説明

耐火性に優れる透光性建材

【課題】透光性プラスチックを基板に用いて、透光性を有し、かつ建築物等の防耐火の規制がかかる部位にも適用可能な優れた耐火性を安定して呈する透光性板状建材を提供する。
【解決手段】熱変形温度115℃以上の熱可塑性樹脂からなる透光性部材で構成される中空パネルの中空部にアルカリ金属珪酸塩水溶液からなる中間層を設けた透光性板状建材であって、前記アルカリ金属珪酸塩水溶液は、n=SiO2/R2O(Rはアルカリ金属元素)で表されるモル比nと水溶液中の含水率w(質量%)の関係が図1の直線AB、BC、CD、DE、EF、FAに囲まれる範囲(境界を含む)にある組成を有するものである耐火性に優れる透光性建材。アルカリ金属珪酸塩水溶液中に占める珪酸塩(R2O・nSiO2)濃度が26.5質量%以上であるものが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック建材を使用した透光性板状建材であって、一般建築物の開口部に用いることができる防耐火性能を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
透光性(可視光線を透過する性質)を有する建材としてはガラスが最も一般的に広く使用されている。しかしガラスは造形性が悪く、平板状のガラスを曲面状に加工することは極めて困難である。そのため、建築物の開口部に曲面状のガラスを適用する場合には予め工場で所定形状に仕上げたガラス板を用意する必要があり、コストが高くなる。また、建築物の外壁をガラス板で構成する場合、造形的な曲面形状を実現するためには平板状のガラス板を少しずつ角度を変えて配置せざるを得ないなど制約が大きく、意匠性のニーズを十分満たすことができない場合も少なくない。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂に代表される透光性プラスチックは加工性・造形性に優れ、ガラスと同等の強度や工学的性能を実現することができる。しかし、耐熱性能や耐火性能に劣るためアーケードの屋根等の限られた用途にしか使用されていない。もし、透光性プラスチックを用いた建材の耐火性を一般建築物に適用可能な水準に高めることが可能となれば、ガラスのように割れる心配がないことからガラス建材の代替として種々の箇所への適応が考えられる。またガラスにはない加工性・造形性を活かして意匠性が要求される建築物の設計自由度が大きく拡大するものと期待される。
【0004】
建築基準法によれば、建築物等において防耐火の規制がかかる部位には所定の耐火性能を有する建材を使用しなければならない。そのような耐火性の建材としては、コンクリート、モルタル、タイル、レンガ等の無機系材料が挙げられる。しかしこれらは透光性を有していない。特許文献1〜12には、透光性建材の耐火性を改善する有効な手法として、水ガラスに代表されるアルカリ金属珪酸塩と透光性基材からなる複合材料とする手法が開示されている。しかし、具体的に例示されているものはいずれも透光性基材にガラス板を使用したものである。ガラス板は衝撃力を受けると割れやすく、また前述のように曲面形状の造形が難しいという欠点がある。特許文献11には透光性建材として合成樹脂が使用できる旨の記載はあるが(段落0005)、実施例にはガラス板を使用したものしか示されていない。透光性プラスチックは耐熱温度が低く、ガラスに比べ本質的に耐熱性に劣る材料である。そのような材料を用いて防耐火の規制がかかる部位に適用可能な透光性建材を実現することは容易ではない。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−120548号公報
【特許文献2】特開平3−242359号公報
【特許文献3】特開平4−219352号公報
【特許文献4】特開平5−186249号公報
【特許文献5】特開平6−1639号公報
【特許文献6】特開平6−1640号公報
【特許文献7】特開平6−56486号公報
【特許文献8】特開平7−206482号公報
【特許文献9】特開平8−67538号公報
