説明

X線装置

【課題】
2次巻線にリッツ線を用いたフィラメント加熱用変圧器を有するX線装置において、絶縁信頼性を確保して加熱用変圧器内外の電気的接続を容易にする。
【解決手段】
加熱用変圧器は、モールド樹脂205が充填され、2次巻線にリッツ線111が用いられ、変圧器ケース蓋204に固定された導電性ホルダー110を有し、導電性ホルダーの貫通孔を介してリッツ線を加熱用変圧器の外に引き出す。望ましくは、導電性ホルダーは二分割構造とし、外周面に凹みを形成し、この凹みの箇所において変圧器ケース蓋を挟み込むようにし、リッツ線の素線の1本は導電性ホルダーに電気的に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置、X線撮影装置またはX線CT装置等のX線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線装置は、例えば、非特許文献1に示されているように、X線管とX線管用高電圧発生装置から構成され、X線管は、熱電子を放出するフィラメントを先端に有する陰極と、陰極に対向して配置された陽極から構成され、また、X線管用高電圧発生装置は、フィラメントを加熱する電力を供給するフィラメント加熱用変圧器(以下、加熱用変圧器という。)と、陰極と陽極との間に直流高電圧を印加する直流発生装置とから構成される。
【0003】
加熱用変圧器としては、例えば、絶縁体で構成された変圧器ケース内に1次巻線,2次巻線及び鉄心を絶縁樹脂によりモールドしたものが用いられる。そして、変圧器ケースの内外を電気的に接続するために、1次巻線,2次巻線を変圧器ケースに設けられた巻線端子に電気的に接続し、巻線端子を介して、1次巻線には交流電源を接続し、2次巻線には陰極を接続している。
【0004】
2次巻線端子間の電位差は数十Vから数百V、1次巻線端子間の電位差も数十Vから数百Vであるものの、1次巻線と2次巻線の間の電位差は直流発生装置による直流の電位差100kV程度が重畳した電位差となる。この直流の電位差に基づく放電を、モールド樹脂や、加熱用変圧器を直流発生装置と共に絶縁ガスや絶縁油の中に配置することによって防止するようにしている。
【0005】
また、加熱用変圧器に入出力される交流は鉄心サイズを小さくするために高周波(数十kHz以上)の交流が用いられる。高周波交流を用いる変圧器の巻線には表皮効果を低減するために、それぞれを絶縁被覆した素線を束ねたリッツ線を用いることが多い。
【0006】
尚、変圧器の2次巻線にリッツ線を用い、リッツ線の端部を他の機器の端子金具に容易に接続する構造を開示するものとして、特許文献1に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−340050号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】石榑顕吉他編、「放射線応用技術ハンドブック」、朝倉書店刊、1990年11月25日発行、p.391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
2次巻線端子を介してリッツ線を加熱用変圧器の内外を電気的に接続する構造では、リッツ線全ての端部の絶縁被覆を剥がし、2次巻線端子にはんだ付け等により接続する必要がある。しかしながら、リッツ線は素線の本数が多く、全ての素線の被覆を剥がし、確実にはんだ付けする必要性があり、工程数が多くなる。
【0010】
一方、これらの問題を避けるために、2次巻線端子を用いず、ケースに穴をあけリッツ線そのものを外部に引き出すことも考えられる。しかしながら、2次巻線端子には直流の100kV程度が印加されているので、リッツ線の周囲には高電界部が存在し、部分放電の可能性がある。また、リッツ線そのものを外部に引き出した場合には、素線が細いため、ケースまたはモールド樹脂との間にボイドや亀裂による空間ができることが懸念され、これはリッツ線周囲の高電界部における部分放電を誘発することにもなる。
【0011】
また、特許文献1では、リッツ線の端部を他の機器の端子金具に容易に接続する構造が開示されているが、変圧器ケースからリッツ線を引き出す部分(変圧器ケースカバーの孔部)は、リッツ線をそのまま引き出す構造となっている。従って、このような構造をX線装置の絶縁樹脂でモールドした加熱用変圧器に適用した場合、上述したように、部分放電などが懸念される。即ち、特許文献1では、高電圧に関しての部分放電防止等の絶縁信頼性向上については特に配慮されていない。
