説明

X線及び核分光システムにおける検出限界を向上するための方法及び装置

前置増幅器に付加された検出器で起こる事象のエネルギーあるいはその他の所望の特性を測定するために前置増幅器のステップ状のパルス出力をフィルタリングするための分光の方法および装置である。この分光計は異なる精度あるいは分解能を持つ所望の特性を測定することができる1組のフィルタを提供し、前置増幅器の信号を検出し、検出したパルスの連続した対の間の時間を測定する。それぞれの検出したパルスについて、この分光計は、そのパルスとその直前直後の検出したパルスの間の測定した時間間隔に基づいて、利用できるフィルタの組からフィルタを選択し、それをパルスに適用し、選択したフィルタを特定する1つまたは複数の指標を用いてフィルタリング操作の出力を指標化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、X線、ガンマ線、核子などの検出に用いられる放射線検出器に付加された前置増幅器によって生じるような、ステップ状信号事象を検出、計数及び振幅の測定をするためのシステムに関する。さらに本発明は、時変フィルタの適用、適用したフィルタのパラメータに従って決定される振幅の指標付け及び測定した振幅を事象ごとベースで1組のスペクトルに分類するために指標付けした値の使用によって、これらのステップ状事象の振幅を測定する際の精度の向上に関する。事象間の信号を適切に処理することによって基線の修正もまた行う。
【0002】
本出願は2004年6月4日付の米国仮特許出願No.60/577、389 “X線及び各分光システムにおける検出限界の向上” (発明者ウイリアム K. ウオーバートンほか) に優先するものであり、前記出願の全開示がすべての目的のために参照によって組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
説明するこの特定の実施例は、吸収した放射線あるいは粒子に反応して検出システムが発生するステップ状信号の処理、さらに特にリセット帰還型前置増幅器を有する高分解能、高速X線分光計におけるこのようなステップ状信号のディジタル的処理、に関する。この方法はまた抵抗帰還型前置増幅器を有するガス比例計数管、シンチレーション検出器及びガンマ線(γ線)分光計に、またさらに一般的に上述の特性を有するいかなる信号にも適用できる。上述の特定の実施例、すなわち鉱石中の希薄な元素の検出に関連する応用に特別の注意が払われているのは、単にそれがこの方法が最初に開発された分野だからである。
【0004】
我々が開発した技術はしたがってこの特定の応用に限定されると解釈してはならない。たとえば、電荷有感型前置増幅器によって集積される出力電流パルスを生じる、いかなる検出システムでもこの技術で取り扱うことができ、その検出量が光パルス、X線、核子、化学反応あるいは他のものであってもよい。電気的に同等である出力信号を生じる他の検出システムも同様に処理できる。たとえばシンチレータに取り付けられた光電子増倍管の電流出力はこの種の信号を発生する。
【0005】
図1は固体検出ダイオード7を用いた従来技術の放射線分光システムの回路ダイアグラムを示す。同様のシステムがX線、ガンマ線及びアルファならびにベータ粒子放射線を測定するのに使用されているが、その違いは主に検出ダイオード7の物理的形状であって、これはまた比例計数管あるいはその他の検出器で置き換えることもできる。これらの検出器7は、電源8によってバイアスされているとき、吸収事象を検出し、このパルスの全電荷QEが吸収した放射線あるいは粒子のエネルギーEにほぼ比例しているという、すべて共通の特性を有している。この電流は増幅器12によって帰還キャパシタ13に集積される前置増幅器10に流れ込み、その出力はそれから振幅Ae = QE/Cfのステップのあるが、ここにCfは帰還キャパシタ13の容量である。
【0006】
分光計増幅器15がそれからAEを測定するために使用される。最新の分光計増幅器15内で前置増幅器10の出力は、「低速」エネルギーフィルタ回路17と「高速」積み重なり検出回路18との両方に送られる。このエネルギーフィルタ回路はAeステップをフィルタして、低雑音の整形した、ピーク値がAEに比例する出力パルスを発生する。積み重なり検出回路は高速フィルタ及び弁別器を前置増幅器出力に適用してAe信号ステップ(事象)を検出し、フィルタピーク値捕捉回路20に信号を送り、エネルギーフィルタ回路17によって発生された整形したこれらのパルスからの振幅を捕捉するが、これらは充分な時間間隔を有しているのでお互いの振幅を歪ませることはない(つまり「積み重なって」していない)。「高速」と「低速」の間の区別はそれぞれの応用によって相対的であるが、一般に「高速」フィルタの時定数は「低速」エネルギーフィルタの少なくとも10倍短い(たとえば典型的なX線分光計における高速フィルタは200nsでエネルギーフィルタは4 μs)。この検出回路18はまたいつ事象が充分に分離されるかを決定し、それによってエネルギーフィルタ回路がそのDC値(つまり非ゼロオフセット)に戻り、基線捕捉回路22にこれらの値を捕捉するように信号を送り、これによってこの値を捕捉したピーク値から減算回路23によって減算する。これらの差はそれから入射放射線中に存在するエネルギー値のスペクトル的表示(スペクトル)を形成するため、多チャンネル分析装置(MCA)あるいはディジタル信号処理装置(DSP)25に転送される。
【0007】
分光計増幅器の作り方は比較的成熟しており、またアナログとディジタル電子回路の両方による多数の変形があり、図1にその基本回路を示す。クノルの参考書は本題について良い手引きを提供している[クノル 1989]。さらにこれについてウオーバートンほか. による特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4[ウオーバートン 1997、1999A、1999B、及び2003]。たとえばいくつかの設計において、フィルタピーク捕捉回路はピークを自動的に検出、捕捉し、積み重なり検査器の仕事は捕捉が有効か無効かを弁別して、有効な値のみを減算回路23に送ることを許すことである。さらに図示した要素の順序は同じ目的を達成するために変更してもよい。このようにアナログ回路において基線捕捉回路は通常スイッチト・キャパシタであり、これは基線が有効である間はエネルギーフィルタ回路17の出力に結合されており、積み重なり検査回路が事象を検出すると切り離される。この回路の時定数はフィルタ基線雑音に対して充分大きい。さらに減算回路23は一般に演算増幅器で、その負入力にキャパシタ電圧が印加され、その正入力にピーク捕捉増幅器20が接続されている。場合によって回路20と回路23の順序が入れ替わっており、これによりピーク振幅が捕捉される前にオフセットがエネルギーフィルタ回路の出力から除去される。実際に従来のMCAにおいて、ピーク捕捉能力はMCA25の中に含まれており、分光計増幅器15から全体が削除される。ディジタル分光計では、信号と同じ雑音を有する単一の基線値を捕捉する点が若干異なっている。この場合基線値は一般に雑音を低減するため平均を取り、この平均<b>を減算回路23に渡す。正味の結果はしかし同じであり、図1に示す基本機能はこれらの分光計の動作の本質を一括して捉えている。
【0008】
(積み重なり検査及び計数率/エネルギー分解能のトレードオフ)
上述のように事象振幅は前置増幅器信号をフィルタする(あるいは「整形」する)ことにより得られる。最も簡単な、ディジタル台形フィルタの場合、これは事象の前後における前置増幅器信号の平均を作り、両者の差を取ることを行う。測定誤差はその場合2乗して加えられた2つの平均の誤差の合計である。平均における誤差は平均する時間を増加することによって雑音が白色電力スペクトル(つまり直列雑音)を持つ程度に低減することができる。これは高計数動作に対する一般的な手法であり、ここでは平均期間(つまりピーキング時間)を延ばしてエネルギー分解能を向上する。しかし、平均期間中に他の事象が到来すると測定は損なわれ(両方の事象に対して)、これらは「積み重なり」と呼ばれるが、それはエネルギーフィルタからの出力信号がお互いの上に積み重なった2つの事象からの整形パルスの合計だからである。他のディジタルあるいはアナログ整形増幅器ではもっと複雑なフィルタを使用することができるが、基本的な制約事項は同じである。つまり長いピーキング(整形)時間はエネルギー分解能を向上させるが、積み重なりを増加させ、一方短いピーキング時間はスループットを向上させるが、エネルギー分解能は低下する。このような訳で現状技術による分光計では、動作させるピーキング時間の選択はいつも、受け入れられる分解能でのスペクトルに充分な数のカウント数を収集できるという妥協である。
【0009】
ポアソン統計学により不感のデッドタイムとランダムな事象到着時間を仮定すれば、積み重ならないカウント数は容易に決定でき、入力計数率(ICR)に対する出力係数率(OCR)のお馴染みのスループット公式が次のように得られる。
【数1】

