説明

ガス分析装置及び水素炎イオン化検出器の制御方法

【課題】
ランニングコストや安全性の面での問題を解決し、かつ軽量化、コンパクト化が可能で相対感度も担保できる水素炎イオン化検出器を含んだガス分析装置を提供する
【解決手段】
サンプルガスと燃料ガスとを混合して燃焼室51で燃焼させ、その際に生じるイオン電流をコレクタ52で検出するようにした水素炎イオン化検出器5に対し、燃料ガスとして略100%の濃度の水素ガスを供給するとともに、前記燃焼室内の圧力を大気圧より低く制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排気ガス等のサンプルガスに含まれる炭化水素成分を主として分析するガス分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素炎イオン化検出器とは、周知の通り、炭化水素を含むサンプルガスに水素含有ガスを混合し、そのガスを電場をかけた燃焼室内で燃焼させることにより、イオン化し、そのイオン化された炭化水素をコレクタ電流として捉え、その電流値を計測することでサンプルガス中の炭化水素濃度を検出できるようにしたものである。具体的には、燃焼炎を挟んで定電圧を印加した一対の電極を対向させておき、その一方の電極であるコレクタ電極に、炭化水素の炭素数に比例した微少イオン電流、すなわちコレクタ電流が流れるように構成している。なお、炭化水素が水素炎中でイオン化されるイオン生成機構については炭素凝集説や化学イオン説などがあり、いまだ十分には解明されていない。
【0003】
ところで、水素炎イオン化検出器は、同一種類の炭化水素の濃度(炭素原子数)には比例するが、異種の炭化水素については、分子内炭素数が比例しないことがある。具体的には同じ濃度のCとCHを同一の水素炎イオン化検出器で測定すれば、本来Cの測定値は、CHの測定値の3倍となるはずであるが、実際には、それから若干ずれる。この際を通常、炭化水素の相対感度と称している。
【0004】
しかして、従来の水素炎イオン化検出器では、特許文献1に示すように、前記相対感度を向上させるべくコレクタ形状等に工夫がなされている。また燃料ガスとしては、例えば水素40%、ヘリウム60%に調整した混合ガスを用いている。このような混合ガスを用いるのは、燃料ガスに純粋な水素ガス(水素100%)を用いると、相対感度が悪くなり測定精度に悪影響を及ぼす傾向があるからである。
【0005】
しかしながら、長時間水素炎イオン化検出器を動作させる場合や、車両などに搭載する場合は、燃料ガスに前述したような水素40%、ヘリウム60%の混合ガスを用いると、必ずボンベを搭載しなければならなくなり、そうするとランニングコストや安全性の面で問題が生じ得、また軽量化やコンパクト化の点でも制限が生じる。
【特許文献1】特開平10−123095
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、ランニングコストや安全性の面での問題を解決し、かつ軽量化、コンパクト化が可能で相対感度も担保できる水素炎イオン化検出器を含んだガス分析装置等を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係るガス分析装置は、サンプルガスと燃料ガスとを混合して燃焼室で燃焼させ、その際に生じるイオン電流をコレクタで検出するようにした水素炎イオン化検出器と、その水素炎イオン化検出器に燃料ガスとして略100%の濃度の水素ガスを供給する燃料ガス供給部と、前記燃焼室内の圧力を大気圧より低く制御して前記水素炎イオン化検出器の相対感度を向上させる相対感度制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る水素炎イオン化検出器の制御方法は、サンプルガスと燃料ガスとを混合して燃焼室で燃焼させ、その際に生じるイオン電流をコレクタで検出するようにした水素炎イオン化検出器に対し、燃料ガスとして略100%の濃度の水素ガスを供給するとともに、前記燃焼室内の圧力を大気圧より低く制御するようにしたことを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、約100%の水素ガスを燃料ガスとして用いても、十分な相対感度を担保できる。またこのように相対感度を維持しつつ100%の水素ガスを用いることができることから、燃料ガス供給部として、ボンベに限定されることなく、水素発生器などのデバイスを用いることができるようになり、ランニングコストや安全性の面での問題を解決し、かつ軽量化、コンパクト化が可能となる。
【0010】