【0012】
本発明の課題は、2次巻線にリッツ線を用いたフィラメント加熱用変圧器を有するX線装置において、絶縁信頼性を確保して加熱用変圧器内外の電気的接続を容易にすることが可能なX線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、貫通孔を有する導電性ホルダーを変圧器ケースに取り付け、導電性ホルダーを介して2次巻線のリッツ線を加熱用変圧器から外部に引き出すようにしたことを特徴とする。
【0014】
また、変圧器ケースに蓋を設けない場合には、本発明は、絶縁樹脂モールド部から2次巻線のリッツ線を引き出す箇所に導電性ホルダーを取り付け、導電性ホルダーを介して2次巻線のリッツ線を加熱用変圧器から外部に引き出すようにしたことを特徴とする。
【0015】
さらに、具体的には、上記課題は、特許請求の範囲に記載した構成によって解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、X線装置において、絶縁信頼性を確保して加熱用変圧器内外の電気的接続を容易にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例(第一実施例)であるX線装置のフィラメント加熱用変圧器の部分断面図である。
【図2】リッツ線のみの場合のリッツ線周囲の電界分布とリッツ線を導電性ホルダーで保持した場合の導電性ホルダー周囲の電界分布の比較を示す図である。
【図3】本発明の他の実施例(第二実施例)であるX線装置のフィラメント加熱用変圧器の部分断面図である。
【図4】本発明の他の実施例(第三実施例)であるX線装置のフィラメント加熱用変圧器の部分断面図である。
【図5】本発明の他の実施例(第四実施例)であるX線装置のフィラメント加熱用変圧器の部分断面図である。
【図6】本発明の他の実施例(第五実施例)であるX線装置のフィラメント加熱用変圧器の部分断面図である。
【図7】本発明が適用されるX線装置の電気回路の例を示す図である。
【図8】本発明が適用される代表的な加熱用変圧器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の一実施例を説明する。
【0019】
先ず、図面を用いて、本発明が適用されるX線装置の電気回路の一例(図7)と加熱用変圧器の構造の一例(図8)を説明する。
【0020】
図7は、X線装置として一般的に総称されるX線発生装置、X線撮影装置またはX線CT装置等におけるX線管および接続する電気回路を示す。図7において、X線管100の陰極101と陽極102の間は高電圧発生装置103内の直流発生装置104により電位差100kV程度の直流高電圧が印加されている。一方、陰極101先端はフィラメントとなっており、その両端には高電圧発生装置103内の加熱用変圧器105が接続されている。陰極101は加熱用変圧器105から供給される交流により加熱され、陰極101と陽極102の間に印加される直流電界により、陰極101から熱電子が放出され、陽極102に衝突することによりX線が発生する。加熱用変圧器105の1次巻線107には交流電源106が接続され、加熱用変圧器105の2次巻線108には陰極101が接続される。図中、符号109a,109b,110a及び110bは、従前の例では巻線端子が用いられていた箇所に位置する後述の導電性ホルダーの場所を示す。2次巻線108の符号110aと110bの間の電位差は数十Vから数百V、1次巻線107の符号109aと109bの間の電位差も数十Vから数百Vであるものの、1次巻線107と2次巻線の間の電位差は直流発生装置104による直流の電位差である直流の電位差100kV程度が重畳している。図7は陰極101に−100kV程度の電位が印加される陽極接地型と呼ばれる回路を示しているが、本発明は陰極接地型にも適用できる。また、陰極101には負電位を、陽極102には正電位をそれぞれ印加される中性点接地型と呼ばれる回路も存在する。いずれにしても、加熱用変圧器105における1次巻線107と2次巻線108の間には数十kV以上の高い電位差が印加される。
【0021】
