説明

T細胞活性化剤

【課題】病原体感染細胞又は癌細胞を殺傷するための細胞毒性Tリンパ細胞を効率よく特異的に増強することができ、感染症や癌の予防・治療に有用なT細胞活性化剤を提供すること。
【解決手段】抗原結合リン脂質膜を含むT細胞活性化剤であって、該リン脂質膜が不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリン脂質膜の安定化剤を含有し、該リン脂質膜の表面に該抗原が結合している、T細胞活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原体感染細胞又は癌細胞を殺傷するための細胞毒性Tリンパ細胞(CD8+T細胞、サイトトキシックリンホサイト:CTL)を効率よく特異的に増強することができ、感染症や癌の予防・治療に有用なT細胞活性化剤に関する。
より詳細には、本発明は、抗原結合リン脂質膜を含むT細胞活性化剤であって、該リン脂質膜が不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリン脂質膜の安定化剤を含有し、該リン脂質膜の表面に該抗原が結合している、T細胞活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト、家畜及びペットなどの動物、更には魚類に関して、ウイルスなどの病原体が細胞に感染することによる様々な疾病が知られており、このような感染症の予防のためワクチンが広く利用されている。
細胞に感染する病原体に由来する、たとえば、HIV、マイコプラズマ、ツベルクリン、クラミジア、マラリアなどの疾病を改善治療するためには、その病原体感染細胞を効果的に殺傷することが必要である。
この病原体感染細胞の殺傷は、CD8+T細胞を主体とする細胞毒性Tリンパ細胞(以後、CTL)の働きによって可能であり、このCTLの効果的な増強方法について、様々な検討がなされている。
生ウイルスあるいは弱毒ウイルスを投与することにより、効果的なCTL増強を達成することができるが、病原体自身を投与するために、被検者がその疾病に感染する危険性があること、また、この方法が適用できる病原体の種類が限定されることなどの理由から、この方法は広く実用化し医療界で十分な効果をもたらす治療方法になりえない。
この被検者への感染の危険性をなくす手段として、病原体の一部分、たとえば、CTLが特異的細胞殺傷のための攻撃反応を起こすための抗原基を含む蛋白質あるいはペプチドを明らかとし、この抗原性物質単独あるいは抗原性物質とアジュバントとを合わせた製剤を調製し、これらを目的とする病原体感染細胞の殺傷のためのワクチンとして実用化するための検討も多くされている。しかしながら、このような病原体の一部をワクチンの主体とする技術は、十分なCTL増強効果がなく、有効な実用化手段は得られていない。
前記の検討に係り、アジュバントを改良して目的の効果を達成するための検討もみられる。現在実用化あるいは検討されているものとしては、水酸化アルミゲル、あるいはオイル系アジュバントなどがあげられるが、いずれも十分なCTL増強効果は得られていない。また、これらのアジュバントを併用する場合は、アジュバントに関わる摂取時の炎症、アレルギー症などの副作用を伴う場合が見られ、本質的なCTL増強という課題のほかに、副作用を起こしにくいアジュバントの検討も必要とされる。この点は、さらに実用化を困難にしている。
前記した病原体感染による疾病のほか、癌の克服が現代医療界の大きな課題である。癌化した細胞の殺傷による癌の改善あるいは治療は、前記の感染症の改善・治療と同様に、腫瘍特異的な抗原(腫瘍抗原)を発現する細胞(癌化した細胞)に対するCTL活性を増強し、癌細胞を殺傷することにより達成することができる。
癌の改善・治療のための手段としては、腫瘍抗原である蛋白質あるいはペプチドなどを、水酸化アルミゲルあるいはオイル系アジュバントと合わせて製剤化し、これを癌ワクチンとして被検者に投与することにより、癌を改善・治療することが試みられている。しかしながら、様々な癌疾病を克服する、応用性の高い、効果の十分な技術は確立されていない。
また、同様に、癌の改善・治療を目的とするが、癌ワクチンではない方法が試みられている。そのひとつの方法は、患者からリンパ球を採取し、そのリンパ球を in vitroで活性化し、あるいは癌細胞に対する殺傷能力を増強した後、患者の体内に戻して、癌の改善・治療を行う方法である。この方法も、十分な応用性と効果を持つものではない。また、患者のリンパ球を体外へ取り出し、処置し、再度体内に戻すという複雑な手順をへるため、この方法はその複雑な手順による副作用の危険性を伴う。
【0003】
以上のように、病原体に感染した細胞や癌化した細胞など、病原性を有するようになった自己由来の細胞を、体内で、効率的に排除する手段が求められているが、臨床において用いる医薬品として、十分効率的で実用に値する技術は見出されていない。
【0004】
一方、リポソーム製剤を用いて、生体の免疫応答を調節するための様々な先行技術が知られている。
【0005】
特許文献1〜3には、リン脂質膜に抗原が結合したリポソームが開示されている。これらの文献には、該リポソームの液性免疫に対する効果(IgE抗体の産生を抑制して、IgG抗体の産生を増大させる効果)が記載されているが、細胞性免疫に対する作用(例えばCTL活性化作用)については記載されていない。
【0006】
特許文献4には、ウイルス感染細胞を殺傷し得るリポソームが開示されている。しかし、このリポソームは細胞殺傷性の発現のために、リポソーム中に抗原を必要としない。また、該リポソームのCTL活性化作用については記載されていない。
【0007】
特許文献5及び6には、T細胞を活性化し得る抗原含有リポソームが開示されている。しかし、これらのリポソームにおいては、抗原がリポソーム内に内包されており、リポソーム上には結合していない。
【0008】
特許文献7には、免疫原性リポソーム組成物であって、小胞形成脂質と、1つ以上の抗原決定基及び疎水性ドメインを含む抗原構成物とを含み、疎水性ドメインが前記リポソーム組成物の膜に結合していることを特徴とする免疫原性リポソーム組成物が開示されている。実施例において、特に好ましいリポソームを構成するリン脂質として、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルグリセロール等が用いられている。
【0009】
特許文献8には、ウイルスに対して保護的な免疫原性T細胞反応を産生するためのワクチンであって、1)ペプチド−脂肪酸コンジュゲート、2)ホスファチジルコリン、コレステロール及びリゾホスファチジルコリンの混合物を含むリポソーム組成物、及び3)アジュバントを含むワクチンが開示されている。実施例において、リポソームを作成するために用いられたリン脂質(ホスファチジルコリン)の種類(炭素数)は明らかにされていない。
【0010】
病原性を有する細胞を排除する方法としては、生体が本来有する細胞性免疫能(CTL、CD8+T細胞)を増強することが望ましいが、細胞性免疫能を十分に満足のいくレベルにまで増強することが可能なリポソーム製剤は知られていない。
【特許文献1】特開2005−145959号公報
【特許文献2】特開平9−12480号公報
【特許文献3】特開平9−202735号公報
【特許文献4】特開平3−236325号公報
【特許文献5】特表2003−511421号公報
【特許文献6】特表2001−525668号公報
【特許文献7】特表2002−526436号公報
【特許文献8】欧州特許公開第0203676号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、病原体感染細胞又は癌細胞を殺傷するための細胞毒性Tリンパ細胞(CD8+T細胞、サイトトキシックリンホサイト:CTL)を効率よく特異的に増強することができ、感染症や癌の予防・治療に有用なT細胞活性化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリン脂質膜の安定化剤を含有し、表面に抗原を結合したリン脂質膜を用いれば、細胞毒性Tリンパ細胞を効率よく特異的に増強することができることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下に示すものである。
【0013】
[1]抗原結合リン脂質膜を含むT細胞活性化剤であって、該リン脂質膜が不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリン脂質膜の安定化剤を含有し、該リン脂質膜の表面に該抗原が結合している、T細胞活性化剤。
[2]リン脂質が、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するリン脂質である、上記[1]記載のT細胞活性化剤。
[3]アシル基がオレオイル基である、上記[2]記載のT細胞活性化剤。
