説明

X線造影性複合糸

【課題】十分な強力と柔軟性を有し、製織や縫製工程に供しても糸切れが少なく、ミシン糸として好適に使用することが可能となるX線造影性複合糸を提供する。
【解決手段】放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂にて形成されたX線造影性繊維と、放射線不透過剤を含有しない非造影性繊維とから構成される複合糸であって、X線造影性繊維の割合が複合糸全体の90質量%以下、複合糸の強力が500cN以上であり、かつX線造影性繊維を形成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマーを20質量%以上含有することを特徴とするX線造影性複合糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線造影性繊維と非造影性繊維とから構成される複合糸であって、製織や縫製工程に供することができ、糸切れが生じることがなく、X線造影性に優れるX線造影性複合糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外科手術等の手術を行う場合に、患者からの出血や体液などを拭き取ったり吸収したりするために、多数枚のガーゼが使用されている。手術終了後は、すべてのガーゼを患者の体内から取り出す必要がある。しかし、手術中に使用されたガーゼは血液によって赤く染まり、患者の切開部において患者の臓器との区別が困難となることがあり、ガーゼを患者の体内に残してしまうことがある。ガーゼが体内に残存しつづけると、患者は、身体に痛みを感じるだけでなく、発熱したりするおそれがある。また、ガーゼが臓器に癒着して他の病気を引き起こす可能性がある。
【0003】
このような事故を防止するために、手術後、使用したガーゼの枚数を確認する方法が採られている。しかし、血液の付着したガーゼの枚数を確認するのは容易ではなく、確認に時間がかかるうえ、数え間違いなども起こる可能性があり、この方法だけでは不十分である。
【0004】
これらの問題を解決するものとして、特許文献1には、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂からなるX線感応繊維が記載されている。そして、このX線感応繊維を手術用ガーゼ等の一部分に織り込んで使用することが記載されている。
【0005】
このような手術用ガーゼは、布帛を構成する繊維の一部にX線造影性の糸を用いることによって、体内に放置された場合にこれを識別することができるものである。ところが、このような体内に放置された手術用ガーゼは、体内の各種臓器や体液等によって、X線で造影されにくくなっている場合が多い。このため、X線造影性の糸としては、より高い造影性を有するものが求められている。
【0006】
また、近年は内視鏡手術用に小さいサイズのガーゼが用いられており、X線造影性繊維をミシン糸としてミシンで縫製するという要望があるが、X線造影性を有する糸でミシン糸に用いることができるものは未だに提案されていない。
【0007】
特許文献1記載のX線造影性繊維をミシン糸として用いた場合では、X線造影性繊維に十分な強度と柔軟性が無いために、製織や縫製工程における屈曲に耐えきれず、X線造影性繊維の糸切れが多発し、製織や縫製を行うことが困難であった。
【0008】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂としてスチレン系エラストマーを用いたX線造影樹脂糸が提案されている。スチレン系エラストマーを用いることによる柔軟な風合いを有するものであるが、特許文献2記載の樹脂糸では十分な強度を有するものではなく、ミシン糸として用いると、特許文献1記載の繊維と同様、製織や縫製工程において糸切れが多発し、ミシン糸として用いることができないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−266157号公報
【特許文献2】特開2004−162239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決し、十分な強力と柔軟性を有し、製織や縫製工程に供しても糸切れが少なく、ミシン糸として好適に使用することが可能となるX線造影性複合糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂にて形成されたX線造影性繊維と、放射線不透過剤を含有しない非造影性繊維とから構成される複合糸であって、X線造影性繊維の割合が複合糸全体の90質量%以下、複合糸の強力が500cN以上であり、かつX線造影性繊維を形成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマーを20質量%以上含有することを特徴とするX線造影性複合糸を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のX線造影性複合糸は、熱可塑性エラストマーを20質量%以上含有する熱可塑性樹脂にて形成されたX線造影性繊維と、放射線不透過剤を含有しない非造影性繊維とで構成される複合糸であるため、十分な強力と柔軟性を有し、製織や縫製工程において繊維の切断がなく、ミシン糸として用いることが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のX線造影性複合糸の複合形態の一実施態様を示す模式図である。
