説明

S+L−CCC細胞を用いたTNFα活性測定方法、TNFα活性阻害薬のスクリーニング方法、及びTNFα活性測定用キット

【課題】 新規なTNFα活性測定法を提供する。
【解決手段】S+L-CCC 細胞を用いてTNFα活性を測定する。より詳しくは、細胞死誘導活性などのTNFα活性を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なTNFα活性測定方法、TNFα活性測定キット及びTNFα活性阻害能を有する医薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TNFα(tumor necrosis factor α:腫瘍壊死因子α)は、元々は、腫瘍部位に出血性壊死を誘導する因子として発見されたサイトカインであるが、近年ではマクロファージなどの細胞から主に産生され、炎症を通した生体防御機構に広く関わるサイトカインとして理解されている。
TNFαの過剰な産生や、不適切な場所や時間での産生、TNFαネットワークの破綻などが、組織障害を引き起こしたり、種々の病気の原因や増悪をもたらしたりすることが知られている。そのひとつの典型的な例が、慢性関節リウマチである。また、TNFαは、神経変性疾患、エイズ、劇症肝炎などにおけるアポトーシスに関与していることも報告されている。
【0003】
TNFαが関与する疾患を治療するための医薬としては、抗TNFα抗体、可溶性TNFα受容体などのタンパク質医薬が知られている。しかしながら、TNFα活性阻害作用を有する低分子化合物などの非タンパク質医薬は未だ開発されていない。TNFα活性阻害剤の開発やTNFαシグナルのメカニズムの解明のためには、TNFα活性をインビトロで高感度で検出可能な系が必要である。これまで、TNFαの活性測定は、L929細胞(非特許文献1)などの細胞を用いて行われてきたが、その感度は十分ではなかった。
【0004】
S+L-CCC 細胞はネコ腎線維芽腫由来の細胞である。この細胞は、ウイルスの評価などに使用された報告はあるが(非特許文献2または3)、TNFα活性の測定に用いられた報告はなかった。
【非特許文献1】J Biol Chem. 1992 Mar 5;267(7):4304-4307
【非特許文献2】J Virol. 1973 June; 11 (6): 978-985
【非特許文献3】Virology. 1985 Nov;147(1):223-226
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規なTNFα活性測定方法及びTNFα活性測定キットを提供することを課題とする。本発明はまた、TNFα活性阻害能を有する医薬のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、S+L-CCC 細胞を用いることにより、TNFα活性を高感度で測定できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)TNFα活性の測定方法であって、S+L-CCC 細胞にTNFαを添加し、該細胞におけるTNFα活性を測定することを特徴とする方法。
(2)前記TNFα活性が細胞死誘導活性である、(1)の方法。
(3)S+L-CCC 細胞に医薬候補物質を添加し、該細胞におけるTNFα活性を測定するこ
とにより、TNFα活性を阻害する物質を選択することを特徴とする、TNFα活性阻害能を有する医薬のスクリーニング方法。
(4)S+L-CCC 細胞を含む、TNFα活性測定用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高感度かつ短時間でTNFαの活性を測定することができる。また、TNFα活性阻害能を有する医薬を効率よくスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本方法を詳しく説明する。
【0010】
<1>TNFα活性の測定方法
本発明においては、S+L-CCC 細胞においてTNFα活性を測定する。S+L-CCC 細胞はネコ腎線維芽腫由来の細胞であるが、公知の細胞であるため(J Virol. 1973 June; 11 (6): 978-985、Virology. 1985 Nov;147(1):223-226)、所有する研究機関のいずれかより入手することができる。例えば、本発明者の所属する群馬大学大学院医学研究科、または国立感染研究所から入手することができる。
本発明において、S+L-CCC 細胞は、該細胞に由来するクローン化細胞も含み、クローン化細胞としては、好ましくはS+L-CCC (8C)細胞が挙げられる(J Virol. 1973 June; 11 (6): 978-985)。なお、本発明において使用するS+L-CCC 細胞は外来遺伝子が導入されたものであってもよい。
【0011】
TNFα活性とは、TNFαによる細胞死誘導活性やアポトーシス誘導活性などが挙げられる。
細胞死誘導活性は、顕微鏡による観察やMTTアッセイなどの通常の細胞死測定試薬を用いた測定方法によって測定することができる。
TNFαによるアポトーシスの誘導は、以下のようなメカニズムが知られている。すなわち、
TNFαはまず、TNFレセプター(TNFR-I)に結合し、それにより、TNFR-Iの細胞内領域に存在するデスドメインにTRADD(TNFR-I-associated death domain)が結合する。次いで、TRADDから2種類の経路でアポトーシスが誘導される。すなわち、TRADD→FADD(Fas-associated death domain)→カスパーゼ8へと至る経路とTRADD→RIP(receptor interacting protein)→RAIDD(RIP-associated ICH-1/CED-3-homologous protein with a death domain)→カスパーゼ2へとアポトーシスのシグナルが伝達される経路である。
したがって、TNFαによるアポトーシス誘導活性を測定する場合は、これらのカスパーゼの活性化の有無を調べてもよい。カスパーゼ活性は、それぞれのカスパーゼの基質を用いて基質分解活性を測定することにより調べることができる。また、市販のカスパーゼ活性測定キット、例えば、BD ApoAlert Caspase Profiling Plate(クローンテック社から入手可)などを用いて測定してもよい。さらに、アポトーシスによりゲノムDNAの断片化が見られるため、電気泳動などによりDNA断片化の有無を調べてもよい。
【0012】
本発明のTNFα活性の測定方法は、TNFαシグナルの研究において使用することができる。また、評価対象物質がTNFα活性に対して影響を与えるかどうか、すなわち、TNFα活性を阻害または活性化するかどうかについて調べるために使用することもできる。
【0013】
<2>TNFα活性の測定用キット
本発明のTNFα活性測定用キットは、S+L-CCC 細胞を含むキットである。該キットはS+L-CCC 細胞に加えて、TNFα、さらには、細胞死測定試薬やアポトーシス検出用試薬などを含むものであってもよい。
【0014】
<3>TNFα活性阻害能を有する医薬のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、S+L-CCC 細胞に医薬候補物質を添加し、該細胞におけるTNFα活性を測定することにより、TNFα活性を阻害する物質を選択することを特徴とする、TNFα活性阻害能を有する医薬のスクリーニング方法である。医薬候補物質は、低分子化合物、天然物、ペプチド、高分子などのいずれであってもよく、またそれらを含むライブラリーであってもよい。
本発明のスクリーニング方法によって得られるTNFα活性阻害能を有する医薬は、抗炎症剤、抗リウマチ剤、抗癌剤などとして用いることができる。

