説明

磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体

【課題】短波長記録特性に優れた磁気記録媒体を提供することを目的とする
【解決手段】非磁性支持体の一方の主面に磁性粉末と結合剤(結合剤樹脂)とを含む磁性塗料を塗布することにより磁性層形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記磁性塗料が、バッチ式混練装置にて第1の固形分濃度にて前記磁性粉末と前記結合剤(結合剤樹脂)とを混練し、磁性混練物を得る混練工程と、前記バッチ式混練装置とこれに直列に配設された連続式混練装置とを用いて前記第1の固形分濃度よりも低い第2の固形分濃度にまで希釈を行い希釈塗料を得る希釈工程と、を経て製造されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗型の再生ヘッド(MRヘッド)を用いる磁気記録再生システムに好適な高記録密度特性に優れた塗布型の磁気記録媒体の製造方法およびその製造方法により得られる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
データバックアップ用磁気テープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化にともない、1巻当たり数10〜800GBの記録容量のものが商品化されている。また、今後1TBを超える大容量バックアップテープが提案されており、その高記録密度化は不可欠である。
【0003】
高記録容量化のための手段として、記録再生装置からのアプローチでは,記録信号の短波長化やトラックピッチの狭幅化が図られ、再生ヘッドには微小磁束でも高い出力が得られるMRヘッドを使用することが主流となってきている。
【0004】
媒体からのアプローチでは、磁性粉末の微粒子化が一段と進められ、コンピュータバックアップ用磁気テープとして、粒子サイズが25〜65nm程度の針状の強磁性鉄系金属粉が実用化されたり提案されている。
【0005】
また低ノイズ化を実現するための磁性粉末として、粒子形状が板状で、粒子サイズ(粒子径)が10〜40nm程度の微粒子のバリウムフェライト磁性粉末や、結晶磁気異方性を有することで、微粒子化と高保磁力化を両立できる磁性粉末として、形状が球状乃至粒状で、粒子サイズが5〜50nm程度の窒化鉄磁性粉(特許文献1など)が提案されている。
【0006】
一方、媒体製造技術側からのアプローチでは、磁性塗料の製造方法に関して、バッチ式の混練装置を使う方法(特許文献2)、連続式混練装置を使う方法(特許文献3など)、磁性層の下に非磁性の下塗り層(以下、単に非磁性層、下塗り層ともいう)を設ける同時重層塗布(特許文献4など)などの技術の改善により、磁性層の充填性、表面平滑性の向上、磁性層の薄層化による短波長記録特性の向上が図られている。
【0007】
しかしながら、磁性粉末が微粒子になるほど、磁性粉末粒子を一次粒子にまで十分分散することが困難になるので、微粒子で高保磁力の磁性粉末を用いて磁性塗料を作製し、非磁性の下塗り層の上に磁性層を同時重層塗布しても、磁性塗料に含まれる磁性粉末が良好に分散されていない場合には、所望の短波長記録特性を得ることができない。磁性粉末を良好に分散させるために、バッチ式で加圧型や連続式の混練装置を使うことが提案されている(特許文献3、5)が、これらの装置を単独に従来の使用方法を適用しただけでは、最近の50nmよりも小さな微粒子の磁性粉末を良好に分散させるには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3886968号公報
【特許文献2】特開2000−195043号公報
【特許文献3】特開平2−178364号公報
【特許文献4】特開昭63−187418号公報
【特許文献5】特開平8−38869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、微粒子で高保磁力の磁性粉末を用いた場合でも、磁性粉末が良好に分散でき、短波長記録特性に優れた磁気記録媒体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、MRヘッドを用いる磁気記録再生システムに好適な磁気記録媒体の製造方法について鋭意検討した結果、磁性塗料の製造工程を下記のように構成すれば、上記目的を達成できることを見出し本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、非磁性支持体の一方の主面に磁性粉末と結合剤樹脂とを含む磁性塗料を塗布することにより磁性層を形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記磁性塗料が、連続式混練装置にて第1の固形分濃度にて前記磁性粉末と前記結合剤樹脂とを混練し、磁性混練物を得る混練工程と、前記連続式混練装置とこれに直列に配設されたバッチ式混練装置とを用いて前記第1の固形分濃度以下の第2の固形分濃度で混練する再混練工程と、を経て製造されることを特徴とする。また、再混練工程のあと第2の固形分濃度以下の固形分濃度まで希釈を行う希釈工程を経て製造されることを特徴とする。
【0012】
前記希釈工程が、希釈塗料を直列に配設された前記バッチ式混練装置と前記連続式混練装置とで複数回循環処理することで行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
