説明

p−ヒドロキシ安息香酸をそのジアルカリ金属塩から製造する方法

【課題】本発明の目的は、ジアルカリ金属塩から酸、アルカリ金属水酸化物、およびもとの有機化合物を回収する効率的で経済的な方法を提供することである。
【解決手段】p−ヒドロキシ安息香酸の(ジ)アルカリ金属塩を高温で電気透析して、遊離のp−ヒドロキシ安息香酸およびアルカリ金属の水酸化物を生成させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸の塩を部分電気透析し、次いでブレンステッド酸と反応させることによって、ジカルボン酸および芳香族ヒドロキシカルボン酸をこれらのアルカリ金属塩から分離する方法に関する。本発明はさらに、p−ヒドロキシ安息香酸をそのモノまたはジアルカリ金属塩から電気透析によって分離する方法に関する。この方法では、アルカリ金属およびこれらの水酸化物が完全にかつ経済的に再利用される。
【背景技術】
【0002】
芳香族ヒドロキシカルボン酸およびジカルボン酸は商業上重要な品目である。例えば、o−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)は、例えばアスピリン製造の化学中間体として使用され、p−ヒドロキシ安息香酸(PHBA)は、パラベンを製造するのに使用され、また、ポリエステルを製造する際のモノマーとして使用される。ジカルボン酸はモノマーとして重要である。芳香族ヒドロキシカルボン酸は伝統的に、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩を二酸化炭素と反応させるコルベ−シュミット反応を使用して製造される。この反応は通常、高温高圧下で実施される。コルベ−シュミット反応は、100年以上にわたって芳香族ヒドロキシ酸製造の標準法であった。例えば、参照によって本明細書に組み込まれるA. S. Lindsey, et al., Chem. Rev., vol. 57, p. 583-620 (1957) を参照されたい。しかし、この反応は複雑で起こすのが難しく、そのため複数の製造階段を含み、これによって最終生成物のコストが増す。カルボキシル化反応の初期生成物は、芳香族ヒドロキシカルボン酸のジアルカリ金属塩であるので、実質的なコストは通常、(ナトリウム塩またはカリウム塩として)後に破棄されるNaOH、KOHなどの化合物の使用に対してかかる。これは、遊離の芳香族ヒドロキシカルボン酸(またはジカルボン酸)が通常、ジアルカリ金属塩を強酸と反応させることによって分離されるからである。したがって、これらの化合物を製造する改良されたコルベ−シュミット反応を開発することが望ましい。ジカルボン酸も、ジアルカリ金属塩として入手可能なことがあり、これらの金属塩をジカルボン酸自体に変換し、これらの金属塩中のアルカリ金属からアルカリを生成することが望ましいことも多い。
【0003】
二酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸の塩を電気透析すると、遊離のジカルボン酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸とアルカリ金属の水酸化物が形成されることが知られている。しかし、これらの化合物を最終生成物に完全に電気透析しようとすると、電気分解が完了に近づくにつれて、電圧が増大し、電流効率が急速に低下して、不経済な反応となることがある。したがって、遊離の芳香族ヒドロキシカルボン酸またはジカルボン酸をそのジアルカリ金属塩から分離する経済的で、反応中のアルカリ金属を経済的な方法で再利用することができる別の方法が求められる。
【0004】
特許文献1には、テレフタル酸のアルカリ金属塩をテレフタル酸とアルカリ金属の水酸化物に電気透析することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、ヒドロキシ安息香酸のアルカリ金属塩の電気透析が記載されている。
【0006】
前記の文献には、部分電気透析の後に強酸で処理して、ジカルボン酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸の分離を行なうことは記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特公昭40−11492号公報
【特許文献2】特開昭64−9954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機化合物塩の電気透析は一般に知られており、一般に比較的単純な装置のみを必要とする。しかし、PHBAのモノまたはジカリウム塩水溶液を電気透析しようとすると、遊離のPHBAを得る前に、電気分解を起こすのに必要な電圧が大幅に増大し、電気分解が実質的に停止することに気付く(比較例1参照)。しかし現在では、この電気透析を高温で実施すると良好な結果が得られることが分かっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ジカルボン酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸をこれらのジアルカリ金属塩から製造する本発明の第1の方法は、