[4]リン脂質が、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジン酸、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、サクシンイミジル−ジアシルホスファチジルエタノールアミン、及びマレイミド−ジアシルホスファチジルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1つである、上記[2]記載のT細胞活性化剤。
[5]リン脂質膜の安定化剤がコレステロールである、上記[1]記載のT細胞活性化剤。
[6]抗原が、リン脂質膜に含まれる不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質に結合している、上記[1]記載のT細胞活性化剤。
[7]抗原が、細胞内感染性の病原体由来の抗原又は腫瘍抗原である、上記[1]記載のT細胞活性化剤。
[8]リン脂質膜がリポソームである、上記[1]記載のT細胞活性化剤。
[9]T細胞がCD8+T細胞である、上記[1]記載のT細胞活性化剤。
[10]T細胞がCTLである、上記[1]記載のT細胞活性化剤。
[11]リン脂質膜が以下の組成を有する、上記[1]記載のT細胞活性化剤:
(A)不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質 1〜99.8モル%;
(B)リン脂質膜の安定化剤 0.2〜75モル%。
[12]以下の組成を有する抗原結合リン脂質膜を含む、T細胞活性化剤:
(I) 不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する酸性リン脂質 1〜85モル%;
(II) 不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する中性リン脂質 0.01〜80モル%;
(III) 抗原が結合した、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質 0.2〜80モル%;
(IV) リン脂質膜の安定化剤 0.2〜75モル%。
[13]不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリン脂質膜の安定化剤を含有し、膜の表面に抗原が結合した、T細胞活性化剤として使用するためのリン脂質膜。
【発明の効果】
【0014】
本発明のT細胞活性化剤を用いれば、病原体感染細胞又は癌細胞を殺傷するための細胞毒性Tリンパ細胞(CD8+T細胞、CTL)を効率よく特異的に増強することができ、感染症や癌を予防・治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、抗原結合リン脂質膜を含むT細胞活性化剤であって、該リン脂質膜が、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリン脂質膜の安定化剤を含有し、該リン脂質膜の表面に該抗原が結合している、T細胞活性化剤を提供するものである。
【0016】
本発明のT細胞活性化剤に用いられるリン脂質膜は、両親媒性界面活性剤であるリン脂質が、極性基を水相側に向けて界面を形成し、疎水基が界面の反対側に向く構造を有する。リン脂質膜の構造を有する例としては、リポソーム、リン脂質二重膜、リン脂質ミセル、リン脂質エマルジョンなどが挙げられる。ここで、リポソームとは閉鎖空間を有するリン脂質二重膜のことを指す。リン脂質ミセル及びリン脂質エマルジョンは、リン脂質一重膜構造を有する。
実用性、製剤設計の容易性、製造及び品質管理の簡便性などの点から、リン脂質膜は好ましくはリポソーム又はリン脂質ミセルであり、最も好ましくはリポソームである。
【0017】
本発明のT細胞活性化剤に用いられる抗原としては、T細胞(例えば細胞毒性Tリンパ球)が抗原として認識し得る限り特に限定されるものではなく、ヒト;犬、猫、小鳥などのペット;鶏、アヒル、豚、牛、羊などの家畜を対象として、抗原となるあらゆる物質を用いることができる。該抗原としては、具体的には、例えば、細胞内感染性の病原体由来の抗原や、癌化した細胞に関連した抗原(腫瘍抗原)等を用いることができる。これらの抗原は細胞毒性Tリンパ球により認識されることが知られている。
【0018】
細胞内感染性の病原体由来の抗原としては、病原体そのもの又はその一部、あるいは不活化又は弱毒化した病原体そのもの又はその一部等が挙げられる。これらの抗原としては、例えば、破傷風、ジフテリア等の各種トキソイド;インフルエンザ、ポリオ、日本脳炎、麻疹、おたふくかぜ、風疹、狂犬病、黄熱、水痘、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、腎症候性出血熱、テング出血熱、ロタウイルス感染症、パルボウイルス、コロナウイルス、ジステンバーウイルス、レプトスピラー、感染性気管支炎ウイルス、伝染性白血病ウイルス、エイズなどのウイルス由来の抗原;マイコプラズマ等のバクテリア由来の抗原;マラリア原虫、住血吸虫等の細胞内寄生性の原虫由来の抗原等が挙げられる。上記抗原は、1種又は2種以上を組合せて使用することもできる。
【0019】
癌化した細胞に関連した抗原としては、癌化した細胞において特異的に発現する蛋白質、糖鎖、ペプチドなどであれば特に限定されるものではなく、例えば、乳癌、胃癌、肝臓癌、肺癌等に特異的な組織適合抗原や、腫瘍特異移植抗原(TSTA)、腫瘍関連抗原(Tumor Associated Antigen: TAA)等が挙げられる。具体的には、癌化した細胞に関連した抗原としては、a−フェトプロテイン(a−FP)、PIVKA−2、CEA、CA19−9、CA125、CA15−3、シフラ、神経特異エノラーゼ(NSE)、前立腺特異抗原(PSA)、a−フェトプロテインL3分画(AFP−L3)、トータルa−フェトプロテイン(Total−AFP)、NCC−ST439、乳頭分泌液中CEA(ラナマンモCEA)、SCC等を挙げることが出来る。上記抗原は、1種又は2種以上を組合せて使用することもできる。
【0020】
抗原は、蛋白質、ペプチド又は糖類等であり、それらが有する官能基を介してリン脂質膜の表面に結合することができる。リン脂質膜表面への結合に用いられる抗原中の官能基としては、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、水酸基、ジスルフィド基又はメチレン鎖を有する炭化水素基からなる疎水基等が挙げられる。これらの内、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、水酸基及びジスルフィド基は共有結合より、アミノ基及びカルボキシル基はイオン結合により、疎水基は疎水基同士で疎水結合により、抗原をリン脂質膜の表面に結合することができる。抗原は、蛋白質又はペプチドである場合が多いので、官能基の含有割合が高く実用化が簡便である。かかる観点から、抗原は、好ましくはアミノ基、カルボキシル基又はチオール基を介してリン脂質膜の表面に結合する。抗原が糖類である場合には、同様の観点から、抗原は水酸基を介してリン脂質膜の表面に結合する。
【0021】
抗原が有する官能基を介して、抗原が安定にリン脂質膜に結合するため、リン脂質膜は、アミノ基、サクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、カルボキシル基、水酸基、ジスルフィド基、メチレン鎖を有する炭化水素基からなる疎水基等の官能基を有することが望ましい。抗原が蛋白質又はペプチドである場合には、それに対応するリン脂質膜が有する官能基は、好ましくは、アミノ基、サクシンイミド基又はマレイミド基である。抗原のリン脂質膜への結合に関与する、抗原の有する官能基とリン脂質膜が有する官能基の組み合わせは、本発明の効果に影響しない範囲において自由に選択することができるが、好ましい組み合わせとしては、それぞれ、アミノ基とアルデヒド基、アミノ基とアミノ基、アミノ基とサクシンイミド基、チオール基とマレイミド基等が挙げられる。イオン結合及び疎水結合は、リン脂質膜への抗原の結合手順が簡便であり、T細胞活性化剤の調製容易性の点から好ましく、また、共有結合は、リン脂質膜表面の抗原の結合安定性の点又はT細胞活性化剤を実用する際の保存安定性の点から好ましい。本発明のT細胞活性化剤は、その構成成分であるリン脂質膜の表面に抗原が結合していることを1つの特徴としており、これにより優れたT細胞(細胞毒性Tリンパ球)活性化効果を達成している。従って、実用段階で、例えば注射行為によって生体内に投与された後にも、抗原がリン脂質膜の表面に安定に結合していることが、本発明の効果をより高める点で好ましい。このような観点から、抗原とリン脂質膜との結合としては、共有結合が好ましい。
【0022】
本発明のT細胞活性化剤に用いられる抗原結合リン脂質膜は、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリン脂質膜の安定化剤を含有してなる。
【0023】
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するリン脂質における、該アシル基の炭素数は、好ましくは16〜22であり、更に好ましくは18〜22であり、最も好ましくは18である。該アシル基としては、具体的には、パルミトオレオイル基、オレオイル基、エルコイル基等が挙げられ、最も好ましくはオレオイル基である。
