1ゲノム配列の標的サイトに対して設計されたsiRNAを選択する。
【0051】
そして、制御部21は、単独網羅率算出工程として、単独網羅率算出手段により、各s
iRNAの単独の網羅率を算出する(ステップS2)。なお、単に、各siRNAについて、標的にできるHIV−1配列の個数を算出してもよい。そして、算出した網羅率(又は個数)をsiRNAの識別情報に関連付けて制御部21内の記憶手段に記録する。上記の例では、図2のマトリックスの下に記載されたsiRNAが標的にできるHIV−1の個数を、各siRNAの識別情報に関連付けて記録する。
【0052】
次に、制御部21は、組み合わせ検討工程として、以下に説明する組み合わせ検討処理を行う。まず、制御部21は、初期値として変数kに0を代入する(ステップS3)。なお、変数kは、後述するように、0以上の整数が代入される。本実施形態では、後述するように網羅率及び重複率の増加傾向が飽和するまで繰り返して処理を行うため、検索対象のHIV−1配列の全体数をNとすると、繰り返し処理の最大回数は、(N−n+1)回となり、kの最大値は(N−n)となる。
【0053】
そして、制御部21は、組み合わせ候補特定手段により、組み合わせ候補特定工程を実行する。具体的には、単独の網羅率が上位n+k個のsiRNAを特定する(ステップS4)。図2の例を用いて、n=3として具体的に説明する。単独の網羅率の上位から順番に3個のsiRNA配列を選択すると、「siRNA_006」(0.7)、「siRNA_009」(0.6)、「siRNA_001」(0.4)となる。なお、網羅率が同じ場合、整列順に選択する。ここでは、「siRNA_001」、「siRNA_004」、「siRNA_005」及び「siRNA_007」が、網羅率が0.4で同じであるため、1番前に並べられている「siRNA_001」を優先的に選択する。
さらに、制御部21は、網羅率算出手段により、網羅率算出工程を実行する。具体的には、上位n+k個のうちの上位n個についての組み合わせのうち、追加された組み合わせについて、それぞれ網羅率を算出する(ステップS5)。ここでは、k=0であり、特定された上位n個の組み合わせが、新規組み合わせに相当するため、これについて網羅率を算出する。上記の例では、「siRNA_006」、「siRNA_009」及び「siRNA_001」の網羅率を算出する。ここで、図2のすべてのHIV−1配列には少なくとも1つのsiRNAが効き、網羅率は「1」となる。
さらに、制御部21は、重複率算出手段により、重複率算出工程を実行する。具体的には、上位n+k個のうちの上位n個についての組み合わせのうち、新規組み合わせについて、それぞれ重複率を算出する(ステップS6)。ここでは、k=0であり、特定された上位n個の組み合わせが、新規組み合わせになるため、これについて重複率を算出する。なお、本実施形態では、重複率は、上述のように、HIV−1配列の集合において、2種類以上のsiRNAが効くHIV−1配列の割合とする。上記の例では、「siRNA_006」、「siRNA_009」及び「siRNA_001」の重複率を算出する。ここで、2つ以上のsiRNAが効くHIV−1配列は、「HIV_001」、「HIV_004」、「HIV_006」、「HIV_008」、「HIV_009」、「HIV_010」であり、重複率は「0.6」となる。
【0054】
そして、制御部21は、比較工程として、比較手段により、単独の網羅率が上位n+k個のsiRNAのうちのn個の組み合わせについての網羅率及び重複率に基づいて、より好ましいsiRNAの組み合わせを特定する(ステップS7)。具体的には、これまでに制御部21内の記憶手段に「k−1」に関連付けて記録されている網羅率及び重複率、及び、新規組み合わせについて算出された網羅率及び重複率を比較し、最も網羅率が高く、かつ重複率が高い組み合わせを特定する。本実施形態では、網羅率を優先的に比較し、網羅率が同じ場合、重複率を比較する。そして、網羅率が最も高い組み合わせを特定する。また、網羅率が最も高い組み合わせが複数ある場合には、このうち重複率が最も高い組み合わせを特定する。ここでは、k=0であるため、これまでに、処理の回数に関連付けて記録されている網羅率及び重複率はない。このため、上位n個の組み合わせが特定される。上記の例では、上位3個の「siRNA_006」、「siRNA_009」及び「s
iRNA_001」の組み合わせが特定される。
【0055】
そして、制御部21は、特定した組み合わせについて、siRNAの識別情報と網羅率及び重複率とを、変数kに関連付けて制御部21内の記憶手段に記録する(ステップS8)。ここでは、k=0に関連付けてsiRNAの識別情報と網羅率及び重複率を記録する。上記の例では、k=0に関連付けて、「siRNA_006」、「siRNA_009」及び「siRNA_001」と、網羅率「1」及び重複率「0.6」を記録する。
【0056】
そして、制御部21は、終了条件判定手段により、変数kとの関係において、これまでに記憶手段に記録された組み合わせの網羅率及び重複率の推移を調べる(ステップS9)。本実施形態では、連続した所定の回数分の網羅率及び重複率を抽出し、これらの値の増加傾向が飽和しているかどうかを基準として調べる。網羅率及び重複率の増加傾向が飽和している場合、組み合わせが、より網羅率が高く重複率が高いという最適解に収束していることを示す。
【0057】
そして、制御部21は、終了条件判定手段により、終了条件を満たしているかどうかの判定を行う(ステップS10)。本実施形態では、網羅率及び重複率がともに、所定の回数、連続して増加していない場合、繰り返し処理を終了する。ここでは、k=0であるため、終了条件を満たさない。終了条件を満たさない場合(ステップS10においてNOの場合)、k+1をkに代入する(ステップ11)。そして、ステップS4の処理に戻る。そして、終了条件を満たすまで(ステップS10においてYESとなるまで)、ステップS4〜S10、及びステップS11の処理を繰り返す。
【0058】
ここで、k=1の場合について、図2を用いて説明する。ここで、ステップS4において、「siRNA_006」、「siRNA_009」、「siRNA_001」に加えて、新たに「siRNA_004」を特定する。そして、ステップS5において、新規の組み合わせとして、「siRNA_006」、「siRNA_009」及び「siRNA_004」の組み合わせ、「siRNA_009」、「siRNA_001」及び「siRNA_004」の組み合わせ、「siRNA_001」、「siRNA_006」及び「siRNA_004」の組み合わせについて、それぞれ網羅率を算出する。すなわち、ここで、網羅率を算出する組み合わせの数は、4333となる。そして、ステップS6において、新規の組み合わせとして、これらの組み合わせについて、それぞれ重複率を算出する。