ISO8187の規格を満たす相対感度を担保するには、相対感度制御手段が、燃焼室内の圧力を約−25kPa以下に制御するものであることが好ましい。
【0011】
具体的な実施態様としては、サンプルガスとして内燃機関から排出される排気ガスを導入し、炭化水素濃度(量)を測定するようにしているものを挙げることができる。
【0012】
本発明の効果をより顕著とするには、車両搭載型であるものが望ましい。ボンベのような重いものを搭載し、車両に必要以上の重量がかかると走行負荷が大きくなり、通常の走行時に排出される排気ガスの状態とは異なる排気ガスが排出されて排気ガス分析が正確に行えなくなると言う問題が生じ得るところ、本発明ではこのような問題が一挙に解決されるからである。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、ランニングコストや安全性の面での問題を解決し、かつ軽量化、コンパクト化が可能で相対感度も担保できる水素炎イオン化検出器を含んだガス分析装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る車載型排ガス分析装置100は、車両のトランク等に積み込んで車両を実走行させながら、サンプルガスである排気ガス中の種々の成分濃度を測定することが可能なもので、図1に示すように、3つの異なる分析計4、5、6と、それら分析計4、5、6に排気ガスを連続的に供給するための流路系と、各分析計4、5、6からの実測データを受信して分析し真の測定値を算出するとともに、流路系に配置されたバルブ等の制御を行う情報処理装置7とを備えている。
【0016】
各部を詳述する。
【0017】
まず分析計4、5、6としてこの実施形態では、CO、CO、HOの濃度を測定するための赤外線ガス分析計4、THCの濃度を測定するための水素炎イオン化検出器5、NOの濃度を測定するための化学発光式窒素酸化物分析計6(以下CLD式NO計6ともいう)の3つを用いている。
【0018】
赤外線ガス分析計4は、非分散型のもので、CO、CO、HOがそれぞれ吸収する固有波長の赤外線をサンプルガス(排気ガス)に照射して通過させ、その際の各波長の光の強度を光検出器で測定してそれぞれ出力する。そしてその出力値を、光吸収がなかった場合のリファレンス値と比較することにより、各波長の光の吸収度を算出することができる。
【0019】
水素炎イオン化検出器5は、原理図を図2に示すように、サンプルガス(排気ガス)に燃料ガスを一定の割合で混合して、電場をかけた燃焼室(チムニー)51で燃焼させ、その際に当該サンプルガスに含まれるTHCがイオン化されて生じる電流をコレクタ52で捕集し、それを増幅器53で増幅して出力する方式のもので、その電流値からTHCの量(濃度)を算出することができる。燃焼室(チムニー)51には、サンプルガス供給部510の他に、燃料ガス供給部511及び助燃ガス供給部512が接続してあり、それらサンプルガス供給部510、燃料ガス供給部511及び助燃ガス供給部512を介して燃焼室(チムニー)51に、それぞれサンプルガスである排気ガス、燃料ガス及び助燃ガス(空気)が導かれるようにしている。
【0020】
CLD式NO計6は、排気ガスに含まれるすべてのNOをNOコンバータ61でNOに変換し、そのNOをオゾン発生器62から出力されるオゾンと反応槽63で混ぜ合わせて化学反応させ、そのときの反応で生じる発光の強度を光検出器(図示しない)で検知し出力するものである。なお、この実施形態では、NOコンバータ61を介して反応槽63に導く経路6aの他に、排気ガスを直接反応槽63に導く経路6bを並列させて設けている。そして、バルブ65によっていずれか一方の経路6a、6bからのみ、反応槽63に択一的にガスが導かれるようにして、排気ガスに含まれるNOのみの濃度、あるいは差分をとることでNOを除くNOの濃度をも測定できるようにしている。オゾン発生器62には、大気を除湿することなくそのまま取り込むようにしている。符号64はオゾン分解器である。
【0021】
流路系は、排気ガスの大部分を通過させるバイパス経路としての役割を果たす主流路1と、その主流路1から分岐させて並列に設けた複数(2つ)の副流路2、3とを備えており、主流路1上に前記赤外線ガス分析計4、一方の副流路2(第1副流路2)上に前記水素炎イオン化検出器5、他方の副流路3(第2副流路3)上にCLD式NO計6をそれぞれ設けている。
【0022】
主流路1は、その上流端をメインポート11として開口させたもので、最も下流側には吸引ポンプ19が配設してある。そして、このメインポート11に車両の排気管を接続し、前記吸引ポンプ19で吸引することにより、排気ガスのうちの測定に必要な量が当該主流路1に導入されるように構成している。
