場の特性が改善した永久磁石及びそれを用いた装置
【解決手段】リング型磁石アセンブリは、空隙を規定し、上端と下端とを有している略円筒状の磁石を有している。上側面板と下側面板は、リング磁石の上部と下部に夫々配置される。これら面板の透磁率は高いことが好ましい。質量分析器が空隙内に配置されてよい。イオンジェネレータは、本発明のリング型磁石アセンブリの空隙内に配置されてよい。垂直方向に積まれたリング型磁石アセンブリの対が与えられてもよい。その実施例では、質量分析器が一方の空隙に、イオンジェネレータが他方の空隙に配置されてよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、場の特性が改善した永久磁石及びそれを用いた装置に関しており、より詳細には、略円筒状の永久磁石に関しており、該永久磁石は、面板と協動して、協動する装置の構成要素を配置できる中空の囲いを規定する。
【背景技術】
【0002】
マススペクトロメータのような磁石を用いた計測器では、一般に、磁石の大きさ、重さ、及び精度が、コストと装置の性能とをほとんど決定するパラメータである。新しい磁石の材料は、大きさと重さとを低減する多数の機会を提供したが、一方で実際には、精度に対して増加している要求は、これらの利益よりも重要である。今日の磁石は、大抵、大きさと重さの点で未だに大きく、精度(大抵の場合、均一性)が相変わらず課題になっている。
【0003】
双極子磁石は、N極とS極という2つの磁極で特徴付けられており、それら磁極の間に磁場が生じる。最も単純な形態は、図1に示す棒磁石である。
【0004】
科学技術用途においては、大抵の場合、ある体積内にて磁場が均一であることが要求されており、このような磁場は、平行な磁力線で表現され得る。このような磁場に近づけるための様々な磁石の形状が知られており、通常、間隔を形成するように磁極が対向配置されて、内側の領域で、磁力線がおおよそ平行になっている。簡単な形状には、蹄鉄型(図2)とU字形磁石があり、図3に示すH型磁石が、広く使用されている。H型磁石は、円筒状又矩形の形状の2つの平たい磁石を必要としており、それらは、短手方向に沿って磁化されている。磁束の流れが効率的に戻るために、軟鋼で作製されたヨークが、各磁石の背面に接続されており、これによって、構造の断面を通る磁束は、その磁石に名称を与える大文字のHと似る。
【0005】
H型磁石は、最も効率的なコンセプトの1つを示しているが、間隔内の磁場は、中央から離れた領域で不完全になる。慎重に形作られた磁極片(pole pieces)は、縁の磁場の効果を低減し、有用な均一領域を延ばすが、縁の磁場を無くすことは原理的にできない。これは、磁極のエッジが空中で自由であるような全ての磁石に共通である。
【0006】
リング型磁石は、多くの要素でよく知られている−内側の磁場について、特別な境界条件を考慮することは、明らかに新しい。リング型磁石自体は、図4に示すように棒磁石のような磁場を生成する。高さと比較して内径が短くなるにつれて、それは棒磁石により似てくる。磁極板(pole plates)で閉じられたリング型磁石は、同じ目的に対して、完全に異なる視点を示している。
【0007】
永久磁石には、上述した公知の種類があるのにも拘わらず、磁場の均一性と、強さとを向上させて、重さと製造コストとを低減できるように永久磁石を改良する要請は、実際に且つ顕著に依然として存在している。
【発明の開示】
【0008】
リング型磁石アセンブリは、空隙を規定し、上端と下端とを有している略円筒状の磁石本体を有している。上側面版と下側面板は、リング型磁石の上部と下部に夫々配置されている。これら面板の透磁率は高いのが好ましい。質量分析器が空隙内に配置されてもよい。イオンジェネレータが、本発明のリング型磁石アセンブリの空隙内に配置されてよい。垂直方向に積まれたリング型磁石アセンブリの対が設けられてもよい。その実施例では、質量分析器が一方の空隙内に配置され、イオンジェネレータが他方の空隙内に配置されてよい。
【0009】
本発明の目的は、磁場の均一性と磁場の強さとが向上するように改善された永久磁石を与えることである。
【0010】
本発明の別の目的は、大きさと重さとが低減された永久磁石のデザインを与えることである。
【0011】
本発明の別の目的は、低いコストで製造できるように改善された永久磁石を与えることである。
【0012】
本発明の更なる目的は、円筒状且つ中空であって、例えば質量分析計のようなその他の装置を含むように構成され得る永久磁石を与えることである。
【0013】
本発明のこれらの目的やその他の目的は、添付の図面と共に、以下の発明の詳細な説明から、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、従来技術の形態の双極子磁石とその磁場とを図示している。