磁性塗料が、連続式混練装置にて第1の固形分濃度にて前記磁性粉末と前記結合剤樹脂とを混練し、磁性混練物を得る混練工程と、前記連続式混練装置とこれに直列に配設されたバッチ式混練装置とを用いて前記第1の固形分濃度以下の第2の固形分濃度で混練する再混練工程と、を経て製造されるので、磁性粉末に対し、前記連続式混練装置では、高い剪断力をかけて混練することができ、また、バッチ式混練装置では磁性混練物に対し時間をかけながら良好に混練できるので、磁性粉への結合剤樹脂の吸着が十分に行われ、分散工程においても磁性塗料の磁性粉末をはじめ構成物の分散度が向上して、短波長記録特性に優れた磁気記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法に用いる、一例の混練、希釈装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
磁性塗料の製造にあたっては、通常、まず、磁性粉末と結合剤樹脂(バインダ樹脂ともいう)、その他の添加物とを混合した後、混練装置内で有機溶媒を添加して、比較的高い固形分濃度にて高剪断力をかけて混練する。この混練工程を行うことにより、結合剤樹脂中に磁性粉末が高充填された、高粘度の磁性混練物が得られる。この混練工程においては、混練槽内に一対のブレードを備えたニーダのようなバッチ式混練装置や、二軸押し出し機のような連続式混練装置が用いられる。
【0016】
次に、当該混練装置内で有機溶媒、結合剤樹脂液を段階的に添加して、混練・希釈して、比較的低粘度の希釈塗料を得る。
【0017】
希釈塗料は、分散槽内に分散メディアを充填し、撹拌翼で強制撹拌して塗料を分散する、メディア型分散機で分散される(分散工程)。
【0018】
分散工程にいたるまでの各工程について前述したように磁性塗料製造に関わる業界では種々工夫がなされてきたが、最近の粒子径が50nmよりも小さい微粒子の磁性粉末を良好に分散させるには有効な方法がいまだ見出されていない。
【0019】
このような微粒子の磁性粉末を分散するには先にあげた工程でも、剪断力が最も加えられる混練工程が重要である。この混練工程の分散対象である磁性粉末を含む組成物(以下混練物という)に対する機能(作用)を考えると、(1)磁性粉末に高い剪断力を加えてできるかぎりほぐす機能と(2)ほぐされた磁性粉末の表面に剪断力を加え、バインダである結合剤樹脂を展ばした状態でできる限り吸着させて覆う機能とに大別できる。以後、(1)を混練解砕機能の混練あるいは単に混練工程(2)を練り込み機能の混練あるいは再混練工程と称する。これらの機能はともに混練装置にて行われる。
【0020】
一般に磁性粉末を良好に分散させるには、(1)と(2)のそれぞれの機能を最大限に発揮させることが重要とされている。そして(1)の混練解砕機能は、いわゆる一次粒子がいくつか凝集してかたまりとなった磁性粉末を本質的にほぐすという物理的力が有効であり、(2)の練り込み機能の混練は吸着という化学的現象を含むことから時間の因子を考慮する必要がある。この考えに基づいて各機能に特化した装置を適用してかつ用法を検討した結果、有効な手法を見出したのである。
【0021】
最近の混練工程で用いる装置は連続式混練装置か加圧型バッチ式混練装置が通常である。そして前者はずり速度が特に大きく混練物に対して瞬時に高剪断力をかけることができるが作用時間は短く、後者は混練物に対する長時間の作用は可能であるが剪断力は前者の1/10程度でしかない。換言すると連続式混練装置は剪断力すなわち物理的力をあたえることに優れ、加圧型バッチ式混練装置は時間を要する化学的現象を伴う作用に優れていることになる。
【0022】
したがって、連続式混練装置は(1)の混練解砕機能に、加圧型バッチ式混練装置は(2)の練り込み機能に特化した装置として使用することにした。
【0023】
連続式混練装置の混練物に対しての作用時間を増加することは、混練物の搬送速度の減少や装置の混練部分の延長によってある程度可能ではあるが、装置の大きさには設備としての限度があること、搬送速度を低下させると、混練物が混練槽の上流側から下流側に搬送される過程で、混練槽内壁面に固着堆積されやすくなり、安定した搬送ができなかったり、非常に大きな負荷がモーターにかかるので多大な電力を要することの理由から実際の生産においては困難である。
【0024】
一方、加圧型バッチ式混練装置において高剪断力を与えるようにするにはブレードと容器とのクリアランスをできる限り狭くすることやブレード回転数を高めることなどが考えられる。しかしながら製造機でのスケールでは精度に限度があることとバッチ式混練装置においては処理混練物の容積全体を均一に同じような剪断力を与えるのは構造的に不可能であること(より強い剪断力を与えるのは装置容器の内壁とブレードとの間隙、もしくは最接近したブレード同士の間隙に存在する混練物に対してのみである)および動力に多大な電力を供給する必要がある。以上の理由でこれも実際の生産においては困難である。
【0025】
よってもっとも具現化できる方法は、連続式混練装置は(1)の混練解砕機能に、加圧型バッチ式混練装置は(2)の練り込み機能に特化した装置として使用することである。
【0026】
まず、磁性粉末と結合剤樹脂およびその他の添加物、有機溶剤、とを連続式混練装置を用いて第1の固形分濃度(a)が80〜90重量部の範囲になるように調節して混練処理する(混練工程)。尚、結合剤樹脂は溶剤に溶解した結合剤樹脂溶液として用いることが好ましい。連続式混練装置としては、特に制限はなく従来公知のものが使用でき、(株)日本製鋼所や(株)栗本鐵工所等製の市販の二軸押し出し機を用いることができる。
【0027】
次に、上記連続式混練装置で得られた混練物を、加圧型バッチ式混練装置に所定量排出後ブレードを回転させ練り物状にした状態で、第2の固形分濃度(b)で十分混練する(再混練工程)。練り物状にならない場合や再混練工程時に混練物がバラける場合には、結合剤樹脂および溶剤を適宜加え、練り物状として混練することが好ましい。第2の固形分濃度としては65〜90重量部の範囲になるように調整し、(a)≧(b)で混練することが好ましい。バッチ式混練装置としては、特に制限はなく従来公知のものが使用でき、(株)モリヤマや(株)井上製作所等製の市販のバッチ式ニーダを用いることができる。
