説明

SPFS(表面プラズモン励起増強蛍光分光法)により測定される蛍光シグナルの補正方法およびこれを用いたアッセイ方法、並びにこれらの方法に用いられる構造体および表面プラズモン共鳴センサー

【課題】SPFSセンサー基板に複雑な構造を導入することなく、SPFSセンサー基板を構成する金属薄膜の厚さのばらつきに由来する電場増強のばらつきの影響を排除し、これによりSPFS等の測定精度や信頼性を高めることが可能となる、測定データの補正方法、およびこれを用いたアッセイ方法を提供する。
【解決手段】表面プラズモン共鳴センサーについて測定される蛍光シグナル(Sm)について、金属薄膜を介することなく蛍光分子層が形成された領域(P)および金属薄膜を介して蛍光分子層が形成された領域(Q)で測定されるシグナル(Sp)および(Sq)から電場増強比Rを算出し、この電場増強比Rを用いて、補正されたシグナル(Sm1)に変換することを特徴とする蛍光シグナルの補正方法、並びに、この方法を用いたアッセイ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、バイオテクノロジー等の分野で利用されるSPFS(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:表面プラズモン励起増強蛍光分光法)またはそれを利用するSPFS−LPFS(Localized surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:局在表面プラズモン励起増強蛍光分光法)などの測定系に関し、より具体的には、それらの測定系に用いられる手法および表面プラズモン共鳴センサーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
SPFSは、誘電体部材上に形成された金属薄膜に全反射減衰(ATR)が生じる角度で励起光を照射したときに、金属薄膜を透過したエバネッセント波が表面プラズモンとの共鳴により数十倍〜数百倍に増強されることを利用して、金属薄膜近傍に捕捉されたアナライト(分析対象物)を標識する蛍光色素を効率的に励起させ、その蛍光シグナルを測定する方法である。このようなSPFSは、一般的な蛍光標識法などに比べて極めて感度が高いため、サンプル中にアナライトがごく微量しか存在しない場合であってもそれを定量することができる。SPFSの基本的な態様は、たとえば特許文献1および2に開示されている。
【0003】
また、LPFSは、上記SPFSと組み合わせて利用することのできる方法であって、コロイド液を流すなどして金属コロイド粒子を蛍光色素近傍に位置させると、この金属コロイド粒子にもプラズモンが発生して局所的な電場増強効果が得られることを利用し、さらに効率良く蛍光色素を励起させてその蛍光シグナルを測定する方法である。
【0004】
SPFSおよびそれを利用するSPFS−LPFSなどの測定方法(以下「SPFS等」と総称する。)などによれば、たとえば、血液中の極微量の腫瘍マーカーを定量することにより、触診などによって検出することができない前臨床期の非浸潤癌(上皮内癌)の存在も高精度で予測することができるようになるため、医療、バイオテクノロジー等の分野における活用が期待される。
【0005】
ところで、プラズモン共鳴により引き起こされた増強電場は、プラズモン共鳴が生じている表面からの距離が大きくなるにつれて急速に減衰する特性を有するため、プラズモン共鳴が生じている部位から離れた場所から直接観測することが困難である。そのため、プラズモン共鳴による電場増強を可視化する試みが、これまでにいくつか行われてきた。
【0006】
例えば、非特許文献1では、ガラス基板表面に形成した金膜に格子を形成してなる構造体や、ガラス基板表面に形成した銀膜に単一のもしくは周期的に配置された複数の孔を形成してなる構造体に対して光を照射し、その格子または孔の近傍で起こる入射光と表面プラズモン分極により生じる光との干渉をフォトン走査型トンネル顕微鏡でマッピングすることによって、表面プラズモンを検出する試みがなされている。
【0007】
また、非特許文献2では、帯状に配置された複数のシリカ突起を有するガラス基板表面に銀膜を形成してなる構造体に対し、顕微鏡の対物レンズを通じてレーザ光を照射し、予めこの構造体表面に塗布された蛍光分子からの蛍光をその顕微鏡で観測することによって、表面プラズモン分極の可視化を図る試みがなされている。
【0008】
また、非特許文献3では、部分的にアルミ不透光膜を形成した透明誘電体基板の上に、誘電体薄膜と金膜を形成してなる構造体の裏側から光を照射し、このアルミ不透光膜を形成した部位とアルミ不透光膜を形成していない部位との界面で発生するプラズモン波の散乱を、蛍光分子からの蛍光としてあるいはフォトン走査型トンネル顕微鏡を用いて測定することによって、表面プラズモン分極の可視化を図る試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3294605号公報
【特許文献2】特開2006−218169号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】William L. Barnes et al.,Nature,Vol. 424,p. 824〜830 (2003)
【非特許文献2】H. Ditlbacher, et al.,Appl. Phys. Lett.,Vol. 81(10),p. 1762〜1764 (2002)
【非特許文献3】J. R. Krenn and J.-C. Weeber,Phil. Trans. R. Soc. Lond. A (2004) Vol. 362,p. 739〜756
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
SPFS等を臨床検査に応用するにあたり、蛍光シグナルの測定値についての信頼性を担保する必要があり、そのためには、測定値のばらつき(CV)を通常10%以内に抑える必要がある。特に、抗体を固定化させたSPFS基板に検体由来のアナライトを介して蛍光修飾抗体を固定化するサンドイッチ系など、アナライト濃度に応じてシグナルの絶対値が増加する系では、一般にアナライト濃度が低下するとCVが悪化し、検出感度および定量感度の低下につながる。そこで、蛍光シグナルの測定値におけるばらつきを減らすためには、SPFSセンサー基板間での電場増強のばらつきを減らす必要がある。ここで、電場増強のばらつきによる蛍光シグナルへの影響を考えるにあたって、SPFSセンサー基板に形成されている金属薄膜の厚さのばらつきが問題となる。ところが、すべてのSPFSセンサー基板において金属薄膜の厚さが寸分の違いもなく完全に同一となるようSPFSセンサー基板を製造することは現実的ではないことから、電場増強のばらつきによる蛍光シグナルへの影響を最小限とするためには、SPFSセンサー基板で生じる電場増強を正規化し、これに基づいて測定値を補正する必要がある。その一方で、臨床検査に用いるSPFSセンサー基板には安価に製造できることも要求される。したがって、SPFSセンサー基板に複雑な構造を形成することなく電場増強を正規化でき、これに基づいて測定値を補正することによって測定データのばらつきを最小限に抑えることが、SPFS等を臨床検査に応用するうえで必要となる。
【0012】
しかしながら、上記従来技術においては、基板表面に形成された特殊な形状の金属構造を通じて表面プラズモン分極の可視化を図るものであり、このような複雑な金属構造を、臨床検査に用いるSPFSセンサー基板に導入することは、SPFSセンサー基板の生産工程が煩雑になるとともに、製造コストを大幅に引き上げるおそれがあり、現実的ではない。
【0013】
そこで、本発明は、SPFSセンサー基板に複雑な構造を導入することなく、SPFSセンサー基板を構成する金属薄膜の厚さのばらつきに由来する電場増強のばらつきの影響を排除し、これによりSPFS等の測定精度や信頼性を高めることが可能となる、測定データの補正方法、およびこれを用いたアッセイ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は本発明を完成させる過程で、誘電体部材表面の一部に金属薄膜を形成させた基板に蛍光分子層を形成してなる基板の裏側から全反射条件で入射光を照射したときの、金属薄膜を形成させていない領域での蛍光強度と金属薄膜を形成させていない領域での蛍光強度との関係に基づいて、この金属薄膜の厚さによる電場増強への影響を見積もることが可能であるとの知見を得た。そして、この知見を利用すれば上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[10]に示される、アッセイ方法、構造体、および表面プラズモン共鳴センサーを提供する。
[1]
透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して蛍光色素(Dm)が固定されてなる表面プラズモン共鳴センサーにつき、表面プラズモン蛍光分光法を用いて測定される蛍光色素(Dm)由来の蛍光シグナル(Sm)について、
(k-1) 透明誘電体部材(Ts)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜を介することなく蛍光分子層(Fsp)が形成された領域(P)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msq)を介して、蛍光分子層(Fsq)が形成された領域(Q)と
を含み、
該蛍光分子層(Fsq)および該蛍光分子層(Fsp)がともに同一の蛍光色素(Ds)から構成されており、
該透明誘電体部材(Tm)および該透明誘電体部材(Ts)がともに同一の透明誘電体からなり、
該金属薄膜(Mm)および該金属薄膜(Msq)がともに同一の金属からなる
構造体(X)であって、該金属薄膜(Msq)が該金属薄膜(Mm)と同じ厚さを有する対象構造体(Xt)について、
(i)前記領域(P)に対して、
該透明誘電体部材(Ts)の、該蛍光分子層(Fsp)が存在する面とは反対側の表面から、全反射条件となる入射角で、該蛍光シグナル(Sm)の測定において蛍光分子(Dm)を励起するために用いられる入射光と同一波長の入射光を照射することにより、
該領域(P)で発光した蛍光の量を全反射蛍光シグナル(Sp)として検出する工程と、
(ii)該工程(i)の前に、該工程(i)と同時に、あるいは該工程(i)の後に、前記領域(Q)に対して、
該透明誘電体部材(Ts)の、該蛍光分子層(Fsq)が存在する面とは反対側の表面から、全反射条件となる入射角で該工程(i)の場合と同一波長の入射光を照射することにより、
該領域(Q)で発光した蛍光の量を電場増強蛍光シグナル(Sq)として検出する工程と
(iii)該工程(i)および(ii)を経て得られる該全反射蛍光シグナル(Sp)と該電場増強蛍光シグナル(Sq)を用いて下記式(1)
R = Sq / Sp (1)
に基づき電場増強比Rを算出する工程と、
を経て得られる該電場増強比RであるRtと、
(k-2)該構造体(X)であって、該対象構造体(Xt)以外の構造体である参照構造体(Xr)について、該対象構造体(Xt)の場合と同じ波長の入射光を用いて、上記工程(i)〜(iii)を経て得られる該電場増強比RであるRrと
を用いて、下記式(2)
Sm1 = Sm0 × (Rr / Rt) (2)
に基づき、補正前の蛍光シグナル(Sm)である未補正蛍光シグナル(Sm0)を補正蛍光シグナル(Sm1)に変換する
ことを特徴とする蛍光シグナルの補正方法。
【0016】
[2]
前記対象構造体(Xt)を対象構造体部分として一体化している前記表面プラズモン共鳴センサーにつき測定される前記蛍光シグナル(Sm)についての前記変換が、該対象構造体部分につき前記工程(i)〜(iii)を経て得られる前記電場増強比Rを前記Rtとして用いることに行われる前記[1]に記載の補正方法。
【0017】
[3]
(a)透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(Am)を有するプラズモンセンサー構造体において、該領域(Am)に、検体と、第2のリガンドと蛍光分子(Dm)とからなる蛍光修飾リガンドとを接触させることにより、表面プラズモン共鳴センサーを調製する工程と、
(b)該工程(a)の後、該領域(Am)に対して、該透明誘電体部材(Tm)の、該金属薄膜(Mm)とは反対側の表面から入射光を照射し、全反射条件となる入射角で入射光を照射し、これにより、該領域(Am)で発光した蛍光の量を蛍光シグナル(Sm)として検出する工程と、
(c)該工程(b)で検出された蛍光シグナル(Sm)を、補正する工程と、
(d)該工程(c)で補正された蛍光シグナル(Sm)に基づき検体中のアナライト量を評価する工程と
を含み;
該工程(c)における蛍光シグナル(Sm)の補正が、前記[1]に記載の補正方法を用いてなされることを特徴とするアッセイ方法。
【0018】
[4]
前記(k-1)で用いられる対象構造体(Xt)が、
前記透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msa)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(As)をさらに含み、且つ、該金属薄膜(Msa)および前記金属薄膜(Msq)がともに同一の金属からなり且つ同じ厚さを有する構造体であり、
該領域(As)を前記領域(Am)として用いることにより、前記プラズモンセンサー構造体として供される
上記[3]に記載のアッセイ方法。
【0019】
[5]
前記工程(c)における補正が、
前記対象構造体(Xt)についての上記工程(i)〜(iii)を前記工程(b)の直前、前記工程(b)と同時、および前記工程(b)の直後のいずれかにおいて行うことにより求められる前記Rtを用いて行われる