そして、ステップS7において、これまでに制御部21内の記憶手段に「k=0」に関連付けて記録されている網羅率及び重複率、及び、新規組み合わせについて算出された網羅率及び重複率について、最も網羅率が高く、かつ重複率が高い組み合わせを特定する。すなわち、「k=0」に関連付けて記録されている「siRNA_006」、「siRNA_009」及び「siRNA_001」の組み合わせ、新規組み合わせである「siRNA_006」、「siRNA_009」及び「siRNA_004」の組み合わせ、「siRNA_009」、「siRNA_001」及び「siRNA_004」の組み合わせ、「siRNA_001」、「siRNA_006」及び「siRNA_004」の組み合わせについて、網羅率及び重複率を比較する。そして、最も網羅率が高く、かつ重複率が高い組み合わせを特定する。そして、このようにして特定した組み合わせについて、ステップS8において、siRNAの識別情報と網羅率及び重複率とを、「k=1」に関連付けて制御部21内の記憶手段に記録する。
【0059】
そして、終了条件を満たさない場合(ステップS10においてNOの場合)、k+1をkに代入し(ステップ11)、ステップS4の処理に戻る。ここでは、k=1であるため、連続した所定の回数分の網羅率及び重複率の増加傾向が飽和しているという終了条件を満たさない。このため、k+1をkに代入して「k=2」について、ステップS4以降の
処理を行う。これについて、次に説明する。
ここで、ステップS4において、「siRNA_006」、「siRNA_009」、「siRNA_001」、「siRNA_004」に加えて、新たに「siRNA_005」を特定する。そして、ステップS5において、新規の組み合わせとして、「siRNA_006」、「siRNA_009」、「siRNA_001」、「siRNA_004」のうちの2個に「siRNA_005」を加えたn個(3個)のsiRNA配列により構成される組み合わせについて、それぞれ網羅率を算出する。すなわち、ここで、網羅率を算出する組み合わせの数は、5343となる。そして、ステップS6において、新規の組み合わせとして、これらの組み合わせについて、それぞれ重複率を算出する。
【0060】
そして、ステップS7において、これまでに制御部21内の記憶手段に「k=1」に関連付けて記録されている網羅率及び重複率、及び、新規組み合わせについて算出された網羅率及び重複率について、最も網羅率が高く、かつ重複率が高い組み合わせを特定する。すなわち、「k=1」に関連付けて記録されている組み合わせ及び新規組み合わせについて、網羅率及び重複率を比較する。そして、最も網羅率が高く、かつ重複率が高い組み合わせを特定する。そして、このようにして特定した組み合わせについて、ステップS8において、siRNAの識別情報と網羅率及び重複率とを、「k=2」に関連付けて制御部21内の記憶手段に記録する。
【0061】
そして、終了条件を満たさない場合(ステップS10においてNOの場合)、k+1をkに代入し(ステップ11)、ステップS4の処理に戻る。ここでは、k=2であるため、上記の終了条件を満たさない。このため、k+1をkに代入して「k=3」について、ステップS4以降の処理を行う。
このようにして、終了条件を満たすまで、kを増加させながらステップS4〜S10、及びステップS11の処理を繰り返す。
そして、終了条件を満たす場合(ステップS10においてYESの場合)、制御部21は、組み合わせ特定手段により、カクテルを構成するsiRNAの組み合わせを特定する(ステップS11)。本実施形態では、網羅率及び重複率がともに増加しない状態になるまで処理を繰り返すため、最後に記録されているsiRNAの組み合わせが網羅率及び重複率がより高いため、この組み合わせをカクテルを構成するsiRNAの組み合わせとする。
【0062】
そして、制御部21は、特定されたsiRNAの組み合わせを、カクテルデータ記憶部27に記録し、表示部32に出力する。作業者は、この表示部32に出力されたsiRNAの組み合わせに従って、siRNAを組み合わせてsiRNAのカクテルの作製を行う。
【0063】
以上、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
・ 上記実施形態では、設計装置20は、HIV−1のゲノムの配列情報を複数取得し、これに基づいて、標的サイトの塩基配列情報を複数取得する。そして、取得した標的サイトの塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対するsiRNAの塩基配列情報を複数取得する。そして、取得したsiRNAから、HIV−1のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なsiRNAの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせを特定する。組み合わせの特定は、siRNAの組み合わせがHIV−1の配列情報のうちのいくつに対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、HIV−1の配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能なsiRNAがsiRNAの組み合わせのうち幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、siRNAの組み合わせを選択する。そして、この組み合わせのsiRNAを混合したsiRNA混合物(siRNAカクテル)を作製する。
【0064】
これにより、HIV−1において、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー
変異が出現する確率をより少なくすることができるsiRNA混合物を提供できる。
・ 上記実施形態では、網羅率と重複率とを高めるように、すなわち、HIV−1の集合に対するカクテルの網羅性と、各HIV−1における重複性とを高めるようにsiRNAの組み合わせを選択する。これにより、HIV−1において、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるsiRNA混合物を提供できる。
・ 上記実施形態では、候補として選択されたsiRNAのうち、単独の網羅率が高いものを優先的に選択する。これにより、効率的に、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるsiRNA混合物を構成するsiRNAの組み合わせを選択できる。
【0065】
・ 上記実施形態では、候補として選択されたsiRNAのうち、単独の網羅率が高いものの組み合わせから順番に、網羅率及び重複率を比較していく処理を、ある程度好ましい組み合わせが得られたことに対応する所定の終了条件になるまで繰り返すことにより、siRNAの組み合わせを選択する。これによれば、効率的に、広汎なゲノム配列に効くとともに、ブレークスルー変異が出現する確率をより少なくすることができるsiRNA混合物を構成するsiRNAの組み合わせを選択できる。
