説明

SARS−CoV増殖抑制剤

【課題】
SARSの治療剤及びSARS−CoV増殖抑制剤を提供すること。
【解決手段】
本発明は、チオールプロテアーゼ阻害剤、たとえばE−64、ロイペプチン又はNCO−700(Bis[ethyl (2R,3R)−3−[(S)−3−methyl−1−[4−(2,3,4−trimethoxyphenylmethyl)piperazin−1−ylcarbonyl]butylcarbamoyl]oxirane−2−carboxylate] sulfate)等を有効成分として含有する医薬製剤をSARSの治療剤及びSARS−CoV増殖抑制剤として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチオールプロテアーゼ阻害剤を有効成分として含有するSARS−CoV増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
重症急性呼吸器症候群(SARS)の最初の報告は2003年2月、中国河西省とされており、SARSウイルスによる呼吸器系疾患で死を伴う典型的な肺炎である。2003年7月の世界保健機構(WHO)の統計では8,098人が感染し、774人が死亡したとされている。SARSの原因ウイルスの遺伝子解析は患者検体からウイルスが分離されるのと並行して進められ、類縁性はないがウシ、ブタ、マウスのコロナウイルスと同様の遺伝子構成が明らかとなり、SARS−CoVと呼ばれ独立したコロナウイルスとして分類されている。
【0003】
SARSの感染症予防薬として、ポビドンヨードの使用(特許文献1),プロアントシアニジン、カテキン、ブドウ抽出物の使用(特許文献2)、チオスルファト銀錯塩の使用(特許文献3)等が報告されている。
一方、SARS−CoVの複製過程がかなり明らかにされてきていることから、これらの各段階をターゲットとしたSARS−CoV増殖抑制薬の開発が考えられる。その中で、SARS−CoVはER(Endoplasmic reticulum)上で増殖するので種々の細胞内プロテアーゼによる修飾を受けることが予想され、Furin阻害剤によるウイルス増殖の阻害も報告されている。
また2003年7月にエイズ治療に使われている抗ウイルス薬のネルフィナビルにより、SARS−CoVの増殖が抑制されることが明らかにされた。
しかしながら、これまで効果的な治療薬は実用化されていない。
【0004】
一方、チオールプロテアーゼ阻害剤として知られているNCO−700:Bis[ethyl (2R,3R)−3−[(S)−3−methyl−1−[4−(2,3,4−trimethoxyphenylmethyl)piperazin−1−ylcarbonyl]butylcarbamoyl]oxirane−2−carboxylate] sulfate、E−64:(2S,3S)−3−(N−((S)−1−(N−(4−guanidinobutyl)carbamoyl)−3−methylbutyl)carbamoyl)oxirane−2−carboxylic acid及びロイペプチン(Leupeptin):Acetyl−Leucyl−Leucyl−Arginalが、SARS−CoV増殖抑制剤として有用である旨の報告はなされていない。(特許文献4)
【0005】
【特許文献1】特開2004−352642
【特許文献2】特開2005−314316
【特許文献3】特開2005−298390
【特許文献4】特公平1−54349
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的はチオールプロテアーゼ阻害剤を有効成分として含有するSARS−CoV増殖抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、チオールプロテアーゼ阻害剤を有効成分として含有するSARSの治療剤に関する。
また、本発明は、カテプシン阻害剤を有効成分として含有するSARSの治療剤に関する。
また、本発明は、チオールプロテアーゼ阻害剤を有効成分として含有するSARS−CoV増殖抑制剤に関する。
更にまた、本発明は、カテプシン阻害剤を有効成分として含有するSARS−CoV増殖抑制剤に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のSARSの治療剤及びSARS−CoV増殖抑制剤の有効成分であるチオールプロテアーゼ阻害剤及びカテプシン阻害剤としては、好ましくはE−64、ロイペプチン又はNCO−700が挙げられ、更に好ましくはNCO−700が挙げられる。
なおE−64及びロイペプチンは試薬として購入可能で(コスモ・バイオ株式会社)、またNCO−700は上記特許文献4記載の製法により得ることができる。
【0009】
次に薬理試験について述べる。
被検物質の抗SARSコロナウイルス活性は、FFM−1株を用い、培養細胞はVero細胞及びHuh−7細胞を用いて試験を行った。
ウイルス感染と同時に被検物質(NCO−700,E64及びロイペプチン)を加え、24及び48時間後、培養液を回収し、ウイルス量を測定した。
ウイルス力価の測定は、Vero細胞を用いてプラーク形成法で行った。(後記実施例1)
表1から明らかなようにNCO−700、E64及びロイペプチンはVero細胞及びHuh−7細胞におけるSARS−CoVの増殖を濃度依存的に阻害した。
従って、NCO−700、E64及びロイペプチンなどのチオールプロテアーゼ阻害剤及びカテプシン阻害剤は、SARSの治療剤及びSARS−CoV増殖抑制剤として期待される。
【0010】
本発明の有効成分であるチオールプロテアーゼ阻害剤及びカテプシン阻害剤は、ヒトに対して経口投与又は非経口投与のような適当な投与方法により投与することができる。また、他のSARSの治療剤及びSARS−CoV増殖抑制剤と併用することも可能である。
製剤化するためには、製剤の技術分野における通常の方法で錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、懸濁剤、注射剤、坐薬等の剤型に製造することができる。
これらの調製には、例えば錠剤の場合、通常の賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、色素などが用いられる。ここで、賦形剤としては、乳糖、D−マンニトール、結晶セルロース、ブドウ糖などが、崩壊剤としては、デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)などが、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどが、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。注射剤の調製には溶剤、安定化剤、溶解補助剤、懸濁剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤などが用いられる。
【0011】
投与量は通常成人においては、注射剤で有効成分であるチオールプロテアーゼ阻害剤及びカテプシン阻害剤を1日約0.01mg〜100mg,経口投与で1日1mg〜2000mgであるが、年齢、症状等により増減することができる。

