説明

X線発生装置

【課題】X線発生装置の絶縁油2への水分の混入に起因する放電の発生を防ぐ。
【解決手段】X線管球1と絶縁油2を収納する金属製の封入容器3から主に構成されるX線発生装置内において、絶縁油2内に透水性の袋体21内に収納された吸水剤20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置に関し、詳しくは食料品や医薬品などの被検査物中の異物を検出する非破壊検査に用いられるX線発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食料品や医薬品などの製造ラインにおいては、製品中の異物の有無について連続的な全品検査が実施されており、その手段としてX線を用いた非破壊の検査が行われている。この検査は、X線発生装置から放射されたX線を被検査物に照射して、その透過量を画像処理することにより異物を検出するものである。
【0003】
検査に用いられるX線発生装置の構造を図4に示す。図4は、X線発生装置の側面からの断面図である。
【0004】
X線発生装置は、X線管球1と絶縁油2を収納する上面に開口部を有する金属製の封入容器3から主に構成され、伝熱器4と放熱器5が当該開口部を閉止するように取り付けられている。
【0005】
X線管球1は、真空ガラス内に封入されたアノード6とカソード7間に図示しない高電圧発生装置により高電圧を印加して、カソード7からの熱電子をアノード6に衝突させることにより、X線放射口8からX線9を放射するものである。このX線管球1には、X線発生装置を小型化するために、通常は小型で高性能のカソード接地型のものが用いられている。
【0006】
なお、X線放射口8以外からのX線の漏洩を防止するために、X線管球1の表面はX線放射口8を除いて円筒形状の鉛製遮へいカバー10により覆われている。
【0007】
絶縁油2は、封入容器3に充填されており、X線9の放射に伴い発熱するX線管球1を冷却するとともに、X線管球1のアノード6とカソード7、及び接地された封入容器3との間を絶縁する役目を有している。
【0008】
このような構造のX線発生装置においては、その製造工程において絶縁油2が空気中にさらされたり、使用時において封入容器3の気密不良などにより空気が内部へ侵入したり、封入容器3や図示しない高電圧発生装置の構成部品から水分が析出することにより、絶縁油2に微量の水分が混入して絶縁破壊電圧が低下してしまうという問題があった。
【0009】
絶縁油2の絶縁破壊電圧が低下すると、封入容器3の内部で放電が発生することにより放射されるX線9の線量が低下するので、画像処理において被検査物中の異物として誤って検出されてしまうため、非破壊検査の精度が低下して製造ラインの生産効率を低下させる原因となる。
【0010】
そのため現状では、X線発生装置の製造工程において、絶縁油2の注入後、連続運転によるエージングと絶縁油2の新品交換とを繰り返し行うことにより、絶縁油2へ混入する水分量をできるだけ下げる方法が取られている。
【0011】
また、カソード接地型のX線管球1におけるアノード6の対地電位差に比べて、アノード6とカソード7の対地電圧差が低いため放電が発生しにくいという理由から、中性点接地型のX線管球1を採用することも行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記の方法では、X線発生装置の製造工程数が増加するとともに、絶縁油の使用量が増えるために製造コストが高くなるという問題があった。
【0013】
また、中性点接地型のX線管球は、カソード接地型に比べて高圧電圧の印加方式が複雑になるため高品位のX線を得ることが困難であるという問題もあった。
【0014】
更には、X線発生装置の使用時における絶縁油への水分の混入には対応できないため、放電が発生して初期の非破壊検査の精度を維持することができないという問題もあった。
【0015】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、放電の発生を防止することができ、かつ低コストで製造することができる精度の高いX線発生装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明は、X線管球と、前記X線管球が浸漬する絶縁油と、前記X線管球と前記絶縁油とを収納する封入容器とからなるX線発生装置であって、前記絶縁油中に吸水剤を備えることを特徴とするX線発生装置である。
【0017】
このような構成により、絶縁油に混入する水分を吸水剤により選択的に吸収して、絶縁油の絶縁破壊電圧の低下を防止して放電の発生を防ぐことができる。
【0018】
なお、この吸水剤については、活性炭、ゼオライト、モレキュラーシーブス、シリカゲル及び活性アルミナ、またはそれらを組み合わせたものでよいが、特に温度条件及び吸着能力などの点からモレキュラーシーブスを用いることが望ましい。
【0019】
実際の使用に際しては、水分を選択的に吸収する大きさの吸着孔を有するモレキュラーシーブスを透水性の袋体に収納して用いるのがよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、X線発生装置において絶縁油中にモレキュラーシーブス等の吸水剤を備える構成としたため、吸水剤により絶縁油に混入した水分を吸着して絶縁破壊電圧の低下を防止して放電の発生を防ぐことができる。
【0021】
これにより、X線発生装置の製造工程を簡略化することができ、絶縁油の使用量を減らすこともできるため、製造コストを低減することができる。
【0022】
この吸水剤を袋体等に収納して用いることにより、製造時及び製品の寿命終了後における取り扱いが容易となる。
【0023】
また、X線発生装置の製造時において絶縁油に混入した水分とともに、使用時において絶縁油に混入する水分も吸着することができるため、非破壊検査の精度を維持することができ、製造ラインの生産効率を高めることができる。
【0024】
更に、X線発生装置の使用期間中にわたって絶縁油の絶縁破壊電圧の低下を防止することができるため、封入する絶縁油の量を少なくすることができ、X線発生装置の小型化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に実施の形態について、図面を参照して説明する。
本発明に係る第1の実施形態を図1に示す。図1は、第1の実施形態に係るX線発生装置の構造を示した断面図である。なお、図4と同じ部分には同一の符号を付している。
【0026】
第1の実施形態に係るX線発生装置は、図4に示す従来のX線発生装置の封入容器3内に吸水剤20を備えたものである。従って、同一の部分についての説明は省略する。
