説明

V様ドメイン結合分子

【課題】本発明は、非抗体リガンド由来の少なくとも一つの単量体V様ドメイン(VLD)を含み、該少なくとも一つの単量体V様ドメインが、未改変VLDと比較した場合に、改変VLDの可溶性が改善しているように、少なくとも一つのCDRループ構造またはその一部が改変または置換されている点に特徴付けられる、新規な結合部分に関する。
【解決手段】本発明は、CTLA−4、CD28およびICOSなどの非抗体リガンドのV様ドメイン(VLD)から得られた新規な結合分子を開発した。VLD内のCDRループ構造の置換によって、結合特異性が変化して可溶性が改善された、単量体で正確に折り畳まれた分子を、予期せずに産生した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子に対するアフィニティーを有するV様ドメイン結合分子に関する。また、本発明は、これらのV様ドメイン結合分子を含む組成物に関し、これらの分子の使用を含む診断または処置方法に関する。また、本発明は、新規な結合アフィニティーおよび/または特異性を有するV様ドメイン結合分子を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノグロブリン・スーパーファミリー−抗体可変(V)ドメイン
抗体は、特異的な高アフィニティー結合剤の実例であり、イムノグロブリンドメインの可変重鎖(VH)と可変軽鎖(VL)との相互作用による抗原結合部分を提供する。結合界面は、相補性決定領域(CDR)と称される六つの表面ポリペプチドループによって形成され、高頻度に可変で、結合している、各可変ドメインのうちの三つが、抗原との相互作用に対して、十分に広い表面積を提供する。特異的結合剤は、VHおよびVLドメインのみの結合によってFvモジュールを形成することができる。Vドメインをリンカーポリペプチドと結合させて、単一鎖scFvモジュールにすることによって、細菌の発現が、増強される。齧歯類のCDRループ構造を、ヒトFv枠組み上にグラフト化することによる、組み換え抗体の「ヒト化」が、Winterら、EP-239400によって開示されている。
【0003】
単一鎖Fvモジュールの発現および折畳特性を改善する方法が、Niebaら(1997)によって記載されていた。天然の哺乳動物の抗体から得られた単一Vドメインの特性は、Gussowら、WO/90/05144とEP0368684B1、およびDavisら、WO/91/08482によって、記載されている。単一ラクダ科動物のVドメインが、Hamersら、WO/96/34103とWO/94/25591によって、記載されている。ヒトアミノ酸配列を、ラクダ科動物のアミノ酸配列と置換することにより、ヒトVHドメインの表面の疎水性を低減させる方法は、DaviesとRiechmann(1994)によって記載される。CDRループにおけるシステイン残基の挿入を含み、タンパク質の安定性をさらに増強するために、ヒトVH配列の他の領域を、ラクダの配列と置換する方法は、DaviesとRiechmann(1996)によって記載される。
【0004】
HまたはVLドメインのどちらか一方を用いて、高いアフィニティーの単一ドメイン結合剤を設計するいくつかの試みは、結合特異性の欠如と、VHとVLドメインが相互作用する疎水性表面の不在下における単一ドメイン固有の不溶性により、成功していない(Korttら、1995)。
【0005】
T細胞受容体可変(V)ドメイン
T細胞受容体は、VHとVLドメインの結合により生じる抗体のFvモジュールに類似する構造に、結合してなる二つのVドメインを有する。Novotnyら(1991)により、いかにして、T細胞受容体の二つのVドメイン(αおよびβと称する)が、単一鎖ポリペプチドとして融合して発現できるのか、およびさらに、いかにして、疎水性を低減するために、直接的に抗体scFvに類似する表面残基を変化させるのかについて、記載された。他の文献には、二つのVαとVβドメインを含む、単一鎖T細胞受容体の発現特性について、記載されている(WulfingとPluckthun、1994;Ward、1991)。
【0006】
非抗体リガンド−CTLA−4とCD28様ドメイン
また、V様ドメインを含む特異的結合対に結合する非抗体リガンドの種類がある。これらのV様ドメインは、共に結合してFv型分子にならない傾向にあるため、抗体もしくはT細胞受容体のV様ドメインから識別される。これらの非抗体リガンドは、標的分子に対する高いアフィニティーを有する新規な結合部分を開発するための代替枠組みを提供する。従って、可溶性であるこれらの非抗体リガンドから得られた単一ドメインV様結合分子が、望ましい。適した非抗体リガンドの実施例は、CTLA−4、CD28およびICOSである(Hutloffら、1999)。
【0007】
細胞毒性Tリンパ球付随抗原4(Cytotoxic T-lymphocyte associated antigen4)(CTLA−4)と該相同体の細胞表面タンパク質CD28とICOSは、免疫応答時におけるT細胞制御に関連している。CTLA−4は、活性化T細胞表面上に、初期かつ一過性に発現する44kDaホモ二量体であり、免疫応答の制御に作用する抗原提示細胞上のCD80とCD86表面抗原と相互作用する(Waterhouseら、1996、van der Merweら、1997)。CD28は、T細胞上に主に発現する44kDaホモ二量体であり、CTLA−4と同様に、免疫応答の制御に作用する抗原提示細胞上のCD80とCD86表面抗原と相互作用する。最近の学説では、例えば、ノックアウトマウスにおけるCTLA−4の遺伝子欠損により、広範囲における活性化T細胞の過増殖が認められる(Waterhouseら、1995)など、利用できるリガンドに対する、CTLA−4とCD28との競合が、免疫応答のレベルを制御することがディスプレイされている。
【0008】
各CTLA−4単量体サブユニットは、N末端細胞外ドメイン、膜貫通領域、およびC末端細胞内ドメインからなる。細胞外ドメインは、N末端V様ドメイン(VLD;イムノグロブリン・スーパーファミリーに対する相同性より、約14kDaの推定分子量である)と、免疫応答の制御に作用する抗原提示細胞上のCD80とCD86表面抗原と相互作用する、VLDを膜貫通領域に連結する約10残基の軸を含む。VLDは、抗体VドメインのCDR−1、CDR−2およびCDR−3に相当する表面ループを含む(Metzler、1997)。CTLA−4における最近の構造および変異研究により、CD80とCD86への結合が、A’GFCC’V様β鎖から、およびCDR3様表面ループにおける高度に保存されたMYPPPY配列から、形成されたVLD表面を介して生じることが示されている(Peachら、1994;Mortonら、1996;Metzlerら、1997)。CTLA−4単量体間の二量体化は、二軸におけるシステイン残基(Cys120)間のジスルフィド結合を介して生じ、これにより、二つの細胞外ドメインが連結されるが、V様ドメイン間での直接的な会合は認められない(Metzlerら、1997)。二量体化は、リガンドに対する親和性の増強にのみ、寄与すると思われる。
【0009】
イン・ビトロにおけるCTLA−4の可溶型の発現
おそらく発現タンパク質の凝集により、ヒトCTLA−4分子の細胞外ドメインとV様ドメイン(VLD)のどちらも、細菌細胞において、可溶性単量体として十分に発現されていない(Linsleyら、1995)。大腸菌において、細胞外N末端ドメイン(Cys120を含む、Met1からAsp124)を発現させると、二つのCTLA−4V様ドメインがCys120におけるジスルフィド結合により連結された、二量体の分子量28kDaのタンパク質が生成される。Val114における先端除去により、これらシステインを除去し、可溶性単量体型での14kDaVLDの発現を可能にすることが企図された。しかしながら、生成物は凝集し、通常はグリコシル化によってマスクされていた疎水性部位が、露出し、凝集を引き起こしたことが結論づけられた(Linsleyら、1995)。
【0010】