図8は、加熱用変圧器105の断面を示す。1次巻線107は1次巻線ボビン201の外側に巻回され、2次巻線108は2次巻線ボビン202の外側に巻回されている。1次巻線107と2次巻線108は鉄心206をとりまくように配置され、鉄心206に磁界を発生できる構成とされている。図8では1次巻線107と2次巻線108はソレノイド巻線構造であり、中心軸には鉄心206が挿入されている。図示していないが、鉄心206は漏れ磁場を無くすために端部のない閉磁路構造であることが望ましい。1次巻線107および1次巻線ボビン201、2次巻線108および2次巻線ボビン202は、変圧器ケース本体203と変圧器ケース蓋204で構成される変圧器ケース内に設置され、変圧器ケース内は絶縁樹脂であるモールド樹脂205(エポキシ樹脂、ゴム等)によりモールドされ、1次巻線107と2次巻線108の間の絶縁が施されている。また、モールド樹脂205を変圧器ケース本体203に注入するために変圧器ケース本体203には変圧器ケース蓋204が取り付けられ、モールド樹脂205があふれることなく変圧器ケース本体203内に十分に注入される。尚、変圧器ケース蓋204には図示していないがモールド樹脂の注入孔が形成されている。
【0022】
変圧器ケース蓋204には、1次巻線を保持する導電性ホルダー109a,109b、2次巻線を保持する導電性ホルダー110a,110bが貫通するように取り付けられ固定されている。変圧器ケース本体203および変圧器ケース蓋204の外側は六フッ化硫黄等の絶縁ガス、鉱油やシリコン油等の絶縁油で放電を防止している。空気、エポキシ樹脂やゴム等の絶縁体で外側を構成し放電を防止するようにしても良い。
【0023】
加熱用変圧器105に入出力される交流は鉄心サイズを小さくするために高周波(数十kHz以上)の交流が用いられる。表皮効果を低減するために、それぞれを絶縁被覆した素線を束ねたリッツ線が用いられている。表皮効果は高周波電流が導体を流れる時、電流密度が導体の表面で高く、表面から離れると低くなる現象のことである。周波数が高くなるほど電流が表面へ集中するので、導体の交流抵抗は高くなることが知られている。表皮効果を低減させるため、高周波用の特殊な導線であるリッツ線を使ってコイルを構成している。リッツ線は複数の細い銅線を縒りあわせた導線であり、単一の銅線よりも表面積が大きい。通常の細い銅線をよりあわせたものと異なり、全ての銅線が絶縁被覆されている。本発明では少なくとも2次巻線108にリッツ線が適用される。
【0024】
本発明では、以下に詳述するように、変圧器ケース(蓋)に、従前の巻線端子に替えて、導電性ホルダーを設け、加熱用変圧器内外の電気的接続を行うようにしている。即ち、本発明では、リッツ線素線を変圧器ケースの箇所において接続する構造とはしないで、導電性ホルダーを介してリッツ線を外部に引き出し、外部において他の機器(X線装置においては陰極)と接続するようにしている。尚、導電性ホルダーの電位をリッツ線と同電位とするのが望ましいため、導電性ホルダーにリッツ線の素線の少なくとも1本(工程数を考慮すれば1本)を電気的に接続するようにしている。このような構成によって、工程数を低減し、2次巻線のリッツ線が加熱用変圧器から引き出される箇所におけるリッツ線及び導電性ホルダーの周囲の電界を緩和し、かつ、高電界部におけるボイドや亀裂による空間をできないようにしている。以下、導電性ホルダーの構成を中心に本発明の実施例を説明する。
【0025】
図1を用いて本発明の一実施例(第一実施例)を説明する。
【0026】
絶縁材料を用いた変圧器ケース蓋204の下部はモールド樹脂205が注入されて絶縁されており、図示していないがモールド樹脂205の中には図8のように1次巻線、2次巻線、鉄心などから構成される変圧器本体が埋め込まれている。
【0027】
本実施例では、変圧器ケースの変圧器ケース蓋204に電気良導体である導電性ホルダー110を取り付け、導電性ホルダー110に2次巻線のリッツ線111を固定している。即ち、導電性ホルダー110を介して、2次巻線のリッツ線111を変圧器ケースの外部に引き出すとともに、変圧器ケース蓋204に固定している。図示していないが、加熱用変圧器から引き出されたリッツ線111は陰極からの導体と接続されている。尚、図面ではリッツ線の素線が直線状に図示されているが、リッツ線は複数の素線を撚り合せた導線である。
【0028】