【0028】
通常、分散工程では練り込みまで終えた混練物の固形分濃度(65〜90重量部)よりも、低い固形分濃度(15〜40重量部)で分散が行われる。したがって、必然的に分散工程の前に磁性塗料の希釈を行う(希釈工程)。本発明は、混練解砕機能に特化した連続式混練装置を用いて第1の高固形分濃度で十分に磁性粉末をほぐした混練工程のあとに練り込み機能に特化したバッチ式混練装置を用いて第2の固形分濃度で十分に時間を与えて混練させる再混練工程後、段階的に有機溶剤や結合剤樹脂溶液を加えて、混練・希釈し比較的低粘度の希釈塗料を得て、次工程の分散工程で良好な分散状態の磁性塗料を得る方法に関するものである。
【0029】
図1に、本発明の磁気記録媒体の製造方法における混練物の希釈工程までを含めた混練工程に用いる一例の製造ラインの概略図を示す。
【0030】
本製造ラインは、連続式混練装置である二軸押し出し機1とバッチ式混練装置である加圧型バッチ式ニーダ2とが、直列に配管で連結されている。連続式混練装置である二軸押し出し機1には、原材料配合用タンク3、結合剤樹脂溶液タンク4が備えられている。連続式混練装置である二軸押し出し機1の排出口は加圧型バッチ式ニーダ2の投入口と連結されている。加圧型バッチ式ニーダ2には、結合剤樹脂溶液タンク4と希釈用の溶剤タンク8が備えられている。加圧型バッチ式ニーダ2の下流側配管には三方バルブ7が配設され、希釈塗料を二軸押し出し機1に戻したり、次工程に送ったりできるようになっている。
【0031】
次に製造手順について説明する。原材料配合用タンク3から、特開2008−248238号で開示した濃縮表面処理方法を経た(磁性粉末、その他の添加物、分散剤、有機溶媒から成る)組成物を二軸押し出し機1に定量供給し、スクリューおよびパドルを回転させながら搬送し、配合用結合剤樹脂溶液タンク4と溶剤タンク8より、第一の固形分濃度になるよう、結合剤樹脂溶液を添加し混練させる。これにより、組成物は、それまでの粉体状から高粘度の練り物状に変化し、高い剪断力が加えられる。第1の固形分濃度の好ましい範囲は、使用する磁性粉や結合剤樹脂の種類、組成により異なるが、80〜90重量部が好ましい。この範囲が好ましいのは、80重量部未満では粘度が小さくなって十分な剪断力が加えられず、90重量部を超えると混練物が練り物状にまとまらず、やはり十分な剪断力が加えられないからである。
【0032】
結合剤樹脂溶液の注液箇所は1箇所でもよいが、複数として混練解砕した組成物をやや希釈して排出する方が次工程の再混練工程において練り物状になりやすく好ましい。図1では結合剤樹脂溶液の注液箇所を2箇所設けている。
【0033】
二軸押し出し機1から排出された混練後の組成物は所定処理量まで加圧型バッチ式ニーダ2内に貯められる。加圧型バッチ式ニーダ2によって先述した練り込み混練を時間をかけて行う。結合剤樹脂が十分に磁性粉末や他の固形添加物の表面に吸着して次の分散工程で効率的な分散が行われるために、練り物状としつつ最適な剪断力が加わるように結合剤樹脂溶液タンク4および有機溶剤タンク8から結合剤樹脂溶液および溶剤を適宜添加して練り込み混練を行う。
【0034】
練り込み混練の際の第2の固形分濃度の範囲は65〜90重量部で、かつ第1の固形分濃度以下であることが好ましい。この範囲が好ましいのは、65重量部未満では、解砕混練ほどの剪断力は不要な練り込み混練とはいえ粘度が小さくなって剪断力が加えられず、90重量部を超えると混練物が結合剤樹脂を固形物の表面で展ばす機能を高めるための一かたまりとなった練り物状にまとまらないからである。また、第2の固形分濃度が第1の固形分濃度以下であると、次工程の分散工程での固形分濃度に近づけることが出来るため、効率よく磁性塗料が製造できて好ましい。
【0035】
練り込み混練時間は30〜240分が好ましい。この範囲が好ましいのは30分未満では樹脂である高分子の化学吸着が十分に行えず、240分を超えると加圧型バッチ式ニーダ2の容器内の温度が上昇した状態が持続するので樹脂のうちの低分子量成分が変性していずれの場合も次工程での分散が最適に行えないからである。
【0036】
加圧型バッチ式ニーダ2での練り込み混練を終えた後、希釈は有機溶剤タンク8から溶剤を添加して行う。希釈は送液ポンプ5で送液できる程度に行えばよく、その固形分濃度は、30〜55重量部の範囲が好ましい。
【0037】
次に、取り出しバルブ6を開き、送液ポンプ5を駆動して加圧型バッチ式ニーダ2内で希釈を行った塗料を二軸押し出し機1に送液する。塗料は、二軸押し出し機1のバレル(不図示)と回転するスクリュー(不図示)との間を通過する際に剪断力を受け、さらに均一化される。加圧型バッチ式ニーダ2で希釈された塗料は三方バルブ7で、流路が選択でき、次工程に送られてもよいし、二軸押し出し機1に戻る配管に送られ、加圧型バッチ式ニーダ2に戻して、所定時間循環させてもよい。生産効率の許容範囲の所定時間で循環させるのが好ましい。
【0038】
このように、加圧型バッチ式ニーダ2で希釈した後、二軸押し出し機1を通過させることで、より均一に希釈された塗料が得られる。これは、加圧型バッチ式ニーダ2のブレードの回転により与える最大ずり速度に対して、二軸押し出し機1のスクリューの回転による最大ずり速度が遥かに大きくできるために、低粘度の塗料に対しても高剪断力を与えることができるからである。このように希釈した塗料を所定時間、加圧型バッチ式ニーダ2→二軸押し出し機1→加圧型バッチ式ニーダ2と循環させることで所望のレベルの均一な希釈塗料が得られる。
【0039】
有機溶媒を添加して、第2の固形分濃度にまで希釈する。希釈用タンク4から希釈を行う場合は、複数個の希釈用タンク4を設けると、より効率よく希釈が行えるので好ましい。