真核細胞発現系(すなわち、CHO細胞と酵母Pichia pastoris;Linsleyら、1995;Metzlerら、1997;Gerstmayerら、1997)において、単量体のグリコシル化CTLA−4細胞外ドメインを発現させることができたとのいくつかの報告がある。これらの真核細胞発現系におけるグリコシル化は、VLDにおける二つのN−連結グリコシル化部位(Asn76とAsn108)で生じることが推定される。しかしながら、Ig−CH2/CH3ドメインに融合したCTLA−4VLDをコードする遺伝子を発現させた場合、高い収率で、Fcサブユニットに連結された2つのCTLA−4VLDを有する二量体組み換えタンパク質が生成されることが報告されているのみである(WO95/01994とAU16458/95)。AU60590/96には、天然のCD80とCD86リガンドに対するアフィニティーを保持して改変するMYPPPY表面ループにおいて、最初のチロシン(Y)が単一アミノ酸置換されたCTLA−4VLDの変異型が、記載されている。AU60590/96には、真核細胞において発現させた組み換えCTLA−4/Ig融合タンパク質として、好ましいCTLA−4VLDの可溶型が記載されているが、真核細胞発現系における凝集の問題点は解決されていない。EP0757099A2には、CTLA−4変異分子の使用、例えばCDR3様ループにおける変異体のリガンド結合における変化の作用が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP-239400
【特許文献2】WO/90/05144
【特許文献3】EP0368684B1
【特許文献4】WO/91/08482
【特許文献5】WO/96/34103
【特許文献6】WO/94/25591
【特許文献7】WO95/01994
【特許文献8】AU16458/95
【特許文献9】AU60590/96
【特許文献10】EP0757099A2
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Niebaら(1997)
【非特許文献2】DaviesとRiechmann(1994)
【非特許文献3】DaviesとRiechmann(1996)
【非特許文献4】Novotnyら(1991)
【非特許文献5】WulfingとPluckthun、1994
【非特許文献6】Ward、1991
【非特許文献7】Hutloffら、1999
【非特許文献8】Waterhouseら、1996
【非特許文献9】van der Merweら、1997
【非特許文献10】Waterhouseら、1995
【非特許文献11】Metzler、1997
【非特許文献12】Peachら、1994
【非特許文献13】Mortonら、1996
【非特許文献14】Metzlerら、1997
【非特許文献15】Linsleyら、1995
【非特許文献16】Gerstmayerら、1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、CTLA−4、CD28およびICOSなどの非抗体リガンドのV様ドメイン(VLD)から得られた新規な結合分子を開発した。VLD内のCDRループ構造の置換によって、結合特異性が変化して可溶性が改善された、単量体で正確に折り畳まれた分子を、予期せずに産生した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明の第一の態様において、非抗体リガンドから得られた少なくとも一つの単量体V様ドメイン(VLD)を含み、該少なくとも一つの単量体V様ドメインが、未改変VLDと比較した場合に、改変VLDの可溶性が改善されるように、少なくとも一つのCDRループ構造もしくはその一部を改変もしくは置換されていることを特徴とする結合部分を提供する。
【0015】
本発明の範囲内で、改変または置換は、少なくとも一つのCDRループ構造の一以上の物理特性(例えば、サイズ、形状、電荷、疎水性など)に対するあらゆる変化を含むことができる。改変または置換により、少なくとも一つのCDRループ構造のサイズを低減させることができる。しかしながら、好ましい実施態様において、少なくとも一つのCDRループ構造またはその一部が、
(i)未改変VLDにおいて相当するCDRループ構造と比較した場合に、CDRループ構造のサイズが増大している;および/または、
(ii)改変または置換により、一以上のCDRループ構造内もしくは間のジスルフィド結合が形成される、ように改変または置換される。
【0016】
第二の態様において、本発明は、非抗体リガンドから得られた少なくとも一つの単量体V様ドメイン(VLD)を含み、該少なくとも一つの単量体V様ドメインは、少なくとも一つのCDRループ構造またはその一部が、
(i)未改変VLDにおいて相当するCDRループ構造と比較した場合に、CDRループ構造のサイズが変化している;および/または、
(ii)改変または置換により、一以上のCDRループ構造内もしくは間のジスルフィド結合が形成される、ように改変または置換されていることを特徴とする結合部分を提供する。
【0017】
第二の態様の好ましい実施態様において、CDRループ構造のサイズは、少なくとも二つ、より好ましくは少なくとも三つ、さらに好ましくは少なくとも六つ、よりさらに好ましくは少なくとも九つのアミノ酸残基によって増加している。
【0018】
また、より好ましい実施態様において、本発明の第一または第二の態様の改変された結合部分は、未改変の結合部分と比較した場合に、変化した結合アフィニティーまたは特異性を示す。好ましくは、CDRループ構造を置換または改変することによる効果は、未改変VLDの一以上の天然のリガンドに対するVLDのアフィニティーを低減させるまたは消失させることである。好ましくは、CDRループ構造を置換または改変することによる効果は、VLDの結合特異性も変化することである。従って、改変VLDが、未改変VLDの結合対と異なる特異的結合対に、結合することが好ましい。
【0019】
「V様ドメイン」または「VLD」という言葉は、可変重鎖(VH)または可変軽鎖(VL)抗体に類似する構造上の特徴を有するドメインを表すことが企図される。これらの類似する構造上の特徴は、CDRループ構造を含む。「CDRループ構造」によって、我々は、抗体Vドメインにおける相補性決定領域のような、表面ポリペプチドループ構造または領域を意味する。
【0020】
「非抗体リガンド」という言葉は、抗体またはT細胞受容体でない、特異的結合対に結合するあらゆるリガンドを表すことが企図される。適切な非抗体リガンドの実施例は、CTLA−4、CD28およびICOSなどのT細胞表面タンパク質である。本発明に適したV様ドメインを提供できる他の非抗体リガンドが、他のT細胞表面タンパク質、例えば、CD2、CD4,CD7およびCD16;B細胞表面タンパク質、例えば、CD19、CD79a、CD22、CD33、CD80およびCD86;接着分子、例えば、CD48、CD54ICAMおよびCD58、であることが、当業者によって認識されるであろう。表1に列挙するこれらの分子は、本発明の単一ドメイン結合分子の基を形成する構造の、一部の一覧を提供する。
【0021】
「非抗体リガンドから得られたV様ドメイン」という言葉は、非抗体リガンドから得られたV様ドメインの少なくとも一部を含むキメラV様ドメインを包括することが企図される。
【0022】
【表1】

【0023】
これらの分子は、(1)The Leucocyte Antigen Facts Book, 1993,Eds Barclay et al.Academic Press, London;および(2)CD Antigen 1996(1997) Immunology Today 18,100-101において記載されており、これらの全ての内容が、ここに参照として取り込まれる。
【0024】
本発明の改変された結合部分の「可溶性」は、正確に折り畳まれた、単量体ドメインの産物と相関する。従って、改変VLDの可溶性は、HPLCによってアッセイすることができる。例えば、可溶性(単量体)VLDは、HPLCクロマトグラフ上で単一ピークを生じるであろうし、一方不溶性(例えば、多重結合で凝集している)VLDは、複数のピークを生じるであろう。従って、当業者であれば、通常のHPLC技術を用いて、改変VLDの可溶性の増加を検出することができるであろう。
【0025】
本発明の結合部分が、共に結合し、化学的または遺伝学的に、多価または多機能の試薬となることが、認識されるであろう。例えば、Cys120を含む天然CTLA−4において、C末端の付加により、二量となる。
【0026】
また、本発明の結合部分は、様々な診断用製剤のための他の分子に結合させることができる。例えば、VLDは、ポリペプチドC末端を含むことができ、または多イン・ビトロアッセイにおいて、多部位で、ストレプトアビジンまたはビオチンに結合させることができる。また、VLDは、放射性同位元素、染料マーカー、または腫瘍、凝血塊などのイン・ビボ検出および/または局在のためのその他のイメージング剤に結合させることができる。また、VLDは、診断およびバイオセンサー装置のための不溶性装置および台上に結合させることによって、固定化することができる。
【0027】