上記[4]に記載のアッセイ方法。
【0020】
[6]
前記工程(c)における補正が、事前に算出済みの前記Rtを用いて行われる上記[3]または[4]に記載のアッセイ方法。
【0021】
[7]
前記工程(c)における補正が、事前に算出済みの前記Rrを用いて行われる上記[5]または[6]に記載のアッセイ方法。
【0022】
[8]
前記検体が、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液および唾液からなる群から選択される少な
くとも1種の体液である上記[3]〜[7]のいずれかに記載のアッセイ方法。
【0023】
[9]
透明誘電体部材(Ts)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜を介することなく蛍光分子層(Fsp)が形成された領域(P)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msq)を介して、蛍光分子層(Fsq)が形成された領域(Q)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msa)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(As)と
を含み、
該蛍光分子層(Fsp)および該蛍光分子層(Fsq)がともに同一の蛍光分子(Ds)から構成され、且つ、
該金属薄膜(Msa)および前記金属薄膜(Msq)がともに同一の金属からなり且つ同じ厚さを有する
構造体。
【0024】
[10]
上記[9]に記載の構造体と、アナライトと、第2のリガンドと蛍光分子(Dm)とからなる蛍光修飾リガンドとを含み、
前記領域(As)内の前記第1のリガンドに、該アナライトを介して該蛍光修飾リガンドが結合している表面プラズモン共鳴センサー。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、SPFS基板を構成する金属薄膜の厚さのばらつきに由来する電場増強のばらつきの影響を排除することができるようになるため、SPFS等の測定精度や信頼性を従来よりも一層高めることができるとともに、臨床検査への応用に対応することにより生じるSPFS基板の製造コスト上昇を抑えることができるため、SPFS等を用いた臨床検査システムの実用化に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のアッセイ方法を説明する模式図である。
【図2】図2(a)は、本発明で用いられる構造体を、この構造体による補正対象とするプラズモンセンサー構造体とともに示す模式図であり、図2(b)および(c)は、本発明で用いられる構造体の好適な実施態様を表す模式図である。
【図3】本発明で用いられる好適な構造体を応用した表面プラズモン共鳴センサーを表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、図1および図2を参照しながら具体的に説明する。
[補正方法]
本発明に係る蛍光シグナルの補正方法は、
透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して蛍光色素(Dm)が固定されてなる表面プラズモン共鳴センサーにつき、表面プラズモン蛍光分光法を用いて測定される蛍光色素(Dm)由来の蛍光シグナル(Sm)について、
(k-1) 対象構造体(Xt)について、以下の工程(i)〜(iii)を経て得られる電場増強比RであるRtと、
(k-2) 参照構造体(Xr)について、該対象構造体(Xt)の場合と同じ波長の入射光を用いて、以下の工程(i)〜(iii)を経て得られる該電場増強比RであるRrと
を用いて、下記式(2)
Sm1 = Sm0 × (Rr / Rt) (2)
に基づき、補正前の蛍光シグナル(Sm)である未補正蛍光シグナル(Sm0)を補正蛍光シグナル(Sm1)に変換する
ことを特徴とする。
【0028】
ここで、対象構造体(Xt)は、
透明誘電体部材(Ts)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜を介することなく蛍光分子層(Fsp)が形成された領域(P)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msq)を介して、蛍光分子層(Fsq)が形成された領域(Q)と
を含み、
該蛍光分子層(Fsq)および該蛍光分子層(Fsp)がともに同一の蛍光色素(Ds)から構成されており、
該透明誘電体部材(Tm)および該透明誘電体部材(Ts)がともに同一の透明誘電体からなり、
該金属薄膜(Mm)および該金属薄膜(Msq)がともに同一の金属からなる
構造体(X)であって、該金属薄膜(Msq)が該金属薄膜(Mm)と同じ厚さを有する構造体である。
【0029】
また、参照構造体(Xr)とは、構造体(X)であって、前記対象構造体(Xt)以外の構造体である。
対象構造体(Xt)および参照構造体(Xr)となる構造体(X)は、具体的には、図1に示される構造体10のような構造を有している。
【0030】
また、本発明において、これら対象構造体(Xt)および参照構造体(Xr)についての電場増強比Rは、対象構造体(Xt)および参照構造体(Xr)の各々について、図1に示すように、
(i)領域(P)に対して、
透明誘電体部材(Ts)11の、蛍光分子層(Fsp)13aが存在する面とは反対側の表面から、全反射条件となる入射角で、該蛍光シグナル(Sm)の測定において蛍光分子(Dm)を励起するために用いられる入射光と同一波長の入射光61aを照射することにより、
領域(P)で発光した蛍光の量を全反射蛍光シグナル(Sp)として検出する工程と、
(ii)工程(i)の前に、工程(i)と同時に、あるいは該工程(i)の後に、領域(Q)に対して、
透明誘電体部材(Ts)11の、蛍光分子層(Fsq)13bが存在する面とは反対側の表面から、全反射条件となる入射角で工程(i)の場合と同一波長の入射光61bを照射することにより、
領域(Q)で発光した蛍光の量を電場増強蛍光シグナル(Sq)として検出する工程と
(iii)工程(i)および(ii)を経て得られる全反射蛍光シグナル(Sp)と電場増強蛍光シグナル(Sq)を用いて下記式(1)
R = Sq / Sp (1)
に基づき電場増強比Rを算出する工程と、
を経て得られる。
【0031】
本発明の補正方法においては、対象構造体(Xt)は、蛍光シグナルの補正を行おうとする表面プラズモン共鳴センサーにおける電場増強を見積もるために用いられるものである。本発明では、対象構造体(Xt)の領域(Q)で生じた電場増強の強度をもって、表面プラズモン共鳴センサーにおける電場増強の強度を評価するものであるであるから、対象構造体(Xt)を構成する金属薄膜(Msq)は、表面プラズモン共鳴センサーを構成する金属薄膜(Mm)と同一の金属からなるとともに、同じ厚さを有する必要がある。この点から、本発明においては、蛍光シグナルの補正を行おうとする表面プラズモン共鳴センサーとして、この対象構造体(Xt)を対象構造体部分として一体化しているものを用いることが好ましい。この場合、当該対象構造体部分につき前記工程(i)〜(iii)を経て得られる電場増強比RをRtとして用いることができ、このRtを用いて、この表面プラズモン共鳴センサーにつき測定される蛍光シグナル(Sm)についての補正を行うことができる。このような表面プラズモン共鳴センサーにおいて、当該対象構造体部分を構成する金属薄膜(Msq)が金属薄膜(Mm)と一体化して単一の金属薄膜として形成されていると、さらに好ましい。
【0032】
一方、参照構造体(Xr)は、対象構造体(Xt)の領域(Q)で生じた電場増強の強度として代表された表面プラズモン共鳴センサーにおける電場増強を正規化するための基準として用いられるものである。この参照構造体(Xr)を用いることにより、異なる複数の対象構造体(Xt)間において、各対象構造体(Xt)が固有に有している電場増強の強度の相対関係を定めることができ、これに基づき各表面プラズモン共鳴センサー相互間で生じる電場増強のばらつきを補正することが可能となる。
【0033】
なお、対象構造体(Xt)および参照構造体(Xr)についての電場増強比Rの算出については、後に詳述する。
なお、本発明において、後述する領域(Am),(As)および(Q)のように金属薄膜を有する領域での蛍光検出は表面プラズモン共鳴条件で、後述する領域(P)のように金属薄膜を有さない領域での蛍光検出は全反射減衰条件でそれぞれ行われる。ただ、本発明では、金属薄膜を有する領域での蛍光検出にあたっても、入射光の照射は全反射減衰(ATR)が生じる入射角で行われることから、本明細書では、このような入射角についても「全反射条件となる入射角」という語を用いている。
【0034】
〔適用対象となる表面プラズモン共鳴センサー〕
本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサーは、透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して蛍光色素(Dm)が固定されてなる表面プラズモン共鳴センサーであれば、特にその構成を問わず、一般に広く用いられている表面プラズモン共鳴センサーであってもよい。本発明の補正方法の適用対象となる表面プラズモン共鳴センサーにおける蛍光色素(Dm)の固定態様については、特に限定はなく、例えば、蛍光色素(Dm)が抗原−抗体反応を利用して固定化されていてもよいし、互いに相補的な配列を有する核酸における二重鎖形成反応やインターカレーションを利用して固定化されていてもよい。
【0035】
ここで、図1に示した表面プラズモン共鳴センサー50を例としてさらに説明すると、表面プラズモン共鳴センサーは、通常、透明誘電体部材(Tm)21上に、金属薄膜(Mm)22を介して、第1のリガンド231を含有する固定化リガンド含有層23が形成された領域(Am)を有するプラズモンセンサー構造体20において、該領域(Am)の第1のリガンド231に、第2のリガンド411と蛍光分子(Dm)412とからなる蛍光修飾リガンド41が、アナライト42を介して結合した形態を有している。
【0036】
ここで、この領域(Am)に対して、透明誘電体部材(Tm)21の、金属薄膜(Mm)22とは反対側の表面から、全反射条件となる入射角で入射光61cを照射することにより、金属薄膜(Mm)22で表面プラズモンが発生し、これによりもたらされる電場増強によって蛍光分子(Dm)が励起し、蛍光を発する。SPFS等を用いたアッセイ方法では、このときの蛍光を蛍光シグナル(Sm)として検出することになる。
【0037】
ところが、表面プラズモン共鳴センサー50に固定されている蛍光分子(Dm)412の量が同じであっても、金属薄膜(Mm)22の厚みに比例して電場増強の強度が増大し、その結果、蛍光シグナル(Sm)として検出される見かけ上の蛍光量が増大する。ここで、SPFS等を臨床検査に応用するにあたって問題となる点は、蛍光シグナル(Sm)としてある値が測定されたときに、どこまでが、検体に含まれるアナライトの量に基づく値であり、どこからが金属薄膜(Mm)22の厚さのばらつきに起因する見かけ上の増減値であるかの評価がしばしば困難になることである。そのため、臨床検査に用いられるアッセイ方法に許容される測定結果のばらつき(CV)は、通常10%程度以内である。特に、正常値と異常値との差が小さい検査に用いる場合に問題が顕在化することから、場合によっては、CVを1〜2%以内に抑える必要がある。これを考慮すると、金属薄膜(Mm)22の厚さのばらつきによる蛍光シグナル(Sm)への影響は最大限に除去する必要があるものの、表面プラズモン共鳴センサー50に用いられるプラズモンセンサー構造体20を、全個体を通じて金属薄膜(Mm)22の厚さが完全に同一になるよう製造することは困難である。したがって、金属薄膜(Mm)22の厚さによる電場増強への影響を補正により除去する必要があり、そのためには、金属薄膜(Mm)22の厚さによる電場増強への影響を見積もる必要がある。
【0038】
本発明の補正方法では、次に述べる「構造体」を用いて金属薄膜(Mm)22の厚さによる電場増強への影響を見積もり、これに基づき、表面プラズモン共鳴センサー50について測定された蛍光シグナル(Sm)を補正して、金属薄膜(Mm)22の厚さのばらつきによる影響を除去するのである。
【0039】
〔構造体〕
本発明において、構造体(X)として用いられる構造体は、図2(a)に示すように、
透明誘電体部材(Ts)11と、
該透明誘電体部材(Ts)11上に、金属薄膜を介することなく蛍光分子層(Fsp)13aが形成された領域(P)と、
該透明誘電体部材(Ts)11上に、金属薄膜(Msq)12を介して、蛍光分子層(Fsq)13bが形成された領域(Q)と
を含み、
該蛍光分子層(Fsq)13aおよび該蛍光分子層(Fsp)13bがともに同一の蛍光色素(Ds)から構成されている構造体10である。
【0040】
本発明において、この構造体10は、本発明の補正方法が適用対象とする表面プラズモン共鳴センサーについての蛍光シグナルの補正に用いられるものである。
なお、以下の記載において、この構造体10は、一般的な意味で用いられる構造体との区別のため「電場増強評価構造体」と称される場合がある。
【0041】
本発明の好適な態様において、この構造体10は、図2(b)に示すように、透明誘電体部材(Ts)11上に、金属薄膜(Msa)32を介して、第1のリガンド331を含有する固定化リガンド含有層33が形成された領域(As)をさらに含んでいる。このとき、この金属薄膜(Msa)32および金属薄膜(Msq)12がともに同一の金属からなるものであり、且つ同じ厚さを有している。
