説明

VEGF産生促進剤

【課題】創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、髪質改善等に優れた効果を発揮し、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品等に応用可能なVEGF産生促進剤の提供。
【解決手段】次式(1):R1−OPO32(1)〔式中、R1は炭素数12〜24のアルキル基、総炭素数12〜28のアルコキシアルキル基又は−CH(CH2OR2)CH2OR3(ここで、R2は炭素数8〜24のアルキル基を示し、R3は炭素数1〜18のアルキル基を示す)を示す。〕で表される化合物又はその塩を有効成分とするVEGF産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor;VEGF)の産生を促進し得るVEGF産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
VEGFは、血管透過性因子として知られているが、最近の研究により、ヒト皮膚における主要な血管新生因子であることが報告され、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、髪質改善等の研究分野で注目されている分子である。
【0003】
正常な皮膚において、VEGFは、表皮角化細胞により少量分泌され、真皮の微小血管内皮細胞上の特異的なレセプターに結合し、それによって内皮細胞の生存能力を確保することにより、上部の網状構造の血管を維持している。
【0004】
炎症あるいは創傷治癒時に肥厚した表皮におけるVEGFは、非常に高く発現していて、真皮での血管の増加と栄養供給を導いていることが報告されている(非特許文献1)。また、毛髪の成長期では毛包周囲の血管が劇的に拡張していて、毛包の細胞でVEGFが発現しており、毛髪の退行期と休止期では、血管の退縮に伴いVEGFの発現が抑制されていることが報告されている(非特許文献2)。
さらに、VEGFは血管の形成を促進することから、血流循環を促進して毛根に栄養を多く供給することや、毛髪のコルテックス細胞同士の接着に関係していることが報告されている。
【0005】
従って、真皮での血管の増加と栄養供給に関与しているVEGFの産生を促進することは、創傷の回復・治癒に非常に有効であるばかりでなく、皮膚の新陳代謝の低下等によって生じるくすみや肌の透明感の低下といった肌色改善にも有効である。また、毛髪・毛包の成長にも関与しているVEGFの産生を促進することは、毛髪の脱毛・薄毛といった症状の防止や改善にも有効であり、さらに毛髪を毛根から太くし、ハリコシを増強すると考えられている。
【0006】
このため、様々なVEGF産生促進剤がこれまでに開発されている。たとえば、大豆由来の調製物(特許文献1)、アミハナイグチ、シロヌメリイグチ、ハナイグチ、ウツロベニハナイグチ、アミタケ、キノボリイグチ、エゾウコギ、黄精、ゲンチアナ、センナ、トチュウ、ダイオウ、メリロート、ヨクイニン、クコの実、当帰、地黄、サンシシ、甘草、ニンジン、紅参、紫根、シンビジュームの各抽出物(特許文献2)、タコノキ属(Pandanus L.f.)植物抽出物(特許文献3)、シイタケ、エチナシ、プルーン、モヤシ、アマチャヅルの各抽出物(特許文献4)等に、VEGF産生促進作用があることが報告されている。しかし、これらのVEGF産生促進剤は、副作用の点から配合が制限される場合があり、また、有効量を配合すると着色や不快臭が発生する等の問題が生じる場合もあった。
【0007】
一方、アルキル(炭素数10〜14)リン酸エステル又はその塩は低刺激性の洗浄活性成分として知られており(特許文献5)、また、直鎖アルキル(炭素数12〜22)リン酸エステルとβ分岐アルキル(炭素数12〜22)リン酸エステルの混合物又はそれらの塩の混合物は界面活性成分や水性エマルション成分として知られているが(特許文献6)、これらアルキルリン酸エステル又はその塩にVEGF産生促進作用があることは知られていない。
【特許文献1】特開平11−286432号公報
【特許文献2】特開2000−212059号公報
【特許文献3】特開2004−43393号公報
【特許文献4】特開2004−35443号公報
【特許文献5】特開昭53−26806号公報
【特許文献6】特開平11−152292号公報
【非特許文献1】Detmar M. The role of VEGF and thrombospondins in skin angiogenesis, J Dermatol Sci. 24(Suppl 1), S78-84, 2000
【非特許文献2】Yano K, Brown LF, Detmar M. Control of hair growth and follicle size by VEGF-mediated angiogenesisi, J Clin Invest. 107(4), 409-17, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、髪質改善等の効果を発揮し、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品等に応用可能なVEGF産生促進剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、VEGFの産生を促進する物質について、研究を重ねた結果、特定のリン酸化合物に優れたVEGF産生促進作用があることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、次式(1)で表されるリン酸化合物又はその塩を有効成分とするVEGF産生促進剤に係るものである。
1−OPO32 (1)
