説明

p−ヒドロキシフェニル−2−アルコキシプロピオン酸の分割

本発明は、一般式(I)のエナンチオマー富化した化合物の製造方法に関する。これらは、この相応する酸のキラルなアミノ塩基を用いた有機溶媒中での典型的な分割により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(I)
【化1】

のエナンチオマー富化した化合物の製造方法に関する。
【0002】
一般式(I)の化合物は、生物活性のある化合物の製造のための重要な開始物質である。特に、式(I)のエナンチオマー富化した誘導体は、「インスリン抵抗性症候群(IRS)」に対して活性のある化合物の製造のために使用される。
【0003】
WO 0140159及びWO 0224625において、一般式(I)のエナンチオマー富化したエステル及びその他の誘導体の、このラセミ前駆体化合物の分割による製造方法が言及されている。WO 0140159は詳細に、この相応するラセミ混合物の、塩のジアステレオマー対の晶析による分離、置換により得られる一般式(I)のジアステレオマー化合物の晶析又はクロマトグラフィ、及びキラル相に対するクロマトグラフィ、及び式(I)の不飽和前駆体のエナンチオ選択的な水素化を開示する。ここで言及される塩のジアステレオマー対の晶析はキラルアミンを介して進行し、しかしながら、このうち、(S)−(−)−1−(1−ナフチル)エチルアミンが、フェノール性OH基で保護された一般式(I)の化合物に関連した例として開示されている。
【0004】
WO 0224625は同様に、キラル塩基の存在下での一般式(I)の化合物の分割に言及する。キラル塩基の例として、(R)−(+)−α−メチルベンジルアミン、(S)−(+)−フェニルグリシノール、キニジン、エフェドリン、N−オクチルグルカルアミン(N−methylglucaramin)及びN−メチルグルカルアミンが明示されている。またもや、フェノール性OH基で保護されている一般式(I)の化合物の晶析のみが説明されている。
【0005】
本発明の主題は、一般式(I)のエナンチオマー富化した化合物の更なる製造方法であって、特に、付加的な保護及び脱保護工程を介する他に、典型的な分割を利用して、生物活性のある化合物の製造のために必要とされるフェノール性OH基で保護されていない一般式(I)の化合物をも製造できる製造方法を示すことである。
【0006】
この主題及びそれ自体ではより詳細には言及されていないが公知技術から明白に生じる更なる主題は、対象となる請求項1記載の製造方法により達成される。有利な実施態様は、請求項1の従属請求項2〜4において保護されることが望まれる。請求項5及び6は、有利な塩の対を対象とする。請求項7は有利な使用に関する。
【0007】
一般式(I)
【化2】