【図2】図2は、従来技術の形態の蹄鉄型磁石とその磁場とを図示している。
【図3】図3は、従来技術の形態のH型双極子磁石とその磁場とを図示している。
【図4】図4は、軸方向に磁化した従来技術の略ドーナツ形状のリング磁石の断面を図示している。
【図5】図5は、一対の磁性面板が固定された本発明のリング磁石の形態の断面を図示している。
【図6】図6(a)乃至6(c)は、面板を有する3つのリング磁石の断面図と、面板の透磁率に関係した、直径に沿った磁束密度の大きさのプロットとを示す。これは、場の均一性に与える面板の透磁率μの影響を示す。
【図7】図7は、面板が設けられた本発明のリング型磁石の一部と、その磁束線とを図示する。
【図8】図8(a)及び8(b)は夫々、本発明のリング型永久磁石の正面図と断面図であり、本発明のリング型永久磁石には、その中にあって、端板と中板と協動する密閉チャンバが設けられている。
【図9】図9(a)乃至9(c)は、高さが異なる本発明の3つのリング型磁石と、各々の磁石について磁束密度の大きさのプロットとを示している。
【図10】図10は、上側面板が取り除かれて、下側面板が配置されている状態の本発明のリング型磁石を示す概略図であり、線形サイクロイドマススペクトロメータが、その中に配置されている。
【図11】図11は、上側面板が取り除かれて、下側面板が配置されている状態の本発明のリング型磁石を示す概略図であり、円形サイクロイドマススペクトロメータが、その中に配置されている。
【図12】図12は、本発明のリング型磁石を示す縦断面図であり、イオンゲッター3極ポンプがその中に配置されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
円筒状の体積の内側に、強くて均一な磁場を生成する磁石のデザインが、説明される。双極子磁石に使用される一般的なデザインと比較して、本明細書で紹介されるトーラス形状は、製造プロセスを簡単にして、必要とされる部品の数を少なくする。この形状を選択することで、従来の磁石で得られるよりも均一性が良好になって、磁場の強さが大きくなる。質量分析機器やNMR装置の大きさと重さが低減される一方で、性能は増加するであろう。
【0016】
図5では、リングの内側にて、縁の磁場のシナリオが起こっていない−より詳細な分析では、このことは、完全な形状と、面版の有限な透磁率とについて完全に正しいことが示されている。実際には、1010又は1018のような軟鋼の透磁率が10,000と18,000の間で、似たような大きさのH型磁石では達成できない均一性を与えると考える。
【0017】
図6(a)乃至6(c)は、異なる透磁率について段階的な違いを示している。
【0018】
リング型磁石の内側で、磁石の材料が自由空間と接する領域の磁化は(図4)、この境界にて特別な特徴を明らかにしている。
【0019】
磁石の材料内にて、磁力線は、それらの場所の微視的起源、要素電流(elementary currents)に固定される。故に、空隙内における磁力線のループの部分に顕著な干渉はない。円筒状のデザインの対称性によって、磁力線のパターンは、磁石を通るその他の断面でも同じであり、更なる磁力源がない場合、これらの境界条件下で唯一の整合的な物理的解が、磁力線が等距離である一様な磁場である。
【0020】
面板の一部が、強い磁場で磁気飽和する場合には、磁場が不均一になるかも知れない。これは、材料(の透磁率)を適切に選択し、面板の厚さを十分に取ることで避けられる。アニールした1018鋼のような一般的な材料と、NdFeB製リング型磁石とを用いて、以下の実施例が得られる。
【0021】
磁石の大きさ:外径=3インチ、内径=1.5インチ、厚さ=0.75インチ
流出磁束密度:B=4200ガウス
面板の大きさ:外径=3インチ、内径=0.25インチ
【0022】
これによって、相対的な均一性が+0.1%であって、5,200ガウスである内側の磁場が生成された。
【0023】
磁石の内側における磁場が均一な領域は、真空ハウジングとして、磁石の内側を使用することを示唆する。それは、Oリング、又はインジウムのような金属で容易に密閉され、金属表面は、電気メッキされて、放出ガスが少なく維持される。真空マニホールドがないことで、大きさ、重さ、特にコストがさらに顕著に低減する。2個以上の分析器又は機器類が容易に接続されて、共通のアセンブリになる。図8(a)乃至8(b)は、イオンスパッタポンプと組み合わされた小型の質量分析器として設計された例を示している。
【0024】
ある一般的な磁石を用いたイオンゲッターポンプの組み合わせが過去に試験されたが、スパッタポンプのノイズが敏感な分析器に与える電磁的な干渉に苦しんだ。代わりに、図8(a)乃至8(b)に示すアセンブリは、ほぼ完全に電場とさらに磁場とをシールドする。
【0025】