導電性ホルダー110は電気良導体である金属であることが望ましい。また、導電性ホルダー110は、電界を緩和するために、概略リッツ線111を中心軸とした円柱形となっており、円柱の上面および下面は角部を丸めてソーセージ状とし、リッツ線111の直径より導電性ホルダーの貫通孔の直径を大きくすることが望ましい。具体的製作方法としては、導電性ホルダー110を銅、アルミニウム、真鍮等により製作し、中心部にリッツ線111を挟み込み、かしめて、導電性ホルダー110にリッツ線を固定するという方法が挙げられる。その後、導電性ホルダー110を変圧器蓋204にはめ込んで固定し、変圧器ケース蓋204に設けた孔(図示省略)から絶縁樹脂を変圧器ケース内に注入する。
【0029】
導電性ホルダー110は表面に電気良導体である金属のメッキを施した樹脂でも良い。また、いわゆる導電性樹脂等や、絶縁体であっても加熱変圧器ケース蓋204およびモールド樹脂205より、体積抵抗率が低い有機材料を導電性ホルダーに用いることも可能である。即ち、電気良導体とは、絶縁材料で形成した変圧器ケース蓋204およびモールド樹脂205よりも体積抵抗率が低いことを意味する。
【0030】
図2に、リッツ線に100kVが印加された場合において、半径1mmのリッツ線周囲の計算による電界分布と、本実施例において半径5mmの導電性ホルダー周囲の計算による電界分布の比較を示す。仮定として、リッツ線は全て同電位とみなし、また、リッツ線と導電性ホルダーは同電位としている。図2のように、本実施例の構造を適用すれば最大電界を低減することが可能である。このようなことから、本実施例における導電性ホルダーは電界緩和の機能を有するホルダーである。
【0031】
このように、導電性ホルダーを介して2次巻線のリッツ線を固定することにより、リッツ線及び導電性ホルダーの周囲の電界を緩和することができ、部分放電等を防止することができ、絶縁信頼性を向上することが可能となる。
【0032】
また、本実施例の導電性ホルダーを用いることなく、リッツ線そのものを外部に引き出した場合には、素線が細いため、変圧器ケースまたはモールド樹脂との間にボイドや亀裂による空間ができることが懸念され、これがリッツ線周囲の高電界部における部分放電を誘発することに原因となる。本実施例では、空間が形成しやすいリッツ線周囲には、図2に示すように高電界部が生じない。また、導電性ホルダーを用いることによって、導電性ホルダー周囲の電界が低減することに加えて、リッツ線を、直接、変圧器ケースまたはモールド樹脂と接触させる場合と比較して、変圧器ケースまたはモールド樹脂との間に、ボイドや亀裂による空間ができにくくなり、その結果、本実施例では、高電界部にボイドや亀裂による空間が形成できないようにすることが可能となる。
【0033】
また、本実施例では、加熱用変圧器内外の電気的接続は、導電性ホルダーを介してリッツ線を変圧器ケースの外部に引き出し、変圧器ケースの外部において他の機器(本実施例では陰極)と接続することにより行っているので、大幅に工程数を低減することが可能となる。なお、変圧器ケース蓋に巻線端子を設けてリッツ線の素線全てを巻線端子に接続する場合においても、巻線端子からの導線と陰極との接続は別に行う必要があり、変圧器ケースの箇所において電気的接続を行わない工程数低減効果は大きい。また、変圧器ケース蓋に巻線端子を設けてリッツ線の素線全てを巻線端子に接続する場合には、接続抵抗を一定にしないと、素線ごとの電気抵抗が異なり、素線ごとの電流のアンバランスが発生し、リッツ線の電気抵抗が大きくなるが、本実施例ではリッツ線を巻線端子に接続する必要がないので、そのようなことが生じない。
【0034】
次に、図3を用いて、本発明の他の実施例(第二実施例)を説明する。本実施例では、上述の第一実施例に加えて、導電性ホルダー110にリッツ線111の素線1本を電気的に接続し、残りの素線はそのまま導電性ホルダーの貫通孔を通すようにしたものである。
【0035】
即ち、リッツ線111のうち素線1本について、導電性ホルダーの付近で絶縁被覆を剥がし、素線とは別の導線208を用いて絶縁被覆を剥がした素線と導電性ホルダーとを電気的に接続している。導線208と素線及び導電性ホルダーとはハンダづけにて接続している。また、絶縁被覆を剥がした素線を導電性ホルダー110に接触(例えば導電性ホルダーの貫通孔の内壁と接触)させたり、ハンダや導電性樹脂や導電性ゴム等を介して接続したりしてもよい。その他の構造は上述の第一実施例と同様であり説明を省略する。
【0036】
