説明

X線管球及びX線CT装置

【課題】簡素な構成で異なる複数のX線を高速に切り替えながら照射可能なX線管球と、これを用いたX線CT装置を提供する。
【解決手段】第1及び第2の電子発生部と、偏向手段と、ターゲットと、を備えたX線管球である。偏向手段は、第1及び第2の電子ビームが送出される方向を、第1及び第2の方向に切り替える。ターゲットは、第1、第2、第3、及び第4の面を備える。第1の面は、第1の方向に向けた第1の電子ビームを受けて、照射野に向けて第1のX線を照射する。第2の面は、第1の方向に向けた第2の電子ビームを受けて、照射野とは異なる方向に向けて第2のX線を照射する。第3の面は、第2の方向に向けた第1の電子ビームを受けて、所定の照射野とは異なる方向に向けて第1のX線を照射する。第4の面は、第2の方向に向けた第2の電子ビームを受けて、照射野に向けて第2のX線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT装置に用いられるX線管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線コンピュータ断層撮影装置(以降、「X線CT装置」と呼ぶ)は、被検体へX線を照射するとともに、被検体を透過したX線を検出することにより、被検体内でのX線吸収係数からなる投影データを得る。
【0003】
X線CT装置には、複数のX線管球(即ち、X線管装置)を備えた多管球型のX線CT装置がある。このようなX線装置は、互いに異なるエネルギーを有する2つのX線を交互に曝射することで、1スキャンで異なる2つのX線画像を生成するものがある。しかしながら、多管球型のX線CT装置は、X線管球を複数備える必要があり、装置の規模が大きくなり製造コストも増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−27340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の実施形態は、簡素な構成でエネルギーが異なる複数のX線を高速に切り替えながら照射可能なX線管球と、これを用いたX線CT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明の第1の形態は、第1の電子発生部と、第2の電子発生部と、偏向手段と、ターゲットと、を備えたX線管球である。第1の電子発生部は、第1の電子ビームを出射する。第2の電子発生部は、第1の電子ビームとはエネルギーの異なる第2の電子ビームを出射する。偏向手段は、第1の電子ビーム及び第2の電子ビームが送出される方向を、少なくとも第1の方向と、第1の方向とは異なる第2の方向とのいずれかに切り替え可能に構成されている。ターゲットは、第1の面と、第2の面と、第3の面と、第4の面と、を備える。第1の面は、第1の方向に向けて送出された第1の電子ビームを受けて、所定の照射野に向けて第1のX線を照射する。第2の面は、第1の方向に向けて送出された第2の電子ビームを受けて、所定の照射野とは異なる方向に向けて第1のX線とは異なる第2のX線を照射する。第3の面は、第2の方向に向けて送出された第1の電子ビームを受けて、所定の照射野とは異なる方向に向けて第1のX線を照射する。第4の面は、第2の方向に向けて送出された第2の電子ビームを受けて、所定の照射野に向けて第2のX線を照射する。
また、この発明の第2の形態は、X線管球と、X線検出器と、を備えてなるX線CT装置である。X線管球は、被検体に向けてX線を照射する照射窓を備える。X線検出器は、X線管球から照射されたX線を検出する。また、X線管球は、第1の電子発生部と、第2の電子発生部と、偏向手段と、ターゲットと、を備える。第1の電子発生部は、第1の電子ビームを出射する。第2の電子発生部は、第1の電子ビームとは異なる第2の電子ビームを出射する。偏向手段は、第1の電子ビーム及び第2の電子ビームが送出される方向を、少なくとも第1の方向と、第1の方向とは異なる第2の方向とのいずれかに切り替え可能に構成されている。ターゲットは、第1の面と、第2の面と、第3の面と、第4の面と、を備える。第1の面は、第1の方向に向けて送出された第1の電子ビームを受けて、照射窓を介して被検体に向けて第1のX線を照射する。第2の面は、第1の方向に向けて送出された第2の電子ビームを受けて、照射窓とは異なる方向に向けて第1のX線とは異なる第2のX線を照射する。第3の面は、第2の方向に向けて送出された第1の電子ビームを受けて、照射窓とは異なる方向に向けて第1のX線を照射する。第4の面は、第2の方向に向けて送出された第2の電子ビームを受けて、照射窓を介して被検体に向けて第2のX線を照射する。また、X線検出器は、偏向手段による切り替えに同期して、第1のX線及び第2のX線を時分割で区別して検出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態に係るX線CT装置のブロック図である。