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質における、該炭化水素基の炭素数は、好ましくは16〜22であリ、更に好ましくは18〜22であり、最も好ましくは18である。該炭化水素基としては、具体的には、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、C20モノエン基、C22モノエン基、C24モノエン基等が挙げられる。
リン脂質が有するグリセリン残基の1−位、及び2−位に結合する不飽和のアシル基又は不飽和炭化水素基は、同一でも異なっていてもよい。工業的な生産性の観点から、1−位及び2−位の基が同一であることが好ましい。
リン脂質としては、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するリン脂質が好ましく用いられる。
【0024】
本発明の課題は、病原体感染細胞や癌細胞を殺傷するための細胞毒性Tリンパ細胞(CD8+T細胞、CTL)を効率よく特異的に増強することである。実用上十分なレベルにCTL活性を増強させる点から、リン脂質は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有することが好ましい。アシル基の炭素数が13未満であると、リポソームの安定性が悪くなったり、またCTL活性増強効果が不十分になる場合がある。また、アシル基の炭素数が24を超えると、リポソームの安定性が悪くなる場合がある。
【0025】
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質としては、酸性リン脂質、中性リン脂質、抗原を結合することのできる官能基を有する反応性リン脂質などの種類が挙げられる。これらは、種々の要求に応じて、その種類、割合を適宜選択することができる。
【0026】
酸性リン脂質としては、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール等を用いることができる。CTL活性を実用上十分なレベルに増強する点、及び工業的な供給性、医薬品として用いるための品質などの点から、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジン酸、及びジアシルホスファチジルイノシトールが好ましく用いられる。酸性リン脂質は、リン脂質膜の表面にアニオン性電離基を与えるので、リン脂質膜表面にマイナスのゼータ電位を付与する。このためリン脂質膜は、電荷的な反発力を得、水性溶媒中で安定な製剤として存在できる。このように、酸性リン脂質は、T細胞活性化剤が水性溶媒中にある際のリン脂質膜の安定性を確保する点で重要である。
【0027】
中性リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン等を用いることができる。本発明で用いることができる中性リン脂質は、本発明が課題として取り組むCTL活性増強を達成する範囲において、その種類・量を適宜選択して用いることができる。中性リン脂質は、酸性リン脂質及び抗原を結合したリン脂質に比べ、リン脂質膜を安定化する機能が高く、膜の安定性を向上させ得る。かかる観点から、本発明のT細胞活性化剤中に含まれるリン脂質膜は、中性リン脂質を含有することが好ましい。CTL活性増強効果を達成するために用いる酸性リン脂質、抗原結合のための反応性リン脂質及びリン脂質膜の安定化剤の含有量を確保した上で、中性リン脂質の使用量を決定できる。
【0028】
本発明のT細胞活性化剤においては、抗原がリン脂質膜に含まれる不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質に結合することにより、リン脂質膜の表面に結合する。
この抗原結合のためのリン脂質として、抗体が結合することのできる官能基を有する反応性リン脂質が用いられる。不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する反応性リン脂質は、種々の要求に応じて、その種類、割合が適宜選択される。前記リン脂質と同様に、反応性リン脂質においても、リン脂質に含まれる不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基の炭素数が24を越えるか、14未満である場合は好ましくない。
【0029】
反応性リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン又はその末端変性体が挙げられる。また、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール及びこれらの末端変性体も反応性リン脂質として用いることができる。工業的な入手性、抗原との結合工程の簡便性、収率などの点から、ホスファチジルエタノールアミン又はその末端変性体が好ましく用いられる。ホスファチジルエタノールアミンはその末端に抗体を結合することの出来るアミノ基を有する。更に、CTL活性を実用上十分なレベルに増強する点、リン脂質膜中での安定性、及び工業的な供給性、医薬品として用いるための品質などの点から、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するジアシルホスファチジルエタノールアミン又はその末端変性体が最も好ましく用いられる。
【0030】
ジアシルホスファチジルエタノールアミンは、例えば、ジアシルホスファチジルコリンを原料に、ホスホリパーゼDを用いてコリンとエタノールアミンを塩基交換反応させることで得ることができる。具体的には、ジアシルホスファチジルコリンを溶解したクロロホルム溶液と、ホスホリパーゼD及びエタノールアミンを溶解した水を適宜比率において混合し粗反応物を得ることができる。粗反応物を、クロロホルム/メタノール/水系溶媒を用いてシリカゲルカラムで精製し目的のジアシルホスファチジルエタノールアミンを得ることができる。当業者であれば、溶媒組成比などのカラム精製条件を適宜選択して実施することが可能である。
【0031】
末端変性体としては、ジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に2価反応性化合物の一方の末端を結合させたジアシルホスファチジルエタノールアミン末端変性体が挙げられる。2価反応性化合物としては、ジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基と反応することができるアルデヒド基又はコハク酸イミド基を少なくとも片方の末端に有する化合物が利用できる。アルデヒド基を有する2価反応性化合物として、グリオキサール、グルタルアルデヒド、サクシンジアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが挙げられる。好ましくは、グルタルアルデヒドが挙げられる。コハク酸イミド基を有する2価反応性化合物として、ジチオビス(サクシンイミジルプロピオネート)、エチレングリコール−ビス(サクシンイミジルサクシネート)、ジサクシンイミジルサクシネート、ジサクシンイミジルスベレート、又はジサクシンイミジルグルタレートがなど挙げられる。
【0032】
また、一方の末端にサクシンイミド基、他方の片末端にマレイミド基を有する2価反応性化合物として、N−サクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート、スルホサクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート、N−サクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)アセテート、N−サクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)プロピオネート、サクシンイミジル−4−(N−マレイミドエチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシレート、スルホサクシンイミジル−4−(N−マレイミドエチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシレート、N−(γ−マレイミドブチリルオキシ)サクシンイミド、N−(ε−マレイミドカプロイルオキシ)サクシンイミド等が挙げられる。このような2価反応性化合物を用いると、官能基としてマレイミド基を有するジアシルホスファチジルエタノールアミン末端変性体が得られる。以上のような2価反応性化合物の一方の末端の官能基をジアシルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に結合し、ジアシルホスファチジルエタノールアミン末端変性体を得ることができる。
【0033】
リン脂質膜の表面に抗原を結合する方法としては、例えば、上記の反応性リン脂質を含有するリン脂質膜を調製し、次に抗原を加えてリン脂質膜中の反応性リン脂質に抗原を結合する方法を挙げることができる。また、予め抗原を反応性リン脂質に結合しておき、次に、得られた抗原結合反応性リン脂質を、反応性リン脂質以外のリン脂質及びリン脂質膜の安定化剤と混合することによっても、抗原を表面に結合したリン脂質膜を得ることが出来る。反応性リン脂質への抗原の結合方法は、当該技術分野において周知である。
