説明

TOC計

【課題】試料水の希釈部とIC除去処理部とを一体化したTOC計であって、試料水の希釈倍率が高い場合でも容易に対応することができ、かつICの除去効率が高いとともに、構造が簡単で、コストの削減を図ることが可能なTOC計を提供する。
【解決手段】内部で試料水、希釈水およびIC除去液を混合する有底筒状の希釈・IC除去槽10を備えたTOC計において、希釈・IC除去槽10の底部に試料水導入ライン14、希釈水導入ライン16、IC除去液導入ライン18および攪拌ガス導入ライン20を接続する。また、希釈・IC除去槽内に導入した試料水、希釈水およびIC除去液の混合液12の内径a(mm)と高さb(mm)との比(a:b)を1:10〜20とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料水中のTOC(全有機体炭素)を測定するTOC計に関する。
【背景技術】
【0002】
TOC計は、排水や河川水などの汚濁度を調べるために、試料水中に含まれる有機物量を測定する装置として用いられる。有機物の種類は数多く存在するため、個々の有機物の濃度を全て測定することは現実的に不可能である。そのため、TOC計においては、試料水中の全ての有機物を燃焼酸化させ、このときに発生する二酸化炭素の濃度を測定し、炭素量を演算することにより、有機物の総量を得ている。
【0003】
しかし、試料水中には、溶存している二酸化炭素、炭酸水素イオン、炭酸イオン、懸濁体炭酸塩類等の無機体炭素(IC)が含まれているため、有機物由来の二酸化炭素濃度を精度良く測定するには、予め試料水中のICを除去したり、試料水中のTC(全炭素)とICを別々に測定し、TCからICを差し引いたりする必要がある。
【0004】
予め試料水中のICを除去する方法としては、試料水にIC除去液として酸を添加し、pHを1〜3にして通気を行うことにより、ICを二酸化炭素に変換して除去する方法が用いられている(JIS−K−0805)。
【0005】
また、一般に試料水はTOC計の希釈部において希釈水と混合され、一定の割合に希釈された後に燃焼酸化されるが、上記希釈部とIC除去処理部とを一体化させ、装置構成を簡素化させることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−98310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1の装置では、試料水、希釈水およびIC除去液(酸)の計量にシリンジ型計量ポンプを用いている。しかし、試料水の希釈倍率を高くする必要が想定される場合、例えば二酸化炭素の検出器の仕様を変えずにTOC濃度の測定レンジを広くとろうとするような場合には、シリンジ型計量ポンプとしてシリンジ本体の容量が大きいものを用いるか、あるいは2段階で希釈を行わなければならず、対応が難しいという問題がある。また、シリンジ型計量ポンプは高価であり、かつ、駆動部が必要である。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、試料水の希釈部とIC除去処理部とを一体化したTOC計であって、試料水の希釈倍率が高い場合でも容易に対応することができ、かつICの除去効率が高いとともに、構造が簡単で、コストの削減を図ることが可能なTOC計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するため、内部で試料水、希釈水およびIC除去液を混合する有底筒状の希釈・IC除去槽を備えたTOC計において、前記希釈・IC除去槽は、試料水導入ライン、希釈水導入ラインおよびIC除去液導入ラインが接続され、かつ、底部に攪拌ガス導入ラインが接続されているとともに、希釈・IC除去槽内における試料水、希釈水およびIC除去液の混合液の内径(mm)と高さ(mm)との比を1:10〜20とすることができることを特徴するTOC計を提供する。
【0010】
本発明のTOC計は、希釈・IC除去槽として、内部に導入した試料水、希釈水およびIC除去液の混合液の内径(mm)と高さ(mm)との比を1:10〜20とすることができるものを用い、希釈・IC除去槽の高さを高くしたので、希釈・IC除去槽の容積を大きくすることができ、そのため試料水の希釈倍率が高い場合でも容易に対応することができる。また、本発明のTOC計は、希釈・IC除去槽の内径を小さくしたので、試料水と攪拌ガスとの接触効率が良く、そのためICの除去効率が高い。さらに、希釈部およびIC除去処理部において駆動部(マルチポートバルブ、プランジャ、モータ等)が少ないため、構造が簡単で、製作が容易である。
【0011】
本発明では、試料水導入ラインを希釈・IC除去槽の底部に接続することが好ましい。このようにすると、希釈・IC除去槽への試料水の導入と攪拌ガスの導入が同方向から行われ、ICが除去されていない新しい試料水に新しい攪拌ガスが接触するため、この点でもICの除去効率が高くなる。
【0012】
本発明においては、希釈・IC除去槽として、内部における試料水、希釈水およびIC除去液の混合液の内径(mm)と高さ(mm)との比を1:10〜20、より好ましくは1:15程度とすることができるものを用い、試料水の希釈および試料水中のIC除去を行う際には、希釈・IC除去槽内における上記混合液の内径(mm)と高さ(mm)との比を1:10〜20、より好ましくは1:15程度とする。
【0013】
また、希釈・IC除去槽の高さは、希釈・IC除去槽内の混合液の高さの1.5倍程度とすることが適当である。希釈・IC除去槽の高さが低すぎると希釈・IC除去槽内の上部のスペースが小さくなって攪拌ガスによるバブリングを行うことが難しくなり、希釈・IC除去槽の高さが高すぎると希釈・IC除去槽内の上部に無駄なスペースが生じる。
【0014】
本発明において、希釈・IC除去槽の内径および高さの具体的な値は、特に限定されないが、内径は10〜20mmとし、高さはその10〜20倍、特に15倍程度とすることが適当である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のTOC計は、試料水の希釈倍率が高い場合でも容易に対応することができ、かつICの除去効率が高いとともに、構造が簡単で、コストの削減を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態の一例を示す。図1は本発明に係るTOC計の試料水前処理部(試料水の希釈および試料水中のIC除去を行う部分)を示す概略図である。
【0017】
図1において、10は内部で試料水、希釈水およびIC除去液を混合する有底円筒状の希釈・IC除去槽を示す。希釈・IC除去槽10の材質に限定はなく、例えばプラスチック類、ガラス類あるいは金属類等とすることができる。上記希釈・IC除去槽10は、内部に導入された試料水、希釈水およびIC除去液の混合液12の内径a(mm)と高さb(mm)との比(a:b)を1:10〜20とすることができるようになっている。また、希釈・IC除去槽10の底部には、試料水導入ライン14、希釈水導入ライン16、IC除去液導入ライン18、攪拌ガス導入ライン20およびドレインライン22が接続されている。上記各ラインには、それぞれ開閉バルブ24、26、28、30、32が介装されている。なお、上記各ラインは希釈・IC除去槽10の底部の手前で合流している。
【0018】
本例の試料水前処理部は、バルブの操作により試料水導入ライン14、希釈水導入ライン16、IC除去液導入ライン18より希釈・IC除去槽10内に試料水、希釈水(純水等)およびIC除去液(塩酸等)を導入するとともに、バルブの操作により攪拌ガス導入ライン20より希釈・IC除去槽10内に攪拌ガス(エア等)を導入することにより、試料水、希釈水およびIC除去液の混合液のバブリングを行い、試料水の希釈および試料水中のIC除去を行うものである。なお、希釈・IC除去槽10からの処理液の取り出しは適宜手段で行うことができる。例えば、希釈・IC除去槽10の上部から処理液流出管を用いて試料液の取り出しを行うことができる。また、処理液の前処理後はドレインライン22により処理液を排出した後、次の前処理を行う。
【0019】
上述した実施形態の試料水前処理部は、例えば図2に示すような構成のTOC計に使用することができる。図2において、100は試料水前処理部、102は試料水導入部、104は燃焼部、106はキャリヤガス供給手段、108は除湿器、110は検出器である非分散型赤外分析計(NDIR)を示す。
【0020】
本例のTOC計は、試料水前処理部100において試料水の希釈および試料水中のIC除去を行った後、キャリヤガス供給手段106により燃焼部104内にキャリヤガスを流した状態で、試料水を試料水導入部102から燃焼部104内に導入する。燃焼部104内では、気化した試料水のガス中の有機物が触媒の作用により酸化され、COに変換される。その後、ガスを除湿器108を通して検出器110に導入し、ガス中のCO濃度を測定することにより、試料水中のTOC濃度を求めるものである。前述した実施形態の試料水前処理部は、本例のTOC計の試料水前処理部100に使用することができる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を示す。有底円筒状の容器内にIC濃度が10mg/Lの標準液(無機体炭素残留率試験液)およびIC除去液(塩酸)を導入し、バブリング流量200ml/分、バブリング時間60秒でエアによるバブリングを行った。この場合、実施例および比較例1、2において、容器の内径および高さ、容器内の混合液の内径および高さ、容器内の混合液の内径と高さとの比をそれぞれ表1に示す値とした。
【0022】
【表1】