【図2A】本実施形態に係るX線管球の模式図である。
【図2B】本実施形態に係るX線管球の模式図である。
【図3】本実施形態に係るX線CT装置の制御タイミングを説明するための図である。
【図4A】変形例に係るX線管球の模式図である。
【図4B】変形例に係るX線管球の模式図である。
【図4C】変形例に係るX線管球の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係るX線CT装置について、図1を参照しながら説明する。図1に示すように、X線CT装置は回転リング2を収容するガントリ1、および、円錐形のX線ビームを発生するX線管球3、X線フィルタ4を含む。ガントリ1は、1次元または2次元に配置された検出素子を含むアレイタイプのX線検出器5を有する。
【0009】
X線管球3とX線検出器5は、回転リング2上に設置され、スライド式寝台6の上に横になった被検体を挟んで反対側に位置する。X線検出器5は、複数の検出素子5Aを含んで構成されている。X線管球3はX線フィルタ4を介して被検体に対峙される。X線コントローラ8は、制御部10からの制御に基づきトリガ信号を生成する。X線コントローラ8は、このトリガ信号を基に、制御部10からの制御に基づき高電圧装置7、偏向制御部11、X線検出器5、及びデータ収集部12の動作と、その動作タイミングを制御する。X線コントローラ8からの指示を受けて、高電圧装置7は、X線管球3を駆動する。高電圧装置7は、トリガ信号の出力が開始されるとX線管球3に高電圧を印加する。これにより、X線管球3から被検体に向けてX線が照射される。これらの一連の動作とその動作タイミングは、X線コントローラ8の詳細とあわせて後述する。
【0010】
本実施形態に係るX線管球3は、エネルギーの異なる2つのX線を交互に切り替えながら照射可能に構成されている。以降では、図2A及び2Bを参照しながら、X線管球3の具体的な構成について説明する。図2A及び図2Bは、本実施形態に係るX線管球3の概略的な構成を示した模式図である。
【0011】
図2Aに示すように、X線管球3は、電子発生部31A及び31Bと、偏向用電極32と、ターゲット33と、駆動部34と、照射窓35とを含んで構成される。また、ターゲット33は、小径の面331と、大径の面332と、第1の側面333と、第2の側面334と、第3の側面335とを含んで構成されている。
【0012】
電子発生部31A及び31Bは、それぞれ、フィラメント311を有する。高電圧装置7で発生された高電圧が、フィラメント311とターゲット33との間に印加される。これにより、フィラメント311から電子が飛び出し、この電子は、ターゲット33(陽極)に衝突する。これにより、ターゲット33からX線が照射される。電子発生部31Aのフィラメント311から発生し出射された電子ビーム50Aは、図2Aに示すように、第1の側面333に向けて直進する。このとき、電子ビーム50Aは、偏向用電極32の間を通過する。同様に、電子発生部31Bのフィラメント311から発生し出射された電子ビーム50Bは、第3の側面335に向けて直進する。このとき、電子ビーム50Bは、偏向用電極32の間を通過する。
【0013】
偏向用電極32は、2枚の金属の板で構成されており、その2枚の金属の間を電子ビーム50A及び50Bが通過するように配置されている。偏向用電極32は、電圧が印加されると、一方の金属の板が陽極に、他方が陰極になる。本実施形態では図2Aにおける上側が陽極、下側が陰極になる。以下では、偏向用電極32に電圧が印加されている状態をオン、偏向用電極32に電圧が印加されていない状態をオフという。
【0014】
図2Aは、偏向用電極32がオフのときの状態を示している。図2Aに示すように、偏向用電極32がオフのときには、偏向されることなく電子ビーム50A及び50Bは直進する。このとき、電子ビーム50Aは、第1の側面333の方向に進み、電子ビーム50Bは、第3の側面335の方向に進む。
【0015】
ここで、図2Bを参照する。図2Bは、偏向用電極32がオンのときの状態を示している。図2Bに示すように、偏向用電極32がオンのときには、電子ビーム50A及び50Bは屈折する。このとき、電子ビーム50Aは、小径の面331の方向へ進み、電子ビーム50Bは、第2の側面334の方向へ進む。
【0016】