【0040】
このようにして得られた希釈塗料は、必要に応じて、次工程でタンク中で撹拌機により撹拌しながら、さらに希釈を行うのが好ましい。
本発明の、混練、希釈方法により得られた磁性塗料を用いて製造された磁気記録媒体は短波長記録特性に優れたものが得られる。
【0041】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法により得られる磁気記録場体の構成要素についてさらに詳述する。
【0042】
〈非磁性層〉
非磁性層の厚さは、0.2μm以上1.0μm未満が好ましく、0.9μm以下がより好ましい。この範囲が好ましいのは、0.2μm未満では、磁性層の厚さむらの低減効果、耐久性の向上効果が小さくなり、また1.0μm以上になると、磁気テープの全厚が厚くなりすぎ、テープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0043】
非磁性層に使用する非磁性粉末には、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウムなどがあるが、酸化鉄単独または酸化鉄と酸化アルミニウムの混合系が好ましく使用される。
【0044】
磁気記録媒体の温度・湿度膨張係数、弾性率、磁性層の平滑性の制御のために、平均粒子径10〜100nmの非磁性板状粉末を添加しても良い。非磁性板状粉末としては、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄なとの元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。
【0045】
なお、非磁性層に使用する結合剤樹脂としては、後述する磁性層と同様のものを用いることができる。
【0046】
〈磁性粉末〉
磁性層中に含ませる磁性粉末の平均粒子径としては、10〜40nmの範囲にあるのが好ましく、15〜30nmの範囲がより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満では、粒子の表面エネルギーが大きくなって分散が困難になり、平均粒子径が40nmを越えるとノイズが大きくなるためである。磁性粉末としては、強磁性鉄系金属磁性粉末や窒化鉄磁性粉末、板状の六方晶Ba−フエライト磁性粉末等が好ましい。
【0047】
強磁性鉄系金属磁性粉末には、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属を合金として含ませてもよい。その中でも、Co、Niが好ましく、とくにCoは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。上記の遷移金属元素の量としては、鉄に対して、5〜50原子%とするのが好ましく、10〜30原子%とするのがより好ましい。また、イツトリウム、セリウム、イツテルビウム、セシウム、プラセオジウム、サマリウム、ランタン、ユ―ロピウム、ネオジム、テルビウムなどから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を含ませても良い。
【0048】
窒化鉄磁性粉末は,公知のものを用いることができ,形状は針状の他に球状や立方体形状などの不定形のものを用いることができる。粒子径や比表面積については磁気記録用の磁性粉末としての要求特性をクリアするためには,限定した磁性粉末の製造条件とすることが必要である。
【0049】
強磁性鉄系金属磁性粉末および窒化鉄磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。飽和磁化量は、60〜200A・m/kg(60〜200emu/g)が好ましく、80〜180A・m/kg(80〜180emu/g)がより好ましい。
【0050】
強磁性鉄系金属磁性粉末および窒化鉄磁性粉末の平均粒子径としては、10〜40nmが好ましく、13〜20nmがより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満となると、保磁力が低下したり、粒子の表面エネルギーが増大するため塗料中での分散が困難になったり、平均粒子径が40nmより大きいと、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなるためである。
【0051】
また、前記強磁性鉄系金属磁性粉、窒化鉄磁性粉末をAl,Si,P,Y,Zrまたは、これらの酸化物で表面処理して使用してもかまわない。
【0052】
六方晶Ba−フエライト磁性粉末の保磁力は、120〜320kA/mが好ましく、飽和磁化量は、40〜70A・m/kg(40〜70emu/g)が好ましい。また,粒径(板径)は10〜30nmが好ましく、10〜25nmがより好ましい。粒径が10nm未満となると、粒子の表面エネルギーが増大するため塗料中への分散が困難になり、40nmを越えると、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなる。また、板状比(板径/板厚)は3未満が好ましく、2以下がより好ましい。また、六方晶Ba−フエライト磁性粉末のBET比表面積は、1〜100m2/gが好ましく用いられる。
【0053】
なお、前述したこれらの磁性粉末の磁気特性は、いずれも試料振動形磁束計で外部磁場1273.3kA/m(16kOe)での測定値をいうものである。
【0054】
また、上記の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率が50k倍以上で撮影した磁性層断面の写真から各粒子の最大径(針状粉では長軸径、板状粉では板径)を少なくとも100個以上の磁性粉末を実測し、平均値により求めたものである。
【0055】
〈非磁性支持体〉
磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、通常、2〜5μmのものが使用される。より好ましくは2.5〜4.5μmである。この範囲の厚さの非磁性支持体が使用されるのは、2μm未満では製膜が難しく、またテープ強度が小さくなり、5μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、テープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0056】
〈潤滑剤〉
非磁性層には磁性層と非磁性層に含まれる全粉体に対して0.5〜5.0重量部の高級脂肪酸を含有させ、0.2〜3.0重量部の高級脂肪酸のエステルを含有させると、ヘッドとの摩擦係数が小さくなるので好ましい。磁性層における脂肪酸の添加量としては、非磁性層と磁性層の間で脂肪酸が転移するので、特に限定されるものではなく、磁性層と非磁性層を合わせた脂肪酸の添加量を上記の量とすればよい。非磁性層に脂肪酸を添加すれば、必ずしも磁性層に脂肪酸を添加しなくてもよい。
【0057】
〈分散剤〉
非磁性層や磁性層に含まれる非磁性粉末やカーボンブラック、磁性粉末は、分散剤としては、リン酸系分散剤、カルボン酸系分散剤、アミン系分散剤、キレ―ト剤、各種シランカップリング剤などが好適なものとして用いられる。これらの分散剤は、混練前処理工程、混練工程や初期分散工程の後に配合するのが好ましい。リン酸系分散剤としては、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチルなどのアルキルリン酸エステル類、フエニルホスホン酸、モノオクチルフエニルホスホン酸などの芳香族リン酸類などが挙げられ、市販品として、東邦化学製の「GARFAC RS410」、城北化学工業製の「JP−502」、「JP−504」、「JP−508」などを用いることができる。これら分散剤の使用量としては、磁性粉末100重量部あたり、0.5〜5重量部となる割合とするのが好ましい。
【0058】
〈磁性層〉
磁性層の厚さは、0.01μm以上、0.1μm未満が好ましく、0.06μm以下がより好ましく、0.04μm以下がさらに好ましい。この範囲が好ましいのは、0.01μm未満では得られる出力が小さいのと、均一な磁性層を塗布するのが困難であり、0.1μmを超えると短波長記録に対する分解能が低下するためである。
【0059】
磁性層(非磁性層の場合も同様)に用いる結合剤樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせものが挙げられる。 官能基として、−COOH、−SOM、−OSOM、−P=O(OM)、−O−P=O(OM)[これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、−OH、−NR'R''、−N+R'''R''''R'''''[これらの式中、R'、R''、R'''、R''''、R'''''は水素または炭化水素基を示す]、エポキシ基を有する高分子からなるウレタン樹脂等の結合剤樹脂が使用される。このような結合剤樹脂を使用するのは、上述のように磁性粉末等の分散性が向上するためである。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも−SOM基どうしの組み合わせが好ましい。
【0060】
これらの結合剤樹脂は、磁性粉末100重量部に対して、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で用いられる。特に、バインダ樹脂として、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部と、ポリウレタン樹脂2〜20重量部とを、複合して用いるのが最も好ましい。
【0061】
これらの結合剤樹脂とともに、結合剤樹脂中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常1〜30重量部の割合で用いられる。
【0062】
磁性層には、粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmの非磁性板状粒子を添加してもよい。また、必要に応じて、従来公知の研磨材を添加することができるが、これらの研磨材としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上のものが単独または組み合せで使用される。研磨材の粒径としては、厚みが0.01〜0.09μmと薄い磁性層では、通常粒子径(数平均粒子径)で10nm〜150nmとすることが好ましい。添加量は磁性粉末に対して5〜20重量部が好ましい。より好ましくは8〜18重量部である。
【0063】
さらに、本発明の磁性層には導電性向上のために、板状ITO粒子、板状カーボンブラック、導電性向上と表面潤滑性向上を目的に従来公知のカーボンブラック(CB)を添加することができるが、これらのカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。添加量は磁性粉末に対して0.2〜5重量部が好ましい。より好ましくは0.5〜4重量部である。
【0064】
〈バックコート層〉