質量分析用途には、例えば、セクターフィールド型マススペクトロメータ(sector field mass spectrometers)、小型から中型の線形サイクロイドマススペクトロメータ(図10)、小型から大型の円形サイクロイドマススペクトロメータ(図11)がある。
【0026】
用語「小型」、「中型」及び「大型」は、今までに作製されたものの大まかな記述である。例えば、実際の円形サイクロイド分析計の直径は、約70mmである。故に、直径が300mmの装置は、「大型」になる。セクターフィールド型装置は、数メートルに拡張できる。故に、300mmは、「小型」となろう。
【0027】
特に、小さいイオンスパッタポンプでは、磁石の選択がジレンマに導く。空隙が広く、磁極面の領域が小さいと、磁場が悪化して、アノードシリンダの長さを、故に、排気速度と総合的な性能とを制限する(「"Miniature Sputter-Ion Pump Design Considerations" by S. L. Rutherford et al., 1999 NASA/JPL Miniature Vacuum Workshop」と比較)。
【0028】
U型デザインである磁石を改良することは、大きさとコストとを劇的に増加させるだろうから、小型で廉価なポンプには正当化できない。
【0029】
説明したリング型磁石は、小さな大きさと均一な磁場とを与える低コストな答えである。5l/sのポンピング速度を有する典型的なポンプを、同じ電極サイズを有するリング型磁石ポンプに置き換える場合について概算すると、約3の係数で、ポンピング速度が増加する。図12は、主たる配置を図示する。
【0030】
用途
提案した発明は、小さい大きさと低コストで、良好な磁場をもたらす。一般的に、これは、均一な磁場を必要とする全ての分野にて興味深い。とは言え、用途は、以下にリストされる状況に制限されるであろう。
(a)要求される磁石の大きさが、製造能力又は妥当なコストを超える場合。
(b)磁気チャンバ(magnetic chamber)へのアクセスが、面板と磁石の対称性を大きく損なう場合。これは、ビームチャンバが磁場を通ってガイドされる粒子加速器の場合であろう。
(c)要求される磁場の強さが、永久磁石で得られる場合よりも大きい場合。動作又はベークアウト(bake-out)に必要な温度が、磁石の動作温度を超える場合。
【0031】
具現化の有益な表れは、以下の領域にて明らかである。
(a)小さい大きさ、軽い重さ。
(b)装置のコスト低下。
(c)広い、または非常に広い空隙の幅。
【0032】
広い空隙の必要は、従来の磁石デザインにおける問題を悪化させる。25mmの空隙幅と5kgとの重さを有する図3に示すようなH型磁石を考える。この磁石デザインが、10倍に空隙幅が増加するように変更され(250mm)、磁場の均一性と磁束密度が同じであることを要求すると、磁石の重さは容易に数トンに達し得る(例えば、米国特許第3,670,162号と比較)。空隙の増加は、3つの空間座標の全ての調整を必要とする。
【0033】
完全に異なる結果が、上述したリング型磁石について同じシナリオを述べる。理想的なケースでは、面板の透磁率が非常に高く、磁石材料が均一な特性を有している場合、その均一性と磁束密度は、リング型磁石の高さのみに少し依存している−第1近似では、磁束密度は、幾つかの異なる高さで一定である(図9(a)乃至9(c)を参照)。
【0034】
リング型磁石の外径は50mm、内径は25mm、空隙幅は25mm、重さは約400グラムであり、リング型磁石は2枚の面板を含んでいる。空隙を250mmに増加すると、各々が300グラムであるリング型磁石を9個追加する必要があり、磁石の重さはトータルで31kgになる。
【0035】
本発明の特定の実施例が、説明を目的として記載されたが、当該分野における通常の知識を有する者は、特許請求の範囲に規定される発明から逸脱することなく、詳細について様々な変化がなされ得ることは明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、場の特性が改善した永久磁石及びそれを用いた装置に関しており、より詳細には、略円筒状の永久磁石に関しており、該永久磁石は、面板と協動して、協動する装置の構成要素を配置できる中空の囲いを規定する。
【背景技術】
【0002】
マススペクトロメータのような磁石を用いた計測器では、一般に、磁石の大きさ、重さ、及び精度が、コストと装置の性能とをほとんど決定するパラメータである。新しい磁石の材料は、大きさと重さとを低減する多数の機会を提供したが、一方で実際には、精度に対して増加している要求は、これらの利益よりも重要である。今日の磁石は、大抵、大きさと重さの点で未だに大きく、精度(大抵の場合、均一性)が相変わらず課題になっている。
【0003】
双極子磁石は、N極とS極という2つの磁極で特徴付けられており、それら磁極の間に磁場が生じる。最も単純な形態は、図1に示す棒磁石である。
