説明

siRNA発現ベクター及びそれを用いて作製したPIMT発現抑制株

【課題】 癲癇の発症機構だけでなく老化に関わる様々な障害に関する多くの知見を得るために有用なPIMT発現抑制真核細胞株の提供を目的とする。
【解決手段】プロテインL−イソアスパラギン酸メチルトランスフェラーゼ(PIMT:Protein L-isoaspartyl/D-aspartyl O-methyltransferase)の発現抑制を行うためのsiRNA発現ベクター及びこれを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換した真核細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインL−イソアスパラギン酸メチルトランスフェラーゼ(PIMT:Protein L-isoaspartyl/D-aspartyl O-methyltransferase)の発現抑制を行うためのsiRNA発現ベクター及びそれを用いて作製したPIMT発現抑制株に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質において、アスパラギンやアスパラギン酸残基は、異性化やラセミ化を非常に起こしやすく、その劣化に伴いL−イソアスパラギン酸(isoAsp)残基およびD−アスパラギン酸(D−Asp)残基が生じることが知られている。プロテインL−イソアスパラギン酸メチルトランスフェラーゼ(PIMT)は、これらの異性化したアスパラギン酸残基を特異的に認識し、S−アデノシル−L−メチオニン(AdoMet)からisoAspあるいはD−Aspへメチル基転移を行い、L−Aspへの修復反応を促進する酵素であり、種々の動物の血液細胞や脳組織などから分離され同定されている。
【0003】
従来、PIMTノックアウトマウスが、生後6週齢ほどで癲癇性の発作を起こし死亡することが知られている(非特許文献1:Kim E. et al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 94, 6132, 1997;非特許文献2:Yamamoto A. et al. J.Neurosci., 18, 2063, 1998)。また、癲癇患者の海馬中ではPIMTの酵素量が約50%程度まで低下していること、さらに細胞レベルでの解析において、PIMTを高発現させると細胞死誘導因子であるBaxを介したアポトーシスの誘導が抑制されることが報告されている。また、PIMTノックアウト大腸菌が熱や過酸化水素に対して高い感受性を示す報告もある。
【0004】
上記の報告例から、PIMTの欠損は、生体内において老化あるいはストレスにより異性化等の変性を受けた蛋白質の蓄積を生じ、その結果、細胞機能に障害をもたらすものと考えられる。この点から、老化などに伴い自発的に生じる蛋白質中のアスパラギン酸残基の異性化ないしラセミ化と蛋白質修復系酵素としてのPIMTの重要性が注目されているが、PIMT欠損により生じる障害の発症機構については、殆ど明らかになっていないのが現状である。
【0005】
このため、タンパク質の異性化とPIMTによるその修復機構が、生物学的及び病理学的にどのような意義を持っているのかについて解明が求められているが、現在までに、報告例があるのは、PIMTノックアウトマウス(上記非特許文献1、2等)、大腸菌(非特許文献3:Li C. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 Oct 15;89(20):9885-9)、及びショウジョウバエ(非特許文献4:Chavous DA. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Dec 18;98(26):14814-8. Epub 2001 Dec 11)等、個体レベルでの知見に限られており、細胞レベルにおける研究はほとんど進んでいないのが現状である。
【0006】
【非特許文献1】Kim E., et al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 94, 6132, 1997
【非特許文献2】Yamamoto A., et al. J.Neurosci., 18, 2063, 1998
【非特許文献3】Li C. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 Oct 15;89(20):9885-9
【非特許文献4】Chavous DA. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Dec 18;98(26):14814-8. Epub 2001 Dec 11
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、癲癇の発症機構だけでなく老化に関わる様々な障害に関する多くの知見を得るために有用なPIMT発現抑制真核細胞株を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、PIMTmRNAの特異的な分解を可能にするsiRNA発現系(以下、PIMTsiRNA発現ベクターという。)を構築し、それを用いてPIMT発現抑制細胞株の樹立することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のPIMTsiRNA発現ベクター及びそれを用いたPIMT発現抑制細胞株を提供する。
1.プロテインL−イソアスパラギン酸メチルトランスフェラーゼ(PIMT:Protein L-isoaspartyl/D-aspartyl O-methyltransferase)の発現抑制を行うためのsiRNA発現ベクター。