本発明の第一の態様の最も好ましい実施態様において、V様ドメインは、CTLA−4分子またはCD28分子の細胞外ドメインから得られる。さらなる好ましい実施態様において、CTLA−4V様ドメインの一以上の表面ループ、好ましくはCDR−1、CDR−2もしくはCDR−3ループ構造が、興味のある標的分子に対する結合アフィニティーを有するポリペプチドと置換される。興味のある標的分子は、限定されないが、薬剤、ステロイド、殺虫剤、抗原、成長因子、腫瘍マーカー、細胞表面タンパク質、またはウィルスコートタンパク質を含む。これらのVLDは、多特異的であり、天然の表面および改変されたポリペプチドの両方によってもたらされたアフィニティーを有することができると認識されるであろう。
【0028】
さらなる好ましい実施態様において、CTLA−4、CD28およびICOSのV様ドメイン表面ループを置換または改変することによる効果は、CD80とCD86に対する天然のアフィニティーを消失させることである。
【0029】
好ましい一実施態様において、VLDの一以上のCDRループ構造は、抗体から得られた一以上のCDRループ構造と置換される。抗体は、あらゆる種から得ることができる。好ましい実施態様において、抗体は、ヒト、ラット、マウス、ラクダ、ラマまたはサメから得られる。抗体は、ラクダ抗体cAB−Lys3とヒト抗メラノーマ抗体V86から選択されることができる。
【0030】
さらなる好ましい実施態様において、一以上のCDRループ構造が、非抗体ポリペプチド由来の結合決定基で置換される。例えば、一以上のCDRループ構造が、ポリペプチドホルモン、例えば、ジスルフィド結合化ポリペプチド内の14残基が腫瘍細胞の認識に重要であるソマトスタチン、またはウィルスタンパク質、例えばヒトインフルエンザウィルス・ヘマグルチニンタンパク質などで置換されることができる。
【0031】
さらに好ましい実施態様において、結合部分のV様ドメインは、ラクダ科動物もしくはラマの抗体において見出されるCDRループ構造に一致するCDRループ構造を含む。例えば、CDRループ構造は、一以上の通常でない置換体(例えば、本来の極性に対して疎水性である)を含む。他の好ましい実施態様において、CDR−1とCDR−3ループ構造は、長さが非常に不均一である一般的でないコンホメーションを採ることができる。また、V様ドメインは、CDR−1とCDR−3ループ構造(幾つかのラクダVHH抗体において見出されている)もしくはCDR−2とCDR−3ループ構造(幾つかのラマVHH抗体において見出されている)を相互に結ぶジスルフィド結合を有することができる。
【0032】
第三の態様において、本発明は、本発明の第一または第二の態様の結合部分をコードするポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドは、プラスミドまたは発現ベクターに組み込むことができる。
【0033】
第四の態様において、本発明は、本発明の第三の態様によるポリヌクレオチドで形質転換した原核もしくは真核宿主細胞を提供する。
【0034】
第五の態様において、本発明は、本発明の第四の態様による宿主細胞を、結合部分の発現を可能にする条件下で培養することと、任意で結合部分を回収することを含む、結合部分を生成する方法を提供する。
【0035】
本発明の好ましい実施態様において、結合部分は、細菌宿主において発現させることによって、産生させることができる。好ましくは、結合部分は、グリコシル化されていない。
【0036】
第六の態様において、本発明は、本発明の第一もしくは第二の態様の結合部分と薬学的に受容できる担体もしくは希釈剤を含む薬学的組成物を提供する。
【0037】
第七の態様において、本発明は、患者の病状を治療する方法であって、患者に本発明の第一または第二の態様による結合部分を投与することを含む方法を提供する。
【0038】
イン・ビボで適用する場合、VLDは治療または診断する患者に一致し、あらゆる可能性の外来抗原が除去されていることが好ましい。従って、臨床に適用して使用するVLD分子は、天然のヒトのイムノグロブリン・スーパーファミリーメンバーに十分に一致していることが好ましい。
【0039】
第八の態様において、本発明は、標的分子に対するアフィニティーを有する結合部分を選択する方法であって、一以上の非抗体リガンドから得られたVLDをコードするポリヌクレオチドのライブラリーを、標的分子に対するアフィニティーを有する結合部分の発現でスクリーニングすることを含み、該ポリヌクレオチドは、少なくとも一つのVLDにおける少なくとも一つのCDRループにおける改変または置換を生じる突然変異を受けており、単離された改変VLDの可溶性が、単離された未改変VLDと比較した場合に改善されている方法を提供する。
【0040】
本発明の第八の態様の範囲内で、あらゆるランダムまたは標的突然変異生成方法が、V様ドメインに改変を導入するために用いられることは、当業者によって、認識されるであろう。好ましい実施態様において、突然変異生成は、標的突然変異生成である。標的突然変異生成は、好ましくは、スプライスオーバーラップPCR法を用いた、少なくとも一つのCDRループ構造内での少なくとも一つの配列の置換を含む。
【0041】
また、ポリヌクレオチドライブラリーは、非天然のCDRループ構造を含むVLDをコードする配列だけでなく、天然のイムノグロブリンにおいて見出されたCDRループ構造と十分に同一であるCDRループ構造を含むVLDをコードする配列を含むことが、当業者によって認識されるであろう。
【0042】
本発明の第八の態様の好ましい実施態様において、スクリーニング方法は、改変されたV様ドメインを、バクテリオファージ粒子の表面上の遺伝子IIIタンパク質融合体としてディスプレイすることを含む。該ライブラリーは、V様ドメインをコードするポリヌクレオチドを含む、pHFA、fd−tet−dogまたはpFAB.5cなどのバクテリオファージを含むことができる。
【0043】
第八の態様のさらに好ましい実施態様において、スクリーニング方法は、リボソームディスプレイ選択系において、改変V様ドメインをディスプレイすることを含む。
【0044】
この明細書を通して、「含む」または「含んでいる」などの言葉は、記載された要素、全過程、または要素群の包含を含意すると解されるであろうが、あらゆる他の要素、全過程、もしくは要素群の排除を含意しないと解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】CTLA−4VLD特異的オリゴヌクレオチド。
【図2】CTLA−4VLD特異的オリゴヌクレオチド。
【図3】CTLA−4VLD特異的オリゴヌクレオチド。
【図4】CTLA−4VLD特異的オリゴヌクレオチド。
【図5】ヒトCTLA−4をコードする全長cDNAポリヌクレオチド配列と、ヒトCTLA−4のVLDのポリヌクレオチド配列。
【図6】ファージまたはファージミド表面における遺伝子3融合体としてのCTLA−4 VLD STMを示す。CTLA−4 VLD STMは、黒楕円として表し;遺伝子3タンパク質は、白楕円として表し;FLAGポリペプチドは、灰色で表し;遺伝子は、類似色の記号でマークし、楕円形のファージ(ミド)ベクターの中に表す。
【図7】ソマトスタチンポリペプチドの概念図。ソマトスタチン(ソマトトロピン遊離阻害因子SRIF)は、環状14アミノ酸ポリペプチドである。環状形状は、位置3と14におけるシステイン残基間のジスルフィド結合によって得られる。ループの先端を構成する四つの残基(Phe−Trp−Lys−Thr)は、ソマトスタチン受容体ファミリーのメンバーに対する結合に密接に関係している。
【図8】アフィニティー精製したCTLA−4VLDとCTLA−4Som3STMのサイズ排除HPLCの推移。組み換えヒトCTLA−4タンパク質を、ベクターpGCから宿主大腸菌TG1において発現させ、抗FLAGアフィニティークロマトグラフィーによるペリプラズム抽出から精製し、調整したSuperose12HRカラム上のサイズ排除クロマトグラフィーにかけた。精製したCTLA−4VLDとCTLA−4−Som3STMの溶出推移を、このグラフに重ねる。CTLA−4VLDは、三量体(21.86分)、二量体(26.83分)および単量体(29.35分)を含む。CTLA−4−Som3STMは、二量体(26.34分)と単量体(29.28分)を含む。トレースは、214nmでの吸光度を表し、任意単位で与えられる。