【0004】
科学技術用途においては、大抵の場合、ある体積内にて磁場が均一であることが要求されており、このような磁場は、平行な磁力線で表現され得る。このような磁場に近づけるための様々な磁石の形状が知られており、通常、間隔を形成するように磁極が対向配置されて、内側の領域で、磁力線がおおよそ平行になっている。簡単な形状には、蹄鉄型(図2)とU字形磁石があり、図3に示すH型磁石が、広く使用されている。H型磁石は、円筒状又矩形の形状の2つの平たい磁石を必要としており、それらは、短手方向に沿って磁化されている。磁束の流れが効率的に戻るために、軟鋼で作製されたヨークが、各磁石の背面に接続されており、これによって、構造の断面を通る磁束は、その磁石に名称を与える大文字のHと似る。
【0005】
H型磁石は、最も効率的なコンセプトの1つを示しているが、間隔内の磁場は、中央から離れた領域で不完全になる。慎重に形作られた磁極片(pole pieces)は、縁の磁場の効果を低減し、有用な均一領域を延ばすが、縁の磁場を無くすことは原理的にできない。これは、磁極のエッジが空中で自由であるような全ての磁石に共通である。
【0006】
リング型磁石は、多くの要素でよく知られている−内側の磁場について、特別な境界条件を考慮することは、明らかに新しい。リング型磁石自体は、図4に示すように棒磁石のような磁場を生成する。高さと比較して内径が短くなるにつれて、それは棒磁石により似てくる。磁極板(pole plates)で閉じられたリング型磁石は、同じ目的に対して、完全に異なる視点を示している。
【0007】
永久磁石には、上述した公知の種類があるのにも拘わらず、磁場の均一性と、強さとを向上させて、重さと製造コストとを低減できるように永久磁石を改良する要請は、実際に且つ顕著に依然として存在している。
【発明の開示】
【0008】
リング型磁石アセンブリは、空隙を規定し、上端と下端とを有している略円筒状の磁石本体を有している。上側面版と下側面板は、リング型磁石の上部と下部に夫々配置されている。これら面板の透磁率は高いのが好ましい。質量分析器が空隙内に配置されてもよい。イオンジェネレータが、本発明のリング型磁石アセンブリの空隙内に配置されてよい。垂直方向に積まれたリング型磁石アセンブリの対が設けられてもよい。その実施例では、質量分析器が一方の空隙内に配置され、イオンジェネレータが他方の空隙内に配置されてよい。
【0009】
本発明の目的は、磁場の均一性と磁場の強さとが向上するように改善された永久磁石を与えることである。
【0010】
本発明の別の目的は、大きさと重さとが低減された永久磁石のデザインを与えることである。
【0011】
本発明の別の目的は、低いコストで製造できるように改善された永久磁石を与えることである。
【0012】
本発明の更なる目的は、円筒状且つ中空であって、例えば質量分析計のようなその他の装置を含むように構成され得る永久磁石を与えることである。
【0013】
本発明のこれらの目的やその他の目的は、添付の図面と共に、以下の発明の詳細な説明から、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、従来技術の形態の双極子磁石とその磁場とを図示している。
【図2】図2は、従来技術の形態の蹄鉄型磁石とその磁場とを図示している。
【図3】図3は、従来技術の形態のH型双極子磁石とその磁場とを図示している。
【図4】図4は、軸方向に磁化した従来技術の略ドーナツ形状のリング磁石の断面を図示している。
【図5】図5は、一対の磁性面板が固定された本発明のリング磁石の形態の断面を図示している。
【図6】図6(a)乃至6(c)は、面板を有する3つのリング磁石の断面図と、面板の透磁率に関係した、直径に沿った磁束密度の大きさのプロットとを示す。これは、場の均一性に与える面板の透磁率μの影響を示す。
【図7】図7は、面板が設けられた本発明のリング型磁石の一部と、その磁束線とを図示する。
【図8】図8(a)及び8(b)は夫々、本発明のリング型永久磁石の正面図と断面図であり、本発明のリング型永久磁石には、その中にあって、端板と中板と協動する密閉チャンバが設けられている。
【図9】図9(a)乃至9(c)は、高さが異なる本発明の3つのリング型磁石と、各々の磁石について磁束密度の大きさのプロットとを示している。
【図10】図10は、上側面板が取り除かれて、下側面板が配置されている状態の本発明のリング型磁石を示す概略図であり、線形サイクロイドマススペクトロメータが、その中に配置されている。
【図11】図11は、上側面板が取り除かれて、下側面板が配置されている状態の本発明のリング型磁石を示す概略図であり、円形サイクロイドマススペクトロメータが、その中に配置されている。
