説明

W/O型エマルション燃料用の安定化剤およびそれを用いたW/O型エマルション燃料

【課題】石炭系コールタール蒸留残留物を安定なW/O型エマルション燃料として有効利用する。
【解決手段】水および石炭系コールタール蒸留残留物を含む混合物に特定の化合物を含む安定化剤を添加し、混合撹拌して得られるW/O型エマルション燃料により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、W/O型エマルション燃料用の安定化剤、およびそれを用いたW/O型エマルション燃料に関する。
さらに詳しくは、本発明は、石炭系コールタール蒸留残留物と水を含有するW/O型エマルション燃料に用いられる安定化剤であって、特定の化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とするW/O型エマルション燃料用の安定化剤、およびそれを用いたW/O型エマルション燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
原油、石炭およびLNG以外の化石燃料資源として、オイルサンド、天然アスファルト、コールタール残留物などの重質油がある。
これらの重質油は、通常、約420〜450℃の重質留分を約60〜70%含有する重質の油状物質であるが、これらの重質油はそのままでは数万cps以上の高粘度を有しているため、燃料として使用するには、その取扱いや噴霧による霧化などの面で難点があった。
【0003】
このような問題を解決するために、種々の方法が提案されている。
例えば、特開平11−172264号公報(特許文献1)には、O/W型のエマルション燃料を製造するための分散剤・安定化剤として、ナフタレン、アルキルナフタレンもしくはアルキルベンゼンのスルホン化合物の脂肪族アルデヒド付加物またはその塩、リグニンスルホン酸塩またはその誘導体などとポリエチレングリコール系界面活性剤との併用が提案されている。しかしながら、このエマルション燃料を良好に製造するためには、分散剤と安定化剤2種類以上を組み合わせて添加し、4000rpmの高速せん断混合機などの専用設備で行う必要がある。
【0004】
また、特開昭59−176392号公報(特許文献2)には、製紙廃水にタールピッチの如き重質油を徐々に添加混練して得られる燃料組成物が記載されている。
しかしながら、この燃料組成物には、製紙濃厚廃液の組成が個々の工場によって異なっていて一定でないため、出来上がった燃料組成物の品質にバラツキが生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−172264号公報
【特許文献2】特開昭59−176392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、石炭の乾留で生成するコールタールを蒸留した後に残る残留物、すなわち石炭系コールタール蒸留残留物を流動性に優れ、かつ長期間安定なW/O型エマルション燃料として有効利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、石炭系コールタール蒸留残留物と水を含有するW/O型エマルション燃料を製造する際に、特定の化合物から選択される1種以上を安定化剤として添加することにより、低粘度で流動性に優れ、かつ長期間安定なW/O型エマルション燃料が得られることを見出し、この発明を完成するに到った。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、石炭系コールタール蒸留残留物と水を含有するW/O型エマルション燃料を製造する際に、特定の安定化剤を添加することにより、比較的低速攪拌のみで低粘度で流動性に優れ、かつ長期間安定なW/O型エマルション燃料が得られる。
その結果、従来、利用分野が限られていた産業廃棄物としての石炭系コールタール蒸留残留物を、燃料として有効に活用することができ、省資源および環境保全の面で極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
かくして、この発明によれば、石炭系コールタール蒸留残留物と水を含有するW/O型エマルション燃料を製造するために用いられる安定化剤であって、下記の(a)〜(g)の少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする、W/O型エマルション燃料用の安定化剤が提供される。
(a)1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸
(b)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸またはホスフィノカルボン酸
(c)リグニンスルホン酸塩
(d)ナフタレンスルホン酸の縮合物
(e)ポリアクリル酸系化合物
(f)リン酸
(g)脂肪族オキシカルボン酸
【0010】
上記のリグニンスルホン酸塩としては、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カルシウムおよびリグニンスルホン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0011】
上記のポリアクリル酸系化合物としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スチレンスルホン酸共重合体などが挙げられる。
【0012】
また、上記の脂肪族オキシカルボン酸としては、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、リンゴ酸、グリコール酸、酒石酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、オキシ酪酸およびそれらのナトリウム塩、カリウム塩あるいはアンモニウム塩などが挙げられる。
