説明

エレベータ用機械室の防音装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ロープ巻き上げエレベータのエレベータ用機械室の防音装置に係り、さらに詳しくは、巻き上げ機等が設置された最上階の機械室から外部に漏洩し、かつ、巻き上げ機等の回転駆動に伴う振動に起因する騒音を低減するようにしたエレベータ用機械室の防音装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、エレベータまたはリフトとは、電力等の動力を用いて人や貨物を上下に運搬する装置である。このエレベータの基本的な構成は、図17に示すように建物の最上階の機械室10に設置される巻き上げ機11、メインシーブ12、減速機、調速機および電磁装置等を有する制御装置13、巻き上げ機11、メインシーブ12および制御装置13等を支持するダンパ装置14、建物の各階を貫いて上下に長く設けられた昇降路15内に位置するとともに上記メインシーブ12に巻き回されたロープ16の両端に取り付けられ上下に走行する乗りかご17および釣り合い錘18、その他乗りかご用および釣り合い錘用ガイドレール(図示せず)等より構成されている。
【0003】上記機械室10の床19には少なくとも2つのロープ16、16を貫通させるロープ貫通孔20、20が設けられ、前記メインシーブ12に巻き回されたロープ16がこのロープ貫通孔20、20を介して上記乗りかご17および釣り合い錘18に固定されている。このロープ16、16はロープ貫通孔20、20を上下両方向に移動するときに、このロープ貫通孔20、20の中で多少の揺れが生じる。
【0004】従って、各階のエレベータホール21の乗降口22に近接して設けられた操作盤(図示せず)からの指令に基づき乗りかご17が駆動されたときに、前記巻上げ機11のモータ(図示せず)が前記メインシーブ12を回転させることにより機械室10内には振動騒音が発生し、この振動騒音は上記ロープ貫通孔20、20を介して下方向に伝わることとなり、昇降路15内、更には乗りかご17内にまで騒音が伝えられることになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】この振動騒音の伝播を防止する方法としては例えば実開昭57−106670号公報に記載されたようなものがある。この振動騒音防止方法の概略を図18により示すと、巻き上げ機11等が設置されている機械室10の下側は床19を介して昇降路15が形成されており、この昇降路15に連なる各階のエレベータホール21の乗降口22にはドア23が設けられている。このドア23が開放されると、乗降口22を介して乗りかご17は各階のエレベータホール21に連通することになる。
【0006】この様な構成を有するエレベータにおいて、制御装置13と床19との間にダンパ装置14に支持された振動騒音防止装置25を取り付けるとともにこの振動騒音防止装置25にはロープ16、16を取り巻きこのロープ16、16の揺動を許す必要最低限の間隙26を置いて取り付けらた環状の吸音材27を備えた円筒状の防音ダクト28が設けられ、昇降路15、乗りかご17およびエレベータホール21等の方向に振動騒音が漏洩しないように構成している。
【0007】しかしながら、上記構成の振動騒音防音装置25を設置したとしても、ロープ16、16が昇降移動する際に前記ロープ貫通孔20、20を介して巻き上げ機11の駆動に起因する振動騒音が昇降路15、乗りかご17およびエレベータホール21等の方向に伝播してしまうという問題があった。
【0008】このロープ貫通孔20、20から漏出する振動騒音を完全に防止することは難しいために、従来は、上記振動騒音防音装置25の外に巻き上げ機11自身の振動を抑制する種々対策も考えられている。すなわち、巻き上げ機11内のモータの外壁に吸音部材を巻き付けたり、モータ支持部に吸音用のラバー部材を取り付け、このラバー部材を介してボルト等によりモータを固定したり、更にモータの出力軸とメインシーブ12との間の軋み等を防止するため歯車等の連結部材を高精度にしたりしている。このようにして振動を外部に伝播するのを防止するようにしているが、機械室10内の巻き上げ機11等にこれらの防音手段を施すことは、装置を大型化することになり機械室10の有効スペースを狭くするだけでなく、エレベータ製造コストの増大を招くという問題を新たに発生させてしまう。