【実施例】
【0015】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0016】
S+L-CCC (8C)細胞は群馬大学大学院医学研究科より入手した。L929細胞(マウス線維芽組織由来)はATCC(American Type Culture Collection)より入手した。また、S+L-CCC (8C)細胞、L929細胞は、いずれもEMEM+10%FCS培地にて、37℃、5%CO2条件で培養した。
生細胞数は、Promega社のCellTiter 96 AQueous One Solution ReagentのMTS試薬を用いて行った。
【0017】
[実施例1]
S+L-CCC (8C)細胞を96穴シャーレに2×10細胞/ウェルでseedした。一晩培養後、0,10,30,100,300,1000,3000,10000pg/mlの各濃度のTNFα(ヒト組換えTNFα:PreproTech EC Ltd., London UK)を含む試料50μlを各ウェルに加えた。8時間または16時間、インキュベートした後、MTS試薬を20μl/ウェルで加えてさらに2時間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーにて540nmの吸光度を測定した。測定値に基いて、生細胞数を算出した。
結果を図1に示す。8時間培養及び16時間培養のいずれにおいても、TNFαの濃度依存的な生細胞の減少が見られた。これにより、S+L-CCC (8C)を用いることによってTNFαによる細胞死誘導活性が感度よく短時間で検出できることがわかった。
【0018】
[実施例2]
S+L-CCC (8C)細胞においてTNFα(図2(B)に示す各濃度)を添加したときの生細胞の割合を、トリパンブルー染色によって測定した。対照として、L929細胞を用いて同様の測定を行った(図2(A))。図2の縦軸は、生細胞率(%)を示す。
L929細胞では、1000pg/ml以下の濃度のTNFα添加では細胞死がほとんど見られず、10000pg/mlで24時間または36時間インキュベートしてはじめて有意な細胞死が検出できた。一方、S+L-CCC (8C)細胞では、10pg/mlという少量のTNFα添加でも36時間のインキュベートにより有意な生細胞数の減少が検出され、100pg/mlでは24、36時間のインキュベートにより有意な生細胞数の減少が検出され、1000pg/mlでは12時間のインキュベートでも有意な生細胞数の減少が検出され、36時間のインキュベートによってほとんどの細胞が死滅した。
以上より、S+L-CCC (8C)細胞を用いることにより、従来のL929細胞細胞を用いる場合に比べて、はるかに高感度且つ短時間でTNFα活性を検出できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】S+L-CCC (8C)細胞におけるTNFαによる細胞死誘導活性を示す図。縦軸はMTS試薬を用いて測定した生細胞数(540nmの吸光度)を、横軸は添加したTNFαの濃度(pg/ml)を示す。
【図2】TNFαによる細胞死誘導活性を示す図。(A)はL929細胞、(B)はS+L-CCC (8C)細胞における測定結果を示す。縦軸はトリパンブルー染色により測定した生細胞数の割合(%)を、横軸は添加したTNFαの濃度(pg/ml)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNFα活性の測定方法であって、S+L−CCC 細胞にTNFαを添加し、該細胞におけるTNFα活性を測定することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記TNFα活性が細胞死誘導活性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
S+L−CCC 細胞に医薬候補物質を添加し、該細胞におけるTNFα活性を測定することにより、TNFα活性を阻害する物質を選択することを特徴とする、TNFα活性阻害能を有する医薬のスクリーニング方法。
【請求項4】
S+L−CCC 細胞を含む、TNFα活性測定用キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−61054(P2006−61054A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246400(P2004−246400)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】