【図9】CTLA−4ループ置換の概念図。構造物A(CTLA−4VLD:S2)は、1−115残基にわたる野生型CTLA−4の細胞外Vドメインを表す。構造物Bは、(CTLA−4Som1:PP2)およびC(CTLA−4Som1−Cys120:PP5)は共に、CDR1において、14残基のソマトスタチンポリペプチドを含む。また、PP5は、Cys120を含むC末端の伸長を担持する。構造物D(CTLA−4−Som3:PP8)は、CDR3の位置に14残基ソマトスタチンポリペプチドを含む。構造物E(CTLA−4−HA2:XX4)において、CDR2はヘマグルチニン標識で置換されている。構造物F(CTLA−4−Som1−Som3:VV3)において、CDR1とCDR3の両方が、ソマトスタチンポリペプチドで置換されている。構造物G(CTLA−4−Som−HA2−Som3:ZZ3)において、CDR1とCDR3が、ソマトスタチンポリペプチドで置換されており、CDR2がヘマグルチニン標識で置換されている。構造物H(CTLA−4−抗lys:2V8)において、三つ全てのCDRループ構造が、ラクダ抗リゾチームVHH分子からのCDRループで置換されている。構造物I(CTLA−4−抗mel:3E4)は、三つ全てのCDRが抗メラノーマ抗体V86からのVH CDRループで置換されているCTLA−4VLDを表す(CaiとGaren、1997)。PelB、切断可能なペクチン酸溶解遊離配列(22a);flag、二重flag標識(AAADYKDDDDKAADYKDDDDK)。
【図10】精製した組み換えヒトCTLA−4STMのHPLC推移。組み換えCTLA−4VLDは、ベクターpGCから宿主大腸菌TG1に発現させ、ペリプラズム抽出から抗FLAGアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、調整したSuperose12HRカラムのサイズ排除クロマトグラフィーにかけた。精製したタンパク質の溶出推移を示す。パネルA、CTLA−4二量体(PP5);パネルB、CTLA−4R(S2);パネルC、CTLA−4−HA2(XX4);パネルD、CTLA−4−Som3(PP8);パネルE、CTLA−4−Som1(PP2);パネルF、CTLA−4−Som1−Som3(VV3);パネルG、CTLA−4−Som−HA2−Som3(ZZ3);パネルH、CTLA−4−抗lys(2V8);パネルI、CTLA−4−抗mel(3E4)。トレースは、214nmでの吸光度を表し、任意単位で与えられる。
【図11】細菌発現ベクターpGCまたはpPOWを用いて合成し、アフィニティー精製したCTLA−4構造物の、サイズ排除FPLC分析による比較。組み換えヒトCTLA−4Rまたはそのループ変異体を、宿主大腸菌TOP10F’において発現させ、抗FLAGアフィニティークロマトグラフィーにより、ペリプラズム溶出液から精製し、調整したSuperose12HRカラムのサイズ排除クロマトグラフィーにかけた。ベクターpGCから発現させたタンパク質の溶出推移を左に示し、ベクターpPOWから発現させたタンパク質を右に示す。パネルA、野生型CTLA−4VLD(S2);B、CTLA−4−Som1(PP2);C、CTLA−4−Som3(PP8);D、CTLA−4−抗lys(2V8);E、CTLA−4−Som1−HA2−Som3(ZZ3)。
【図12】タンパク質の安定性分析。CTLA−4VLDとループ変異構造物の単量体の調製の安定性を、複数回凍結/融解を繰り返した後、予め調整しておいたsuperose12hr(Pharmacia)カラムのサイズ排除fplcクロマトグラフィーにより、分析した。各タンパク質のアリコートを、ピーク精製し、二回凍結/融解した後、直ちに試験した。A、CTLA−4VLD(S2);B、CTLA−4Som1(PP2);C、CTLA−4−Som3(PP8);D、CTLA−4−抗lys(2V8);E、CTLA−4−Som−HA2−Som3(ZZ3)。
【図13】CTLA−4−抗lys構造2V8のリゾチーム結合特性。
【図14】固定化Shブレオマイシン上のCTLA−4VLDファージミドライブラリーのスクリーニング。
【図15】溶液中のCTLA−4VLDライブラリーのスクリーニング。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、例えば、ヒトCTLA−4分子などの、イムノグロブリン・スーパーファミリーメンバーのV様ドメインから得られた新規な可溶性VLD結合分子の設計に関する。本発明の好ましい結合分子は、以下の利点:(i)天然ヒトタンパク質の使用により、ヒトの治療に用いる場合に、免疫系応答に対する保護をしばしば必要とする工程である、組み換え分子の連続したヒト化が不要となる;(ii)ドメインが、上記のように(C末端部におけるCys120残基の組み込みにより、二量体分子を生成する)、天然の単量体である;および(iii)構造上の改変により大腸菌発現レベルが向上する、をもたらす。
【0047】
最初のCTLA−4構造決定の公表前に、この分子とCD28の両方の利用できる配列データおよび変異分析が分析された。これにより、抗体CDR1、2および3領域に相当する領域のモデリングまたは推測が許容された。そのような領域が、分子の枠組みに十分な作用をもたらすことなく、変異または置換されやすく、従って正確に折り畳まれた分子の発現を許容すると推測されていた。続いて公表された構造(Metzlerら、1997)により、リガンド結合部分からのCDR1の予期しなかった分離と、リガンド結合表面と接触する平らな表面を形成するCDR3の広範囲な曲がりにもかかわらず、これらの推測が正確であることが示された。
【0048】
実験の最初の設定において、ヒトCTLA−4分子のV様ドメインは、CDRループ構造を、二つの定義したポリペプチドのどちらかと置換して、改変した。二つのポリペプチドは、ヒトソマトスタチン(Som)とヒトインフルエンザウィルスヘマグルチニンタンパク質(Ha−標識)であった。ソマトスタチン(SRIF:ソマトスタチン遊離阻害因子)は、ループ中の中央10残基に面したジスルフィド結合を含む14残基ポリペプチドである。ヒトソマトスタチンは、生体内で生物学的に広範囲に存在し、成長ホルモン分泌の制御などの多くの異なる生理機能を媒介する(Reisne、1995)。ヒトソマトスタチンは、異なる組織特異性とアフィニティーを有する多くの特異的受容体に、結合する(少なくとも五つのサブタイプが存在する)(Schonbrunnら、1995)。これらの結合と活性の態様は、まだ理解に乏しいが、一つの顕著な特徴は、多くのガン細胞株、例えば神経−内分泌系のガンと小肺ガンなどに、ソマトスタチン受容体が高密度に存在することである(Reubi、1997)。非常に不安定なソマスタチンポリペプチドと比較して、分解に耐性であるソマトスタチンの人工アナログが、そのような腫瘍のイメージング用に作製されている。
【0049】
ヘマグルチニンエピトープ配列は、9残基YPYDVPDYAからなる。この配列を特異的に認識する、商業的に製造された抗体が、利用できる。エピトープ標識は、タンパク質の構造内に、ランダムに、または方向性に取り込まれた場合、検出できる(Canfieldら、1996)。
【0050】
CTLA−4V様ドメインにおける一以上のCDRループ構造を、ソマトスタチンまたはHA−標識で置換することにより、異なる細菌発現系を用い、可溶性単量体未グリコシル化結合分子が生成される。この驚異的な発見により、V様ドメインが、可溶性単一ドメイン分子の構築用の基の枠組みを提供し、これにより分子の結合特異性が、CDRループ構造の改変により設計されることができることが示された。
【0051】
V様ドメインの基本の枠組み残基は、ラクダ類動物抗体に存在する構造上の特徴に従って、改変することができる。ラクダ重鎖イムノグロブリンは、単一のVHドメインのみからなることより、「従来の」抗体構造とは異なる(Hamers-Castermanら、1993)。いくつかの特徴により、これらの抗体は、可溶性と、十分に広い抗原結合表面をディスプレイできないこととの、二つの問題を克服することができる。
【0052】
最初に、曝された枠組み残基における複数の非従来的な置換(本来の極性に対して、顕著に疎水性)により、疎水性表面が低減する一方で、内部のβシート枠組み構造が維持される(Desmyterら、1996)。さらに、三つのCDRループ内で、いくつかの構造上の特徴が、通常、VLドメインによって提供される抗原結合表面の欠失を補う。CDR2ループが、他のVHドメインと大きく異ならない一方で、CDR−1と−3ループは、長さが非常に不均一である一般的でない構造を採る。例えば、Ig分子では通常5残基にであるのに対して、H1ループは2−8残基の範囲で含むことができる。しかしながら、CDR3ループは、より大きな変化を示す:報告された17ラクダ抗体配列において、この領域の長さは、7から21残基まで変化する(Muyldermansら、1994)。第三に、多くのラクダ科動物のVHドメインが、ラクダの場合はCDR−1と−3を、ラマの場合はCDR−1と−2を相互に連結するジスルフィド結合を有する(Vuら、1997)。この構造上の特徴の機能は、ループ安定性の保持であり、抗原内のポケットへの結合を許容し、表面積を増大する、平らにならないようにより制御されたループ構造を提供する。しかしながら、全てのラクダ科動物抗体が、このジスルフィド結合を有するわけではないことから、これが構造上絶対的に必要なものではないことが示唆される。
