説明

Si粒子の形成方法、Si粒子蛍光体および生体物質蛍光標識剤

【課題】本発明の目的は、生体適合性に優れ検出性に優れる生体物質蛍光標識剤を与えるSi粒子蛍光体、それを作製するSi粒子の作製方法およびそれを用いた生体物質蛍光標識剤を提供することにある。
【解決手段】基板上に、スパッタリングによりSi(シリコン)を含有するGeO膜を形成し、該GeO膜を加熱処理してSi粒子を形成することを特徴とするSi粒子の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質蛍光標識剤に好適に用いることができるシリコンナノ粒子の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体物質を標識する手段として、分子標識物質をマーカー物質に結合した生体物質標識剤を用いる方法が知られている。標識剤に蛍光材料が用いられる場合には励起光として用いられる波長の短い紫外域の光が細胞にダメージを与えることが問題となっており、ダメージの少ない長波長励起・発光の蛍光体が求められている。
【0003】
一方、特に近年、小動物を対象としたin vivo光イメージングが注目されており、小動物の生体内の細胞を外部より、生体を傷つけることなく(非侵襲で)観察するような光学系装置が各メーカから販売され始めている。これは、生体内の観察したい部位に選択的に集まるような標識をつけた蛍光材料を生体内に注入し、外部より励起光を照射し、出てきた発光を外部でモニターする方法である。
【0004】
このように、生体内の蛍光材料を励起し・発光を外部に取り出すためには、励起光・発光が生体を透過する必要がある。紫外光・可視光は生体の吸収が高く、ほとんど透過することが出来ないので好ましくない。また、1000nm以上の波長では、水の吸収が立ち上がり透過率が低くなり、好ましくない。しかしながら近赤外線の700nm〜1000nmは、「生体の窓」・「分光領域の窓」と呼ばれる生体の透過率が特異的に高い領域であり、この範囲内で励起・発光を示す蛍光材料が求められている。
【0005】
上記方法で従来使用されてきた有機蛍光色素などのマーカー物質は、励起光照射時の劣化が激しく寿命が短いことが欠点であり、また発光効率が低く、感度も十分ではなかった。
【0006】
一方、有機蛍光色素を用いない生体物質蛍光標識剤としては、所謂量子ドットと呼ばれる半導体ナノ粒子を用いるものが知られており、例えば環境や、生体に与える影響が比較的少ない、シリコンと酸化シリコンとから構成される半導体ナノ粒子を利用する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
そして、Si(シリコン)ナノ粒子を形成させる方法として、例えば液相法で形成させる方法(特許文献2参照)、スパッタリングで形成したSiOの膜中のSiをアニール処理(加熱処理)してSiの結晶化させる方法(特許文献3参照)が知られている。
【0008】
しかしながら、これらの半導体ナノ粒子は、Si粒子を形成する方法が複雑である、粒子として取り出す際にフッ酸を使用するため生体適合性が不十分である、といった問題があった。
【特許文献1】特開2005−172429号公報
【特許文献2】特開2007−12702号公報
【特許文献3】特開2004−296781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、生体適合性に優れ検出性に優れる生体物質蛍光標識剤を与えるSi粒子蛍光体、それを作製するSi粒子の作製方法およびそれを用いた生体物質蛍光標識剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
1.基板上に、スパッタリングによりSi(シリコン)を含有するGeO膜を形成し、該GeO膜を加熱処理してSi粒子を形成することを特徴とするSi粒子の形成方法。
2.前記加熱処理の後に、pH8.0以上のアルカリ溶液により前記GeO膜を溶解することを特徴とする1に記載のSi粒子の形成方法。
3.前記加熱処理の温度が、700℃以上1000℃以下であることを特徴とする1に記載のSi粒子の形成方法。
4.前記加熱処理の時間が、30分以上120分以下であることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載のSi粒子の形成方法。
5.2〜4のいずれか1項に記載のSi粒子の形成方法により形成されたことを特徴とするSi粒子蛍光体。
6.前記Si粒子の、平均粒径が、3.5nm以上10.0nm以下であることを特徴とする5に記載のSi粒子蛍光体。
7.前記Si粒子の、波長750nmの励起光による発光波長が、700nm〜1100nmであることを特徴とする5または6に記載のSi粒子蛍光体。
8.5〜7のいずれか1項に記載のSi粒子蛍光体に分子標識物質が有機分子を介して結合していることを特徴とする生体物質蛍光標識剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記構成により、生体毒性が弱く生体適合性に優れ、赤外領域での検出が可能であり検出性に優れる生体物質蛍光標識剤を与えるSi粒子蛍光体およびそれを用いた生体物質蛍光標識剤が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
【0013】
本発明は、基板上に、スパッタリングによりSi(シリコン)を含有するGeO膜を形成し、該GeO膜を加熱処理してSi粒子を形成することを特徴とする。
【0014】
本発明は、特にGeO膜中でSi粒子を生成させることにより、生体毒性が弱く生体適合性に優れ、赤外領域での検出が可能であり検出性に優れる生体物質標識剤を与えるSi粒子を効率的に作製できる。
【0015】
本発明のSi粒子の形成方法を図1を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明に用いられるスパッタリング装置の一例を示す。
【0017】