【特許文献10】特開平10−95641号公報
【特許文献11】特開平11−199278号公報
【特許文献12】特開2003−2704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような現状に鑑み、透光性プラスチックを基材に用いて、透光性を有し、かつ建築物等の防耐火の規制がかかる部位にも適用可能な優れた耐火性を安定して呈する透光性板状建材を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、熱変形温度115℃以上の熱可塑性樹脂からなる透光性部材で構成される中空パネルの中空部にアルカリ金属珪酸塩水溶液からなる中間層を設けた透光性板状建材であって、前記アルカリ金属珪酸塩水溶液は、n=SiO2/R2O(Rはアルカリ金属元素)で表されるモル比nと水溶液中の含水率w(質量%)の関係が図1の直線AB、BC、CD、DE、EF、FAに囲まれる範囲(境界を含む)にある組成を有するものである耐火性に優れる透光性建材によって達成される。この透光性建材は平板状であっても構わないし、曲面状であっても構わない。アルカリ金属珪酸塩水溶液中に占める珪酸塩(R2O・nSiO2)濃度が26.5質量%以上であるものが特に好ましい。ここで、熱可塑性樹脂の「熱変形温度」はASTM D648、JIS K7191−1に規定される荷重たわみ温度に相当するものである。「透光性部材で構成される中空パネル」とは、建材として使用される際に透光性を発揮する部分における板厚全体が当該透光性部材からなる中空パネルであり、例えばパネルの端部などの一部に金属などの異種材料が使用されていても構わない。
【0008】
図1は横軸にモル比n=SiO2/R2O(Rはアルカリ金属元素)、縦軸に含水率w(質量%)をそれぞれ直線目盛でとったグラフである。各点の座標はA(1.75,50)、B(1.75,54)、C(3.75,70)、D(5.5,70)、E(5.5,58)、F(4.5,50)である。
【0009】
アルカリ金属珪酸塩は分子式R2O・nSiO2・mH2O(Rはアルカリ金属元素、n,mは係数)で表される水和化合物である。具体的には珪酸ナトリウム;Na2O・nSiO2・mH2O、珪酸カリウム;K2O・nSiO2・mH2Oなどが挙げられる。アルカリ金属珪酸塩水溶液はアルカリ金属珪酸塩の分子が溶媒の水に溶解している液体である。モル比nは水溶液中に溶解しているアルカリ金属珪酸塩R2O・nSiO2・mH2Oにおける係数n(平均値)である。水溶液中の含水率wは水溶液に占める溶媒の水の質量割合であり、アルカリ金属珪酸塩を構成する水和水(mH2Oの部分)は含まれない。アルカリ金属珪酸塩水溶液中に占める珪酸塩(R2O・nSiO2)濃度は液中に存在するR2O・nSiO2・mH2O分子のR2O・nSiO2の部分が占める質量割合である。
【0010】
上記の透光性建材において、透光性部材によって仕切られた複数の中間層を厚さ方向に持つ構造のものが好適な対象となる。また、中間層を構成するアルカリ金属珪酸塩水溶液の存在量に関しては、厚さ方向の少なくとも片側の表面から深さ10mm以内の領域に占める中間層の平均存在割合が50体積%以上であるものが特に好ましい対象となる。この表面側が火炎に曝されたときに優れた耐火性が発揮される。なお、この表面に、当該透光性建材の平均厚さよりもピッチ(山と山の間隔)の小さい凹凸が存在する場合は、平均深さ10mm以内の領域を評価対象とすればよい。当該透光性建材の厚さが10mm未満である場合は板厚全域が評価対象となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透光性プラスチックを使用した耐火性の高い透光性建材が提供された。この建材は建築基準に関する法令により防耐火の規制がかかる部位に使用することができるので、例えば防火扉等、これまで透光性材料の使用が困難であった部分に透光性を付与することが可能になる。また、ガラスのように割れる心配がないので種々のガラス建材の代替として有用である。