【0009】本発明は、上記問題を解決するために、機械室内の装置や機器の大型化およびコストの低減を抑制しつつ、巻き上げ機等から発生する振動騒音の昇降路、乗りかごおよびエレベータホール等に伝播することを防止するようにしたエレベータ用機械室の防音装置を得ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、建造物の上層階の機械室に設置される巻き上げ機と、この巻き上げ機に巻き込まれ機械室の床を貫通するロープ貫通孔を通して乗りかごを昇降させるロープと、前記巻き上げ機を含む前記機械室内の振動騒音源の近傍に取り付けられてこれらの振動を検出する振動検出器と、この振動検出器により検出された振動に基づき前記ロープ貫通孔から前記乗りかごの昇降路に漏れ出る振動騒音の周波数およびその位相を予測する騒音予測器と、この騒音予測器により予測された騒音波形の位相と逆位相を有する騒音打ち消し用の音信号を生成する音信号生成器と、前記ロープ貫通孔の近傍に設けられるとともに前記音信号生成器により生成された騒音と逆位相の騒音打ち消し音の音信号を実際の音に変換する打ち消し音発生器とを具備したものである。
【0011】また、前記音発生器は、前記振動騒音源から前記ロープ貫通孔に向かって発せられる3次元の騒音を2次元の平面波に変換するための防音ダクトの内部に設けられ、2次元の前記平面波よりなる騒音と逆位相の騒音打ち消し用平面波を発生させるスピーカを具備したものである。
【0012】さらにまた、前記音発生器は、前記振動騒音源より3次元波として前記ロープ貫通孔に伝播される振動騒音を打ち消すために、前記ロープ貫通孔の近傍に複数の騒音源に向けて多数、かつ多方向を向けて設置された複数個のスピーカを具備したものである。
【0013】
【作用】エレベータの巻き上げ機が運転されたときに、この巻き上げ機内のモータが回転駆動され、電磁ブレーキ等の磁気装置も作動させられ、更に減速機の歯車等が作動して、ロープが巻き回され乗かごが昇降させられる。この乗かごがの昇降により、機械室の巻き上げ機、モータ、磁気装置、減速機等に基づく振動騒音が発生し、この騒音がロープ貫通孔を介して昇降路内に伝播させられる。 この振動騒音は、振動検出器により検出され、騒音予測器、音信号生成器等を介して振動検出信号として出力される。前記騒音予測器は、振動検出信号に基づいてロープ貫通孔を通過するであろう振動騒音を予測して算出する。この振動騒音は、分類されて所定の騒音パターンとして特定される。
【0014】この騒音パターンは騒音予測器算出回路に送られ、演算して発生予想騒音の騒音波形が予測され、この波形が音信号生成回路に供給される。音信号生成回路は、入力された予測騒音波形の位相を分析してこの位相と逆位相の音信号を生成する。この逆位相の音信号は、音発生ユニットに供給され、ここで逆位相の音信号から実際の音に変換されて、ロープ貫通孔の近傍から振動騒音の発生源に向けて出力される。
【0015】このような作用により、ロープ貫通孔の近傍から振動騒音の発生源に向けて出力され、騒音波形が打ち消され、ロープ貫通孔を介して昇降路および乗りかご等に伝わる振動騒音が大幅に減少させる。また、昇降路内に伝播される振動騒音が減少することにより、各階のドアを介して各階のエレベータホールに伝播される騒音も少なくなり、建物を利用する人達の全員が快適感を得ることができる。
【0016】また、ロープ貫通孔から昇降路等に発せられる3次元の騒音は2次元の平面波に変換され、この2次元の平面波の騒音をスピーカにより逆位相の打ち消し音を発生させ、エレベータホール等に騒音が伝播しないようにする。さらにまた、逆位相の打ち消し音を発生させ、複数のスピーカにより発生させ、エレベータホール等に騒音の伝播を少なくする。