【0013】
上記の安定化剤のうち、高温での長期安定性に優れたW/O型エマルション燃料を与えるという点で、1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸もしくはホスフィノカルボン酸、リグニンスルホン酸塩、またはナフタレンスルホン酸の縮合物を用いるのが好ましい。
また、比較的低速回転(例えば150〜800rpm程度)により、上記の効果を発揮できるという点で、1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸または2−ホスホノブタン−1、2、4−トリカルボン酸を用いるのが好ましく、少量の添加で同様の効果が得られる点では1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸を用いるのがさらに好ましい。
【0014】
なお、W/O型エマルション燃料用の安定化剤として、ナトリウム塩を含む安定化剤を用いる場合には、配合量によっては該燃料を使用する炉が損傷しやすかったり、燃焼後の灰が大量に生じたりする場合がある。
【0015】
本発明のW/O型エマルション燃料は、石炭系コールタール蒸留残留物、水、および下記の(a)〜(g)の少なくとも1種の化合物を含む安定化剤を含有することを特徴とする。
(a)1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸
(b)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸またはホスフィノカルボン酸か選択されるカルボン酸系化合物
(c)リグニンスルホン酸塩
(d)ナフタレンスルホン酸の縮合物
(e)ポリアクリル酸系化合物
(f)リン酸
(g)脂肪族オキシカルボン酸
【0016】
この発明のW/O型エマルション燃料の原料として用いられる石炭系コールタール蒸留残留物は、石炭の乾留で生成する茶褐色ないし黒色の粘稠な液状物質であるコールタールを蒸留して、ナフタレン油、アントラセン油などを分留した後に残る油状の残留物であり、例えば特開2003−55665号公報に記載されているように、コールタールを蒸留して得られるピッチ成分である。
【0017】
本発明のW/O型エマルション燃料における水の配合量は、W/O型エマルション燃料に対して5〜50w/w%が好ましく、10〜40w/w%がより好ましい。水の配合割合が5w/w%未満の場合には、高粘度となり燃料として使用し難い点で好ましくなく、50w/w%を超える場合には、燃料効率が低下することがある。
【0018】
本発明のW/O型エマルション燃料における安定化剤の配合割合は、W/O型エマルション燃料に対して0.01〜5.0w/w%が好ましく、0.05〜2.0w/w%がより好ましい。
安定化剤の配合割合が0.01w/w%より少ない場合には、長期安定性に優れるといった効果が得られ難い点で好ましくなく、5.0w/w%を超える場合には、経済的な観点から好ましくない。
【0019】
本発明のW/O型エマルション燃料は、石炭系コールタール蒸留残留物、水および安定化剤を含む混合物を30〜80℃程度に加熱した後、撹拌混合することにより製造することができる。
石炭系コールタール蒸留残留物、水および安定化剤の混合に際して、これらの各成分を加える順序は特に限定されないが、予め水に安定化剤を加えて得られる安定化剤の水溶液を、石炭系コールタール蒸留残留物と混合し、撹拌してエマルションとするのが好ましい。
【0020】
本発明のエマルション燃料には、その安定性を阻害しない範囲内で、軽油など既存の燃料用油や使用済み天ぷら油などの廃植物油あるいは炭末などをさらに添加してもよい。
上記のようにして得られる本発明のエマルション燃料は、長期間貯蔵してもエマルションの破壊もしくは凝集が少なく、しかも粘度を長期間にわたって低く保つことができる。
【実施例】
【0021】
この発明を実施例および試験例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例により限定されるものではない。
【0022】
〔石炭系コールタール蒸留残留物〕
コークス炉より発生するコールタールを分留して製造されたものを50℃に保温し、石炭系コールタール蒸留残留物として用いた。
【0023】
調製例1 W/O型エマルション燃料の調製
上記の石炭系コールタール蒸留残留物および安定化剤水溶液(安定化剤+水)を表1に記載の量(安定化剤は有効成分換算)となるように秤量し、トールビーカー(容量;300ml)中で混合した。この容器を50℃のウォーターバスの中に浸漬させ、ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、T.K.ホモミキサー マークII、回転数:10,000rpm)で15分間攪拌して、W/O型エマルション燃料120mlを製造した。
【0024】
試験例1 W/O型エマルション燃料の安定性試験
調製例1の各W/O型エマルション燃料を100mlのガラス製スクリュー管に分注し、密栓して50℃の定温乾燥器に入れ、12時間後および2週間後におけるエマルションの状態を観察した。
すなわち、高輝度LEDランプを光源として、スクリュー管の側面に強い光を当て、エマルションの分離の有無を目視で確認するとともにエマルションの状態を観察した。その結果を表1に示す。
なお、評価基準は次の通りである。
【0025】
〔評価基準〕
◎:均一
○:油層に微小水滴が散在
△:油層に水滴が散在
×:完全に分離
【0026】
【表1】