(a) 式(OR1CO2)M2または[R2(CO2)2]M2で表される化合物を電気透析して、式(OR1CO2)HyM2−yまたは[R2(CO2)2]HyM2−yで表される化合物とMOHとを生成させる段階と、
(b) (OR1CO2)HyM2−yまたは[R2(CO2)2]HyM2−yを、
式MqHs−qXで表され、水に対するpKaが約4以下であるブレンステッド酸、または
式HTで表され、水に対するpKaが約4以下であるブレンステッド酸の水溶液であって、少なくとも5モルパーセントのHTまたはMTを任意選択で含む水溶液と反応させ、
(OR1CO2)H2または[R2(CO2)2]H2と、MのT塩またはX塩を生成させる段階と
を含む。
ただし、Tは、一価アニオン、
R1は、アリーレンまたは置換アリーレン、
R2は、ヒドロカルビレンまたは置換ヒドロカルビレン、
Mは、アルカリ金属カチオン、
sは、Xの原子価、
yは、約0.10〜約1.90、
qは、約0.10〜約(s−0.10)、
Xは、多価アニオンである。
【0010】
p−ヒドロキシ安息香酸をそのジアルカリ金属塩から製造する本発明の第2の方法は、式(OR1CO2)HtM2−tで表される第1の化合物の水溶液を電気透析して、式(OR1CO2)HyM2−yで表される第2の化合物およびMOHを生成させる段階を含む。ただし、
R1は、p−フェニレン、
tは、0〜約1.50、
Mは、アルカリ金属カチオン、
yは、約1.95〜2.00である。
yまたはtが約1.0以上である場合、前記電気透析は約75℃の温度で実施される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、これらのジアルカリ金属塩から酸、アルカリ金属水酸化物、およびもとの有機化合物を回収する効率的で経済的な方法を適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第1の方法の生成物は、芳香族ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸、またはこれらの部分アルカリ金属塩である。芳香族ヒドロキシカルボン酸は、少なくとも1つの芳香環、ならびに芳香環の炭素原子にともに結合した少なくとも1つのヒドロキシル基および少なくとも1つのカルボキシル基を含む化合物を言う。この化合物は、1つまたは複数の芳香環を含んでもよく、芳香環が2つ以上存在する場合にはこれらの芳香環は、ナフタレンのように融合していたり、ビフェニルのように共有結合によって接続されていたり、またはジフェニルエーテルのように二価の基によって接続されていたりする。アルキル基などの1つまたは複数の不活性基が芳香環に結合していてもよい。この方法によって生成される化合物には、p−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸、2−ヒドロキシ−5−メチル安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸などがある。好ましい生成物は、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、およびo−ヒドロキシ安息香酸である。
【0013】
第1の方法の生成物をジカルボン酸とすることもできる。この生成物が、芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸は、少なくとも1つの芳香環と、1つまたは複数の芳香環の炭素原子に結合した2つのカルボキシル基とを含む化合物を言う。この化合物が、1つまたは複数の芳香環を含んでもよく、芳香環が2つ以上存在する場合にはこの芳香環は、ナフタレンのように融合していたり、ビフェニルのように共有結合によって接続されていたり、またはジフェニルエーテルやジフェニルメタンのように二価の基によって接続されていたりする。アルキル基および/またはハロゲンなどの1つまたは複数の不活性基が芳香環に結合していてもよい。好ましい芳香族ジカルボン酸生成物は、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジ安息香酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸である。
【0014】
本明細書では、1つまたは2つの芳香環の炭素原子に2つの遊離原子価を有する遊離基をアリーレンと呼ぶ。本明細書では、炭素および水素を含む二価遊離基を、ヒドロカルビレンと呼ぶ。本明細書では、本明細書に記載された反応を妨害しない1つまたは複数の置換基を「置換」で表す。適当な置換基には、アルキルおよびハロゲンが含まれる。