【0042】
≪領域(P)≫
本発明で用いられる電場増強評価構造体10は、透明誘電体部材(Ts)11上に、金属薄膜を介することなく蛍光分子層(Fsp)13aが形成された領域(P)を有している。ここで、蛍光分子層(Fsp)13aは、蛍光分子(Ds)から構成される層である。この領域(P)は、図1に示される電場増強評価構造体10では左側に描かれている。
【0043】
蛍光色素を含む層が表面に存在する透明誘電体部材からなる構造体について、この透明誘電体部材を通じて、蛍光色素を含む層が存在する面の反対側から、この蛍光色素を含む層が存在する面に向けて全反射条件にて入射光を照射したとき、この構造体に金属が存在しなくても蛍光色素から蛍光(以下、「全反射蛍光」と称する。)が発光することがある。そこで、本発明では、領域(P)を、金属薄膜による電場増強の影響がない状態における全反射蛍光を測定するための全反射蛍光リファレンス領域として用いる。
【0044】
≪領域(Q)≫
本発明で用いられる電場増強評価構造体10は、透明誘電体部材(Ts)11上に、金属薄膜(Msq)12を介して、蛍光分子層(Fsq)13bが形成された領域(Q)をも有している。ここで、蛍光分子層(Fsq)13bは、蛍光分子(Ds)から構成される層である。ここで、蛍光分子層(Fsq)13aおよび蛍光分子層(Fsp)13bは、ともに同一の蛍光分子(Ds)から構成されている。
【0045】
SPFS等に基づいて検体中のアナライトを測定するために用いられる表面プラズモン共鳴センサーは、一般に、透明誘電体部材(Tm)21上に、金属薄膜(Mm)22を介して、第1のリガンド231を含有する固定化リガンド含有層23が形成された領域(Am)を有するプラズモンセンサー構造体20において、該領域(Am)に、検体と、第2のリガンド411と蛍光分子(Dm)412とからなる蛍光修飾リガンド41とを接触させることにより調製される。ここで、金属薄膜(Mm)22における電場増強は、金属薄膜(Mm)22の膜厚に比例して強くなる傾向にある。また、金属によって、電場増強に関係する光学特性も変わる。
【0046】
本発明では、この領域(Q)を、補正を行おうとする表面プラズモン共鳴センサーを構成する金属薄膜における電場増強を評価するための電場増強蛍光リファレンス領域として用いる。したがって、本発明で用いられるこの構造体10を用いてこのような表面プラズモン共鳴センサーについて検出される蛍光シグナルの補正を行うに当たっては、この構造体10を構成する金属薄膜(Msq)12が、補正を行おうとする表面プラズモン共鳴センサーを構成する金属薄膜と同一の金属からなり且つ同じ厚さを有する必要がある。その限りにおいて、この表面プラズモン共鳴センサーと一体の構造体であってもよいし、あるいは、この表面プラズモン共鳴センサーとは別々の構造体であってもよい。
【0047】
≪領域(As)≫
本発明で用いられる電場増強評価構造体10は、図2(b)に示すように、好適な態様において、透明誘電体部材(Ts)11上に、金属薄膜(Msa)32を介して、第1のリガンド331を含有する固定化リガンド含有層33が形成された領域(As)をさらに含んでいる。この領域(As)は、表面プラズモン共鳴センサーとして用いられる領域であり、この領域(As)を有することにより、電場増強評価構造体10はプラズモンセンサー構造体としての機能を兼ね備えることとなる。言い換えれば、この態様において、電場増強評価構造体10は、透明誘電体部材(Tm)21上に、金属薄膜(Mm)22を介して、第1のリガンド231を含有する固定化リガンド含有層23が形成された領域(Am)を有するプラズモンセンサー構造体20と一体化した構造を有することになり、この領域(As)はこのプラズモンセンサー構造体20における領域(Am)と同等の機能を有するアッセイ測定領域として用いられる。
【0048】
この固定化リガンド含有層33において、アナライト42を捕捉するための第1のリガンド331は、金属薄膜(Msa)32の直上に形成してもよいし、金属薄膜(Msa)32に常法によりSAM、スペーサ層等(いずれも図示せず)を形成してからその上に形成してもよい。また、蛍光修飾リガンド41等がセンサー表面等に非特異的に結合しないよう、通常は第1のリガンド331からなる層が設けられた後にブロッキング処理がなされる。
【0049】
≪構造体の構成≫
本発明で用いられる電場増強評価構造体10は、透明誘電体部材(Ts)11表面のうち領域(Q)となる領域および該当する場合には領域(As)となる領域に、金属薄膜(Msq)および金属薄膜(Msa)をそれぞれ形成させた後、領域(P)となる領域および領域(Q)となる領域に、蛍光分子層(Fsp)および(Fsq)をそれぞれ形成することにより作成される。ここで、領域(As)をさらに有する電場増強評価構造体10の場合には、領域(As)となる金属薄膜(Msa)を形成させた領域について、蛍光分子層に代えて固定化リガンド含有層33を形成することにより作成される。
【0050】
透明誘電体部材(Ts)
本発明で、電場増強評価構造体10を構成する透明誘電体部材(Ts)11は、電場増強評価構造体10の構造の骨格を構成するとともに、電場増強評価構造体10において、金属薄膜(Msq)12が形成されている面に入射光を導く媒体としても機能する。
【0051】
本発明で、透明誘電体部材(Ts)11として用いられる透明誘電体部材は、本発明の目的が達せられる限り、材質に特に制限はなく、例えば、ガラス製や、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)などのプラスチック製のもの、好ましくはd線(588nm)における屈折率〔nd〕が1.40〜2.20の範囲にある材質のものを用いることができる。
【0052】
ただ、本発明においては、透明誘電体部材(Ts)11として用いられる透明誘電体部材の材質は、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサーを構成する透明誘電体部材(Tm)と同じ材質のものである。
【0053】
本発明において、透明誘電体部材(Ts)11は、透明平面基板であってもよく、金属薄膜形成用平面のほかにプリズム部およびサンプル保持部をさらに含む一体化構造体ブロックの形態を有していてもよい。ここで、透明誘電体部材(Ts)11として透明平面基板を用いる場合、厚さが好ましくは0.01〜10mm、より好ましくは0.5〜5mmであれば、大きさ(縦×横)は特に限定されない。
なお、後述する金属薄膜(Msq)12を形成する前に、当該透明誘電体部材(Ts)11の表面に対して酸またはプラズマによる洗浄処理を行うことが好ましい。
【0054】
金属薄膜(Msq)・(Msa)
本発明で用いられる電場増強評価構造体10を構成する金属薄膜(Msq)12、および上記領域(As)が存在する場合にさらに含まれる金属薄膜(Msa)32について、一般的な表面プラズモン共鳴センサーを構成する金属薄膜として一般に用いられるものと同様の金属を用いることができる。その中で、金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなることが好ましく、金からなることがより好ましい。これらの金属については、その合金の形態であってもよく、金属を積層したものであってもよい。このような金属種は、酸化に対して安定であり、かつ表面プラズモンによる電場増強が大きくなることから好適である。
【0055】
ここで、透明誘電体部材(Ts)11としてガラス製の透明誘電体部材を用いる場合には、ガラスと上記金属薄膜とをより強固に接着するため、あらかじめクロム、ニッケルクロム合金またはチタンの薄膜を形成することが好ましい。
【0056】
ここで、本発明で用いられる電場増強評価構造体10を構成する金属薄膜(Msq)12を構成する金属は、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサー50を構成する金属薄膜(Mm)22を構成する金属と同一である必要があるし、また、上記領域(As)が存在する場合に、金属薄膜(Msa)32を構成する金属と同一である必要がある。
【0057】
透明平面基板上に金属薄膜を形成する方法としては、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサー50を構成する金属薄膜(Mm)22を形成するために一般に用いられている方法が挙げられ、例えば、スパッタリング法、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法等)、電解メッキ、無電解メッキ法などが挙げられる。薄膜形成条件の調整が容易なことから、スパッタリング法または蒸着法によりクロムの薄膜および金属薄膜を形成することが好ましい。
【0058】
金属薄膜(Msq)12および金属薄膜(Msa)32の厚さは、一般に用いられている表面プラズモン共鳴センサーを構成する金属薄膜と同様の厚さとすることができ、表面プラズモンが発生し易いよう、金、銀、アルミニウム、銅、白金、またはそれらの合金からなる金属薄膜の厚さはそれぞれ5〜500nmが好ましく、クロム薄膜の厚さは1〜20nmが好ましい。電場増強効果の観点からは、金:20〜70nm、銀:20〜70nm、アルミニウム:10〜50nm、銅:20〜70nm、白金:20〜70nm、およびそれらの合金:10〜70nmがより好ましく、クロム薄膜の厚さは1〜3nmがより好ましい。
【0059】
ここで、本発明で用いられる電場増強評価構造体10を構成する金属薄膜(Msq)12の厚さは、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサー50を構成する金属薄膜(Mm)22の厚さと同一である必要があるし、一方、上記領域(As)が存在する場合には、金属薄膜(Msa)32の厚さと同一である必要がある。
【0060】
ここで、上記領域(As)を有する電場増強評価構造体10にあたっては、金属薄膜(Msq)と金属薄膜(Msa)と別々に形成してもよいが、金属薄膜(Msq)12と金属薄膜(Msa)32とが確実に同一の厚さとなるよう、図2(c)に示すように、金属薄膜(Msq)12と金属薄膜(Msa)32とが一体化して一つの金属薄膜を構成するような態様で一度に形成させることが好ましい。
【0061】
蛍光分子
本発明において、「蛍光分子」とは、本発明において、所定の励起光を照射する、または電界効果を利用して励起することによって蛍光を発光する分子を意味し、該「蛍光」は、燐光など各種の発光も含む。
【0062】
本発明で、電場増強評価構造体10を構成する蛍光分子層(Fsp)13aおよび蛍光分子層(Fsq)13bを構成する蛍光分子(Ds)として用いられる蛍光分子、ならびに、後述する蛍光修飾リガンド41を構成する蛍光分子(Dm)412として用いられる蛍光分子は、いずれも、その種類に特に制限はなく、公知の蛍光色素のいずれであってもよい。一般に、単色比色計(monochromometer)よりむしろフィルタを備えた蛍光計の使用をも可能にし、かつ検出の効率を高める大きなストークス・シフトを有する蛍光色素が好ましい。ここで、蛍光分子層(Fsp)13aを構成する蛍光分子および蛍光分子層(Fsq)13bを構成する蛍光分子(Ds)は、同一である必要がある。ただ、蛍光分子(Ds)と蛍光分子(Dm)412とでは、同一であってもよいし、励起波長は同じで発光波長が異なるものであってもよい。
【0063】
本発明で用いることのできる蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(Integrated DNA Technologies社製)、ポリハロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)、ヘキサクロロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)、クマリン・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株)製)、ローダミン・ファミリーの蛍光色素(GEヘルスケア バイオサイエンス(株)製)、シアニン・ファミリーの蛍光色素、インドカルボシアニン・ファミリーの蛍光色素、オキサジン・ファミリーの蛍光色素、チアジン・ファミリーの蛍光色素、スクアライン・ファミリーの蛍光色素、キレート化ランタニド・ファミリーの蛍光色素、BODIPY(登録商標)・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株)製)、ナフタレンスルホン酸・ファミリーの蛍光色素、ピレン・ファミリーの蛍光色素、トリフェニルメタン・ファミリーの蛍光色素、Alexa Fluor(登録商標)色素シリーズ(インビトロジェン(株)製)などが挙げられ、さらに米国特許番号第6,406,297号、同第6,221,604号、同第5,994,063号、同第5,808,044号、同第5,880,287号、同第5,556,959号および同第5,135,717号に記載の蛍光色素も本発明で用いることができる。
【0064】
これらのファミリーに含まれる代表的な蛍光色素の吸収波長(nm)および発光波長(nm)を表1に示す。
【0065】
【表1】

また、蛍光分子として用いられる蛍光色素は、上記有機蛍光色素に限られない。例えば、例えばEu、Tb等の希土類錯体系の蛍光色素も、本願発明に用いられる蛍光分子となりうる。希土類錯体は、一般的に励起波長(310〜340nm程度)と発光波長(Eu錯体で615nm付近、Tb錯体で545nm付近)との波長差が大きく、蛍光寿命が数百マイクロ秒以上と長い特徴がある。市販されている希土類錯体系の蛍光色素の一例としては、ATBTA−Eu3+が挙げられる。