【図2】本発明のX線造影性複合糸の複合形態の他の実施態様を示す模式図である。
【図3】本発明のX線造影性複合糸の複合形態の他の実施態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、X線造影性繊維について説明する。X線造影性繊維は、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂にて形成されるものである。一般的に熱可塑性樹脂に放射線不透過剤のような無機化合物を含有させると、柔軟性に乏しい繊維となりやすい。このため、本発明においては、X線造影性繊維として、放射線不透過剤を高濃度に含有させても溶融紡糸が可能であり、かつ柔軟性を有するものを用いることが好ましく、熱可塑性エラストマーを含有するものを用いるものである。
【0015】
熱可塑性エラストマーを含有する繊維は、ポリマー特性に起因する柔軟性を有しているので、手術用ガーゼ等の患部に触れるようなメディカル用途に好適なものとなる。
【0016】
本発明におけるX線造影性繊維は、1種類の熱可塑性樹脂にて形成される単一成分型のもの、2種類以上の熱可塑性樹脂から形成される複合成分型のいずれであってもよい。また、マルチフィラメント、モノフィラメントのいずれであってもよい。
【0017】
まず、単一成分型のX線造影性繊維は、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂(樹脂A)のみにより形成されるものである。そして、樹脂A中に熱可塑性エラストマーが含有されており、樹脂A中の熱可塑性エラストマーの含有量が20質量%以上のものである。中でも柔軟性に優れた繊維とするには、樹脂A中の熱可塑性エラストマーの含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0018】
つまり、樹脂Aは、熱可塑性エラストマーと他の熱可塑性樹脂(繊維形成性ポリマーB)とからなる混合物の場合と熱可塑性エラストマーのみからなる場合とがある。
【0019】
本発明における熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等が挙げられ、またこれらの成分からなる共重合体や混合物等であってもよい。さらに、熱可塑性エラストマーの中でもポリエステル系エラストマーは、上記特性に加え、放射線不透過剤を高濃度に含有させても、溶融紡糸、延伸が可能で繊維化することが可能であることから、特に好ましいものである。
【0020】
ポリエステル系エラストマーのハードセグメントであるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリアルキレンテレフタレートなどが挙げられる。ソフトセグメントとしては、ポリエーテル、ポリブチレンアジペートエステル、ポリオールなどが挙げられる。
【0021】
さらに、本発明における熱可塑性エラストマーは、JIS K 6253法によるデュロメータ硬さがD80未満であることが好ましく、さらにはデュロメータ硬さはD40以下であることが好ましい。デュロメータ硬さがD80以上であると、得られるX線造影性繊維が硬く柔軟性に乏しいものとなり、製織や縫製の際にX線造影性繊維の切断が多いものとなってしまうため好ましくない。
【0022】
樹脂A中の熱可塑性エラストマーの含有量が20質量%未満であると、柔軟性に乏しく、ミシン糸として用いることが困難となる。
【0023】
また、樹脂A中に繊維形成性ポリマーBを含む場合、繊維形成性ポリマーBとしては、合成繊維を得ることができるものであれば用いることができ、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0024】
ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン12、ポリメタキシレンアジパミド等が挙げられる。これらの成分からなる共重合体や混合物等であってもよい。
【0025】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができ。ポリオレフィンを用いる際には、そのポリオレフィンとしては、ポリプロピレンやポリエチレン等を挙げることができる。これらの成分も共重合体や混合物等であってもよい。
【0026】
なお、熱可塑性エラストマーと繊維形成性ポリマーBは、同種のポリマーを用いるほうが容易に混合可能であるため好ましい。
【0027】
樹脂A中に含有させる放射線不透過剤としては、硫酸バリウム、次硝酸ビスマス、酸化タングステン、酸化トリウム、酸化セシウム等があり、中でも硫酸バリウムが好ましい。硫酸バリウムは、X線不透過性に優れ、かつ耐熱性、結晶安定性が高い。さらに、一次粒径が小さく二次凝集しにくい粒子を容易に生産可能なことから、硫酸バリウムを上記のような熱可塑性樹脂中に練り込んで溶融紡糸すると、濾過圧の上昇や糸切れ等がなく、操業性よく繊維を得ることができる。
【0028】
また、繊維中(樹脂A中)の放射線不透過剤の含有量は、20〜80質量%であることが好ましく、中でも30〜70質量%であることが好ましい。繊維中の放射線不透過剤の含有量が20質量%未満であると、造影性能が乏しくなる。一方、放射線不透過剤の含有量が80質量%を超えると、繊維が硬く柔軟性に乏しいものとなり、また、その製糸操業性も悪化する。