この様に偏向用電極32は、オン/オフを切り替えることにより、電子発生部31A及び31Bの各フィラメント311から出射された電子ビーム50A及び50Bを、異なる2つの方向に切り替えて進行させる。この偏向用電極32が「偏向手段」に相当する。ここで、本実施形態では、偏向用電極32に電圧をかけて電場を発生させることで電子ビームを偏向させているが、これは他の方法に置き換えてもよい。例えばコイルを電子ビームの進行方向の横に配置し、該コイルに磁場をかけることで電子ビームを偏向させてもよい。あるいは、電場及び磁場の双方を用いてもよい。
【0017】
このオン/オフは、偏向用電極32が後述する偏向制御部11(図1参照)からの制御信号を受けることで行われる。オンになった偏向用電極32は、電極間を通過する電子ビーム50A及び50Bを陽極側に屈折させる。これにより、電子ビーム50A及び50Bの進行方向が変更される。この進行方向の変更により、電子ビーム50Aは、小径の面331の方向へ進み、電子ビーム50Bは、第2の側面334の方向に進む。なお、電子ビーム50A及び50Bの屈折角度が小さいほどオン/オフ間の切り替えの応答性が良くなる。また、屈折角度が大きいほど、反射後の電子ビーム50A及び50Bの進行方向をコントロールしやすい。そのため、電子ビーム50A及び50Bの屈折角度と、小径の面331、及び第1の側面333〜第3の側面335の設置位置は、オン/オフ間の切り替えの応答性や、ターゲット33から照射されるX線の方向のコントロールのしやすさを考慮して決定する。
【0018】
照射窓35は、ターゲット33から照射されるX線を、X線管球3の外部に出力させるために設けられている。照射窓35以外の、X線管球3の内壁はX線を吸収する素材で形成されている。そのため、ターゲット33から照射されたX線は、照射窓35からX線管球3の外部に出力される。
【0019】
ターゲット33は「アノード」とも呼ばれ、銅、アルミ、またはタングステンなどで形成されている。ターゲット33は、中心軸341を中心に回転する軸体であり、回転対象の形状を成している。ターゲット33は、小径の面331と、大径の面332とを含んで構成されている。小径の面331及び大径の面332は、中心軸341が各面の中心を垂直に貫通するように設けられている。小径の面331から大径の面332に向けて、軸径が連続的に大きくなるように、第1の側面333、第2の側面334、及び第3の側面335がこの順序で連続して設けられている。このとき、第1の側面333、第2の側面334、及び第3の側面335は、中心軸341に対して各面が成す角度が、第1の側面333、第2の側面334、第3の側面335の順に大きくなるように設けられている。
【0020】
ターゲット33は、図2Aに示すように、電子発生部31A及び31Bの各フィラメント311から電子ビーム50A及び50Bが出射される方向と、中心軸341とが平行になるように配置される。
【0021】
また、ターゲット33は、偏向用電極32がオフのときに、直進してきた電子ビーム50Aが第1の側面333に当たり、かつ、直進してきた電子ビーム50Bが第3の側面335に当たるように配置される。電子ビーム50Aがターゲット33に当たると、X線51Aが発生する。第1の側面333は、第1の側面333で発生するX線51Aが、照射窓35に向けて照射されるように、中心軸341に対して所定の角度を成して形成されている。また、電子ビーム50Bがターゲット33に当たると、X線51Bが発生する。第3の側面335は、第3の側面335で発生するX線51Bが、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射されるように、中心軸341に対して所定の角度を成して形成されている。なお、ターゲット33が「X線発生部」に相当する。また、第1の側面333が「第1の面」に相当し、第3の側面335が「第2の面」に相当する。
【0022】
また、ターゲット33は、偏向用電極32がオンのときに、偏向用電極32により偏向された電子ビーム50Aが小径の面331に当たり、かつ、偏向用電極32により偏向された電子ビーム50Bが第2の側面334に当たるように配置される。小径の面331は、小径の面331で発生するX線51Aが、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射されるように形成されている。また、第2の側面334は、第2の側面334で発生するX線51Bが、照射窓35に向けて照射されるように、中心軸341に対して所定の角度を成して形成されている。なお、小径の面331が「第3の面」に相当し、第2の側面334が「第4の面」に相当する。
【0023】