ここにデッドタイムτd は信号を平均する時間に関係し、良い分光計では整形パルスの基本幅にほぼ同じである。台形フィルタを使用する最近のディジタル分光計においてデッドタイムは2* (ピーキング時間τp +平頂時間τg )である[ウオーバートン - 2003]。式1における最大値はOCRmax =exp(-1)/ τd at IRCmax =1/τdで、スループットを最適化するτp(またそれ故にτd )はICRに依存することを示す。
【0010】
一方、式1からτd を減らすことは常にスループットを増やし、要求されるτp低減はまたエネルギー分解能を悪くし、このことは実際には受け容れがたい。たとえば、図2Aは相当なバックグラウンドの計数率の上にある弱いスペクトル線を示す。多くの重要な検出問題は、複雑な物質中にある薄い元素濃度の定量、天然のバックグラウンドに対して少量の放射性物質の検出、あるいは強い弾性散乱のあるところでの弱い蛍光プロセスの測定を含む、この類である。典型的にはピークP2のカウントはP2領域におけるカウントを合計し、それから領域B1及びB2における測定から推定したバックグラウンドを差し引いて得られる。ピークが孤立して発生することは稀なので、もっと普通の実際の状態は図2Bあるいは図2Cに似ており、ここではバックグラウンド測定をするための領域がピーク間の分離と分光計の分解能との間の違いにより制約される。明らかにたとえば図2B及び図2Cでエネルギー分解能が2倍向上した場合、相対的に言って図2Bは図2Aに似ており、図2Cは、ピーク及びバックグラウンド測定を行うために利用できる相対的なチャネル数に関して図2Bに似ている。実際に検出限界の観点からすると、分光計のエネルギー分解能ΔEの値が小さくなればなるほど良くなるが、それはP2に貢献しているスペクトル線S2からの計数は ΔEが減少しても一定であるが、バックグラウンドの計数は ΔEに比例して減少するからである。このように領域B1及びB2が増加すると、バックグラウンドによる両方の乖離度は減少し、それに伴って得られる精度は増加する。したがってこの観点から ΔEを減少させるためピーキング時間τpを可能な限り長くすることが必要である。このことは根本的なジレンマにつながる、というのはある点を超えると積み重なりによる計数の損失が分解能向上によるさらなる利得を打ち消してしまうからである。
【0011】
(時変フィルタリング法)
時変フィルタリングは事象ごとに信号を平均する時間を調節することによってこのトレードオフを最適化しようとする。図3はこの様子を7つの事象についての前置増幅器の軌跡40と共に示す。1μsの台形フィルタ42を使って5つの事象は正しくフィルタされ、2つ(No.5と6)は積み重なっている。2μsの台形フィルタ43を使うと2つだけ(No.3と4)が正しくフィルタされ、残りは積み重なっている。しかし、最初にケーマンによって考案され、後にその他の人によって開発、商用化された[ケーマン - 1975、ラカトス - 1990、オーデット - 1994及びモット - 1944]この時変の手法において、事象のそれぞれの対の間の全期間が信号平均化プロセスに使用されている。ある場合には単純移動和平均が用いられるが、一般には点の全ての組がディジタル信号プロセッサのメモリに記録され、間隔の長さに応じて特定の重み付けの組を選択しながら、フィルタ機能の重み付けが適用される。図3でこの間隔は事象の立ち上がり時間を除く水平な線47で表されている。対称台形フィルタリングの場合の延長として単純移動平均が使用された場合、各事象は、曲線の下の点線48で示されているように、その立ち上がり時間が先行事象までの時間であり、その立ち下がり時間が次の事象までの時間であるような非対称の台形により処理される。
【0012】
【特許文献1】米国特許5、684、850
【特許文献2】米国特許5、870、054
【特許文献3】米国特許5、873、054
【特許文献4】米国特許6、606075B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
時変フィルタリングには利点と欠点が認められる。主要な利点はそれが効率的であることである。ある最小許容測定時間により分離されたすべての事象が処理され、利用可能なだけの多くの情報が使用される。これによりある所定の計数率に対して時変プロセッサはより大きなスループットだけでなく、より良好なエネルギー分解能も達成する。しかしこの方法は3つの重要な欠点がある。まず事象の処理に使用する可変整形時間の範囲に対応するいろいろな分解能を持つ多数のガウス分布から成り立つため、そのスペクトル応答関数はガウス関数ではない。そのこと自体は悪くない。第2の問題は、処理時間が長いものや短いものがあって処理する事象の数が変化するため、応答関数の形がICRに伴って変化することである。この事実により、標準物質測定の使用に基づいている多数の分析法に使用する方法としてはこの方法は不適格である。標準及び未知の物質が同一のICRで収集されることを保証する方法がないため、両者間でピーク形状を正確に比較することができず、分析法としては落第である。最後に、これらの時変フィルタは事象を処理するのにすべての利用可能なデータを使用するため、基線測定を行うためのデータが残されておらず、そのために分解能が低下するので同じく受け容れがたい。したがって、特に目的が大きいバックグラウンドに対して弱い線を測定することである状況では、貧弱な定義あるいは定義されない応答関数の罰なしにスループットと分解能を向上した事象処理方法を持つことが望ましい。それはさらに高い計数率において、またその他の種類の変化に対して応答関数を安定させるための基線測定を行えるのでさらに有用であろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、各パルスについて得られる情報の量を最大にし、それによって測定精度の特定の水準に到達するために処理することが必要なパルスの数を減らすような方法で、前置増幅器に付加された検出器に発生する事象の1つ又は複数の特性を決定するために、前置増幅器の出力におけるステップ状のパルスをフィルタするための方法(方法及び装置を含む)を提供する。本発明は放射線分光法に関連して開発されたが、同じ方法が、ランダムの到着するステップ状のパルス信号のフィルタリングを含むどのような状況にも適用できる。
【0015】
簡単に言うとこの手法は、前置増幅器信号中にステップ状のパルスが存在することを検出する手段と、検出したパルスの連続する対の間の時間を測定する手段と、パルスの1つ又は複数の特性の評価を得るためにステップ状パルスのフィルタリングが可能な1組のフィルタとを持つ分光計を提供する。この分光計は、各検出パルスにフィルタを適用し、その適用フィルタは検出パルスとその直前のパルス及び後続のパルスとの間の測定時間間隔に基づいて利用可能なフィルタの組から選択し、適用したフィルタを特定する1つ又は複数の指標により適用したフィルタの出力を指標化する。指標化したフィルタ出力は、それから各出力を特定のカテゴリーあるいはその指標の値に基づくカテゴリーに割り当てることによって、複数のカテゴリーに分類することができる。
【0016】
放射線分光法の関連においてステップ状パルスの振幅が一般に重要な特性である、というのはそれが検出器内への放射線吸収事象のエネルギーに比例するからである。この場合フィルタの組は整形あるいは立ち上がり時間で特性化される整形フィルタであり、パルスの振幅、したがって事象のエネルギー、の推定を行い、これらの推定はフィルタの整形時間を特定する指標により指標化される。整形フィルタのエネルギー分解能はその整形時間に関係するから、フィルタの出力をカテゴリーあるいは「スペクトル」に分類するのに整形時間を使用することが1組のスペクトルを生成し、その各スペクトルはそれぞれ固有のエネルギー分解能を有する。このように、従来の分光計が複数のフィルタあるいは適応フィルタを有する場合、そのすべての出力が単一のスペクトルに置かれ、良いエネルギー分解能を持つフィルタからの出力がそれより劣るフィルタからの出力と混合されるので情報が失われるのとは対照的に、フィルタから生成されるすべての情報が維持される。
【0017】
また、フィルタの組の一員として多数の異なるフィルタを実現することが可能であるから、1組のフィルタの性能を定量化し、また異なる組のフィルタの効率を比較することができるようにするために、「品質係数」の概念を導入する。好ましい品質係数は、規定した信号雑音比でバックグラウンドの上にあるピークを検出するのに必要な時間の逆数である。この定義を使って最大の品質係数を有する組を見出すことにより、ある特定の測定に対する最適なフィルタの組を選択できる。この最適組を決定する2つの方法を説明する。1つはピーキング時間が数学的にお互いに関係している場合であり、もう1つはそうでない場合である。
【0018】
パルス振幅が重要な一般的特性である一方で、その面積や、時間とともに減衰するパルスの場合には減衰を記述する時定数、これはパルスベースによってパルス上で変化する可能性があるが、を含むその他の特性がある。ステップ状パルスはまた検出器における吸収事象以外の他のプロセスにおいても発生し、本方法はこれらの解析にも同様に有益に使用できる。たとえば本方法は、固体あるいはガス光子検出器からのパルスの振幅、あるいはガンマ線やエネルギーを持つ粒子を吸収するシンチレータからのパルスの面積あるいは減衰時間、あるいは光子又は中性子を吸収する超伝導ボロメータが発生するパルスの振幅あるいは面積を決定するのに使用できる。
【0019】
適用したフィルタの出力はまた、前置増幅器の信号中の残留勾配あるいはDCオフセットを、ステップ状パルスの存在しない信号の部分近辺にフィルタが適用された場合にフィルタ出力に現れるその部分を代表する基線値をそれから減算することにより埋め合わせるために、基線修正できる。基線値は、ステップ状パルスの存在しない時点における第2の「基線」フィルタの基線値を測定し、この測定値を適用したフィルタと基線フィルタのパラメータ間の差を説明するようにスケーリングすることにより、推定することができる。この手法の精度は、スケーリング作業を複数の基線フィルタ測定に適用することにより上げることができる。
【0020】
本明細書は簡単なものから複雑なものまで、本方法を示すために3つの実施例を説明する。これらの実施例はディジタル信号処理技術を用いるともっとも容易に構成されるが、これは本方法の必要条件ではない。
【0021】
最初の実施例において、分光計は、発生する検出器事象のエネルギーを決定するために4つのエネルギーフィルタを有するが、これらのフィルタはピーキング時間で特性化されている。この分光計はまた検出された2つのパルスの間の時間を測定するための高速パルス検出回路と積み重なり検査回路を有する。各検出パルスについてこの回路はそのパルスと先行及び後続パルスとの間隔を測定し、それから先行及び後続時間間隔よりも短かく、最も長いピーキング時間を持つフィルタでパルスを処理する。この特定の実施例においてこの選択基準は、連続的に前置増幅器の信号を処理し、それらをマルチプレクサを経由してピーク捕捉回路に接続する4つのフィルタを有することにより実行される。高速パルス検出回路がパルスを検出するたびに、積み重なり検査回路が最も短いピーキング時間のフィルタから順番に各フィルタからのピーク出力を捕捉するためにマルチプレクサのゲートを、マルチプレクサに接続される次のフィルタが選択基準を侵犯する時点に達するまで、開く。捕捉されたピーク振幅はそれからそのパルスがピーキング時間τj を持つフィルタから捕捉されたことを示す値jで指標化されるが、ここにjは4つのフィルタに対して0から3の値を取る。指標化ののち、捕捉されたピーク振幅はそのフィルタに対応するスペクトルSjに投入される。本実施例におけるピーキング時間は任意であるが、場合によっては形状順序τj = τ0 Kj を形成する値、特にK = 2に選ぶと好都合である。この場合最適なフィルタの組は、τ3 が最大許容値を越えないすべてのτ0 の値について品質係数を計算し、この品質係数が最大の組を選択することにより見つけることができる。このフィルタ出力は、フィルタの1つ(たとえばτ0 フィルタ)の基線値bをパルスが存在しない時点で捕捉し、これらの測定の移動平均値<b>を更新することにより修正された基線とすることができる。τ0 とτj との差を説明するために適当にスケールされたこの値<b>をそれから基線修正のためτj フィルタから捕捉された出力から減算することができる。
【0022】
第2の実施例において各フィルタは2つの移動和サブフィルタから成り、その1つは検出パルス前の時間領域τj にわたって信号を加算し、もう1つは検出パルス後の時間領域τk にわたって信号を加算する。提示した設計において、長さτj = 2j τ0 の4つの利用可能な移動和があり、したがって検出パルスの処理に16個のフィルタが利用できるが、フィルタの対(τjk)はフィルタの対(τjj)と同じエネルギー分解能を持つので、そのうちの10個が固有のエネルギー分解能を有する。4つのフィルタすべてが連続的に前置増幅器の信号を処理するが、その出力値は以下のように動作する積み重なり検査の制御とタイミング制御の下で捕捉される。パルスが検出されるたびに制御回路がクロックを始動する。クロック値がτ0 に達するとτ0フィルタの出力が捕捉され、指標として値0が記録される。クロックがτ1 に達するとτ1フィルタの出力が捕捉され、指標として1が記録される。このようにτ3 に到達するかあるいは他のパルスが検出されるまで行う。これらの「遅行」加算はゲート付き「エネルギー」減算器の負入力レジスタに取り込まれ、そのたびに前の値を置き換える。次のパルスが検出されると、タイミング制御は遅行和の記録指標を、その次のパルスのちょうど到着前に動作が可能なようにおおまかに遅延されたそのフィルタの第2の出力を捕捉するために使用する。このフィルタ出力値は、エネルギー減算器の正入力に伝送するため「先行」和捕捉レジスタに保存される。このように各パルスについて先行和及び遅行和が捕捉され、それらの差がそのパルスの振幅推定に使用される。しかし異なるτ 値を持つ加算値は異なる項数を持つので、それらを減算する前にスケールすることが必要である。この実施例において長さτ はτj =2jτ0 の形を持つので、スケーリングは捕捉段階の前にシフトレジスタを使って行うが、すべての出力がτ3 フィルタに適合するようにτj フィルタの出力を(3-j)ビットだけ左にシフトする。タイミング制御は、その差を取るためにエネルギー減算器のゲートを開くのと同時にパルスの先行和及び遅行和の指標をインデックスレジスタに置く。このように本実施例において適用するフィルタの選択は2段階で起こり、それはすなわちパルス前に信号を処理する先行フィルタの選択と、パルス後に信号を処理する遅行フィルタの選択である。適用するフィルタの出力は、したがってエネルギー減算器により生成される値であり、これはディジタル信号プロセッサ(DSP)により読み込まれ、それからDSPがインデックスレジスタから読むその指標の値に応じて10個のスペクトルの1つに置かれる。これらのスペクトルの分解能は相当に変化し得る。たとえば、鉱石中の重金属を検出するために用いられる80 mm平面HP Ge検出器に対して0.575 μsのピーキング時間τ0 値を用いると、(τ00)フィルタに対する796 eVと(τ33)フィルタに対する446 eVとの間のスペクトル分解能が得られる。さらに簡単な性能モデルは、個別のフィルタの分解能を保存することにより、弱いスペクトル線について規定の信号雑音比を達成するための計数時間を単一フィルタだけを用いた最適処理に比べて50%まで低減できることを示す。
【0023】
本実施例は基線修正をするのが難しくない。検出パルスのない充分な長さの領域において加算フィルタの1つ(たとえばτ2 フィルタ)の連続測定値を取り、それらを減算することによって前置増幅器信号における平均勾配sを測定する場合、L32s/2の値を得るが、ここにL3はτ3 フィルタにおけるサンプル値の数で、これからsが容易に得られる。適用したフィルタ出力がその間にパルス自身を除いてGサンプルの間隔のある(3-j)ビットだけビットシフトしたτj 先行和と(3-i)ビットだけビットシフトしたτi 遅行和とから成る場合、先行和について2j-3 (L32s/2)を、また遅行和について2i-3 (L32s/2)を、またL3Gsを全基線修正に対する間隔領域について減算するだけでよい。これはゲートアレイロジックあるいはDSPによって容易に実行できる。L32s/2及びs又はそのいずれかの複数測定を行い、それを平均すれば基線修正の精度が向上する。間隔Gが同様にτ0 の2乗に拘束される場合、G = 2g-1 L0と書くことができ、間隔基線修正項は2g-3 (L32s/2) と簡単になる。このことは、特に修正をゲートアレイで実行するとき好都合である、というのは新たに基線測定を行い、DSPが新しい基線平均を計算するたびに、単一修正項(L32s/2)だけをDSPからダウンロードするだけでよいからである。
【0024】
4つのフィルタのピーキング時間が単純な関係にあれば最適な組は前記の方法で容易に見つかる。しかしその間に単純な数学的関係がない場合、異なる最適化アルゴリズムが必要である。この場合フィルタの組の品質計数を4つのピーキング時間の項で表し(解析的に、あるいは数値計算的に)、それから標準の商用データ解析パッケージの中で普通に利用できる種類の最大値探索ルーチンを適用する。
【0025】
第3の実施例は第2の実施例と同様であるが、4つの固定長の移動和フィルタを使う代わりに、クロックサイクルの中で各検出パルス対の間の長さLが規定の最小値Lminより大きく、また規定の最大値Lmaxを越えない場合に、その間の値をすべて平均する適応長移動和フィルタを使用する点が異なる。最小長Lminは、その先行及び遅行和が共にLminである、最短の適用フィルタのエネルギー分解能が解析的に有用であるために必要である。最大長Lmaxは、検出器の漏洩電流がある場合、ある特定の値よりも長いフィルタ時間がかかるときこの種のフィルタのエネルギー分解能が劣化するので必要である。したがってこの回路のタイミング制御クロックカウンタが値Lmaxに到達したとき、このフィルタは適応長フィルタから、その先行及び遅行値が第2の実施例と同様に捕捉される固定長フィルタに変換される。2つの検出パルスの間隔がLmaxより小さいか等しいとき、パルスが検出されたときフィルタからただ1つの値が捕捉され、それは前のパルスに対しては遅行和として、また検出パルスに対して先行和として使われる。この場合、移動和フィルタから捕捉される値はその捕捉長Ljで指標化され、それはLminとLmaxとの間で変動する。適用したフィルタの出力はそれからその先行及び遅行和長の対のLの値(Lj-1, Lj)で指標化される。
【0026】
全適応移動和フィルタはLの値 Lt = (Lmax - Lmin +1)を持ち、ここにLtは数百であるから、Lt (Lt + 1)/2の別々の独自のスペクトルを生成するのは通常有益ではない。したがって適用フィルタ出力を、それに貢献するフィルタがそれらの平均分解能の受け容れられるほどの小さなパーセンテージだけ異なっているスペクトルの小さな数Nに投入する方法を示す。フィルタ出力はこれらのスペクトルに2段階で投入される。まずディメンジョン(Lmax - Lmin +1)のルックアップテーブルを使ってLj-1とLjの両方を、ある整数mに対して0からm-1の範囲の新しい指標J1とJ2に変換する。アドレスmJ2 + J1を生成すると、ディメンジョンm2の第2のルックアップテーブルを、フィルタ出力を投入するスペクトルの身元を割り出すのに使用することができる。この実施例において、エネルギー分解能対(Lj-1, Lj)の16の等高線を持つ対数・対数等高線図を作成し、それからそれをm = 32でm x mに分割して、Ltが380(あるいは(Lj-1, Lj)の72、390の個別の値)であるスペクトルが、それぞれが6%以上のエネルギー変化を持たない16のスペクトルにどのようにマップされるかを示した。
【0027】
本実施例はお互いに単純な関係でない多数のフィルタ長を有するので、基線修正は各移動和に対して(L+G)(L+1)s/2を用いてDSPで計算するか、そうでなければこれらを適応移動和が信号をフィルタしている進行中に計算することができる。これを一対のリセット可能な加算器を用いて実現できることを示すが、パルスが検出されたのち移動和フィルタが再始動するごとに、この最初の加算器は値sG/2にリセットされ、第2の加算器はゼロにリセットされる。最初のリセット可能な加算器はそれから信号勾配sの値をクロックサイクルごとにその出力に加えるように構成され、一方第2の加算器は最初の加算器の出力をクロックサイクルごとにその出力に加算するが、我々はこれが、移動和フィルタが動作しているとき同じL回のクロックサイクルののち所望の修正項(L+G)(L+1)s/2を生成することを示す。
【0028】
最後に特に適用したフィルタがサブフィルタの一次結合の場合その基線修正はサブフィルタ基線修正の同じ一次結合として表せることに留意しながら、この方法が、重み付けした、あるいは重み付けしないサンプル値の一次結合を含むもっと一般的なフィルタ体系にどのように拡張できるか、またこの場合基線修正がどのように実現できるかを説明する。また本方法がその振幅以外のパルス特性に関心があるステップ状のパルスにどのように適用できるか調べよう。たとえば、シンチレータ結晶からのパルスでは、パルス面積が粒子エネルギーの最良の尺度であり、また光出力の減衰定数をある粒子同定の仕組みに使用することができる。これらの特性はすべて適切に設計されたフィルタ構成により得ることができ、したがってこの発明による方法の適用から恩恵を受ける可能性がある。最後に、ステップ状のパルスが瞬間的な刺激に対する単極あるいは多極装置の予想される応答であり、したがって非常に一般的な信号の種類であると考えられるので、本方法は本来考案され開発された光子及び粒子検出器の領域を越えて応用を見出すことが期待できることを示している。
【0029】
明細書の残りの部分と図面を参照して本発明の性質及び利点のさらなる理解を深める。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
1. 多スペクトル投入の導入
1.1 4つのピーキング時間を持つ分光計
図4は本発明の考案を具体化した単純な分光計を示す。これは2つの主なブロック、すなわち図1のブロック15に相当する分光計本体50と、図1のブロック25に相当するDSPブロックとから成る。2つのブロック間の通信は割り込み線52とデータ及びアドレスバス53及び54とによって取り扱われる。分光計本体50は高速チャネル61とエネルギーチャネル62とから成り、この高速チャネルは積み重なり検査回路64に接続された高速事象検出フィルタ63から成り、一方エネルギーチャネルは4つのエネルギーフィルタ65、66、67及び68と、4つのフィルタをゲート付きピーク捕捉回路71に接続しているゲート付きマルチプレクサ70を含む。ゲート付き基線捕捉回路72により基線測定を行うことができる。DSP51はゲート付きピーク捕捉回路71とゲート付き基線捕捉回路72からデータバス53及びアドレスバス54を経由してデータを取得する。これらの回路はすべて一般的なもので、技術に詳しい専門家にはよく知られているアナログあるいはディジタル技術を用いて実現できる。説明の便宜のためにエネルギーフィルタはピーキング時間の増加順に配置されている。
【0031】
動作の際は、すべてのフィルタの入力は前置増幅器に接続される。その回路がディジタルの場合、入力信号はすでにディジタル化されている。高速事象検出回路63は入力信号中の事象(信号ステップ)を検出し、これにより積み重なり検査回路64は連続事象間の時間間隔を測定でき、積み重なりがない各事象をフィルタするのに使用できる最長ピーキング時間フィルタを選択するために、それを4つのエネルギーフィルタのピーキング時間t0 - t3と比較する。
【0032】
選択は次のように行われる。各検出事象iについて積み重なり検査回路64はその前の間隔をピーキング時間t0 - t3と比較し、間隔よりも小さい最大値tiを保存する。どのti値も基準を満たさない場合には、この事象の処理を省略する。積み重なり検査回路64が事象iを検出したとき、事象i+1との間隔を測定するためにタイマを始動させ、マルチプレクサ70をt0エネルギーフィルタ65に接続する。タイマが値t0に到達すると積み重なり検査回路は、t0エネルギーフィルタによる整形パルス出力のピーク値を捕捉するためにピーク捕捉回路71のゲートをトリガする。捕捉が完了したのちマルチプレクサをt1エネルギーフィルタ66に接続し、間隔がt1を超過した場合このフィルタのピークを捕捉することができるようにタイマを値t1と比較する。他のパルスの到着により停止されるかあるいはタイマが前の間隔の保存値tiを越えなければ、この処理を時間t2及びt3について繰り返す。処理の終わりにはピーク捕捉回路71は、事象の前及び後の両方の間隔により許容された最長ピーキング時間を持つエネルギーフィルタによるピーク値出力を保持している。これはまたどのエネルギーフィルタが捕捉値を供給したかを示す2ビットインデックスレジスタを満たす。
【0033】
上記の説明で、対称的なパルス整形、非対称パルス整形への拡張を4つのフィルタの立ち上がり時間及び立ち下がり時間に対するt0 - t3の2つの値の組を保存し、それを試験の適切な時点で使用することによる単純なやり方で行うこと、を仮定した。
【0034】
パルス振幅が捕捉されると積み重なり検査回路64は割り込み線52上のDSP51に信号を送る。このDSPはそれからアドレスバス54及びデータバス53を使ってその事象のエネルギーを表す捕捉値を読む。DSPはまた2ビットインデックスレジスタを読み、その値をその関連するエネルギーフィルタに特に割り当てられたスペクトルに捕捉した値を投入するアドレスとして使用する。このようにDSPは4つの個別のスペクトルを生成し、t0フィルタから捕捉された値はスペクトルS0に、t1からの値はスペクトルS1に、という具合に置く。4つのスペクトルは図4のDSP51の内側に図示されている。各スペクトルはその関連フィルタのピーキング時間のエネルギー分解能特性を保存している。本図は、最短のピーキング時間t0に関連するS0における最悪のエネルギー分解能及び最長のピーキング時間t3に関連するS3における最良のエネルギー分解能によって、このことを図式的に示している。
【0035】
この分類処理は4つのフィルタが入力データストリームから集められるできるだけ多くの情報を保持する。パルス間の間隔が最長ピーキング時間フィルタt3を使って処理することを許す場合はそれを行う。そうでない場合には次に短いフィルタを順に試み、このようにしてできるだけ長いピーキング時間を常に使用する。こうして各フィルタからのデータを別々に分類し、これを混合しないことにより、情報が保持される。
【0036】
この回路動作においてフィルタの組のピーキング時間の間に特別な関係や使用するフィルタの数の制約を必要としない。しかし明らかに入力信号から抽出できる情報量は選択した特定のピーキング時間に依存する。この選択はまた予想計数率に依存する。パルス間の平均時間が10μs のとき1μsのフィルタを使用するのは明らかに最適ではないし、パルス間の平均時間が1μs のとき10 μsのフィルタを適用しようと試みるのも同様である。一方で回路が何日かは1 Mcpsを、また何日かは100 Kcpsを処理する場合には両方のフィルタ長が利用できるのが賢明であろう。以下に示すモデル化の結果は幾何級数の形(つまりτj = τ0Kjの形ではない)のピーキング時間を使用するのが、特にKが整数2であるとき、うまく行くことを示している。
【0037】
1.2 基線サンプリングの追加
基線サンプリングは、基線修正をするのにあるピーキング時間のフィルタを使って行った測定を、それとは異なるピーキング時間のエネルギーフィルタを使って行った測定にどのように用いるかを示したウオーバートンほか[ウオーバートン - 2003B]の方法を適用することにより、容易に図4の分光計に追加できる。今の場合基線測定を捕捉するためにウオーバートンほか.が示したように、ゲート付き基線捕捉回路72をt0エネルギーフィルタの出力に付加し、積み重なり検査回路からそれのゲートを開く。DSP50が時に応じてアドレスバス54及びデータバス53を用いてこれらの捕捉された値を読み、基線平均<b>を更新する。それから現在の<b>の値をピーク捕捉回路71から捕捉したエネルギーフィルタの値をスペクトルS0 - S3に配置する前にそれらの基線修正に適用するのに用いる。
【0038】
2. 多スペクトル投入の利点の分析
これまでの説明で、どのように複数のエネルギーフィルタから各エネルギーフィルタ本来のエネルギー分解能を保持するような方法で複数のスペクトルを生成するかを示した。立ち上がり時間と立ち下がり時間が異なるような時変フィルタを用いる実施例の説明に進む前に、この「多スペクトル」手法から生じる利点を調べるのが有益である。特に特定の検出限度を達成するために必要な計数時間が、特にバックグラウンドの計数率に比較して弱い信号の場合に、大幅に低減することを示したい。
【0039】
2.1 信号雑音比Kを達成するための品質係数と時間
本発明の便益をモデル化するにはある仮定が必要であるが、それは主に便益がこの方法を適用する実験状況によって変化するからである。したがって説明の目的で図2Bに示したのと同様のパルスの測定を試みると仮定するが、ここに基線におけるエネルギ―分解能がRで、最も近いスペクトル線との局部的な分離はESである。バックグラウンド計数率b及び線のスペクトル強度sは、立ち上がり時間τiと立ち下がり時間τjを持つエネルギーフィルタのエネルギー分解能Rij(バックグラウンドにおける)とは独立であるから、スペクトルSijにおいて線とバックグラウンドの両方を含むこの線からの計数期待値NSijは計数時間tののち、
【数2】