【0029】
次に、X線造影性繊維を2種類以上の熱可塑性樹脂から形成される複合成分型とする場合は、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂(樹脂C)と他の熱可塑性樹脂(樹脂D)とからなるものである。複合形状としては、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型などのものが挙げられる。しかしながら、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂(樹脂C)が繊維の表層部に配されていると、放射線不透過剤が繊維表面に露出することにより、製織や縫製時に生じる摩耗により単糸切れを誘発する恐れがあるため、中でも樹脂Cを芯成分とする芯鞘型複合繊維とすることが好ましい。
【0030】
また、X線造影性繊維を樹脂Cを芯成分とする芯鞘型複合繊維とする場合は、モノフィラメントとすることが好ましい。モノフィラメントとすることで糸径を大きく、芯部を大きくすることができるので、X線がX線造影性繊維中を通過する距離が長くなり、良好な造影性を確保することができる。
【0031】
X線造影性繊維を2種類以上の熱可塑性樹脂から形成される複合成分型とする場合は、熱可塑性エラストマーは樹脂C、樹脂Dのいずれか一方、もしくは両方に含まれるものであり、繊維中の熱可塑性エラストマーの含有量が20質量%以上となるものである。中でも柔軟性に優れた繊維とするには、繊維中の熱可塑性エラストマーの含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0032】
つまり、複合成分型とする場合の樹脂Cと樹脂Dは、熱可塑性エラストマーと他の熱可塑性樹脂(繊維形成性ポリマーB)とからなる混合物の場合と熱可塑性エラストマーのみからなる場合とがある。
【0033】
そして、X線造影性繊維を構成する樹脂中の熱可塑性エラストマーの含有量が20質量%未満であると、柔軟性に乏しくなり、ミシン糸として用いることが困難となる。
【0034】
また、樹脂C中には、放射線不透過剤を含有するが、樹脂C中の放射線不透過剤の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、中でも40〜70質量%であることが好ましい。放射線不透過剤の含有量が30質量%未満であると、造影性能が乏しくなる。一方、放射線不透過剤の含有量が80質量%を超えると、繊維が硬く柔軟性に乏しいものとなり、また、その製糸操業性も悪化する。樹脂C中に含有させる放射線不透過剤としては、樹脂Aに含有させるものと同様のものを用いることができる。
【0035】
樹脂Cと樹脂Dの複合比(体積比)は樹脂C/樹脂D=3/7〜7/3とすることが好ましく、中でも4/6〜6/4とすることが好ましい。
【0036】
次に、非造影性繊維について説明する。非造影性繊維は放射線不透過剤を含有しないものであり、天然繊維、合成繊維のいずれでもよいが、中でも熱可塑性樹脂にて形成される合成繊維が好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、溶融紡糸できるものであれば特に限定されるものではなく、X線造影性繊維において用いることができる、前記した繊維形成性ポリマーBや熱可塑性エラストマー等を用いることができる。
【0038】
非造影性繊維は、1種類の熱可塑性樹脂にて形成される単一成分型のもの、2種類以上の熱可塑性樹脂から形成される複合成分型のいずれであってもよい。また、マルチフィラメント、モノフィラメントのいずれであってもよい。
【0039】
複合成分型のものとする場合は、複合形状として、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型などのものが挙げられる。
【0040】
なお、非造影性繊維を天然繊維とする場合は、溶剤紡糸セルロース繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨンなどを用いることができる。
【0041】
また、X線造影性繊維や非造影性繊維を構成する熱可塑性樹脂中には、その繊維性能を損なわない範囲であれば、ブロッキング防止剤、無機充填剤、補強剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、艶消剤、架橋剤などを含有させてもよい。
【0042】
次に、上記したようなX線造影性繊維と非造影性繊維とから構成される本発明のX線造影性複合糸の複合形態について説明する。本発明のX線造影性複合糸は、X線造影性繊維と非造影性繊維を含むことで、十分な強力を有し、製織や縫製の際にX線造影性繊維の切断が少ないX線造影性複合糸とすることができる。
【0043】
X線造影性複合糸の複合形態としては、図1に示すようなX線造影性繊維Mと非造影性繊維Nとを組物組織に製紐したもの、すなわち、組紐形態としたものが好ましい。なお、組物組織としては、平打組物、丸打組物、角打組物などが挙げられる。
【0044】
また、図2に示すようなX線造影性繊維Mと非造影性繊維Nとを撚糸形態で複合化したもの、あるいは個々に下撚りをかけたものをさらに上撚りしたものが好ましい。