2.配列番号1及びその相補鎖である配列番号2の塩基配列と少なくとも1つのプロモーター配列を含むDNAを組み込んでなる前記1に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
3.配列番号1と配列番号2の塩基配列がループ形成配列で連結された塩基配列と少なくとも1つのプロモーター配列を含むDNAを組み込んでなる前記2に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
4.配列番号3の塩基配列と少なくとも1つのプロモーター配列を含むDNAを組み込んでなる前記3に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
5.プロモーターがH1プロモーターまたはU6プロモーターである前記2〜4のいずれかに記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
6.プロモーターがH1プロモーターである前記5に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
7.ベクターが哺乳類細胞発現用ベクターである前記1〜6のいずれかに記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
8.哺乳類細胞発現用ベクターがCMVプロモーターを除去したpcDNA3.1(+)ベクターである前記7に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
9.前記1〜8のいずれかに記載のsiRNA発現ベクターを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換した真核細胞。
10.前記1〜8のいずれかに記載のsiRNA発現ベクターを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換した哺乳類動物細胞。
11.前記1〜8のいずれかに記載のsiRNA発現ベクターを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換したヒト細胞。
12.前記1〜8のいずれかに記載のsiRNA発現ベクターを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換したヒト胎児腎由来HEK293細胞。
13.平成17年4月6日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受領番号FERM−AP−20490号として寄託された形質転換したヒト胎児腎由来HEK293細胞。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来、ほとんど研究の進んでいないの細胞レベルにおけるPIMTの研究が可能になる。このため、本発明のベクターを用いて形質転換した細胞株は、癲癇の発症機構だけでなく老化に関わる様々な障害に関する多くの研究で有用であると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
PIMTsiRNA発現ベクター
以下、PIMTmRNAのサイレンシングを行なうためのsiRNA発現ベクターについて説明する。
一般に、siRNAを発現系はタンデムタイプとステムループタイプ(ヘアピンタイプ)の2種類に大別されるが、いずれの場合にも、U6RNAあるいはH1RNAの転写系であるRNAポリメラーゼIII(PolIII)系によってsiRNAが転写される。
【0012】
タンデムタイプは2つのU6(またはH1)プロモーターを有し、センスRNAとアンチセンスRNAがそれぞれ独立に転写される。転写されたセンス及びアンチセンスRNAは、細胞内でdsRNAを形成し、siRNAとして働く。PolIII系は転写終了後におよそ4つのUを付加するため、この系で作られたsiRNAは3’側に4つのUを持つことになるが、2つのオーバーハングを持つ野生型のsiRNAと比較して細胞培養系での活性にほとんど差がない。
【0013】
一方、ステムループタイプは1つのプロモーターを有し、その下流にセンス鎖とアンチセンス鎖とをループでつないだ構造を有する。これより転写されたステムループRNA構造を有するRNA(ショートヘアピンRNA:shRNA)はダイサー(Dicer)などによりプロセシングを受け、siRNAが産生される。
いずれの場合にも、産生されたsiRNAは、RISC内でセンサーとしての役割を果たし、その配列と相補的な配列を持つRNAをターゲットとして認識する。その後、未だ同定されていないRISC内のエンドリボヌクレアーゼによってターゲットRNAが切断される。
【0014】
本発明のPIMTsiRNA発現ベクターではいずれのタイプも用いることができるが、一般的にsiRNAでは、プラスミドの濃度が低い場合にはステムループタイプの方がより高い抑制効果を示すことが知られており、また、shRNAはDicerによるプロセシングを受けてsiRNAとなるが、この場合、RISCに取り込まれやすくなることを示唆する報告もあることから、ステムループタイプのsiRNA発現系がより好ましい。
【0015】