駆動部34は、ターゲット33を、中心軸341を中心として回転させる。特定の箇所に電子ビーム50A及び50Bが照射され続けると、高熱によりターゲット33が溶解してしまう。そのため、駆動部34により、ターゲット33を回転させることで、電子ビーム50A及び50Bが照射される位置を遂次変更させて、ターゲット33上の特定の箇所にのみ電子ビーム50A及び50Bが照射され続ける事態を防いでいる。
【0024】
なお、電子ビーム50Aは、第2の側面334に対する電子ビーム50Bの入射角よりも小さい角度で、第1の側面333に入射する。即ち、第1の側面333において電子ビーム50Aを受ける部分の面積は、第2の側面334において電子ビーム50Bを受ける部分の面積よりも広い。そのため、電子ビーム50A及び50Bのうち、電子ビーム50Aの方をエネルギーの高い電子ビームとして使用することで、ターゲット33の温度上昇を低減することが可能となる。なお、電子ビームのエネルギーについては、フィラメント311にかかる電圧、及び、フィラメント311とターゲット33との間の電圧のいずれかまたは双方と、その電子ビームの照射時間と基づく熱量により算出する。
【0025】
また、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射されるX線51A及び51Bは、撮影には用いられない。そのため、小径の面331及び第3の側面335は、撮影用にあらかじめ決められた条件のX線を、必ずしも発生させる必要は無い。そのため、小径の面331及び第3の側面335には、前述した銅、アルミ、またはタングステン以外の素材を用いてもよい。例えば、小径の面331及び第3の側面335に、これらの素材よりも耐熱性の高い素材を用いてもよい。また、電子ビーム50A及び50Bが照射されていないターゲット33を積極的に冷却する冷却部を設けてもよい。この場合には、冷却効率を上げるために、小径の面331及び第3の側面335に、熱伝導率の高い素材を用いてもよい。
【0026】
以上のように、ターゲット33は、小径の面331と、第1の側面333〜第3の側面335とを備えている。これにより、偏向用電極32がオンのときには、第1の側面333で発生したX線51Aが、照射窓35からX線管球3の外部(即ち、被検体に向けて)に照射される。また、偏向用電極32がオフのときには、第2の側面334で発生したX線51Bが、照射窓35からX線管球3の外部に照射される。このように、X線51A及び51Bの照射を、偏向用電極32のオン/オフにより高速に切り替えることが可能となる。なお、小径の面331で発生したX線51Aと、第3の側面335で発生したX線51Bは、X線管球3の内壁にあたり吸収される。したがって、X線51A及び51Bのいずれか一方が照射窓35からX線管球3の外部に照射されているときに、他方のX線管球3の外部への照射を遮断することができる。
【0027】
偏向制御部11は、X線コントローラ8からトリガ信号を受ける。偏向制御部11は、トリガ信号に同期して、X線管球3の偏向用電極32に電圧をかける。これにより、偏向用電極32のオン/オフが切り替わる。この切り替わりのタイミングについては、X線コントローラ8の詳細とあわせて後述する。
【0028】
ガントリ/寝台コントローラ9は、ガントリ1の回転リング2の回転と、スライド式寝台6のスライドを同期的に制御する。制御部10は全システムの制御中心を構成し、X線コントローラ8、ガントリ/寝台コントローラ9、スライド式寝台6を制御し、X線管球3からX線を照射している間、被検体の周囲の所望の経路で回転リング2を回転させる。
【0029】
X線コントローラ8は、高電圧装置7、偏向制御部11、X線検出器5、及びデータ収集部12の動作及びその動作タイミングを制御する。以降では、X線コントローラ8について、高電圧装置7、偏向制御部11、及びX線検出器5の動作タイミングと、各タイミングにあわせたデータ収集部12の動作とあわせて、図3を参照しながら説明する。図3は、X線CT装置の制御タイミングを説明するための図である。
【0030】
X線コントローラ8は、まず、制御部10から、操作者により入力されたX線CT装置の動作条件を受ける。この動作条件には、X線51A及びX線51Bの照射条件として、管電圧や照射タイミング(即ち、X線51A及び51Bを切り替えるタイミング)等を示す情報が含まれる。X線コントローラ8は、制御部10から受けた管電圧を示す情報を高電圧装置7に出力する。高電圧装置7は、この情報に基づき、電子ビーム50A及び50Bを出力するための印加電圧を決定する。
【0031】