【0066】
・ 上記実施形態では、HIV−1のゲノムの配列を、HIVのゲノムデータベースから取得する。これにより、HIVのゲノムデータベースを利用して、siRNAの組み合わせを選択できる。
【0067】
なお、上記実施形態は、以下の態様に変更してもよい。
○ 上記実施形態では、複数のsiRNAを混合したカクテルについて2種類以上のsiRNAが効くHIV−1の割合を、このカクテルにおける重複率とし、カクテルの網羅率と重複率とを別々に算出して、網羅率及び重複率がともに高くなるようした。つまり、2種のsiRNAが効くHIV−1配列と、3種のsiRNAが効くHIV−1配列とを区別せずに、重複率の評価を行った。これに代えて、重複率の判断において、より多くのsiRNAが効くHIV−1配列の割合を考慮してもよい。具体的には、n個のsiRNAを混合する場合に、第1の網羅率(カクテルの網羅率)及び第2の網羅率(カクテルの重複率)に加えて、第3の網羅率、…、第nの網羅率を考慮する。
これについて、図2を用いて、具体的に説明する。例えば、「siRNA_001」、「siRNA_004」、「siRNA_006」及び「siRNA_009」により構成されるカクテルについて説明する。この場合、図2のすべてのHIV−1配列について、少なくとも1つのsiRNAが効く。また、「HIV_002」及び「HIV_007」以外には、2以上のsiRNAが効く。また、「HIV_009」及び「HIV_0010」には、3以上のsiRNAが効く。また、「HIV_009」には、4以上のsiRNAが効く。従って、第1の網羅率は「1」、第2の網羅率は「0.8」、第3の網羅率は「0.2」、第4の網羅率は「0.1」となる。
この場合、ステップS6において、追加された組み合わせについて、それぞれ、第2の網羅率に加えて、第3の網羅率、…、第nの網羅率を算出する。そして、ステップS7において、第1の網羅率、第2の網羅率、第3の網羅率、…、第nの網羅率に基づいて、より好ましい組み合わせを特定する。さらに、ステップS9において、これまでに記録された最上位の組み合わせについて、第1の網羅率、第2の網羅率、第3の網羅率、…、第nの網羅率についての推移をそれぞれ調べる。そして、それぞれの推移の結果に基づいて、処理を終了するかどうかを判断する。なお、この場合、終了条件は、第1〜第nの網羅率のすべての推移について、所定の回数、連続して増加していない状態となっていなくても、処理を所定の回数実行した場合に処理を終了することとしてもよい。また、第1の網羅率(又は、第1の網羅率及び第2の網羅率)が、所定の値に達した場合や、第1の網羅率(又は、第1の網羅率及び第2の網羅率)の増加傾向が飽和している場合において、処理
を所定の回数実行した場合に、処理を終了してもよい。
【0068】
これにより、1つのHIV−1が、より多くの標的サイトを有するように、siRNAを選択することができる。従って、HIV−1ゲノムがもつ標的サイトのすべてに変異が入らないと、siRNAのカクテルが効かないようにならないため、耐性ウイルスの発生の確率をより低くできる。
【0069】
○ 上記実施形態では、ある1つのHIV−1配列に着目した場合の「重複性(或いは冗長性)(redundancy)」という指標から派生して、複数のsiRNAを混合したカクテルについて2種類以上のsiRNAが効くHIV−1の割合を、このカクテルにおける重複率とした。そして、カクテルの網羅率と重複率とを別々に算出して、網羅率及び重複率がともに高くなるようにしてカクテルに混合するsiRNAの組み合わせの選択を行った。これに代えて、カクテルの網羅率と重複率とをまとめて算出し、これを比較することにより、網羅率及び重複率がともに高くなるようにしてカクテルに混合するsiRNAの組み合わせの選択を行ってもよい。
【0070】
例えば、n個のsiRNAを混合化する場合、この第1の網羅率、第2の網羅率、…、第nの網羅率を用いる所定の関数を用いて、網羅率に加えて、カクテルの重複率がより高くなる組み合わせを求める。例えば、これらの和をとることにより、網羅率に加えて、カクテルの重複率がより高くなる組み合わせを求める。例えば、siRNAを4つ混合する場合、「重複を考慮した網羅率=第1の網羅率+第2の網羅率+第3の網羅率+第4の網羅率」を計算する。
例えば、図2において、「siRNA_001」、「siRNA_004」、「siRNA_006」及び「siRNA_009」により構成されるカクテルについて、重複を考慮した網羅率を計算する。この場合、上記のように、第1の網羅率は「1」、第2の網羅率は「0.8」、第3の網羅率は「0.2」、第4の網羅率は「0.1」である。このため、重複を考慮した網羅率は、「重複を考慮した網羅率=1+0.8+0.2+0.1」により計算される。
この場合も、網羅率に加えて、カクテルの重複率がより高くなるように、siRNAの組み合わせを選択することができる。この方法は、対象となるsiRNAの集合について、網羅率が100%、或いは、ほぼ100%になるsiRNAの組み合わせが容易に選択でき、そのうち、さらにカクテルの重複率がより高い組み合わせがあり得る場合に特に有効である。
【0071】
○ 上記実施形態では、カクテルを構成するsiRNAの個数のすべてについて、単独の網羅率の高いものから順番にsiRNAの組み合わせを求め、この組み合わせについて網羅率及びカクテルにおける重複率を算出して、より好ましい組み合わせを特定した。これに代えて、混合するsiRNAの個数のうち、一部についてのみ単独の網羅率の高いものから順番にsiRNAの組み合わせを求め、この組み合わせでは網羅していない場合や、1つのHIV−1配列について複数のsiRNAが効かない場合に、これを補足するためのsiRNAを選択してもよい。
【0072】
例えば、4つのsiRNAを混合したカクテルを作製する場合、初めに、2つのsiRNAの組み合わせを、単独の網羅率の高いものから順番に求める。上記実施形態の場合と同様の処理を、2つのsiRNAの組み合わせについて行った後、所定の条件で処理を終了し、その時点で、網羅していないHIV−1配列(効くsiRNAが1つもないもの)や、2つ以上の効くsiRNAがないHIV−1配列について、これを補完するようなsiRNAを検索する。そして、合計で4つのsiRNAからなる組み合わせを決定する。
例えば、図2において、2つのsiRNAの組み合わせについて、上記実施形態の場合と同様の処理を行い、所定の条件(例えば、処理の回数)で処理を終了した場合に、最も