であり、ここにOCRijはSijへの出力係数率である。「期待値」とは統計的に測定する平均値を意味し、測定を多数回繰り返す場合、等号 ≡ で表される。関心領域(ROI)へのバックグラウンド計数の回数はRijに比例し、これはROIのエネルギー幅を定義するが、一方、スペクトル計数の回数はRijとは独立である。sを決定するためにバックグラウンドを減算する必要がある。
【0040】
各スペクトルにおいて、ROIのB1及びB2を用いてバックグラウンドを測定する。その幅を2(ES - Rij)と近似すると、スペクトルSijにおけるバックグラウンド計数測定の期待値Nbijは、
【数3】

である。スペクトルSijから測定した値Nb1ijとNb2ijは結合して次式により値sの推定値sijを作ることができる。
【数4】

その分散σ2sijは期待値
【数5】

を持つ。
【0041】
ここで<s>の最良推定、最小2乗法の意味での、をスペクトルの組{Sij}にわたる測定値の組{sij}から次式に従って作る。
【数6】

ここにWは重み1/σ2sijの総和である。
【0042】
スペクトルの組{Sij}から<s>を推定するために他の手法が使えることは明らかである。たとえばまずスペクトルの組{Sij}における測定値Nbijからバックグラウンドの最小2乗最良推定<b>を作り、それから数式2の<b>を使って{sij}の組を得ることができる。あるいは適合関数として個々のスペクトルの分解能関数を使って、sとbの両方を推定するためにスペクトル{Sij}の完全な組から同時にデータを適合させることもできる。特にこの手法によれば、スペクトル線の高密度領域(たとえばX線のl線あるいは核放射線)あるいは本来エネルギー分解能が貧弱な計器(たとえば比例計数管)への適用において遭遇するような場合、図2Cのように分解能RijがESを越えるスペクトルSijを使うことができる。実験の状態及びその要求に応じてこれらのすべての方法において多スペクトルデータの使用を意図する一方で、数式6で表される手法について議論を限定する。
【0043】
どの特定の測定の目的も、特定の精度Kについて<s>を測定することであると見なされる、つまり次式を与える特定の信号雑音比Kを求めることである。
【数7】

したがって次式に従ってσ2<s>を推定する。
【数8】

ここに<s>は数式4と数式5とを使って数式6から求められる。
【0044】
「品質係数」Q = 1/tK 、ここにtKは所望の信号雑音比を得るのに必要な時間である、を定義すると、いくらかの操作のあと次式で与えられるQの期待値を得る。
【数9】

したがって測定の全体の品質係数を得るには個々のスペクトルの品質係数を加算する。この計算には、<s>の標準偏差すなわちσ<s>が期待通り(1/t)の平方根でスケールされているという中間結果が隠されている。数式9はもちろん加算に1つの項だけがあるとき古典的な単一スペクトル分光計の場合にも適用できる。品質係数の考え方に関して強調すべき点は、本質的に「このフィルタの組を使って良いデータを集めるのにどのくらい長くかかるか?」と尋ねることにより、異なるフィルタの組の統計的効率を比較することができることである。特に信号強度、バックグラウンドレベル、スペクトル線間の分離(ESで与えられる)、X線束、及び検出器特性(Rk,lにより)について情報が与えられれば、異なる組の品質係数を比較することによって、データ収集時間を最短にする最適なフィルタの組を探すことができる。
【0045】
バックグラウンドに対して信号が小さい、今関心のある場合では、sはbRk,lに比べて無視することができ、個別の品質係数は次のようになる。
【数10】

Qk,lはこのようにその出力係数率OCRk,l及び信号強度sの2乗に比例してスケールされているように見える。これはバックグラウンドb、所望の信号雑音比Kの2乗、及びスペクトル分解能Rk,lに反比例する。バックグラウンドbを測定する、制限された領域ESを持つ効果はRk,l/2 (ES - Rk,l)の項に含まれており、これはRk,lがESに近づくにつれてQk,lをゼロに近づける。
【0046】
2.2 OCRi,j及びRi,jの表式
Qk,l値モデルを作る次のステップは、核スペクトルについてエネルギー分解能及び出力計数率の表式を作ることである。分解能モデルはかなり単純である。一般的な場合、検出器電流(平行)雑音を除いて、X線、γ線及び普通の粒子検出器におけるエネルギー分解能は次式で与えられる。
【数11】

ここにR1/fは1/f雑音、RFanoはエネルギー分解能へのFanoプロセスの寄与であり、また1/τp項はフィルタピーキング時間への直列雑音の依存性を反映している。ピーキング時間τ1と立ち下がり時間τ2とが異なるとき、それぞれの寄与は次のように平方根中に付加される。
【数12】

ここにR1/f、RFano及びr0は個別の検出器に合わせて決定する必要がある。我々にとって特に関心のある、鉱石中の重金属を検出するために使用される80 mm2平面HPGe検出器に適する値は、R1/f = 60 eV、80 keVでRFano = 365 eV、r0 = 534 eVである。またR1/f 及びRFanoは平方根中に付加できる、というのはモデリング作業において常に一緒に発生するからで、複合分解能を得るには80 keVにおいてR2F/f = 137,000 eV2、一方、r02 = 285,500 eV2である。したがって、
【数13】

【0047】
ピーキング時間τiと立ち下がり時間τjにより作られる計数率であるOCRi,jのための表式を作るために、ポアソン統計に対して入力計数率ICRにおいてτkを越える事象間の間隔を得る確率はexp(-ICRτk)に比例することをまず思い起こす。第2に我々の装置は最長のピーキング時間及び立ち下がり時間を使うためにセットアップするので、たとえば特定のピーキング時間τkは間隔がτkを越えるがτk+1を越えない場合にのみ使用される。この確率はexp(-ICRτk)-exp(-ICRτk+1)で与えられ、これはP(k) - P(k+1)で表すことができる。同じ統計が立ち下がり時間にも適用されるから、両方の値が連続する確率はこのような差の積であろう。台形フィルタに対して積み重なり検査試験は実際にピーキング時間とギャップ時間(あるいは立ち下がり時間とギャップ時間との合計)の合計であるから、OCRi,jに対する一般的な表式を次のように得る。
【数14】