次に、X線コントローラ8は、X線51A及び51Bを切り替えるタイミングを示す情報を基に、図3に示す同期用トリガ信号を生成する。X線コントローラ8は、生成されたトリガ信号を高電圧装置7、偏向制御部11、X線検出器5、及びデータ収集部12に出力する。また、X線コントローラ8は、X線51A及び51Bを切り替えるタイミング(同期用トリガ信号のどのタイミングで切り替わるか)を、偏向制御部11及びデータ収集部12に通知する。
【0032】
高電圧装置7は、X線コントローラ8から同期用トリガ信号の出力が開始されると、電子発生部31A及び31Bの各フィラメント311と、ターゲット33との間に電圧を印加する。これにより、電子発生部31A及び31Bから電子ビーム50A及び50Bが出力される。図3における出力P50Aは、電子発生部31Aから出力される電子ビーム50Aのエネルギーを示している。また、出力P50Bは、電子発生部31Bから出力される電子ビーム50Bのエネルギーを示している。
【0033】
偏向制御部11は、同期用トリガ信号と、X線51A及び51Bを切り替えるタイミングとを、X線コントローラ8から受ける。偏向制御部11は、X線51A及び51Bを切り替えるタイミングを基に、同期用トリガ信号に同期させて図3に示す偏向パルスを生成する。偏向制御部11は、生成された偏向パルスをX線管球3の偏向用電極32に出力する。この偏向パルスにより、偏向用電極32のオン/オフが切り替わる。即ち、X線管球3の照射窓35から照射されるX線が、このオン/オフにあわせて、X線51A及び51Bの間で切り替わる。以下に、具体的な動作タイミングについて、図3を参照しながら説明する。
【0034】
例えば、図3に示すように、時間t1からt2までの間は、偏向制御部11から偏向用電極32に偏向パルスが供給されていない。即ち、偏向用電極32がオフの状態である。この場合には、電子ビーム50A及び50Bは、偏向されずに直進する。このとき、電子ビーム50Aは、第1の側面333に当たり、電子ビーム50Bは、第3の側面335に当たる。電子ビーム50Aが第1の側面333に当たって発生したX線51Aは、照射窓35に向けて照射される。また、電子ビーム50Bが第3の側面335に当たって発生したX線51Bは、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射される。これにより、時間t1からt2までの間は、照射窓35からX線51Aが、X線管球3の外部に照射される。
【0035】
次に、時間t2のタイミングで、偏向制御部11から偏向用電極32に偏向パルスの出力が開始される。これにより、偏向用電極32がオフからオンに切り替わる。そのため、直進していた電子ビーム50A及び50Bが、偏向用電極32に生じた電場により偏向される。このとき、電子ビーム50Aは、小径の面331に当たり、電子ビーム50Bは、第2の側面334に当たる。電子ビーム50Aが小径の面331に当たって発生したX線51Aは、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射される。また、電子ビーム50Bが第2の側面334に当たって発生したX線51Bは、照射窓35に向けて照射される。これにより、偏向用電極32に偏向パルスが出力される、時間t2からt3までの間は、照射窓35からX線51Bが、X線管球3の外部に照射される。
【0036】
また、時間t3のタイミングで、偏向制御部11から偏向用電極32への偏向パルスの出力が停止する。そのため、偏向用電極32がオフの状態となり、照射窓35からX線51Aが、X線管球3の外部に照射される。このようにして、同期用トリガ信号に同期して、X線管球3からX線51A及びX線51Bが交互に切り替わりながら照射される。
【0037】
X線検出器5は、複数の検出素子5Aを含んで構成される。X線検出器5を構成する検出素子5Aは、被検体がX線管球3と検出素子5Aの間に介在する場合、及び、介在しない場合の双方において、X線管球3から照射されるX線51A及び51Bの強度を測定することができる。
【0038】
各検出素子5Aは、シンチレータとフォトダイオード(PD:photodiode)とを含んで構成される。通常、シンチレータとフォトダイオードの素子数は等しく、シンチレータに入射したX線が可視光に変換され、フォトダイオードで電気信号に変換される。さらに、フォトダイオードで変換された電気信号(即ち、アナログ出力信号)は、データ収集部12に導かれる。
【0039】
以上のようにして、照射されたX線51A及びX線51Bは、同期用トリガ信号に同期して動作するX線検出器5により検出される。X線検出器5は、検出されたX線51A及びX線51Bを、それぞれ電気信号に変換し、データ収集部12に出力する。
【0040】