本実施例によれば、上述の第一実施例と同様の効果を奏することができ、さらに、リッツ線111と導電性ホルダーを確実に同電位とすることによって、電界緩和の効果を高めることが可能となる。本実施例では特にリッツ線111と導電性ホルダーを同電位とすることが狙いなので、リッツ線111は導電性ホルダーと少なくとも素線1本で電気的に接続すれば良く、工程数低減の観点からは素線1本で接続するのが望ましい。
【0037】
次に、図4を用いて、本発明の他の実施例(第三実施例)を説明する。本実施例では、上述の第一実施例に加えて、リッツ線111の素線のうち1本は切断して導電性ホルダー110を介して電流を流す構造とし、残りの素線は全て導電性ホルダーの貫通孔を通す構造としたものである。即ち、本実施例では、リッツ線と導電性ホルダーとを同電位とするために、第二実施例の別の導線を用いる構造に替えて、素線1本のみを切断し、切断された素線をそれぞれ導電性ホルダーにハンダづけして、導電性ホルダーと電気的に接続している。また、素線に流れる電流は導電性ホルダーを介して流れている。
【0038】
本実施例によれば、上述の第一実施例と同様の効果を奏することができ、さらに、第二実施例と同様に、リッツ線111と導電性ホルダーを確実に同電位とすることによって、電界緩和の効果を高めることが可能となる。また、本実施例では、別の導線を用いる第二実施例と比べて作業が容易である。また、本実施例でも第二実施例と同様にリッツ線111は導電性ホルダーと少なくとも素線1本で電気的に接続すれば良く、工程数低減の観点からは素線1本で接続するのが望ましい
次に、図5を用いて、本発明の他の実施例(第四実施例)を説明する。本実施例では、上述の第三実施例に加えて、導電性ホルダーを2分割構造とし、2分割構造の導電性ホルダーの間に変圧器ケースを挟み込み、2分割構造の導線性ホルダー相互を電気的に接続している。
【0039】
図5に示すように、導電性ホルダー110は二つに分割された構造であり、上部をオスねじ、下部をメスネジとしている。上部をメスねじ、下部をオスネジとしても良い。その他の構造は第三実施例と同様の構造である。このように導電性ホルダーを2分割構造とすることにより、第三実施例の特徴を備えたうえで、導電性ホルダーを変圧器ケースに簡便に取り付けることが可能となる。
【0040】
また、本実施例では、導電性ホルダーと変圧器ケース(変圧器ケース蓋)と接する個所では、導電性ホルダーの外周表面が凹んだ構造となっている。即ち、上下に分割した導電性ホルダー110で変圧器ケース蓋204を挟み込み、変圧器ケース蓋204の穴の直径と比較してこの部分での導電性ホルダー110の直径(外径)を小さくしている。このように導電性ホルダーと変圧器ケース蓋と接する個所で、導電性ホルダー外周表面を凹んだ形状とすることにより、電界が凹んだ箇所に入り込まないことから、導電性ホルダーと変圧器ケースの接する個所の電界をさらに緩和することができる。これらの接する個所に空隙があったとすると空隙は体積抵抗率が小さいため電界が集中する傾向にあるが、導電性ホルダー表面を凹んだ形状とすることにより、電界集中を緩和することができる。図1や図3,図4のように凹みのない導電性ホルダーの場合、変圧器ケース蓋に導電性ホルダーをはめ込むようにして空隙ができないようにしても製作誤差等により空隙が形成される可能性があり、電界集中することになるが、本実施例では空隙が形成されても電界集中を緩和することができる。
【0041】
導電性ホルダー表面への凹みの形成には、導電性ホルダーを上下に分割し(導電性ホルダーの貫通孔の延伸方向に分割し)、変圧器ケース蓋204を挟み込む構造とすることにより簡単に実現できる。変圧器ケース蓋を用いない場合には、導電性ホルダーを分割することなく、導電性ホルダーに凹みを形成することができる。この場合、リッツ線を保持した導電性ホルダーを変圧器ケース本体の上面に位置させて導電性ホルダーの凹みを覆う位置まで絶縁樹脂を注入する。この構成によって、導電性ホルダーと樹脂モールド部の空隙が形成しにくくなり、例え空隙が形成されても導電性ホルダーと樹脂モールド部が接する箇所の電界集中は上述のように緩和される。
【0042】
本実施例によれば、導電性ホルダーを上下に分割(導電性ホルダーの貫通孔の延伸方向に分割)することにより、第三実施例の効果に加えて、導電性ホルダーを変圧器ケースに簡便に取り付けることが可能である。
【0043】