【図12】図12は、本発明のリング型磁石を示す縦断面図であり、イオンゲッター3極ポンプがその中に配置されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
円筒状の体積の内側に、強くて均一な磁場を生成する磁石のデザインが、説明される。双極子磁石に使用される一般的なデザインと比較して、本明細書で紹介されるトーラス形状は、製造プロセスを簡単にして、必要とされる部品の数を少なくする。この形状を選択することで、従来の磁石で得られるよりも均一性が良好になって、磁場の強さが大きくなる。質量分析機器やNMR装置の大きさと重さが低減される一方で、性能は増加するであろう。
【0016】
図5では、リングの内側にて、縁の磁場のシナリオが起こっていない−より詳細な分析では、このことは、完全な形状と、面版の有限な透磁率とについて完全に正しいことが示されている。実際には、1010又は1018のような軟鋼の透磁率が10,000と18,000の間で、似たような大きさのH型磁石では達成できない均一性を与えると考える。
【0017】
図6(a)乃至6(c)は、異なる透磁率について段階的な違いを示している。
【0018】
リング型磁石の内側で、磁石の材料が自由空間と接する領域の磁化は(図4)、この境界にて特別な特徴を明らかにしている。
【0019】
磁石の材料内にて、磁力線は、それらの場所の微視的起源、要素電流(elementary currents)に固定される。故に、空隙内における磁力線のループの部分に顕著な干渉はない。円筒状のデザインの対称性によって、磁力線のパターンは、磁石を通るその他の断面でも同じであり、更なる磁力源がない場合、これらの境界条件下で唯一の整合的な物理的解が、磁力線が等距離である一様な磁場である。
【0020】
面板の一部が、強い磁場で磁気飽和する場合には、磁場が不均一になるかも知れない。これは、材料(の透磁率)を適切に選択し、面板の厚さを十分に取ることで避けられる。アニールした1018鋼のような一般的な材料と、NdFeB製リング型磁石とを用いて、以下の実施例が得られる。
【0021】
磁石の大きさ:外径=3インチ、内径=1.5インチ、厚さ=0.75インチ
流出磁束密度:B=4200ガウス
面板の大きさ:外径=3インチ、内径=0.25インチ
【0022】
これによって、相対的な均一性が+0.1%であって、5,200ガウスである内側の磁場が生成された。
【0023】
磁石の内側における磁場が均一な領域は、真空ハウジングとして、磁石の内側を使用することを示唆する。それは、Oリング、又はインジウムのような金属で容易に密閉され、金属表面は、電気メッキされて、放出ガスが少なく維持される。真空マニホールドがないことで、大きさ、重さ、特にコストがさらに顕著に低減する。2個以上の分析器又は機器類が容易に接続されて、共通のアセンブリになる。図8(a)乃至8(b)は、イオンスパッタポンプと組み合わされた小型の質量分析器として設計された例を示している。
【0024】
ある一般的な磁石を用いたイオンゲッターポンプの組み合わせが過去に試験されたが、スパッタポンプのノイズが敏感な分析器に与える電磁的な干渉に苦しんだ。代わりに、図8(a)乃至8(b)に示すアセンブリは、ほぼ完全に電場とさらに磁場とをシールドする。
【0025】
質量分析用途には、例えば、セクターフィールド型マススペクトロメータ(sector field mass spectrometers)、小型から中型の線形サイクロイドマススペクトロメータ(図10)、小型から大型の円形サイクロイドマススペクトロメータ(図11)がある。
【0026】
用語「小型」、「中型」及び「大型」は、今までに作製されたものの大まかな記述である。例えば、実際の円形サイクロイド分析計の直径は、約70mmである。故に、直径が300mmの装置は、「大型」になる。セクターフィールド型装置は、数メートルに拡張できる。故に、300mmは、「小型」となろう。
【0027】
特に、小さいイオンスパッタポンプでは、磁石の選択がジレンマに導く。空隙が広く、磁極面の領域が小さいと、磁場が悪化して、アノードシリンダの長さを、故に、排気速度と総合的な性能とを制限する(「"Miniature Sputter-Ion Pump Design Considerations" by S. L. Rutherford et al., 1999 NASA/JPL Miniature Vacuum Workshop」と比較)。
【0028】
U型デザインである磁石を改良することは、大きさとコストとを劇的に増加させるだろうから、小型で廉価なポンプには正当化できない。
【0029】
説明したリング型磁石は、小さな大きさと均一な磁場とを与える低コストな答えである。5l/sのポンピング速度を有する典型的なポンプを、同じ電極サイズを有するリング型磁石ポンプに置き換える場合について概算すると、約3の係数で、ポンピング速度が増加する。図12は、主たる配置を図示する。