データ収集部12は、同期用トリガ信号と、X線51A及び51Bを切り替えるタイミングとを、X線コントローラ8から受ける。データ収集部12は、同期用トリガ信号に同期して、各検出素子5Aの信号を時分割で読み出す。データ収集部12は、時分割で読み出された信号を、通知されたX線51A及び51Bを切り替えるタイミングにより、X線51Aに基づく信号と、X線51Bに基づく信号とに区別する。この動作について、図3を参照しながら、以下に具体的に説明する。
【0041】
図3に示すように、時間t1からt2までは、偏向用電極32に偏向パルスが出力されないため、X線管球3の照射窓35からX線51Aが照射される。このとき、データ収集部12は、X線コントローラ8からの通知により、X線51Aが照射されていることを認識する。そのため、データ収集部12は、時間t1からt2までの間に読み出す信号を、X線51Aに基づく信号A1として認識し処理する。
【0042】
また、時間t2からt3までは、偏向用電極32に偏向パルスが出力され、X線管球3の照射窓35からX線51Bが照射される。このとき、データ収集部12は、X線コントローラ8からの通知により、X線51Bが照射されていることを認識する。そのため、データ収集部12は、時間t2からt3までの間に読み出す信号を、X線51Bに基づく信号B1として認識し処理する。
【0043】
データ収集部12は、同期用トリガ信号に同期して読み出された各信号を増幅し、それぞれをデジタルデータに変換する。以降では、X線51Aに基づく信号が変換されたデジタルデータを「X線51Aに基づくデジタルデータ」と呼ぶ。また、X線51Bに基づく信号が変換されたデジタルデータを「X線51Bに基づくデジタルデータ」と呼ぶ。データ収集部12は、X線51Aに基づくデジタルデータと、X線51Bに基づくデジタルデータとを、それぞれ区別して前処理部13に出力する。
【0044】
前処理部13は、X線51Aに基づくデジタルデータと、X線51Bに基づくデジタルデータとを、それぞれ区別してデータ収集部12から受ける。前処理部13は、これらのデジタルデータそれぞれに対して感度補正等の処理を施して投影データとする。前処理部13は、これらの各投影データをX線投影データ記憶部14に記憶させる。
【0045】
再構成処理部15は、X線投影データ記憶部14に記憶された投影データを読出す。再構成処理部15は、例えばFeldkamp法と呼ばれる再構成アルゴリズムを利用して、読出された投影データを逆投影してX線画像データを生成する。再構成処理部15は、再構成されたX線画像データを表示部16に表示させる。
【0046】
なお、偏向用電極32のオン/オフを切り替えることで、照射窓35から照射される電子ビームを、電子ビーム50A及び50Bとの間で切り替え可能であれば、必ずしも、電子ビーム50A及び50Bが出射される方向と、中心軸341とは平行になるように配置する必要はない。例えば、電子ビーム50A及び50Bを、互いが干渉しないように、異なる方向に出射させてもよい。この場合には、電子ビーム50A及び50Bの出射方向にあわせて、第1の側面333、第2の側面334、第3の側面335、及び小径の面331の位置や角度を調整すればよい。
【0047】
<変形例>
上記では、2種類のX線を切り替えて出力する構成について説明したが、3種類以上のX線を出力可能に構成してもよい。この場合には、電子発生部31Aを、出力させるX線の種類分だけ設ける。また、ターゲット33の側面形状や偏向用電極32により生成される電場のパワーを調整することで、各電子ビームを、段階的に複数の方向に偏向させる。
【0048】
具体例として、図4Aから図4Cを参照して説明する。ここでは、3つの電子発生部(電子発生部31A、電子発生部31B及び電子発生部31C)により、3種類のX線(電子ビーム50A、電子ビーム50B及び電子ビーム50C)が出力される例を説明する。図4Aは、偏向用電極32がオフのときの状態を示している。図4B及び図4Cは、偏向用電極32がオンのときの状態を示している。なお、図4Bの場合と図4Cの場合では、偏向用電極32に印加される電圧は正負が逆の電圧である。また、ターゲット33は、小径の面331から大径の面332に向けて、軸径が連続的に大きくなるように、第4の側面336、第5の側面337、及び第6の側面338がこの順序で連続して設けられている。
【0049】
図4Aに示すように、偏向用電極32がオフのときには、偏向されることなく電子ビーム50A、電子ビーム50B及び電子ビーム50Cは直進する。このとき、電子ビーム50Aは、第5の側面337の方向に進み、電子ビーム50Bは、第6の側面338の方向に進み、電子ビーム50Cは、第4の側面336の方向に進む。