また、本実施例によれば、導電性ホルダー表面に凹みを形成することにより、第三実施例の効果に加えて、変圧器ケース(変圧器ケース蓋)または樹脂モールド部と導電性ホルダーが接する個所の電界を緩和することが可能であり、部分放電をより抑制することが可能である。
【0044】
尚、本実施例では、第三実施例をベースにしたものであるが、本実施例の要点は、第一実施例や第二実施例に適用しても同様の効果が得られる。即ち、素線1本を切断し、切断された素線をそれぞれ導電性ホルダーにハンダづけする構造に替えて、第一実施例のようにリッツ線の素線全部をそのまま貫通孔に通してもよいし、第二実施例のようにリッツ線の素線の一部を別の導線を用いて導電性ホルダーに電気的に接続しても良い。
【0045】
また、本実施例では、導電性ホルダーを上下に分割(導電性ホルダーの貫通孔の延伸方向に分割)しているが、導電性ホルダーを、貫通孔の径方向において二つに分割する構造とし(図面上、左右に分割)、分割された導電性ホルダー同士を電気的に接続するようにすることにより、リッツ線の貫通孔への配置及び固定を容易にすることが可能である。
【0046】
次に、図6を用いて、本発明の他の実施例(第五実施例)を説明する。本実施例では、上述の第四実施例に加えて、導電性ホルダーの貫通孔をリッツ線と接着剤により封止するようにしている。
【0047】
導電性ホルダー110の貫通孔にリッツ線を通した後、貫通孔を例えばエポキシ樹脂などの接着剤207で塞いだ構造である。接着剤207で貫通孔を塞いだ後に、加熱用変圧器全体にモールド樹脂205を注入し、硬化させる。その他の構造は第四実施例と同様の構造である。
【0048】
本実施例によれば、第四実施例の特徴を備えたうえで、接着剤を用いてリッツ線と共に、電界がほぼゼロである導電性ホルダーの貫通孔を封止することにより、樹脂モールド時の樹脂の漏れを防止することが可能である。
【0049】
なお、導電性ホルダー110の貫通孔の直径が比較的大きい場合に、接着剤による封止よりも作業性や封止性が劣るが、樹脂モールド時の樹脂漏れを抑制するという観点では、リッツ線111と貫通孔の内壁との間に形成される隙間に詰め物(例えば樹脂や金属などで形成される半円状部材)を挿入するようにしても良い。
【0050】
なお、本実施例では、第四実施例をベースにしたものであるが、本実施例の要点は、第一実施例や第二実施例,第三実施例に適用しても同様の効果が得られる。
【0051】
なお、上述の各実施例は、2次巻線に関して述べたが、1次巻線についてはリッツ線でもその他の導線でも良い。また、加熱用変圧器内外の1次巻線の電気的な接続に上述の各実施例の導電性ホルダーを用いることができる。但し、1次巻線については、リッツ線のまま加熱用変圧器から外部に引き出すような構造でも良い。
【0052】
また、上述の各実施例は、X線装置のX線管用の高電圧発生装置におけるフィラメント加熱用変圧器について説明しているが、絶縁ガス又は絶縁油中に配置される樹脂モールド変圧器であって、1次巻線と2次巻線の間に大きな直流の電位差が発生するような変圧器にも適用可能である。
【0053】
上述の各実施例によれば、加熱用変圧器の工程数を低減することによりコスト低減できる。さらに、上述の各実施例によれば、変圧器ケースから引き出される箇所におけるリッツ線周囲の電界を緩和し、かつ、高電界部にボイドや亀裂による空間ができないようにすることにより絶縁信頼性の向上させることができる。従って、コスト低減と高い絶縁信頼性の加熱用変圧器およびそれを搭載したX線発生装置、X線撮影装置またはX線CT装置等のX線装置を実現できる。
【符号の説明】
【0054】
100…X線管
101…陰極
102…陽極
103…高電圧発生装置
104…直流発生装置
105…加熱用変圧器
106…交流電源
107…1次巻線
108…2次巻線
109,109a,109b…導電性ホルダー
110,110a,110b…導電性ホルダー
201…1次巻線ボビン
202…2次巻線ボビン
203…変圧器ケース本体
204…変圧器ケース蓋
205…モールド樹脂
206…鉄心
207…接着剤
208…導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電子を放出するフィラメントを有する陰極と陽極とを含むX線管と、
前記フィラメントを加熱する電力を供給するフィラメント加熱用変圧器と前記陰極と前記陽極との間に直流高電圧を印加する直流発生装置とを含むX線管用高電圧発生装置とから構成されるX線装置であって、