【0053】
これらの前記特徴は、ラクダ科動物のVドメインが、可溶性分子としてイン・ビボで、様々な標的抗原に対して有効な免疫応答を形成するのに十分に高いアフィニティーで存在できる。これに対して、Igスーパーファミリーの細胞表面受容体(CD4およびCD2など)は、V様結合ドメインを含み、CDRループ以外の表面特徴を有する同種の受容体に結合するようである。これらV様ドメインは、同種の受容体に、非常に低いアフィニティーで結合する。二つの細胞表面が連結し、各々が複数の受容体を含む時に、二つの細胞間の生理的シグナリングは、複数部位の結合親和力によって媒介される。CD2は、十分に特徴づけられた例である:CD58への結合は、GFCC’C”面(抗体型CDR−1、CDR−2またはCDR−3ループではない)に局在する荷電された極性残基によって生じた小さな静電気相互作用が強く圧縮された形状によってもたらされる。これにより、低アフィニティーであるが、非常に特異的な相互作用を生じる(Bodianら、1994)。
【0054】
また、本発明は、標的分子に対する新規な結合アフィニティーを有する単一VLD分子を生成し、選択する方法に関する。この方法は、イムノグロブリン・スーパーファミリーのメンバーから得られたV様ドメインの公知の分子進化法の適用を含む。該方法は、多数の変異したV様ドメインをスクリーニングするための、ファージまたはリボソームディスプレイライブラリーの生成を含む。
【0055】
ファージ内に含まれるDNAによってコードされるIg様タンパク質(scFv、Fab)などのタンパク質をファージが表面上にディスプレイするように、フィラメント状のfd−バクテリオファージ染色体が設計される(Smith、1985;Huseら、1989;McCaffertyら、1990;Hoogenboomら、1991)。タンパク質分子は、Fdバクテリオファージの表面上に、遺伝子III、もしくはあまり一般的でない遺伝子VIIIによってコードされたファージコートタンパク質に共有結合して、ディスプレイされることができる。遺伝子IIIコートタンパク質への抗体遺伝子の挿入により、ファージ毎に3−5組み換えタンパク質分子が、末端に位置して発現する。これに対して、遺伝子VIIIへの抗体遺伝子の挿入により、ファージ粒子毎に約2000コピーの組み換えタンパク質がディスプレイされる可能性を有するが、これは、単一にディスプレイされたタンパク質のアフィニティーを覆うことができる多価系である。また、Fdバクテリオファージの表面上の機能的Ig様フラグメントのディスプレイから、大腸菌における可溶性Ig様フラグメントの分泌に容易に変換できるため、Fdファージミドベクターが用いられる。ファージディスプレイされた遺伝子IIIコートタンパク質のN末端との融合組み換えタンパク質が、二つのタンパク質遺伝子間に戦略的に位置する終止コドンによって作製され得る。大腸菌のアンバー抑制遺伝子株において、得られたIgドメイン−遺伝子III融合体は、ファージコートにおいてアンカーとなる。
【0056】
タンパク質のアフィニティーに基づく選択方法は、あらゆる高アフィニティー結合剤、例えば抗体、抗原、受容体およびリガンドなどに適用することができる(例えば、全内容をここに参照として取り込むWinterとMilstein、1991参照)。このように、バクテリオファージ上にディスプレイされる最も高いアフィニティーの結合タンパク質の選択は、タンパク質をコードする遺伝子の回復に結びつけることができる。Igディスプレイファージは、ビーズに共有結合させた同種の結合対への結合、またはELISAもしくは固相ラジオイムノアッセイに類似する様式でのプラスチック表面への吸着によって、アフィニティー選択されることができる。あらゆるプラスチック表面のほとんどが、タンパク質抗原を吸着するであろうが、Nunc Immunotubeなどの幾つか商品が、特にこの目的のために考案されている。
【0057】
リボソームディスプレイ細胞は、細胞不含翻訳系で新規合成され、選択するためにリボソーム表面上にディスプレイさせたポリペプチドを含む(HanesとPluckthun、1997;HeとTaussig、1997)。「細胞不含翻訳系」は、リボソーム、タンパク質の合成に要する可溶性酵素(通常、リボソームと同じ細胞由来)、転移RNA、アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸、リボヌクレオチド三リン酸再生系(例えば、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼ)、および外因性mRNAによってコードされたタンパク質の合成に要する緩衝塩を含む。ポリペプチドの翻訳は、無傷のポリソーム(すなわち、リボソーム、mRNA分子および翻訳されたポリペプチドが単一の複合体で会合している)を維持する条件下で、行わせることができる。この有効性は、翻訳されたポリペプチドの「リボソームディスプレイ」をもたらす。
【0058】
選択のために、相当するリボソーム複合体と会合している、翻訳されたポリペプチドは、マトリックス(例えば、Dynabead)に結合している標的分子と混合する。標的分子は、興味のあるあらゆる化合物(またはその一部)、例えばDNA分子、タンパク質、受容体、細胞表面分子、代謝産物、抗体、ホルモンまたはウィルスであることができる。翻訳されたポリペプチドをディスプレイしているリボソームは、標的分子に結合するであろうし、これらの複合体は選択され、RT−PCRを用いて、該mRNAを再度増幅させることができる。
【0059】
結合分子を改変する幾つかの代替方法が存在するものの、全てのディスプレイ化タンパク質のための一般的な方法は、各結合剤を同種の受容体に対するアフィニティーによってディスプレイライブラリーから選択する様式に従う。これらの剤をコードする遺伝子は、様々なイン・ビボおよびイン・ビトロ変異生成手段のいずれか一つまたは組み合わせによって、改変され、最も高いアフィニティーの結合分子をディスプレイし選択するための新規な遺伝子プールとして構築される。
【0060】
本発明の性質をより明確に理解されことができるように、それらの好ましい形式を、以下の実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0061】
実施例1
遺伝子の構築とクローニング
CTLA−4STM(STM:CTLA−4の可溶性切断変異体、CTLA−4キメラV様ドメインタンパク質を記載するために、ここに用いられる)遺伝子の構築とクローニングを、標準的で、十分に記載された方法(特異的に設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応、スプライスオーバーラップ伸長、制限酵素消化など)によって行った。用いたオリゴヌクレオチドプライマーを、図1−4に示す。
【0062】
野性型STM構造を、SfiIとNotI制限酵素部位を各々5’と3’末端に組み込んだオリゴヌクレオチドプライマー#3553と#4316を用いて、クローン化ヒトCTLA−4DNA(図5)から増幅(逆転写されたヒトcDNAから当業者によって容易に増幅できる)した。これらの末端プライマーは、(i)#4851または#5443を、5’末端にApaL1部位を組み込むために用いた;(ii)#4486を、Cys120残基を含むC末端を付加するために用いた;(iii)#5467を、5’末端にEcoR1部位を組み込むために用いた;および(iv)特定のセットの伸長プライマーをリボソームディスプレイのために用いた、ことを除く、全てのさらなる構築において用いた。
【0063】
図1−4に列挙したオリゴヌクレオチドプライマーの組み合わせを用いたスプライスオーバーラップPCR法を用い、様々なCDR−1、CDR−2および/またはCDR−3ループ構造置換体を生成した。以下の実施例においてより詳細に記載する変異体を、表2に列挙する。
【0064】
【表2−1】

【表2−2】

【0065】
CDRループ構造の無作為抽出した断片を生成するために、同様のスプライスオーバーラップ法を、記述のトリプレットが配列NNg/T(式中、Nは、あらゆる四つの可能なヌクレオチド塩基を表す)によってコードされたオリゴヌクレオチドを用いて行った。この組み合わせは、あらゆる可能なアミノ酸残基を網羅する。あるいは、無作為抽出は、アミノ酸のある部分集合に対して偏らせた(例えば、芳香族残基、図3、#5452)。