本発明の磁気記録媒体を構成する非磁性支持体の他方の面(磁性層が形成されている面とは反対側の面)には、走行性の向上等を目的としてバックコート層を設けることができる。バックコート層の厚さは0.2〜0.8μmが好ましい。この範囲が良いのは、0.2μm未満では、走行性向上効果が不充分で、0.8μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記録容量が小さくなるためである。カーボンブラック(CB)としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。通常、小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックを使用する。大粒径カーボンブラックとして、小粒径カーボンブラックの5〜15重量部、粒子径300〜400nmの大粒径カーボンブラックを使用すると、表面も粗くならず、走行性向上効果も大きくなる。小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラック合計の添加量は無機粉体重量を基準にして60〜98重量部が好ましく、70〜95重量部がより好ましい。中心線平均表面粗さRaは3〜8nmが好ましく、4〜7nmがより好ましい。
【0065】
バックコート層には、結合剤樹脂として、前述した磁性層や非磁性層に用いる樹脂と同じものを使用できるが、これらの中でも摩擦係数を低減し走行性を向上させるため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを複合して併用することが好ましい。セルロース系樹脂を30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂を20〜50重量部使用することが好ましい。また、さらに結合剤樹脂を硬化するために、ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を用いることが好ましい。
【0066】
バックコート層には、前述した磁性層や非磁性層に用いる架橋剤と同様の架橋剤を使用する。架橋剤の量は、結合剤樹脂100重量部に対して、通常、10〜50重量部の割合で用いられ、好ましくは10〜35重量部である。
【0067】
〈有機溶剤〉
磁性塗料、非磁性塗料、バックコート塗料に使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で又は混合して使用され、さらにトルエンなどと混合して使用される。
【0068】
なお、下層塗料および磁性塗料の塗布方法は、非磁性支持体上に下層塗料を塗布し乾燥したのちに磁性塗料を塗布する、逐次重層塗布方法(ウェット・オン・ドライ)か、下層塗料と磁性塗料とを同時に塗布する、同時重層塗布方法(ウェット・オン・ウェット)かのいずれを採用してもよい。
【実施例】
【0069】
つぎに、本発明の実施例を記載して、さらに具体的に説明するがそのまえに、本発明で採用した評価・測定方法について予め説明しておく。
【0070】
[磁性粉末および磁気テープの磁気特性]
保磁力Hc,飽和磁化σs,角型比Br/Bmは試料振動形磁束計(東英工業者社製VSM)で、外部磁場1274KA/m (16kOe)で測定を行った。
【0071】
[磁気テープの表面粗さ]
ZYGO社製NewView5000を用い、走査型白色光干渉法にて50倍の対物レンズを用いて、ズーム設定で100倍(測定視野72μm×54μm)にして測定し、中心線平均粗さRaを求めた。
【0072】
[磁気テープの電磁変換特性]
テープの電磁変換特性測定には、ドラムテスターを用いた。データ信号の出力及びノイズは、ドラムテスターには電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.2μm)とMRヘッド(トラック幅5.5μm、シールド間隔0.17μm)を装着し、誘導型ヘッドで記録、MRヘッドで再生を行った。ファンクションジェネレータにより矩形波を記録電流電流発生器に入力制御して書き込み、MRヘッドの出力をプリアンプで増幅後、シバソク製スペクトラムアナライザーに読み込んだ。0.4μmのキャリア値を媒体出力Cとした。また0.4μmの矩形波を書き込んだときに、記録波長0.4μm以上に相当するスペクトルの成分から、出力及びシステムノイズを差し引いた値の積分値をノイズ値Nとして用いた。更に両者の比をとってC/Nとし、C/Nは比較例2のテープの値を基準として、それとの相対値を求めた。
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部は、重量部である。
(実施例1)
<非磁性塗料成分>
(1)A成分
針状酸化鉄 80部
カーボンブラック 17部
粒状アルミナ粉末 3部
メチルアシッドフォスフェート 1部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 9部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SONa基:1×10−4当量/g)
テトラヒドロフラン 13部
シクロヘキサノン 63部
メチルエチルケトン 137部
(2)B成分
ステアリン酸ブチル 2部
ステアリン酸 1部
シクロヘキサノン 50部
トルエン 50部
(3)C成分
ポリイソシアネート 6部
シクロヘキサノン 9部
トルエン 9部
【0074】
厚さ6μmのポリエステルフイルムの一方の主面上に、まず、上記の非磁性下層塗料を塗布し、乾燥処理及びカレンダ処理を行って、厚さ1.0μmの非磁性層を形成した。
【0075】
<磁性塗料成分>
(1)表面処理工程成分(第1組成物)
粒状窒化鉄磁性粉末 100部
(Al−Y−Fe−N)〔σs:70Am/kg(70emu/g) Hc:214.9kA/m(2700Oe)、平均粒子径17nm〕
アルミナ粉末 8部
フェニルホスフォン酸 5部
テトラヒドロフラン(THF) 264部
固形分濃度 30重量部
(2)濃縮工程(第2組成物)
固形分濃度 98重量部
(3)混練工程成分
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 6.3部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