スパッタリングによりSiを含有するGeO膜1は、下記のように形成される。
【0018】
アルゴンガスを真空チャンバー16に導入し、アルゴンガスをイオン化する。
【0019】
イオン化されたアルゴンイオンを高周波電極22上のターゲット材料24であるシリコンチップ24aとGe薄片24bとへ衝突させ、ターゲット材料から放出された原子や分子を基板ホルダー20に保持された基板11に堆積させ、Siを含有するアモルファス酸化ゲルマニウム(GeO)膜を形成する。
【0020】
ターゲット材料におけるシリコンチップとGe薄片の、アルゴンイオンのターゲットとなる各々の面積の割合および下述する加熱処理の条件を調整することにより、粒径の異なるSi粒子を形成することができる。
【0021】
本発明においては、GeOの面積に対するシリコンチップの面積の割合(Si/GeO)は、0.1〜0.5であることが好ましい。
【0022】
また、スパッタリング条件である高周波電力やガス圧を変化させてもSi粒子のサイズを制御することができる。高周波電力は10〜500W、ガス圧は1.33×10−2〜1.33×10Paの範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明においては、さらに基板上に形成されたGeO膜を加熱処理してSi粒子を形成させる。
【0024】
加熱処理の温度としては、700℃以上1200℃であることが好ましく、特に700℃以上1000℃以下であることが好ましい。また加熱処理の時間としては、15以上120分以下が好ましく、特に30〜120分が好ましい。
【0025】
本発明のSi粒子は、GeO膜をpH8.0以上のアルカリ溶液によりGeO膜を溶解することで、単離し、Si粒子の集合体であるSi粒子蛍光体とすることができる。
【0026】
pH8.0以上のアルカリ溶液としては、アルカリ金属の水酸化物の水溶液などを用いることができ特に水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0027】
本発明の上記方法によりSiのナノ粒子(粒径が100nm以下の粒子)が得られるが、本発明においては、平均粒径が3.5nmから10.0nmであるSi粒子蛍光体が好ましい。これらの粒子蛍光体は、波長750nmの励起光による発光波長が、700nm〜1100nmであり生体標識物質に用いられる蛍光体として適している。
【0028】
平均粒径は、TEMを用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めて、その算術平均を平均粒径とする。TEMで撮影する粒子数は、本願においては、100個の粒子の算術平均を平均粒径とする。
【0029】
本発明のSi粒子蛍光体は、上述のように生体物質蛍光標識剤に適用することができる。生体物質蛍光標識剤は、標的(追跡)物質を有する生細胞もしくは生体に生体物質蛍光標識剤を添加することで、標的物質に結合もしくは吸着する。生体物質蛍光標識剤が結合もしくは吸着して生じた、結合体もしくは吸着体に所定の波長の励起光を照射し、当該励起光に応じてSi粒子から発生する所定の波長の蛍光を検出することにより、上記標的(追跡)物質の蛍光動態イメージングを行うことができる。
【0030】
即ち、本発明に係る生体物質標識剤は、バイオイメージング法(生体物質を構成する生体分子やその動的現象を可視化する技術手段)に利用することができる。
【0031】
上述したSi粒子の表面は一般的には疎水性であるため、例えば、生体物質標識剤として使用する場合は、水分散性、粒子の凝集の面から、Si粒子の表面を親水化処理することが好ましい。
【0032】
親水化処理の方法としては、例えば、表面の親油性基をピリジン等で除去した後に粒子表面に、表面修飾剤を化学的および/または物理的に結合させる方法がある。表面修飾剤としては、親水基としてカルボキシル基、アミノ基を持つものが好ましく用いられ、具体的にはメルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、アミノプロパンチオールなどが挙げられる。
【0033】
本発明に係る生体物質蛍光標識剤は、上述した親水化処理されたSi粒子蛍光体と分子標識物質とを有機分子を介して結合させて得られる。
【0034】
本発明に係る生体物質蛍光標識剤は、分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合および/または反応することにより、生体物質の標識が可能となる。
【0035】
該分子標識物質としては、例えば、ヌクレオチド、抗体、抗原およびシクロデキストリン等が挙げられる。
【0036】
当該有機分子としてはSi粒子と分子標識物質とを結合できる有機分子であれば特に制限はない。例えば、有機分子としてアルブミン、ミオグロビン、カゼイン、アビジンおよびビオチン等のタンパク質が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。特にアビジンとビオチンとを併用して用いる態様が好ましい態様である。
【0037】
上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着および化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0038】
生体物質蛍光標識剤としては、例えば、Si粒子蛍光体をメルカプトウンデカン酸で親水化処理し、有機分子としてアビジンおよびビオチンを用いたものが挙げられる。
【0039】
この場合親水化処理されたSi粒子のカルボキシル基はアビジンと好適に共有結合し、アビジンが更にビオチンと選択的に結合し、ビオチンがさら分子標識物質と結合することにより生体物質蛍光標識剤となる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
実施例1
図1に示すスパッタリング装置を用いてSi粒子を作製した。
【0042】