【0066】
さらに、青色蛍光タンパク質(BFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(DsRed)またはAllophycocyanin(APC;LyoFlogen(登録商標))などに代表される蛍光タンパク質、ラテックスやシリカなどの蛍光微粒子なども、蛍光分子に含まれる。
【0067】
なお、SPFS−LPFS測定系においては、LPFSに関与する金属コロイドによる吸光の少ない波長領域に最大蛍光波長を有する蛍光色素を、標識リガンドに用いることが望ましい。たとえば金コロイドを用いる場合には、金コロイドによる吸光による影響を最小限に抑えるため、最大蛍光波長が600nm以上である蛍光色素、たとえばCy5、Alexa Fluor(登録商標)647などの近赤外領域に最大蛍光波長を有する蛍光色素を用いることが望ましい。このような近赤外領域に最大蛍光波長を有する蛍光色素を用いることは、血液中の血球成分由来の鉄による吸光の影響を最小限に抑えることができる点で、検体として血液を用いる場合においても有用である。一方、銀コロイドを用いる場合には、最大蛍光波長が400nm以上である蛍光色素を用いることが望ましい。
これらの蛍光色素は1種単独で用いてもよく、また2種以上併用してもよい。
【0068】
蛍光分子層
本発明で用いられる電場増強評価構造体10を構成する蛍光分子層(Fsp)13aおよび蛍光分子層(Fsq)13bは、上記「蛍光分子」から構成されるものであり、ともに同一の蛍光分子(Ds)からなる。
【0069】
この蛍光分子層(Fsp)13aおよび蛍光分子層(Fsq)13bは、透明誘電体部材(Ts)11または金属薄膜(Msq)12の表面に、上記「蛍光分子」を塗布または蒸着させることにより形成することができる。また、透明誘電体部材(Ts)11または金属薄膜(Msq)12の表面に、蛍光色素を含有する光透過性材料で形成された部材、または蛍光色素を含有する薄層を積層させることにより形成してもよい。
【0070】
これらの蛍光分子層の厚さなどは、上述したような測定方法が行える範囲で適切に調整すればよい。ただ、蛍光分子層(Fsp)13aおよび蛍光分子層(Fsq)13bとも、通常は、10〜2000nm程度、好ましくは20〜200nmの厚さとなるように形成する。
【0071】
なお、蛍光分子層を調製する際には、蛍光色素の経時安定剤を向上させるために酸化防止剤を併用してもよい。酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2'−ジオキシ−3,3'−ジ−t−ブチル−5,5'−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。
【0072】
ここで、電場増強評価構造体10において、蛍光分子層(Fsp)13aと蛍光分子層(Fsq)13bと別々に形成してもよいし、蛍光分子層(Fsp)13aと蛍光分子層(Fsq)13bと一体化して全体として一つの蛍光分子層を構成するような態様で一度に形成させてもよい。
【0073】
固定化リガンド含有層
本発明で用いられる電場増強評価構造体10に領域(As)を形成する場合、図2(b)に示すように、前記金属薄膜(Msa)32上に固定化リガンド含有層33が形成されている。この固定化リガンド含有層33はリガンド331を含んでおり、このリガンド331は、検体に含まれるアナライト42が結合する土台となる。そして、このアナライト42に、後述する蛍光修飾リガンド41が結合することで、この領域(As)が、表面プラズモン共鳴センサーとしての機能を有することになる。
【0074】
本発明においては、この固定化リガンド含有層33において、リガンド331は、金属薄膜(Msa)32と直接結合していてもよいが、通常は、次に述べるスペーサ層およびSAMのうちの少なくとも一つを介して結合している。
【0075】
スペーサ層
本発明において、電場増強評価構造体10に領域(As)が存在する場合、この電場増強評価構造体10には、必要に応じて、金属薄膜(Msa)による蛍光分子412の金属消光を防止するため、この金属薄膜と固定化リガンド含有層33(あるいは、後述するSAM)の間に誘電体からなるスペーサ層を形成してもよい。
【0076】
誘電体としては、光学的に透明な各種無機物や、天然または合成ポリマーを用いることができる。なかでも、化学的安定性、製造安定性および光学的透明性に優れていることから、二酸化ケイ素(SiO2)または二酸化チタン(TiO2)を用いることが好ましい。
【0077】
スペーサ層の厚さは、通常10nm〜1mmであり、共鳴角安定性の観点からは、好ましくは30nm以下、より好ましくは10〜20nmである。一方、電場増強効果の観点から、好ましくは200nm〜1mmであり、さらに電場増強効果の安定性から、400nm〜1,600nmがより好ましい。また、SPFS−LPFS測定系においては、センサー表面(金属薄膜)と金属コロイド粒子との間に生じる電場をより効果的に増強させるため、スペーサ層の厚さは10〜100nmであることが望ましい。
【0078】
誘電体からなるスペーサ層の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、電子線蒸着法、熱蒸着法、ポリシラザン等の材料を用いた化学反応による形成方法、またはスピンコーターによる塗布などが挙げられる。
【0079】
SAM
本発明において、電場増強評価構造体10に領域(As)が存在する場合、この電場増強評価構造体10には、必要に応じて、金属薄膜(または上記スペーサ層)と固定化リガンド含有層33の間にSAM(Self-Assembled Monolayer:自己組織化単分子膜)を形成してもよい。
【0080】
SAMを構成する分子としては、分子の一方の末端に金属薄膜等と結合可能な官能基(シラノール基、チオール基等)を、もう一方の末端に反応層を構成する分子と結合可能な反応性官能基(アミノ基、カルボキシル基、グリシジル基等)を有する化合物が用いられる。このような化合物はシランカップリング剤やSAM形成試薬として容易に入手できる。たとえば、炭素原子数4〜20程度のカルボキシアルカンチオール(10−カルボキシ−1−デカンチオールなど)は、光学的な影響が少ない、つまり透明性が高く、屈折率が低く、膜厚が薄いSAMを形成することができるため好適である。SAM構成分子の溶液(エタノール溶液等)を金属薄膜等に接触させ、当該分子の一方の官能基を金属薄膜等に結合させることにより、SAMを形成することができる。
【0081】
リガンド
アナライトと特異的に結合し得る分子を「リガンド」と称する。本発明において、この「リガンド」は、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサー50を構成するリガンド231,領域(As)を有する電場増強評価構造体10を構成するリガンド331、および後述する蛍光修飾リガンド41を構成するリガンド411として用いられる。特に、表面プラズモン共鳴センサー50の表面または領域(As)を有する電場増強評価構造体10の表面に固定化された、アナライトをセンサー表面に捕捉するためのリガンド(すなわち、リガンド231およびリガンド331)を「第1のリガンド」(リガンドが抗体であれば「第1の抗体」)、アナライトを標識するために液中に存在する、蛍光色素と結合したリガンド(すなわち、リガンド411)を「第2のリガンド」(リガンドが抗体であれば「第2の抗体」)と称する。なお、第1のリガンドと第2のリガンドのリガンド部分は、同じでもよいし、異なっていてもよい。ただし、第1のリガンドがポリクローナル抗体である場合、第2のリガンドはモノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよいが、第1のリガンドがモノクローナル抗体である場合、第2のリガンドはその第1のリガンドが認識しないエピトープを認識するモノクローナル抗体であるか、またはポリクローナル抗体であることが望ましい。
【0082】
リガンドは捕捉しようとするアナライトに応じて適切なものを選択すればよく、アナライトの所定の部位と特異的に結合しうる抗体、受容体、その他の特定の分子(たとえばビオチン化したアナライトを捕捉するためのアビジン)などをリガンドとすることができる。
【0083】
表面プラズモン共鳴センサー50の表面へのリガンド231の固定化、および領域(As)を有する電場増強評価構造体10の表面へのリガンド331の固定化は、常法を用いて行うことができる。
【0084】
≪表面プラズモン共鳴センサーとしての使用≫
本発明において、上記領域(As)をさらに含む電場増強評価構造体10は、領域(As)に、検体と、第2のリガンド411と蛍光分子(Dm)412とからなる蛍光修飾リガンド41とを接触させることにより、表面プラズモン共鳴センサーとして使用することができる。図3を参照すると、領域(As)をさらに含む電場増強評価構造体10は、表面プラズモン共鳴センサー51として使用される。
【0085】
すなわち、本発明では、上記領域(As)をさらに含む電場増強評価構造体10と、アナライト42と、第2のリガンド411と蛍光分子(Dm)412とからなる蛍光修飾リガンド41とを含み、
この領域(As)内の前記第1のリガンド331に、該アナライト42を介して該蛍光修飾リガンド41が結合している表面プラズモン共鳴センサーが提供される。
【0086】
このような表面プラズモン共鳴センサーは、上記領域(P)および領域(Q)も兼ね備えていることから、上記対象構造体(Xt)としての機能も持ち合わせており、領域(As)内に形成されている表面プラズモン共鳴センサー部につき測定される蛍光シグナル(Sm)を補正するにあたり、対象構造体部分として機能する領域(P)および領域(Q)について得られる電場増強比RをRtとして用いることができる。
【0087】
アナライト
本発明において「アナライト」42は、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサー50を構成する透明誘電体部材(Tm)21表面に固定化された第1のリガンド231、または領域(As)をさらに含む電場増強評価構造体10を構成する透明誘電体部材(Ts)11の表面に固定化された第1のリガンド331を特異的に認識され(または、認識し)結合し得る分子または分子断片を意味する。このような「分子」または「分子断片」として、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられ、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)等のがん胎児性抗原や腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどであってもよく、特に限定されない。
【0088】
検体
上記「アナライト」42を含むまたは含んでいる可能性のある、SPFS等に供される物質を「検体」と称す。たとえば、ヒト、ヒト以外のほ乳類(モデル動物、ペット等)、その他の動物から採取される血液(血清・血漿)、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水等)などが検体として挙げられる。分析の際、検体は必要に応じて、純水、生理食塩水、緩衝液、試薬溶液などの各種の溶媒と混合して用いてもよい。このような検体の混合液または検体そのもの、あるいは所定の目的のために調製したアナライトを含有する溶液など、SPFS等によるシグナルを測定するために表面プラズモン共鳴センサーの所定の領域に送液される流体(溶液、懸濁液、ゾル、その他流動性を有する物質を含む。)をいずれも「試料」と総称する。
【0089】
なお、「標識リガンド溶液」を調製する際にも上記溶媒を用いると好都合である。また、SPFS等においてシグナルを測定する際、流路は通常、アナライトも標識リガンドも含まない液体で満たされた状態にされるが、そのような液体としては、試料液の調製に用いられる上記溶媒を単独で用いると好都合である。
【0090】
蛍光修飾リガンド
本発明で用いられる蛍光修飾リガンド41は、第2のリガンド411と蛍光分子(Dm)412からなるものであり、リガンドとして2次抗体を用いる場合、検体中に含有されるアナライト(標的抗原)を認識し結合し得る抗体であることが好ましい。この蛍光修飾リガンド41は、一般的な免疫染色法でも用いられているリガンドと蛍光色素との複合体(コンジュゲート)と同様にして作製することができる。たとえば、リガンドとアビジン(ストレプトアビジン等を含む)との複合体、および蛍光色素とビオチンとの複合体をそれぞれ作製し、これらを反応させることにより、アビジン/ビオチンを介してリガンドに蛍光色素が結合した複合体(1のアビジンに対し最大4のビオチンが結合しうる)が得られる。上述のようなビオチンとアビジンの反応以外にも、蛍光標識法で用いられている一次抗体−二次抗体の反応様式や、カルボキシル基とアミノ基、イソチオシアネートとアミノ基、スルホニルハライドとアミノ基、ヨードアセトアミドおよびチオール基などの反応を用いてもよい。
【0091】
本発明において、第2のリガンドは、アナライト42に蛍光分子による標識化を行う目的で用いられるリガンドであり、前記第1のリガンドと同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0092】
〔蛍光シグナル(Sm)の補正〕
本発明において、表面プラズモン共鳴センサーについて測定される蛍光シグナル(Sm)の補正は、上記電場増強評価構造体10のうち、金属薄膜(Msq)が、この表面プラズモン共鳴センサーを構成する金属薄膜(Mm)を構成する金属と同一の金属からなるものを構造体(X)として用いることにより行われる。
【0093】