[前記式中、
X=H、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、R
及び
Rは(C1〜C8)−アルキル残基を示す]
のエナンチオマー富化した化合物の製造方法において、
これが、アルコール、エステル、ケトン、及びエーテルからなるグループから選択される有機溶媒又は溶媒混合物中で、塩の形成下で、X=Hである一般式(I)の化合物を、エナンチオマー純粋である2−アミノ−1−ブタノールと共に晶析することにより分割できるとの事実により、前記主題のセットは、意外ではあるがにもかかわらず有利な様式において達成される。特異的なキラルアミンと選択した有機溶媒又は溶媒混合物との使用との組み合わせにより、前記分割において、公知技術により提案されたフェノール性OH基の保護及び脱保護工程を省くことができる。
【0008】
本発明による反応を、有利には、X=Hである一般式(I)の誘導体を用いて使用してよく、その際Rは1〜4つのC原子を有するアルキル残基である。X=H、R=メチル又はエチルの式(I)の化合物が使用される方法が極めて有利である。
【0009】
上記で示した有機溶媒又は溶媒混合物の範囲において、当業者は、典型的な分割において使用した有機溶媒又は溶媒混合物を自由に選択できる。有利なエステルは、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸メチルであってよい。エーテルは有利には、メチルtert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、THF、ジフェニルエーテル、ジオキサンを選択してよい。可能性のあるアルコールは、特に、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、又は、sec−ブタノール又はn−ブタノールであるアルコールである。有機ケトンは、有利には、アセトン、MIBK、ジイソプロピルケトンであってよい。特に有利には、前記分割において使用される有機溶媒は、ケトン及びアルコールの混合物である。特に有利には10:1〜0.1:1、有利には5:1〜0.2:1、より有利には4:1〜0.3:1、とりわけ有利には3:1〜0.5:1(v/v)の範囲の比にある、MIBK/イソプロパノールの混合物の使用である。
【0010】
使用される、X=Hである一般式(I)のラセミ混合物と、前記のエナンチオマー純粋なキラル開裂剤とのモル比は、有利には、0.3〜1.2、より有利には0.35〜1.1、特に有利には0.4〜1の範囲にある。
【0011】
本発明は更に、(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(C1〜C8)−アルキルオキシプロピオン酸及び(S)−(+)−2−アミノ−1−ブタノールの、及び(R)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(C1〜C8)−アルキルオキシプロピオン酸及び(R)−(−)−2−アミノ−1−ブタノールの塩の2つのジアステレオマー対に関し、かつこれらの塩の対の生物活性のある化合物の製造のための使用に関する。
【0012】
本発明において、有利には、X=Hである式(I)のラセミ混合物を、適した有機溶媒又は溶媒混合物中で溶解させる手法が使用され、この溶液を、30℃より高い、有利には40℃より高い、特に有利には50℃より高い、最高で100℃の温度に加熱し、かつ引き続きキラル開裂剤を添加する。この反応混合物の温度を次いで、ゆっくりと室温に冷却する。この相において、本発明による塩からなる種結晶を、30℃以下で添加する。引き続き、前記反応混合物を室温で撹拌し、かつ晶析の終了後に濾別する。この濾過ケークを有機溶媒で洗浄し、引き続き真空乾燥させる。本発明による塩は、40%を上回る非常に良好な収率及び極めて良好なジアステレオ選択性で得られる。この更なる後処理は、特に、X−Hである式(I)の化合物の遊離は、当業者に公知である変形方法により行われる(酸性化及びイオン交換クロマトグラフィを用いた抽出)。必要であれば、しかしながら、前もって塩のジアステレオマー対の更なる再晶析を実施することも可能である。このようにして、式(I)の化合物の光学純度を、>99%eeの値にまで増加させてよい。所望であれば、引き続き、X=Hである式(I)のエナンチオマー純粋な化合物を、エステル化又は塩の形成により、X=アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、又は、Rを有する式(I)のこの相応する誘導体へと変換してよい。
【0013】
(C1〜C8)アルキルは、C原子1〜8つの数を有する全てのアルキル残基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、又はオクチルを、全ての結合異性体を含めて、考慮してよい。
【0014】
実施例:
(S,S)−アンモニウム塩の製造
ラセミ(R,S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸78.4g(0.4モル)を、メチルイソブチルケトン400ml及びイソプロパノール160ml中に溶解した。この溶液を、50℃に加熱し、かつこの温度で、(S)−(+)−2−アミノ−1−ブタノール36.4g(0.4モル)を15分間の間に滴加した。この反応混合物をゆっくりと室温に冷却した。30℃で、種結晶を添加した。前記反応混合物を12時間室温で撹拌した。この沈殿した(S,S)−アンモニウム塩を室温で濾別した。この濾過ケークを、20mlのアセトンで洗浄し、引き続き40℃で真空乾燥した。(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸及び(S)−(+)−2−アミノ−1−ブタノールの(S,S)アンモニウム塩45.9g(40%)を得た。
【0015】
(S,S)−アンモニウム塩の開裂
45.9g(S,S)−アンモニウム塩を、DI水250ml中に溶解した。攪拌しながら、約16mlの濃塩酸(36%)を滴加し、pH=0.8〜1のpHに定めた。この水相を3回、各275mlのMIBKでもって抽出した。この一緒にした抽出物を、真空50℃で完全に濃縮した。この生じる油はゆっくりと完全に結晶化した。光学純度、ee=92.0%を有する粗(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸33.0gを得た。この油をまた、制御した様式で結晶化するようにしてもよい。この最後に、前記油をメチルtert−ブチルエーテル75ml中に40〜50℃で溶解させ、次いで撹拌しながらシクロヘキサン125mlをゆっくりと滴加した。この溶液をゆっくりと室温に冷却した。30℃で、種結晶を添加した。室温で4時間後、この生成物を濾別し、この濾過ケークをメチルtert−ブチルエーテル/シクロヘキサン混合物10mlで洗浄した。真空中での50℃での乾燥後、(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸30.0g(38%)を得た。光学純度ee>99%。化学純度>99%。