さらに、材料として使用する透光性プラスチックは加工性・造形性に優れることから、任意の曲面を持つ板状建材を比較的容易に作ることが可能である。そのため例えば、曲面形状を有する透光性の壁面を取り入れた建築物の設計自由度拡大に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図2に、本発明の透光性板状建材の断面構造を模式的に例示する。熱可塑性樹脂からなる透光性部材11で構成される中空パネルの中空部にアルカリ金属珪酸塩水溶液を充填した中間層21が設けられている。この例では4枚の板状の透光性部材11の間に中間層21が存在している。すなわち、透光性部材11によって厚さ方向に仕切られる中間層21の数は3層(領域A、B、C)である。
【0013】
図3に、本発明の透光性板状建材の別の断面構造を模式的に例示する。この場合は平板状の透光性部材11、13と、曲面状の透光性部材12によって中空パネルが構成され、その中空部にアルカリ金属珪酸塩水溶液を充填した中間層21が設けられている。透光性部材11または12によって厚さ方向に仕切られる中間層21の数は、位置pにおいて6層(領域A、B、C、D、E、F)、位置qにおいて4層(領域G、C、D、H)である。また、板面に沿う方向(厚さ方向に対して垂直方向)にも透光性部材12、13によって中間層21が仕切られている。このように、透光性部材が厚さ方向全体に繋がり、厚さ方向および板面に沿う方向のそれぞれに複数の中間層を有する「骨格構造」とすることにより、透光性板状建材の強度レベルを大幅に向上させることができる。
【0014】
この透光性板状建材の片側の表面(図2の表面X)が火炎に曝されたとき、当該建材が優れた耐火性能を発揮するメカニズムについて、図2の例を挙げて説明する。なお、火炎に曝される加熱側の表面と反対側の表面(図2の表面Y)をここでは「裏面」と呼ぶ。
(1)加熱側表面直下の中間層21(領域A)を構成するアルカリ金属珪酸塩水溶液が火炎により熱せられ、その温度が100℃程度になると水溶液中の溶媒水分が盛んに蒸発する。このとき表面Xを構成する透光性部材11は加熱により軟化しており、欠陥が形成されやすい状態となっている。蒸発した水分は表面Xを構成する透光性部材11に形成された欠陥などを通して外部に放出され、中間層21(領域A)のアルカリ金属珪酸塩水溶液は高濃度化する。
(2)中間層21(領域A)のアルカリ金属珪酸塩水溶液の温度が100〜120℃程度になると、水溶液中に含まれるアルカリ珪酸塩の水和水が気化し、気化熱として周囲の熱を奪うことで温度の上昇を抑制する。
(3)高濃度化した水溶液は、溶媒水分の更なる蒸発および水和水の気化により発生する水蒸気によって発泡する。この段階で表面Xを構成する透光性部材11は発泡による内部からの圧力に耐えられない状態となっており、発泡した水溶液が加熱側の表面に露出する。
(4)発泡した水溶液中の珪酸分(SiO2)がガラス化し、当該透光性板状建材の加熱側表面は断熱性の高い不燃性の発泡層で覆われる。加熱の強さによっては、より裏面側の中間層21(領域B)、あるいはさらに裏面側の中間層21(領域C)においても発泡が生じ、より分厚い発泡層が加熱側表面に形成される。このようにして、裏面の温度(以下「裏面温度」ということがある)は透光性部材11の熱変形温度より低い温度に(例えば100℃前後)に維持され、加熱側の火炎が反対側に燃え移ることが防止される。
【0015】
このようなメカニズムで効果的に耐火性能を発揮させるためには、透光性板状建材の厚さ方向に、透光性部材11に仕切られた複数の中間層21が存在するような構造を採用することが望ましい。発泡が生じた中間層21の合計厚さが大きくなるほど、加熱側表面を覆う発泡層の厚さも大きくなり、それに伴い表面の断熱効果も増大する。つまり、厚さ方向に複数の中間層21を設けておくことにより、加熱の強さと断熱効果とがバランスする厚さで発泡層が形成され、少なくとも最も裏面側の透光性板状体が残存する状態で防耐火構造の板状体が構築される。ガラス化した脆い発泡層のみでは壊れやすいが、裏面にプラスチック材料が付着していることで耐久性が大幅に向上する。