【0023】
より具体的に説明すると、この主流路1上には、メインポート11に引き続いて、排気ガス中に含まれる液状水分を取り除くドレンセパレータ13、フィルタ14、流量制御管(キャピラリ)15a、分岐部16、赤外線ガス分析計4、流量制御管(キャピラリ)15b、合流部18、吸引ポンプ19がこの順で直列配置されている。車両の排気管から前記ドレンセパレータ13に至るまでは、少なくとも加熱配管を用いず、非加熱配管のみで接続してあるため、各分析計4、5、6にはドレンセパレータ13で液状水分のみが取り除かれた状態(以下semi−Dry状態ともいう)の排気ガスが導入される。赤外線ガス分析計4の下流に接続されている圧力制御弁17aは、前記キャピラリ15a、15b間の流路系の圧力をコントロールするためのものであり、各キャピラリ15a、15bと協働して赤外線ガス分析計4を流れる排気ガスの流量及び圧力を一定に保つ役割を担う、つまり吸引ポンプ19の脈動影響による圧力変動や排気ガスの脈動影響を除去する役割を担っている。
【0024】
一方、前記副流路2、3は、前記分岐部16で主流路1から分岐され、前記合流部18で主流路1に再度接続されるように構成してある。
【0025】
第1副流路2上には、流量制御管(キャピラリ)21、水素炎イオン化検出器5がこの順で設けてある。流量制御管21は、この副流路2を流れるガスの量を、THCの濃度測定に必要な流量(主流路1を流れる排気ガス流量に比べればわずかである)に制限するものである。
【0026】
第2副流路3上には、流量制御管(キャピラリ)31、CLD式NO計6が上流からこの順で設けてある。流量制御管(キャピラリ)31は、この副流路3を流れるガスの量を、NOの濃度測定に必要な流量(主流路1を流れる排気ガス流量に比べればわずかである)に制限するものである。
【0027】
合流部18に接続されている圧力制御弁17bは、前記各副流路2、3の圧力をコントロールするためのものであり、各副流路2、3の上流部に設けられた前記キャピラリ21、22と協働して水素炎イオン化検出器5及びCLD式NO計6を流れる排気ガスの流量及び圧力を一定に保つ役割を担う。
【0028】
情報処理装置7は、図3に示すように、CPU701の他に、メモリ702、入出力チャネル703、キーボード等の入力手段704、ディスプレイ705等を備えた汎用乃至専用のものであり、入出力チャネル703には、A/Dコンバータ706、D/Aコンバータ707、増幅器(図示しない)などのアナログ−デジタル変換回路が接続されている。そして、CPU71及びその周辺機器が、前記メモリ72の所定領域に格納されたプログラムにしたがって協働動作することにより、この情報処理装置7は、図4に示すように、前記流路系等に設けられたバルブの開閉制御やヒータの温度制御を行う制御部71と、各分析計4、5、6から出力される検出データを受信し、解析して各成分の濃度等を算出する分析部72としての機能を少なくとも発揮する。なお、この情報処理装置7は、物理的に一体である必要はなく、有線又は無線により複数の機器に分割されていても構わない。
【0029】
しかして、この実施形態では、水素炎イオン化検出器5に対し、燃料ガスとして略100%の濃度の水素ガスを、図示しない燃料ガス源に接続した燃料ガス供給部511から供給するとともに、前記燃焼室51内の圧力を大気圧より低く、より具体的には−40kPaとなるように、相対感度制御手段によって制御している。この相対感度制御手段は、合流部18に接続されている圧力制御弁17bが少なくともその役割を担い、特にこの実施形態では、圧力制御弁17bがこれと並列接続された前記吸引ポンプ19と協働して、前記相対感度制御手段としての機能を発揮するようにしている。
【0030】
このようなものによれば、100%の水素ガスを燃料ガスとして用いても、ISO8187の規格を満たす相対感度を担保できる。またこのように相対感度を維持しつつ100%の水素ガスを用いることができることから、燃料ガス源として、ボンベに限定されることなく、水素発生器などの比較的軽量コンパクトなデバイスを用いることができるようになり、ランニングコストや安全性の面での問題を解決し、かつ軽量化、コンパクト化が可能となる。
【0031】
具体的な効果を図5、図6に示す。図4においてatmos−FIDが、従来の常圧式の水素炎イオン化検出器を示しており、その検出器において、燃料ガスとして水素40%、ヘリウム60%の混合ガスを用いた場合の試験結果(atmos−FID H40%と同図では表示)と、水素100%ガスを用いた場合の試験結果(atmos−FID H100%と同図では表示)をそれぞれグラフにしている。また、本実施形態の水素炎イオン化検出器5をvacuum−FIDとして示しており、この検出器5において、燃料ガスとして水素100%ガスを用いた場合の試験結果(vacuum−FID H100%と同図では表示)をグラフにしている。