【0045】
あるいは、X線造影性繊維Mの周囲に単数又は複数の非造影性繊維Nが配された形態で複合されているものであって、図3に示すようにX線造影性繊維Mの周囲に非造影性繊維Nをカバリングした形態のものなどが好ましい。
【0046】
本発明のX線造影性複合糸は、熱可塑性エラストマーを20質量%以上含有する熱可塑性樹脂にて形成されたX線造影性繊維と、放射線不透過剤を含有しない非造影性繊維とで構成される複合糸であるため、十分な強力と柔軟性を有するものであり、複合糸の強力は500cN以上であることが必要であり、中でも1500cN以上、さらには3000cN以上であることが好ましい。X線造影性複合糸の強力が500cN未満であると、縫製時の張力等によりX線造影性複合糸が切断してしまうため好ましくない。
【0047】
また、本発明のX線造影性複合糸は、柔軟性を示す指標として、ヤング率が0.5〜25cN/dtex、中でも1.0〜18cN/dtex、さらには1.5〜12cN/dtexであることが好ましい。
【0048】
本発明のX線造影性複合糸において、X線造影性繊維の割合は90質量%以下であり、中でも30〜85質量%であることが好ましい。X線造影性繊維の比率がこれより多いと、X線造影性繊維の割合が多くなりすぎるため、十分な強力を有するX線造影性複合糸とすることが困難となる。また、X線造影性繊維の比率がこれより少ないと、X線造影性が低下するので好ましくない。
【0049】
X線造影性繊維と非造影性繊維は、いずれもモノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよいが、単糸繊度は用途に応じて適宜選択すればよく、500〜20000dtexとすることが好ましい。
【0050】
次に、本発明のX線造影性複合糸の製造方法について説明する。
まず、X線造影性繊維は、放射線不透過剤を含むマスターチップと熱可塑性樹脂とをエクストルーダーで混練・溶融し、紡糸口金より押し出して溶融紡糸を行う。紡出されたフィラメントを、冷却固化し、実質的に延伸することなく未延伸糸として一旦巻き取る。次に、巻き戻した未延伸マルチフィラメント糸に熱延伸を施し、弛緩熱処理を行い、巻き取る。
【0051】
非造影性繊維は、通常の溶融紡糸装置を用いて溶融紡糸を行い、冷却した後、延伸、弛緩熱処理を行うことによって、得ることができる。
【0052】
X線造影性複合糸を上述の組物組織、撚糸形態、カバリング形態とするには、X線造影性繊維と非造影性繊維とを、製紐機、撚糸機、カバリング加工機等の一般的な加工装置に供給することで加工することができる。例えば、X線造影性繊維と非造影性繊維とをそれぞれ複数本用いて、製紐することにより、図1(a)に示すような組紐状のX線造影性複合糸とすることができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、以下の実施例、比較例における各測定値の測定、評価は次の通りに行った。
〔相対粘度〕
ポリエステル:フェノールとテトラクロロエタンとの等量混合溶液を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度25℃の条件で常法により測定した。
ポリアミド:96%硫酸を溶媒とし、濃度0.5g/dl温度25℃の条件で常法により測定した。
〔X線造影性複合糸の強力〕
JIS L 1013に従い、島津製作所社製オートグラフ AG−1型を用いて、試料長25cm、引張速度25cm/分で測定した。
〔X線造影性複合糸の造影性〕
家庭用刺繍ミシンを用いて得られたX線造影性複合糸を平織の綿ガーゼ(40番手の綿糸使用、約15g/m)に縫製した。
X線照射距離を1mとし、管電圧80kV、管電流400mAのX線発生装置(陽極:タングステン)、照射時間0.063秒の撮影条件にて、得られたX線造影性複合糸を縫製したガーゼのX線写真を撮影し、目視によりX線造影性複合糸の見え具合を以下の4段階で評価した。
◎:非常に鮮明に見える。
○:鮮明に見える。
△:やや鮮明に見える。
×:ほとんど見えない。
〔縫製評価〕
〔X線造影性複合糸の造影性〕の評価において、X線造影性複合糸を綿ガーゼに縫製した際の操業性と仕上がりを以下の3段階で評価した。
◎:縫製時に複合糸が切断せず、縫い上がり後もX線造影性繊維の単糸切れがみられない。
○:縫製時に複合糸が切断することがあるが、縫い上がり後はX線造影性繊維の単糸切れがほとんどない。
×:縫製時に複合糸の切断が多発し、かつ縫い上がり後もX線造影性繊維の単糸切れが多い。
【0054】
X線造影性繊維として、下記(A−1)〜(A−24)に示すものを製造した。
(A−1)
ポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 3046、デュロメータ硬さD27)を用い、放射線不透過剤として硫酸バリウムを用いた。
ポリエステル系エラストマー中に硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた。この樹脂をマスターチップとし、エクストルーダー型溶融押出機に供給した。そして、紡糸温度200℃で溶融し、孔径0.5mmの紡糸孔を10個有する紡糸口金より吐出させて未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を捲取速度400m/minで捲き取って、150dtex/10fのX線造影性繊維を得た。