網羅率が高く、同じ網羅率では重複率が最も高い組み合わせとして、「siRNA_006」及び「siRNA_009」が特定されていたとする。この場合、さらに2つのsiRNAを選択する際に、網羅していないHIV−1配列(効くsiRNAが1つもないもの)や、2つ以上の効くsiRNAがないHIV−1配列について、これを補完するようなsiRNAを探す。ここで、網羅率を「1」にするために、「HIV_007」に効く「siRNA_001」、「siRNA_007」、「siRNA_0010」のいずれかをまず選択し、さらに、重複率を上げるためにもう1つsiRNAを選択する。例えば、「siRNA_001」と、「siRNA_010」をさらに選択する。この場合、各HIV−1に対して有効なsiRNAの数は、「HIV_001」は「2」、「HIV_002」は「2」、「HIV_003」は「1」、「HIV_004」は「3」、「HIV_005」は「1」、「HIV_006」は「2」、「HIV_007」は「2」、「HIV_008」は「2」、「HIV_009」は「3」、HIV_010は「2」となる。
このようにしても、網羅率及び重複率が高い組み合わせを選択できる。また、このような方法は、例えば、siRNAが標的にできるHIV−1配列の個数が多いものについて、効くsiRNAに偏りがある場合に特に有効である。
【0073】
○ 上記実施形態では、終了条件を、網羅率及び重複率についての増加傾向が飽和していることとしたが、設定する終了条件は、これに限られるものではない。例えば、所定の回数、処理を実行した場合に、処理を終了してもよい。また、終了条件として、網羅率のみを考慮してもよい。また、網羅率及び重複率が、それぞれ所定の値になった場合に、処理を終了してもよい。これにより、網羅率及び重複率がある程度高くなった段階で、処理を終了することができ、ある程度適した組み合わせは得られたものの最適な組み合わせがなかなか定まらないような場合に処理時間を短縮できる。
○ 上記実施形態では、カクテルを構成するsiRNAの種類数をn個に限定して、siRNAの組み合わせを決定した。これに代えて、カクテルを構成するsiRNAの種類数を、カクテルに関する網羅率及び重複率に応じて変更してもよい。例えば、より少ない種類数のsiRNAによりカクテルを構成する。この場合、例えば、nを所定の値から開始して、n種類のsiRNAにより構成されるカクテルの網羅率及び重複率を算出し、網羅率及び重複率がそれぞれ所定の値以上となるまで、nを増加させながら、処理を繰り返す。ウイルスの被感染体に投与するsiRNAの種類及び全体量は少ない方が好ましいが、これにより、より少ない種類のsiRNAによりカクテルを構成することができる。また、全体量を制限してカクテルを作製する場合に、各種類のsiRNAの量をより多くすることができる。
【0074】
○ 上記実施形態では、所定のガイドラインにより設計されたsiRNA配列であれば、カクテルを構成するsiRNAの組み合わせを決定する際に同様に扱った。これに代えて、HIV−1ゲノム配列におけるsiRNAの標的サイト同士の関係を考慮して、siRNAの組み合わせを決定してもよい。例えば、siRNAが標的とするHIV−1配列が重なっている場合、網羅率や重複率を算出する際に、これらのsiRNAについては同じものとして扱う。そして、標的サイトが重なるsiRNAについては、同じカクテルに含めないようにする。HIV−1ゲノム配列において、siRNAの標的サイトが重なりあっている部分に変異が入ると両方のsiRNAが効かなくなってしまう場合があるが、このようにすることで、1つの変異でカクテル中の複数のsiRNAが効かなくなるのを避けることができる。従って、カクテルに対する耐性ウイルスを生じにくくさせることができる。
○ 上記実施形態では、HIVの配列データベースに全長又はほぼ全長のゲノムが登録された400近くのHIV−1ゲノム配列を対象として、これらのHIV−1に効くsiRNAのカクテルを作製する場合について説明した。対象とするHIV−1ゲノム配列は、HIVの配列データベースに登録された400近くのHIV−1ゲノム配列のうちの一
部であってもよい。例えば、対象とするHIV−1ゲノム配列を、アジア型変異体のみに限定することもできる。この場合、HIV−1のアジア型変異体に感染している可能性が高い場合に、より効果的なsiRNAのカクテルを作製できる。
【0075】
○ 上記実施形態では、患者に感染しているHIV−1のゲノム配列が不明な場合に、投与するsiRNAのカクテルを作製する場合について説明した。本発明のsiRNAの組み合わせの選択方法は、患者に感染しているHIV−1ゲノム配列が解析済の場合にも用いることができる。この場合、患者に感染しているHIV−1について解析されたHIV−1ゲノム配列を対象として、同様に、網羅率及び重複率が高い組み合わせを求める。
【0076】
HIV−1に感染している場合、HIV−1の高い変異性のため、患者の体内に、準種(quasispecies)と呼ばれる複数の異なるゲノム配列のHIV−1が存在する。このため、患者に感染している複数のHIV−1ゲノム配列にそれぞれ標的サイトが存在するsiRNAを選択するとともに、解析されたHIV−1ゲノム配列に変異が入った場合にも効くsiRNAカクテルを用意する必要がある。このため、患者に感染しているHIV−1について解析されたHIV−1ゲノム配列を対象として、網羅率及び重複率が高い組み合わせを求める。これにより、患者に感染しているHIV−1のゲノム配列が解析済の場合に、より有効性の高いsiRNAカクテルを作製できる。
【0077】
○ 上記実施形態では、HIV−1ゲノムを標的とするsiRNAカクテルを作製する場合におけるsiRNAの組み合わせの選択について説明した。本発明のsiRNAの組み合わせの選択の方法は、HIV−1感染症に限らず、他の病原微生物ゲノムを標的とするsiRNAカクテルを作製する場合に直接応用が可能である。とりわけ高度のゲノム多様性をもつRNAウイルスやマラリア原虫等、医学的、公衆衛生学的見地から重要性の高い病原性微生物が格好の対象となる。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、C型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、SARS、コロナウイルス、マラリア原虫、真菌等について、同様の方法により、siRNAカクテルに混合するsiRNAの組み合わせを決定してもよい。
○ 上記実施形態では、ゲノム全体に含まれる標的サイトについてsiRNAを設計したが、ゲノムの特定の部分配列、例えば特定のタンパクをコードする配列に含まれる標的サイトについて設計する構成であってもよい。また、転写産物又はその特定の部分配列に含まれる標的サイトについてsiRNAを設計してもよい。これにより、スプライシングによって生成する遺伝子産物についてもsiRNAの設計が可能となる。
かかる点に鑑み、抗HIV−1siRNAは、標的となる塩基配列の種類から、理論的には次の3種のカテゴリに分けられる。このようなカテゴリによって、siRNAの設計や組み合わせを適宜決定する。具体的には、HIV−1複製制御に関わるcis-領域をRNA干渉の対象とするカテゴリ、HIV−1コーディング領域をRNA干渉の対象とするカテゴリ、HIV−1構造遺伝子の中でRNAスプライシングによって生成する遺伝子産物(tat,rev等)をRNA干渉の対象としゲノムRNAには標的をもたないカテゴリ、の3