ここにkはフィルタの組のメンバーであるときP(k) = exp(-ICRτk)で、それ以外はゼロである(つまり4つのピーキング時間値を持つ場合P(5) = 0)。
【0048】
2.3 s及びbの特定の値に対するモデルの結果
上記のように多スペクトル法の利点を示すために、特別に、強いバックグラウンドに対する弱い信号という難しい場合を、sを1.0E-5またバックグラウンド値bを2.0E-6に選んで調べよう。これは非常に難しい場合であり、100,000 cpsのOCRのとき信号は僅かに1 cpsで、一方400 eVの分解能におけるバックグラウンドは80 cpsである。K = 3の標準最小検出限界を取り、Es = 800 eVを仮定するが、これは検出器の最高分解能の約2倍である。
【0049】
図5は2.2節でピーキング時間τpが200 nsから25 μsの対称形台形フィルタについてモデル化した平面型検出器のエネルギー分解能を示す。典型的な200 nsのギャップ時間がしたがってデッドタイムを支配するようなこのクラスの検出器について、200 ns以下のピーキング時間は通常役立たない。分解能は、短い端における約1,250 eVから長い端における400 eV弱まで変化することが判る。示した対称形の場合、最大OCRは同じ範囲において460,000 cpsから7,000 cpsまで変化する。
【0050】
数式10に入れる数式13及び14の解を、最大品質係数値を見出す探索ルーチンを使って得る。まず単一ピーキング時間の場合を解く。Lab Viewプログラミング言語を使ってピーキング時間τpの関数として検出器の分解能R(τp , τp)及びOCR(τp, τp)の値を計算し、それを数式10に代入してICRの特定の値を仮定してQl,lをτpの関数として得る。Ql,lの最大値を選択する場合、ICRを変化させてQl,lの最大可能値を与える値を見出す。単一τpの場合、τp = 1.475 μsに対して最大値はICR = 300,000 cpsで起こり、これは578 eVの分解能、111,500 cpsのOCR及び4.18E-4に等しい品質係数を生じた。このようにこの非常に弱いピークに対して3のMDLを達成するために、Q-1だけ、あるいは約2,400 秒 (40.0分)計数することが必要である。この値ですらも、たとえば単純にτpを10 μsに選択する、これは400 eVの分解能を与えるが最大OCRは僅か18,000 cpsである、ことによりEsをバックグラウンドと計数領域との間で分割することによって必要とされる時間に対して、大幅な改善であることに留意が必要である。バックグラウンド計数率はこの場合僅か1.44 cpsであり、所望のMDLを達成するには80,500 秒 (22.4 時間)を要する。最適単一ピーキング時間解はしたがってOCRの大幅な増加(18,000 cpsから111,500 cps、620 %)と引き換えにエネルギー分解能の適度な低減(400 eVから578 eV又は45%)を受け入れることによって達成される。多スペクトル解はここで検出器パルス列からより多くの情報を抽出することによって次のステップに進む。
【0051】
多スペクトルの場合におけるモデル化の目的のために、数学的な式で関係づけられている4つのピーキング/立ち下がり時間の値があると仮定する。それから最小許容τ0と最大許容τ3を与えれば、その最大許容値を超えないτ3についてすべてのτ0の許容値に対して品質係数を計算できる。最大品質係数を生じるτ0の値はしたがって最適フィルタの組を定義する。今の場合、ピーキング時間が単純に指数2だけ異なるように要求したが、これによって最小ピーキング時間τ0がτp1に等しい場合τ1, τ2, τ3の値はそれぞれ2τp1, 4τp1及び8τp1となる。このような特別な関係式を選択したのは、主にこれらの長さにわたる移動和が我々のゲートアレイアーキテクチャにおいて単純なビットシフトで容易に正規化できるということによる。さらに複雑な数学的な式もまたフィルタのピーキング時間を関係づけるのに用い、同じやり方で最大品質係数の探索を行うことができよう。以下に説明するもっと大域的な探索は最適ピーキング時間比がこれらの値と僅かに異なることを示したが、このモデルにおいて追加で得られるものは少ないので、簡単な設計の方が好ましい。したがってこのモデルにおいてこれらのピーキング時間比を使用することが多スペクトル法自体への限界を意味すると取ってはならない。
【0052】
そこで多スペクトルモデルにおける最適化を単一ピーキング時間の場合と同様に実行した。ICRの値を仮定し、それから数式9にしたがってQの最大値を見出すために最小ピーキング時間τ0を変化させた。それからQの大域的な最大値を見出すためにICRを変化させた。τ0が0.575 μsに等しくICR = 350,000 cpsと選んだ条件でこれが起こり、MDL = 3を達成するために計数時間1,292秒(21.5分)に対して、全OCRが203,500 cpsまた品質係数Qが7.74E-4を与える。この多スペクトル法はこのように計数時間を本質的に半分に削減し、長い計数時間が必要なとき大きな利点となる。
【0053】
多スペクトル法の強化性能に3つの要素が貢献した。まず17%増加したICRを使うことができた。第2にこのICRからOCRを82%の増加を生成した。第3にこれはまた単一ピーキング時間の場合に比べて平均でエネルギー分解能を向上させた。立ち上がり/立ち下がり時間の4つの値(τ0、τ1、τ2及びτ3)から16の可能なフィルタが作れるが、そのうち6対(立ち上がり時間、立ち下がり時間)((τr, τf)対)は同じエネルギー分解能、デッドタイム及びしたがってOCR(たとえば(τ1, τ2)及び(τ2, τ1))を持つ。表は各(τr, τf)対が寄与したOCR、エネルギー分解能及び部分的品質係数を示す。OCR数を考えると、(τr, τf)値の最長の可能な組を使って常にパルスを処理するので、特定の(τr, τf)対だけがそのパルス間の間隔がその値を超え、その他の(τr, τf)対はそうでないことを思い起こすことが重要である。このように実際、多くのパルスが中間の(τr, τf)組により処理され、これらのうちより長い(τr, τf)組によって処理されたものが、このよりよいエネルギー分解能値の故に最も強力に品質係数に付加される。
【0054】
表1:τ0 0.575 μs及びICR 350 kcpsの最適値に対する出力計数率(OCR)単位kcps対(τr, τf)値。
【表1】

【0055】
表2:τ0 0.575 μs及びICR 350 kcspの最適値に対するエネルギー分解能、単位eV、対(τr, τf)値
【表2】

【0056】
表3:τ0 0.575 μs及びICR 350 kcspの最適値に対する部分品質係数、単位1/秒、対(τr, τf)値
【表3】

【0057】
表3では品質係数の僅か16%が、(τr, τf)対の少なくとも1つのメンバーがτ0 である項から由来しているが、品質係数への最大の寄与は最長の(τr, τf)値から来ているので、この表からτ0 を増加することによりいくらかの改善が得られることが判るが、しかしそうでない場合になるのはτ0 が増加するにつれ、(τr, τf)の増加に伴うOCRの損失による品質係数の損失が改善したエネルギー分解能による利得を打ち消すからである。このようにたとえばτ0 が2倍になった場合、τ1の値に対して、品質係数は7.74E-4から6.61E-4に低下し、品質係数は表4に示すようになり、ここでは以前の(τ1, τ1)が今は(τ0, τ0)の場所にある。τ0 の少なくとも(τr, τf)値を使ってのみ処理できるはずの計数をすべて失い、より長い(τr, τf)値から新しく得るものはないので、全OCRは203.5 kcpsから136.0 kcpsに低下する。これらの長い(τr, τf)値による分解能は以前よりも20から30 eV良いが、これらの分解能はすでに充分に良好で、結果として品質係数が1%上がっても、短い(立ち上がり時間、立ち下がり時間)に伴う70 kcps のOCR損失による16%の損失を打ち消すには充分でない。
【0058】
表4:τ0 1.1500 μs及びICR 350 kcspの最適でない値に対する部分品質係数、単位1/秒、対(τr, τf)値
【表4】

【0059】
達成可能な最大品質係数はまた、関心のある線とその隣にある線との間のエネルギー分離であるEsの関数である。これは主にバックグラウンドを正確に測定するためにEsとエネルギー分解能Rとの間に充分な差が必要であることによる。Esが大きくなるとRはピーキング時間が短くなって低下する可能性があり、付随して許容できるICR及び結果のOCRを増加させる。見てきたように、品質係数はOCRに伴って大きく増加する。図6はEsの関数として前記の最適化を行った結果を示す。Esが500 eVから2000 eVに増加するにつれてQfが10倍以上も変化し、2000 eVで飽和に近づくことが判る。単一ピーキング時間から4つのピーキング時間に移行することによるパーセンテージの向上は、利用可能な最適ICRにおけるパーセンテージの増加と同様に、本質的にEsとは独立である。
【0060】
多スペクトル投入が、強いバックグラウンド上にある弱いスペクトルピークに対して2桁の計数時間短縮する可能性を提供することを示したので、ここでいくつかの本方法の実施例を提示する。
【0061】
3. 4つの個別の実施例
3.1 4移動和多スペクトル分光計
リセット付き前置増幅器と共に動作させることを意図した、ディジタル的に実現した多スペクトル分光計のブロック図を図7A及び図7Bに示す。この好ましい実施例は図4と同じ主要ブロック、分光計本体80(図4のブロック50)及びDSPブロック81(図4のブロック51)から成る。ブロック80はプログラマブルゲートアレイを用いて、またブロック81はディジタル計算装置、DSPあるいはゲートアレイを用いて実現される。ブロック81がゲートアレイの場合、それは分光計本体80を実現する同じゲートアレイの一部であっても、あるいは別のゲートアレイであってもよい。前と同様にこの2つのブロックは割り込み線82、データバス83及びアドレスバス84を介して通信する。ブロック80への入力は、前置増幅器の出力信号をディジタル化するアナログ・ディジタルコンバータ(ADC)から入る。分光計ブロック80はまた高速チャネル86とエネルギーチャネル87の、2つの主要な部分に分かれる。ディジタル化された入力は高速チャネル86中の高速事象検出フィルタ91と、エネルギーチャネル87中の4つの移動和フィルタ92、93、94及び95とに分割される。このフィルタの数は、それが過剰なゲートアレイ資源を使わずに比較的良い性能を与えるということで選択された。しかしこの4つという数は任意であり、その代わりに1以上のどのような数でも使用できることは設計から明らかである。
【0062】
高速事象検出フィルタ91はウオーバートンほかの説明のように[ウオーバートン 1997及び1999B] 従来技術によるものであり、主に、その出力を事前に選択したレベルと比較し、ディジタル化された前置増幅器信号中にパルスを検出すると論理ストローブパルスを発生する、高速整形フィルタから成る。分光計が広範囲の入力エネルギーで動作する必要がある場合には、パルス検出回路はもっと複雑になり、従来技術で知られているように複数のフィルタ及び閾値又はそのいずれかを用いることになろう。
【0063】
フィルタ91の出力は積み重なり検査及びタイミング制御回路97に接続するが、これはその値をDSP81に読み込まれるインデックスレジスタ98に保存することができる。積み重なり検査及びタイミング制御回路97は分光計の頭脳である。その重要な機能には、以下に説明するように、ディジタル化された前置増幅器信号中に検出したパルス間の時間を測定し、これらの測定した時間を使って回路の動作を制御することを含む。
【0064】
以下の議論を通して、異なるディジタルフィルタ操作は完了するのに異なるクロックサイクル数を必要とすること、またこれらの処理時間は制御回路を設計する際に考慮に入れる必要があることを思い起こすことが重要であろう。たとえば前置増幅器信号が100 nsの立ち上がり時間を持ち、ディジタルクロックが25 nsの「刻み」を持ち、それを検出するのに用いる100 nsの高速フィルタが3クロックサイクルの処理遅延を持つ場合、パルスの到着時間から論理ストローブパルスの発生までにおそらく6ないし7クロックサイクルが経過しよう。通常これらの処理時間を以下の回路動作の説明において表だって議論しない、というのは、これらは実現に使用する特定の部品により変化するからであり、またこれらを計算し、対応することはディジタル設計の標準的な部分であって技術に詳しい専門家にとってよく知られているという両方の理由による。
【0065】
本項の1例として図7Bに92から95の移動和フィルタがどのように構成されるかを示す。ウオーバートンの説明のように[ウオーバートン 1997及び1999B]、最初のフィルタ構造は遅延100であり、アキュムレータ101及び102である。FT遅延103が移動和出力を時間FTだけ遅延させるため付加されている。前の節で議論したようにこの遅延は、入力データストリーム中に新しいパルスの存在を検出するための高速事象検出フィルタ91に、そのパルスが移動和フィルタの出力に組み込まれる前に時間を与えるために、挿入されている。つまり検出回路91がパルスを検出するのに6ないし7サイクルを要するのに対し、移動和フィルタは新しいデータを組み込むのに3クロックサイクルしか要しないため、新しいパルスからの値を組み込む前にその出力を捕捉できるように4サイクルだけ遅延させる必要がある。
【0066】
この実施例はリセット付き前置増幅器を用いる用途のため、各パルスの前に捕捉する1つの移動和(先行和)とパルスのあと捕捉する1つ(遅行和)とから成る非常に簡単な台形フィルタを使用する。帰還前置増幅器を使用するとき、特に弾道欠損を考慮しなければ成らないときには、ウオーバートンとモマイェジが説明したように[ウオーバートン - 2003A]、3つあるいはそれより多い移動和フィルタ値を捕捉することが必要になり、これは以下に説明する2つの捕捉方法の単純な延長によって容易に実行できる。先行和と遅行和が異なる加算項を持つかもしれない(つまり異なる加算回数)ので、それらを減算する前に正規化が必要である。フィルタ回数は単に2の指数だけ異なるときは特に容易で、k番目のフィルタの長さはτk = 2k τ0 である。この場合すべてのフィルタ出力を最長フィルタの出力に合わせるために正規化するのにビットシフトを用いることができ、差Dは次式で表される。
【数15】

