説明

X線計測装置及びX線計測方法

【課題】遮蔽体を少なくし、あるいは無くすことができるとともにS/N比を改善することができるX線計測装置及びX線計測方法を提供する。
【解決手段】X線検出データのうち、衝突点9においてX線4が発生している時に対応する検出データを有効化し、その他のデータを無効化して、X線波形を生成する。例えば、レーザ光3がパルスレーザ光であり、電子ビーム1が連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームである場合は、レーザ光3を検出し、X線検出データとレーザ光検出データとを、衝突点9に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームとレーザ光を衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測装置及びX線計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の装置でX線を発生させる手段として、電子ビームとレーザ光の衝突によって逆コンプトン散乱に起因する単色X線を得るX線発生装置が知られている。
このようなX線発生装置の一例として、下記特許文献1に開示されたものを図6に示す。図6に示すX線発生装置は、パルス電子ビーム51を加速して所定の直線軌道50を通過させる電子ビーム発生装置52と、パルスレーザ光66を発生するレーザ発生装置53と、電子ビーム発生装置52とレーザ発生装置53の同期をとる同期装置54と、パルスレーザ光66を直線軌道50上にパルス電子ビーム51に対向して導入するレーザ光導入装置55とを備えている。電子ビーム発生装置52は、RF電子銃56、α‐磁石57、加速管58、偏向磁石59、減速管60、およびビームダンプ61を有する。レーザ発生装置53は、レーザ制御装置62とパルスレーザ装置63を有する。レーザ導入装置55は、第1ミラー64と第2ミラー65を有する。このように構成されたX線発生装置においては、電子ビーム51とレーザ光66を衝突点67で衝突させることにより単色硬X線68を発生させる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−318745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線発生装置によって発生させたX線は、図7に示すように、X線検出器71により検出する。図7において、符号72は内部に衝突点67が設定された衝突チャンバであり、符号73は電子ビーム51及びレーザ光66の経路を囲むダクトである。
上述したX線発生装置においては、逆コンプトン散乱により発生したX線68のほか、制動放射により発生したX線74や電子ビーム51がダクト57に衝突した際に発生したX線などがノイズとして存在し、これらのノイズを除去するためにX線検出器71の周囲にコリメータ75や遮蔽体76を設置していた。このようなノイズX線を遮蔽するための遮蔽体76は大きくせざるを得ないため、X線検出器71の周辺の小型化が困難であり、結果として装置全体が大型化するという問題がある。また、コリメータ75や遮蔽体76によっても、逆コンプトン散乱によって発生したX線68と同じ向きでX線検出器に入射するノイズX線は除去できないため、S/N比が悪化するという問題がある。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、遮蔽体を少なくし、あるいは無くすことができるとともにS/N比を改善することができるX線計測装置及びX線計測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明のX線計測装置及びX線計測方法は、以下の手段を採用する。
本発明は、電子ビームとレーザ光を所定の衝突点で衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測装置であって、X線を検出するX線検出器と、該X線検出器からのX線検出データに基づいてX線波形を生成するX線計測器とを備え、前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データのうち、衝突点においてX線が発生している時に対応する検出データを有効化し、その他のデータを無効化して、X線波形を生成する、ことを特徴とする。
また、本発明は、電子ビームとレーザ光を所定の衝突点で衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測方法であって、X線を検出し、得られたX線検出データのうち、衝突点においてX線が発生している時に対応する検出データを有効化し、その他のデータを無効化して、X線波形を生成する、ことを特徴とする。
【0007】
上記の装置及び方法によれば、得られたX線検出データのうち、衝突点においてX線が発生している時に対応する検出データを有効化し、その他のデータを無効化して、X線波形を生成するので、逆コンプトン散乱により発生したX線の波形のみが生成され、その他のノイズX線による波形は生成されない。すなわち、ノイズX線の成分が除去された形でX線波形が生成されるので、遮蔽体を少なくする、または無くしても、良いS/N比でX線を計測することができる。また、遮蔽体を少なくすることで、X線検出器の周辺をコンパクトに設計でき、装置全体の小型化が可能となる。
【0008】