【0055】
(A−2)
(A−1で用いたポリエステル系エラストマー)/〔相対粘度1.43のポリエチレンテレフタレート(PET)〕=80/20(質量比)とした混合物中に、硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた。この樹脂をマスターチップとし、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度260℃で溶融し、孔径0.5mmの紡糸孔を10個有する紡糸口金より吐出させて未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を捲取速度400m/minで捲き取って、300dtex/10fのX線造影性繊維を得た。
【0056】
(A−3、A−4)
(A−1で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)の混合比率を表1のように変更した以外は、(A−2)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0057】
(A−5)
ポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 6347、デュロメータ硬さD63)を用いた以外は、(A−1)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0058】
(A−6)
(A−5で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)の混合比率を表1のように変更した以外は、(A−2)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0059】
(A−7)
ポリエステル系エラストマーに代えて、ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製Pebax 533SN01、デュロメータ硬さD55)を用いた以外は、(A−3)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0060】
(A−8)
A−1で用いたポリエステル系エラストマー中に硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた。この樹脂をマスターチップとし、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度200℃で溶融し、孔径2.0mmの紡糸孔を1個有する紡糸口金より吐出させた。そして、紡出されたモノフィラメントを20℃の水浴により冷却固化し、紡糸ガイドを通してローラに導き、実質的に延伸することなく捲取速度40m/minで捲き取って、300dtex/1fのX線造影性繊維を得た。
【0061】
(A−9)
(A−1で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=50/50とした混合物中に、硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた。この樹脂をマスターチップとした以外は(A−8)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0062】
(A−10)
A−1で用いたポリエステル系エラストマーに代えて、A−5で用いたポリエステル系エラストマーを用いた以外は、(A−9)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0063】
(A−11)
芯成分にA−1で用いたポリエステル系エラストマー中に硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用い、鞘成分として相対粘度1.43のPETを用いた。芯鞘複合比率(体積比)が芯/鞘=50/50になるようにそれぞれをエクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度260℃で溶融し、孔径0.5mmの紡糸孔を10個有する紡糸口金より吐出させて、未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を捲取速度400m/minで捲き取って、300dtex/10fのX線造影性繊維を得た。
【0064】
(A−12)
芯成分に(A−1で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=50/50とした混合物中に、硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用いた以外は、(A−11)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0065】
(A−13)