ここでN個の前置増幅器値yiが最短τ0 移動和にあり、21N個の値がτ1 = 2τ0 移動和にあり、以下同様で、またフィルタしたパルスのほぼ中央に長さGの平坦上部ギャップがある。たとえばフィルタがτ2 先行和S2Lead及びτ1 遅行和S1Lagから成る場合、DはD = 4S1Lag - 2S2Leadで与えられる。この正規化によりすべてのフィルタ測定についてDから事象エネルギーに変換するのに同じスケーリング係数を用いることができる。
【0067】
数式15で要求される2の指数はシフトゲート106,107,108及び109による回路で提供され、これは単にゲート付きレジスタで、その入力はそれらに付加された移動和の出力についてそれぞれ3、2、1あるいは0ビットによりオフセットされる。ディジタル数学は2進法であるから、これらのビットオフセットは2の指数の乗算に相当する。したがって重み付けした移動和値を捕捉のためにバス110に取り込むには、タイミング制御97がゲート制御線112を使って適切なシフトゲートの出力をオンにするようにゲートを開けばよい。先行和を捕捉するために、タイミング制御97はそれから捕捉制御線114を使って有効なシフトゲートの出力を先行和捕捉レジスタ116に入れ、タイミング制御97が減算器制御線121を使ってゲートL+をアサートすればそこからゲート付き減算器120の正入力に移すことができる。タイミング制御97は、減算器制御線121を経由してゲートL-をアサートすることにより、遅行和をゲート付き減算器120の負入力に直接捕捉する。両方の加算の受け入れられる値がゲート付き減算器120の入力に取り込まれたあと、タイミング制御97は減算器制御線121を経由してゲートSUBをストローブすることにより減算を開始する。
【0068】
移動和長に2の指数を使用することはそれによって限られた資源を用いて多スペクトル分光計を特に容易に実現させると思われ、したがって技術的理由により好ましい実現方法である。しかしすでに説明したようにフィルタ長のこの選択に対して基本的に要求はなく、少し異なる長さ比が少し優れた品質係数Qfを与えることを示すことができる。したがって本例が本発明の範囲を制限すると取ってはならない。
【0069】
ここでゲート付き減算器120からの出力Dはパルスのエネルギー値を表しており、指標化し、適切なスペクトルに配置することができる。タイミング制御97が、先行和の長さL1と遅行和のL2とをインデックスレジスタ98に取り込み、割り込み線82を経由してDSP81に信号を送ることにより、これを完了する。DSPはそれからデータバス83とアドレスバス84とを用いてインデックスレジスタとゲート付き減算器から値Dとの両方を読み込む。DSPはそれからL1及びL2の指標値に基づいて適切なスペクトルを選択しながら、値Dを使って計数をS00130からS33139までの10個の可能なスペクトルの1つに配置する。たとえば先行和長L1が2(つまり長さがτ0 *22)で遅行和長L2が1(つまり長さがτ0 *21)の場合、計数はスペクトルS12135に加えられる。保存されるスペクトルの数を最小にするために、基本的な理由はないが、スペクトルの6つの対(Sij及びSji, i ≠ j)の単一メンバーだけを含めたが、これは数式13によって同じエネルギー分解能を持つ。
【0070】
図8はタイミング制御97が適切な分光計の機能を確保するために行わなければならないタイミング決定を示す。実線は4つの検出事象を表す4つの勾配領域を持つ前置増幅器信号を表す。高速事象トリガ81が点P1140で最初の(左端の)事象を検出する。点T1141までの遅延を測定し、それが事象パルスが落ち着くことを確保するほど充分に長い場合はカウンタを始動し、次のパルスが到着する前に信号をフィルタできる最長移動和の長さを決定する。タイマが移動和092の長さに対応する時間0142になると、前記のように移動和0の出力はゲート付き減算器120の負入力に遅行和として捕捉される。タイマが時間1143になると移動和193も同じく捕捉され、以下同様である。次のパルスがP2145で検出されると、タイミング制御97は移動和1がパルス間領域に適合する最長の加算(つまり最長のフィルタ時間を持つフィルタ)であることに留意し、点1146における移動和の値を次のパルスのために先行和バッファ116に捕捉させるが、前記のようにFT時間遅延によりパルス検出時間P2145ではなくカルリエ時間1146における加算値が捕捉される。
【0071】
第2のパルスP2145と第3のパルスP3147との間隔が移動和2フィルタ94に対応するのに充分に長いので、その値が2148における遅行和として、また2149における先行和として捕捉される。一般に1つのパルスに対する先行和捕捉時間がその前のパルスに対する遅行和捕捉時間のあとに来る、というのはパルス間の間隔がちょうど移動和フィルタ長の倍数となることは稀だからである。次の3番目のパルスP3147で示すようにたまに起こることがあり、第4のパルスP4150とのパルス間の間隔がちょうど移動和092の長さである。この場合遅行捕捉時間0151と先行捕捉時間0152が正確に同じであり、タイミング制御97に実現されている論理がこの出来事を扱えるほど一般的でなければならない。本設計においては、移動和フィルタは連続的に移動しており、パルスが捕捉されたときこれがパルス間領域からのデータだけをフィルタしていることを確保するのはタイミング制御97中のカウンタとロジック次第である。これはまたどうしてこの設計が先行和捕捉バッファ116を持つが遅行和捕捉バッファは持たないかという理由でもある。有効な遅行和が捕捉されると、有効性を確認し、ゲート付き減算の演算を完了するのに数サイクルかかる。この減算の演算が完了するまで新しい先行和をゲート付き減算器120に取り込むことはできないので、それは一時的にバッファされる。このようにパルスが検出されると(たとえばP4150において)その先行和を先行和捕捉116にバッファし、前のパルスについて減算を1サイクルか2サイクルのうちに行い、それからその1から2サイクルのちに新しい先行和をゲート付き減算器120に取り込む。これらの時間は正確である必要はなく、ただ先行和が実際に次に来そうな先行捕捉に対する最少時間、つまり遅行和捕捉時間0153、の前に取り込まれることが必要である。
【0072】
3.2 基線修正を持つ4つの移動和多スペクトル分光計
この多スペクトル分光計に対する基線修正はウオーバートンほか [ウオーバートン, 2003] による方法を拡張することで行えるが、そこではパルスがフィルタされていないときに時折短い「サンプリング」から捕捉された値をより長いフィルタに対する基線を計算するのに使用する。ここで示すように、両方のフィルタが線形フィルタであるとすると、より長いフィルタの基線は単にサンプリングフィルタの値を定数倍して計算でき、この定数は詳しくはフィルタ長と2つのフィルタのギャップに依存する。実際に本方法において修正したフィルタの長さがこのサンプリングフィルタの長さより長い必要はなく、これはここで活用する1つの要点である。修正を実現する方法はいくつかある。
【0073】
最初の方法では、単一基線サンプリングフィルタを使用し、その値を10個の異なる定数を使って、スペクトルS00130からS33139に関連する10個の異なる固有のフィルタ組合せに拡張する。図7Aに示す好ましい実施例において、最もサンプル数は多いがエネルギー分解能が最も悪い最短フィルタ、おそらく(S00)、の使用と、より良いエネルギー分解能を持つが計数が少ないより長いフィルタの使用との間で選択しなければならない。やや驚いたことにはS22がその長さにもかかわらず適度な技術的妥協である。表2に示すようにそれは511 eVという比較的良いエネルギー分解能を有する。さらにこれは最適スループットの点において充分な数のサンプルを捕捉し、表1に見るように、これによって長さが加算2の少なくとも2倍の間隔の発生率を推定することができる、つまり4.60 μsの行にあるすべての表の値の合計と4.60 μsの列にあるすべての表の値の合計を加えて2で割ったものである、というのはそれぞれのパルス間の間隔は2つのパルスに関係しているからである。これは350 kcpsの入力率で50 kcpsの基線サンプル率を与え、これはミリ秒時間スケールで基線が低周波雑音を追跡するのに充分である。
【0074】
基線捕捉を実現する回路は図7Aに含まれているが、ゲート付き減算器141の正及び負の入力は一緒にシフトゲート2108のゲートされない出力に接続されている。タイミング制御回路97に追加の論理回路はほとんど必要ない。積み重なり検査回路(図8を参照)が、移動和294が有効な遅行和(つまり2148)であることを検出すると、シフト1ゲート108からのシフトした値を同時にエネルギーゲート付き減算器120と基線ゲート付き減算器141の両方の負入力に取り込む。それが移動和395が有効な遅行和であることを知ると、シフト0ゲート109から移動和395をエネルギーゲート付き減算器120の負入力に取り込むと同時にシフト1ゲート108からの移動和294のシフトした値を基線ゲート付き減算器141の負入力に取り込み、それから両方のSUBゲートをストローブして基線値とエネルギー値の両方を生成する。移動和3が取り込まれる前に他のパルスが検出されると、基線ゲート付き減算器141に保存された移動和2の値は次に検出された移動和2の値でそのまま上書きされる。DSP81は多忙でないときは、平均基線値<b>の推定を処理及び更新するために、基線ゲート付き減算器141からいつでも最新の基線値を読むことができる。必要に応じて使えるように10個の必要な基線値をそれから計算し、保存することができる。
【0075】
しかし非常に高い計数率動作に対してはこの計算負荷をDSPから取り除くためにDSP81がエネルギー値を読む前にエネルギーチャネル87で基線減算を行うのが好ましい。この場合ロジックアレイ中に10個の基線値を保存するのはもはや好ましくない、というのは平均基線<b>を再計算するたびにDSPが10個の値を更新しダウンロードする負荷は限られているからである。
【0076】
すべての移動和フィルタ長が2の指数であるとき、長さはLi = 2iL0となるが、状況を大いに簡単にでき、どの数の移動和フィルタについても高々2個の基線値を取り込むだけでよい。このことを図9を参照して示すが、この図はそのクロックサイクル当たりの勾配Δv/Δtがsであるような前置増幅器信号において値C0で始まる振幅Aのパルスを示している。この信号は長さLiの先行和と長さLjの遅行和によりフィルタされ、長さGのギャップにより分離されているが、ここですべての時間はクロックサイクルで測られている。2つの移動和の重心はそれぞれCi及びCjである。数式15から、
【数16】

であり、ここに
【数17】

で、勾配sは負としている。数式17を数式16に代入し、
【数18】

であることに留意すれば、
【数19】

を得る。ここで項L3Aは移動和3の長さL3にパルス振幅Aを乗じたもので、したがってパルスエネルギーに比例する。残りの項は前置増幅器信号の勾配sを含み、よって台形フィルタにおける遅行和フィルタ長Lj、先行フィルタ長Li及びギャップ長さGから発生する基線の項である。数式19は基線要素に対するDを、まずj-3及びi-3の項を適切にビットシフトして基線項(L32s/2)を2度減算し、それからL3Gsを1度減算することにより容易に修正できることを示している。このように、平均基線<b>が修正されるたびにこれらの2つの項をゲートアレイ中で更新するだけで、遅いエネルギーチャネル内の基線修正をシフトと加算の論理演算だけを使って「オンザフライ」で実行できる。これらの演算はディジタル設計技術に詳しい専門家によく理解されており、図7Aには示されていない。ギャップ長さGがフィルタ長L3(たとえばL0/4)の2の指数に限定されている場合、G = 2g-4L3 = 2g-1L0と書くことができ、したがって
【数20】

また数式19におけるDは単一の取り込まれた基線値だけを使って修正された基線でもよく、それは数式19が
【数21】

となるからである。
【0077】
括弧内の項(L32s/2)と平均基線<b>との関係は簡単になっている。前記のように、シフト1ゲート108によって1ビットシフトした、移動和294のにつの連続した(つまりG = 0)値の差を取って基線bの各新しい推定を計算する。基線フィルタが長さLβ =2βτ0に23-βを乗じた長さの移動和294の2つの連続した値の差である一般的な場合、AがゼロでG = 0であるから3g-3項を除いた数式21から、bのこの基線測定Dbの値が次式であることが判る。
【数22】

これはβ = 2の場合に対して、括弧内の項(L32s/2)の直接推定を与える。bを使ってbの平均推定<b>をウオーバートンほか[ウオーバートン, 2003A] で説明されているどれかの手法を用いて更新したのち、数式19によって示されているようにDの捕捉値の基線修正を行うために<b>及びL3Gs/2 = <b>G/L3を直接ゲートアレイに取り込むことができる。これは
【数23】

を与えるが、ここでL3をL0で置き換えるのに数式18を用いた。数式20が適用できる場合は、これは次式を与える。
【数24】

どちらの修正も捕捉値Dについて容易に実行でき、値L3Aを生じるが、これは事象エネルギーに直接比例し、したがって指標化され適切なスペクトルに投入される前にDSP81において単一乗算を用いてエネルギーユニットにスケールできる。この例のようにβ = 2のとき、Dbに乗算する2の指数はそれぞれ単純にj-3, i-3及びg-3となる。4個ではなくN個のフィルタ長がある一般的な場合、数式19から24のL3を単に2N-1L0で置き換えることができ、計算は変わらずに進められる。特にDbを用いた数式24の基線修正は変わらずに残る。
【0078】
3.3 適応移動和フィルタを用いた多スペクトル分光計
図10は全適応移動和を用いている我々の多スペクトル分光計の考案を具体化する分光計回路である。検出パルスの各対間で次の3つの制約に従ってサンプル値の可能な最長移動和を捕捉するが、それは 1)パルス間の時間がある最小値tminを超える、2)加算はパルス自身のすべての部分を除外する、3)2つのパルス間の時間がある最大値tmaxを超える場合、図7Aに示す回路と同様に、長さτmaxの先行及び遅行フィルタ加算を集める、である。最後の条件が必要となるのは、我々の目標が各パルスに対する最適フィルタリングを得ることであり、ほとんどの検出器に対してそれを超えるとエネルギー分解能が向上を停止し、その代わりに低下を始める、最大フィルタリング時間τmaxのあることが知られているからである。パルスごとにフィルタリング時間を選択する自由があるので、この最大値に到達したときフィルタリングを終わる。
【0079】
ディジタル的に実現された分光計190は2つのブロックすなわちフィーールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)191とアドレス可能メモリ192とから成り、この2つはアドレスバス193及びデータバス194によって接続されている。今は乗算機能と記憶の両方を含むFPGAが入手できる(たとえばザイリンクス社のVirtex IIシリーズ)ので、本設計においては分光計のMCA機能(すなわち図1のブロック25又は図7Aのブロック81)をFPGA191の中で分割して演算機能とメモリマネージメント機能及び別のメモリ192を提供し、このメモリ中に生成する多スペクトルを保存する。
【0080】
したがってFPGAは高速チャネル196、エネルギーチャネル197、及びスペクトル処理ブロックに再分割され、スペクトル処理ブロックには演算論理ユニット(ALU)及びメモリマネージメントユニット(MMU)能力が実現されている。これらの能力がどのように実現されるかについて詳しくは述べない、というのはこれらはFPGAを使った論理設計技術に詳しい技術者にはよく知られているからである。高速チャネルには、図7Aにおける同じ部品91と同一の高速事象検出フィルタ215を含み、これは積み重なり検査及びタイミング制御216(これは図7Aの同じ部品97と同じ原理で動作する)に接続されており、これはタイミング制御216によって検出された時間値を捕捉するためにt-レジスタ217に接続されている。高速チャネルは、分光計を検出器10に接続する前置増幅器10の出力をディジタル化するADCから入力201を受け取る。エネルギーチャネル197の心臓部はリセット可能加算器220で、その入力は減算器221から供給される。減算器の正入力はFC遅延222を経由して入力201に接続され、またその負入力はバッファ付き遅延223に接続され、その入力もまたFC遅延222である。バッファ付き遅延はただの長さLmaxのディジタル遅延で、Lmax掛けるクロック期間はτmaxに等しく、その出力はレジスタでバッファされるが、その値はリセットゲートがアサートされるときは常にゼロで、それ以外は遅延出力である。FC遅延222の機能は、3.1節で既に説明したように、高速事象検出215及びタイミング制御216によって導入された高速チャネル遅延量だけエネルギーチャネル198(197?)中の信号の流れを遅延させることであり、これによりタイミング制御216中の制御ロジックが大幅に簡単になる。リセット可能加算器220の出力は、図7Aにおけると同様の機能を持つRT遅延231を経由して、加算器から加算を取り込むことができる移動和(RS)レジスタ233に接続される。
【0081】
この回路の動作は図8と同様の図11を参照して理解できる。すべての時間はクロックサイクルを単位とする整数であることに留意が必要である。パルスがP1230で検出されると、タイミング制御216はリセット線227及び228をアサートして、加算器220をリセットし、またバッファ付き遅延222の出力を強制的にゼロにする。パルスの立ち上がり時間が落ち着くまでS1231まで待ち、加算器のリセット線227を解放して加算器を始動させる。このとき次のパルスまでの間隔を測定するため内部カウンタも始動させる。次のパルスがP2236で検出されると、クロックを停止し、加算器220及び遅延222をふたたびリセットし、また加算器220からの遅延出力及びそのクロックからパルス間の間隔値を捕捉するために、RSレジスタ233及びt-レジスタ217への取り込み線234をストローブする。RT遅延231は前の設計の場合と同様の動作をし、取り込み操作がP2236でストローブされる一方、捕捉される値はS1231と最終点E1241との間の移動和であり、これは新しく検出されたパルスのどの部分も含まない。最後にストローブ線218を使って、スペクトル処理ブロック198にその値が処理の準備完了であることを知らせる。
【0082】
最大フィルタリング長の制約は次のように実行される。タイミング制御216内のパルス間の間隔値がプリセットした値Lmaxに達すると、タイミング制御216はカウンタを停止し、リセット線228を解放することにより、バッファ付き遅延222の出力が減算器221の負入力に到達する。バッファ付き遅延の長さがLmaxであるから、移動和長は今は次のパルスが検出されるまでLmaxに固定される。それから時間RTだけ待ち、そのあと取り込み線234をストローブすることによって、Lmaxをt-レジスタ217に、また最終点E1245における値をRSレジスタに取り込む。次のパルスがP3246で検出されると、タイミング制御216は取り込み線234をストローブし、リセット線227及び228をアサートするといういつものルーチンを実行する。これによりLmaxの値がふたたびt-レジスタ217に、また最終点E2247における値をRSレジスタ233に取り込む。次の検出パルス(たとえばP4250)までの時間間隔が許容最小値より短い場合には、タイミング制御216はいつものリセット動作を行うが、取り込み線234のストローブはしないので、その事象間の期間に対してRSレジスタ233あるいはt-レジスタ217に値は捕捉されない。この分光計の設計において捕捉された移動和長が正確にLmaxである(たとえばP4250とP5252の間)あるいはそれより小さい場合の差を認めることはなく、どちらの場合も値の単一の組のみが捕捉されている(つまりE1253において)。
【0083】
このようにスペクトル処理ブロック198がRSレジスタ233及びt-レジスタ217を読むとき、1対の値、すなわち、移動和長L(クロックサイクルにおける)である対の1つのメンバーと、それに関連する移動和値である対の他のメンバー、を得る。パルス振幅を正確に得るようにこれらの値を処理するために、スペクトル処理ブロック198のALUは追加の情報を必要とする、というのは捕捉した値は、データストリーム中のパルス間の間隔長さに応じて先行和、遅行和、あるいはその両方の可能性があるからである。このように図11を参照すると、E1241で捕捉された対は共にパルスP1230に対する遅行和とであり、パルスP2236に対する先行和である。E1245で捕捉された対はP2236に対する遅行和で、一方E2247で捕捉された対はパルスP3の先行和である。パルスP3246及びP4250は積み重なるので、E1253で捕捉される次の対は先行和としてのみ指標化される。データストリームにおける2つの先行和の発生の結果はALUに積み重なりが発生したこと及び、パルスP3246のエネルギーを再構築しようとしてはならないことを知らせる。明らかに複数の積み重なりの連続は先行和対の連続を生み、これによりALUは正当に無視する。先行和に遅行和が続く場合にのみエネルギー値を取り出す処理が行われる。タイミング制御216は、1本を先行和状態に、他方を遅行和状態に割り当てた2本の線219を使って、この情報をALUに送る。
【0084】
ALU内部での処理は次のように進行する。移動和Siの値をその長さLi(t-レジスタの値)で割って正規化する。FPGAでは乗算だけが容易に可能なので、ALUは以前に保存しておいた値をルックアップテーブル1(LUT1)203から逆数値を取り出すのにLiの値を用い、SjにLi-1を乗じてsjを得る。LUT1は特に大きいものではない。たとえば0.5から10 μsのすべての加算時間が40 MHz ADCで動作する分光計で許容される場合、380個の値しか必要としない。sjが遅行和から来る場合、パルスPi-1のエネルギーEi-1を得るためにALUはそれを前の先行和のsi-jから減算する。sjもまた遅行和の場合、ALUはsjを先行和として保存することで動作を終了し、それから次の遅行和を待つ。一方、Siが先行和としてのみ指標化されている場合、ALUは単に上記のようにsjを計算し、それを先行和として保存し(以前の先行和に上書きする)、それから次の遅行和を待つ。それぞれ計算されたエネルギーEiは、アドレスバス193及びデータバス194を経由して、指標値(Li-1, Li)と共にスペクトルメモリ192に書き込むためメモリマネージャユニットに送られる。
【0085】
重要な疑問は値Eiを投入するスペクトルをどのように選択するかということである。各指標値(Li+1, Li)の対に対して固有のスペクトルを定義する場合、3802又は144,400のスペクトルができ、そのうち72,390が理論的に固有のエネルギー分解能を有する。しかし実際にはそれほどの細分化は検出可能でもなく、有用でもない。したがって、エネルギー分解能が「同等である」(Lj+1, Lj)指標平面における領域を描くのに数式13あるいは同等の形を使用する。40 MHz ADCの例を継続すると、数式13は、
【数25】