また、上記のX線計測装置において、前記レーザ光はパルスレーザ光であり、前記電子ビームは連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光を検出するレーザ光検出器を備え、前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データと前記レーザ光検出器からのレーザ光検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する。
また、上記のX線計測方法において、前記レーザ光はパルスレーザ光であり、前記電子ビームは連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光を検出し、前記X線検出データとレーザ光検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する。
【0009】
このように、レーザ光と電子ビームが共にパルス状で電子ビームのパルス幅がレーザ光のパルス幅と同じかそれよりも長い場合、あるいはレーザ光がパルス状で電子ビームが連続状の場合においては、レーザ光が衝突点を通過している時間に、逆コンプトン散乱によるX線が発生する。X線検出データとレーザ光検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算すると、レーザ光が出力されていない部分と掛け合わされたX線検出データは出力値がゼロとなる。この結果、レーザ光が出力されている部分、すなわち逆コンプトン散乱により発生したX線を検出した部分のみが残り、その他のノイズX線の成分は除去される。
【0010】
また、上記のX線計測装置において、前記レーザ光はパルスレーザ光であり、前記電子ビームは連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームであり、前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データのうち、前記レーザ光が衝突点を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成する。
また、上記のX線計測方法において、前記レーザ光はパルスレーザ光であり、前記電子ビームは連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームであり、前記X線検出器からのX線検出データのうち、前記レーザ光が衝突点を通過している時の検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成する。
【0011】
このように、X線検出データのうち、レーザ光が衝突点を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成するので、逆コンプトン散乱により発生したX線を検出した部分のみが残り、その他のノイズX線の成分は除去される。
【0012】
また、上記のX線計測装置において、前記電子ビームはパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光は連続レーザ光又は電子ビームのパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルスレーザ光であり、前記電子ビームの通過を検出するビーム検出器を備え、前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データと前記ビーム検出器からのビーム検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する。
また、上記のX線計測方法において、前記電子ビームはパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光は連続レーザ光又は電子ビームのパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルスレーザ光であり、前記電子ビームの通過を検出し、前記X線検出データとビーム検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する。
【0013】
このように、レーザ光が連続状で電子ビームがパルス状の場合、あるいはレーザ光と電子ビームが共にパルス状でレーザ光のパルス幅が電子ビームのパルス幅と同じかそれよりも長い場合においては、電子ビームが衝突点を通過している時間に、逆コンプトン散乱によるX線が発生する。X線検出データとビーム検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算すると、電子ビームが出力されていない部分と掛け合わされたX線検出データは出力値がゼロとなる。この結果、電子ビームが出力されている部分、すなわち逆コンプトン散乱により発生したX線を検出した部分のみが残り、その他のノイズX線の成分は除去される。
【0014】
また、上記のX線計測装置において、前記電子ビームはパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光は連続レーザ光又は電子ビームのパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルスレーザ光であり、前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データのうち、前記電子ビームが衝突点を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成する。