〔式中、R1は炭素数12〜24のアルキル基、総炭素数12〜28のアルコキシアルキル基又は−CH(CH2OR2)CH2OR3(ここで、R2は炭素数8〜24のアルキル基を示し、R3は炭素数1〜18のアルキル基を示す)を示す。〕
【発明の効果】
【0011】
本発明のVEGF産生促進剤は、優れたVEGF産生促進作用を有し、内皮細胞の生存能力を向上させ、血管新生促進効果を発揮することから、たとえば創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、髪質改善等の効果を発揮する医療品、医薬部外品、化粧料、食品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
式(1)中、R1で示される炭素数12〜24のアルキル基としては、炭素数14〜20のものが好ましく、炭素数16〜20のものがより好ましい。また、炭素鎖は、直鎖又は分岐の何れでもよい。
当該R1で示されるアルキル基の好適な具体例としては、例えば、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、2−エチルヘキシル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、3,7−ジメチルオクチル、3,7−ジメチル−3−オクチル、2−ヘキシルデシル、2−ヘプチルウンデシル、2−オクチルドデシル、3,7,11−トリメチルドデシル、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル、3,5,5−トリメチルへキシル、2,3,4−トリメチル−3−ペンチル、2,3,4,6−テトラメチル−3−ヘプチル、メチルヘプタデシル(イソステアリル)、15−メチルヘプタデシル、16−メチルヘプタデシル、16-メチルオクタデシル、17-メチルオクタデシル、17−メチルノナデシル、18−メチルノナデシル等が挙げられる。
【0013】
1で示される総炭素数12〜24のアルコキシアルキル基としては、総炭素数14〜20のものが好ましく、総炭素数16〜20のものがより好ましい。
当該アルコキシアルキル基は、具体的には、R4O−R5−(ここで、R4は炭素数2〜10のアルキル基が好ましく、R5は炭素数10〜18のアルキレン基が好ましい)で示されるが、R4O−としては、例えばエトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、イソブトキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキシルオキシ、2−メチルブトキシ、3−メチルブトキシ、4−メチルペントキシ、4−メチルヘキシルオキシ、6−メチルオクトキシ、2,2−ジメチルプロポキシ等が挙げられ、−R5−としては、例えば、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン、トリデシレン、テトラデシレン、ペンタデシレン、ヘキサデシレン、ヘプタデシレン、オクタデシレン等が挙げられる。
より好適なアルコキシアルキル基としては、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルが挙げられる。
【0014】
基−CH(CH2OR2)CH2OR3において、R2で示される炭素数8〜24のアルキル基としては、炭素数10〜24のものが好ましく、炭素数12〜20のものがより好ましい。好適には、例えばオクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、16−メチルヘプタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、2−エチルヘキシル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、3,7−ジメチルオクチル、3,7−ジメチル−3−オクチル、2−ヘキシルデシル、2−ヘプチルウンデシル、2−オクチルドデシル、3,7,11−トリメチルドデシル、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル、3,5,5−トリメチルへキシル、2,3,4−トリメチル−3−ペンチル、2,3,4,6−テトラメチル−3−ヘプチル、イソステアリル等が挙げられる。
3で示される炭素数1〜18のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、炭素数1〜6のものがより好ましい。好適には、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、16−メチルヘプタデシル、2−エチルヘキシル、3,3−ジメチルブチル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、3,7−ジメチルオクチル、3,7−ジメチル−3−オクチル、2−ヘキシルデシル、2−ヘプチルウンデシル、3,7,11−トリメチルドデシル、3,5,5−トリメチルへキシル、2,3,4−トリメチル−3−ペンチル、2,3,4,6−テトラメチル−3−ヘプチル、イソステアリル等が挙げられる。
【0015】
式(1)で表わされる化合物の塩は、薬学上許容しうる塩であればよく、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン塩及び4級アンモニウム塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン塩又は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等のアミノ酸塩が挙げられる。
【0016】
本発明における式(1)で表わされる化合物は、R1が16−メチルオクタデシル基又は11−(2−メチルブトキシ)ウンデシル基、は新規化合物である。