となり、これはL1とL2が10(0.25 μs)と400 (10 μs)の間を変化するとき407 eVと1,130 eVとの間を変化する。説明の例としてこの間隔を16の同等のエネルギー分解能に分割するとする。1,130 = 407 * (1+x)16を解くと、xは16%であり、エネルギー境界は E(n) = 407 * (1+x)nで与えられる。明らかに少ない数のスペクトルを得るために粗い分割を定義することも、あるいはより多くのスペクトルを得るために細かい分割を定義することも可能であるが、2の指数であるnの値を使用すると特に好都合である。
【0086】
図12はその結果の図で、L1及びL2指標値の関数としてのエネルギー分解能境界を両対数プロットしたものである。その指標値を与えたときどのスペクトルにその特定のエネルギー値を投入するかを決定するのに高速な方法がまだ必要である。L1及びL2の特定の値についての試験を含むいろいろな方法が可能であるが、ゲートアレイで実現するために特に好都合な方法は間接ルックアップによる方法である。まず図12を、各軸を32(25)のエネルギー間隔に分割することにより1024の等しい面積に分割する。最も好都合なように、エネルギー間隔は均等であってもなくてもよい。図12のエネルギー図はL1 = L2軸に関して対称であり、簡単化するにはすべての間隔について、j番目のL1エネルギー間隔をj番目のL2エネルギー間隔に等しいとすることが必要であるが、これは本方法に必須の要件ではない。それからこの領域のそれぞれをその領域の大部分を占めるスペクトルのメモリアドレスで埋めると、スペクトルアドレスマトリックスを含む1KルックアップテーブルLUT3205ができる。16個のスペクトルがあるから各マトリックス値は僅か4ビットであり、したがってこのテーブルのサイズはわずか4 kbである。
【0087】
第2のテーブルLUT204を、どのエネルギー間隔L1及びL2が入るかに応じて指標値L1及びL2をスペクトルアドレスマトリックス指標値J1及びJ2に変換するために、指標値変換値で埋める。L1及びL2に対応する制約は同じであるから、この目的のためには1個のテーブルを必要とするだけである。たとえば57と83の間の値のL1がエネルギー間隔3に割り当てられると、LUTに含まれる57から83の位置のすべてが値3で埋められる。
【0088】
指標値(L1, L2)に関連するスペクトルの配置は次のように行う。まずLUT2204におけるアドレスとして指標L1をスペクトルアドレスマトリックス指標値J1を取り出すのに用い、同じくJ2を取り出すのにL2を用いる。スペクトルアドレスを取り出すために、LUT3205のアドレスとして32J2 + J1を計算するためにJ2を5ビットだけシフトし、J1に加え、それをスペクトルメモリ192内で正しいスペクトルをインクリメントするためにメモリマネージャユニットに供給する。
【0089】
この方法は、同じスペクトルにエネルギー分解能の6.6%領域を割り当てたとすると、非常に高速でまた比較的正確である。一般の応用においてスペクトル中のエネルギー分解能にどのくらい大きな変動が起こるか、また変化する入力計数率の関数として受け入れ可能かを考慮する必要がある。このことは分解能図を生成するのに用いる分解能試験の許容できるパーセンテージ幅及びL1及びL2値を分類するために用いるスケール分割の数を設定する。この方法により生成されたスペクトルにおけるエネルギー分解能はICR中で比較的大きく変動する、というのはICRにおける変化が各スペクトルに割り当てられた計数の部分を劇的に変化させる一方、単一スペクトル内の異なるL1及びL2の値にわたる分布の変化はそれよりずっと小さいからである。また明らかに、これらの幅は、パルス間の時間に許された最大値と最小値の、また従って生成されるエネルギー分解能の調節によって調整することができる。しかし計数率に伴うエネルギー分解能に変動が許容できない場合には、3.1節で述べた設計が好ましく、こちらを使用すべきであろう。
【0090】
3.4 基線修正を伴う適応移動和フィルタリングを用いた多スペクトル分光計
図10の分光計における基線修正は、所定のパルスをフィルタする先行及び遅行フィルタ長の対の数が多いので、単純な分光計におけるよりももっと複雑である。明らかにこれらすべての基線値を基線推定を更新するたびに計算することは望ましくない。問題を解析すると基線修正は分離できることが判る - 各移動和基線を修正する基線はその差を修正し、それが所望のエネルギーである。図9を見るとC0のあとの点G/2とあとの点L+G/2との間の単一移動和(ここでは遅行和)への基線の寄与を得ることができる。
【数26】

ここにsは時間ステップ当たりの前置増幅器信号における平均勾配である。数式26において(L+1)Aはパルスのエネルギーを測る振幅の項であり、(L+1)C0はスケールした先行移動和により打ち消され、その残りが基線である。-G/2と+G2との間にギャップフィルタがある場合は、その間の基線項はゼロである。
【0091】
ウオーバートンほか [ウオーバートン, 2003B] の方法あるいは前記の方法を使うと仮定すると、我々は平均前置増幅器勾配sを決定する手段を持ち、それから少なくとも2つの処理方法がある。その第1はs/2の更新した値をALU198にダウンロードすることであり、Gは既知で、タイミング制御216は各移動和についてLの値を作っているので、各捕捉移動和について(L+G)(L+1)s/2を計算する。これは図の設計について仮定したようにALUが乗算可能であると仮定している。図7Aのトポロジーを用いた設計において、長さLは移動和の値と共にDSP81に渡され、DSPは基線修正ができる。乗算演算はFPGAの中で行えるので、追加の演算は最大スループットを低下させるDSPの実現例に比べて全体のスループットの低下はない。
【0092】
第2の方法は移動和が収集されると同時にFPGAにおいて基線修正項を生成することである。図13はその核心がリセット可能な加算器240及び241の対で、図示のように値sを最初の加算器240に供給するレジスタ243と接続されている設計を示す。加算器リセット線245が解放されると、加算器240は値SG/2にリセットされ、加算器241はゼロにリセットされる。これらの条件のもとで第2の加算器241の出力は、
【数27】

と成り、これはまさに数式26における移動和RSの基線修正をするのに必要な項である。したがってこの回路は、移動和が収集されている間、その進行中にRT遅延時間が基線修正を発生するための調整をきちんと行いながら、計数するように活性化することができる。この回路は図13の余地に示すように図10に組み込むことができ、その場合図10のRSレジスタ233をゲート付き減算器248で置き換える。加算器241からの基線修正出力Bは制御線249を使ってタイミング制御216により減算器の負入力に取り込まれる。移動和は同様にRT遅延231から正入力に取り込まれ、減算器のSUBゲートをストローブすることによりその差を取る。修正された基線はそれからパルスエネルギーを計算するのに使用される直前にスペクトル処理ブロック198に渡される。数式27から長さLの2つの連続した(つまりG = 0)移動和フィルタの差を取る場合、差ΔB = L(L+1)sを得て、それから勾配sの推定が容易に得られることが判る。
【0093】
4. フィルタの組の最適化
2.3節において、フィルタのピーキング時間が数式により関係づけられており、それによって最短ピーキング時間τ0の規定がすべてのピーキング時間を規定すると仮定して、4つのフィルタの場合に対するフィルタの最適な組の選択の簡単な方法を説明した。この関係に加えて最小許容τ0及び最大許容τnに対する制約が一般に許容フィルタの組の数を充分に制限するので、これらすべてに対する品質係数の計算及び最適な最大品質係数を持つ組の選択が容易である。たとえばτ0が少なくとも1 μsで、τ3が32 μsを超えず、4つのフィルタが2の指数で関係づけられている場合、τ0は4 μsを超えず、またτ0ピーキング時間間隔が50 nsの場合(20 MHz ADCに関連して)、80個のフィルタの組だけが許容され、これは最近のコンピュータプログラムが入力計数率の関数として評価するのには容易な数である。
【0094】
しかしフィルタのピーキング時間に単純な関係がないとき、可能な組の数は急速に莫大なものとなる。前記の場合、1から32 μsの間の50 ns間隔に620の値があり、これは各フィルタが想定し、それぞれが前のものより大きいという制約を前提としている。100個の可能な入力計数率を10,000から1,000,000 cpsの間に10,000 cps間隔で組み合わせると、可能性の総計は大きすぎて評価できない。この問題に対する解は、品質係数を最大化することに基づいた探索アルゴリズムを実現することである。関数最大化はよく研究された分野であり、この問題を扱える多数のアルゴリズムや市販のプログラムが利用できる。図14に一般的な手法を示す。まず最初のフィルタピーキング時間及び入力計数率の組(「パラメータ」)を選択し260、それからたとえば2節で説明した方法を使って品質係数を計算して(261)、「試験値」として設定する。これらの初期パラメータの値はこの方法にとって重要ではないが、経験に基づいて適当な値が用いられる場合はより速く収束することが起こり得る。262ではまずパラメータが特定の最適化アルゴリズムの方法に従って調整される。粗いもの(つまりランダムに変化させる)から効率のよいもの(最後のステップが品質係数を向上させればそれを繰り返す)、洗練されたもの(共役勾配法)まで成功裡に使用した。第2に、品質係数をこの新しいパラメータの組264について計算し、試験値265と比較する。第3にそれがより大きい場合には向上が得られており、267で試験値をこの新しい品質係数に更新し、そのパラメータの組を記録し、ステップ262を繰り返す。第4にそれがより大きくない場合には収束270を試験する。適用する収束試験は使用する最適化アルゴリズムに依存する。たとえばランダム調整手法では最後の向上から 10,000回試行したかどうかを尋ねる。この処理が収束しない場合はステップ262を繰り返す。そうでなければ最大品質係数がピーキング時間及びそれを生成した入力計数率とともに見出されたのである、271。粗い最適化では我々自身が作ったコードでこれらのステップを実行した。もっと洗練された探索ではたとえば市販されているプログラムMatLabにある最適化ルーチンを使用した。ここで重要な点は、性能が向上すると大きくなる量として品質係数を定義したのであるから、特定の組の測定条件下で最大の性能を与えるパラメータ値の組を見つけるのにいくつ最適化法を使ってもよい、ということである。明らかに性能が向上すればより小さくなる品質係数を定義することも同様にその最小値を見いだす最適化法に使用できる。したがって通常性能が向上すれば増加する品質係数の最大化について述べているが、減少する品質係数を定義しても同じ構想であり、機能的に同等である。
【0095】
5. 本方法の拡張
5.1 重み付け加算
示した設計はすべて「台形」フィルタリングの変形を実現したものであり、言うなればパルス近傍の「ギャップ」を除外し、すべてのデータサンプルに均等の重みを適用している。もっと一般的に適用されるフィルタを次式によって表されるサブフィルタ(この場合2個のサブフィルタ)の組から作ることができる。
【数28】