また、上記のX線計測方法において、前記電子ビームはパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光は連続レーザ光又は電子ビームのパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルスレーザ光であり、前記X線検出器からのX線検出データのうち、前記電子ビームが衝突点を通過している時の検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成する。
【0015】
このように、X線出力波形のうち、電子ビームが衝突点を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成するので、逆コンプトン散乱により発生したX線を検出した部分のみが残り、その他のノイズX線の成分は除去される。
【0016】
また、本発明は、電子ビームとレーザ光を所定の衝突点で衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測装置であって、X線を検出するX線検出器と、該X線検出器からのX線検出データに基づいてX線波形を生成するX線計測器と、前記X線検出器を制御する検出器制御装置と、を備え、前記検出器制御装置は、衝突点で発生したX線が前記X線検出器に入射する時のみX線を検出するように前記X線検出器を制御する、ことを特徴とする。
また、本発明は、電子ビームとレーザ光を所定の衝突点で衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測方法であって、前記衝突点で発生したX線がX線検出器に入射している時のみX線を検出し、得られたX線検出データに基づいてX線波形を生成する。
【0017】
上記の装置及び方法によれば、衝突点で発生したX線がX線検出器に入射する時のみX線を検出するので、逆コンプトン散乱により発生したX線のみを検出することができる。したがって、遮蔽体を少なくする、または無くしても、良いS/N比でX線を計測することができる。また、遮蔽体を少なくすることで、X線検出器の周辺をコンパクトに設計でき、装置全体の小型化が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、遮蔽体を少なくし、あるいは無くすことができるとともにS/N比を改善することができる、という優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態にかかるX線計測装置を備えたX線発生装置の全体構成図である。このX線発生装置は、電子ビーム発生装置10、レーザ光周回装置20、レーザ発生装置28、同期装置29及びX線計測装置30を備え、電子ビーム1とパルスレーザ光3とを衝突させて逆コンプトン散乱によりX線4を発生させ、発生させたX線をX線計測装置30で計測する装置である。
【0021】
電子ビーム発生装置10は、電子ビームを加速してパルス電子ビーム1を発生し所定の直線軌道2を通過させる機能を有する。
この例において、電子ビーム発生装置10は、RF電子銃11、α‐磁石12、加速管13、偏向磁石14、Q−磁石15、減速管16、およびビームダンプ17を備える。
【0022】
RF電子銃11と加速管13は、Xバンド(11.424GHz)の高周波電源18により駆動される。RF電子銃11から引き出された電子ビームは、α‐磁石12により軌道を変えて加速管13に入射する。加速管13は、小型のXバンド加速管であり、電子ビームを加速し、好ましくは約50MeV前後の高エネルギの電子ビームを形成する。
【0023】
偏向磁石14は、パルス電子ビーム1の軌道を磁場で曲げて所定の直線軌道2を通過させ、通過後のパルス電子ビーム1をビームダンプ17まで導く。Q−磁石15はパルス電子ビーム1の収束具合を調整する。減速管16は、パルス電子ビーム1を減速する。ビームダンプ17は、直線軌道2を通過した後のパルス電子ビーム1を捕捉して、放射線の漏洩を防止する。
【0024】
上述した電子ビーム発生装置10により、例えば、エネルギが約50MeV前後、パルス幅が約1μs前後のパルス電子ビーム1を発生し、これを所定の直線軌道2を通過させることができる。なお、電子ビーム1は連続出力するものであってもよい。
【0025】
レーザ光周回装置20は、パルスレーザ光3(P偏光)を外部のレーザ発生装置30から偏光ビームスプリッタ22を介して周回路5内に導入し、このパルスレーザ光3を周回する周回路5内に閉じ込めて、周回路内の衝突点9を繰り返し通過させるようになっている。レーザ発生装置28としては、例えばYAGレーザ、YLFレーザ、エキシマレーザ等を用いることができる。パルスレーザ光の周波数は例えば10Hzであり、パルス幅は10nsである。
なお、電子ビーム1とレーザ光3が共にパルス状である場合は、両者のパルス幅は同じであってもよい。
【0026】
この図において、レーザ光周回装置20は、偏光ビームスプリッタ22、複数(この図で3枚)の反射ミラー24a,24b,24c、複数(この図で4枚)のレンズ25a,25b,25c,25d、ポッケルスセル26、および制御装置(図示せず)を備える。
【0027】
偏光ビームスプリッタ22は、第1直線偏光(P偏光)をそのまま通し、これに直交する第2直線偏光(S偏光)を直角に反射する。
3枚の反射ミラー24a,24b,24cは、偏光ビームスプリッタ22を出たパルスレーザ光3を複数回(この例では3回)反射して、偏光ビームスプリッタ22に周回させ周回路5を構成する。
【0028】
ポッケルスセル26は、周回路5内の偏光ビームスプリッタ22の下流側に位置し、電圧の印加時に通過する偏光の偏光方向を90度回転する。ポッケルスセルは、光ビームの偏光方向を素早くスイッチングできる非線形光学結晶である。