【0034】
本発明のT細胞活性化剤に含まれるリン脂質膜は、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質を少なくとも1種、例えば2種以上、好ましくは3種以上含有する。例えば、本発明のT細胞活性化剤に含まれるリン脂質膜は、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジン酸、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、サクシンイミジル−ジアシルホスファチジルエタノールアミン、及びマレイミド−ジアシルホスファチジルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種、例えば2種以上、好ましくは3種以上の、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質を含有する。
【0035】
また、本発明のT細胞活性化剤に含まれるリン脂質膜は、
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する酸性リン脂質、
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する中性リン脂質、及び
不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する反応性リン脂質
を、それぞれ、少なくとも1種含有することが好ましい。
【0036】
本発明において、リン脂質膜の安定化剤としては、ステロール類やトコフェロール類を用いることができる。前記のステロール類としては、一般にステロール類として知られるものであればよく、例えば、コレステロール、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロールなどが挙げられ、入手性などの点から、特に好ましくは、コレステロールが用いられる。前記のトコフェロール類としては、一般にトコフェロールとして知られるものであればよく、例えば、入手性などの点から、市販のα−トコフェロールが好ましく挙げられる。
【0037】
さらに、本発明の効果を損なわない限り、本発明のT細胞活性化剤に含まれる抗原結合リン脂質膜は、リン脂質膜を構成することのできる、公知のリン脂質膜構成成分を含んでいてもよい。
【0038】
本発明のT細胞活性化剤に含まれる抗原結合リン脂質膜の組成としては、例えば以下を挙げることができる:
(A)不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質 1〜99.8モル%;
(B)リン脂質膜の安定化剤 0.2〜75モル%。
【0039】
尚、各成分の含有量は、抗原結合リン脂質膜の全構成成分に対するモル%として表示する。
【0040】
上記成分(A)の含有量は、リン脂質膜の安定性の観点から、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは30〜80モル%、更に好ましくは50〜70モル%である。
【0041】
上記成分(B)の含有量は、リン脂質膜の安定性の観点から、好ましくは5〜70モル%、より好ましくは10〜60モル%、更に好ましくは20〜50モル%である。安定化剤の含有量が75モル%を越えるとリン脂質膜の安定性が損なわれ好ましくない。
【0042】
上記成分(A)には、以下が含まれる:
(a)抗原が結合していない、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及び
(b)抗原が結合した、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質。
【0043】
上記成分(a)の含有量は、通常0.01〜85モル%、好ましくは0.1〜80モル%、より好ましくは0.1〜60モル%、更に好ましくは0.1〜50モル%である。
【0044】
上記成分(b)の含有量は、通常0.2〜80モル%、好ましくは0.3〜60モル%、より好ましくは0.4〜50モル%、更に好ましくは0.5〜25モル%である。含有量が0.2モル%未満であると、抗原の量が低下するため、実用上十分なレベルに細胞毒性Tリンパ球を活性化することが困難となり、80モル%を超えると、リン脂質膜の安定性が低下する。
【0045】
上記成分(a)のリン脂質には、通常、上述の酸性リン脂質及び中性リン脂質が含まれる。また、上記成分(b)のリン脂質には、上述の反応性リン脂質が含まれる。
【0046】
酸性リン脂質の含有量は、通常1〜85モル%、好ましくは2〜80モル%、より好ましくは4〜60モル%、更に好ましくは5〜40モル%である。含有量が1モル%未満であると、ゼータ電位が小さくなりリン脂質膜の安定性が低くなり、また、実用上十分なレベルに細胞毒性Tリンパ球を活性化することが困難となる。一方、含有量が85モル%を超えると、結果として、リン脂質膜中の抗原結合リン脂質の含有量が低下し、実用上十分なレベルに細胞毒性Tリンパ球を活性化することが困難となる。
【0047】
中性リン脂質の含有量は、通常0.01〜80モル%、好ましくは0.1〜70モル%、より好ましくは0.1〜60モル%、更に好ましくは0.1〜50モル%である。含有量が80.0モル%を越えると、リン脂質膜中に含まれる酸性リン脂質、抗原結合リン脂質及びリン脂質膜の安定化剤の含有量が低下し、実用上十分なレベルに細胞毒性Tリンパ球を活性化することが困難となる。
【0048】
抗原が結合したリン脂質は、前記の反応性リン脂質に抗原が結合して得られるもので、反応性リン脂質が抗原と結合する割合は、本発明の効果を妨げない範囲において、結合に用いる官能基の種類、結合処理条件等を適宜実施して選択することができる。
例えば、ジアシルホスファチジルエタノールアミンの末端アミノ基に2価反応性化合物であるジサクシンイミジルサクシネートの片末端を結合して得たジアシルホスファチジルエタノールアミンの末端変性体を反応性リン脂質として用いる場合、結合処理諸条件の選択によって反応性リン脂質の10〜99%を抗原と結合することができる。この場合、抗原と結合していない反応性リン脂質は、酸性リン脂質となってリン脂質膜中に含有される。
【0049】
本発明のT細胞活性化剤に含まれる抗原結合リン脂質膜の好ましい態様としては、以下の組成を挙げることが出来る:
(I) 不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する酸性リン脂質 1〜85モル%;
(II) 不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する中性リン脂質 0.01〜80モル%;
(III) 抗原が結合した、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質 0.2〜80モル%;
(IV) リン脂質膜の安定化剤 0.2〜75モル%。
(合計 100モル%)
【0050】
本発明のT細胞活性化剤に含まれる抗原結合リン脂質膜のより好ましい態様としては、以下の組成を挙げることが出来る:
上記成分(I) 2〜80モル%
上記成分(II) 0.1〜70モル%
上記成分(III) 0.3〜60モル%
上記成分(IV) 10〜70モル%
(合計 100モル%)
【0051】
本発明のT細胞活性化剤に含まれる抗原結合リン脂質膜の更に好ましい態様としては、以下の組成を挙げることが出来る:
上記成分(I) 4〜60モル%
上記成分(II) 0.1〜60モル%
上記成分(III) 0.4〜50モル%
上記成分(IV) 20〜60モル%
(合計 100モル%)
【0052】
本発明のT細胞活性化剤に含まれる抗原結合リン脂質膜のとりわけ好ましい態様としては、以下の組成を挙げることが出来る:
上記成分(I) 5〜40モル%
上記成分(II) 0.1〜50モル%
上記成分(III) 0.5〜25モル%
上記成分(IV) 25〜55モル%
(合計 100モル%)
【0053】
本発明のT細胞活性化剤は、該剤に含まれるリン脂質膜中のリン脂質に含まれる不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基の炭素数が14〜24であることを特徴とするが、本発明の効果を妨げない範囲で、炭素数が14未満又は24を超える不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基を含むリン脂質を含んでいても差支えない。本発明のT細胞活性化剤に含まれるリン脂質膜中のリン脂質に含まれる全ての不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基の合計数に対して、炭素数が14〜24である不飽和アシル基又は不飽和炭化水素基の数の割合は、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは97%以上(例えば実質的に100%)である。