【0015】
第1の方法の出発物質は、芳香族ヒドロキシカルボン酸またはジカルボン酸の対応するジアルカリ金属塩、あるいは式(OR1CO2)HzM2−zまたは[R2(CO2)2]HzM2−zで表されるその部分酸化された形態である。ただし、zは1未満、より好ましくは0〜約0.5、特に好ましくは約0.1未満である。次いでこの化合物を電気分解し、これによってzの値が、通常zよりも大きいyにまで増大する。通常は、本質的に1種類のアルカリ金属のみが存在する。ナトリウムおよびカリウムが好ましいアルカリ金属であり、カリウムが特に好ましい。これらのジアルカリ金属塩は、いくつかある供給源のうちのいずれから得てもよい。例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸のコルベ−シュミット反応の初期生成物はジアルカリ金属塩である。ジカルボン酸のヘンシェル(Henschel)合成の生成物もジアルカリ金属塩である。これらの方法はともに、アルカリ金属の水酸化物から出発する。本明細書に記載の第1の方法を使用して、アルカリ金属に関して本質的に閉環した方法を構想することができる。
【0016】
例えば、サリチル酸のコルベ−シュミット反応の一次生成物は通常、サリチル酸のジナトリウム塩である。下式でSAは、サリチル酸の二価アニオンを表す。以下の式は、全てのアルカリ金属(ナトリウム)および酸(この場合は硫酸水素ナトリウム)が完全に回収され、そのため、方法の中で再利用することができる第1の方法を表す。
Na2SA+電気透析→NaHSA+NaOH (1)
NaHSA+NaHSO4→H2SA+Na2SO4 (2)
Na2SO4+電気透析→NaHSO4+NaOH (3)
【0017】
前記の式では、MがNa、yが1、R1がo−フェニレン、yが1、qが1である。コルベ−シュミット反応の最初に戻して再利用するのに十分なNaOHが生成され、この方法を継続するのに十分なNaHSO4が再生されることに留意されたい。式(1)および(2)は、本明細書に記載した方法の必須の階段を表し、式(3)は、全体のコルベ−シュミット反応で再利用するのに必要なアルカリ金属を再生させる任意選択の段階を表すことに留意されたい。一価アニオンに対する第1の方法は以下のようになる。
Na2SA+電気透析→NaHSA+NaOH (4)
NaHSA+HT+0.5NaT→H2SA+1.5NaT (5)
1.5NaT+電気透析→0.5NaT+NaOH (6)
【0018】
主な違いは、式(5)および(6)を通じて反応しないNaTがただ単に存在していることである。電気透析後、NaTおよびNaOH溶液を式(5)に再び組み入れて使用することができる。この方法でもやはり、全体のコルベ−シュミット反応でナトリウムを完全に再利用することができる。
【0019】
第1の方法におけるMとR1のその他の好ましい組合せには、MがカリウムでR1がp−フェニレンであるもの、およびMがカリウムでR1が2,6−ナフチレンであるものがある。
【0020】
式(5)および(6)を通じて存在するNaTまたはその他の非反応性電荷担体は、段階(5)では存在する必要はないが、段階(6)では存在しなければならない。存在しない場合、(6)のNaTを全てNaOHに変換しようとすると電流効率が不十分となるからである。
【0021】
第1の方法の同様の反応を、その他の芳香族ヒドロキシカルボン酸またはジカルボン酸、その他のアニオン、およびその他のアルカリ金属に対しても構想することができる。使用する酸のpKaが約4以下でありさえすれば、同様の方法におけるアニオンの陰電荷数はいくつでもよい。
【0022】
第1の方法では、Yが、約0.10〜約1.90でよく、約0.25〜約1.75であることが好ましく、約0.5〜約1.5であることがより好ましく、約0.9〜約1.4であることが特に好ましく、約1であることが最も好ましい。Qは、約0.10〜約(s−0.10)とすることができ、約0.25〜約(s−0.25)であることが好ましく、約0.5〜約(s−0.50)であることが特に好ましく、約0.75〜約(s−0.75)であることがより好ましく、sが2であるときには約1であることが特に好ましい。
【0023】
第1の方法に使用するのに適当なpKaが4未満の酸には、HSO4−、HCl、H3PO4、F3CCO2HおよびCF3SO3Hなどがある。2つ以上の陰電荷を有するアニオンを、多価アニオンという。Xが二価アニオン、したがってsが2であることが好ましい。さらに、XがSO42−(硫酸)アニオンであることが好ましく、Tが塩化物アニオンであることが好ましい。
【0024】
