説明

X線管

【課題】ハウジングに対してX線管本体を絶縁状態に支持できるとともに、X線管本体におけるX線の発生点の位置変動を抑制できるX線管を提供する。
【解決手段】X線管10は、ハウジング12と、このハウジング12内に配置するX線管本体11と、ハウジング12に対してX線管本体11を絶縁状態に支持する支持体13とを具備する。支持体13は、セラミックスおよびガラスのいずれか一方の絶縁材料で形成した絶縁体28を用いる。この絶縁体28に金属材料で形成した一対の取付体29,30をそれぞれ接合する。一方の取付体29をハウジング12に固定し、他方の取付体30をX線管本体11に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ハウジング内にX線管本体を絶縁状態に支持したX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な微小焦点を有するX線管は、マイクロフォーカスX線源として既に製品化がなされており、対象物の微小領域を高分解能で検査する非破壊検査装置などに広く利用されている。このX線管は、電子源から放出される電子ビームを電磁レンズにより集束させ、ターゲットの表面のμm単位、またはそれ以下の狭い領域に入射させることにより、そのターゲットで発生するX線をターゲットを透過させて放出させる構成が採られている。現在では、様々な工夫を凝らすことによって、0.1μmに迫る微小焦点のX線管が達成されている。
【0003】
このような微小焦点のX線管では、X線管本体におけるX線の発生点(焦点)の位置変動を抑えることが良質の撮影画像を安定して得るうえでの重要なポイントとなるため、この位置変動に対する影響因子に対して考慮したX線管の構造を備えることが必要となっている。
【0004】
また、X線管への電源からの高電圧の給電に関して、X線管が安定に動作するのに至る前の過渡状態(エージング)時期には、X線管本体内での微小な放電(マイクロ放電)が高い頻度で発生し、それに伴う高いピークの電流がX線管本体を通して電源系のアース部に流れ込むと、制御系の誤動作や故障をもたらす要因となる。それを防止するために、X線管では、X線管本体とこのX線管本体を収容するハウジングとの間を絶縁し、電源からX線管本体に給電した高電圧のリターン電流を電源に確実に戻すことにより、アース部の電位の揺らぎを緩和するようにしている。
【0005】
一般のX線管では、ハウジングとこのハウジング内に配置するX線管本体との間に熱硬化型の樹脂を流し込み、ハウジングとX線管本体との間の絶縁を確保するとともにハウジングに対してX線管本体を支持する樹脂モールド構造が採用されている。これにより、電源からX線管本体に給電する高電圧のリターン電流は、接地電位にあるハウジングを通ることなく、電源に帰還させることができるため、電源の制御系にノイズを与える影響を小さくすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−140687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂モールドによりハウジング内にX線管本体を支持すると、樹脂などの比較的柔らかい絶縁材料を使用した場合、応力や、熱膨張などの影響による樹脂モールドの変形によって、上述のX線管本体におけるX線の発生点の位置変動が大きくなることが問題となる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ハウジングに対してX線管本体を絶縁状態に支持できるとともに、X線管本体におけるX線の発生点の位置変動を抑制できるX線管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態のX線管は、ハウジングと、このハウジング内に配置するX線管本体と、ハウジングに対してX線管本体を絶縁状態に支持する支持体とを具備する。支持体は、セラミックスおよびガラスのいずれか一方の絶縁材料で形成した絶縁体を用いる。この絶縁体に金属材料で形成した一対の取付体をそれぞれ接合する。一方の取付体をハウジングに固定し、他方の取付体をX線管本体に固定する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態を示すX線管の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態を、図1を参照して説明する。
【0012】
微小焦点を有するX線管10は、X線管本体11、このX線管本体11を収容するハウジング12、このハウジング12に対してX線管本体11を絶縁状態に支持する支持体13、およびX線管10を駆動する電源装置14を備えている。
【0013】
そして。X線管本体11は、電子ビームを放出する電子銃17、およびこの電子銃17を収容する真空容器18を備えている。
【0014】
真空容器18は、金属製の容器本体19を有し、この容器本体19の一端には電子銃17から放出される電子ビームが入射してX線を発生するとともに発生したX線を外部に放出するX線放出窓を兼ねた透過ターゲット20が設けられ、容器本体19の他端には容器本体19に対して絶縁されていて外部からX線管本体11に電源供給するための絶縁端子21が設けられている。
【0015】
電子銃17は、真空容器18の内部の固定位置に支持されており、電子源から放出される電子ビームを電磁レンズにより集束させて透過ターゲット20に入射させ、透過ターゲット20から外部にX線を放出させる。
【0016】
また、ハウジング12は、X線管10を収容し、外部からX線管本体11への磁気の浸入を抑え、かつ透過ターゲット20以外の部位からのX線の漏洩を防ぐように構成されている。ハウジング12の一端には真空容器18の透過ターゲット20から放出されるX線が通過する開口部23が形成され、ハウジング12の他端にはX線管本体11の絶縁端子21に対向する差込口24が形成され、ハウジング12の周囲にはフランジ部25が設けられている。このフランジ部25が、X線管10を支持する金属製の支持台26に取り付けられている。
【0017】
ハウジング12は、支持台26を通じて接地電位に保たれている。支持台26は、X線管10を設置する際の基準点を有し、この基準点とX線焦点(透過ターゲット20上の電子ビーム集束点)すなわちX線の発生点の位置とが対応付けられている。
【0018】