【0066】
いくつかの事例において、STM遺伝子の構築のために様々な方法を用い、無作為抽出したオリゴヌクレオチドプライマーを、同様に(相補的制限酵素部位で)改変したCTLA−4VLDの枠組み(例えば、図2、#4254)中に直接クローニングするために、制限酵素部位を組み込むように設計した。
【0067】
完全な構造を、適切な制限酵素の組み合わせ(例えば、Sfi1、Not1、ApaL1、EcoR1)で切断し、適切な発現ベクターにおける同様の部位にクローニングした。これらのベクターは、以下を含む:(i)可溶性タンパク質を生成するための発現ベクターpGC(Coiaら、1996)とpPOW(Powerら、1992;Korttら、1995)、(ii)バクテリオファージとファージミドディスプレイのため、完全STM構造を制限酵素SfiIとNotIまたはApaLIとNotIで切断し、ベクターpHFAとpFAB.5c(ファージミド)またはpfd-Tet-DOG(ファージ)にクローニングした。これらのベクターは、バクテリオファージ一粒子当たり、1−2(ファージミド)または3−5(ファージ)コピーで、バクテリオファージの表面において遺伝子3タンパク質融合体として、STMをディスプレイすることを許容する(図6)。
【0068】
全てのDNA構造物は、制限酵素分析とDNA配列決定によって確認し、標準的によく理解された方法(ポリアクリルアミドゲル電気泳動、ウェスタンブロットなど)によって、組み換えタンパク質の発現を試験した。
【0069】
実施例2
組み換えSTMタンパク質の生成と単離
組み換えタンパク質を、ペリプラズム発現系に対して異なる方法を示すベクターを用いて産生した。これらのベクターは、以下であった;(i)pGC:このベクターは、化学的(IPTG)誘導によって、不均一なタンパク質の高レベルでの発現を許容し、リーダー配列によって、ペリプラズムへ標的とされる。続いて、このリーダー配列は、切断されて、成熟タンパク質を生成する。さらに、このベクターは、組み換えタンパク質のアフィニティー精製を許容する二つの枠内8残基の標識配列(FLAG標識)を含む。(ii)pGCと同様に、切断可能なリーダー配列と二つの枠内8残基の標識配列(FLAG標識)によって、ペリプラズムへ標的とされるタンパク質の発現を、高レベルで熱誘導できるpPOW。
【0070】
組み換えタンパク質は、十分に確立された方法の二つの変型である以下の方法によって精製した。(i)ベクターpGCにおける細菌クローンを、2YT培地/37℃/200rpm/100mg/mlアンピシリン、1%グルコース(最終)中で、一晩培養した。100mg/mlアンピシリンと0.1%グルコース(最終)で補充した2YT培地0.5または2l中に、細菌を、1/100希釈し、28℃/200rpmで培養した。これらの培養物を、光学密度が0.2−0.4の範囲になるまで培養し、この段階で、それらを1mMのIPTG(最終)で誘導した。培養物を、16時間(一晩)培養し、回収した。細菌は、遠心分離(BeckmanJA-14ローターまたは相当物/6K/10分/4℃)で回収し、ペリプラズム画分を、標準的な方法で回収した。簡単には、細菌ペレットを、100mMのTris−HCl/0.5Mショ糖/0.5mMのEDTA(pH8.0)からなるスフェロプラスト形成用緩衝液1/25倍容量中に再度懸濁し、1/500倍容量のニワトリ卵白リゾチーム(水中2mg/ml)を添加し、10分間インキュベーションした。上記スフェロプラスト用緩衝液の0.5x溶液を、次いで、元の培養物の1/5倍最終容量になるまで添加し、さらに20分間インキュベーションを続けた。次いで細胞破片を、遠心分離(BeckmanJA-14ローターまたは相当物/9K/15分/4℃)によってペレットとし、ペリプラズム画分を含む上清を回収した。上記全ての操作を4℃で行った。試料を、すみやかに音波処理し、0.45μニトロセルロース膜で濾過し、速やかに処理、またはアジ化ナトリウム(0.05%)の存在において4℃で保存した。凍結が必要である場合は、凍結融解を一回のみ許容した。(ii)pPOWにおける細菌クローンを、100μg/ml(w/n)アンピシリンを含む2xYT培地100ml中、30℃で一晩培養した。翌日、培養物を用い、OD600nm=0.2−0.5になるまで、100μg/ml(w/v)アンピシリンを含む新鮮な2xYT培地900ml中に播種し、OD600nm=4、すなわち後対数期になるまで、30℃で振盪培養した。組み換えタンパク質の発現を誘導するために、温度を、42℃まで1時間上昇させ、次いでさらに20℃まで1時間下降させた。細胞を、遠心分離(BeckmanJA-14/6K rpm/5分/4℃)によって回収し、細胞ペレットを、100mlの抽出用緩衝液(20mMのTrispH8.0/0.2mg/ml(w/v)リゾチーム/0.1%(v/v)Tween−20)中に再度懸濁し、4℃で一晩インキュベーションした。試料を、30秒間音波処理し、細胞破片を、遠心分離(BeckmanJA-14/14K rpm/10分/4℃)によって回収した。「リゾチーム」洗浄液を含む水相を、保持した。次いで、細胞ペレットを、氷冷した水で二回洗浄し、この「浸透性衝撃」洗浄液を保持した。氷冷した水100ml中でペレットを再度懸濁させた後、一回目の洗浄を10分間、二回目の洗浄を一時間、氷上でインキュベーションしながら行った。遠心分離(BeckmanJA-14/14K rpm/10分/4℃)後、水相のpHを、10mlの10xTBS、pH8を添加して調整した。「リゾチーム」と「浸透性衝撃」洗浄液は、プールし、可溶性または「ペリプラズム」タンパク質画分とする。ペリプラズム画分は、音波処理し、0.45μニトロセルロース膜で濾過し、速やかに処理し、またはアジ化ナトリウム(0.05%)、PMSF(23μg/ml)およびEDTA(50mM)の存在において4℃で保存した。
【0071】
組み換えタンパク質を、スルホン酸ジビニル活性化アガロース(Mini-Leak)−結合化抗FLAG抗体カラムを介したアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。ペリプラズム抽出物を、0.05%(w/v)アジ化ナトリウムを含むTBS(pH8)で予め平衡化した10mlの抗FLAGカラムに、直接負荷した。結合タンパク質を、Immunopure Gentle Ag/Ab Elution Buffer(Pierce)で溶出した。次いで、試料を、TBS/0.05%(w/v)アジ化物(pH8)に対して透析し、限外濾過により3kDaカットオフ膜(YM3、Diaflo)上に濃縮し、予め調整したSuperose12HRまたはSuperdex200HRカラム(Pharmacia Biotech)を用いたHPLCにより、流速0.5ml/minで分析した。単量体、二量体、および三量体に相当する画分を回収し、上記のように濃縮し、分析するまで4℃で保存した。タンパク質濃度は、分光光度計で、A280における消光係数を用い、CTLA−4R細胞外ドメインが1.27、CTLA−4−Som1が0.92、CTLA−4−Som3が1.13、CTLA−4−抗Lysが1.05であることを測定した。上記タンパク質の化学的方法の全ては、当該分野における標準的な方法である。精製したタンパク質は、標準的な方法、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動、ウェスタンブロット、ドットブロットなどによって分析した。
【0072】
バクテリオファージ発現ベクターpHFA、pFAB.5cおよびfd-tet dogにおけるクローニングと発現、および続く組み換えバクテリオファージの精製は、標準的に十分に確率された方法で行った。無作為抽出したCTLA−4STMのライブラリーのスクリーニングは、標準的に十分に確率された方法で行った(Galanisら、1997)。
【0073】
実施例3
ソマトスタチンとヘマグルチニンペプチドを組み込んだCTLA−4STM
最初に、CTLA−4STMのCDR1またはCDR3ループ構造を、ソマトスタチンポリペプチドで置換した。この14残基ポリペプチドは、Cys3とCys14の間の内部ジスルフィド結合によって、構造的に拘束されている(図7)。これにより、抗体において見出されたCDRループに類似した、特にジスルフィド結合によって安定化されているラクダ化動物の抗体において見出された長いCDRに類似した、別個のタンパク質ループが形成された。また、Cys120の存在または不在におけるCDR1の置換の効果、すなわち二量体が生成されるかどうかについて、試験した。これらの実験により、予期しない、驚異的な結果が得られた。CDR−1もしくは−3のどちらかを、ソマトスタチンで置換することにより、単量体タンパク質の生成が、有意に増大した。これは、図8において、CDR−3ループ構造をソマトスタチンで置換することにより、二量体/三量体タンパク質種に対する単量体の割合が有意に増大したことを示す。