芯成分に(A−5で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=50/50とした混合物中に、硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用いた以外は、(A−11)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0066】
(A−14)
鞘成分として相対粘度2.51のナイロン6を用いた以外は、(A−12)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0067】
(A−15)
芯成分に相対粘度1.43のPET中に硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用い、鞘成分にA−1で用いたポリエステル系エラストマーを用いた以外は、(A−11)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0068】
(A−16)
鞘成分に(A−1で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=50/50とした混合物中に、硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用いた以外は、(A−15)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0069】
(A−17)
鞘成分に(A−5で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=50/50とした混合物中に、硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用いた以外は、(A−15)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0070】
(A−18)
芯成分に相対粘度2.51のナイロン6を用いた以外は、(A−16)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0071】
(A−19)
鞘成分にA−5で用いたポリエステル系エラストマーを用いた以外は、(A−11)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0072】
(A−20)
芯成分にA−5で用いたポリエステル系エラストマー中に硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用い、鞘成分にA−1で用いたポリエステル系エラストマーを用いた以外は、(A−11)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0073】
(A−21)
鞘成分に(A−5で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=50/50とした混合物を用いた以外は、(A−12)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0074】
(A−22)
芯成分にA−1で用いたポリエステル系エラストマー中に硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用い、鞘成分として(A−5で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=50/50とした混合物を用いた。芯鞘比率(体積比)が芯/鞘=50/50になるようにそれぞれをエクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度260℃で溶融し、孔径2.0mmの紡糸孔を1個有する紡糸口金より吐出させた。そして、紡出されたモノフィラメントを20℃の水浴により冷却固化し、紡糸ガイドを通してローラに導き、実質的に延伸することなく捲取速度40m/minで捲き取って、300dtex/1fのX線造影性繊維を得た。
【0075】
(A−23)
鞘成分にA−5で用いたポリエステル系エラストマーを用いた以外は、(A−22)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0076】
(A−24)
芯成分に(A−1で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=15/85とした混合物中に、硫酸バリウムを含有量が60質量%となるように含有させた熱可塑性樹脂を用い、鞘成分に(A−1で用いたポリエステル系エラストマー)/(相対粘度1.43のPET)=15/85とした混合物を用いた以外は、(A−11)と同様の方法でX線造影性繊維を得た。
【0077】
非造影性繊維として、下記(B−1)〜(B−2)に示すものを製造した。
(B−1)
相対粘度1.43のPETのチップをエクストルーダ型溶融紡糸機に供給し、紡糸温度280℃で、孔径0.2mmの紡糸孔を36個有する紡糸口金より吐出させた。そして、紡出された糸条を一旦捲取ることなく、第1ゴデッドローラ速度を3000m/分(ローラ温度95℃)、第2ゴデッドローラ速度を4500m/分(ローラ温度130℃)として、捲取速度4500m/minで捲きとって、84dtex/36fの繊維を得た。
【0078】
(B−2)