【0017】
【実施例】以下、この発明に係るエレベータ用機械室の防音装置の一実施例について、添付図面により詳細に説明する。図1乃至図16は、本発明エレベータ用機械室の防音装置の一実施例およびその変形実施例を示すが、図17、18に示した従来のエレベータ用機械室および従来のエレベータ用機械室の防音装置と基本的に同様な機構であるので同一部分は同一符号を付しその詳細な説明は省略する。
【0018】図1は、エレベータ用機械室の防音装置の基本的構成を示すものであって、その防音装置は、巻き上げ機11に取り付けられた振動検出器30と、この振動検出器30の検出した振動に基づいてロープ貫通孔20、20を介して昇降路15に漏れ出る振動騒音を演算するとともにこの振動騒音と逆位相の騒音打ち消し用の音信号を生成する演算装置31と、この演算装置31により演算生成された音信号を増幅して出力する増幅器32と、そして、エレベータの機械室10の床19に設置されたダンパ装置14に取り付けるとともにこのダンパ装置14の内部に前記ロープ16、16を挟んで対向して配置され、前記増幅器32の増幅出力に基づいて騒音打ち消し用の実際の音を発生させるスピーカ33、33とにより構成されている。
【0019】前記振動検出器31は、基本的には図示しないモータの振動を検出するが、こればかりでなく制御装置13内の電磁ブレーキ等の磁気装置の磁気振動や、調速機の歯車の噛み合い振動等も同時に検出する。演算装置31は、ロープ貫通孔20、20から昇降路15に漏れ出る予測振動騒音を算出する騒音予測器と、予測された騒音を打ち消すためにこの騒音の位相と逆位相の音信号を生成する逆位相音信号生成器とにより構成される。
【0020】スピーカ33、33は、騒音波形と逆位相の音信号に基づいて騒音を打ち消すための実際の音を発生させて発生源に向けて送り出すものである。このスピーカ33、33の音によりロープ貫通孔20、20から昇降路15等に漏れる騒音を打ち消し、昇降路15等に漏れ騒音を低減させる。このような構成に基ずきスピーカ33、33の音をロープ貫通孔20、20に導かないように打ち消したものが図2である。すなわち、ロープ貫通孔20、20に近接するダンパ装置14にはロープ16、16を取り巻きくとともに上部には孔34、34を有するほぼ環状の防音ダクト35、35を設けている。この防音ダクト35、35の下部には上方を向いて取り付けられるとともに前記増幅器32の増幅出力に基づいて騒音打ち消し用の実際の音を発生させるスピーカ36が取り付けられるている。
【0021】このようにすることにより、防音ダクト35、35の孔34、34から送られてくる巻き上げ機11等の3次元の振動騒音が防音ダクト35、35により可能な限り平面波に形成される。この防音ダクト35、35内部の平面波はスピーカ36、36から発生する逆位相波形の音信号により実際の打ち消し音を発生させている。
【0022】図3は、図2の演算装置31の動作を示すフローチャ−トである。すなわち、演算装置31は、ステップST1において振動センサの検出装置30から検出される検出出力の有無が判断される。もし、この検出出力が無い場合にはエレベータが駆動されてモータ、電磁ブレーキおよび調速機等の振動騒音が検出されるまで待の状態となる。もし、検出装置30の検出出力が有る場合には、ステップST2において、演算装置31の騒音予測器が入力された振動値に基づいてロープ貫通孔20、20の近傍において発生する恐れのある平面波形の振動騒音を予測する。この予測振動騒音は、後述する図5R>5乃至図15を参照すれば明らかなように、エレベータの乗りかご17の上向または下向もしくは乗員の積載割合等により幾つかの典型的な波形を予測し得るので検出された振動値に応じてその予測波形が出力される。