【0030】
用途
提案した発明は、小さい大きさと低コストで、良好な磁場をもたらす。一般的に、これは、均一な磁場を必要とする全ての分野にて興味深い。とは言え、用途は、以下にリストされる状況に制限されるであろう。
(a)要求される磁石の大きさが、製造能力又は妥当なコストを超える場合。
(b)磁気チャンバ(magnetic chamber)へのアクセスが、面板と磁石の対称性を大きく損なう場合。これは、ビームチャンバが磁場を通ってガイドされる粒子加速器の場合であろう。
(c)要求される磁場の強さが、永久磁石で得られる場合よりも大きい場合。動作又はベークアウト(bake-out)に必要な温度が、磁石の動作温度を超える場合。
【0031】
具現化の有益な表れは、以下の領域にて明らかである。
(a)小さい大きさ、軽い重さ。
(b)装置のコスト低下。
(c)広い、または非常に広い空隙の幅。
【0032】
広い空隙の必要は、従来の磁石デザインにおける問題を悪化させる。25mmの空隙幅と5kgとの重さを有する図3に示すようなH型磁石を考える。この磁石デザインが、10倍に空隙幅が増加するように変更され(250mm)、磁場の均一性と磁束密度が同じであることを要求すると、磁石の重さは容易に数トンに達し得る(例えば、米国特許第3,670,162号と比較)。空隙の増加は、3つの空間座標の全ての調整を必要とする。
【0033】
完全に異なる結果が、上述したリング型磁石について同じシナリオを述べる。理想的なケースでは、面板の透磁率が非常に高く、磁石材料が均一な特性を有している場合、その均一性と磁束密度は、リング型磁石の高さのみに少し依存している−第1近似では、磁束密度は、幾つかの異なる高さで一定である(図9(a)乃至9(c)を参照)。
【0034】
リング型磁石の外径は50mm、内径は25mm、空隙幅は25mm、重さは約400グラムであり、リング型磁石は2枚の面板を含んでいる。空隙を250mmに増加すると、各々が300グラムであるリング型磁石を9個追加する必要があり、磁石の重さはトータルで31kgになる。
【0035】
本発明の特定の実施例が、説明を目的として記載されたが、当該分野における通常の知識を有する者は、特許請求の範囲に規定される発明から逸脱することなく、詳細について様々な変化がなされ得ることは明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙を規定し、上端と下端とを有している略円筒状の磁石本体と、
前記磁石の前記上端に配置される上側面極と、
前記磁石の下部に配置される下側面板とを備えており、
前記上側及び下側面板は、磁性材料でできているリング型磁石アセンブリ。
【請求項2】
前記上側及び下側面板の透磁率は、約10,000乃至18,000である、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項3】
前記リング型磁石アセンブリは、前記空隙の上端と前記空隙の下端の一方から、前記空隙の上端と前記空隙の下端の他方まで広がる一様な磁場を有している、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項4】
一対のリング型磁石アセンブリが、ほぼ垂直方向に積まれており、磁性体の中板がそれらの間に配置されている、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項5】
前記上側及び下側面板は、鋼でできている、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項6】
前記上側及び下側面板の透磁率は高い、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項7】
前記リング型磁石アセンブリの磁束密度は、その高さに拘わらずほぼ同じである、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項8】
前記空隙内に質量分析器が配置される、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項9】
前記質量分析器は、マススペクトロメータである、請求項8に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項10】
前記マススペクトロメータは、線形サイクロイド型マススペクトロメータ、円形サイクロイド型マススペクトロメータ、及び飛行時間型マススペクトロメータからなる群から選択される、請求項9に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項11】
前記空隙内にイオンポンプが配置されている、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項12】