制御装置(図示せず)は、偏光ビームスプリッタ22に周回して入るパルスレーザ光3が常に第2直線偏光(S偏光)となるようにポッケルスセル24を制御する。
【0029】
上記の構成のレーザ光周回装置20により、パルスレーザ光3を周回する周回路5内に閉じ込めて、周回路内の衝突点9を繰り返し通過させ、電子ビーム1とレーザ光3の衝突率を高めてX線の発生出力を高めることができる。
なお、本発明において、上述したレーザ光周回装置20は不可欠ではなく、これを省略し、パルスレーザ光3をワンスルーで用いてもよい。
【0030】
電子ビーム1とレーザ光3が正面衝突するように電子ビーム発生装置10とレーザ光周回装置20が配置されていることは必須ではなく、電子ビーム1とレーザ光3の入射角度が交差(例えば90度)していてもよいが、図1に示すように、電子ビーム1とレーザ光3が正面衝突するように電子ビーム発生装置10とレーザ光周回装置20が配置されていることが好ましい。この構成により、高輝度のX線を効率よく発生させることができる。
【0031】
同期装置29は、電子ビーム発生装置10とレーザ発生装置30の同期をとり、パルス電子ビーム1とパルスレーザ光3を所定の直線軌道2上の衝突点9で衝突するようにパルス電子ビーム1の発生タイミングとパルスレーザ光3の発生タイミングを制御する。
【0032】
X線計測装置30は、衝突点9において逆コンプトン散乱により発生したX線4を計測するための装置である。このX線計測装置30は、X線4を検出するX線検出器34と、X線検出器34からのX線検出データに基づいてX線波形を生成するX線計測器36とを備える。
X線計測器36は、X線検出器34からのX線検出データのうち、衝突点9においてX線4が発生している時に対応する検出データを有効化し、その他のデータを無効化して、X線波形を生成する。
【0033】
上記構成のX線計測装置30によれば、得られたX線検出データのうち、衝突点9においてX線4が発生している時に対応する検出データを有効化し、その他のデータを無効化して、X線波形を生成するので、逆コンプトン散乱により発生したX線4の波形のみが生成され、その他のノイズX線による波形は生成されない。すなわち、ノイズX線の成分が除去された形でX線波形が生成されるので、遮蔽体を少なくする、または無くしても、良いS/N比でX線4を計測することができる。また、遮蔽体を少なくすることで、X線検出器34の周辺をコンパクトに設計でき、装置全体の小型化が可能となる。
以下、本発明のX線計測装置30について、より具体的に説明する。
【0034】
図2は、本実施形態のX線計測装置30の具体的な構成を示す図である。X線検出器34としては、電離箱、半導体検出器、シンチレータなどを用いることができる。X線計測器36としては、高精度のオシロスコープなどを使用することができる。
図2に示すように本実施形態のX線計測装置30は、さらに、レーザ光3を検出するレーザ光検出器35を備えている。レーザ光検出器35としては、バイプラナ光電管などを用いることができる。レーザ光検出器35は、図2に示すように、例えば反射ミラー24cの背面側に設置され、反射ミラー24cに入射したレーザ光3のうち反射されずに透過したレーザ光3を検出する。レーザ光検出器35からの山形の信号は、ディスクリミネータ37によってある閾値を基準に矩形信号に変換されてX線計測器36に入力される。
【0035】
本実施形態においてX線計測器36は、X線検出器34からのX線検出データとレーザ光検出器35からのレーザ光検出データとを、衝突点9に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する。図3は、X線計測器36によるX線波形の生成方法の模式図である。図3において(A)列はレーザ光3を非周回の状態で電子ビーム1と1度だけ衝突させた場合、(B)列はレーザ光3をレーザ光周回装置20で周回させて、電子ビーム1と多数回衝突させた場合を示している。また(A)列及び(B)列のそれぞれにおいて、上段はX線検出器34の出力信号(X線検出データ)に基づく波形、中段はレーザ光検出器35の出力信号(レーザ光検出データ)に基づく波形、下段はX線計測器36により生成したX線波形を示す。
【0036】
本実施形態のようにレーザ光3と電子ビーム1が共にパルス状で電子ビーム1のパルス幅がレーザ光3のパルス幅と同じかそれよりも長い場合、あるいはレーザ光3がパルス状で電子ビーム1が連続状の場合、レーザ光3が衝突点9を通過している時間に、逆コンプトン散乱によるX線4が発生する。これを利用し、レーザ光3が衝突点9を通過している時間でX線検出データに対してフィルタをかけることにより、ノイズX線を除去できる。
【0037】
具体的には、X線計測器36は、X線検出器34からのX線検出データとレーザ光検出器35からのレーザ光検出データとを、衝突点9とX線検出器34の距離と、衝突点9とレーザ光検出器35の距離とに基づいて、衝突点9に関して時間軸を一致させたうえで乗算する。つまり、X線検出データに基づく波形(図3の上段)とレーザ光検出データに基づく波形(図3の中段)とを、時間軸を調整して掛け合わせる処理を行う。すると、X線検出データのうち、衝突点9で逆コンプトン散乱によるX線4が発生している時に対応する部分のみが残り、他の部分の出力値がゼロとなり、結果として図3の下段に示すように、ノイズX線が除去されたX線波形が生成される。
【0038】