相対粘度2.51のナイロン6チップをエクストルーダ型溶融紡糸機に供給し、紡糸温度250℃で、孔径0.35mmの紡糸孔を36個有する紡糸口金よりと出させた。そして、紡出された糸条を一旦捲取ることなく、第1ゴデッドローラ速度を3000m/分(ローラ温度95℃)、第2ゴデッドローラ速度を4500m/分(ローラ温度130℃)として、捲取速度4500m/minで捲きとって、84dtex/36fの繊維を得た。
【0079】
X線造影性繊維(A−1)〜(A−24)の熱可塑性樹脂の組成、フィラメント数等を表1〜2に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
実施例1
X線造影性繊維として(A−1)の繊維を4本、非造影性繊維として(B−1)の繊維を4本引き揃え合糸としたものを2本用いて8打ちにて製紐し、図1に示すようなX線造影性複合糸を得た。
【0083】
実施例2
X線造影性繊維(A−1)を、表3に示すよう(A−2)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でX線造影性複合糸を得た。
【0084】
実施例3
X線造影性繊維(A−1)1本を芯糸、非造影性繊維(B−1)1本を被覆糸として、カバリング撚糸機を用いて被覆糸を芯糸の周囲に撚数500T/MでS撚りで旋回させ、図3に示すようなX線造影性複合糸を得た。
【0085】
実施例4
X線造影性繊維(A−1)1本と、非造影性繊維(B−1)4本とを引き揃え合糸し、3600T/Mで下撚りを行った。この下撚り糸2本について200T/Mの上撚りを行い、図2に示すようなX線造影性複合糸を得た。
【0086】
実施例5〜26
X線造影性繊維を表3に示すように、(A−2)〜(A−23)のものに変更した以外は、実施例1と同様の方法でX線造影性複合糸を得た。
【0087】
比較例1
X線造影性繊維(A−1)1本を芯糸、非造影性繊維(B−3)1本を被覆糸として、カバリング撚糸機を用いて被覆糸を芯糸の周囲に撚数500T/MでS撚りで旋回させ、図3に示すようなX線造影性複合糸を得た。
【0088】
比較例2
X線造影性繊維(A−1)のみを用いた。
【0089】
比較例3
非造影性繊維(B−1)のみを用いた。
【0090】
比較例4
X線造影性繊維(A−8)のみを用いた。
【0091】
比較例5
X線造影性繊維として(A−24)の繊維を用い、非造影性繊維として(B−1)の繊維を用いた以外は、実施例1と同様にしてX線造影性複合糸を得た。
【0092】
実施例1〜26、比較例1〜5で得られたX線造影性複合糸の特性値及び評価結果を表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
表3から明らかなように、実施例1〜26のX線造影性複合糸は、十分な強力を有しており、かつ柔軟性を有していたため、縫製の際に単糸切れすることがなく、また、造影性にも優れるものであった。
【0095】
一方、比較例1のX線造影性複合糸はX線造影性繊維の割合が多すぎたため、強力が低いものとなり、比較例2、比較例4ではX線造影性繊維のみを用いたため、強力が低いものとなり、いずれの繊維も縫製時に切断が多発し、かつ縫い上がり後もX線造影性繊維の単糸切れが多いものであった。比較例3では非造影性繊維のみを用いたため、縫いあがり後は良好なものであったが、X線を照射しても見えないものであった。比較例5のX線造影性複合糸はX線造影性繊維が熱可塑性エラストマーを20質量%以上含有していないものであったため、柔軟性に劣るものであり、縫製時に複合糸の切断が多発し、かつ縫い上がり後もX線造影性繊維の単糸切れが多いものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂にて形成されたX線造影性繊維と、放射線不透過剤を含有しない非造影性繊維とから構成される複合糸であって、X線造影性繊維の割合が複合糸全体の90質量%以下、複合糸の強力が500cN以上であり、かつX線造影性繊維を形成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマーを20質量%以上含有することを特徴とするX線造影性複合糸。
【請求項2】
X線造影性繊維は芯成分と鞘成分の熱可塑性樹脂からなる芯鞘型複合モノフィラメントであって、芯成分もしくは鞘成分の熱可塑性樹脂のうち少なくとも一方が熱可塑性エラストマーを含有し、かつ、芯成分の熱可塑性樹脂中に放射線不透過剤が含有されている請求項1記載のX線造影性複合糸。
【請求項3】
X線造影性繊維と非線造影性繊維とが組紐形態で複合されている請求項1又は2記載のX線造影性複合糸。
【請求項4】
X線造影性繊維と非線造影性繊維とが撚糸形態で複合されている請求項1又は請求項2記載のX線造影性複合糸。
【請求項5】
X線造影性繊維の周囲に単数または複数の非造影性繊維が配された形態で複合されている請求項1又は請求項2記載のX線造影性複合糸。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−216030(P2010−216030A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62871(P2009−62871)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】