【0023】この予測振動騒音は、ステップST3において、防音ダクト35、35やダンパ装置14等を設けたことによる機械室10内に発生する振動の減衰や伝播遅れ等の有無が判断される。これらの減衰および遅れ等が生じる場合には、ステップST4において、減衰および/または遅れによる修正値が算出される。ステップST4において修正値が算出された場合、または、ステップST3において減衰等が無いものと判断された場合には、ステップST5において、演算装置31の騒音予測器がロープ貫通孔20、20から昇降路15に漏れ出る最終的な予測振動騒音量を推定する。
【0024】予測装置により振動騒音量が推定されると、ステップST6において、演算装置31の音信号生成器が推定した騒音量に相当する位相を作成した後、ステップST7において、騒音に相当する位相と逆位相の音信号を生成し、この信号を増幅器32に出力する。
【0025】音信号を受け入れた増幅器32は、実際に騒音を打ち消す音を発生させるために所定の出力となるまでこの信号を増幅してスピーカ36、36に出力する。スピーカ36、36は、この増幅信号に基づいて騒音を打ち消す打消し音を発生させる。この打消し音は、防音ダクト35、35内において上方から昇降路15方向に向かう平面波にぶつかるように上方に向かうとともに騒音による平面波を打ち消すような逆位相波形の平面波となっている。従って、巻き上げ機11のモータ等が駆動されたときに発生する振動騒音は打消しまたは低減される。
【0026】上記実施例において、実際にエレベータの機械室10を中心に発生する振動騒音の状態を説明するために、図4乃至図15が示されている。図4乃至図6は、機械室10内に巻き上げ機11に付属して設けられてい減速機または調速機の振動騒音を周波数分析したものであり、図4は、機械室10における減速機等のいわゆる暗騒音を振動周波数とデシベルレベルとの相関の下に示したものである。ここで暗騒音とは、ある音(この場合調速機等の振動騒音)を対象として考える場合にその音が無い時のその場所における騒音を対象騒音に対して呼ぶ場合の騒音をいう。暗騒音が大きいと測定値が影響を受け、暗騒音が対象の音よりも10db以上小さければ、その影響は余りない。
【0027】図5は、減速機等の横側における振動騒音の実測値を示しており、エレベータは軽負荷の積載で下降方向に正転走行しており、かつ、減速機等は防振ゴム上に取り付けられている。測定値によれば、280Hz、400Hzおよび565Hz等の幾つかのピークが見られるが、最大ピークは750Hzとなっており、これらのピーク値において逆位相の音を騒音の打消し用に生成すればよい。図6は、同じく減速機振動の実測値を示しており、同じく正転軽負荷時におけるギヤケースの上における振動である。この場合、ギヤケースは防振ゴム上に設けられておらず、図中に書き入れた幾つかのピーク値を有しているが、最大ピーク値は図4と同様に565Hzである。
【0028】次に、図7乃至図9を参照しながら、減速機振動の時間に対する振動レベルの変化を説明する。図7R>7は、乗りかご16内の積載負荷が無い場合の下降時および上昇時の振動を加速度により表示している。また、図8は乗りかご16内の積載負荷が100%の場合の下降時および上昇時の振動を加速度により示している。さらに、図9は、乗りかご16内の積載負荷が45%で、釣り合い錘17と乗りかご16との間に均衡がとれた状態におけるエレベータの下降時および上昇時の振動を加速度により示している。これらの3図より分かることは、振動騒音レベルとしては、乗りかご16内の積載量の大小およびかごの上昇または下降に拘らず、加速度でおよそ300gal付近に振動のピークが見られる。
【0029】次に、図10乃至12は、機械室内の巻き上げ機11のモータの振動騒音をdbの時間変化として測定したものであり、図10は無負荷走行時の騒音レベルの時間変化、図11は平衡負荷走行時の騒音レベルの時間変化、そして図12は全負荷走行時の騒音レベルの時間変化をそれぞれ示している。異なる走行状態においても、エレベータの下降時および上昇時の騒音レベルは60乃至80dbで推移しており、これらの振動騒音を打ち消す際の打消し音の合成も幾つかの典型的な逆位相の波形を有するものを用意しておけば良いことが分かる。