また、本実施形態の他の構成例として、X線計測器36は、X線検出器34からのX線検出データのうち、レーザ光3が衝突点9を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成するようにしてもよい。この場合、レーザ光3が衝突点9を通過している時(タイミング)については、図2に示すように、レーザ光検出器35からのレーザ光検出データと、衝突点9とレーザ光検出器35の距離とから割り出すことができる。あるいは、同期装置からの同期信号のタイミングと、レーザ発生装置に同期信号が与えられその信号に対応するレーザ光3が衝突点9に到達するまでの時間から、レーザ光3が衝突点9を通過している時を割り出すこともできる。
【0039】
このように、X線検出データのうち、レーザ光3が衝突点9を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成することによっても、逆コンプトン散乱により発生したX線4を検出した部分のみが残り、その他のノイズX線の成分は除去されるので、遮蔽体を少なくする、または無くしても、良いS/N比でX線4を計測することができる。
【0040】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態にかかるX線計測装置30の構成図である。
本実施形態のX線計測装置30を備えるX線発生装置は、第1実施形態において説明した構成と基本的には同様であるが、本実施形態のX線計測装置30を備えるX線発生装置では、電子ビーム1はパルス状の電子ビーム1であり、レーザ光3は連続レーザ光又は電子ビーム1のパルス幅と同じかそれよりも長いパルス幅をもつパルスレーザ光である。
【0041】
図4に示すように、本実施形態のX線計測装置30は、第1実施形態のレーザ光検出器35に代えて電子ビーム1の通過を検出するビーム検出器38を備える。ビーム検出器38は、電子ビーム1を非接触で検出できるものが好ましい。このような非接触のビーム検出器38は、電子ビーム1の経路を囲む導電性巻線と、導電性巻線に発生する誘導電流を検出する電流検出器とによって構成することができる。
ビーム検出器38からの山形の信号は、ディスクリミネータ37によってある閾値を基準に矩形信号に変換されてX線計測器36に入力される。
【0042】
本実施形態のように、レーザ光3が連続状で電子ビーム1がパルス状の場合、あるいはレーザ光3と電子ビーム1が共にパルス状でレーザ光3のパルス幅が電子ビーム1のパルス幅と同じかそれよりも長い場合においては、電子ビーム1が衝突点9を通過している時間に、逆コンプトン散乱によるX線4が発生する。これを利用し、電子ビーム1が衝突点9を通過している時間でX線検出データに対してフィルタをかけることにより、ノイズX線を除去できる。
【0043】
具体的には、X線計測器36は、X線検出器34からのX線検出データとビーム検出器38からのビーム検出データとを、衝突点9に関して時間軸を一致させたうえで乗算する。すると、X線検出データのうち、衝突点9で逆コンプトン散乱によるX線4が発生している時に対応する部分のみが残り、他の部分の出力値がゼロとなり、結果として、図3の下段に示したものと同様に、ノイズX線が除去されたX線波形が生成される。
【0044】
したがって、本実施形態によっても、ノイズX線の成分が除去された形でX線波形が生成されるので、遮蔽体を少なくする、または無くしても、良いS/N比でX線4を計測することができる。また、遮蔽体を少なくすることで、X線検出器34の周辺をコンパクトに設計でき、装置全体の小型化が可能となる。
【0045】
また、本実施形態の他の構成例として、X線計測器36は、X線検出器34からのX線検出データのうち、電子ビーム1が衝突点9を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成するようにしてもよい。この場合、電子ビーム1が衝突点9を通過している時(タイミング)については、図4に示すように、ビーム検出器38からのビーム検出データと、衝突点9とビーム検出器38の距離とから割り出すことができる。あるいは、同期装置29からの同期信号のタイミングと、高周波電源18に同期信号が与えられその信号に対応する電子ビーム1が衝突点9に到達するまでの時間から、電子ビーム1が衝突点9を通過している時を割り出すこともできる。
【0046】
このように、X線検出データのうち、電子ビーム1が衝突点9を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成することによっても、逆コンプトン散乱により発生したX線4を検出した部分のみが残り、その他のノイズX線の成分は除去されるので、遮蔽体を少なくする、または無くしても、良いS/N比でX線4を計測することができる。
【0047】
[第3実施形態]
図5は、本発明の第3実施形態にかかるX線計測装置30の構成図である。
本実施形態のX線計測装置30は、X線を検出するX線検出器34と、X線検出器34からのX線検出データに基づいてX線波形を生成するX線計測器36と、X線検出器34を制御する検出器制御装置39と、を備える。
検出器制御装置39は、衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に入射する時のみX線4を検出するようにX線検出器34を制御する。
本実施形態において、レーザ光3と電子ビーム1は、パルス状、連続状のいずれでもよい。
【0048】