電場増強比Rの取得
まず、補正の第1段階として、この構造体(X)のうち、金属薄膜(Msq)が金属薄膜(Mm)と同じ厚さを有するものを対象構造体(Xt)として用い、該対象構造体(Xt)以外の任意の構造体(X)を参照構造体(Xr)として用いた上で、対象構造体(Xt)および参照構造体(Xr)についての電場増強比Rを、対象構造体(Xt)および参照構造体(Xr)の各々について、以下の(i)〜(iii)に示すステップを通じて、それぞれRtおよびRrとして求める。
【0094】
(i)全反射蛍光シグナル(Sp)の検出
本発明の補正方法においては、電場増強比Rを算出するための第1のステップとして、領域(P)に対して、透明誘電体部材(Ts)11の、蛍光分子層(Fsp)13aが存在する面とは反対側の表面(図1においては紙面下側にある面を指す。以下、透明誘電体部材(Ts)・(Tm)に対して蛍光分子層(Fsp)・(Fsq)や金属薄膜(Msq)・(Mm)・(Msa)などが存在する側を「上」と称し、これと反対側を「下」と称することがある。)から、全反射条件となる入射角で入射光61aを照射することにより、この領域(P)で発光した蛍光の量を全反射蛍光シグナル(Sp)として検出する工程が行われる。
【0095】
具体的には、図1に示すように、紙面の下側にあるレーザ光などの光源(図示せず)から、透明誘電体部材(Ts)11の下部に接した形で置かれたプリズム(図示せず)を通じて、領域(P)に入射光61aを照射し、これにより、領域(P)で発光した蛍光を、対象構造体(Xt)または参照構造体(Xr)の上部に設置された光検出部で検出し、蛍光量を全反射蛍光シグナル(Sp)として数値化する工程である。
【0096】
このとき、蛍光分子層(Fsp)13aの上には、水、検体を希釈するために用いられるバッファー溶液または検体溶液などが存在していてもよい。
ここで、蛍光分子層(Fsp)13aを構成する蛍光分子(Ds)を励起するために導入される入射光61aは、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサー50における蛍光シグナル(Sm)の測定において蛍光分子(Dm)を励起するために用いられる入射光61cと同一波長のものである。
【0097】
この工程(i)により、金属薄膜による電場増強の影響を受けない状態での全反射蛍光が検出されることから、全反射蛍光シグナル(Sp)は、電場増強のばらつきによる影響を評価する上でブランク基準となる。
【0098】
(ii)電場増強蛍光シグナル(Sq)の検出
本発明の補正方法においては、電場増強比Rを算出するための第2のステップとして、領域(Q)に対して、透明誘電体部材(Ts)11の、蛍光分子層(Fsq)13bが存在する面とは反対側の表面から、全反射条件となる入射角で入射光61bを照射することにより、この領域(Q)で発光した蛍光の量を電場増強蛍光シグナル(Sq)として検出する工程が行われる。
【0099】
具体的には、図1に示すように、紙面の下側にあるレーザ光などの光源(図示せず)から、透明誘電体部材(Ts)11の下部に接した形で置かれたプリズム(図示せず)を通じて、領域(Q)に入射光61bを照射し、これにより、領域(Q)で発光した蛍光を、対象構造体(Xt)または参照構造体(Xr)の上部に設置された光検出部で検出し、蛍光量を電場増強蛍光シグナル(Sq)として数値化する工程である。
【0100】
このとき、蛍光分子層(Fsq)13bの上には、水、検体を希釈するために用いられるバッファー溶液または検体溶液が存在していてもよいが、この場合には、前記(i)において蛍光分子層(Fsp)13aの上に存在していたものと同じ媒体を存在させる。
【0101】
ここで、蛍光分子層(Fsq)13bを構成する蛍光分子(Ds)を励起するために導入される入射光61bは、工程(i)の場合と同一波長の光、すなわち、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサー50における蛍光シグナル(Sm)の測定において蛍光分子(Dm)を励起するために用いられる入射光61cと同一波長のものである。ただし、工程(ii)での全反射条件での測定に最適な入射角は、工程(i)における入射角と異なる場合がある。
【0102】
この工程(ii)は、前記工程(i)と同時に行ってもよいし、あるいは、前記工程(i)の前もしくは後に行ってもよい。
この工程(ii)により、対象構造体(Xt)または参照構造体(Xr)における、金属薄膜による電場増強の影響を受けて増強された全反射蛍光が検出されることから、電場増強蛍光シグナル(Sq)は、対象構造体(Xt)または参照構造体(Xr)における電場増強の度合いを表すリファレンス値となる。
【0103】
(iii)電場増強比Rの算出
本発明の補正方法においては、電場増強比Rを算出するための第3のステップとして、上記工程(i)および(ii)を経て得られる全反射蛍光シグナル(Sp)と電場増強蛍光シグナル(Sq)を用いて下記式(1)
R = Sq / Sp (1)
に基づき電場増強比Rを算出する工程が行われる。この電場増強比Rは、対象構造体(Xt)または参照構造体(Xr)に形成されている金属薄膜(Msq)による表面プラズモンによって全反射蛍光がそれだけ増光したかを示す値、すなわち、金属薄膜(Msq)による電場増強の度合いを示す値であり、本発明の補正方法では、このRをもって、各対象構造体(Xt)および参照構造体(Xr)に固有の電場増強を評価するのである。すなわち、対象構造体(Xt)について算出される電場増強比RであるRtと、参照構造体(Xr)について算出される電場増強比RであるRrとを求めれば、各対象構造体(Xt)および参照構造体(Xr)に固有の電場増強特性をRtまたはRrの形で対比することができる。
【0104】
ここで、上記工程(i)〜(iii)は、表面プラズモン共鳴センサーについて蛍光シグナル(Sm)を測定する一連のアッセイ工程において行ってもよいし、アッセイ工程の前に事前に行ってもよい。
【0105】
また、上記工程(i)と上記工程(ii)とを同時に行ってもよいし、あるいは異なる時にて行ってもよい。
上記工程(i)と上記工程(ii)とを異なる時にて行う場合、全反射蛍光シグナル(Sp)、電場増強蛍光シグナル(Sq)を、単一の光検出部を用いて検出するとともに、これらのシグナルを得るために用いられる各入射光(すなわち、図1における入射光61a,61b)を単一光源を用いて供給することができるので、測定系を簡素化できるとともに、光源および光検出部を構成する装置の性能における個体差によるばらつきを回避できる利点がある。
【0106】
一方、上記工程(i)と上記工程(ii)とを同時に行う場合、全反射蛍光シグナル(Sp)および電場増強蛍光シグナル(Sq)を検出するために複数の光検出部を用いることになる。あるいは、CCDイメージセンサーなど多点計測が可能な撮像素子を用いてこれらのシグナルを同時に検出してもよい。これらのシグナルを得るために用いられる各入射光(すなわち、図1における入射光61a,61b)は、光学特性が同一の複数の光源を用いて供給してもよい。あるいは、単一の光源を用い、この光源から発せられる光を適当なビームスプリッターにより分割することにより、領域(P)、領域(Q)の各領域に同時に入射光を供給してもよい。ただし、上記工程(i)において全反射蛍光シグナル(Sp)を測定するために用いられる入射光61aの入射角と、上記工程(ii)において電場増強蛍光シグナル(Sq)を測定するために用いられる入射光61bの入射角とは異なる場合があることから、分割した光の向きを入射角の変化に応じて適宜調節する機構が必要となり、測定系が複雑になる場合がある。
【0107】
ところで、表面プラズモン共鳴センサー50の材料となるプラズモンセンサー構造体20を、1枚の大きな透明誘電体部材上に金属薄膜を形成してなるプラズモンセンサーバルク構造体を切り分けることにより製造する場合には、必ずしも全ての表面プラズモン共鳴センサー50に対応する対象構造体(Xt)についてのRtを実測することを要しない。例えば、同一のプラズモンセンサーバルク構造体から得られる表面プラズモン共鳴センサー50は、お互いに膜厚が同一であるか、あるいは金属薄膜の膜厚分布に一定の傾向を有している可能性が高い。したがって、この場合には、そのうちの一部の表面プラズモン共鳴センサー50に対応する対象構造体(Xt)についてのRtを実測しておいて、同一のプラズモンセンサーバルク構造体から得られるほかの表面プラズモン共鳴センサー50に対応する対象構造体(Xt)についての仮想的なRtとして、この実測しておいたRtの数値をそのまま流用するか、あるいは、この実測しておいたRtの数値から推測した値を用いることもできる。
【0108】
蛍光シグナルの換算
そして、補正の第2段階として、対象構造体(Xt)と参照構造体(Xr)とについてそれぞれ得られた電場増強比RであるRtとRrとを用いて、下記式(2)
Sm1 = Sm0 × (Rr / Rt) (2)
に基づき、補正前の蛍光シグナル(Sm)である未補正蛍光シグナル(Sm0)を補正蛍光シグナル(Sm1)に変換することにより、蛍光シグナル(Sm)の補正を行う。
【0109】
同一濃度のアナライトを含む検体溶液について、表面プラズモン共鳴センサーを用いて蛍光シグナル(Sm)を測定した場合でも、対象構造体(Xt)を構成する金属薄膜(Msq)12と同じ膜厚の金属薄膜(Mm)22を有する表面プラズモン共鳴センサー50を用いて測定した場合には、比較構造体(Xr)を構成する金属薄膜(Msq)12と同じ膜厚の金属薄膜(Mm)22を有する表面プラズモン共鳴センサー50を用いて測定した場合と比べて、見かけ上の蛍光シグナル(Sm)の強度が(Rt / Rr)倍となる。したがって、比較構造体(Xr)を構成する金属薄膜(Msq)12と同じ膜厚の金属薄膜(Mm)22を有する表面プラズモン共鳴センサー50での測定値に換算するときには、もとの蛍光シグナル(Sm)に対して、その逆数を乗じる必要がある。
【0110】
したがって、上記式(2)により蛍光シグナル(Sm)を補正すれば、金属薄膜(Mm)22の厚さが互いに異なる表面プラズモン共鳴センサー50における蛍光シグナル(Sm)を、比較構造体(Xr)を構成する金属薄膜(Msq)12と同じ膜厚の金属薄膜(Mm)22を有する表面プラズモン共鳴センサー50での測定値に換算することにより正規化することができる。
【0111】
光学系
本発明の補正方法で用いる光源は、領域(P)での全反射蛍光および領域(Q)での電場増強蛍光を生じさせることができるものであれば、特に制限がないものの、波長分布の単一性および光エネルギーの強さの点で、レーザ光を光源として用いることが好ましい。レーザ光は、光学フィルタを通して、プリズムに入射する直前のエネルギーおよびフォトン量を調節することが望ましい。
【0112】
「レーザ光」としては、例えば、波長200〜900nm、0.001〜1,000mWのLDレーザ、波長230〜800nm(金属薄膜(Msq)・(Mm)・(Msa)に用いる金属種によって共鳴波長が決まる。)、0.01〜100mWの半導体レーザなどが挙げられる。
【0113】
「プリズム」は、各種フィルタを介したレーザ光が、プラズモン共鳴センサーに効率よく入射することを目的としており、屈折率が透明誘電体部材11と同じであることが好ましい。本発明は、全反射条件を設定できる各種プリズムを適宜選択することができることから、角度、形状に特に制限はなく、例えば、60度分散プリズムなどであってもよい。なお、プリズムは、上記一体化構造体ブロックのプリズム部として上記透明誘電体部材(Ts)11に組み込まれていてもよい。
【0114】
「光学フィルタ」としては、例えば、減光(ND)フィルタ、ダイアフラムレンズなどが挙げられる。「減光(ND)フィルタ」(または、中性濃度フィルタ)は、入射レーザ光量を調節することを目的とするものである。特に、ダイナミックレンジの狭い検出器を使用するときには精度の高い測定を実施する上で用いることが好ましい。
【0115】
「偏光フィルタ」は、レーザ光を、表面プラズモンを効率よく発生させるP偏光とするために用いられるものである。
「カットフィルタ」は、外光(装置外の照明光)、励起光(励起光の透過成分)、迷光(各所での励起光の散乱成分)、プラズモンの散乱光(励起光を起源とし、プラズモン共鳴センサー表面上の構造体または付着物などの影響で発生する散乱光)、酵素蛍光基質の自家蛍光、などの各種ノイズ光を除去するフィルタであって、例えば、干渉フィルタ、色フィルタなどが挙げられる。
【0116】
「集光レンズ」は、検出器に蛍光シグナルを効率よく集光することを目的とするものであり、任意の集光系でよい。簡易な集光系として、顕微鏡などで使用されている、市販の対物レンズ(例えば、(株)ニコン製またはオリンパス(株)製等)を転用してもよい。対物レンズの倍率としては、10〜100倍が好ましい。
【0117】
「光検出部」としては、SPFS等に基づくアッセイ方法でSPFSを検出するために用いられる光検出装置を用いることができ、超高感度の観点からは光電子増倍管(浜松ホトニクス(株)製のフォトマルチプライヤー)が好ましい。また、これらに比べると感度は下がるが、画像として見ることができ、かつノイズ光の除去が容易なことから、多点計測が可能なCCDイメージセンサーも好適である。なお、本発明においては、この「光検出部」は、後述するアッセイ方法において蛍光シグナル(Sm)を検出するために用いられるSPFS検出部としても機能する。
【0118】
[アッセイ方法]
本発明に係るアッセイ方法は、
(a)透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(Am)を有するプラズモンセンサー構造体において、該領域(Am)に、検体と、第2のリガンドと蛍光分子(Dm)とからなる蛍光修飾リガンドとを接触させることにより、表面プラズモン共鳴センサーを調製する工程と、