【0054】
本発明のT細胞活性化剤に含まれるリン脂質膜は、本発明の効果を妨げない限り、炭素数が14〜24の範囲のアシル基又は炭化水素基を有する、リン脂質以外の脂質を含んでもよい。該脂質の含有量は、通常は40モル%以下であり、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下(例えば実質的に0モル%)である。
【0055】
本発明に用いられるリン脂質膜は、構成成分であるリン脂質、反応性リン脂質、リン脂質膜の安定化剤、抗原等を用い、適宜配合や加工を行い、これを適当な溶媒に添加するなどの方法で得ることができる。
例えば、リン脂質膜がリポソームである場合、エクスツルージョン法、ボルテックスミキサー法、超音波法、界面活性剤除去法、逆相蒸発法、エタノール注入法、プレベシクル法、フレンチプレス法、W/O/Wエマルジョン法、アニーリング法、凍結融解法などの製造方法が挙げられる。リポソームの形態は、特に限定されず、前記のリポソーム製造方法を適宜選択することにより、多重層リポソーム、小さな一枚膜リポソーム、大きな一枚膜リポソームなど、種々の大きさや形態を有するリポソームを製造することができる。
【0056】
リポソームの粒径は特に限定されるものではないが、保存安定性などの点から、粒径は20〜600nmが挙げられ、好ましくは30〜500nm、次に好ましくは40〜400nmであり、更に好ましくは、50〜300nmであり、最も好ましくは70〜230nmである。
【0057】
リン脂質膜がリン脂質ミセルである場合も、前記同様の製造方法で得ることができる。
【0058】
なお、本発明においては、リポソームの物理化学的安定性を向上させるために、リポソーム調製過程又は調製後に、リポソームの内水相及び/又は外水相に、糖類又は多価アルコール類を添加しても良い。特に、長期保存あるいは製剤化途上での保管が必要な場合には、リポソームの保護剤として、糖あるいは多価アルコールを添加・溶解し、凍結乾燥により水分を除いてリン脂質組成物の凍結乾燥物とすることが好ましい。
【0059】
糖類としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース等の単糖類;サッカロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース等の三糖類;シクロデキストリン等のオリゴ糖;デキストリン等の多糖類;キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコールなどが挙げられる。これらの糖類の中では単糖類又は二糖類が好ましく、中でもグルコース又はサッカロースが入手性などの点からより好ましく挙げられる。
【0060】
前記多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ポリグリセリンなどのグリセリン系化合物;ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール系化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ノナエチレングリコールなどが挙げられる。このうち、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、マンニトール、分子量400〜10,000のポリエチレングリコールが入手性の点から好ましく挙げられる。
リポソームの内水相及び/又は外水相に含ませる、糖類あるいは多価アルコール類の濃度は、リポソーム液に対する重量濃度で、例えば1〜20重量%が挙げられ、好ましくは2〜10重量%が挙げられる。
【0061】
本発明のT細胞活性化剤を製造する場合、抗原を結合させる前のリン脂質膜を作製した後、抗原を結合させることにより簡便にT細胞活性化剤を得ることができる。
例えば、リン脂質、リン脂質膜の安定化剤及び膜表面に抗原を結合するための反応性リン脂質を含有したリン脂質膜、例えばリポソーム液を調製し、その外水相に前記の糖類の一つであるスクロースを2〜10重量%程度加えて溶解する。この糖添加製剤を10mlガラス製バイヤルに移して棚段式凍結乾燥機内に置き、−40℃等に冷却して試料を凍結した後、常法により凍結乾燥物を得る。
ここで得たリン脂質膜の凍結乾燥物は、水分が取り除かれているため長期の保存が可能であり、必要時に特定の抗原を加えて後の工程を実施することにより、本発明の最終的なT細胞活性化剤を簡便に迅速に得ることができる。抗原とリン脂質膜の相互作用が強く不安定性が強い場合などは、このようにリン脂質膜の凍結乾燥物の段階で保存し、必要な際に抗原を結合して用いると非常に簡便である。
【0062】
本発明のT細胞活性化剤に含まれるリン脂質膜は、抗原が結合したリン脂質を有し得る。抗原が結合したリン脂質を含有するリン脂質膜を得る方法としては、次の(A)及び(B)による方法が挙げられる。
(A)リン脂質、反応性脂質、リン脂質膜の安定化剤を含有するリン脂質膜を調製し、これに抗原及び2価反応性化合物を添加し、リン脂質膜中に含有される反応性リン脂質の官能基と、抗原の官能基とを、2価反応性化合物を介して連結する。ここで用いることができる2価反応性化合物は、反応性リン脂質の末端変性体調製において用いたものを同様に用いることができる。具体的には、アルデヒド基を有する2価反応性化合物として、グリオキサール、グルタルアルデヒド、サクシンジアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが挙げられる。好ましくは、グルタルアルデヒドが挙げられる。更に、コハク酸イミド基を有する2価反応性化合物として、ジチオビス(サクシンイミジルプロピオネート)、エチレングリコール−ビス(サクシンイミジルサクシネート)、ジサクシンイミジルサクシネート、ジサクシンイミジルスベレート、又はジサクシンイミジルグルタレートなどが挙げられる。また、片末端にサクシンイミド基、もう一方の片末端にマレイミド基を有する2価反応性化合物として、N−サクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート、スルホサクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート、N−サクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)アセテート、N−サクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)プロピオネート、サクシンイミジル−4−(N−マレイミドエチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシレート、スルホサクシンイミジル−4−(N−マレイミドエチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシレート、N−(γ−マレイミドブチリルオキシ)サクシンイミド、N−(ε−マレイミドカプロイルオキシ)サクシンイミド等を使用することが出来る。かかる2価反応性化合物を使用すると、官能基としてマレイミド基を有する反応性リン脂質(例えばホスファチジルエタノールアミン)の末端変性体が得られる。
(B)リン脂質、反応性リン脂質、リン脂質膜の安定化剤を含有するリン脂質膜を調製し、これに抗原を添加し、リン脂質膜に含まれる反応性リン脂質の官能基と、抗原の官能基を連結して結合させる方法。
【0063】
前記(A)及び(B)における結合の種類としては、例えば、イオン結合、疎水結合、共有結合等が挙げられるが、好ましくは共有結合である。更に共有結合の具体例としては、シッフ塩基結合、アミド結合、チオエーテル結合、エステル結合などが挙げられる。
以上の2つの方法いずれとも、リン脂質膜に含まれる反応性リン脂質に抗原を結合することができ、リン脂質膜中に抗原を結合したリン脂質が形成される。
【0064】
前記の(A)の方法において、原料となるリン脂質膜と抗原とを2価反応性化合物を介して結合させる方法の具体例としては、例えば、シッフ塩基結合を利用する方法が挙げられる。シッフ塩基結合を介してリン脂質膜と抗原とを結合する方法としては、アミノ基を表面に有するリン脂質膜を調製し、抗原をリン脂質膜の懸濁液に添加し、次に、2価反応性化合物としてジアルデヒドを加え、リン脂質膜表面のアミノ基と抗原中のアミノ基とをシッフ塩基を解して結合する方法を挙げることができる。
【0065】
この結合手順の具体例としては、例えば、次の方法が挙げられる。
(A−1)アミノ基を表面に有するリン脂質膜を得るために、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する反応性リン脂質(例 ホスファチジルエタノールアミン)をリン脂質膜原料脂質(リン脂質、リン脂質膜の安定化剤等)中に混合して、アミノ基がリン脂質膜表面に所定量存在するリン脂質膜を作成する。
(A−2)前記リン脂質膜懸濁液に、抗原を添加する。