レーザ光3と電子ビーム1が共にパルス状で電子ビーム1のパルス幅がレーザ光3のパルス幅と同じかそれよりも長い場合、あるいはレーザ光3がパルス状で電子ビーム1が連続状の場合においては、レーザ光3が衝突点9を通過している時間に、逆コンプトン散乱によるX線4が発生する。したがって、この場合、同期装置29からレーザ発生装置28へ出される同期信号のタイミング、レーザ発生装置28に同期信号が与えられその信号に対応するレーザパルスが衝突点9に到達するのに要する時間、及び衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に到達するのに要する時間から、衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に入射する時(タイミング)を把握することができる。
検出器制御装置39には上記の同期信号dが入力されるようになっており、この同期信号dに基づいて、衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に入射する時を演算し、衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に入射する時のみX線4を検出するようにX線検出器34を制御する。
【0049】
レーザ光3が連続状で電子ビーム1がパルス状の場合、あるいはレーザ光3と電子ビーム1が共にパルス状でレーザ光3のパルス幅が電子ビーム1のパルス幅と同じかそれよりも長い場合においては、電子ビーム1が衝突点9を通過している時間に、逆コンプトン散乱によるX線4が発生する。したがって、この場合、同期装置29から高周波電源18へ出される同期信号のタイミング、高周波電源18に同期信号が与えられその信号に対応する電子ビーム1のパルスが衝突点9に到達するのに要する時間、及び衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に到達するのに要する時間から、衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に入射する時(タイミング)を把握することができる。
検出器制御装置39には上記の同期信号dが入力されるようになっており、この同期信号に基づいて、衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に入射する時を演算し、衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に入射する時のみX線4を検出するようにX線検出器34を制御する。
【0050】
このように衝突点9で発生したX線4がX線検出器34に入射する時のみX線4を検出するので、逆コンプトン散乱により発生したX線4のみを検出することができる。この結果、図5の右側に模式的に示した実線の波形のように、ノイズX線が除去されたX線波形が生成される。なお、図5において破線で示した波形は、ノイズX線が除去されない場合のX線波形である。
したがって、本実施形態によれば、遮蔽体を少なくする、または無くしても、良いS/N比でX線4を計測することができる。また、遮蔽体を少なくすることで、X線検出器34の周辺をコンパクトに設計でき、装置全体の小型化が可能となる。
【0051】
なお、上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるX線計測装置を備えたX線発生装置の全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかるX線計測装置の構成を示す図である。
【図3】X線計測器によるX線波形の生成方法の模式図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるX線計測装置の構成を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態にかかるX線計測装置の構成を示す図である。
【図6】特許文献1に開示されたX線発生装置の全体構成図である。
【図7】従来技術の問題点を説明する図である。
【符号の説明】
【0053】
1 電子ビーム
2 直線軌道
3 レーザ光
4 X線
5 周回路
8 許容衝突領域
9 衝突点
10 電子ビーム発生装置
11 RF電子銃
12 α‐磁石
13 加速管
14 偏向磁石
15 Q−磁石
16 減速管
17 ビームダンプ
20 レーザ光周回装置
22 偏光ビームスプリッタ
24a,24b,24c 反射ミラー、
25a,25b,25c,25d レンズ、
26 ポッケルスセル
28 レーザ発生装置
29 同期装置
30 X線計測装置
34 X線検出器
35 レーザ光検出器
36 X線計測器
37 ディスクリミネータ
38 ビーム検出器
39 検出器制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームとレーザ光を所定の衝突点で衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測装置であって、
X線を検出するX線検出器と、該X線検出器からのX線検出データに基づいてX線波形を生成するX線計測器とを備え、
前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データのうち、衝突点においてX線が発生している時に対応する検出データを有効化し、その他のデータを無効化して、X線波形を生成する、ことを特徴とするX線計測装置。
【請求項2】
前記レーザ光はパルスレーザ光であり、前記電子ビームは連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームであり、
前記レーザ光を検出するレーザ光検出器を備え、
前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データと前記レーザ光検出器からのレーザ光検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する、請求項1記載のX線計測装置。