(b)該工程(a)の後、該領域(Am)に対して、該透明誘電体部材(Tm)の、該金属薄膜(Mm)とは反対側の表面から入射光を照射し、全反射条件となる入射角で入射光を照射し、これにより、該領域(Am)で発光した蛍光の量を蛍光シグナル(Sm)として検出する工程と、
(c)該工程(b)で検出された蛍光シグナル(Sm)を、補正する工程と、
(d)該工程(c)で補正された蛍光シグナル(Sm)に基づき検体中のアナライト量を評価する工程と
を含む。
ここで、この工程(c)における蛍光シグナル(Sm)の補正は、上述した補正方法を用いて行われる。
【0119】
<工程(a)>
本発明のアッセイ方法において、工程(a)は、透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(Am)を有するプラズモンセンサー構造体において、該領域(Am)に、検体と、第2のリガンドと蛍光分子(Dm)とからなる蛍光修飾リガンドとを接触させることにより、表面プラズモン共鳴センサーを調製する工程である。言い換えれば、この工程(a)は、本発明の補正方法を適用する対象となる表面プラズモン共鳴センサーを調製する工程であり、図1においては、表面プラズモン共鳴センサー50を調製する工程である。
【0120】
(プラズモンセンサー構造体)
工程(a)で用いられるプラズモンセンサー構造体20は、透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(Am)を有するプラズモンセンサー構造体である。このようなプラズモンセンサー構造体は、従来公知の方法により調製することができる。
【0121】
透明誘電体部材(Tm)
本発明で、プラズモンセンサー構造体20を構成する透明誘電体部材(Tm)21は、プラズモンセンサー構造体20の構造の骨格を構成するとともに、プラズモンセンサー構造体20から調製される表面プラズモン共鳴センサー50において、金属薄膜(Mm)22が形成されている面に入射光61cを導く媒体としても機能する。
【0122】
本発明で、透明誘電体部材(Tm)21として用いられる透明誘電体部材は、前記「透明誘電体部材(Ts)」の項で挙げた各種材質および形態のものを用いることができる。
なお、後述する金属薄膜(Mm)22を形成する前に、当該透明誘電体部材(Tm)21の表面に対して酸またはプラズマによる洗浄処理を行うことが好ましい。
【0123】
金属薄膜(Mm)
本発明で、プラズモンセンサー構造体20を構成する金属薄膜(Mm)22について、前述した金属薄膜(Msq)12および金属薄膜(Msa)32と同様、一般的な表面プラズモン共鳴センサーを構成する金属薄膜として一般に用いられるものと同様の金属を用いることができ、その金属種として、前記「金属薄膜(Msq)・(Msa)」の項で挙げた各種金属種および形態のものを用いることができる。
【0124】
この金属薄膜(Mm)22は、前記透明誘電体部材(Tm)21のうち領域(Am)となる領域に対して、前記「金属薄膜(Msq)・(Msa)」の項に挙げた形成方法を適用することにより形成できる。
金属薄膜(Mm)22の厚さの絶対値についても、前記「金属薄膜(Msq)・(Msa)」の項に挙げた範囲とすることができる。
【0125】
固定化リガンド含有層
本発明で、プラズモンセンサー構造体20を構成する固定化リガンド含有層23は、第1のリガンド231を含んでいる。このような固定化リガンド含有層23は、領域(As)をさらに含む電場増強評価構造体10を構成する固定化リガンド含有層33と同様の構成とすることができ、また、同様の方法により形成される。
【0126】
(表面プラズモン共鳴センサー)
本発明で、表面プラズモン共鳴センサー50は、前記プラズモンセンサー構造体20の領域(Am)に、検体と、第2のリガンド411と蛍光分子(Dm)412とからなる蛍光修飾リガンド41とを接触させることにより調製される。
【0127】
接触
本発明において、「接触」とは、表面プラズモン共鳴センサーのリガンド等が固定化されている面が送液中に浸漬されている状態で、この送液中に含まれる対象物をこの表面プラズモン共鳴センサーと接触させることをいう。ここで、この項および次に示す「流路」の項で言及される「表面プラズモン共鳴センサー」は、図1に示される表面プラズモン共鳴センサー50および図3に示される表面プラズモン共鳴センサー51を包含する概念である。
【0128】
工程(a)では、上記検体と表面プラズモン共鳴センサーとの「接触」は、流路中に循環する送液に検体が含まれ、表面プラズモン共鳴センサーのリガンドが固定化されている片面のみが該送液中に浸漬されている状態において、表面プラズモン共鳴センサーと検体とを接触させる態様が好ましい。
【0129】
送液
本発明で用いられる「送液」としては、後述する「検体」を希釈した溶媒または緩衝液と同じものが好ましく、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0130】
流路
本発明において、「流路」とは、微量な薬液の送達を効率的に行うことができ、反応促進を行うために送液速度を変化させたり、循環させたりすることができる直方体または管状のものである。また、この流路の形状として、表面プラズモン共鳴センサーを設置する個所近傍は直方体構造を有することが好ましく、薬液を送達する個所近傍は管状を有することが好ましい。
【0131】
その材料としては、表面プラズモン共鳴センサー部ではメチルメタクリレート、スチレン等を原料として含有するホモポリマーまたは共重合体;ポリエチレン等のポリオレフィンなどの光透過性の材質からなり、薬液送達部ではシリコーンゴム、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリマーを用いる。ここで、この「流路」の項において「表面プラズモン共鳴センサー部」とは、流路において表面プラズモン共鳴センサーのアッセイ測定領域と接する部分をいい、具体的には、図1に示される表面プラズモン共鳴センサー50における領域(Am)または図3に示される表面プラズモン共鳴センサー51における領域(As)と接する部分である。
【0132】
ただし、表面プラズモン共鳴センサー部については、蛍光測定時に流路が一定の形状に保たれ、且つプラズモン励起により発生した蛍光の検出が妨げられない限り、必ずしもその流路構造の全てを光透過性の材質のみから構成する必要はない。すなわち、表面プラズモン共鳴センサー部の流路のうち、プラズモン励起により発生した蛍光を透過させて検出部に導くために必要な部分、具体的には蛍光の集光に必要な透光窓を含む部分については、光透過性の材質で構成する必要があるが、その他の部分については、その一部または全部を光透過性の材質以外の化学的に安定な材質で構成してもよい。表面プラズモン共鳴センサー部の流路が直方体構造を有する場合、金属薄膜およびSAMが表面に存在する表面プラズモン共鳴センサーの面を底面としたときに、例えば、この底面と対向する位置にある天井面を光透過性の材質で構成し、側面を光透過性の材質以外の化学的に安定な材質で構成してもよい。
【0133】
ここで、前記その他の部分、例えば側面は、蛍光測定時に一定の形状が保たれる限り、必ずしも剛体である必要はなく、シール性を確保するために適度な弾性を有していてもよい。例えば、表面プラズモン共鳴センサー部の流路について、天井面をポリメチルメタクリレート(PMMA)で構成し、側面をシリコーンゴムで構成してもよい。
【0134】
表面プラズモン共鳴センサー部においては、検体との接触効率を高め、拡散距離を短くする観点から、表面プラズモン共鳴センサー部の流路の断面として、縦×横がそれぞれ独立に100nm〜1mm程度が好ましい。
【0135】
流路において、薬物送達部から表面プラズモン共鳴センサー部に送液を導入する送液導入口、及びその送液を表面プラズモン共鳴センサー部から排出する送液排出口の位置は、いずれも、蛍光測定の妨げとならない限り特に限定されない。例えば、表面プラズモン共鳴センサー部の流路が直方体構造を有する場合、前記送液導入口及び送液排出口とも天井面に設けるのが流路の作成上簡便であるが、この送液導入口と送液排出口とのうちいずれか一方、あるいはその両方を側面に設けてもよい。
流路に表面プラズモン共鳴センサーを固定する方法は、流路が一定の形状に保たれ、且つ蛍光測定が妨げられない限り特に限定されない。
【0136】
このような固定方法の例としては、小規模ロット(実験室レベル)では、まず、表面プラズモン共鳴センサーの金属薄膜が形成されている表面上に、一定の厚さを有するシリコーンゴム製シートまたはOリングを載せることによって流路の側面構造を形成し、次いで、その上に送液導入口及び送液排出口を設けてある光透過性の天板(例えば、PMMA基板)を配置することによって流路の天井面を形成し、その後、これらを圧着して適当な留め具により固定する方法などが挙げられる。このとき、側面構造を構成する材料として、その中央部に任意の形状および大きさを有する穴を開けてある、適当な厚さを有するシリコーンゴム製シートを用いると、この穴の内周が表面プラズモン共鳴センサー部の流路の側面構造となることから、所要の形状および大きさを有する流路を容易に形成することができるので好ましい。例えば、まず、該表面プラズモン共鳴センサーの金属薄膜が形成されている表面に、流路高さ0.5mmを有する穴あきポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートを該表面プラズモン共鳴センサーの金属薄膜が形成されている部位を囲むようにして配置し、次いで、このポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートの上に、予め送液導入口及び送液排出口を設けてあるPMMA基板を配置し、その後、該PMMA基板と該ポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートと該表面プラズモン共鳴センサーとを圧着し、ビス等の留め具により固定する方法が好ましい。また、表面プラズモン共鳴センサーに、シリコーンゴム製シートまたはOリングと光透過性の天板とを圧着し、固定するにあたっては、必要に応じて、シリコーンゴムまたはステンレスなどの材質でできた適当なスペーサを併用してもよい。
【0137】
また、工業的に製造される大ロット(工場レベル)では、流路に表面プラズモン共鳴センサーを固定する方法としては、プラスチックの一体成形品に直接金基板を形成するか或いは別途作製した金基板を固定し、金表面に誘電体層、SAM層およびリガンド固定化を行った後、流路の天板に相当するプラスチックの一体成形品により蓋をすることで製造できる。必要に応じてプリズムを流路に一体化することもできる。
【0138】
なお、本発明においては、図3に示される表面プラズモン共鳴センサー51のように、領域(P)および領域(Q)を含む表面プラズモン共鳴センサーにおいて、この領域(P)および領域(Q)とも接するように上記「表面プラズモン共鳴センサー部」を構成してもよい。あるいは、水など上記送液とは異なる媒体を領域(P)および領域(Q)の表面に導入するために、この領域(P)および領域(Q)と接するように第2の流路を設け、この第2の流路において、この領域(P)および領域(Q)と接する部分に上記「表面プラズモン共鳴センサー部」と同様の構造を形成してもよい。
【0139】
検体
本発明で、表面プラズモン共鳴センサーを調製するために用いられる検体として、前記「≪表面プラズモン共鳴センサーとしての使用≫」の項で挙げたものを用いることができる。ここで、この項で言及される「表面プラズモン共鳴センサー」は、図1に示される表面プラズモン共鳴センサー50および図3に示される表面プラズモン共鳴センサー51を包含する概念である。
【0140】
本発明のアッセイ方法においては、プラズモンセンサー構造体20の領域(Am)への検体の接触は、通常、当該領域(Am)に接続された流路を通じて検体を含有する送液を当該領域(Am)に接触させることにより行われる。同様に、図2(b)に示すような、領域(As)をさらに有する構造体10への検体の接触についても、同様に、領域(As)に接続された流路を通じて検体を含有する送液を当該領域(As)に接触させることにより行われる。
【0141】
送液を循環させる温度および時間としては、検体の種類などにより異なり、特に限定されるものではないが、通常20〜40℃×1〜60分間、好ましくは37℃×5〜15分間である。
【0142】
送液中の検体中に含有されるアナライト42の初期濃度は、100μg/mL〜0.0001pg/mLであってもよい。
送液の総量、すなわち流路の容積としては、通常0.0001〜20mL、好ましくは0.01〜1mLである。
送液の流速は、通常1〜2,000μL/min、好ましくは5〜500μL/minである。
【0143】
蛍光修飾リガンド
本発明で、表面プラズモン共鳴センサーを調製するために用いられる蛍光修飾リガンド41として、前記「≪表面プラズモン共鳴センサーとしての使用≫」の項で挙げたものを用いることができる。ここで、この項で言及される「表面プラズモン共鳴センサー」は、図1に示される表面プラズモン共鳴センサー50および図3に示される表面プラズモン共鳴センサー51を包含する概念である。
【0144】
本発明のアッセイ方法においては、プラズモンセンサー構造体20の領域(Am)への蛍光修飾リガンド41の接触は、前記検体と接触させたプラズモンセンサー構造体20の領域(Am)に、流路を通じて蛍光修飾リガンド41を含有する送液を接触させることにより行われる。同様に、図2(b)に示すような、領域(As)をさらに有する構造体10への蛍光修飾リガンド41の接触についても、同様に、領域(As)に、流路を通じて蛍光修飾リガンド41を含有する送液を接触させることにより行われる。