また、前述の通り、siRNA発現ベクターにはU6プロモーターとH1プロモーターが利用可能である。これらは、それぞれ低分子核内RNA(small nuclear RNA)(U6)とヒトRNアーゼP(human RNase P)RNA H1のプロモーターであり、PolIII転写系のTypeIIIに属する。TypeIIIのプロモーターには転写に必要な保存された配列として、近位配列要素(PSE:proximal sequence element)、Staf−結合サイト、遠位配列要素(DSE:distal sequence element)、及びTATAボックスが存在する。H1プロモーターにおいてはこれらの配列が約100bp以内にあるため、このプロモーターを用いた場合にはコンパクトな構築が可能である。このため、H1プロモーターを用いてsiRNA発現ベクターを構築することが好ましい。
【0016】
siRNAによる遺伝子の抑制効果は、ターゲットサイトに非常に依存的であることが知られている。特に、安定発現細胞を作成する場合には、導入するsiRNA発現ユニットのコピー数が少ないため、効果の高いターゲットサイトの選択が特に重要である。野生型H1プロモーターの転写開始がAであることから、このプロモーターの転写開始はプリン塩基であることが望ましいとされている。また、PolIII系によって転写されるRNAは最後に約4個のUが付加されることから、配列を認識するアンチセンス鎖の最後にUUUUが付加されるため、ターゲットサイトの転写開始点に相当する塩基の前の2つはAAである方が良い。
【0017】
本発明者らは、その他の様々な要素を考慮して、ヒトPIMT(hPIMT)から配列番号1の配列を選択した。
従って、本発明の好適実施態様は、配列番号1及びその相補鎖である配列番号2の塩基配列と少なくとも1つのプロモーター配列を含むDNAを組み込んでなるPIMT発現抑制用siRNA発現ベクターを含み、特にこれら(配列番号1と配列番号2の塩基配列)がループ形成配列で連結されたステム型siRNA発現ベクターを含む。ステム型siRNA発現ベクターにおけるループ配列は限定されないが、少なくとも4以上、好ましくは7またはそれ以上のヌクレオチドを含むことができる。
従って、本発明のより好適な実施態様では、PIMT発現抑制用siRNA発現ベクターは配列番号3の塩基配列と少なくとも1つのプロモーター配列を含む。
【0018】
上述の通り、プロモーターは、通常、H1プロモーターまたはU6プロモーターであり、H1プロモーターが好ましい。
siRNAを発現させるために好適なベクターは、一般にプラスミドであり、本発明の目的に従って、siRNAに対応するDNA及び前記プロモーター配列を導入可能なものであれば特に限定されず、例えば、pcDNA3.1(+)、pcDNA3.1(−)等が挙げられる。なお、薬剤耐性遺伝子や制限酵素部位は特に限定されないのでその他、種々のプラスミドが利用可能である。但し、不要なプロモーター配列は除去する必要がある。また、pH1やpU6等のベクターは市販されており、これらを用いてもよい。
【0019】
形質転換細胞
上記ベクターを導入することにより、PIMTのmRNAが破壊されるため、PIMT遺伝子のサイレンシングが実現できる。
ベクターを導入する宿主細胞は、プロモーターの種類にもよるが、哺乳類細胞が好ましく、より好ましくは、マウスもしくはラット等の齧歯類または他の動物(例えば、ヤギもしくはウシのような他の哺乳動物または鳥類)、霊長類及び非霊長類等に由来する細胞である。
【0020】
前記H1プロモーターを用いる場合はヒト細胞が好ましいが、哺乳類細胞であれば利用可能である。ヒト細胞としては形質転換細胞が安定に培養できるものであれば特に限定されず、例えば、リンパ球、造血細胞、肝細胞、心臓細胞、血管内皮細胞、または脾臓細胞であることが可能である。好ましい細胞の例としては、ヒト胎児腎由来HEK293細胞、Hela細胞、CACO−2、Jurkat、TP−1等が挙げられる。
【0021】
本発明では、pcDNA3.1(+)からCMVプロモーターを除去し、そのマルチクローニングサイトに配列番号3の塩基配列及びH1プロモーターを含む配列を導入し、PIMT発現抑制真核細胞株(平成17年4月6日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受領番号FERM−AP−20490号として寄託された。)を得ることに成功した。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明を制限するものではない。
【0023】
実施例1
(1)H1プロモーターの作製
H1プロモーター配列を含む二本鎖DNAをPCR法により作製した。PCR産物をpT7Blue−2にTAクローニングし、プラスミドH1pro/pT7Blue−2を構築した。PCRで用いたプライマーは以下の通りである。なお、順方向プライマーの5’末端にはBamHIの認識配(GGATCC)が付加されている。それぞれのプライマー間における相補配列を下線で示した。このPCR反応においては、各プライマー内に相補配列が存在するため、互いを鋳型とした伸張反応が起こる。
H1 pro−F(順方向プライマー(配列番号4))
5'-aatatttgcatgtcgctatgtgttctgggaaatcaccataaacgtgaaatgtctttg-3'
H1 pro−R(逆方向プライマー(配列番号5))
5'-ggatccgagtggtctcatacagaacttataagattcccaaatccaaagacatttcac-3'
【0024】
(2)siRNA発現プラスミドの構築
プラスミドH1pro/pT7Blue−2の制限酵素処理(EcoRI/BamHI)によりH1プロモーター配列を含む100bpのDNA断片を回収し、このDNA断片を哺乳類細胞発現用ベクターpcDNA3.1(+)(図1参照)のマルチクローニングサイト中のEcoRI−BamHI部分と置換することにより、プラスミドpcDNA/H1proを得た。次に、pcDNA/H1proのCMVプロモーター配列を含むNheI−BglII断片を制限酵素処理により除去し、クレノー断片処理による末端の平滑化反応の後、ライゲーション反応を行い、プラスミドpcDNA/H1pro/CMV(−)を構築した(図2)。