【0030】最後に、エレベータの乗りかご16内の実測騒音レベルが、図13乃至図15に示されている。乗りかご16内における振動騒音は、乗りかごの上昇および下降時に機械室から洩れてくるものよりも、乗りかご16のドア23の開閉により発生するものの方が遥かに大きな振動騒音であることが分る。因みに、乗りかご16内においては、機械室10から洩れてくる振動騒音はピーク時で54dbから58db程度であるにも拘らず、ドア23の開閉に際しては60乃至80db程度もあり、ドア23の開閉に伴う振動騒音の方が大きい。しかしながら、この様な騒音が記録される乗りかご16内においても、この発明に係る防音装置を取り付けることにより少なくともエレベータの下降時および上昇時に機械室10から洩れ出てくる振動騒音だけは打ち消すことができるので、ドアの開閉との間に連続的に記録されている騒音をドアの開閉動作間のみでも低減させることが可能となる。
【0031】次に、この発明に係るエレベータ用の防音装置の他の実施例について、図16を用いて説明する。この実施例では、振動騒音と逆位相の打消し音を3次元波により合成して振動騒音源に向けて出力する点で前記実施例の平面波を用いるものと異なっている。
【0032】すなわち、図16に示すように、防音ダクト35、35およびスピーカ36、36に代えて、複数のスピーカ44を騒音源となり得る機械室10内のあらゆる方向を向けてロープ貫通孔20、20の近辺に多数配置する。この実施例においては一応4つの方向に向けてそれぞれ2つずつ1つのロープ貫通孔20に対して合計8つずつのスピーカ44が、全部で16個設けられている。これら16個のスピーカ44により振動騒音と逆位相の打消し音が発せられて、ロープ貫通孔20、20を通過しようとする振動騒音が打ち消されることになる。その他の構成、特に演算装置の構成については、打消し音が平面波から3次元波に変更された点以外は前記実施例のそれと同じであるので、図3乃至図15に相当する動作及び効果の説明は省略する。
【0033】なお、この実施例の防音装置の場合、設置されるスピーカ44の数および設置方向等については、それぞれの機械室10の配置に対応させて、実験結果から得られたデータに基づいてより効果的な振動騒音の消音が行えるものに設定すれば良い。また、巻き上げ機11の制御盤に供給される各種の検出信号を演算装置31に供給するようにして、これらの制御要素を振動騒音の消音動作に流用するようにしても良い。
【0034】なお、上記2の実施例において、振動検出器30としては加速度,速度又は変位を検出することにより、それぞれ加速度,速度又は変位量に比例した電圧を発生させて振動を検知する一般的な振動ピックアップを用いるようにしている。例えば、振動検出器として加速度ピックアップを用いた場合、ばね質量系(ダイナモ系)を内蔵した圧電型ピックアップより構成されている。このタイプにおいては、圧電素子がばねの役割を担当しているため固有振動数が10KHz以上にあるため、それより充分に低い周波数領域で加速度ピックアップとして働くことになる。
【0035】また、演算装置31としては、検出された振動波形に基づいてこの振動より生起される騒音の位相を予測し得るものであれば、従来のアナログ式周波数分析器であろうと、高速フーリエ変換FFTを用いたディジタル式周波数分析器であろうと、またA/Dコンバータを用いてコンピュータにより振動波形を数値化してパワースペクトラムを算出するものであろうと、如何なるものでも実施化が可能である。
【0036】前記アナログ式周波数分析器は、振動の波形データをデータレコーダ等から再生しながら、帯域フィルタ群を通して各周波数帯域に存在する成分の実効値を測定するもので、用いられる帯域フィルタのタイプにより、定比帯域周波数分析器と、定帯域周波数分析器とに分類される。特に機械振動の測定および分析には、周波数を細かい分解能で分析できる定帯域周波数分析器が適しており、この定帯域分析器は帯域フィイルタ群の中心周波数が等差数列となったヘテロダイン方式を用いて作られている。