【請求項3】
前記レーザ光はパルスレーザ光であり、前記電子ビームは連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームであり、
前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データのうち、前記レーザ光が衝突点を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成する、請求項1記載のX線計測装置。
【請求項4】
前記電子ビームはパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光は連続レーザ光又は電子ビームのパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルスレーザ光であり、
前記電子ビームの通過を検出するビーム検出器を備え、
前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データと前記ビーム検出器からのビーム検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する、請求項1記載のX線計測装置。
【請求項5】
前記電子ビームはパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光は連続レーザ光又は電子ビームのパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルスレーザ光であり、
前記X線計測器は、前記X線検出器からのX線検出データのうち、前記電子ビームが衝突点を通過している時に対応する検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成する、請求項1記載のX線計測装置。
【請求項6】
電子ビームとレーザ光を所定の衝突点で衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測装置であって、
X線を検出するX線検出器と、該X線検出器からのX線検出データに基づいてX線波形を生成するX線計測器と、前記X線検出器を制御する検出器制御装置と、を備え、
前記検出器制御装置は、衝突点で発生したX線が前記X線検出器に入射する時のみX線を検出するように前記X線検出器を制御する、ことを特徴とするX線計測装置。
【請求項7】
電子ビームとレーザ光を所定の衝突点で衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測方法であって、
X線を検出し、得られたX線検出データのうち、衝突点においてX線が発生している時に対応する検出データを有効化し、その他のデータを無効化して、X線波形を生成する、ことを特徴とするX線計測方法。
【請求項8】
前記レーザ光はパルスレーザ光であり、前記電子ビームは連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームであり、
前記レーザ光を検出し、前記X線検出データとレーザ光検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する、請求項7記載のX線計測方法。
【請求項9】
前記レーザ光はパルスレーザ光であり、前記電子ビームは連続状又はパルスレーザ光のパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルス状の電子ビームであり、
前記X線検出器からのX線検出データのうち、前記レーザ光が衝突点を通過している時の検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成する、請求項7記載のX線計測方法。
【請求項10】
前記電子ビームはパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光は連続レーザ光又は電子ビームのパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルスレーザ光であり、
前記電子ビームの通過を検出し、前記X線検出データとビーム検出データとを、衝突点に関して時間軸を一致させて乗算して、X線波形を生成する、請求項7記載のX線計測方法。
【請求項11】
前記電子ビームはパルス状の電子ビームであり、前記レーザ光は連続レーザ光又は電子ビームのパルス幅と同じかそれより長いパルス幅をもつパルスレーザ光であり、
前記X線検出器からのX線検出データのうち、前記電子ビームが衝突点を通過している時の検出データ以外の検出データを除去してX線波形を生成する、請求項7記載のX線計測方法。
【請求項12】
電子ビームとレーザ光を所定の衝突点で衝突させて逆コンプトン散乱により発生させたX線を計測するX線計測方法であって、
前記衝突点で発生したX線がX線検出器に入射している時のみX線を検出し、得られたX線検出データに基づいてX線波形を生成する、ことを特徴とするX線計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−16147(P2009−16147A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175739(P2007−175739)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】