つに分けられる。
【0078】
HIV−1複製制御に関わるcis-領域(例:siRNA-521(これはHIV−15'-非翻訳領域(untraslated region)のポリA配列を含んでいる)は、HIV−1ゲノムRNA及び
あらゆるクラスのHIV−1mRNAをすべて標的とするという意味で、さらに次善のsiRNAを設計しておいた方がよいと考えられる。HIV−1コーディング領域は、ゲノムRNAとオバーラップするため、siRNAの作用点がゲノムRNAであるのか、そのmRNAであるのか区別できない。HIV−1構造遺伝子の中で、RNAスプライシングによって生成する遺伝子産物(tat、rev等)でゲノムRNAに標的をもたない形でsiRNAの設計が可能なものは、スプライス・サイトにsiRNAを設計することが考えられる。siRNAの標的としては、HIV−1ゲノムそのものあるいはHIV−1mRNA
の2者がある。後者のみを標的するためには、スプライス・サイトを利用する方法がある。なお、標的としうるスプライス・メッセージとしてtat, revの他にvif, vpr, vpu/env,
nef mRNAが考えられる。
【0079】
○ 上記実施形態では、特定の病原性微生物、つまりHIV−1について、配列データベースに登録されたゲノム配列を対象とした。これに代えて、タイプの異なる複数のグループ(病原性微生物群)の間で共通の配列を選択してもよい。これにより、あるグループで有効なsiRNAのカクテルを、別のグループにおいても用いることができる。
○ 上記実施形態において、siRNAは、RNAのみから構成されてもよく、また、RNAとDNAとを含む構成であってもよい。RNAとDNAとを含む構成としては、2本鎖のうちの一方の鎖がRNAから構成され他方の鎖がDNAから構成されるいわゆるハイブリッド型であってもよく、あるいは、同一鎖内にRNAとDNAとを含むいわゆるキメラ型であってもよい。さらに、ポリヌクレオチドの一部又は全部が修飾されたものであってもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、本発明にかかるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法を、siRNAをRNA干渉ポリヌクレオチドとして複数種含むsiRNA混合物の設計に適用する場合について説明したが、RNA干渉ポリヌクレオチドはsiRNAに限定されるものではない。したがって、本発明にかかる方法は、siRNA混合物の設計に限らず、siRNA以外のRNA干渉ポリヌクレオチドを混合する場合全般について適用可能である。
【0081】
例えば、ゲノム多様性を有する病原性微生物に対して高い汎用性とRNA干渉効果を示すショートヘアピンRNA(shRNA)の発現ベクター(又はsiRNA発現ベクター)をRNA干渉ポリヌクレオチドとして複数種含む混合物や、あるいは、PCRフラグメント等として利用されるshRNA発現2本鎖DNA断片(又はsiRNA発現2本鎖DNA断片)をRNA干渉ポリヌクレオチドとして複数種含む混合物を作製する場合に、網羅性と重複性とを考慮して混合種を選択する本発明を適用してもよい。それにより、siRNA混合物の場合において前述した効果と同様の効果が奏される。
【実施例】
【0082】
(抗HIV−1至適汎用siRNA設計と抗ウイルス効果の評価)
抗HIV−1至適汎用siRNAを設計し、この抗HIV−1至適汎用siRNAについて、単独での抗ウイルス効果について評価した。
(1)用いた細胞:HeLa細胞(トランスフェクション前日に約70%コンフルエント(confluent)で24ウェル・プレートに接種した。)培地と培養条件:DMEM培地(Dulbeco’s
modified Eagle medium)(Gibco)[10% FCS(ウシ胎児血清)(Gibco)、ペニシリン・ス
トレプトマイシン添加] 炭酸ガス・インキュベーター内で37℃, 炭酸ガス濃度5%で培養した。
(2)用いたHIV−1感染性分子クローン:
アジアにおけるHIV/AIDS流行の主要な原因となっている下記の6種のHIV−1遺伝子型[サブタイプおよび組換え型流行株 (circulating recombinant form, CRF)]の感染性分子クローンを用いた。
【0083】
・サブタイプB (pNL432) :Accession number: M19921
・サブタイプB' (p95MM-yIDU106)
・サブタイプC (p93IN101=pIndieC1) :Accession number: AB023804
(引用文献: Mochizuki, N., Otsuka, N., Matsuo, K., Shiino, T., Kojima, A., Kurata, T., Sakai, K., Yamamoto, N., Isomura, S., Dhole, TN., Takebe, Y., Matsuda, M., and Tatsumi, M. (1999). An infectious DNA clone of HIV type 1 subtype C. AIDS
Res and Human Retroviruses 14: 1321-1324.)
・CRF01_AE (p93JP-NH1) :Accession number: AB052995.
(引用文献1: Sato, H., Tomita, Y., Ebisawa, K., Hachiya, A., Shibamura, K., Shiino, T., Yang, R., Tatsumi, M., Gushi, K., Umeyama, H., Oka, S., Takebe, Y., and Nagai, Y. (2001). Augmentation of human immunodeficiency virus type 1 subtype E (CRF01_AE) multiple-drug resistance by insertion of a foreign 11-amino-acid fragment into the reverse transcriptase. J. Virol. 75 (12): 5604-5613 .)
(引用文献2: Kusagawa, S., Sato, H., Tomita, Y., Tatsumi, M., Kato, K., Motomura, K., Yang, R., Nohtomi, K., and Takebe, Y. (2002). Isolation and characterization of replication-competent molecular DNA clone of CRF01_AE with different coreceptor usages. AIDS Res and Human Retroviruses 18 (2): 115-122.)
・CRF07_BC (p97CN013.6)