【0037】前記ディジタル式周波数分析器は、一定時間毎にサンプルされディジタル化された波形データをフーリエ変換FFTして、等差数列状に並んだ周波数におけるパワースペクトラムを求めるものである。フーリエ変換には前記FFTが用いられている。市販のディジタル式周波数分析器はディジタルトランジェントメモリと一体となっており、FFTアナライザ、スペクトラムアナライザ等と呼ばれている。これらのアナライザはディジタル信号処理を行っているので、他の様々な解析も容易に行うことができる。
【0038】前記コンピュータ援用周波数分析器は、アナログデータをディジタル数値データに変換するアナログ/ディジタル変換器(A/Dコンバータ)をコンピュータの拡張バスに増設し、内蔵または外部プログラムにより、前記A/Dコンバータを動作せしめる。波形データは、一定時間毎に数値データに変換されてコンピュータの内蔵または付属のメモリ内のユーザ領域に格納される。このデータをプログラムの配列要素に入れて所定のプログラムによりFFTを行うことによりスペクトラムが求められる。
【0039】
【発明の効果】以上の各種の方法または装置を用いて本発明は、建造物の上層階の機械室に設置される巻き上げ機と、この巻き上げ機に巻き込まれ機械室の床を貫通するロープ貫通孔を通して乗りかごを昇降させるロープと、前記巻き上げ機を含む前記機械室内の振動騒音源の近傍に取り付けられてこれらの振動を検出する振動検出器と、この振動検出器により検出された振動に基づき前記ロープ貫通孔から前記乗りかごの昇降路に漏れ出る振動騒音の周波数およびその位相を予測する騒音予測器と、この騒音予測器により予測された騒音波形の位相と逆位相を有する騒音打ち消し用の音信号を生成する音信号生成器と、前記ロープ貫通孔の近傍に設けられるとともに前記音信号生成器により生成された騒音と逆位相の騒音打ち消し音の音信号を実際の音に変換する打ち消し音発生器とを具備したものであるから、振動騒音源から発せられる振動騒音を逆位相の打ち消し音により消去もしくは低減させ昇降路、乗りかご、エレベータオール等に伝達される騒音を低下させることができる。
【0040】また、前記音発生器は、前記振動騒音源から前記ロープ貫通孔に向かって発せられる3次元の騒音を2次元の平面波に変換するための防音ダクトの内部に設けられ、2次元の前記平面波よりなる騒音と逆位相の騒音打ち消し用平面波を発生させるスピーカを具備したものであるから、振動騒音が逆位相の打ち消し音のスピーカの音により低減させ、昇降路、乗りかご、エレベータオール等に伝達される騒音を低下し、乗客等に不快感を除去させることができる。
【0041】さらにまた、前記音発生器は、前記振動騒音源より3次元波として前記ロープ貫通孔に伝播される振動騒音を打ち消すために、前記ロープ貫通孔の近傍に複数の騒音源に向けて多数、かつ多方向を向けて設置された複数個のスピーカを具備したものであるから、振動騒音源から発生する3次元波が逆位相の打ち消し音を発生する複数の直接にのスピーカにより低減させ、昇降路、乗りかご、エレベータオール等に伝達される騒音を低下し、乗客等に不快感を除去させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明エベータ用機械室の防音装置の基本的構成を示すブロック線図。
【図2】図1を具体化した本発明エベータ用機械室の防音装置を示すブロック線図。
【図3】図2の防音装置の動作を説明するためのフローチャート。
【図4】エベータ用機械室内の減速機等の騒音特性図。
【図5】エベータ用機械室内の減速機等の騒音特性図。
【図6】エベータ用機械室内の減速機等の騒音特性図。
【図7】エベータ用機械室内の減速機振動の加速度レベルと時間との相関特性図。
【図8】エベータ用機械室内の減速機振動の加速度レベルと時間との相関特性図。
【図9】エベータ用機械室内の減速機振動の加速度レベルと時間との相関特性図。
【図10】エベータ用機械室内のモータの騒音特性図。