ここにi = 0はパルスの位置を表し、フィルタの非対称がもしあればMに等しくないLに含まれており、それぞれの測定値viは重みwiでスケールされている。たとえばモットほか[モット 1994] の示したタイプの可変長カスプフィルタはこの形をしている。3.3節の場合と同様にデータは各パルスの両側で捕捉され、そのエネルギーを測定するために組み合わされるが、差については一般の場合、差を取る前にデータに重みを適用する追加のステップがある。我々の多スペクトルフィルタリング法の観点から重要な点は、捕捉されたデータに適用される重み付け係数wの組が一定でない場合、その値はデータ組の中にある点の数Lに基づいて選択される、ということである。したがって前と同様に、期待されるエネルギー分解能は先行(L1)及び遅行(L2)データ組の長さの関数R(L1,L2)であり、したがってそれらを値(L1, L2)によって指標化し、それから予め選択したスペクトルに分類できる。このように3.1節及び3.3節で示した方法が、少数の固定重み付けフィルタ(3.1節)あるいは完全に事変重み付けフィルタリング(3.3節)のそれぞれに場合について拡張されることは明らかである。したがって発明となるステップは、パルスを処理するのに使用したサブフィルタに従ってパルスを指標化し、それからパルスを適用したフィルタのエネルギー分解能を保存するスペクトルの組に分類するのにその指標値を使用することである。
【0096】
5.2 捕捉したフィルタ値の一次結合を形成する分光計
ウオーバートン とモマイェジ[ウオーバートン 2003A] は、パルス高測定がまた弾道欠損や高次の極の項を含むいろいろな望ましくない影響に対して、サブフィルタ出力の時間に相関のあるシーケンスを捕捉することにより、この場合サブフィルタは単純な移動和フィルタでもいろいろな形のもっと複雑なフィルタでもよいが、また望ましくない影響に関係しないようなエネルギー推定を行うために係数をサブフィルタの捕捉時間及び波形の望ましくない影響に基づいて計算をしてそれらの一次結合を形成することにより、修正できることを示した。たとえば3つの隣接する移動和を結合して、RC帰還前置増幅器とともに使用するとき弾道欠損と無関係なエネルギー値を生成する。本発明による多スペクトル法は容易にこれらの場合にも同様に適用できる。簡単な例として、3.1節で示した実施例は、そこでは除外された先行和と遅行和の間のパルス領域にわたって移動和を捕捉し、一次係数を先行及び遅行移動和の長さに基づいて選択し、前記長さもその結果を指標化するのに用いるウオーバートンとモマイェジの方法に従ってこの結果の3つの移動和を結合することにより、簡単に拡張できる。前と同様に、これらのフィルタのエネルギー分解能はこれらの指標値によって固有に定義され、それによって測定したパルス高は前のように多スペクトル中に正確に投入できる。
【0097】
5.3 一次結合フィルタに対する基線修正
4.2節で説明した種類の分光計における基線修正の方法は、前置増幅器がリセットタイプかRC帰還タイプかによって異なる。
【0098】
リセット前置増幅器の場合、3.2節及び3.4節で論じたように検出器の漏洩は出力信号の勾配sに変換され、これらの節でそれを取り扱うために説明している方法は、適切な一次係数を基線の項にも同様に適用することによって容易に4.2節の場合に拡張できる。重み付けした項の加算であるサブフィルタの一次結合から成る一般化した適用したフィルタの例を考えると、
【数29】

ここで加算の領域は重なっていても構わない。数式26の勾配sを持つ信号パルスの記述はたとえば
【数30】

で、これは次のように書ける。
【数31】

ここに
【数32】

【0099】
このように基線の寄与はsκ3VN2,N1であり、これは一次係数κ3とVN2,N1との両方に比例するが、これは移動和にわたる重み付け係数の和で示される。このことは基線修正を各サブフィルタについて独立に計算できるという重要な点を示している。さらに基線の寄与がk3について一次であるので、サブフィルタ出力をκ3でスケーリングする前に基線修正ができる(つまりVN1,N2を減算する)。この操作順序により乗算の回数を半分に減らせる。
【0100】
このように数式29におけるすべてのサブフィルタ項でのバックグラウンドの寄与あるいはどのような一次結合も、フィルタの長さ(つまり指標値N2及びN1)及び局部的な勾配sあるいはいくつかの測定による平均<s>のみに依存する定数(VN1,N2)として書ける。実際には、これらの項は指標(N2,N1)によるルックアップテーブルベースから取り出されるか、あるいはデータ重み付けした和が生成されると同時に重みwiの加算を経由して生成される。三角あるいは台形フィルタのような簡単な移動和フィルタ、あるいは移動和から構成されるフィルタの場合、2つの係数WN2,N1とVN2,N1は3.4節で計算された特に簡単な形(N2 - N1 +1)及び(N2 - N1 +1)(N2 - N1 +2)/2を仮定している。数式29における指標は重なってもよく、この形はまたウオーバートンとモマイェジ[ウオーバートン - 2003A] によって提案されたように三角と台形フィルタの一次加算を含むので、これは適切である。
【0101】
RC帰還前置増幅器の場合、前置増幅器は一定の漏洩電流を一定のDCオフセットに変換し、数式29の例を継続すると、WS3の基線項は単純にκ3WN2,N1DCとなる。係数κの特性が、前置増幅器のDCオフセットが正確にゼロのとき数式29がパルスの振幅を正確に生成し、さらにパルスがないときにはゼロになるようなものであることが判る。このようにDCの測定が、パルスがないときに予め選択した適用フィルタの組み合わせを捕捉し、数式29に規定した係数を適用し、それからその結果をκW積の和で割ることにより容易に行える。前のように、Wの値WN2,N1はルックアップテーブルを使って、あるいはwi値の適切な組の総和を計算することにより得られる。すべてのwiが1に等しい、単純な台形フィルタリングの特に一般的な場合、WN2,N1は(N2 - N1 +1)に等しく、WN2,N1DCの項はDCに(N2 - N1 +1)を乗じるか、あるいはDC自身を(N2 - N1 +1)回加算することによって計算できることに留意しよう。あとの手法は図13のブロック240及び243と同様の回路を使って容易に完成できるが、ここにリセット可能加算器240はSG/2へではなくゼロにリセットされる。DCの値は一般に小さいので、精度はDCをあるNビット左にシフトし、加算操作を行い(つまり2N倍する)、サブフィルタ出力から引き算してκ3だけスケーリングする前に結果をNビットだけ右にシフトする(つまり2-N倍する)ことにより最も良く維持される。
【0102】
5.4 シンチレーション源からの信号への応用
活発な粒子あるいは光子により刺激されたシンチレータは光のバースト、典型的には可視の、を放射するが、その時間依存性は普通1つ又は複数の減衰指数の和で記述でき、パルスの始まりは通常有限の時間を必要とし、また減衰はしばしば滑らかでないものの、光子放射統計学によって支配される。この状態において刺激する粒子あるいは光子のエネルギーを最も良く反映する量はパルスの振幅ではなく、それを積分した面積である。ウオーバートンとモマイェジ[ウオーバートン - 2003A] は、この面積が本質的に4.2節で参照したのと同じ「移動平均の重み付けした加算」技術を用いて測定できることを示した。彼らはこの方法で面積決定の精度が測定に使用する移動平均フィルタの長さに依存することを見出した。特に、移動和長を指数減衰時間と同程度まで減らしたので、限られたサンプルからパルスの面積を外挿する能力が著しく低下した。一方で、ちょうどX線あるいはガンマ線の場合のように、長いフィルタリング時間を使用すると良いエネルギー分解能を得たが、デッドタイムが増え、処理できる最大パルス率が減少した。明らかにこの多スペクトル法は、ある特定のパルスを処理するためにどのようなフィルタ長を使用したかに応じていろいろな移動和フィルタ長を使用し、その結果を異なるスペクトルに投入することにより、このタイプの測定に応用できる。
【0103】
減衰する光パルスが2つの指数項から成るいくつかの場合には、励起粒子の身元を2つの項の面積を比較することにより決定できる[スクルスキー - 2001]。この手法において2つの連続する移動和フィルタが各光パルスの減衰を測定するが、パルスの始点に近い短いフィルタがその短い寿命成分を測定し、長いフィルタが長い寿命成分を測定する。たとえばCsI(Tl)において長い方の寿命は4 μsであり、したがって理想的には第2のフィルタの長さは4 - 8 μsでなければならない。このような長いフィルタの使用は高計数率のところでデッドタイムが過剰になることに繋がる一方、短いフィルタは粒子の同定精度を低下させる。この状態において同様にパルスごとに第2のフィルタの長さを調整できることにより、スループットと精度の両方を最適化できる。
【0104】
5.5 その他の源からの信号への応用
我々はX線、ガンマ線、あるいは粒子の検出器などに付加された前置増幅器の出力信号にあるパルスを、その検出器における事象のエネルギーを決定するために処理することに関してこの方法を発明した。しかし4.3節で示したように我々がもっと一般的な意味で行っているのはウオーバートンほか [ウオーバートン - 1997] が説明したように、信号中のある特定のパルスとそれに先行及び続くパルスとの間に介在する信号の長さに依存する情報を大なり小なり集めることができるような雑音の多い電気信号中で、ランダムあるいはセミランダムに到着する「ステップ状」パルスの特性を決定することである。3.1節及び3.3節においてパルスの振幅を決定しているが、それは検出した事象のエネルギーに比例している。4.3節で論じた場合においては、また検出した事象のエネルギーに比例するパルスの面積を決定している。我々が示した発明の順序は、パルスとそれの隣のパルスとの間の時間量に基づいてパルスごとにフィルタを選択することにより、また適用したフィルタのパラメータから得る指標値に基づいて結果をパルスごとに異なるグループあるいは範疇に分類することにより、あるパルス特性(たとえば振幅、面積、減衰時間)について取り出せる情報の総合量を増加させ得るということを認識することであった。ここで示した実施例において関心のある特性は事象のエネルギーであり、したがってフィルタ長パラメータL1及びL2に基づいてパルスを指標化し、それからL1及びL2によってそのエネルギー分解能が特性化される異なるスペクトルにそれを分類した。しかし4.4節で示した議論のように、減衰時間のような別のパルス特性もまた関心があり、結果を他のフィルタパラメータに基づいて指標化することもできた。さらに分類ステップは直ちに行わなくてもよいことを指摘した。たとえば捕捉したフィルタ出力はその指標値によるリストモードで保存し、その後オフラインで分類することができる。この手法は、最大情報取り出しの分類手順がデータ収集の段階で不明であるような状況において特に有用である。
【0105】
線形システムの用語を援用すれば、ステップ状のパルスはパルス的な刺激に対する単極あるいは多極装置の予想された応答であり、したがって非常に一般的な信号のタイプである。振幅、面積、複数の減衰するパルス間の分離などを含むパルスの特性はしたがってその振幅(つまりエネルギー)及び性質(つまり粒子の種類)に関する情報を持っている。機械的、電気的及び化学的システムのすべての作法はこれらの項目により記述できる。たとえば超伝導トランジションエッジボロメータは可視光や中性子を含むいろいろなエネルギーの光子の吸収に応答して出力信号としてステップ状のパルスを生成する。これらのパルスは一般的に初期の振幅と面積の両方が励起エネルギーに比例しており、指数的に減衰する。我々の方法はしたがってこの非核の分光計のエネルギー分解能を向上するのに、またもっと一般的にこのような応答が現れるどのようなシステムの信号処理にも適用できよう。
【0106】
6. 参考文献
以下は参照により組み込まれた参考文献である。
(1)オーデット - 1994: S.A.オーデット、J.J.フリール、T.P.ガリアルディ、R.B.モット、J.I.パテル、C.G.ワルドマン「高純度ゲルマニウム検出器とディジタルパルス処理を備えた光分解能エネルギー分散分光法」核科学シンポジウム&医学画像会議1994、1994 IEEE会議録、Vol.1,1994.10.30 - 11.5、155 - 159ページ及びその参考文献
(2)クノル - 1989:「放射検出と測定」、グレン F.クノル(J.ウイリー、ニューヨーク、1989)第2版.引用した特定のページを参照
(3)ケーマン - 1975:H.ケーマン「遅延ディジタルフィルタの動作と特性の原理」核計器と方法123(1975)169-180。また 1975.3.18付けでH.ケーマンに「放射エネルギー分布決定の方法と装置」に対し認可された米国特許No.3,872,287も参照
(4)ラカトス - 1990:T.ラカトス「X線分光法に対する適応ディジタル信号処理」フィジックスリサーチB47(1990)の核計器と方法307 - 310
(5)モット - 1994:米国特許No.5,349,193 1994.9.20付けR.B.モット、C.G.ワルドマン、D.E.ウンガー「高度に敏感な核分光計装置と方法」
(6)スクルスキー - 2001:W.スクルスキー&M.モマイェジ「ディジタル波形解析を用いたCsI(Tl)中の粒子の特定」、フィジックスリサーチB458(2001)の核計器と方法759 - 771。またXIA製品アプリケーションノート:「CsI(Tl)、フォスウイッチ、その他のシンチレータにおけるリアルタイム波形解析による粒子の特定」(2003.1)も参照
(7)ウオーバートン 1997:米国特許No.5,684,850 1997.11.4付け W.K.ウオーバートン, B.ハバード「ディジタル化高速X線分光計の方法と装置」
(8)ウオーバートン - 1999A:米国特許No.5,870,051 1999.2.9付け W.K.ウオーバートン, B.ハバード「高速ディジタル分光計のアナログ信号調整のための方法と装置」
(9)ウオーバートン 1999B:米国特許No.5,873,054 1999.2.16付け W.K.ウオーバートン, Z.ゾウ「ディジタル化高速X線分光計の組合せロジック信号プロセッサのための方法と装置」
(10)ウオーバートン - 2003A:米国特許No.6,587,814 2003.7.1付け W.K.ウオーバートン、マイケル モマイェジ「理想的でない源からの出力ステップを処理する分光計における分解能向上のための方法と装置」
(11)ウオーバートン - 2003B:米国特許No.6,609,075 2003.8.19付け W.K.ウオーバートン, ジャクソン T.ハリス、ピータ M. グルンドバーグ「X線及び核分光システムにおける基線修正のための方法と装置」
【0107】
7. 結論
これまでの特定の実施例の説明において、前置増幅器の出力におけるパルスの振幅を測定するための一般的な技術の例を示したが、その際に測定プロセスに複数のフィルタを適用できる分光計を提供し、そのパルスと先行及び遅行パルスとの間の測定した間隔時間に基づいてある特定のパルスを測定するのに用いるフィルタを選択し、それから測定結果を指標化し、スペクトルの組の1つのメンバーに配置するが、このメンバーはエネルギー分解能やフィルタイング時間のような選択したフィルタを記述するパラメータに基づいた指標により決定される。示した3つの例は、少数の固定長のエネルギーフィルタを使用した簡単な場合、少数の固定長移動平均フィルタからパルスごとにエネルギーフィルタを組み立てる中間の場合、及びパルスごとにエネルギーフィルタを作る移動平均フィルタの長さを調整する全時変の場合を含んでいた。また全時変の場合でもこれらの分光計における基線修正が可能であることを示した。
【0108】
説明の中で明らかにしたように、これらの実施例は機能的で効果的であるが、これらは主に図解と説明の目的で示されたものである。説明した原理は一般的なものであるから、提示は網羅的であることや本発明を説明した形に正確に限定することを意図しておらず、明らかに前記の説明の中から多数の修正や変形が可能である。したがってこれらの実施例は、本発明の原理と、専門家が本発明をいろいろな実施例及び考えている特定の用途に本発明を一番良く適合させるように修正したものを使用できるように、その実際的な応用とを最も良く説明するために選択し記述したものである。
【0109】
その他の形、修正、構造変更などを使うことができ、またこの方法をここで述べた以外の分野における測定に適用することができる。最初の例として、我々の好都合であった実施例は純ディジタルであるが、同じ方法を純アナログ、主としてアナログ、あるいはアナログ-ディジタル混合回路技術を使って実現できる。第2の例として、この方法は、時変重み付けフィルタが使われている、あるいは捕捉されたフィルタ値の一次結合がいろいろな種類の理想的でない前置増幅器の振る舞いに敏感でないエネルギーフィルタを作るために組み合わされる場合に、適用することができる。第3に、多スペクトルを形成するために捕捉したフィルタ出力を指標化し、処理する方法が多数存在するのは明らかである、というのは必要なものは簡単な数学的演算を実行する手段と結果を保存するメモリだからである。ある実施例では内部メモリを持つDSPを使ってこれを完成した。別の実施例では乗算能力を持つFPGAを外部メモリと組み合わせて使った。他の可能性は、計算にハードワイヤードロジックを使うことから指標化したフィルタ値(たとえば{フィルタ値、L1、L2}の3つ揃い)をリストモードで保存し、その後オフラインで汎用計算機を使って処理することまで、拡がっている。第4に、図7Aにおける移動和の総和期間がお互いに2の指数として実現されたが、これは必要条件ではなく、これとは少し異なる比を使うと少し向上した品質係数を得ることができる。第5に、我々の好都合であった実施例において各フィルタ出力をただ1つのスペクトルに割り当てたが、これは本方法の必要条件ではなく、別の分類基準を持つ別のスペクトルの組を作り、各出力を基準に合ったスペクトルに分類することが有利な場合もあるかもしれない。最後に、この方法はX線あるいはガンマ線に付加された前置増幅器の出力中にあるステップ状パルスをそのエネルギーを決定するために処理することに関連して得たものであるが、同じ方法をもっと一般的に雑音のある電子信号中のランダムに到着するステップ状パルスの、パルス振幅、面積及び減衰時間その他の特性を測定するのに適用できるがこれに限定されない。
【0110】
したがって上記の説明は添付の請求範囲のように本発明の範囲を限定すると取ってはならない。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】一般的な従来技術による分光計の回路図である。
【図2A】比較的強いバックグラウンドの上にある孤立した弱いスペクトル線を含むスペクトル領域である。
【図2B】図2Aの弱いスペクトル線の他に2つの近傍の、しかし完全に分解されたスペクトル線を含むスペクトル領域である。
【図2C】図2Bの繰り返しであるが、隣の線が近く、関心のある弱い線に重なっている。
【図3】前置増幅器による出力としての、また1 μs、2 μs及び可変処理時間を持つディジタルフィルタにより処理された、7つの事象を含む信号である。
【図4】事象を処理するのに用いるエネルギーフィルタに従って処理した事象を分類することができまた基線測定もできる単純な時変分光計の回路図である。
【図5】対称的な台形フィルタ機能を用いたときの典型的な平面HPGe検出器に対するエネルギー分解能対ピーキング時間である。
【図6】弱いスペクトル線とその近傍の線との間の分離エネルギーESと、4間隔多スペクトル分光計から及び単一対称形台形フィルタのある分光計からの最適品質係数Qf及びICR値との関数としてのモデルの結果である。
【図7A】4つの立ち上がり時間及び立ち下がり時間値の固定した組を持つ事象を処理し、両方の処理時間を処理した事象の指標化及び分類に使用し、また基線測定も行う、時変多スペクトル分光計の回路図である。
【図7B】図7Aで用いられる典型的な移動和フィルタの回路図である。
【図8】ランダムに到着する事象の組をフィルタし、基線測定するための、図7Aの分光計により選択された平均化時間である。
【図9】基線の信号勾配への依存性を計算する際に使用される項を示す、パルスに近傍における信号の略図である。
【図10】立ち上がり時間及び立ち下がり時間値の連続的な範囲を持つ事象を処理し、用いたフィルタ長に従って処理した事象を指標化し、分類する時変多スペクトル分光計の回路図である。
【図11】ランダムに到着する事象の組をフィルタするために図10の分光計によって選択された平均化時間である。
【図12】図10の分光計に対する期待エネルギー分解能対先行及び遅行フィルタ時間の等高線図である。
【図13】図10の分光計でパルスごとに基線修正を行うことができる回路である。
【図14】品質係数最大化に基づいてフィルタパラメータを決定する探索アルゴリズムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランダムな間隔のステップ状パルスを含む電子信号を、そのパルスのうち少なくともいくつかのパルスの1つまたは複数の特性の推定を得るために、解析する方法であって、
信号中のパルスの存在を検出し、
検出したパルスの連続した対の間の時間間隔を測定し、
検出したパルスの少なくともいくつかについて、推定を得るために1つまたは複数のフィルタを適用し、それぞれの適用したフィルタは、検出したパルスとその直前と直後のパルスとの間の測定した時間間隔の値に基づいて利用できるフィルタの組から選択し、
各フィルタの出力を指標化し、プロセスに1つまたは複数の指標を適用して1つまたは複数のフィルタを特定することを含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、利用できるフィルタの組にあるフィルタが1つまたは複数のパラメータによって記述され、適用したフィルタを特定する1つまたは複数の指標がこの1つまたは複数のパラメータから得られる、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、指標化された出力が複数の範疇に分類され、各出力がその出力の指標に基づいて特定の範疇に割当てられる、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、少なくとも1つの適用されたフィルタの出力が、ステップ状のパルスの存在しない、信号の同じ部分にフィルタが適用された場合に現れるそのフィルタ出力の部分を代表する基線値を減算されることによって基線修正される、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
利用できるフィルタの組のメンバーが1つまたは複数のパラメータで記述され、
基線値を基線フィルタとして参照される追加の前記フィルタの基線値をステップ状のパルスが存在しないときに1回または複数回測定して推定し、
この推定値を基線フィルタおよび適用フィルタの1つまたは複数のパラメータ間の差を埋め合わせるためにスケーリングする、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、その電子信号が、
光子あるいは粒子検出器の出力であって、その場合1つのパルス特性がパルス振幅であり、それがパルスを発生する検出器内の事象のエネルギーに比例しており、あるいは
シンチレーション検出器であって、1つのパルス特性がパルス面積であり、それがパルスを発生する検出器内の事象のエネルギーに比例しており、さらに1つまたは複数のパルス特性がパルスの指数的減衰であり、あるいは
超伝導ボロメータであって、パルス特性がパルス振幅あるいはパルス面積のどちらかであり、その両方がパルスを発生する検出器内の事象のエネルギーに比例している、
装置の1つに付加された前置増幅器の出力である、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、1つまたは複数の特性が1つまたは複数のパルス振幅、パルス面積、およびパルスの1つまたは複数の減衰時間を含む、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、パルスに適用されるフィルタの少なくとも1つが2つまたはそれより多いサブフィルタを含み、
少なくとも最初のサブフィルタが、そのパルスとその直前に検出されたパルスとの間の先行時間間隔の長さに基づいて利用できるサブフィルタの組から選択され、
少なくとも第2のサブフィルタが、そのパルスとその直後に検出されたパルスとの間の遅行時間間隔の長さに基づいて利用できるサブフィルタの組から選択され、
適用されたフィルタの出力がサブフィルタの出力の一次結合を形成することにより得られる、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
利用できるサブフィルタがそのフィルタリング時間で特性化され、
最初のサブフィルタが、利用できるサブフィルタの組のメンバーであって、先行時間間隔に適合する最長フィルタリング時間を持つことにより取り出されており、
第2のサブフィルタが、利用できるサブフィルタの組のメンバーであって、遅行時間間隔に適合する最長フィルタリング時間を持つことにより取り出されている、方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、最初のサブフィルタの長さがL1であり、第2のサブフィルタの長さがL2であり、適用したフィルタの出力がRスペクトルの組の1つのメンバーに投入され、そのメンバーが
L1およびL3を2次指標J1およびJ3の対を得るために最初のルックアップテーブルに連続して使用し、
RJ2+J1を、適用したフィルタの出力を投入するスペクトルを特定するτを得るために第2のルックアップテーブルのアドレスとして計算する
ことによって得られる、方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法であって、まず適用したフィルタを含む2つあるいはそれより多いサブフィルタのそれぞれについて基線修正を計算し、次に適用したフィルタを形成するために前記サブフィルタに適用したのと同じ一次係数を使ってこれらの基線修正を結合することにより、適用したフィルタについて基線修正を計算する方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法であって、前記サブフィルタが
【数1】