実施例、比較例で前処理を行った処理液中のIC濃度をTOC計により前述のようにして測定した。この場合、処理液をTOC計の燃焼部に導入し、燃焼ガス中のCO濃度を検出器で測定した。また、各容器に付き前処理およびIC濃度測定を10回ずつ行った。結果を図3のグラフに示す。IC除去率は、フルスケールの3%以内であれば、JISの規格に準じていることになる。本実験では、0〜10mg/Lのレンジの測定において、IC濃度が10mg/Lの標準液を測定しているため、測定値が10mg/Lの3%以内、すなわち0.3mg/L以下であれば、JISの規格に準じていることになる。図1より、本発明のように容器内の混合液の内径と高さとの比を1:10〜20とした場合、ICの除去効率が高くなり、試料水中のIC除去を短時間で行うことができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るTOC計の試料水前処理部を示す概略図である。
【図2】TOC計の一例を示す概念図である。
【図3】実施例における処理液中のIC濃度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
10 希釈・IC除去槽
12 混合液
14 試料水導入ライン
16 希釈水導入ライン
18 IC除去液導入ライン
20 攪拌ガス導入ライン
22 ドレインライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で試料水、希釈水およびIC除去液を混合する有底筒状の希釈・IC除去槽を備えたTOC計において、前記希釈・IC除去槽は、試料水導入ライン、希釈水導入ラインおよびIC除去液導入ラインが接続され、かつ、底部に攪拌ガス導入ラインが接続されているとともに、希釈・IC除去槽内における試料水、希釈水およびIC除去液の混合液の内径(mm)と高さ(mm)との比を1:10〜20とすることができることを特徴するTOC計。
【請求項2】
試料水導入ラインが希釈・IC除去槽の底部に接続されていることを特徴する請求項1に記載のTOC計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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