(A−3)次に、2価反応性化合物としてグルタルアルデヒドを加えて、所定の時間反応させてリン脂質膜と抗原との間にシッフ塩基結合を形成する。
(A−4)その後、余剰のグルタルアルデヒドの反応性を失活させるため、アミノ基含有水溶性化合物としてグリシンをリン脂質膜懸濁液に加えて反応させる。
(A−5)ゲルろ過、透析、限外ろ過、遠心分離などの方法により、リン脂質膜に未結合の抗原、グルタルアルデヒドとグリシンとの反応産物、及び余剰のグリシンを除去して、抗原結合リン脂質膜懸濁液を得る。
【0066】
前記の(B)の方法の具体例としては、アミド結合、チオエーテル結合、シッフ塩基結合、エステル結合などを形成することのできる官能基を有する反応性リン脂質をリン脂質膜に導入する方法が挙げられる。このような官能基の具体例としては、サクシンイミド基、マレイミド基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、水酸基、チオール基などが挙げられる。
リン脂質膜に導入する反応性リン脂質の例としては、前記の不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する反応性リン脂質(例 ホスファチジルエタノールアミン)のアミノ基末端の末端変性物を用いることができる。
【0067】
この結合手順の具体例として、ジアシルホスファチジルエタノールアミンを用いた場合を例にとって、以下説明する。
(B−1)不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するジアシルホスファチジルエタノールアミンとジサクシンイミジルサクシネートを公知の方法で片末端のみ反応させて、官能基としてサクシンイミド基を末端に有するジサクシンイミジルサクシネート結合ジアシルホスファチジルエタノールアミンを得る。
(B−2)前記ジサクシンイミジルサクシネート結合ジアシルホスファチジルエタノールアミンと他のリン脂質膜構成成分(リン脂質、リン脂質膜の安定化剤等)とを公知の方法で混合し、表面に官能基としてサクシンイミド基を有するリン脂質膜組成物を作成する。
(B−3)前記リン脂質膜組成物懸濁液に、抗原を加え、抗原中のアミノ基と、リン脂質膜表面のサクシンイミド基とを反応させる。
(B−4)未反応の抗原、反応副生物等を、ゲルろ過、透析、限外ろ過、遠心分離などの方法により除去して、抗原結合リン脂質を含有するリン脂質膜懸濁液を得る。
【0068】
リン脂質膜と抗原とを結合する場合、抗原は主に蛋白質やペプチドであるため、官能基として含有されることが多いアミノ基又はチオール基を対象とすることが実用上好ましい。アミノ基を対象とする場合には、サクシンイミド基と反応させることによりシッフ塩基結合を形成させることが出来る。チオール基を対象とする場合には、マレイミド基と反応させることによりチオエーテル結合を形成させることが出来る。
【0069】
本発明のT細胞活性化剤を用いれば、強力に細胞毒性Tリンパ球(CTL)を活性化させることが可能となる。細胞毒性Tリンパ球は、細胞性免疫における主要なエフェクター細胞であり、抗原特異的に細胞内感染性の病原体(ウイルス、マラリア原虫等)により感染した細胞や腫瘍細胞を殺傷することにより、これらの細胞を除去することが知られている。細胞毒性Tリンパ球は、通常、CD8+の表現型を有するT細胞である。従って、本発明のT細胞活性化剤を、ポリオ、インフルエンザ、日本脳炎、麻疹、風疹、おたふくかぜ、狂犬病、黄熱病、水痘、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、腎症候性出血熱、テング出血熱、ロタウイルス感染症、パルボウイルス、コロナウイルス、ジステンバーウイルス、レプトスピラー、感染性気管支炎ウイルス、伝染性白血病ウイルス、エイズ、SARS、高病原性鳥インフルエンザウイルス、小児下痢病ウイルス等のウイルス感染症;結核、百日せき、ジフテリア、破傷風、コレラ等の細菌感染症;マイコプラズマ等の細胞内感染性バクテリアによる感染症;マラリア原虫、住血吸虫等の細胞内寄生性の原虫による感染症;癌(肺癌、乳癌、大腸癌、肝臓癌、膵・胆嚢癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、絨毛癌、前立腺癌、胃癌、等)等の患者に投与することにより、該患者中の細胞毒性Tリンパ球(CTL)を活性化させ、上記疾患を予防・治療することが出来る。即ち、本発明のT細胞活性化剤は、上記感染症、癌等の疾患の予防・治療剤として有用である。
【0070】
本発明のT細胞活性化剤を上記予防・治療剤等として使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。本発明のT細胞活性化剤は低毒性であり、そのまま液剤として、又は適当な剤型の医薬組成物として、ヒト、非ヒト哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)、鳥類(ニワトリ、ガチョウ、アヒル、ダチョウ、ウズラなど)、魚類(サケ、マス、ブリ、カンパチ、ハマチ、タイ、ヒラメ、コイなど)等に対して経口的又は非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。本発明のT細胞活性化剤は、通常、非経口的に投与される。
【0071】
本発明のT細胞活性化剤は、その有効成分である抗体結合リン脂質膜自体を投与しても良いし、又は適当な医薬組成物として投与しても良い。投与に用いられる医薬組成物としては、上記抗体結合リン脂質膜と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであっても良い。このような医薬組成物は、経口又は非経口投与に適する剤形として提供される。
【0072】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記抗体結合リン脂質膜を通常注射剤に用いられる無菌の水性溶媒に懸濁することによって調製できる。注射用の水性溶媒としては、例えば、蒸留水;生理的食塩水;リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液等の緩衝液などが使用できる。このような水系溶媒のpHは5〜10が挙げられ、好ましくは6〜8である。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。
【0073】
また、抗体結合リン脂質膜の懸濁液を、真空乾燥、凍結乾燥等の処理に付すことにより、抗体結合リン脂質膜の粉末製剤を調製することもできる。抗体結合リン脂質膜を粉末状態で保存し、使用時に該粉末を注射用の水系溶媒で分散することにより、使用に供することができる。
【0074】
以下において、実施例により本発明をより具体的にするが、この発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
本実施例において使用したリポソームの組成を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
参考例1(リポソームの調製1)
1)脂質混合粉末の調製
ジオレオイルホスファチジルコリン0.7560g(1.2157mmol)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン0.5287g(0.9118mmol)、コレステロール0.8225g(2.1274mmol)及びジオレオイルホスファチジルグリセロールNa塩0.3927g(0.6078mmol)をナス型フラスコに取り、クロロホルム/メタノール/水(65/25/4、容量比)混合溶剤50mlを入れ、40℃にて溶解した。次にロータリーエバポレーターを使用して減圧下で溶剤を留去し、脂質の薄膜を作った。更に注射用蒸留水を30ml添加し、攪拌して均一のスラリーを得た。このスラリーを液体窒素にて凍結させ、凍結乾燥機にて24時間乾燥させ脂質混合粉末を得た。
【0078】
2)リポソームの調製
次に、別途作製した緩衝液(0.12mM Na2HPO4、0.88mM KH2PO4、0.25Mサッカロース、pH6.5、以後緩衝液と略す)60mlを上記脂質混合粉末の入ったナス型フラスコ内に入れ、40℃にて攪拌しながら脂質を水和させ、リポソームを得た。次にエクストルーダーを用いてリポソームの粒径を調整した。まず8μmのポリカーボネートフィルターを通過させ、続いて5μm、3μm、1μm、0.65μm、0.4μm及び0.2μmの順にフィルターを通過させた。リポソーム粒子の平均粒径191nm(動的光散乱法による測定)が得られた。
【0079】
参考例2(リポソームの調製2)
1)末端変性ホスファチジルエタノールアミンからなる反応性リン脂質(サクシンイミジル基−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)の合成
ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン2g及びトリエチルアミン180μlをクロロホルム50mlに溶解及び添加し、300ml容の4つ口フラスコに入れた。このフラスコをマグネットスタラーで室温で攪拌しつつ、別に調製した2価反応性化合物であるジサクシンイミジルサクシネート3gをクロロホルム80mlに溶解した溶液を、常法に従って4時間に渡って滴下し、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基にジサクシンイミジルサクシネートの片末端を反応させた。この粗反応溶液をナスフラスコに移し、エバポレータによって溶媒を留去した。次に、このフラスコに粗反応物を溶解できるだけのクロロホルムを少量加えて高濃度粗反応物溶液を得、クロロホルム/メタノール/水(65/25/1、体積比)で平衡化したシリカゲルを用いて常法に従ってカラムクロマトを行い、目的のジオレオイルホスファチジルエタノールアミンのアミノ基にジサクシンイミジルサクシネートの片末端が結合した画分のみを回収し、溶媒を留去して目的の反応性リン脂質であるサクシンイミド基−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンを得た。
【0080】
2)脂質混合粉末の調製
ジオレオイルホスファチジルコリン0.0337g(0.0541mmol)、前項で調製したサクシンイミド基−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン0.2165g(0.2705mmol)、コレステロール0.5021g(1.2986mmol)及びジオレオイルホスファチジルグリセロールNa塩1.7477g(2.706mmol)をナス型フラスコに取り、クロロホルム/メタノール/水(65/25/4、容量比)混合溶剤50mlを入れ、40℃にて溶解した。次にロータリーエバポレーターを使用して減圧下で溶剤を留去し、脂質の薄膜を作った。更に注射用蒸留水を30ml添加し、攪拌して均一のスラリーを得た。このスラリーを液体窒素にて凍結させ、凍結乾燥機にて24時間乾燥させ脂質混合粉末を得た。
3)リポソームの調製
前記参考例1 2)リポソームの調製と同様にリポソームを調製した。リポソーム粒子の平均粒径224nm(動的光散乱法による測定)が得られた。
【0081】
参考例3(リポソームの調製3)
1)末端変性ホスファチジルエタノールアミンからなる反応性リン脂質(マレイミド基−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)の合成
前記参考例2 1)末端変性ホスファチジルエタノールアミンからなる反応性リン脂質の合成におけるジサクシンイミジルサクシネートに代えてN−サクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)プロピオネートを用い、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、トリエチルアミン及び2価反応性化合物の使用モル数及び以後の手順も同様に行って、目的の反応性リン脂質であるマレイミド基−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンを得た。
2)脂質混合粉末の調製
ジオレオイルファチジルコリン1.0425g(1.8428mmol)、前項で調製したマレイミド基−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン0.2375g(0.3071mmol)、コレステロール0.8313g(2.1499mmol)及びジオレオイルホスファチジルグリセロールNa塩0.3888g(0.6143mmol)をナス型フラスコに取り、クロロホルム/メタノール/水(65/25/4、容量比)混合溶剤50mlを入れ、40℃にて溶解した。次にロータリーエバポレーターを使用して減圧下で溶剤を留去し、脂質の薄膜を作った。更に注射用蒸留水を30ml添加し、攪拌して均一のスラリーを得た。このスラリーを液体窒素にて凍結させ、凍結乾燥機にて24時間乾燥させ脂質混合粉末を得た。
3)リポソームの調製
前記参考例1 2)リポソームの調製と同様にリポソームを調製した。リポソーム粒子の平均粒径186nm(動的光散乱法による測定)が得られた。
【0082】
実施例1:(OVA結合リポソームの懸濁液による投与免疫試験)
1)リポソーム製剤の調製;
参考例1のリポソーム2mlを試験管に採取し、0.5mlのオボアルブミン(シグマ社製、試薬、以下、OVAという場合がある)溶液(12mg/ml)を加えた。次に2.4%のグルタルアルデヒド溶液0.5mlを滴下したのち、37℃の温浴上で1時間緩やかに混合し、リポソームの外水相側にオボアルブミンを固定化した。次に2Mのグリシン−NaOH緩衝液(pH7.2)を0.5ml加え、溶液を4℃で一晩放置し、未反応のグルタルアルデヒドを失活させた。更にSepharose CL-4B(Pharmacia Biotech社、商標)を充填したカラムにこの溶液を通して、目的物を分画し、表面に抗原を結合したリポソーム懸濁液を得た。前記のリポソーム懸濁液中のリン濃度を測定し(リン脂質テストWako)、リン脂質由来のリン濃度を2mMになるように濃度を緩衝液で希釈調整しOVA結合リポソームの懸濁液を得た。
放射化ラベルしたOVAを用いて別途上記と同様の操作を行い、リポソームのリン脂質由来のリン濃度2mMの時のOVAの結合量を測定した結果、49μg/mlであった。
【0083】
2)CD4T細胞活性、CD8T細胞活性及びCTL活性の測定方法;
(マウス)
BALB/c マウス(8週齢、雌)はチャールズリバー(横浜、神奈川、日本)より購入した。C57BL/6マウス(6−8週齢、雌)はSLC(静岡、日本)より購入した。全てのマウスは特定病原体不在(SPF)条件下で維持された。
【0084】
(脾臓接着細胞(SAC)、CD4及びCD8T細胞の調製)
脾臓細胞懸濁液を10%FCSを含有するRPMI−1640を用いて調製した。5mlの10%FCSを含有する培地中の細胞(5×10個)を50mmプラスチック組織培養ディッシュ(No.#3002; Becton Dickinson Labware, Franklin Lakes, NJ)中に播種し、加湿5%CO雰囲気下、37℃にて2時間インキュベートした。培養後、非接着細胞を、暖かい培地中での穏やかな洗浄(washing)により除去し、次に接着細胞をセルスクレーパーにより回収した。OVA−アラムで免疫されたマウスの脾臓細胞(SC)からのCD4及びCD8T細胞精製は、磁気セルソーターシステムMACSにより、製造者のプロトコールに従って、抗CD4及び抗CD8抗体被覆マイクロビーズ(Miltenyi Biotec GmbH)を用いて行った。T細胞は、10%FCSを含むRPMI−1640中に、2×10mlの細胞密度で懸濁された。
【0085】
(CD4及びCD8T細胞によるIL−5産生の測定)
OVA−アラムで免疫されたBALB/cマウスの脾細胞から、上述の方法で脾臓接着細胞(SAC)、CD4及びCD8T細胞を調製した。OVA結合リポソームを、SACの培養物へ加え、2時間インキュベートした。マクロファージ培養物へ加えたOVA結合リポソームの最終濃度は、500μg 脂質/mlであり、24μg OVA/mlを含んでいた。対照として、OVAを24μg/mlの最終濃度で培養物中に加えた。SACを氷冷培地中で3回洗浄し、2×10個の細胞を5×10個のCD4又はCD8T細胞と共に、48穴プレートNo.#3047; Becton Dickinson Labware, Franklin Lakes, NJ)中で共培養した。CD4T細胞及びCD8T細胞の活性化の指標として、培養上清中のIL−5濃度を測定した。予備的な試験の結果、上記培養条件において、CD4及びCD8T細胞によるIL−5産生のための最適な培養期間は、5日であった。COインキュベーター中で5日間培養後、培養上清を回収し、IL−5についてアッセイした。培養上清中のIL−5をBiotrakTMマウスELISAシステム(Amersham International, Buckinghamshire, UK)を用いて測定した。全ての試験サンプルはデュプリケートでアッセイし、それぞれの試験における標準誤差は、常に、平均値の5%未満であった。
【0086】
(インビボ細胞障害性アッセイ(CTL活性の測定))
CTL活性の測定のためにC57BL/6マウスを用いた。C57BL/6マウスの脾細胞を0.5又は5 μM CFDA-SE(Sigma)により室温で15分間標識し、2回洗浄した。次に、CFSEが明るい(M2)細胞を、0.5 μg/ml OVA257-264により37℃で90分間パルスした。CFSEが暗い細胞(M1)を、対照として、無関係のNP366-374(ASNENMDAM)ペプチドにより、37℃で90分間パルスした。細胞を1:1の比で混合し、全部で5×10個の細胞を、1〜2週間前に100μgの抗IL−10モノクローナル抗体2A5、5μgのCpG及びそれぞれのOVA結合リポソームが注入されたマウスへ静注した。8時間後にそれぞれのマウスから回収された脾細胞をフローサイトメトリーにより解析した。OVA257-264でパルスされた画分の蛍光標識脾細胞の減少の程度をCTL活性の指標とした。OVA結合リポソームにより免疫されたマウスにCTLが誘導されていれば、OVA257-264でパルスされた画分の蛍光標識脾細胞のみが消滅することとなる。