・CRF08_BC (p00CN-HH040.NX22)
なお、この6種のHIV−1遺伝子型[サブタイプおよび組換え型流行株 (circulating recombinant form, CRF)]の感染性分子クローンは、代表性を検討することにより決定した。具体的には、国立感染症研究所にクローンが存在するものであって、アジア型変異体で、かつ、共通性が大きいものを選択した。
(3)用いた抗HIV−1siRNA:siRNA設計プログラム(siDirect)(引用文献:Yuki Naito, Tomoyuki Yamada, Kumiko Ui-Tei, Shinichi Morishita and Kaoru Saigo(2004).siDirect: highly effective, target-specific siRNA design software for mammalian RNA interference. Nucleic Acids Research, 2004, Vol. 32, W124-W129)により、上記6つのHIV−1感染性分子クローンのゲノム配列に共通な塩基配列を認識するsiRNAを設計し、このうち、下記の条件を満たす19個の抗HIV−1汎用siRNAを選択した。
【0084】
1)上記6種のHIV−1感染性分子クローンのゲノム配列に共通な塩基配列を認識。
2)良好なRNA干渉効果が期待されるもの(アンチセンス鎖の5’-領域の7塩基のう
ち4個以上がAあるいはT)。
【0085】
3)GCの連続した領域をもたないこと。
4)オフターゲット効果が少ないこと。
具体的には、設計した配列番号1〜配列番号30のsiRNAのうち、下記の条件を満たす、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29のsiRNA(図4に示すセンス鎖の配列のうち、「×」を記載したもの)を選択した。
なお、抗ウイルス効果の評価の結果は、この19個のsiRNAの中から選択したA〜Fについて示す。Aは配列番号1、Bは配列番号2、Cは配列番号6、Dは配列番号11、Eは配列番号19、Fは配列番号26にそれぞれ該当する。
【0086】
ここでは、「4377D」(配列番号11)、「4378R」(配列番号12)など重なり合っているものを避け、shRNA発現用のいわゆる「DNA型」のもの(センス鎖5’の第1番目の塩基がG)を選択した(但し、HIV−1の5’-非翻訳領域に設計されたHIV-1-521(図面のAに対応)のみ「RNA型」)。なお、siRNAのうち、発現ベク
ターを用いてshRNA発現用に用いることができるものを「DNA型」と呼ぶ。
用いた抗HIV−1siRNAに関する情報を図4及び図5に示す。
図4は、各siRNAについて、siRNA配列と、各siRNAについてのHIV−1ゲノム配列における標的サイトのヌクレオチドポジション等に関する情報を示す。この図4には、siRNAのセンス鎖の配列を記載しており、上から順番に配列番号1〜配列
番号30にそれぞれ対応する。すなわち、図4の最右列の記載と配列番号との関係は、「521R」が配列番号1、「1490D」が配列番号2、「1492R」が配列番号3、「2811D」が配列番号4、「2999N」が配列番号5、「3000D」が配列番号6、「3005D」が配列番号7、「3006D」が配列番号8、「3011D」が配列番号9、「4373R」が配列番号10、「4377D」が配列番号11、「4378R」が配列番号12、「4535N」が配列番号13、「4746D」が配列番号14、「4747N」が配列番号15、「4750D」が配列番号16、「4751R」が配列番号17、「4779N」が配列番号18、「4840D」が配列番号19、「4888R」が配列番号20、「4960D」が配列番号21、「4961D」が配列番号22、「4967D」が配列番号23、「6451N」が配列番号24、「6452R」が配列番号25、「7658D」が配列番号26、「7659D」が配列番号27、「7661D」が配列番号28、「7664D」が配列番号29に、「9606R」が配列番号30に、それぞれ対応する。なお、「9606R」(配列番号30)は、「521R」(配列番号1)に一致する。
また、図4の最左列のアルファベット表記(A〜F)は、選択されたA〜Fに対応する。具体的には、Aが「521R」(配列番号1)、Bが「1490D」(配列番号2)、Cが「3000D」(配列番号6)、Dが「4377D」(配列番号11)、Eが「4840D」(配列番号19)、Fが「7658D」(配列番号26)にそれぞれ該当する。また、Nは「2999N」(配列番号5)に該当する。
図5は、図4に記載されたsiRNAの配列の中から選択されたsiRNAについて、HIV−1組換え実験株(HXB2)のゲノム配列に対する相対的なヌクレオチドポジションを示す。なお、図5の下部のアルファベット表記(A〜F,N)は、図4の最左列のアルファベット表記(A〜F,N)に対応する。また、図5におけるこのアルファベット表記の上の表記(「521R」、「1490D」等)は、図4の最右列の表記に対応する。
(4)抗ウイルス効果の評価法:
RNA干渉機能分子の効果は、HeLa細胞へのHIV−1感染性分子クローンとのコトランスフェクション(核酸の共導入)の48時間後の培養上清中の逆転写酵素活性の測定によって評価した。具体的には、以下のように評価した。HIV−1感染性分子クローン0.2μgと抗HIV−1siRNAを50, 5, 0.5nMの各濃度を加えたもの(OPTIMEM無血清培地を加えて50μlとする)をリポフェクトアミン2000(Invitrogen Cat. No.11668-027)(原液2μlをOPTIMEM無血清培地50μlに加えたもの)と混合し、合わせて100μl
を、24-ウエル・プレートに前日接種したHeLa細胞に加え、HIV−1感染性分子ク
ローンと抗HIV−1siRNAのコトランスフェクションを行った。
【0087】
対照として、(陽性対照)HIV−1感染性分子クローン単独あるいはHIV−1感染性分子クローン+21塩基のランダムな配列をもつ2重鎖RNA(siControl)および(陰
性対照)リポフェクトアミン2000試薬(あるいはそれに陰性対照のsiRNA(siControl)を加えた)のみのmockのトランスフェクションを行った。
【0088】
そして、リポフェクトアミン2000処理3時間後にリポフェクトアミン2000を除き、DMEM培養液を加えた。そして、炭酸ガス・インキュベーター内で37℃, 炭酸ガス濃度5%で培養を継続し、48時間後に培養上清を5μl採取し、逆転写酵素アッセイを行った。なお、逆
転写酵素アッセイは、ポリ-A(ポリアデノシン)を鋳型としてオリゴdTプライマーからのγ-32P-dTTPを基質とする37℃、3時間の逆転写反応量をβ-プレートリーダーで測定した

(5)抗ウイルス効果の実際:
各siRNAは対照に対してsiRNA濃度0.5-50nMで>92-95%以上の極めて強力な