【0027】
上記の表1から明らかなように、本発明の安定化剤を用いて製造したエマルション燃料は、従来公知の無機酸や界面活性剤などからなる分散剤を添加して得られるエマルション燃料よりも、乳化安定性が優れており、長期間にわたってエマルション状態が維持されている。
【0028】
試験例2 W/O型エマルション燃料の安定性試験
石炭系コールタール蒸留残留物と安定化剤水溶液(安定化剤+水)とを、表2に記載の量(安定化剤は有効成分換算)となるように秤量し、スリーワンモータ(新東科学株式会社製、スリーワンモータ TYPE HEIDON R、攪拌翼:70mm 4枚羽根取り付け)により低速攪拌した。成分量、攪拌時間、回転数および安定化剤の濃度を表3に記載のとおりとした以外は、試験例1と同様の試験を行なった。
スリーワンモータを用いて調製した試料についての観察結果を表2に示す。評価基準は試験例1と同じである。
【0029】
【表2】

【0030】
上記の表2から明らかなように、本発明の安定化剤を用いて製造したエマルション燃料は、攪拌条件を変化(低速攪拌)させても、乳化安定性が優れており、長期間にわたってエマルション状態が維持されている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明により得られるエマルション燃料は、低粘度で流動性に優れ、かつ長期間安定であり、従来、利用分野が限られていた産業廃棄物としての石炭系コールタール蒸留残留物を、重油などの代替燃料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭系コールタール蒸留残渣物と水を含有するW/O型エマルション燃料を製造するために使用する安定化剤であって、該安定化剤が次の(a)〜(g)の少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とするW/O型エマルション燃料用の安定化剤:
(a)1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸
(b)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸またはホスフィノカルボン酸
(c)リグニンスルホン酸塩
(d)ナフタレンスルホン酸の縮合物
(e)ポリアクリル酸系化合物
(f)リン酸
(g)脂肪族オキシカルボン酸。
【請求項2】
上記の安定化剤が、次の(a)〜(d)の少なくとも1種の化合物である、請求項1記載のW/O型エマルション燃料用の安定化剤:
(a)1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸
(b)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸またはホスフィノカルボン酸
(c)リグニンスルホン酸塩
(d)ナフタレンスルホン酸の縮合物。
【請求項3】
上記の安定化剤が、次の(a)および(b)の少なくとも1種の化合物である、請求項1記載のW/O型エマルション燃料用の安定化剤:
(a)1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸
(b)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸またはホスフィノカルボン酸。
【請求項4】
上記の安定化剤が1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸である、請求項1記載のW/O型エマルション燃料用の安定化剤。
【請求項5】
石炭系コールタール蒸留残留物、水、および次の(a)〜(g)の少なくとも1種の化合物を含む安定化剤を含有することを特徴とするW/O型エマルション燃料:
(a)1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸
(b)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸またはホスフィノカルボン酸
(c)リグニンスルホン酸塩
(d)ナフタレンスルホン酸の縮合物
(e)ポリアクリル酸系化合物
(f)リン酸
(g)脂肪族オキシカルボン酸。
【請求項6】
水の配合割合が、W/O型エマルション燃料の全重量に対して5〜50w/w%である、請求項5に記載のW/O型エマルション燃料。
【請求項7】
安定化剤の配合割合が、W/O型エマルション燃料の全重量に対して0.01〜5.0w/w%である、請求項5に記載のW/O型エマルション燃料。
【請求項8】
上記の安定化剤が、次の(a)〜(d)の少なくとも1種の化合物である、請求項5〜7のいずれかに記載のW/O型エマルション燃料:
(a)1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸
(b)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸またはホスフィノカルボン酸
(c)リグニンスルホン酸塩
(d)ナフタレンスルホン酸の縮合物。
【請求項9】
上記の安定化剤が、次の(a)および(b)の少なくとも1種の化合物である、請求項5〜7のいずれかに記載のW/O型エマルション燃料:
(a)1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸
(b)2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸またはホスフィノカルボン酸
【請求項10】
上記の安定化剤が1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸である、請求項5〜7のいずれかに記載のW/O型エマルション燃料。

【公開番号】特開2011−219675(P2011−219675A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92242(P2010−92242)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(505112048)ナルコジャパン株式会社 (8)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】