【図11】エベータ用機械室内のモータの騒音特性図。
【図12】エベータ用機械室内のモータの騒音特性図。
【図13】エベータ用機械室内の乗りかごの騒音特性図。
【図14】エベータ用機械室内の乗りかごの騒音特性図。
【図15】エベータ用機械室内の乗りかごの騒音特性図。
【図16】他の実施例を示す本発明エベータ用機械室の防音装置を示すブロック線図。
【図17】従来のエベータ用機械室の防音装置を示すブロック線図。
【図18】従来のエベータ用機械室の防音装置を示すブロック線図。
10 機械室
11 巻き上げ機
12 メインシーブ
13 制御装置
15 昇降路
16 ロープ
17 乗りかご
18 錘り
19 床
20 ロープ貫通孔
21 エベータホール
22 乗降口
23 ドア
25 振動騒音防止装置
27 吸音材
28 防音ダクト
30 騒音検出器
31 演算装置
32 増幅器
33 スピーカ
34 孔
35 防音ダクト
36 スピーカ
44 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】建造物の上層階の機械室に設置される巻き上げ機と、この巻き上げ機に巻き込まれ機械室の床を貫通するロープ貫通孔を通して乗りかごを昇降させるロープと、前記巻き上げ機を含む前記機械室内の振動騒音源の近傍に取り付けられてこれらの振動を検出する振動検出器と、この振動検出器により検出された振動に基づき前記ロープ貫通孔から前記乗りかごの昇降路に漏れ出る振動騒音の周波数およびその位相を予測する騒音予測器と、この騒音予測器により予測された騒音波形の位相と逆位相を有する騒音打ち消し用の音信号を生成する音信号生成器と、前記ロープ貫通孔の近傍に設けられるとともに前記音信号生成器により生成された騒音と逆位相の騒音打ち消し音の音信号を実際の音に変換する打ち消し音発生器とを具備したことを特徴とするエベータ用機械室の防音装置。
【請求項2】前記音発生器は、前記振動騒音源から前記ロープ貫通孔に向かって発せられる3次元の騒音を2次元の平面波に変換するための防音ダクトの内部に設けられ、2次元の前記平面波よりなる騒音と逆位相の騒音打ち消し用平面波を発生させるスピーカを具備したことを特徴とする請求項1記載のエレベータ用機械室の防音装置。
【請求項3】前記音発生器は、前記振動騒音源より3次元波として前記ロープ貫通孔に伝播される振動騒音を打ち消すために、前記ロープ貫通孔の近傍に複数の騒音源に向けて多数、かつ、多方向を向けて設置された複数個のスピーカを具備したことを特徴とする請求項1記載のエレベータ用機械室の防音装置。

【図4】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図11】
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【図3】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図16】
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【図18】
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【特許番号】第2772149号
【登録日】平成10年(1998)4月17日
【発行日】平成10年(1998)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−34383
【出願日】平成3年(1991)2月28日
【公開番号】特開平4−213589
【公開日】平成4年(1992)8月4日
【審査請求日】平成9年(1997)2月27日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【参考文献】
【文献】特開 昭54−107301(JP,A)
【文献】特開 平4−209188(JP,A)
【文献】実開 昭57−106670(JP,U)
【文献】実公 昭49−30190(JP,Y1)