これらは、公知のリン酸エステル化法に準じて行えばよく、例えば目的化合物に対応するアルコール(R−OH)をリン酸エステル化し、必要に応じて適宜上記の塩を形成するようなアルカリで中和することにより得ることができる。リン酸エステル化試薬としては、例えばオキシ塩化リン、三塩化リン、五塩化リン、ポリリン酸、水と無水リン酸、リン酸と無水リン酸等を用いることができる(実験化学講座1,有機化合物の合成I,p206−210,化学同人社)。得られた化合物は、適宜公知の方法により分離精製を行ってもよい。
【0017】
本発明の式(1)で表される化合物又はその塩は、後記実施例に示すように、ヒト表皮角化細胞におけるVEGFの遺伝子発現量を増加し、VEGFの産生を促進する作用を有することから、内皮細胞の生存能力の向上、血管新生促進等の効果を発揮することが期待される(Heidemarie Rossiter, Caterina Barresi, Johannes Pammer, Michael Rendl, Jody Haigh, Erwin F. Wagner, and Erwin Tschachler. Loss of Vascular Endothelial Growth Factor A Activity in Murine Epidermal Keratinocytes Delays Wound Healing and Inhibits Tumor Formation, Cancer research 64, 3508-3516, 2004)。
従って、式(1)で表される化合物又はその塩は、これを有効成分とするVEGF産生促進剤として使用することができ、また、VEGF産生促進剤を製造するために使用することができる。当該VEGF産生促進剤は、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、髪質改善等の効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品として使用可能である。また、当該VEGF産生促進剤は、VEGFの産生促進、肌色改善、養毛・育毛、髪質改善等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した化粧品、美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品として、或いはVEGF産生能を判定するための検査薬や試薬等としても使用することができる。
【0018】
本発明のVEGF産生促進剤を医薬として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、式(1)で表される化合物又はその塩を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口投与用製剤として用いる場合の該製剤中の式(1)で表される化合物又はその塩の含有量は、一般的に0.00001〜50質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜10質量%とすることが好ましい。
尚、本発明のVEGF産生促進剤を医薬として使用する場合、成人1人当たりの1日の投与量は、本発明の式(1)で表される化合物又はその塩として、例えば0.0003〜3000mgとすることが好ましく、特に0.003〜300mgであることが好ましい。
【0019】
本発明のVEGF産生促進剤を食品として用いる場合の形態としては、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のVEGF産生促進剤を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中の式(1)で表される化合物又はその塩の含有量は、一般的に0.00001〜100質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜70質量%とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明のVEGF産生促進剤を医薬部外品や化粧料として用いる場合は、皮膚外用剤、洗浄剤、メイクアップ化粧料、頭皮頭髪用化粧料とすることができ、使用方法に応じて、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒等の種々の剤型で提供することができる。このような種々の剤型の医薬部外品や化粧料は、式(1)で表される化合物又はその塩を単独で、又は医薬部外品、皮膚化粧料、頭皮頭髪用化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、防菌防黴剤、植物抽出物、アルコール類等を適宜組み合わせることにより調製することができる。当該医薬部外品、化粧料中の式(1)で表される化合物又はその塩の含有量は、一般的に0.00001〜100質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜70質量%とすることが好ましい。
【実施例】
【0021】
製造例1 16−メチルオクタデシルリン酸二ナトリウム塩(化合物1)の製造
無水テトラヒドロフラン2mlにオキシ塩化リン1.90g(12.39mmol)を溶解し、窒素雰囲気下、10℃以下に冷却したのち、16−メチルオクタデカノール2.18g(8.77mmol)及び無水テトラヒドロフラン5mlの混合溶液を滴下し、更に、トルエチルアミン1.10g(10.53mmol)を滴下した。10℃以下にて2時間攪拌後、白色沈殿を濾別し、濾液に48%水酸化ナトリウム水溶液0.73g(8.77mmol)及び蒸留水50gを徐々に投入し、50℃にて1時間攪拌した。ジエチルエーテル100ml投入後、飽和食塩水50ml、蒸留水50mlで順次洗浄し、冷アセトン中150mlに投入し、析出した結晶をろ過・洗浄後、減圧乾燥して16−メチルオクタデシルリン酸ナトリウム塩2.63g(収率78%)を得た。そのうち、508.8mg(1.31mmol)を蒸留水50gに溶解し、48%水酸化ナトリウム水溶液109.2mg(1.31mmol)を滴下し、50℃にて30分間撹拌した後、24時間凍結乾燥して、16−メチルオクタデシルリン酸二ナトリウム塩530.1mg(収率99%)を得た。