一方のリング型磁石アセンブリは、質量分析器を含んでおり、他方のリング型磁石アセンブリは、イオンポンプを含んでいる、請求項4に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項13】
前記リング型磁石と、前記上側面板と、前記下側面板とは協動して、真空ハウジングを規定する、請求項9に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項1】
空隙を規定し、上端と下端とを有している略円筒状の磁石本体と、
前記磁石の前記上端に配置される上側面極と、
前記磁石の下部に配置される下側面板とを備えており、
前記上側及び下側面板は、磁性材料でできているリング型磁石アセンブリ。
【請求項2】
前記上側及び下側面板の透磁率は、約10,000乃至18,000である、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項3】
前記リング型磁石アセンブリは、前記空隙の上端と前記空隙の下端の一方から、前記空隙の上端と前記空隙の下端の他方まで広がる一様な磁場を有している、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項4】
一対のリング型磁石アセンブリが、ほぼ垂直方向に積まれており、磁性体の中板がそれらの間に配置されている、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項5】
前記上側及び下側面板は、鋼でできている、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項6】
前記上側及び下側面板の透磁率は高い、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項7】
前記リング型磁石アセンブリの磁束密度は、その高さに拘わらずほぼ同じである、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項8】
前記空隙内に質量分析器が配置される、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項9】
前記質量分析器は、マススペクトロメータである、請求項8に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項10】
前記マススペクトロメータは、線形サイクロイド型マススペクトロメータ、円形サイクロイド型マススペクトロメータ、及び飛行時間型マススペクトロメータからなる群から選択される、請求項9に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項11】
前記空隙内にイオンポンプが配置されている、請求項1に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項12】
一方のリング型磁石アセンブリは、質量分析器を含んでおり、他方のリング型磁石アセンブリは、イオンポンプを含んでいる、請求項4に記載のリング型磁石アセンブリ。
【請求項13】
前記リング型磁石と、前記上側面板と、前記下側面板とは協動して、真空ハウジングを規定する、請求項9に記載のリング型磁石アセンブリ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−515282(P2010−515282A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544894(P2009−544894)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/088898
【国際公開番号】WO2008/085748
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(501270254)モニター インスツルメンツ カンパニー,エルエルシー (2)
【氏名又は名称原語表記】Monitor Instruments Co.,LLC
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/088898
【国際公開番号】WO2008/085748
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(501270254)モニター インスツルメンツ カンパニー,エルエルシー (2)
【氏名又は名称原語表記】Monitor Instruments Co.,LLC
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