メチルエチルケトン 14.7部
固形分濃度 87.5重量部
追加分 塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 2.7部
メチルエチルケトン 6.2部
固形分濃度 84.0重量部
(4)再混練工程成分
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 12.5部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 7.6部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
メチルエチルケトン 37.8部
トルエン 8.8部
固形分濃度 67.0重量部
(5)希釈工程成分
ステアリン酸アミド 2部
シクロヘキサノン 49.2部
トルエン 49.2部
(6)配合工程成分
ポリイソシアネート 3.6部
シクロヘキサノン 76.5部
トルエン 76.5部
【0076】
上記の磁性塗料成分の中から、まず、(1)の表面処理工程成分を表面処理槽内に投入し、濃縮表面処理方法で磁性粉の表面処理を行った。具体的には、回転剪断型攪拌機で攪拌して、第1組成物を得た。この第1組成物の固形分濃度は30重量部である。
【0077】
得られた第1組成物を、縦型振動乾燥機に投入し、槽内を振動させ10KPaの減圧下、60℃に加温して濃縮し、有機溶剤を蒸発させて固形分濃度98重量部の第2組成物を得た。
【0078】
得られた第2組成物に(3)の混練工程成分の一部を加えて固形分濃度87.5重量部(第1の固形分濃度)として、二軸押し出し機で混練し、下流側で残りの(3)成分を加えて固形分濃度84重量部(第2の固形分濃度)として、加圧型バッチ式ニーダに所定量排出した。二軸押し出し機での第2組成物の送り速度(混練処理量)は150g/分で行った。その後、加圧型バッチ式ニーダを稼働させ練り物状として60分混練し(4)の再混練工程成分を段階的に添加しながら60分混練し固形分濃度を67.0重量部とした。(5)の希釈工程成分の一部を加えて希釈を行い、加圧型バッチ式ニーダから二軸押し出し機にポンプ搬送ができる程度の粘度となるように固形分濃度45.0重量部まで低下させたあと、加圧型バッチ式ニーダと二軸押し出し機を循環させて希釈を均一に行った。循環が可能となる組成物の固形分濃度は55重量部以下である。循環回数は3回として140分間循環した。
【0079】
加圧型バッチ式ニーダと二軸押し出し機を循環させて希釈を均一に行って取り出した組成物に、さらに(5)の希釈工程成分の残部を加え、固形分濃度28.0重量部の状態で高速攪拌して均一な分散前スラリを得た。
【0080】
分散前スラリをナノミル(浅田鉄工所製)で、90分の滞留時間で分散し、これに(6)の配合工程成分を加え、撹拌・ろ過後、高圧噴霧衝突式分散機アルティマイザー(スギノマシン社製)により、分散処理して磁性塗料を得た。磁性塗料は塗布する前に粘度調整工程を経たあとフィルターを通してから、先に塗布しておいた下塗り層である非磁性層の上に上記磁性塗料をソレノイド配向磁場(5KG)中で塗布し、乾燥処理及びカレンダ処理を行って、厚さ80nmの磁性層を形成した。
【0081】
<バックコート層用塗料成分>
カーボンブラック(平均粒子径25nm) 80部
カーボンブラック(平均粒子径350nm) 10部
粒状酸化鉄(平均粒子径50nm) 10部
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
【0082】
上記のバックコート層用塗料成分をサンドミルで分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバック層用塗料を調整し、ろ過後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に、カレンダ後の厚みが0.5μmになるよう塗布し乾燥して磁気シートの原反(ジャンボロール)をえた。また原反をコアに巻いた状態で60℃48時間エージングして評価用の磁気シートを作製した。
【0083】
(実施例2)
混練工程において、以下のような組成と手順で行う以外は実施例1と同様に磁気シートを作成した。
(3)混練工程成分
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 9部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
メチルエチルケトン 26.3部
固形分濃度 81重量部
得られた第2組成物に(3)の混練工程成分を加えて、固形分濃度81重量部(第1の固形分濃度)として二軸押し出し機で混練し、固形分濃度81重量部(第2の固形分濃度)として、加圧型バッチ式ニーダに所定量排出した。
【0084】
(実施例3)
磁性層に用いる磁性粉末を平均粒子径が25nmの粒状窒化鉄磁性粉末(Al−Y−Fe−N)〔σs:100Am/kg(100emu/g)、Hc:217kA/m(2713Oe)に変更した以外は実施例1と同様に行って磁気シートを作製した。
【0085】
(実施例4)磁性層に用いる磁性粉末を、長軸の平均粒子径が35nmの針状の強金属磁性粉末(Fe−Co−Y)〔σs:103Am/kg(103emu/g)、Hc:178kA/m(2225Oe)に変更した以外は実施例1と同様に行って磁気シートを作製した。
【0086】
(実施例5)磁性層に用いる磁性粉末を、長軸の平均粒子径が60nmの針状強金属磁性粉末(Fe−Co−Y)〔σs:102Am/kg(102emu/g)、Hc:182kA/m(2270Oe)に変更した以外は実施例1と同様に行って磁気シートを作製した。
【0087】