また、支持体13は、セラミックスおよびガラスのいずれか一方の絶縁材料で形成された絶縁体28、およびこの絶縁体28を介して互いに絶縁された状態で絶縁体28の両側面にそれぞれ接合された金属材料で形成された一対の取付体29,30を有している。すなわち、絶縁体28を一対の取付体29,30で挟み込んだ状態に一体化されている。一方の取付体29がハウジング12に例えば溶接やねじ止めなどの固定手段によって固定されるとともに、他方の取付体30がX線管本体11に例えば溶接やねじ止めなどの固定手段によって固定されている。
【0019】
絶縁体28と取付体29,30とは溶着によって接合されている。例えば、絶縁体28がガラスの場合には、ガラスと殆んど同じ熱膨張率を持つコバール合金製の取付体29,30を用いて溶着され、また、絶縁体28がセラミックスの場合には、絶縁体28の接合面にMo−Niをメタライズし、同様の金属製の取付体29,30をロウ付けによって溶着されている。
【0020】
支持体13はX線管本体11の数箇所をハウジング12に対して支持するように複数個用いてもよいし、支持体13を環状に形成してX線管本体11の周面をハウジング12に対して支持するようにしてもよい。
【0021】
取付体29,30は、絶縁体28に溶着される溶着部と、ハウジング12やX線管本体11に固定される取付部とを有していればよく、取付部の形状は任意に設定できる。
【0022】
また、電源装置14は、X線管本体11に高電圧を供給する高電圧ユニット32、および高電圧ユニット32を制御する制御ユニット33を備えている。高電圧ユニット32の高電圧側は高電圧線34およびX線管本体11の絶縁端子21に接続されたコネクタ35を通じて電子銃17に供給され、高電圧のリターン側は真空容器18の容器本体19からリターン線36を通じて高電圧ユニット32に戻るように接続されている。
【0023】
制御ユニット33の筐体は、リターン電流が直接流れ込まないように、高電圧ユニット32における高電圧電流ループの外側に設けた電源装置14の筐体のアース端子と一点で接続されている。
【0024】
そして、このように構成されたX線管10では、電源装置14から高電圧を電子銃17に供給し、それによって電子銃17から透過ターゲット20へ向けて放出される電子ビームを集束して透過ターゲット20の微小部位に入射させることにより、透過ターゲット20の微小部位から発生するX線が透過ターゲットを透過して外部に放出される。
【0025】
また、支持体13は、セラミックスおよびガラスのいずれか一方の絶縁材料で形成された絶縁体28に一対の取付体29,30を接合した構成であるため、X線管本体11をハウジング12に対して絶縁状態に支持できるとともに、X線管10の発熱、または外気温の変化に対して、絶縁体28の変形が樹脂に比べて少なく、X線管本体11とハウジング12との位置関係を一定に保つことができる。
【0026】
そのため、X線管10は、ハウジング12に対してX線管本体11を絶縁状態に支持できるとともに、支持台26の基準点に対するX線焦点(透過ターゲット20上の電子ビーム集束点)すなわちX線の発生点の位置変動を抑制することができる。
【0027】
これにより、このような微小焦点のX線管10では、X線の発生点の位置変動を抑えることができるため、良質の撮影画像を安定して得ることができる。
【0028】
また、絶縁体28として用いるセラミックスおよびガラスは、割れやすく、ハウジング12やX線管本体11に直接取り付けるのに適さないことがあるが、絶縁体28に取付体29,30を接合し、取付体29,30を用いてハウジング12やX線管本体11に取り付けることにより、絶縁体28の割れや取付性の問題を解決できる。
【0029】
また、絶縁体28と取付体29,30とは溶着によって接合しているため、接合強度が高く、ハウジング12に対してX線管本体11を確実に支持できる。
【0030】
また、電源装置14内の高電圧ユニット32からX線管本体11に高電圧を印加する高電圧線34を通った電流は、リターン線36を通って電源装置14内の高電圧ユニット32に戻ってくる。X線管本体11内で小さな放電が生じた場合、高いピークのパルス的な電流がリターン線36を通って電源装置14内の高電圧ユニット32に戻ってきてアース部に流れ込むと、制御系に影響を及ぼす可能性がある。
【0031】
そこで、制御ユニット33の筐体はリターン電流が直接流れ込まないように高電圧ユニット32における高圧電流ループの外側に設けた電源装置14の筐体のアース端子と一点で接続している。そのため、制御ユニット33の筐体の電位変動が起きにくく、誤動作を抑えることができる。
【0032】
最近では、省電力用に低い電圧で駆動するCPUを制御系に適用することが多くなっており、小さな電圧変動でもCPUの誤動作を引き起しやすい問題がある。そのため、上記のように、X線管本体11をアース電位から電気的に絶縁し、リターン電流を高電圧ユニット32に確実に帰還させる構成を採ることで、そのような問題を抑制できる。
【0033】
なお、絶縁体28と取付体29,30との接合は、溶着に限らず、接着でもよく、あるいは絶縁性が確保できれば別の固定具などを用いてもよい。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
10 X線管
11 X線管本体
12 ハウジング
13 支持体
28 絶縁体
29,30 取付体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
このハウジング内に配置されるX線管本体と、
セラミックスおよびガラスのいずれか一方の絶縁材料で形成された絶縁体、およびこの絶縁体を介して互いに絶縁された状態で前記絶縁体にそれぞれ接合された金属材料で形成された一対の取付体を有し、一方の取付体が前記ハウジングに固定されるとともに他方の取付体が前記X線管本体に固定され、前記ハウジングに対して前記X線管本体を絶縁状態に支持する支持体と
を具備していることを特徴とするX線管。
【請求項2】
絶縁体と取付体とは溶着されている
ことを特徴とする請求項1記載のX線管。

【図1】
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【公開番号】特開2013−77381(P2013−77381A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215027(P2011−215027)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)