【0050】
一方、図4Bに示すように、偏向用電極32にある電圧が印加されたとき(オンのとき)には、電子ビーム50A、電子ビーム50B及び電子ビーム50Cは屈折する。このとき、電子ビーム50A及び電子ビーム50Cは、第4の側面336の方向に進み、電子ビーム50Bは、第5の側面337の方向に進む。
【0051】
更に、図4Cに示すように、偏向用電極32に図4Bの場合と正負が逆の電圧が印加されたとき(オンのとき)にも、電子ビーム50A、電子ビーム50B及び電子ビーム50Cは屈折する。このとき、電子ビーム50A及び電子ビーム50Bは、第6の側面338の方向に進み、電子ビーム50Cは、第5の側面337の方向に進む。
【0052】
また、図4Aの場合、ターゲット33は、直進してきた電子ビーム50Aが第5の側面337に当たり、直進してきた電子ビーム50Bが第6の側面338に当たり、直進してきた電子ビーム50Cが第4の側面336に当たるように配置される。電子ビーム50Aがターゲット33に当たると、X線51Aが発生する。第5の側面337は、第5の側面337で発生するX線(図4Aの場合、X線51A)が、照射窓35に向けて照射されるように、中心軸341に対して所定の角度を成して形成されている。また、電子ビーム50Bがターゲット33に当たると、X線51Bが発生する。第6の側面338は、第6の側面338で発生するX線(図4Aの場合、X線51B)が、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射されるように、中心軸341に対して所定の角度を成して形成されている。また、電子ビーム50Cがターゲット33に当たると、X線51Cが発生する。第4の側面336は、第4の側面336で発生するX線(図4Aの場合、X線51C)が、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射されるように、中心軸341に対して所定の角度を成して形成されている。
【0053】
図4Bの場合、ターゲット33は、偏向用電極32により偏向された電子ビーム50A及び電子ビーム50Cが第4の側面336に当たり、かつ、偏向用電極32により偏向された電子ビーム50Bが第5の側面337に当たるように配置される。この場合、X線51Bが、照射窓35に向けて照射される。X線51A及びX線51Cは、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射される。
【0054】
図4Cの場合、ターゲット33は、偏向用電極32により偏向された電子ビーム50A及び電子ビーム50Bが第6の側面338に当たり、かつ、偏向用電極32により偏向された電子ビーム50Cが第5の側面337に当たるように配置される。この場合、X線51Cが、照射窓35に向けて照射される。X線51A及びX線51Bは、照射窓35が設けられた位置とは異なる方向に向けて照射される。
【0055】
本変形例では、第5の側面337が「第1の面」、「第4の面」に相当し、第4の側面336、第6の側面338が「第2の面」、「第3の面」に相当する。また、電子発生部を複数設ける構成を用いることにより、フォトンカウンティングにも応用可能である。
【0056】
さらに、各方向に応じて、照射窓35から出力されるX線が切り替わるように、ターゲット33の側面の形状を調整すればよい。また、ターゲット33を複数設けて、電子ビーム50A及び50Bをそれぞれ異なるターゲット33で受けることで、X線51A及び51Bを発生させるようにしてもよい。また、直進する電子ビーム50A及び50Bと、偏向された電子ビーム50A及び50Bとを、それぞれ異なるターゲット33で受けてもよい。
【0057】
以上で説明したように、本実施形態に係るX線CT装置に依れば、単一のX線管球3により異なる複数のX線を遂次切り替えながら照射することが可能となる。そのため、装置が複雑化せず、コストもより安価になる。また、本実施形態に係るX線CT装置は、電子ビーム50A及び50Bは常に照射されており、これらを偏向させることで照射窓35から照射させるX線を切り替えている。このような構成とすることで、X線51A及び51Bの切り替えを電子的に制御することが可能となる。これにより、機械的な切り替えでは同期が難しい高速な切り替えも、本実施形態に係るX線CT装置では可能となる。また、X線51Aと51Bとの間の切り替え時に、フィラメント311とターゲット33との間の電圧を変更する必要が無い。そのため、X線51Aと51Bとの間で切り替えた場合においても、電圧の変更が完了するまでのタイムラグが発生しないため、X線51A及び51Bの出力を安定させることが可能となる。これにより、X線の切り替えに伴う画像の劣化を防止することが可能となる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載されたその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 ガントリ