【0016】
(S,S)−アンモニウム塩45.9gをDI水250ml中に溶解した。攪拌しながら、約16mlの濃塩酸(36%)を滴加し、pH=0.8〜1のpHに定めた。この水相を3回、各275mlのMIBKでもって抽出した。この一緒にした抽出物を、残留容積420mlにまで真空中で濃縮した。
【0017】
(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸の酢酸ナトリウムを用いた中和
上記からの(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸溶液420mlを、攪拌しながら136mlのメタノール中の酢酸ナトリウム16.32gの溶液を用いて処理した。種結晶の添加後、この混合物を12時間室温で撹拌した。この沈殿した生成物を濾別し、この濾過ケークを2回、各20mlのMIBKで洗浄した。この生成物を真空中で50℃で12時間乾燥した。(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸ナトリウム30.2g(34.8%)を得た。光学純度ee=95〜97%。化学純度>99%。
【0018】
光学純度の向上
光学純度ee=95%を有する(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸ナトリウム10gを、攪拌しながら、メタノール40ml中に40℃で再懸濁した。室温への冷却後、この生成物を濾過により単離した。この濾過ケークを、冷メタノール5mlで洗浄し、引き続き真空中で50℃で12時間乾燥した。光学純度ee=99.6%を有する(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸ナトリウム9gを得た。
【0019】
(R,R)−アンモニウム塩の製造
(R)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸19.9g(0.1015モル)をMTBE150ml中に溶解した。室温で、(R)−(−)−2−アミノ−1−ブタノール9.05g(0.1015モル)を攪拌しながらゆっくりと滴加した。この反応混合物を4時間室温で撹拌した。この沈殿物を濾別し、この濾過ケークをMTBE10mlで洗浄した。乾燥後、結晶性の(R,R)−アンモニウム塩26g(90%)を得た。
【0020】
以下の実験は、(R,S)アンモニウム塩及び(S,R)アンモニウム塩両方を、結晶化する傾向を全く示さない油の形で得ることを実証する。
【0021】
(R,S)−アンモニウム塩の製造
(R)−(−)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸19.9g(0.1015モル)をMTBE150ml中に溶解した。室温で、(S)−(+)−2−アミノ−1−ブタノール9.05g(0.1015モル)を撹拌しながら滴加し、この生成物を油として分離した。この混合物を12時間室温で撹拌した。二相の混合物が生じた。相分離後に、この低相を分離し、揮発性成分を真空中で除去した。分光分析により均質の生成物31.8gが油の形で生じ、これは結晶化する傾向を全く示さなかった。この実験を様々な溶液において繰り返した。全ての場合において、いかなる結晶化をも達成することはなかった。
【0022】
(S,R)−アンモニウム塩の製造
(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メトキシプロピオン酸13.72g(0.07モル)をMTBE100ml中に溶解させ、(R)−(−)−2−アミノ−1−ブタノール6.2g(0.07モル)を室温で撹拌しながら滴加し、この生成物を油として分離した。この混合物を12時間室温で撹拌した。二相の混合物が生じた。
【0023】
相分離後に、この低相を分離し、揮発性成分を真空中で除去した。分光分析により均質の生成物22.3gが油の形で生じ、これは結晶化する傾向を全く示さなかった。
この実験を様々な溶液において繰り返した。全ての場合において、いかなる結晶化をも達成することはなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[前記式中、
X=H、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、R
及び
Rは(C1〜C8)−アルキル残基を示す]
のエナンチオマー富化した化合物の製造方法であって、
アルコール、エステル、ケトン、及びエーテルからなるグループから選択される有機溶媒又は溶媒混合物中で、塩の形成下で、X=Hである一般式(I)の化合物を、エナンチオマー純粋である2−アミノ−1−ブタノールと共に晶析することによる、エナンチオマー富化した化合物の製造方法。
【請求項2】
R=メチル又はエチルであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
使用される有機溶媒がケトン及びアルコールの混合物であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
X=Hである(I)と2−アミノ−1−ブタノールとのモル比が、1対0.4〜1の比にあることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
(S)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(C1〜C8)−アルキルオキシプロピオン酸及び(S)−(+)−2−アミノ−1−ブタノールの塩。
【請求項6】
(R)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(C1〜C8)−アルキルオキシプロピオン酸及び(R)−(−)−2−アミノ−1−ブタノールの塩。
【請求項7】
生物活性のある化合物の製造のための請求項5及び6記載の塩の使用。

【公表番号】特表2008−506729(P2008−506729A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521832(P2007−521832)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007273
【国際公開番号】WO2006/007976
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】