電気透析は周知の方法であり、K2SO4やNaClなどの無機酸の金属塩の電気透析は特によく知られている。電気透析については、参照によって本明細書に含まれるB. Elvers., et al., Ed., Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Ed., Vol. A16, VCH Verlagsgesellschaft mbH, Weinheim, 1990, p. 209-213, 245-250を参照されたい。事実、反応3およびアニオンXを含むこの種の全ての反応では、化合物MqHs−qXのqが小さくなる代わりにsが増大し、MOHも生成される。反応6ではHTとMTの比が増大(HTが形成される)し、MOHも生成される。したがって、XまたはTを含む溶液のブレンステッド酸成分が増大すると言える。本明細書の電気分解過程でアルカリ金属の水酸化物が生成され、有機化合物も存在するので、Nafion(登録商標)(米デラウェア州ウィルミントンのE.I. du Pont de Nemours 社製) などのフッ化膜が、 これらの方法に特に有用であると考えられる。
【0025】
当業者なら理解することだが、芳香族ヒドロキシカルボン酸またはジカルボン酸のジアルカリ金属塩を利用する第1の方法では3区画セルを利用することができる。これらの出発物質は中央の区画に供給され、アルカリ金属の水酸化物はカソード区画で生成される。アノード区画では酸素が生成され、中央の区画では、化合物(OR1CO2)HyM2−yまたは[R2(CO2)2]HyM2−yが生成される。溶液の「平均的な」溶質が、本明細書に定義した(OR1CO2)HyM2−yまたは[R2(CO2)2]HyM2−yとなるような割合で、アルカリ金属塩の新鮮な溶液を中央の区画に追加したり、中央の区画の溶液を取り除いたりすることができる。
【0026】
第1の方法では、セル中に存在する芳香族ヒドロキシカルボン酸またはジカルボン酸の塩の水に対する溶解度が限られている場合、水に対する溶解度を高めるためセルを加熱するほうが望ましいことがある。溶解度は、yが1より大きいときに特に限定される。これは、「遊離の」(すなわちアルカリ金属塩でない)芳香族ジカルボン酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸が存在し、これらの遊離有機化合物が、冷水中で非常に限定された溶解度しか持たないためである。中央区画の溶液のpHは、その時点での中央区画のyの値を示す指標である(例1参照)。MがカリウムでR1がp−フェニレンであるとき、特にyが約0.9以上であるときには、約80℃〜105℃の温度でこの方法を実施することが好ましい。より一般的には、yが約0.9以上であるとき、約80℃〜105℃の温度でこの方法を実施することが好ましい。遊離の芳香族ジカルボン酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸の水に対する溶解度が比較的低い場合には、温度を高くしても、yが約1である点を大きく超えた溶液を電気分解できないことがある。
【0027】
第1の方法のM2XまたはMTの電気分解では、2または3区画のセルを使用することができる。このときアルカリ金属塩溶液はアノード・セルに供給され、3区画セルの場合は中央セルに供給される。アノード・セルの溶液は、MqH2−qX溶液が引き出される速度で引き出される。Tが、塩化物などの容易に酸化されるアニオンである場合には、3区画セルが好ましい。このとき、溶液は、3区画セルの中央区画から引き出すことができ、そのため適当なHTとMTの混合物が得られる。MOHは、それぞれのカソード・セルで生成される。
【0028】
本発明の第2の方法の生成物は、5モルパーセントまでのモノカリウム塩を含むp−ヒドロキシ安息香酸(y=1.95)である。完全な電気透析によって「純粋な」p−ヒドロキシ安息香酸を得るには、かなりの電気エネルギーが必要となることがあり、そのため、PHBAの中に少量のモノカリウム塩を残し、結晶化によって遊離の化合物を精製するほうが経済的であることがある。溶液中に残ったモノカリウム塩は、回収のために電気透析に戻して再利用することができる。
【0029】
第2の方法の出発物質は、式(OR1CO2)HtM2−tで表されるPHBAの対応するモノまたはジアルカリ金属塩である。ただしtは0〜約1.5であり、0〜約0.5であることがより好ましく、約0.1未満であることが特に好ましく、約0.0であることが最も好ましい。次いで、このPHBA塩を電気分解し、これによってtの値を、通常はt よりも大きいyにまで高める。通常は本質的に1種類のアルカリ金属のみが存在する。これはカリウムであることが好ましい。本明細書に記載のこの方法を使用して、アルカリ金属(通常はカリウム)に関して本質的に閉環した方法を構想することができる。
【0030】
第2の方法の最終生成物では、yが約1.97以上であることが好ましい。
【0031】