増殖抑制効果を示した(図6参照)。なお、図6には、コトランスフェクションするHIV−1感染性分子クローンとして、サブタイプB (pNL432)を用いた場合について、抗HI
V−1至適汎用siRNAのうちA〜F(図4、図5参照)に関する逆転写酵素活性の測定結果を示す。すなわち、A:「521R」(配列番号1)、B:「1490D」(配列番号2)、C:「3000D」(配列番号6)、D:「4377D」(配列番号11)、E:「4840D」(配列番号19)、F:「7658D」(配列番号26)に関する逆転写酵素活性の測定結果を示す。また、Nは「2999N」(配列番号5)に該当する。
【0089】
なお、Nは上記6種の感染性分子クローンに共通する配列であるがsiRNA効果の期待されないものである。Nについては弱いsiRNA効果をもつことが明らかになった。
このように、抗HIV−1至適汎用siRNAの抗ウイルス効果が明らかになった。複数の抗HIV−1至適汎用siRNAにより構成されるカクテルについても、各抗HIV−1至適汎用siRNAによる抗ウイルス効果が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、複数の標的遺伝子に対して高いRNA干渉効果を示す、すなわち、高い汎用性と高いRNA干渉効果とを両立するRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の提供に有用である。例えば、本発明は創薬分野への適用が可能であり、ゲノム多様性を有する病原性微生物によって引き起こされる疾患に有効な治療薬等の研究開発における研究ツールとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態のシステムの概略図。
【図2】siRNAの組み合わせの選択に関する説明図。
【図3】本発明の一実施形態の処理手順の説明図。
【図4】実施例において使用したsiRNAの配列情報及び使用したsiRNAの選択に関する情報
【図5】実施例におけるHIV−1(HXB2)のゲノム配列に対するsiRNAの相対的なヌクレオチドポジションを示す説明図。
【図6】実施例における抗ウイルス効果の評価を示すグラフ。
【符号の説明】
【0092】
20…RNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計装置としての設計装置、21…制御部、25…HIV−1配列データ記憶部、26…HIV−1配列/siRNAデータ記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法であって、
前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得工程と、
取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得工程と、
取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得工程と、
取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択工程と、を含み、
前記組み合わせ選択工程は、
RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、
前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することを特徴とするRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項2】
前記組み合わせ選択工程は、前記網羅性と前記重複性とを高めるように前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することを特徴とする請求項1に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項3】
前記組み合わせ選択工程は、前記網羅性を前記重複性よりも優先して前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することを特徴とする請求項1または2に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項4】
前記組み合わせ選択工程は、
前記RNA干渉ポリヌクレオチド情報取得工程で取得した前記RNA干渉ポリヌクレオチドの複数の塩基配列情報の各々について、前記病原性微生物塩基配列情報の集合におけるRNA干渉ポリヌクレオチド単独の網羅率を算出する単独網羅率算出工程と、
算出した前記単独の網羅率に基づいてRNA干渉ポリヌクレオチドの、より好ましい組み合わせを検討する組み合わせ検討工程と、を含み、
前記組み合わせ検討工程は、
前記単独の網羅率が高い前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数選択して組み合わせ候補配列群を形成するとともに、前記組み合わせ候補配列群から所定数の前記塩基配列情報を選択して組み合わせ、組成の異なる複数の組み合わせを特定する組み合わせ候補特定工程と、
特定した前記複数の組み合わせの各々について、一の組み合わせにおける前記病原性微生物塩基配列情報の集合における網羅率を算出する網羅率算出工程と、
算出した組み合わせの網羅率を前記複数の組み合わせの間で比較する比較工程と、を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項5】
前記組み合わせ検討工程は、前記組み合わせ候補配列群から選択する前記塩基配列情報
の数を変化させるとともに、変化させた各々の場合について、前記組み合わせ候補特定工程と、前記網羅率算出工程と、前記比較工程とを実行し、所定の終了条件を満たすまで当該一連の処理を繰り返すことを特徴とする請求項4に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項6】
前記組み合わせ検討工程は、
前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で複数取得した前記病原性微生物塩基配列情報の各一の病原性微生物塩基配列情報についての重複性に基づいて、前記組み合わせ候補特定工程で取得した複数の前記組み合わせの各々について、前記病原性微生物塩基配列情報の集合に対する前記RNA干渉ポリヌクレオチドが重複する前記病原性微生物塩基配列情報の割合を示す指標である組み合わせ内重複率を算出する重複率算出工程を含み、
前記比較工程は、算出した前記組み合わせ内重複率を前記複数の組み合わせの間で比較する工程をさらに含むことを特徴とする請求項4または5に記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項7】