蛍光修飾リガンド41の送液中の濃度は、0.001〜10,000μg/mLが好ましく、1〜1,000μg/mLがより好ましい。
送液を循環させる温度、時間および流速は、それぞれ上記検体を含む送液の場合と同様である。
【0145】
洗浄工程
洗浄工程とは、プラズモンセンサー構造体20の表面、および表面プラズモン共鳴センサー50の表面のうち少なくともいずれか一方を洗浄する工程である。この洗浄工程のうち少なくともいずれか一方が工程(a)に含まれることが好ましい。
【0146】
洗浄工程に使用される洗浄液としては、例えば、Tween20、TritonX100などの界面活性剤を、工程(a)の反応で用いたものと同じ溶媒または緩衝液に溶解させ、好ましくは0.00001〜1重量%含有するものが望ましい。
【0147】
送液を循環させる温度および流速は、それぞれ上記検体を含む送液の場合と同じであることが好ましい。
洗浄液を循環させる時間は、通常0.5〜180分間、好ましくは5〜60分間である。
【0148】
<工程(b)>
本発明のアッセイ方法において、工程(b)は、前述の工程(a)の後、該領域(Am)に対して、該透明誘電体部材(Tm)の、該金属薄膜(Mm)とは反対側の表面から入射光を照射し、全反射条件となる入射角で入射光を照射し、これにより、該領域(Am)で発光した蛍光の量を蛍光シグナル(Sm)として検出する工程である。
【0149】
具体的には、表面プラズモン共鳴センサーにおけるアッセイ測定領域(すなわち、図1に示す表面プラズモン共鳴センサー50における領域(Am)および図3に示す表面プラズモン共鳴センサー51における領域(As))に対して、図1に示すように、入射光61cを照射し、これにより、該アッセイ測定領域で発光した蛍光を表面プラズモン共鳴センサー上部に設置されたSPFS検出部で検出し、蛍光量を蛍光シグナル(Sm)として数値化する工程である。
【0150】
ここで、本発明のアッセイ方法で用いられる光源、プリズム、光学フィルタ、偏光フィルタ、集光レンズとしては、上述した本発明の補正方法についての説明において「光学系」の項に挙げたものが用いられる。また、「SPFS検出部」についても、同じく「光学系」の項に上述した「光検出部」としてあげられている光検出装置を用いることができる。
【0151】
表面プラズモン共鳴センサーとして、図3に示す表面プラズモン共鳴センサー51のように、領域(P)および領域(Q)を兼ね備えている表面プラズモン共鳴センサー、すなわち、前記対象構造体(Xt)を対象構造体部分として一体化している表面プラズモン共鳴センサーが用いられる場合、上述の補正方法で用いられる電場増強比Rtを得るための上記工程(i)〜(iii)を、この工程(b)と併せて行うことができる。
【0152】
この工程(i)〜(iii)は、工程(b)の直前に行ってもよいし、工程(b)の直後に行ってもよい。これらの態様では、蛍光シグナル(Sm)、全反射蛍光シグナル(Sp)、電場増強蛍光シグナル(Sq)を、異なる時に単一のSPFS検出部を用いて検出するとともに、これらのシグナルを得るために用いられる各入射光(すなわち、図1における入射光61c,61a,61b)を単一光源を用いて供給することができるので、測定系を簡素化できるとともに、光源およびSPFS検出部を構成する装置の性能における個体差によるばらつきを回避できる利点がある。
【0153】
また、この工程(i)〜(iii)は、工程(b)と同時に行ってもよい。この場合、蛍光シグナル(Sm)と、全反射蛍光シグナル(Sp)および電場増強蛍光シグナル(Sq)のうち少なくともいずれか一方とを検出するために複数のSPFS検出部を用いることになる。あるいは、CCDイメージセンサーなど多点計測が可能な撮像素子を用いてこれらのシグナルを同時に検出してもよい。工程(i)〜(iii)を、工程(b)と同時に行う場合、これらのシグナルを得るために用いられる各入射光(すなわち、図1における入射光61c,61a,61b)は、光学特性が同一の複数の光源を用いて供給してもよい。あるいは、単一の光源を用い、この光源から発せられる光を適当なビームスプリッターにより分割することにより、領域(As)、領域(P)、領域(Q)の各領域に同時に入射光を供給してもよい。ただし、上記工程(i)において全反射蛍光シグナル(Sp)を測定するために用いられる入射光61aの入射角と、上記工程(ii)において電場増強蛍光シグナル(Sq)を測定するために用いられる入射光61bの入射角とは異なる場合があることから、分割した光の向きを入射角の変化に応じて適宜調節する機構が必要となり、測定系が複雑になる場合がある。
【0154】
さらに、この工程(i)〜(iii)を、本発明のアッセイ方法で行われる一連のアッセイ工程に先だって行うことにより、この表面プラズモン共鳴センサーについて適用される電場増強比Rtを事前に算出してもよい。このような態様での電場増強比Rtの算出は、領域(P)、領域(Q)を有さない表面プラズモン共鳴センサーについての蛍光シグナル(Sm)について本発明の補正方法を適用するときにも有用である。
【0155】
<工程(c)>
本発明のアッセイ方法において、工程(c)は、前述の工程(b)で検出された蛍光シグナル(Sm)を、上述した補正方法を用いて補正する工程である。この工程により、SPFS検出部で検出されたばかりの蛍光シグナル(Sm)である未補正蛍光シグナル(Sm0)を補正蛍光シグナル(Sm1)に変換することにより、表面プラズモン共鳴センサーを構成する金属薄膜(すなわち、図1に示す表面プラズモン共鳴センサー50を構成する金属薄膜(Mm)22、または図3に示す表面プラズモン共鳴センサー51を構成する金属薄膜(Msa)32)における電場増強のばらつきを除去することができる。
【0156】
ここで、工程(c)における補正でもちいられる上記参照構造体(Xr)についての電場増強比Rrは、通常の場合、本発明のアッセイ方法で行われる一連のアッセイ工程に先だって事前に算出されたものが用いられる。ただ、本発明のアッセイ方法で行われる一連のアッセイ工程と並行して、上記参照構造体(Xr)についての電場増強比Rrを算出するための上記工程(i)〜(iii)が行われることを排除するものではない。
【0157】
<工程(d)>
本発明のアッセイ方法において、工程(d)は、前述の工程(c)で補正された蛍光シグナル(Sm)、すなわち、補正蛍光シグナル(Sm1)に基づき検体中のアナライト量を評価する工程である。具体的には、前記工程(c)で補正された蛍光シグナル(Sm)をもとに、検量線を作成し、作成された検量線に基づいて被測定検体中の標的抗原量もしくは標的抗体量を測定シグナルから算出する工程である。
【0158】
アッセイS/N比
工程(d)においては、上記工程(b)の前に測定した"ブランク蛍光シグナル"、上記工程(b)での測定により得られた"アッセイ蛍光シグナル"、および何も修飾していない金属基板(本発明では、表面に金属薄膜を形成しただけで、さらなる修飾処理を行っていない透明誘電体基板も含む。)を流路に固定し、超純水を流しながらSPFSを測定して得られたシグナルを"初期ノイズ"としたとき、下記式(3a)で表されるアッセイS/N比を算出することができる:
アッセイS/N比=|Ia/Io|/In (3a)
(上記式(3a)において、Iaはアッセイ蛍光シグナル、Ioはブランク蛍光シグナル、Inは初期ノイズである)。
【0159】
ただし、アッセイS/N比を算出するにあたっては、実用上、上記式(3a)に代えて、検体中に含まれるアナライトの濃度が0の場合における"アッセイノイズシグナル"を基準として、下記式(1b)にしたがって算出してもよい:
アッセイS/N比=|Ia|/|Ian| (3b)
(上記式(3b)において、Ianはアッセイノイズシグナル、Iaは上記式(3a)の場合と同様にアッセイ蛍光シグナルである)。
【0160】
SPFSの代わりに、共鳴角および反射光強度などを通じてSPRを検出する場合には、上記IaおよびIoとして、それぞれ、アッセイ蛍光シグナルおよびブランク蛍光シグナルの代わりに、対応するアッセイシグナルおよびプランクシグナルを用いることができる。
【0161】
〔アナライト検出装置〕
本発明で用いられるアナライト検出装置は、本発明の補正方法に用いられるとともに、上記表面プラズモン共鳴センサーを用いて、本発明のアッセイ方法を実施するためのものである。
【0162】
「アナライト検出装置」としては、少なくとも光源、各種光学フィルタ、プリズム、カットフィルタ、集光レンズおよびSPFS検出部を含むものとする。この「アナライト検出装置」は、本発明の補正方法を実施するために用いることができ、ビームスプリッターなどの光分離手段を備えていてもよい。なお、検体液、洗浄液、標識抗体液などを取り扱う際に、表面プラズモン共鳴センサーと組み合った送液系を有することが好ましい。送液系としては、本発明の目的が達せられる限り、その種類を問わない。例えば、液ポンプと連結したマイクロ流路デバイスなどでもよい。
【0163】
また、表面プラズモン共鳴(SPR)検出部、すなわちSPR専用の受光センサーとしてのフォトダイオード、SPRおよびSPFSの最適角度を調製するための角度可変部(サーボモータで全反射減衰(ATR)条件を求めるためにフォトダイオードと光源とを同期して、45〜85°の角度変更を可能とする。分解能は0.01°以上が好ましい。)、SPFS検出部に入力された情報を処理するためのコンピュータなども含んでもよい。
【0164】
光源、光学フィルタ、カットフィルタ、集光レンズおよびSPFS検出部の好ましい態様は上述したものと同様である。本発明においては、このSPFS検出部は、上述した本発明の補正方法を実施する際に、「光検出部」として用いることができる。
【0165】
「送液ポンプ」としては、例えば、送液が微量な場合に好適なマイクロポンプ、送り精度が高く脈動が少なく好ましいが循環することができないシリンジポンプ、簡易で取り扱い性に優れるが微量送液が困難な場合があるチューブポンプなどが挙げられる。
【実施例】
【0166】
<標識抗体:「Alexa Fluor 647」標識抗AFPモノクローナル抗体の調製>
抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体(1D5、2.5mg/mL、(株)日本医学臨床検査研究所製)を、市販のビオチン化キット((株)同仁化学研究所製)を用いてビオチン化した。手順は、該キットに添付のプロトコールに従った。
【0167】
次に、得られたビオチン化抗AFPモノクローナル抗体の溶液と、「Alexa Fluor 647」ストレプトアビジンコンジュゲート(Molecular Probes社製)の溶液とを混合し、4℃で60分間攪拌して反応させた。
【0168】
最後に、未反応抗体および未反応酵素を除去するため、分子量カットフィルタ(日本ミリポア(株)製)を用いて反応物を精製し、Alexa Fluor 647標識抗AFPモノクローナル抗体溶液を得た。得られた抗体溶液はタンパク定量後、4℃で保存した。
【0169】
<基板の作製>
アッセイ測定領域(A)、全反射蛍光リファレンス領域(P)および電場増強蛍光リファレンス領域(Q)を形成する基板A,B,C,D,E,Fを以下の要領で作製した。
【0170】
まず、厚さ1mmのガラス製の透明平面基板「S-LAL 10」((株)オハラ製、屈折率〔nd〕=1.72)を6枚用意し、プラズマドライクリーナー「PDC200」(ヤマト科学(株)製)でプラズマ洗浄した。
【0171】
プラズマ洗浄された基板の片面のうち、アッセイ測定領域(A)および電場増強蛍光リファレンス領域(Q)を形成しようとする部分に、まずクロム薄膜をスパッタリング法により形成し、さらにその表面に金薄膜をスパッタリング法により形成した。このクロム薄膜の厚さは1〜3nm、金薄膜の厚さは44〜52nmであった。一方、全反射蛍光リファレンス領域(P)を形成しようとする部分には、クロム薄膜および金薄膜の形成を行わなかった。
【0172】
次いで、上記工程により得られた基板を25mg/mLに調整した10−カルボキシ−1−デカンチオールのエタノール溶液10mLに24時間浸漬し、金薄膜の表面にSAMを形成した。この基板をエタノール溶液から取り出し、エタノールおよびイソプロパノールで順次洗浄した後、エアガンを用いて乾燥させた。
以上の工程を6枚の基板それぞれについて行うことにより、金属薄膜およびSAMが形成された(反応層は未形成の)基板A,B,C,D,E,Fを作製した。
【0173】
<センサチップの作製>
上記のようにして作製された基板A,B,C,D,E,Fそれぞれについて、下記工程[1]によりセンサチップの構成とした後、下記工程[2]によりアッセイ測定領域(A)を、下記工程[3]により全反射蛍光リファレンス領域(P)を、下記工程[4]により電場増強蛍光リファレンス領域(Q)を作製し、それぞれセンサチップA,B,C,D,E,Fとした。
【0174】
[1]センサチップの構成
基板の金属薄膜およびSAMが形成された側の面に、アッセイ測定領域(A)、全反射蛍光リファレンス領域(P)および電場増強蛍光リファレンス領域(Q)を形成するための、それぞれ流路長10mm、幅5mmの3個の穴があいた、厚さ0.5mmのポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートを載せた。さらに、このPDMS製シートの周囲にシリコーンゴム製スペーサを配置した(このシリコーンゴム製スペーサは送液に触れない状態にある。)。このPDMS製シートおよびシリコーンゴム製スペーサの上に、上記領域(A)、(P)および(Q)それぞれの内側に位置するよう、送液導入用の穴(送液導入口)および送液排出用の穴(送液排出口)が形成されたポリメチルメタクリレート(PMMA)製天板を載せた。これらセンサー基板、PDMS製シート、およびPMMA製天板の積層物を外周部で圧着してビスで固定し、センサチップとした。