(実施例6)磁性層に用いる磁性粉末を、長軸の平均粒子径が100nmの針状強金属磁性粉末(Fe−Co−Y)〔σs:150Am/kg(150emu/g)、Hc:190kA/m(2370Oe)に変更した以外は実施例1と同様に行って磁気シートを作製した。
【0088】
(実施例7)磁性層に用いる磁性粉末を、平均板径が30nmのバリウムフェライト磁性粉末(Fe−Ba)〔板状比2.5,σs:50Am/kg(50emu/g)、Hc:170.4kA/m(2130Oe)に、塗布時の磁場配向を5KGから0KGに変更した以外は実施例1と同様に行って磁気シートを作製した。
【0089】
(実施例8)磁性層に用いる磁性粉末を、平均板径が40nmのバリウムフェライト磁性粉末(Fe−Ba)〔板状比3.0,σs:62Am/kg(62emu/g)、Hc:180.0kA/m(2380Oe)に、塗布時の磁場配向を5KGから0KGに変更した以外は実施例1と同様に行って磁気シートを作製した。
【0090】
(比較例1)
実施例4において、二軸押し出し機で混練工程成分(3)で混練したあと再混練工程成分(4)を二軸押し出し機の結合剤樹脂投入口から添加して処理速度を
50g/分にして、加圧型バッチ式ニーダを用いないで二軸押し出し機での組成物の滞留時間を長くした以外は、実施例4と同様にして磁気シートを作製した。
【0091】
(比較例2)
実施例6において、二軸押し出し機で混練工程成分(3)で混練したあと再混練工程成分(4)を二軸押し出し機の結合剤樹脂投入口から添加して処理速度を50g/分にして、加圧型バッチ式ニーダを用いないで二軸押し出し機での組成物の滞留時間を長くした以外は、実施例4と同様にして磁気シートを作製した。
【0092】
(比較例3)
実施例4において、混練工程成分(3)の混練に二軸押し出し機に代えて加圧型バッチ式ニーダを用いて合計140分混練した以外は、実施例4と同様にして磁気シートを作製した。
【0093】
(比較例4)
実施例6において、混練工程成分(3)の混練に二軸押し出し機に代えて加圧型バッチ式ニーダを用いて合計140分混練した以外は、実施例5と同様にして磁気シートを作製した。
【0094】
(比較例5)
実施例4において、混練工程成分(3)を加圧型バッチ式ニーダで、再混練工程成分(4)を二軸押し出し機で混練して、加圧型バッチ式ニーダと二軸押し出し機と循環させて希釈することをしなかった以外は実施例4と同様にして磁気シートを作製した。
【0095】
表1、表2に各評価用の磁気シートの評価結果を示した。















【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
表から明らかなように、本発明に係る実施例1〜8の磁気シートは、連続式混練装置とバッチ式混練装置とを組み合わせて、混練、希釈したものであり、請求項1を満たさない本発明の対象外の比較例1〜5の磁気シートに比較して、良好に混練、希釈、分散されており、そのため磁気シートの平滑性、磁気特性が良好であることから、短波長記録特性に優れた磁気シートが得られている。
【0099】
また、磁気シートのドラムによるC/Nは、本質的に用いる磁性粉末の大きさ(体積)による。したがって比較例3や比較例5のC/Nは、粒子径100nmと大きな磁性粉末を使用した実施例6の磁気シートのC/Nより優れている。しかしながら、磁性粉末が小さなものの本発明による製造方法の効果は、先に述べたように用いた磁性粉末が平均粒子径50nmより小さな微粒子の場合の方が顕著である。実施例4と比較例1や3との比較と実施例6と比較例2や4との比較をみると、粒子径の小さな35nmの磁性粉末を使用した実施例4の方の磁気シートの電磁変換特性であるC/Nの向上の程度が大きいことがわかる。これは混練工程における解砕と練り込み機能を特化させた効果が微粒子になるほど明らかになったためである。
【符号の説明】
【0100】
1 二軸押し出し機(連続式混練装置)
2 加圧型バッチ式ニーダ(バッチ式混練装置)
3 原材料配合用タンク
4 結合剤樹脂溶液タンク
5 送液用ポンプ
6 取り出しバルブ
7 三方バルブ
8 有機溶剤タンク
9 ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体の一方の主面に磁性粉末と結合剤樹脂とを含む磁性塗料を塗布することにより磁性層を形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記磁性塗料が、連続式混練装置にて第1の固形分濃度にて前記磁性粉末と前記結合剤樹脂とを混練することを含む混練工程と、前記連続式混練装置とこれに直列に配設されたバッチ式混練装置とを用いて前記第1の固形分濃度以下の第2の固形分濃度で混練することを含む再混練工程と、を経て製造されることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
再混練工程のあと第2の固形分濃度以下の固形分濃度まで希釈を行う希釈工程を経て製造されることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記希釈工程が、希釈塗料を直列に配設された前記バッチ式混練装置と前記連続式混練装置とで少なくとも2回以上循環処理することで行われることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の製造方法にて製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−218654(P2010−218654A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66491(P2009−66491)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】