【0087】
3)抗体産生(IgG及びIgE)の測定方法;
BALB/cマウス(メス、8週令、6匹/群)を使用し、腹腔内にOVA結合リポソーム懸濁液200μl/回を注射器で投与し、更に4週後に同様の方法により投与し2次免疫を行った。試験開始時から6週後まで、各週に血清を採取し、抗体価(IgG及びIgE)の推移をELISA法で測定した。表2には、試験開始6週後の血清中の各抗体価を示す。
【0088】
【表2】

【0089】
実施例2及び実施例3:(OVA結合リポソームの懸濁液による投与免疫試験)
1)表1に示した各リン脂質及びコレステロールの配合モル比に従い、前記参考例1と同様の方法で同様量のリポソームを調製した。次に前記実施例1と同様に、実施例2及び実施例3の各OVA結合リポソームの懸濁液を調製した。
実施例2及び実施例3のリポソームの粒径は、それぞれ、190、165nmであった。
また、実施例2及び実施例3のリン脂質由来のリン濃度が2mMの時、OVAの結合量は、それぞれ、52、42μg/mlあった。
2)実施例2及び実施例3の各OVA結合リポソームについて、実施例1と同様に、各細胞の活性及び抗体産生を評価した。結果を表2に示す。
【0090】
実施例4:(OVA結合リポソームの懸濁液による投与免疫試験)
1)参考例2のリポソーム1.5mlを試験管に採取し、別に調製した3mlのオボアルブミン(シグマ社製、試薬、以下、OVAという場合がある)溶液(1.25mM、緩衝液溶液)を加えた後、5℃で48時間穏やかに攪拌し反応させた。この反応液を、緩衝液で平衡化したSepharoseCL-4Bを用いて常法に従ってゲル濾過した。尚、リポソーム画分は白濁しているので、目的画分は容易に確認できるが、UV検出器等で確認しても良い。
ここで得られたリポソーム懸濁液中のリン濃度を測定し(リン脂質テストWako)、リン脂質由来のリン濃度を2mMになるように濃度を緩衝液で希釈調整しOVA結合リポソームの懸濁液を得た。
リン脂質由来のリン濃度は2mMの時、OVAの結合量は、38μg/mlであった。
2)参考例2のリポソームについて、実施例1と同様に、各細胞の活性及び抗体産生を評価した。結果を表2に示す。
【0091】
実施例5:(OVA結合リポソームの懸濁液による投与免疫試験)
1)参考例3のリポソーム1.5mlを試験管に採取し、別に調製した3mlのオボアルブミン(シグマ社製、試薬、以下、OVAという場合がある)溶液(1.25mM、緩衝液溶液)を加えた後、5℃で48時間穏やかに攪拌し反応させた。この反応液を、緩衝液で平衡化したSepharoseCL-4Bを用いて常法に従ってゲル濾過した。尚、リポソーム画分は白濁しているので、目的画分は容易に確認できるが、UV検出器等で確認しても良い。
ここで得られたリポソーム懸濁液中のリン濃度を測定し(リン脂質テストWako)、リン脂質由来のリン濃度を2mMになるように濃度を緩衝液で希釈調整しOVA結合リポソームの懸濁液を得た。
リン脂質由来のリン濃度は2mMの時、OVAの結合量は、40μg/mlであった。
2)実施例1と同様に、各細胞の活性及び抗体産生を評価した。結果を表2に示す。
【0092】
比較例1:(水酸化アルミゲル懸濁液の投与免疫試験)
1)水酸化アルミゲル懸濁液の調整
別途作製した緩衝液(1.2mM Na2HPO4、8.8mM KH2PO4、pH6.5)に、500μg/mlとなるようにOVAを溶解し、このOVA溶液1mlを、常法に従って調製した水酸化アルミゲル(500μg/ml)懸濁液9mlに加えて、OVA−水酸化アルミゲル懸濁液を調整した。このOVA−水酸化アルミゲル懸濁液のOVA濃度は50μg/mlである。
2)抗体産生試験;
実施例1のリポソーム製剤に代えて前項で調製したOVA−水酸化アルミゲル懸濁液を用い、実施例1と同様に各細胞の活性及び抗体産生を評価した。結果を表2に示す。
【0093】
比較例2〜4:(OVA結合リポソームの懸濁液による投与免疫試験)
1)表1に示した各リン脂質及びコレステロールの配合モル比に従い、前記参考例1と同様の方法で同様量のリポソームを調製した。次に前記実施例1と同様に、比較例2〜4の各OVA結合リポソームの懸濁液を調製した。
比較例2〜4のリポソームの粒径は、それぞれ、272、251、248nmであった。
また、比較例2〜4のリン脂質由来のリン濃度が2mMの時、OVAの結合量は、それぞれ、47、51、52μg/mlであった。
2)比較例2〜4について、実施例1と同様に各細胞の活性及び抗体産生を評価した。結果を表2に示す。
【0094】
比較例5:(OVA結合リポソームの懸濁液による投与免疫試験)
1)表1に示した各リン脂質及びコレステロールの配合モル比に従い、前記参考例2及び3と同様の方法で同様量のリポソームを調製した。次に、このリポソームを用い、前記実施例4と同様にOVA結合リポソームの懸濁液を得た。
比較例5のリポソームの粒径は、それぞれ、251nmであった。また、比較例5のリン脂質由来のリン濃度が2mMの時、OVAの結合量は、41μg/mlであった。
2)比較例5について、実施例1と同様に各細胞の活性及び抗体産生を評価した。結果を表2に示す。
【0095】
総合評価
リポソームに含まれるリン脂質として、炭素数12〜18の飽和アシル基を有するリン脂質を使用した場合には、CD8+T細胞活性及びCTL活性の増強は認められなかった(比較例2〜5)。これに対し、不飽和結合を1個有する炭素数18のアシル基(オレオイル基)を有するリン脂質を使用した場合には、CD8+T細胞活性及びCTL活性が強力に増強された(実施例1〜5)。
【0096】
以上の結果より、本発明のT細胞活性化剤は、CD8細胞活性、CTL細胞活性を実用上十分に増強し、病原体感染細胞及び癌化細胞の除去に有効で、感染症及び癌の改善・治療に有効であることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原結合リン脂質膜を含むT細胞活性化剤であって、該リン脂質膜が不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質、及びリン脂質膜の安定化剤を含有し、該リン脂質膜の表面に該抗原が結合している、T細胞活性化剤。
【請求項2】
リン脂質が、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基を有するリン脂質である、請求項1記載のT細胞活性化剤。
【請求項3】
アシル基がオレオイル基である、請求項2記載のT細胞活性化剤。
【請求項4】
リン脂質が、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジン酸、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、サクシンイミジル−ジアシルホスファチジルエタノールアミン、及びマレイミド−ジアシルホスファチジルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1つである、請求項2記載のT細胞活性化剤。
【請求項5】
リン脂質膜の安定化剤がコレステロールである、請求項1記載のT細胞活性化剤。
【請求項6】
抗原が、リン脂質膜に含まれる不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質に結合している、請求項1記載のT細胞活性化剤。
【請求項7】
抗原が、細胞内感染性の病原体由来の抗原又は腫瘍抗原である、請求項1記載のT細胞活性化剤。
【請求項8】
リン脂質膜がリポソームである、請求項1記載のT細胞活性化剤。
【請求項9】
T細胞がCD8+T細胞である、請求項1記載のT細胞活性化剤。
【請求項10】
T細胞がCTLである、請求項1記載のT細胞活性化剤。
【請求項11】
リン脂質膜が以下の組成を有する、請求項1記載のT細胞活性化剤:
(A)不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質 1〜99.8モル%;
(B)リン脂質膜の安定化剤 0.2〜75モル%。
【請求項12】
以下の組成を有する抗原結合リン脂質膜を含む、T細胞活性化剤:
(I) 不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する酸性リン脂質 1〜85モル%;
(II) 不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有する中性リン脂質 0.01〜80モル%;
(III) 抗原が結合した、不飽和結合を1個有する炭素数14〜24のアシル基又は不飽和結合を1個有する炭素数14〜24の炭化水素基を有するリン脂質 0.2〜80モル%;
(IV) リン脂質膜の安定化剤 0.2〜75モル%。

【公開番号】特開2008−37831(P2008−37831A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217270(P2006−217270)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【Fターム(参考)】