【0175】
[2]領域(A)の作製
センサチップの領域(A)の送液導入口および送液排出口に、シリコーンゴム製のチューブおよびペリスタポンプを連結した(以下に記載する各種流体の送液および循環はすべて、同様のチューブおよびペリスタポンプを用いて行った)。
【0176】
50mMのN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)および100mMの水溶性カルボジイミド(WSC)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)5mLを送液して20分間循環させた後、抗AFPモノクローナル抗体(1D5、2.5mg/mL、(株)日本医学臨床検査研究所製)溶液2.5mLを送液して30分間循環することで、当該抗体をSAMに固定化した。その後、1重量%の牛血清アルブミン(BSA)および1Mのアミノエタノールを含むPBSを30分間循環送液させ、ブロッキング処理とした。
【0177】
[3]領域(P)および(Q)の作製
以下の手順により、領域(P)および(Q)の表面に蛍光分子層を形成した。
まず、丸底フラスコに湯浴を付し、酢酸エチル100gを加熱還流し、さらにステアリルメタクリレート20g、メチルメタクリレート50g及び2−アセトアセトキシエチルメタクリレート30g、N,N′−アゾビスイソバレロニトリル0.1gを各々溶解した混合液を2時間かけて滴下し、同温度にて10時間反応させて樹脂R−1の酢酸エチル溶液を得た。この樹脂溶液R−1を1ml計量し、更に蛍光色素Cy5(蛍光色素)モノNHS体を同モルのラウリルアミンと反応させたアミド体(F−1)を20mM/ml含む酢酸エチル溶液を1ml加え撹拌して、蛍光剤塗布液を調製した。
【0178】
調製した蛍光剤塗布液を、上記[2]で得られたセンサー基板のSAM等が形成された面のうち、領域(P)および(Q)を形成させようとする部位に、領域(P)および(Q)における乾燥膜厚がともに100nmになるようにスピンコーターで塗布し、乾燥温度100℃で5分間の乾燥を行い、蛍光分子層を形成した。
【0179】
<シグナルの測定>
上記のようにして作製されたセンサチップA,B,C,D,E,Fそれぞれについて、下記工程[4]により測定領域(A)におけるシグナル(Sa)の測定を、下記工程[5]により測定領域(P)におけるシグナル(Sp)の測定を、下記工程[6]により領域(Q)におけるシグナル(Sq)の測定を行った。ここで、測定領域(A)におけるシグナル(Sa)および領域(Q)におけるシグナル(Sq)の測定は表面プラズモン共鳴条件下で、領域(P)におけるシグナル(Sp)の測定は全反射減衰(ATR)条件下でそれぞれ行われた。
【0180】
[4]シグナル(Sa)の測定
測定領域(A)に、まず、AFP(2.0mg/mL溶液、Acris Antibodies GmbH社)が10ng/mLとなるようPBSバッファー(pH7.4)で希釈した溶液を、10μL/minにて20分間フローさせた。つづいて、前述のようにして調製した標識抗体:「Alexa Fluor 647」標識抗AFPモノクローナル抗体が2.5μg/mLとなるよう1%BSA−PBSバッファー(pH7.4)で希釈した溶液を、10μL/minにて20分間フローさせた。洗浄工程として、0.005%Tween20を含んだTBS溶液(pH7.4)を10μL/minにて10分間フローさせて、表面プラズモン共鳴センサーとした。その後、PBSバッファー(pH7.4)で流路を満たした状態にして、表面プラズモン共鳴センサーの裏側からプリズムを経由してレーザ光(635nm、40μW)を照射し、センサー表面から発せられる蛍光量をCCDで測定した。この測定値をシグナル(Sa)とした。
【0181】
[5]シグナル(Sp)の測定
領域(P)にPBSバッファー(pH7.4)を送液し、流路をこのバッファーで満たした状態にして、表面プラズモン共鳴センサーの裏側からプリズムを経由してレーザ光(635nm、40μW)を照射し、センサー表面から発せられる蛍光量をCCDで測定した。
この測定値をシグナル(Sp)とした。
【0182】
[6]シグナル(Sq)の測定
領域(Q)にPBSバッファー(pH7.4)を送液し、流路をこのバッファーで満たした状態にして、表面プラズモン共鳴センサーの裏側からプリズムを経由してレーザ光(635nm、40μW)を照射し、センサー表面から発せられる蛍光量をCCDで測定した。
この測定値をシグナル(Sq)とした。
【0183】
<電場増強比Rならびに補正されたシグナル(Sa′)の算出>
センサチップA,B,C,D,E,Fそれぞれについて、下記のようにして補正されたシグナル(Sa′)を算出した。
【0184】
下記式(1)に基づき、センサチップA,B,C,D,E,Fそれぞれについて、電場増強比Rを算出した。
R = Sq / Sp (1)
次に、センサチップA,B,C,D,E,Fについて算出した電場増強比Rについて、センサチップAについて算出した電場増強比Rでそれぞれ除算した値である補正係数kを算出した。
【0185】
そして、センサチップA,B,C,D,E,Fについて、領域(A)で測定されたシグナル(Sa)の測定値に、1/kを乗じることにより、補正されたシグナル(Sa′)を算出した。
【0186】
結果は表2に示す通りである。ここで、シグナル(Sa)および(Sa′)において、「基板A一致率」とは、センサチップAにおけるシグナル強度を100としたときの各センサチップにおける相対的なシグナル強度を表し、センサチップA,B,C,D,E,Fについての値が100に近いほどシグナルのばらつきが小さいことを示す。
【0187】
【表2】

【符号の説明】
【0188】
10・・・電場増強評価構造体
11・・・透明誘電体部材(Ts)
12・・・金属薄膜(Msq)
13a・・・蛍光分子層(Fsp)
13b・・・蛍光分子層(Fsq)
20・・・プラズモンセンサー構造体
21・・・透明誘電体部材(Tm)
22・・・金属薄膜(Mm)
32・・・金属薄膜(Msa)
23,33・・・固定化リガンド含有層
231,331・・・リガンド(第1のリガンド)
41・・・蛍光修飾リガンド
411・・・第2のリガンド
412・・・蛍光色素(Dm)
42・・・アナライト
50,51・・・表面プラズモン共鳴センサー
61a,61b,61c・・・入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して蛍光色素(Dm)が固定されてなる表面プラズモン共鳴センサーにつき、表面プラズモン蛍光分光法を用いて測定される蛍光色素(Dm)由来の蛍光シグナル(Sm)について、
(k-1) 透明誘電体部材(Ts)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜を介することなく蛍光分子層(Fsp)が形成された領域(P)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msq)を介して、蛍光分子層(Fsq)が形成された領域(Q)と
を含み、
該蛍光分子層(Fsq)および該蛍光分子層(Fsp)がともに同一の蛍光色素(Ds)から構成されており、
該透明誘電体部材(Tm)および該透明誘電体部材(Ts)がともに同一の透明誘電体からなり、
該金属薄膜(Mm)および該金属薄膜(Msq)がともに同一の金属からなる
構造体(X)であって、該金属薄膜(Msq)が該金属薄膜(Mm)と同じ厚さを有する対象構造体(Xt)について、
(i)前記領域(P)に対して、
該透明誘電体部材(Ts)の、該蛍光分子層(Fsp)が存在する面とは反対側の表面から、全反射条件となる入射角で、該蛍光シグナル(Sm)の測定において蛍光分子(Dm)を励起するために用いられる入射光と同一波長の入射光を照射することにより、
該領域(P)で発光した蛍光の量を全反射蛍光シグナル(Sp)として検出する工程と、
(ii)該工程(i)の前に、該工程(i)と同時に、あるいは該工程(i)の後に、前記領域(Q)に対して、
該透明誘電体部材(Ts)の、該蛍光分子層(Fsq)が存在する面とは反対側の表面から、全反射条件となる入射角で該工程(i)の場合と同一波長の入射光を照射することにより、
該領域(Q)で発光した蛍光の量を電場増強蛍光シグナル(Sq)として検出する工程と
(iii)該工程(i)および(ii)を経て得られる該全反射蛍光シグナル(Sp)と該電場増強蛍光シグナル(Sq)を用いて下記式(1)
R = Sq / Sp (1)
に基づき電場増強比Rを算出する工程と、
を経て得られる該電場増強比RであるRtと、
(k-2)該構造体(X)であって、該対象構造体(Xt)以外の構造体である参照構造体(Xr)について、該対象構造体(Xt)の場合と同じ波長の入射光を用いて、上記工程(i)〜(iii)を経て得られる該電場増強比RであるRrと
を用いて、下記式(2)
Sm1 = Sm0 × (Rr / Rt) (2)
に基づき、補正前の蛍光シグナル(Sm)である未補正蛍光シグナル(Sm0)を補正蛍光シグナル(Sm1)に変換する
ことを特徴とする蛍光シグナルの補正方法。
【請求項2】
前記対象構造体(Xt)を対象構造体部分として一体化している前記表面プラズモン共鳴センサーにつき測定される前記蛍光シグナル(Sm)についての前記変換が、該対象構造体部分につき前記工程(i)〜(iii)を経て得られる前記電場増強比Rを前記Rtとして用いることに行われる請求項1に記載の補正方法。
【請求項3】
(a)透明誘電体部材(Tm)上に、金属薄膜(Mm)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(Am)を有するプラズモンセンサー構造体において、該領域(Am)に、検体と、第2のリガンドと蛍光分子(Dm)とからなる蛍光修飾リガンドとを接触させることにより、表面プラズモン共鳴センサーを調製する工程と、
(b)該工程(a)の後、該領域(Am)に対して、該透明誘電体部材(Tm)の、該金属薄膜(Mm)とは反対側の表面から入射光を照射し、全反射条件となる入射角で入射光を照射し、これにより、該領域(Am)で発光した蛍光の量を蛍光シグナル(Sm)として検出する工程と、
(c)該工程(b)で検出された蛍光シグナル(Sm)を、補正する工程と、
(d)該工程(c)で補正された蛍光シグナル(Sm)に基づき検体中のアナライト量を評価する工程と
を含み;
該工程(c)における蛍光シグナル(Sm)の補正が、請求項1に記載の補正方法を用いてなされることを特徴とするアッセイ方法。
【請求項4】
前記(k-1)で用いられる対象構造体(Xt)が、
前記透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msa)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(As)をさらに含み、且つ、該金属薄膜(Msa)および前記金属薄膜(Msq)がともに同一の金属からなり且つ同じ厚さを有する構造体であり、
該領域(As)を前記領域(Am)として用いることにより、前記プラズモンセンサー構造体として供される
請求項3に記載のアッセイ方法。
【請求項5】
前記工程(c)における補正が、
前記対象構造体(Xt)についての上記工程(i)〜(iii)を前記工程(b)の直前、前記工程(b)と同時、および前記工程(b)の直後のいずれかにおいて行うことにより求められる前記Rtを用いて行われる
請求項4に記載のアッセイ方法。
【請求項6】
前記工程(c)における補正が、事前に算出済みの前記Rtを用いて行われる請求項3または4に記載のアッセイ方法。
【請求項7】
前記工程(c)における補正が、事前に算出済みの前記Rrを用いて行われる請求項5または6に記載のアッセイ方法。
【請求項8】
前記検体が、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液および唾液からなる群から選択される少な
くとも1種の体液である請求項3〜7のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項9】
透明誘電体部材(Ts)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜を介することなく蛍光分子層(Fsp)が形成された領域(P)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msq)を介して、蛍光分子層(Fsq)が形成された領域(Q)と、
該透明誘電体部材(Ts)上に、金属薄膜(Msa)を介して、第1のリガンドを含有する固定化リガンド含有層が形成された領域(As)と
を含み、
該蛍光分子層(Fsp)および該蛍光分子層(Fsq)がともに同一の蛍光分子(Ds)から構成され、且つ、
該金属薄膜(Msa)および前記金属薄膜(Msq)がともに同一の金属からなり且つ同じ厚さを有する
構造体。
【請求項10】
請求項9に記載の構造体と、アナライトと、第2のリガンドと蛍光分子(Dm)とからなる蛍光修飾リガンドとを含み、
前記領域(As)内の前記第1のリガンドに、該アナライトを介して該蛍光修飾リガンドが結合している表面プラズモン共鳴センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−42233(P2012−42233A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181364(P2010−181364)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】