【0074】
さらなる実験において、CDR−1と−3ループ構造の両方を、ソマトスタチンで同時に置換することによって、高レベルでの単量体タンパク質の生成がもたらされた。これにより、広範囲のループ構造の置換が、CTLA−4骨格に適合し得ることが示された。ソマトスタチンループの一つが、構造的に、CTLA−4VLDのCDR−3ループ構造に類似した様式で、分子面に対して水平に位置できる。
【0075】
CDRループ構造−置換戦略のさらなる拡大において、CDR−2に相当する領域を、8残基ヘマグルチニン(HA)標識配列で置換した。この領域は、一部、分子の長さに亘るC”β鎖を包囲するため、この部位において構造的に拘束されたソマトスタチンループの使用は、不適切であると見なされた。抗HA抗体を用いることによって、HA標識は、このCTLA−4STM上に検出することができる。ゲル濾過実験により、単量体からCDR−2単一置換体が安定でなかったことを示す凝集した種までの範囲のタンパク質種の存在が示された(図9、10)。
【0076】
三つ全てのCDRループ構造を二つのソマトスタチンと一つのHAエピトープでそれぞれ同時に置換することによって、CTLA−4CDRループ構造を、他のポリペプチドと置換することができ、単量体、可溶性STMを生成できる決定的な原則が、証明された。このSTMは、正確に折り畳まれた単量体タンパク質をゲル濾過クロマトグラフィーで生成した(図9、10)。
【0077】
様々なSTMのCTLA−4VLD内のCDRループ構造置換の位置を、図9に示す。アフィニティー精製したSTMタンパク質のHPLC推移を、図10に示す。同一の結果が、二つの異なるタンパク質発現系:タンパク質の発現が化学的に誘導されるpGCと、タンパク質の発現が温度で誘導されるpPOW(実施例2参照)、において生成したタンパク質で得られた(図11)。
【0078】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、ウェスタンブロット分析により、CTLA−4STMが、低減し、予期した分子量まで泳動され、グリコシル化されていないことが示された。単離した単量体STMタンパク質の試験により、凍結融解0,1または2回後に、それらが単量体型を維持していることが示された(図12)。
【0079】
構造特異的抗CTLA−4抗体により、CDR1と−3ループ構造の両方が置換されたSTMが認識されたことから、CTLA−4STMは、正しい構造を維持していた。興味深いことに、この抗体は、改変されたタンパク質種に観察された強い反応に対して、野性型単量体と、(CDR1置換された)二量体をほとんど認識しなかった。これにより、野性型STMにおいて、ある種の局部的な相互作用により、抗体結合部分が吸蔵され、この相互作用が、二つのCTLA−4分子が互いに連結される時の結果に類似することが示される(推測的には、抗体に対しての接近が阻害される)。
【0080】
実施例4
ラクダ抗リゾチーム抗体に基づくCTLA−4STM
免疫したラクダから単離したラクダVHH抗体cAb−Lys3は、ニワトリ卵白リゾチームの活性部位のへこみ内に特異的に結合する。同様に機能するCTLA−4 STMの性能を例示するために、CTLA−4VLD STMの三つのCDRループ構造を、cAb−Lys3からの三つのCDRループ構造で置換した。置換体の位置と配列を、図9に示す。pGCまたはpPOWに基づく発現系のどちらかにおけるこのSTM(2V8)の発現により、単量体可溶性タンパク質を顕著に生成した(図10、11)。このCTLA−4 STMのタンパク質可溶性は、天然のCTLA−4VLDよりも優れている。ELISA分析により、(pGC生成)精製単量体タンパク質が、非特異的抗原と比較して、およびCDR1ループ構造(PP2)内がソマトスタチンで置換されたCTLA−4STMと比較して、雌鶏リゾチームに特異的に結合することが示された(図13A)。BIAコアによるリアルタイム結合分析により、リゾチームが、固定化抗リゾチームSTMに特異的に結合することが示された(図13B)。このように、CTLA−4STM枠組みが、正確に折り畳まれ、リゾチーム抗原を結合できる様式で、CDRループ構造を呈している。CTLA−4VLD抗リゾチームの発現をさらに増強するために、コード化配列を、スプライスオーバーラップPCRによって、大腸菌の発現に優先的なコドンを含むように、調節した。
【0081】
実施例5
ヒト抗メラノーマ抗体に基づくCTLA−4STM
ヒト由来抗メラノーマ抗体V86は、特異的にヒトメラノーマ細胞に結合する。この抗体は、結合アフィニティーが、完全にVH領域内にあり、同種のVLの付加により結合効率が低下し、VLドメインの小断片と共に発現させたVHドメインが、高い可溶性を有する点において独特である(CaiとGaren、1997)。CTLA−4VLD CDRループ構造の置換により、可溶性が増強し、得られたSTMを細菌発現系において生成させることができることを、さらに例示するために、CTLA−4の三つのCDRループ構造を、V86からの三つのCDRループ領域で置換した。置換の位置と配列を、図9に示す。pGCにおけるこのSTM(3E4)の再度の発現により、CTLA−4VLDと比較して、可溶性が増強された単量体可溶性タンパク質が顕著に生成された(図10)。
【0082】
実施例6
結合分子ライブラリーとしてのCTLA−4の構築
新規な結合特異性を有するCTLA−4STMを選択するために、VLDライブラリーを、無作為抽出したCDR1とCDR3ループ構造を含むように作製した。ライブラリーを構築するために用いたオリゴヌクレオチドプライマーを、表1に列挙する。ライブラリー構築のために用いたオリゴヌクレオチドの組み合わせを、表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
得られたライブラリーをコードするDNA構造物を、fd−ファージミドに基づくライブラリーを作製するためのベクターpHFAまたはpFAB.5cにクローニングし、fd−ファージに基づくライブラリーを作製するためのpfd-Tet-Dogにクローニングした(実施例1と2参照)。ライブラリー1は、ベクターpHFAにクローニングし、2.1x107個の独立したクローンからなる。ライブラリー3は、ベクターpHFA(5.7x105個の独立したクローン)とpfd-Tet-Dog(2.2x104個の独立したクローン)にクローニングした。ライブラリー2は、ベクターpFAB.5c(1.7x107個の独立したクローン)と、pfd-Tet-Dog(1.6x105個の独立したクローン)にクローニングした。ライブラリーを構築する形質転換コロニーの総数を計数し、CTLA−4STM特異的DNAの存在と割合をアッセイすることによって、多くの独立したクローンを測定した。
【0085】
ライブラリー2の場合、全ライブラリーの多様性を、代表的なクローンの配列決定によって試験した。これらの結果を表4に示す。予期された挿入サイズと配列の多様性が、観察された。高い割合のUAG終止コドンが、オリゴヌクレオチド無作為抽出法と一致して、観察された。これらのコドンにより、CTLA−4STM遺伝子3タンパク質融合体の未成熟の終止が生じることを防ぐために、この終止コドンをグルタミン酸残基の挿入によって抑制する、大腸菌株Tg−1とJM109に、ライブラリを形質転換した。システイン残基は、オリゴヌクレオチドの設計から予想されたように多数存在し、CDRループ構造内および中のジルフィド結合を形成できる位置に存在した。
【0086】
【表4】

【0087】
遺伝子3タンパク質融合体としてCTLA−4STMをディスプレイするバクテリオファージ粒子を、大腸菌細胞から、標準的な方法でレスキューし、以下の実施例において記載された多くの抗原に対して作動させた。
【0088】
実施例7
CTLA−4STMライブラリー:固型支持物上の抗原に対する選択