次に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
(試験方法)
被検物質の抗SARSコロナウイルス活性は、以下の方法により測定した。SARSコロナウイルス(以下、「SARS−CoV」と略記)は、FFM−1株(Dr.HW. Doerr,Frankfrut University of Medicine, Germanyより分与)を用いた。培養細胞はVero細胞及びHuh−7細胞を用い、培地はダルベッコの最小必須 (DMEM)培地に10%ウシ胎児血清を添加したものを用い、5%CO存在下において37℃で培養した。
ウイルス感染は、90%単層が形成された培養細胞に、細胞1個当たりのウイルス量が0.1(MOI=0.1, Multiplicity of infection)となる条件で行い(Tuker,P.C.ら, J. Virol. 71: 6106, 1997)、感染と同時に被検物質(NCO−700, E64或いはLeupeptin)をそれぞれ0、0.2、0.6、2、6、及び20μmol/Lとなるように加え、24及び48時間後に培養液を回収しウイルス量を測定した。
【0013】
ウイルス力価の測定は、Vero細胞を用いて以下のようなプラーク形成法で行った。回収した培養上清を1% ウシ血清アルブミンを加えたPBS(−)(Mg2+,Ca2+を含まない0.05mol/Lリン酸緩衝液、0.15mol/L NaCl、pH7.0)で10倍階段希釈し、各0.2mLずつをそれぞれのウエル(6ウエルプレート)に接種した。25℃で60分間感染させた後、1.0% メチルセルロースを加えたDMEM(5%ウシ胎児血清含有)で4日間培養した。培養後、メチルセルロースを取り除き、細胞を2.5% クリスタルバイオレット(30% エチルアルコール、1% シュウ酸アンモニウム中)で染色し、PBS(−)で3回洗浄/脱色後、プラーク数の平均値(3個のウエル)から1mL中のウイルス量をPFU (Plaque Forming Unit)/mLとして算出した(Tuker, P.C.ら, J.Virol.71:6106, 1997)。
以上の方法を用いて被検物質のIC50値〔SARS−CoVの増殖を50%阻害する濃度(Inhibitory concentration、(μmol/L))を求め、その結果を表1に示す。
(結果)
【0014】
【表1】

【0015】
表1から明らかなようにNCO−700、E64及びLeupeptinはVero細胞及びHuh−7細胞におけるSARS−CoVの増殖を濃度依存的に阻害した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオールプロテアーゼ阻害剤を有効成分として含有するSARSの治療剤。
【請求項2】
カテプシン阻害剤を有効成分として含有するSARSの治療剤。
【請求項3】
E−64、ロイペプチン又はNCO−700を有効成分として含有するSARSの治療剤。
【請求項4】
NCO−700を有効成分として含有するSARSの治療剤。
【請求項5】
チオールプロテアーゼ阻害剤を有効成分として含有するSARS−CoV増殖抑制剤。
【請求項6】
カテプシン阻害剤を有効成分として含有するSARS−CoV増殖抑制剤。
【請求項7】
E−64、ロイペプチン又はNCO−700を有効成分として含有するSARS−CoV増殖抑制剤。
【請求項8】
NCO−700を有効成分として含有するSARS−CoV増殖抑制剤。

【公開番号】特開2007−291003(P2007−291003A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119975(P2006−119975)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月1日 第53回日本ウイルス学会学術集会発行の「第53回日本ウイルス学会学術集会プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(000228590)日本ケミファ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】