【0027】
吸水剤20は、透水性の袋体21の内部に収納されて、絶縁油2に浸漬した状態で遮へいカバー10に跨るように載置されている。
【0028】
この吸水剤20は、水分の吸着能力が大きい物質、例えば、活性炭、ゼオライト、モレキュラーシーブス、シリカゲル、活性アルミナなどを用いることができる。特に、X線発生装置の使用時における絶縁油2の温度(約20〜100℃)、その絶縁油2に混入している水分量(約5〜60 ppm)、及び電気的絶縁などの諸条件を考慮すると、当該温度範囲で高い吸着能力を有する絶縁体であるモレキュラーシーブスであることが好ましい。なお、モレキュラーシーブスが水分を選択的に吸着するためには、有効孔径が約0.3 nm、具体的には商品種別が3Aのモレキュラーシーブスを使用するのがよい。
【0029】
また、吸水剤20の形状は、ビーズ状、ペレット状又は粉末状などのいずれの形状でもよいが、表面積を大きく取れることからペレット状とすることが好ましい。また、吸水剤20を収納する袋体21は、例えばポリエチレン製の不織布などでつくることができる。
【0030】
なお、吸水剤を収納するのは袋体21に限られるものではなく、例えば透水性のセラミックスからなる箱体でもかまわない。
【0031】
この袋体21に収納された吸水剤20を載置する場所は、封入容器3内で発生する絶縁油2の循環的な対流がかかる場所、例えば図1のような遮へいカバー10上などがよい。
【0032】
以上のような構成を有する第1の実施形態に係るX線発生装置の作用を以下に説明する。
【0033】
X線管球1のアノード6とカソード7の間に高電圧発生装置(図示せず)により高電圧が印加されると、X線管球1からX線9が放射される。そして、このX線9の放射に伴いX線管球1に発生する熱による温度差と、封入容器3内に発生する強い電界によるクーロン力とにより、絶縁油2には対流現象が発生する。この対流現象により、X線管球1に発生した熱は絶縁油2から吸熱器4へ伝えられ放熱器5を介して外部へ放熱される。
【0034】
このとき、封入容器3内で対流する絶縁油2は、袋体21内を流れて吸水剤20と接触することにより混入している水分が吸水剤20に吸着される。
【0035】
このようにして、X線発生装置の使用期間中にわたって絶縁油2の絶縁破壊電圧の低下を防止することができる。
【0036】
また、吸水剤20を袋体21に収納しているため、X線発生装置の製造時及び寿命終了後における吸水剤20の取り扱いが容易となる。
【0037】
寿命終了後に回収された吸収剤20については、例えばモレキュラーシーブスの場合には減圧環境下で一定時間加熱処理することにより、吸着した水分を放出させて再利用することができるため、X線発生装置に製造コストの更なる低減を図ることができる。
【0038】
本発明に係る第2の実施形態を図2に示す。図2は、第2の実施形態に係るX線発生装置の構造を示した断面図である。
【0039】
第2の実施形態は、フィルム状又は薄板上の吸水剤20を封入容器3の内面に取り付けるものである。吸水剤20の取り付け方法は、接着剤等によるものでも、ネジ等による機械的なものでもよい。また、取り付け場所は、封入容器3内で発生する絶縁油2の循環的な対流がかかる場所、例えば図2のように封入容器3の内側面の上部などがよい。
【0040】
なお、吸水剤20をそのまま取り付けるのではなく、微粉末状にして溶剤に混ぜたものを封入容器3の内面等に付着又は塗布する方法でもよい。
【0041】
本発明に係る第3の実施形態を図3に示す。図3は、第3の実施形態に係るX線発生装置の構造を示した断面図である。
【0042】
第3の実施形態は、吸水剤20を袋体21等に収納しないで、絶縁油2中にそのまま分散させるものである。
【0043】
吸水剤20の形状は、ビーズ状、ペレット状又は粉末状などのいずれでもよいが、取り扱いの容易さの点から、ビーズ状又はペレット状であることが望ましい。
【0044】
本実施形態では、袋体21等が不要となる点で製造コストの低減を図ることができ、また吸水剤20と絶縁油2の接触面積を最大限に取ることが可能となるため、絶縁破壊電圧の低下を更に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るX線発生装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るX線発生装置の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係るX線発生装置の構造を示す断面図である。
【図4】従来のX線発生装置の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 X線管球 2 絶縁油 3 封入容器
4 吸熱器 5 放熱器 6 アノード
7 カソード 8 X線放出口9 X線
10 遮へいカバー 20 吸水剤 21 袋体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管球と、
前記X線管球が浸漬する絶縁油と、
前記X線管球と前記絶縁油とを収納する封入容器とからなるX線発生装置であって、
前記絶縁油中に吸水剤を備えることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記吸水剤は、活性炭、ゼオライト、モレキュラーシーブス、シリカゲル及び活性アルミナの少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記吸収剤は、吸水性のモレキュラーシーブスを透水性の袋体に収納してなることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項4】
X線管球と、
前記X線管球が浸漬する絶縁油と、
前記X線管球と前記絶縁油とを収納し上部に開口部を有する封入容器と、
前記開口部を閉止する伝熱器と、
前記伝熱器上に設置された放熱器と、からなるX線発生装置において、
前記封入容器内に吸水性のモレキュラーシーブスを収納した透水性の袋体を備えることを特徴とするX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−141510(P2007−141510A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330103(P2005−330103)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(500561263)株式会社ジョブ (6)
【Fターム(参考)】