【0032】
同図から明らかなように、従来の常圧式の水素炎イオン化検出器において、H100%ガスを用いた場合には、特にCH、Cの相対感度が悪くなっており、この相対感度は、ISO8187の規格であるCHの相対感度1.0以上1.15以下、Cの相対感度0.9以上1.1以下の規格値を満たしていない。
【0033】
これに対し、本実施形態の減圧式の水素炎イオン化検出器5で、水素100%ガスを用いたときの試験結果は、従来型の水素炎イオン化検出器で燃料ガスに水素40%、ヘリウム60%の混合ガスを用いた場合の試験結果とほぼ同等で、規格値も満足している。
【0034】
また、図6では、燃料ガスとして水素100%ガスを用い、CHを検出する場合の、燃焼室(チムニー)51内の圧力と相対感度との関係をグラフ化している。燃焼室(チムニー)51内の圧力を約−25kPa以下に保てば、規格(図中Regulationと表示)を満たすことがわかる。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。相対感度制御手段は燃焼室内の圧力を制御できるものであればよく、例えば、前記水素炎イオン化検出器と前記吸引ポンプとの間に圧力制御弁を直列に介在させるようにし、圧力制御弁と吸引ポンプ19とが協働して、前記相対感度制御手段としての機能を発揮するようにしてもよい。
【0036】
また、多成分ガス分析装置のみならず炭化水素のみを測定するガス分析計に用いることも可能であるし、車両搭載型のみならず、実験室で用いるようなスタンドアローン型のもの、環境測定用のもの等にも適用して前記実施形態と同様の作用効果を奏し得る。
【0037】
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によって、ランニングコストや安全性の面での問題を解決し、かつ軽量化、コンパクト化が可能で相対感度も担保できる水素炎イオン化検出器を含んだガス分析装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係るガス分析装置の全体流体回路図。
【図2】同実施形態における水素炎イオン化検出器の構成原理図。
【図3】同実施形態における情報処理装置の回路構成図。
【図4】同実施形態における情報処理装置の機能ブロック図。
【図5】同実施形態のガス分析装置による効果を、従来のものと比較して示す試験結果グラフ。
【図6】同実施形態の水素炎イオン化検出器における燃焼室の圧力と相対感度との関係を示す試験結果グラフ。
【符号の説明】
【0040】
100・・・ガス分析装置
5・・・水素炎イオン化分析計
51・・・燃焼室
511・・・燃料ガス供給部
52・・・コレクタ
17b・・・相対感度制御手段(圧力制御弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルガスと燃料ガスとを混合して燃焼室で燃焼させ、その際に生じるイオン電流をコレクタで検出するようにした水素炎イオン化検出器と、その水素炎イオン化検出器に燃料ガスとして略100%の濃度の水素ガスを供給する燃料ガス供給部と、前記燃焼室内の圧力を大気圧より低く制御して前記水素炎イオン化検出器の相対感度を向上させる相対感度制御手段とを備えているガス分析装置。
【請求項2】
相対感度制御手段が、燃焼室内の圧力を約−25kPa以下に制御するものである請求項1記載のガス分析装置。
【請求項3】
サンプルガスとして内燃機関から排出される排気ガスを導入するようにしている請求項1又は2記載のガス分析装置。
【請求項4】
車両搭載型である請求項3記載のガス分析装置。
【請求項5】
サンプルガスと燃料ガスとを混合して燃焼室で燃焼させ、その際に生じるイオン電流をコレクタで検出するようにした水素炎イオン化検出器に対し、燃料ガスとして略100%の濃度の水素ガスを供給するとともに、前記燃焼室内の圧力を大気圧より低く制御するようにした水素炎イオン化検出器の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−284502(P2006−284502A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107888(P2005−107888)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】