構造内にへこみまたはすき間を有するタンパク質に分類される四つの異なった抗原を、スクリーニング用に選択した。抗体より小さなサイズで、伸長されたCDRループ構造(特にCDR−3)を有するCTLA−4VLD STMは、これらのへこみ領域に接近できると予想された。選択された抗原は、(i)ニワトリ卵白リゾチーム(EC3.2.1.17);(ii)ウシカルボニックアンヒドラーゼ(EC4.2.1.1);(iii)真菌類のa−アミラーゼ(EC3.2.1.1);および(iv)ストレプトアロテイチウス・ヒンドゥスタニス(Streptoalloteichus hindustanis)耐性タンパク質ShBle(Gatignolら、1988)、であった。プレートに結合させる場合、コート用緩衝液中の抗原(0.1MNaHCO3pH8.5中1mg/ml)を、CostarELISAプレートに標準的な方法で結合させた。レスキューしたファージとファージミド由来ライブラリーを、選択されるべきファージの低親和結合を許容するために、標準の洗浄回数よりも低い洗浄回数を用いた以外は、標準的に良く知られた方法によって、作動させた。図14に、ShBleに対して選択したライブラリーの力価を示す。四巡後、回復したバクテリオファージ力価は、対照よりも高かった。当業者にとって、これは、特定の結合部分の選択を表し、これら選択されたCTLA−4VLD STMを、pGCまたはpPOWなどの発現ベクターを用いて生成させること(実施例2に記載されたように)は、通常の方法である。
【0089】
実施例8
CTLA−4STMライブラリー:溶液中の抗原に対する選択
溶液中で選択する場合、抗原ウシカルボニックアンヒドラーゼと真菌類のa−アミラ−ゼを、ビオチン化し、ストレプトアビジンでコートした磁性ビーズによる捕捉を用いて、溶液中で選択した。これらの実験を通して、洗浄は、一定した、毎巡、2または5回行った。回収したバクテリオファージの溶出後の力価を、図15に示す。四巡後、回収されたバクテリオファージの力価は、対照よりも高かった。当業者にとって、これは特異的結合部分の選択を表し、次いで、(実施例2に記載したように)pGCまたはpPOWなどの発現ベクターを用い、これらの選択されたCTLA−4VLD STMを生成することが、通常の方法である。
【0090】
実施例9
CTLA−4ライブラリー:代替ディスプレイおよび選択系における選択
抗原結合STMのさらなる成熟と選択を許容するために、CTLA−4STMライブラリーを、プラスミドに結紮し、下流C末端スペーサーポリペプチド(重鎖定常ドメイン)を付加した。上流の転写および翻訳開始配列は、特異的オリゴヌクレオチド(図1−4)を用いたPCR増幅によって付加した。このPCR DNAは、RNAを生成するための鋳型として用い、HeとTaussig(1997)に記載されたように、結合化細胞不含翻訳系におけるリボソーム上にライブラリーを翻訳させてディスプレイさせた。結合を証明するために、CTLA−4STMリボソーム複合体を、肝臓B表面抗原(hbsa)、グリコホリン(glyA)およびウシ血清アルブミン(BSA)被覆化ダイナビーズ(dynabeads)上に、作動させた。hbsa、glyAおよびBSAに結合したリボソーム複合体からのRNAを、RT−PCRによって回収した。次いで、これらのRT−PCR産物を、(実施例2において記載したように)CTLA−4STMの生成を許容するpGCまたはpPOWなどの発現ベクターにクローニングすることは、通常の方法である。(この実施例におけるように)リボソーム複合体としてのCTLA−4STMのライブラリーをディスプレイし、生細胞(真核細胞または原核細胞のバックグラウンドから得られ、細菌、酵母、哺乳動物もしくは昆虫細胞を含むことができる)の表面上にディスプレイすることを許容する本発明に、多くの変型および/または改変がなされることができることは、当業者によって、認識されるであろう。
【0091】
実施例10
CTLA−4 STM:アフィニティー成熟とCDR2変異
抗原結合STMのさらなる成熟と選択と、無作為抽出されたCDR−1、−2および−3ライブラリーの構築を許容するために、CDR−2無作為抽出オリゴヌクレオチドプライマーを作製した(図1−4)。これらのプライマーの変異は、ラマ単一ドメイン抗体において見出されたものに類似したCDR−2−CDR−3ジスルフィド結合を有するSTMの構築を許容する保存されたシステイン残基を含む。スプライスオーバーラップPCRは、無作為抽出した三つ全てのCDRループ構造を含むライブラリーの作製を許容した。
【0092】
広く記載された本発明の精神または範囲を逸脱することなく、特定の実施態様において示された本発明に、多くの変型および/または改変がなされることができることは、当業者によって認識されるであろう。従って、本実施態様は、全ての点では、制限ではなく例示としてみなされるべきである。
[参考文献]






【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの単量体非抗体リガンドV様ドメイン(VLD)を含む、標的分子に対するアフィニティーを有する結合部分であって、前記少なくとも一つの単量体非抗体VLDが、
(i)CDRループ構造のサイズが、未改変VLD中の相当するループ構造と比較したときに、変化している;および/または
(ii)改変または置換により、一以上のCDRループ構造内もしくは間に、ジスルフィド結合の形成を生じる
ように、VLDの少なくとも一つのCDRループ構造またはその一部が改変または置換されていることを特徴とする、結合部分。
【請求項2】
CDRループ構造のサイズが増大している、請求項1に記載の結合部分。
【請求項3】
CDRループ構造のサイズが、少なくとも二つのアミノ酸残基によって増大する、請求項2に記載の結合部分。
【請求項4】
CDRループ構造のサイズが、少なくとも六つのアミノ酸残基によって増大する、請求項2に記載の結合部分。
【請求項5】
CDRループ構造のサイズが、少なくとも九つのアミノ酸残基によって増大する、請求項2に記載の結合部分。
【請求項6】
CDRループ構造のサイズが減少している、請求項1に記載の結合部分。
【請求項7】
単量体非抗体リガンドが、T細胞受容体ではない、請求項1から6のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項8】
単量体非抗体リガンドが、T細胞表面タンパク質である、請求項1から6のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項9】
単量体非抗体リガンドが、CD2、CD4、CD7、CD16、CD19、CD79a、CD22、CD33、CD80、CD86、CD48、CD54ICAM、CD58、CTLA−4、CD28およびICOSからなる群より選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項10】
改変VLDの結合アフィニティーが、未改変VLDと比較した場合に変化している、請求項1から9のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項11】
一以上のCDRループ構造が、非抗体ポリペプチド由来の結合決定基で置換されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項12】
結合決定基が、ソマトスタチンまたはヘマグルチニン由来である、請求項11に記載の結合部分。
【請求項13】
一以上のCDRループ構造が、抗体由来の一以上のCDRループ構造で置換されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項14】
抗体が、ラット、マウス、ヒト、ラクダ、ラマまたはサメ由来である、請求項13に記載の結合部分。
【請求項15】
診断剤に結合した、請求項1から14のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の結合部分または多価試薬をコードするポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項16に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項18】
請求項17に記載のベクターで形質転換されている宿主細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−92215(P2011−92215A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28861(P2011−28861)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【分割の表示】特願2000−534642(P2000−534642)の分割
【原出願日】平成11年3月5日(1999.3.5)
【出願人】(500468537)セファロン・オーストラリア・ピーティーワイ・リミテッド (16)
【Fターム(参考)】