真空チャンバー16内にアルゴンガスを導入し、高周波コントローラ23によりイオン化されたアルゴンイオンをGe薄片24bにシリコンチップ24aを貼り付けたターゲット材料24に衝突させ、これから放出された原子および分子を基板11(半導体)上に堆積し、アモルファス(Ge)Ox膜を形成する。アルゴンイオンが衝突するシリコンチップの面積/Ge薄片の面積を、表1のように変化させた。
【0043】
(加熱処理(アニール処理))
得られたアモルファス(Ge,Si)Ox膜を、アルゴン雰囲気中において、表−1に示す温度まで急速に昇温し熱処理を行い、膜中のSi原子をナノサイズまで凝集させた。熱処理時間を表1に示す。
【0044】
(溶解処理)
得られたSi粒子含有GeO膜を水酸化ナトリウム水溶液(6モル(NaOH)/L)に浸漬し、Si粒子を含有する溶解処理溶液を得た。
【0045】
〔分離処理〕
サイズ排除クロマトグラフィにより、溶解処理溶液中からSi粒子を分離し、水溶液中に回収した。
【0046】
以上の方法によりSi粒子蛍光体1〜7を含有するSi粒子蛍光体分散液1〜7を作製した。このSi粒子蛍光体分散液を、堀場社製蛍光光度計SPEX Fluorolog−3を用いて発光スペクトルの測定を行った。励起光波長は750nmとした。粒径測定は、高分解能TEMを用いて行った。100個の粒子の粒径を測定しその平均値を平均粒径とした。
【0047】
結果を表1に示す。
【0048】
(比較例)
実施例1において、Ge薄片に換えてSi薄片を用い、アモルファス(Ge)Ox膜に換えてアモルファス(Si)Ox膜を形成し、形成されたアモルファス(Si)Ox膜の溶解に、水酸化ナトリウム溶液に換えてHF溶液(48%)を用い、表1に記載の条件にした他は、実施例1と同様にしてSi粒子8を作製し、Si粒子蛍光体分散液8を得、上記と同様にして発光スペクトル、粒径の測定を行った。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から、本発明のSi粒子の形成方法により、励起波長、発光波長共に赤外線領域にあるSi粒子が得られることが分かる。
【0051】
(生体物質蛍光標識剤の作製)
上記Si粒子蛍光体分散液4(1.0×10−5mol/L)にアビジン25mgを添加し40℃で10分間攪拌を行い、アビジンコンジュゲートナノ粒子溶液を作製した。
【0052】
得られたアビジンコンジュゲートナノ粒子溶液に、ビオチン化された塩基配列が既知であるオリゴヌクレオチドを混合攪拌し、ナノ粒子でラベリングされたオリゴヌクレオチドを作製した。
【0053】
さまざまな塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを固定化したDNAチップ上に上記のラベリングしたオリゴヌクレオチドを滴下・洗浄したところ、ラベリングされたオリゴヌクレオチドと相補的な塩基配列をもつオリゴヌクレオチドのスポットのみが赤外線照射(波長750nmの赤外光)により赤外発光(極大発光波長851nm)した。
【0054】
このことより、本発明のSi粒子でのオリゴヌクレオチドのラベリングを確認することができ、本発明のSi粒子を用いた生体物質蛍光標識剤は、フッ化水素を用いることなく得られたSi粒子を含有し生体適合性に優れ、赤外線照射、赤外発光を有し検出性に優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のSi粒子を作製するために用いられる高周波スパッタリング装置の一態様を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 GeO
11 基板
14 アルゴンガス導入口
15 排気口
16 真空チャンバー
17 絶縁材料
18 冷却管
19 冷却水
20 基板ホルダー
21 陰極シールド
22 高周波電極
23 高周波コントローラ
24 ターゲット材料
24a シリコンチップ
24b Ge薄片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、スパッタリングによりSi(シリコン)を含有するGeO膜を形成し、該GeO膜を加熱処理してSi粒子を形成することを特徴とするSi粒子の形成方法。
【請求項2】
前記加熱処理の後に、pH8.0以上のアルカリ溶液により前記GeO膜を溶解することを特徴とする請求項1に記載のSi粒子の形成方法。
【請求項3】
前記加熱処理の温度が、700℃以上1000℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のSi粒子の形成方法。
【請求項4】
前記加熱処理の時間が、30分以上120分以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のSi粒子の形成方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載のSi粒子の形成方法により形成されたことを特徴とするSi粒子蛍光体。
【請求項6】
前記Si粒子の、平均粒径が、3.5nm以上10.0nm以下であることを特徴とする請求項5に記載のSi粒子蛍光体。
【請求項7】
前記Si粒子の、波長750nmの励起光による発光波長が、700nm〜1100nmであることを特徴とする請求項5または6に記載のSi粒子蛍光体。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載のSi粒子蛍光体に分子標識物質が有機分子を介して結合していることを特徴とする生体物質蛍光標識剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−6895(P2010−6895A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165834(P2008−165834)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】