前記病原性微生物塩基配列情報取得工程は、前記病原性微生物の塩基配列情報のデータベースから前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列の病原性微生物塩基配列情報を取得することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項8】
前記病原性微生物塩基配列情報取得工程は、宿主に感染する前記病原性微生物のゲノム解析の結果に基づいて前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列の病原性微生物塩基配列情報を取得することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項9】
前記病原性微生物がRNAウイルスであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項10】
前記病原性微生物が、ヒト免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、SARS、コロナウイルス、マラリア原虫、真菌のいずれか1つであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載のRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計方法。
【請求項11】
病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計装置であって、
前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得手段と、
取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得手段と、
取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得手段と、
取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択手段と、を備え、
前記組み合わせ選択手段は、
RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得手段で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、
前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することを特徴とするRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計装置。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の設計方法により取得されるRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の組成にしたがってRNA干渉ポリヌクレオチドを混合することを特徴とするRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の作製方法。
【請求項13】
病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物を、コンピュータを用いて設計するためのRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計プログラムであって、
前記コンピュータを、
前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得手段と、
取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得手段と、
取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得手段と、
取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択手段として機能させ、
前記組み合わせ選択手段を、
RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得手段で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、
前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択する手段として機能させることを特徴とするRNA干渉ポリヌクレオチド混合物の設計プログラム。
【請求項14】
病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列に含まれる標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドを複数種類含むRNA干渉ポリヌクレオチド混合物であって、
前記病原性微生物のゲノム又は転写産物もしくはこれらの特定の部分配列についての病原性微生物塩基配列情報を複数取得する病原性微生物塩基配列情報取得工程と、
取得した前記病原性微生物塩基配列情報に基づいて、前記病原性微生物の前記標的サイトの塩基配列情報を複数取得する標的サイト情報取得工程と、
取得した前記標的サイトの複数の塩基配列情報に基づいて、前記標的サイトに対してRNA干渉を生じさせるRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報を複数取得するRNA干渉ポリヌクレオチド情報取得工程と、
RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせが、前記病原性微生物塩基配列情報取得工程で取得した複数の前記病原性微生物塩基配列情報のうちのいくつの前記病原性微生物塩基配列情報に対してRNA干渉可能かに関する網羅性と、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせのうち、前記病原性微生物塩基配列情報のうちの一の情報に対しRNA干渉可能な前記RNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報が幾つあるかに関する重複性と、
に基づいて、前記RNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択することにより、前記取得した前記複数のRNA干渉ポリヌクレオチドの塩基配列情報から、前記病原性微生物のゲノム多様性および変異の発生に対応可能なRNA干渉ポリヌクレオチドの組み合わせを選択して、より好ましい組み合わせ情報を取得する組み合わせ選択工程と、により設計されたことを特徴とするRNA干渉ポリヌクレオチド混合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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