PHBAのアルカリ金属塩を利用する第2の方法でも、3区画セルを利用することができる。出発物質は中央区画に供給され、アルカリ金属の水酸化物はカソード区画で生成される。アノード区画では酸素が生成され、中央区画では化合物(OR1CO2)HyM2−yが生成される。溶液の「平均的な」溶質が、本明細書に定義した(OR1CO2)HyM2−yとなるような割合で、PHBAアルカリ金属塩の新鮮な溶液を中央区画に(連続的または断続的に)追加したり、中央区画の溶液を(連続的または断続的に)取り除いたりすることができる。
【0032】
第2の方法ではyが約1以上のとき、電気透析は約75℃以上で実施される。その結果、出発物質であるPHBAのアルカリ金属塩のtが約1.0未満である場合、2つのセルを直列に使用することができる。この場合には、第1のセルの温度は重要ではなく、第2のセルの温度を、yが約1以上のとき約75℃以上とする。セルを高圧力下に置くことによって、この溶液の沸点を大気中での沸点よりも高くすることもできるが、電気透析のこの部分の好ましい上限温度は、この水溶液の大気圧での沸点である。好ましい下限温度は約80℃であり、より好ましい下限温度は約85℃である。
【0033】
第2の方法では、電気透析するPHBAのアルカリ金属塩の濃度は重要ではないが、高すぎると、遊離のPHBAが3区画セル内で晶出する。しかし、溶液が容易に電気を通すことができるよう十分な高さの濃度であることが好ましい。さらに、溶液濃度が比較的高く、電気分解後の遊離PHBAの分離が単純化されることが好ましい。分離は、溶液を冷却し、結晶化したPHBAを分離することによって実施することができる。溶解したPHBAをいくらか含むろ液を、電気透析に戻して再利用することができる。すなわち、「新しい」アルカリ金属塩をろ液に溶解して、この溶液を電気透析することができる。溶液中のアルカリ金属塩の好ましい濃度は、溶液中の水および遊離のPHBA当量の総重量に基づいた遊離のPHBAの約10〜約35重量パーセント、より好ましくは約15〜約30重量パーセントである。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
電気化学的電池には、ElectroCell 社(スウェーデンAkersberga S-184 00)の「Electro MP Cell」 を使用した。 これを、Nafion(登録商標) RN−417膜(以前、米デラウェア州ウィルミントンのE.I. du Pont社から市販されていたもの)を使用して3区画セルに構成した。この膜は、ペルフルオロポリマー織布で補強された当量1100のペルフルオロスルホン酸ポリマーである。この膜の公称厚さは約0.25mmであり、条件付き抵抗は3.5〜4.0オーム−cm2である。現在、Nafion(登録商標)と同様のものとしては、Nafion(登録商標) N-450およびNafion RNE-424などがある。アノードおよびカソードの各々の有効面積は、0.01m2であった。アノードは、DSA(dimensionally stable )酸素陽極、カソードはステンレス鋼であった。
【0035】
PHBA溶液は、ふたおよびクランプを有する2リットルの樹脂ケトルに入れた。このケトルを、ホットプレート上で加熱し、マグネティック・スターラー、pHメーター電極、温度計、入口ラインおよび出口ラインを取り付けた。出口ラインの中には、熱可塑性の多孔質ディスク・フィルタを入れた。PHBA溶液を、電気加熱テープで覆われて、補助ヒータの働きをするガラス真空トラップに通した。PHBAを、電気分解セルの中央区画に循環させた。
【0036】
カソード液は、1.5リットルの1N KOH溶液とし、これを、加熱したリザーバからカソード区画にポンプアップし、次いでリザーバに戻した。カソード液の温度は、PHBA溶液の温度と同程度に維持した。
【0037】
アノード液は、濃硫酸50mlを蒸留水900mlで希釈したものとした。この液をポンプで、リザーバからアノード区画へ、アノード区画からリザーバへと循環させた。アノード液には、別個のヒータを使用しなかった。
【0038】
p−ヒドロキシ安息香酸(PHBA)120gおよびKOH(公称でKOH85重量パーセント、水15%を含む粒剤)114.6gを水400mlに溶解して、PHBAのジカリウム塩溶液を作成した。この溶液を、セルの中央区画内で循環させ、3つの全区画の溶液を別々に循環させ、90℃に加熱した(電気分解中、カソード液の温度は88℃、中央区画溶液の温度は初め83℃、電気分解開始25分後には90℃±1℃であった)。電気分解を開始し、15A(アンペア)の定電流を維持するように電圧を変化させて電気分解を継続した。電気透析中、蒸発による損失を補うのに必要な量の水を追加した。
【0039】
電気分解中選択した時間についての経過時間と必要電圧の関係を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