前記フィラメント加熱用変圧器は、絶縁体で形成された変圧器ケース内に絶縁樹脂により1次巻線,2次巻線及び鉄心がモールドされ、かつ、前記2次巻線にリッツ線が用いられており、さらに、貫通孔を有し前記変圧器ケース内から外部に引き出される前記リッツ線を前記貫通孔内に保持するとともに前記変圧器ケースに固定された導電性ホルダーを有することを特徴とするX線装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線装置において、
前記導電性ホルダーは、前記貫通孔の延伸方向において二つに分割する構造とし、分割された導電性ホルダー間に前記変圧器ケースを挟み込み、前記分割された導電性ホルダー同士を電気的に接続したことを特徴とするX線装置。
【請求項3】
請求項2記載のX線装置において、
前記導電性ホルダーは、前記分割箇所において外周面に凹みが形成され、この凹みの箇所において前記変圧器ケースを挟み込むようにしたことを特徴とするX線装置。
【請求項4】
熱電子を放出するフィラメントを有する陰極と陽極とを含むX線管と、
前記フィラメントを加熱する電力を供給するフィラメント加熱用変圧器と前記陰極と前記陽極との間に直流高電圧を印加する直流発生装置とを含むX線管用高電圧発生装置とから構成されるX線装置であって、
前記フィラメント加熱用変圧器は、絶縁体で形成された変圧器ケース内に絶縁樹脂により1次巻線,2次巻線及び鉄心がモールドされ、かつ、前記2次巻線にリッツ線が用いられており、さらに、貫通孔を有し絶縁樹脂モールド部から外部に引き出される前記リッツ線を引き出し箇所において前記貫通孔内に保持するとともに前記絶縁樹脂モールド部に固定された導電性ホルダーを有することを特徴とするX線装置。
【請求項5】
請求項4記載のX線装置において、
前記導電性ホルダーは、前記絶縁樹脂モールド部の表面付近と接する箇所において外周面に凹みが形成されていることを特徴とするX線装置。
【請求項6】
請求項1または4記載のX線装置において、
前記導電性ホルダーは、前記貫通孔の径方向において二つに分割する構造とし、前記分割された導電性ホルダー同士を電気的に接続したことを特徴とするX線装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のX線装置において、
前記リッツ線の素線の少なくとも1本は、前記導電性ホルダーに電気的に接続され、前記リッツ線の残りの素線は全て絶縁被覆のまま前記貫通孔を貫通することを特徴とするX線装置。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載のX線装置において、
前記リッツ線の素線の少なくとも1本は、前記導電性ホルダーの箇所で切断され、切断された素線のそれぞれが前記導電性ホルダーに電気的に接続され、前記リッツ線の残りの素線は全て絶縁被覆のまま前記貫通孔を貫通することを特徴とするX線装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載のX線装置において、
前記貫通孔と前記リッツ線との間に形成される隙間を埋める部材が設けられていることを特徴とするX線装置。
【請求項10】
請求項9に記載のX線装置において、
前記隙間を埋める部材は接着剤であり、前記貫通孔は前記リッツ線と接着剤により封止されていることを特徴とするX線装置。
【請求項11】
絶縁ガス又は絶縁油中に配置される変圧器であって、
1次巻線,2次巻線及び鉄心からなる変圧器本体と、前記変圧器本体を収容する絶縁体で形成された変圧器ケースと、前記変圧器ケースに充填され前記変圧器本体を前記変圧器ケース内にモールドするモールド樹脂と有し、
前記2次巻線はリッツ線を用いて構成されており、
内部に貫通孔を有し前記変圧器ケース内から外部に引き出される前記リッツ線を前記貫通孔内に保持するとともに前記変圧器ケースに固定された導電性ホルダーを有することを特徴とする変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−73871(P2013−73871A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213939(P2011−213939)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】