【0022】
IR(cm-1,ATR法):2922,2853,1470,1126,1105,996
1H-NMR(D2O,ppm):0.87-0.90(m,6H),1.14-1.21(m,2H),1.33(m,26H),1.64(m,2H),3.80(m,2H)
【0023】
製造例2 11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸ナトリウム塩(化合物2)の製造
16−メチルオクタデカノールに代えて11-(2−メチルブトキシ)ウンデカノール1.0g(3.87mmol)を用いて製造例1と同様に製造を行い、11-(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸ナトリウム塩1.0g(収率71%)を得た。
【0024】
IR(cm-1,ATR法):2920,2850,1462,1112,1051,948
1H-NMR(D2O,ppm):0.72-0.75(m,6H),0.98(m,1H),1.11-1.28(m,16H),1.28(m,1H),1.41-1.49(m,4H),3.08(t,J=8Hz,2H),3.15(dd,J=8Hz,2Hz,1H),3.24(dd,J=8Hz,2Hz,1H),3.28(t,J=8Hz,2H),3.68-3.70 (m,2H)
【0025】
製造例3 1−n−テトラデシル−3−エチルグリセロ−2−リン酸アルギニン塩(化合物3)の製造
テトラデシルグリシジルエーテルを、特開昭56−63974号公報記載の方法に準じて得た。エタノール851.8g(18.5mol)中に、窒素気流下、ナトリウムエトキシド30gを投入し、80℃に昇温した後、テトラデシルグリシジルエーテル500g(1.85mol)を滴下した。同温度にて18時間撹拌した。その後、エタノールを留去し、85%リン酸10.8gを投入し、3回水洗した。水洗後、減圧蒸留して、1−テトラデシル−3−エチルグリセロール446g(収率76.2%)を得た。
トルエン200mlにオキシ塩化リン232g(1.51mol)を溶解し、窒素雰囲気下、10℃以下に冷却したのち、1−テトラデシル−3−エチルグリセロール400.0g(1.26mol)及びトルエン400mlの混合溶液を滴下し、更に、トリエチルアミン140.6g(1.39mol)及びトルエン100mlの混合溶液を30分間かけて滴下した。同温度にて4時間撹拌後、水800gを徐々に投入し、50℃にて1時間撹拌した。トルエン、イソプロピルアルコールを加え、水層を分離後、上層を洗浄し、溶媒留去して、無色透明油状物511gを得た。このうち、200gをエタノール-ヘキサン混合溶媒に溶解し、L−アルギニン86.5g(0.496mol)を加え、60℃にて均一になるまで撹拌後、冷却して、アセトン中に投入し、析出した結晶をろ過後、減圧乾燥して1−n−テトラデシル−3−エチルグリセロ−2−リン酸アルギニン塩266g(収率94%)を得た。
【0026】
IR(cm-1,ATR法):3159,2922,2853,1632,1110,1053,919
1H-NMR(D2O,ppm):0.67-1.73(m,32H),3.03(t,J=6Hz,2H),3.28-3.59(m,11H),4.11(m,1H)
【0027】
実施例1 VEGFの遺伝子発現に及ぼす作用
(1)材料及び方法
評価は以下の手順で行った。試験にはヒト表皮株化細胞であるHaCaT細胞(DKFZより供与)を用いた。1穴あたり8×104cells/mlになるように細胞を12穴マイクロプレート3枚に播種した。培養にはDMEM(ギブコ、10%FBS)培地を用い、5%CO2、37℃の条件下で培養した。細胞密度が80%コンフルエントに達した後、培地を上記製造法で製造した化合物1〜3を任意の濃度で添加したDMEM(ギブコ、10%FBS)培地に交換し、試験を開始した。なお、陰性コントロールとしては化合物無添加のDMEM(ギブコ、10%FBS)培地を用いた。試験開始から24時間後、培地を回収し、培養上清中に分泌されたVEGFの量をELISAキット(R&Dシステムズ)により定量した。
【0028】
(2)結果
これらの評価結果を表1に示す。
表1より、化合物1〜3のVEGF産生促進作用が認められた。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1):
1−OPO32 (1)
〔式中、R1は炭素数12〜24のアルキル基、総炭素数12〜24のアルコキシアルキル基又は−CH(CH2OR2)CH2OR3(ここで、R2は炭素数8〜24のアルキル基を示し、R3は炭素数1〜18のアルキル基を示す)を示す。〕
で表される化合物又はその塩を有効成分とするVEGF産生促進剤。
【請求項2】
式(1)で表される化合物が、16−メチルオクタデシルリン酸、11−(2−メチルブトキシ)ウンデシルリン酸、1−n−テトラデシル−3−エチルグリセロ−2−リン酸又はこれらの塩である請求項1記載のVEGF産生促進剤。

【公開番号】特開2010−132603(P2010−132603A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310044(P2008−310044)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】