図1に、電気分解時間と中央区画溶液のpHとの関係を示す。150分付近の変曲点は、zが約1.0である点、すなわち溶液中に存在する化合物がほぼPHBAのモノカリウム塩である点を表すと考えられる。電気分解時間が300分に近づくとzは、かなり小さくなっており、恐らく320分付近で中央区画の溶質は、ほとんどが純粋なPHBAとなったと考えられる。
【0042】
(比較例1)
使用した装置は、PHBA溶液のリザーバを、ホットプレート上に口を開けて置いた三角フラスコとし、PHBA溶液ラインに、フィルタおよび補助ヒータを使用しなかったことを除き、例1のものと同じものである。
【0043】
p−ヒドロキシ安息香酸(PHBA)120gおよびKOH(公称でKOH85重量パーセント、水15%を含む粒剤)114.6gを水400mlに溶解して、PHBAのジカリウム塩溶液を作成した。これを、セルの中央区画内に入れ、3つの全区画の溶液を別々に循環させた。電気分解を開始し、15A(アンペア)の定電流を維持するように電圧を変化させて、電気分解を継続した。電気透析中、蒸発による損失を補うのに必要な量の水を追加した。
【0044】
電気分解中選択した時間についての経過時間と必要電圧の関係を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
PHBAのカリウム塩の電気分解が完了する前に、セルの動作に必要な電圧が過大になり、PHBA(および/またはそのカリウム塩)溶液中に生成した結晶でセルが閉塞されたことが明らかである。
【0047】
図2に、電気分解時間と中央区画溶液のpHとの関係を示す。150分付近の変曲点は、yが約1.0である点、すなわち溶液中に存在する化合物がほぼPHBAのモノカリウム塩である点を表すと考えられる。電気分解時間が250分を超えるにつれて、yは2.0に近づいたと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】例1のデータを示したグラフであって、電気透析セルの中央の区画の溶液のpHを電気分解時間に対して示したものである。
【図2】比較例1のデータを示したグラフであって、電気透析セルの中央の区画の溶液のpHを電気分解時間に対して示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−ヒドロキシ安息香酸をそのジアルカリ金属塩から製造する方法であって、
式(OR1CO2)Ht2-tの第1の化合物の水溶液を電気透析して、式(OR1CO2)Hy2-yの第2の化合物およびMOHを生成することを含み、
上式で、
1は、p−フェニレン、
tは、0〜1.50、
Mは、アルカリ金属カチオン、
yは、1.95〜2.00であり、
yまたはtが1.0以上のとき、前記電気透析を75℃以上の温度で実施することを前提とする方法。
【請求項2】
前記アルキル金属カチオンがカリウムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の化合物中でyが1.97以上であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
tが0〜0.5であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
tが0.0であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記温度が80℃から前記水溶液の大気圧での沸点の間であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記温度が85℃から前記水溶液の大気圧での沸点の間であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記温度が80℃から前記水溶液の大気圧での沸点の間であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
遊離p−ヒドロキシ安息香酸等価物の濃度が13〜35重量%であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項10】
遊離p−ヒドロキシ安息香酸等価物の濃度が15〜30重量%であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
3区画セル内で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−79065(P2009−79065A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291974(P2008−291974)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【分割の表示】特願平9−536444の分割
【原出願日】平成9年4月7日(1997.4.7)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】