2 回転リング
3 X線管球
31A、31B 電子発生部
311 フィラメント
32 偏向用電極
33 ターゲット
331 小径の面
332 大径の面
333 第1の側面
334 第2の側面
335 第3の側面
34 駆動部
35 照射窓
4 X線フィルタ
5 X線検出器
6 スライド式寝台
7 高電圧装置
8 X線コントローラ
9 ガントリ/寝台コントローラ
10 制御部
11 偏向制御部
12 データ収集部
13 前処理部
14 X線投影データ記憶部
15 再構成処理部
16 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電子ビームを出射する第1の電子発生部と、
前記第1の電子ビームとはエネルギーの異なる第2の電子ビームを出射する第2の電子発生部と、
前記第1の電子ビーム及び前記第2の電子ビームが送出される方向を同時に、第1の方向と、前記第1の方向とは異なる第2の方向とのいずれかに切り替え可能に構成された偏向手段と、
前記第1の方向に向けて送出された第1の電子ビームを受けて、所定の照射野に向けて第1のX線を照射する第1の面と、前記第1の方向に向けて送出された第2の電子ビームを受けて、前記所定の照射野とは異なる方向に向けて前記第1のX線とは異なる第2のX線を照射する第2の面と、前記第2の方向に向けて送出された第1の電子ビームを受けて、前記所定の照射野とは異なる方向に向けて前記第1のX線を照射する第3の面と、前記第2の方向に向けて送出された第2の電子ビームを受けて、前記所定の照射野に向けて前記第2のX線を照射する第4の面と、を備えたX線発生部と、
を備えたことを特徴とするX線管球。
【請求項2】
前記第1の面は、前記第4の面への前記第2の電子ビームの入射角度とは異なる入射角度で、前記第1の電子ビームを受けることを特徴とする請求項1に記載のX線管球。
【請求項3】
前記第1の面と、前記第4の面とのうち、前記エネルギーの高い電子ビームを受ける面が、他方の面より浅い入射角度で当該電子ビームを受けることを特徴とする請求項2に記載のX線管球。
【請求項4】
前記偏向手段は、
互いの間に電場を形成可能であり、かつ互いの間を前記第1の電子ビーム及び前記第2の電子ビームが通過するように配置された一対の電極を備え、
前記電場により前記第1の電子ビーム及び前記第2の電子ビームの双方を偏向させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載のX線管球。
【請求項5】
被検体に向けてX線を照射する照射窓を備えたX線管球と、
前記照射窓から照射されたX線を検出するX線検出器と、
を備えてなるX線CT装置であって、
前記X線管球は、
第1の電子ビームを出射する第1の電子発生部と、
前記第1の電子ビームとは異なる第2の電子ビームを出射する第2の電子発生部と、
前記第1の電子ビーム及び前記第2の電子ビームが送出される方向を同時に、第1の方向と、前記第1の方向とは異なる第2の方向とのいずれかに切り替え可能に構成された偏向手段と、
前記第1の方向に向けて送出された第1の電子ビームを受けて、前記照射窓を介して前記被検体に向けて第1のX線を照射する第1の面と、前記第1の方向に向けて送出された第2の電子ビームを受けて、前記照射窓とは異なる方向に向けて前記第1のX線とは異なる第2のX線を照射する第2の面と、前記第2の方向に向けて送出された第1の電子ビームを受けて、前記照射窓とは異なる方向に向けて前記第1のX線を照射する第3の面と、前記第2の方向に向けて送出された第2の電子ビームを受けて、前記照射窓を介して前記被検体に向けて前記第2のX線を照射する第4の面と、を備えたX線発生部と、
を備え、
前記X線検出器は、
前記偏向手段による前記切り替えに同期して、前記第1のX線及び前記第2のX線を検出することを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2013−31645(P2013−31645A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140167(P2012−140167)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】