【0025】
siRNA発現配列を含む配列(hPIMTsiRNA−F及びhPIMTsiRNA−R)を合成し、二本鎖をアニールした後にT4キナーゼによる5’末端のリン酸化処理を行った。これをpcDNA/H1pro/CMV(−)のBamHI−HIndIII部分と置換することにより、siRNA発現プラスミドhPIMTsi/pcDNA/H1pro/CMV(−)を構築した(図2)。なお、hPIMTsiRNA−FとhPIMTsiRNA−Rはアニール後、それぞれの末端がBamHI及びHIndIIIによる制限酵素処理後の突出末端と同じ配列になるようにデザインした。
【0026】
実施例2
(1)ヒト胎児腎由来培養細胞株の樹立
ヒト胎児腎由来培養細胞株(HEK293)は、終濃度10%のウシ胎児血清(FBS)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用い、37℃、5%CO2存在下で培養した。
20%コンフルエントな状態になるように6ウェルプレートに前記細胞を播種した。翌日、TransIT293を用いたリポフェクション法により、1ウェルにつき2.5μgのDNAを導入した。DNAの導入は、TransIT293のプロトコールに従い、以下の手順で行った。TransIT293試薬(Mirus社製)5μlと血清を含まないDMEM 125μlを混合し、この混合液にsiRNA発現プラスミドhPIMTsi/pcDNA/H1pro/CMV(−)2.5μgまたは空ベクターpcDNA/H1pro/CMV(−)2.5μgを加え、優しく混和し、室温で5分反応後、培地中に添加した。24〜48時間培養後G418(Promega社カタログ番号V7982)を加えた選択培地中にて培養し、形成されたコロニーを拾い培養することにより樹立した。
【0027】
(2)RNAの抽出及びノーザンブロット
10cmディッシュで100%コンフルエントな状態にまで培養した細胞より、ISOGENを用いたAGPC(Acid−Guanidium−Phenol−Chloroform)法により全RNAを調製した。
全RNAをMMFバッファー(0.02MMOPS、5mM酢酸ナトリウム、1mMEDTA、25%ホルムアルデヒド、50%ホルムアミド)に溶解し、65℃、15分の反応によりRNAの高次構造を変性した後、直ちに氷上にて急冷した。変性アガロースゲル(0.02MMOPS、5mM酢酸ナトリウム、1mMEDTA、18%ホルムアルデヒド、1%(w/v)アガロースME)を用いて、20μg/レーンの全RNAを100Vで2時間電気泳動した。泳動後のゲルをエチジウムブロマイド染色液(1μg/mLエチジウムブロマイド、50mM水酸化ナトリウム)及び中和・脱色液(200mM酢酸ナトリウム;pH4.0)に連続的に浸透した後、ゲル内のRNを10×SSC(167mMクエン酸ナトリウム、167mM塩化ナトリウム;pH7.0)中にてナイロントランスファーメンブレンNitranNに毛細管現象により転写した。これを2×SSC(pH7.0)で洗浄した後、自然乾燥に引き続くUVクロスリンカーを用いた0.120Jule/cm2のUV照射により、転写されたRNAをメンブレンに固定した。
【0028】
DIG Easy Hyb Granules中での68℃、1時間の振とうによりプレハイブリダイゼーションを行った後、終濃度100ng/mLのアルカリ感受性ジゴキシゲニン標識hPIMT RNAをプローブとして添加したDIG Easy Hyb Granules中での68℃、一晩の振とうによりハイブリダイゼーションを行った。洗浄バッファー1(2×SSC、0.1%SDS)を用いて室温で5分の洗浄を3回行い、さらに洗浄バッファー2(0.1×SSC;pH7.0、0.1%SDS)を用いて68℃で15分の洗浄を3回行った。次に、マレイン酸バッファー(0.1Mマレイン酸、0.15M 塩化ナトリウム;pH7.5)に1分間浸し、これをブロッキングバッファー(Blocking solutionをマレイン酸バッファーで1/10に希釈した溶液)を用いて室温で30分間ブロッキングした後、抗体溶液(750U/mLのアルカリフォスファターゼ標識羊由来抗ジゴキシゲニンFabフラグメントをブロッキングバッファーで1/10,000に希釈した溶液)中で室温30分間反応させた。洗浄バッファー3(0.3%Tween20、0.1Mマレイン酸、0.15M塩化ナトリウム;pH7.5)で15分の洗浄を3回行い、アルカリバッファー(0.1MTris−HCl、0.1MNaCl;pH9.5)に2分間浸とうした。その後、アルカリフォスファターゼの化学発光基質であるCSPDとの反応後に、X線フィルムを用いて、プローブと反応するバンドを検出した。
【0029】
結果を図3に示す。なお、図3においてNT HEKは、本発明の発現ベクターをトランスフェクトしていないHEK293細胞による結果であり、Empty vectorはCMVプロモーターを除去したのみのpcDNA3.1(+)ベクター(空ベクター)を導入したHEK293細胞(対照)による結果である。これらの例も20μg/レーンの全RNAを含む。対照でも、ベクターの導入操作を行っていないHEK293細胞と同等な量のPIMTmRNAが確認されており、本発明の細胞株によるPIMTmRNAの著しい減少はRNAiの結果であることがわかる。
また、細胞を遠心分画し、抗PIMT抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った結果、細胞質画分においてPIMTタンパク質の発現減少が確認された(図4)。