の形のディジタルフィルタであって、ここに
viがディジタル化した前置増幅器信号値であり、wiが適用する重みであり、N1からN2の数がサブフィルタの加算領域を定義する、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、第1および第2のサブフィルタの長さL1およびL2をそれぞれ指標化することにより、このフィルタ出力を(N+1)N/2スペクトルに分類し、各スペクトルがその順序に関係なく一意的な対の値(L1, L2)に割り当てられる、方法。
【請求項14】
請求項8に記載の方法であって、利用できるサブフィルタの組がすべて、組の中で最短のメンバーの長さの2の指数倍の長さであるN個の固定長フィルタである、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、組の中のN個のサブフィルタの長さが
【数2】

で表され、式中
L0は組の中で最短のメンバーの長さであり、
kは0からN-1の値を取り、
先行する第1と遅行する第2のサブフィルタの長さを表す指数kの値がそれぞれiおよびjであり、
適用したフィルタの出力Dが第1および第2のサブフィルタのそれぞれの出力SiLeadおよびSjLagから
【数3】

として形成される、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
k = βサブフィルタLβの連続した測定SβLeadおよびSβLagを、それを行うのに充分に長い連続したパルス間の間隔の少なくともいくつかにおいて行い、
【数4】

で与えられる基線修正項Dbを形成し、
それから測定したDの値から
【数5】

式中Gは2つのサブフィルタの間のギャップの長さである、を減算することにより、Dを基線修正する、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、
利用できるフィルタの組にN個のフィルタがあり、
これらのフィルタがそのピーキング時間τi、ここにiは0からNの範囲である、で特性化され、
選択したフィルタがそのピーキング時間τiが組の中で最大値であるフィルタであるが、その最大値が検出パルスとその直前および直後に検出されたパルスとの間の測定された時間間隔の少ないものよりもなお小さい、方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、品質係数が1つまたは複数の利用できるフィルタの組について定義され、組に含まれる個々のフィルタを選択するのに使用される、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記品質係数が、固定された測定時間の中で大きいバックグラウンドの上の小さなピークの大きさを決定する際に達成できる統計的精度の尺度である、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、前記品質係数が規定の信号雑音比においてバックグラウンドの上のピークを検出するのに必要な時間の逆数である、方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法であって、前記品質係数がその組に含まれる個々のフィルタの品質係数の総和である、方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法であって、前記品質係数が、検出器の特性、フィルタの時定数、入力計数率、および検出されるスペクトルの特性に基づいてモデル化され、フィルタの最適組が、前記品質係数の値に極値を生じるようなフィルタの時定数および入力計数率を求めることにより選択される、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、そのフィルタの時定数が数式により関係づけられ、最小値と最大値に制限された別々の値の組を持つことができ、フィルタの最適組が、
まず最大許容値に最短フィルタを設定して、他のフィルタ値を数式により計算し、
第2に、品質係数モデルを使用して許容入力計数率の組についてフィルタの品質係数の組を計算し、また前記品質係数に極値を生じる計数率を選択し、
第3に、第1と第2のステップを繰り返し、最長フィルタ時間が許容最大値に到達するまで最短フィルタ時間を次の最小許容値に増加し、
第4に、このように生成された品質係数の極値から最大値を選択し、フィルタの最適組を決定するためにそれに関連するフィルタ時定数の組を使用することにより、求められる、方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法であって、フィルタの時定数が最小値と最大値に制限された別々の値の組を持つことができるが、数式によって関係づけられておらず、またフィルタの最適組が、
まずフィルタ時定数と入力計数率の最初の組を規定し、
第2に、品質係数モデルを使ってフィルタの品質係数の組を計算して、それを試験値として記録し、
第3に、フィルタの時定数および入力計数率を含むパラメータの1つまたは複数の組を調整し、
品質係数モデルを使ってこのパラメータ値の組についてフィルタの品質係数の組を計算して、それを試験値と比較し、
収束試験に合格するまで繰り返すことにより品質係数の中の極値を求めるアルゴリズムを適用し、
第4に、フィルタの最適組を決定するために求めた品質係数極値に関連するフィルタ時定数の組を使う、
工程により求める、方法。
【請求項25】
少なくともいくつかのパルスにおいて、1つまたは複数の特性の推定を得るためにランダムな間隔を持つステップ状のパルスを含む電子信号を解析する方法であって、
信号中に前記パルスが存在することを検出し、
検出したパルスの連続した対の間の時間間隔を測定し、
検出したステップ状のパルスの1つまたは複数の特性の推定をそれぞれ生成することができる1つまたは複数のパラメータにより記述された、利用できるフィルタを提供し、
少なくともいくつかの検出したパルスについて、検出したパルスとその直前および直後に検出したパルスとの間の測定された時間間隔の値に基づいて利用できるフィルタの組からフィルタを選択し、
選択したフィルタを前記1つまたは複数の特性の推定を得るためにパルスに適用し、
適用したフィルタを特定するために、フィルタリングプロセスの出力を前記1つまたは複数のパラメータから得られた1つまたは複数の指標で指標化することから成る、方法。
【請求項26】
少なくともいくつかのパルスにおいて1つまたは複数の特性の推定を得るためにランダムな間隔を持つステップ状のパルスを含む電子信号を解析する方法であって、
信号中にパルスが存在することを検出し、
検出したパルスの連続した対の間の時間間隔を測定し、
特性のそれぞれ異なる分解能により特性化された複数のフィルタを提供し、
少なくともいくつかの検出したパルスについて、そのパルスが検出したパルスの直前および直後の検出したパルスと積み重ならずに最大分解能を与えるフィルタを選択し、
そのように選択したフィルタを、推定を提供するために適用し、その推定を選択したフィルタに一意的に関連づける、
ことを含む方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、さらに
複数のフィルタに対応する複数のスペクトルを初期化し、
それぞれの推定について、その推定を選択したフィルタに対応するスペクトルに組み込む事を含む、方法。
【請求項28】
ランダムな間隔のステップ状パルスを含む電子信号を前記パルスの少なくともいくつかのパルスの1つまたは複数の特性の推定を得るために解析する装置であって、
信号中に前記パルスが存在することを検出する手段と、
検出したパルスの連続した対の間の時間間隔を測定する手段と、
前記1つまたは複数の特性の推定を得るために前記ステップ状のパルスをフィルタリングすることができるフィルタの組と、
検出したパルスの少なくともいくつかについて、推定を得るために1つまたは複数のフィルタを適用し、その際にそれぞれの適用したフィルタは、検出したパルスとその直前と直後のパルスとの間の測定した時間間隔の値に基づいて利用できるフィルタの組から選択される、選択および適用の手段と、
いずれの選択したフィルタの出力も選択したフィルタを特定する1つまたは複数の指標で指標化する手段と、
を備えた装置。
【請求項29】
請求項28に記載の装置であって、さらに指標化された出力を複数の範疇に分類する手段を含み、各出力がその出力の1つまたは複数の指標の値に基づいて特定の範疇に割り当てられる、装置。
【請求項30】
請求項29に記載の装置であって、前記範疇がスペクトルである、装置。
【請求項31】
請求項28に記載の装置であって、さらに選択したフィルタをステップ状のパルスが存在しない同じ信号部分に適用した場合に現れる前記選択したフィルタの出力の部分を代表する基線値を減算することにより、選択したフィルタの出力を基線修正する手段を含む装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2008−501954(P2008−501954A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515559(P2007−515559)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/019355
【国際公開番号】WO2005/121988
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(502072570)
【Fターム(参考)】