【0030】
以上の結果から、本発明によれば、siRNAによってPIMT発現の抑制された細胞株が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明で用いるpcDNA3.1(+)の遺伝子マップを示す図である。
【図2】本発明で用いるpcDNA3.1(+)への導入及び発現後のステム型siRNAを示す模式図である。
【図3】野生型HEK293細胞(図中:NT HEK)、CMVプロモーターを除去したのみのpcDNA3.1(+)ベクターを導入したHEK293細胞(図中:対照)、本発明によりsiRNA発現ベクターを導入した細胞(図中:siRNA。2回の結果を示す)におけるヒトPIMT(hPIMT)、GAPDH(結果を正規化するため)、各rRNAのノーザンブロッティングの結果を示す写真。
【図4】図3と同様の実験において、野生型HEK293細胞(図中:NT HEK)、CMVプロモーターを除去したのみのpcDNA3.1(+)ベクターを導入したHEK293細胞(図中:EV)、本発明によりsiRNA発現ベクターを導入した細胞(図中:siRNA。2回の結果を示す)におけるヒトPIMT(hPIMT)、GAPDH(結果を正規化するため)の細胞質(cytosol)、膜(membrane)、ミトコンドリア(mito)の各画分についてのノーザンブロッティングの結果を示す写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインL−イソアスパラギン酸メチルトランスフェラーゼ(PIMT:Protein L-isoasparty/D-aspartyl O-methyltransferase)の発現抑制を行うためのsiRNA発現ベクター。
【請求項2】
配列番号1及びその相補鎖である配列番号2の塩基配列と少なくとも1つのプロモーター配列を含むDNAを組み込んでなる請求項1に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
【請求項3】
配列番号1と配列番号2の塩基配列がループ形成配列で連結された塩基配列と少なくとも1つのプロモーター配列を含むDNAを組み込んでなる請求項2に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
【請求項4】
配列番号3の塩基配列と少なくとも1つのプロモーター配列を含むDNAを組み込んでなる請求項3に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
【請求項5】
プロモーターがH1プロモーターまたはU6プロモーターである請求項2〜4のいずれかに記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
【請求項6】
プロモーターがH1プロモーターである請求項5に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
【請求項7】
ベクターが哺乳類細胞発現用ベクターである請求項1〜6のいずれかに記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
【請求項8】
哺乳類細胞発現用ベクターがCMVプロモーターを除去したpcDNA3.1(+)ベクターである請求項7に記載のPIMT発現抑制用siRNA発現ベクター。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のsiRNA発現ベクターを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換した真核細胞。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のsiRNA発現ベクターを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換した哺乳類動物細胞。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載のsiRNA発現ベクターを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換したヒト細胞。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載のsiRNA発現ベクターを導入してPIMT発現抑制用siRNAを産生するように形質転換したヒト胎児腎由来HEK293細胞。
【請求項13】
平成17年4月6日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受領番号FERM−AP−20490号として寄託された形質転換したヒト胎児腎由来HEK293細胞。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−288263(P2006−288263A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112635(P2005−112635)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月9日 第48回日本薬学会関東支部大会実行委員会、日本薬学会関東支部第18回シンポジウム実行委員会発行の「第48回 日本薬学会関東支部大会、日本薬学会関東支部 第18回シンポジウム 講演要旨集」に発表
【出願人】(598041566)学校法人北里学園 (180)
【Fターム(参考)】