【0016】
また、上記のようなメカニズムによって加熱側表面を迅速に発泡層で覆うためには、厚さ方向の少なくとも片側の表面(すなわち、加熱側となる表面)から深さ10mm以内の領域に占める中間層の平均存在割合を50体積%以上とすることが好ましい。例えば図2のdで示される深さが10mmであるとき、この深さ領域の全体積に占める中間層21(領域Aの全部+領域Bの一部)の割合が50体積%以上であることが好ましい。50体積%を超えるように管理すること、例えば55体積%以上、あるいは60体積%以上に管理することがより好ましい。
【0017】
本発明の透光性板状建材の厚さは、例えばJIS A1311あるいはJIS A1304に準拠した耐火試験における壁30分耐火をクリアするためには10mm以上とすることが望ましい。壁60分耐火をクリアするためには20mm以上とすることが望ましい。ただし、あまり厚いと透光性能の低下、取扱い性の低下、材料コストの増大を招くので、50mm以下とするのが望ましく、通常、30mm以下とすればよい。
【0018】
本発明の透光性板状建材の構成部材である透光性部材には、熱変形温度が115℃以上の熱可塑性樹脂を採用する。それより熱変形温度が低い樹脂を使用すると火炎に曝された場合の裏面温度が耐熱温度を超えることがあり好ましくない。例えば、ポリカーボネート樹脂、耐熱性を高めた一部のアクリル樹脂などが適用できる。中でもポリカーボネート樹脂は透光性能および耐熱性に優れる点で好ましい。板厚は強度的に0.5mm以上とすることが望ましく、0.8mm以上とすることがより好ましい。ただし、あまり厚い材料を使用すると中間層の存在割合を十分に確保することが難しくなる。また、加熱側の表面を構成する部材においては、厚すぎるとアルカリ金属珪酸塩水溶液から生じる水蒸気の放出および気泡層の形成を遅らせる要因になり好ましくない。したがって、少なくとも加熱側となる表面から10mm深さまでの領域に使用する透光性板状体は、5mm以下の板厚とすることが望ましく、3mm以下とすることがより好ましく、2mm以下が一層好ましい。1.5mm以下のものを使用することも十分可能である。
【0019】
次に中間層の構成材料であるアルカリ金属珪酸塩水溶液について説明する。
中間層に適用するアルカリ金属珪酸塩水溶液は、前述のようにR2O・nSiO2・mH2O(Rはアルカリ金属元素)で表されるアルカリ金属珪酸塩が、溶媒である水に溶解している液体である。アルカリ金属珪酸塩としては、珪酸ソーダ(珪酸ナトリウム)や、珪酸カリウムが挙げられる。水ガラスに代表される市販のアルカリ金属珪酸塩水溶液を使用して、組成調整することができる。
【0020】
発明者らの詳細な検討の結果、図1の直線AB、BC、CD、DE、EF、FAに囲まれる範囲(境界を含む)にある組成を有する水溶液を適用したとき、前述した耐火メカニズムが発揮され、優れた耐火性を呈する透光性板状建材を実現できることが明らかになった。
【0021】
具体的には、アルカリ金属珪酸塩のモル比n=SiO2/R2Oが増大するほど、また水溶液の含水率w(質量%)が増大するほど、耐火性能が向上することが確認された。すなわち、図1において、右下の領域に行くほど耐火性能の向上には有利となる。特にJIS A1311あるいはJIS A1304に準拠した耐火試験における壁60分耐火をクリアするためには、直線BCの右側の領域(境界を含む、以下特に断らない限り同様)の組成とすることが必要である。直線BCに代えて直線KLの右側の領域に管理することがより好ましく、直線K11の右側の領域に管理することが一層好ましい。ここで点K(1.75,53)、点L(3.875,70)である。ただし、モル比nが1.75未満である場合や、含水率wが70質量%を超える場合は、良好な結果が得られにくくなる。したがって、直線ABの右側、かつ直線CDの下側であることが必要である。直線CDに代えて直線MNの下側の領域とすることがより好ましい。また直線ABに代えて直線A11の右側の領域とすることがより好ましい。
【0022】
一方、アルカリ金属珪酸塩水溶液の流動性に関しては、図1の右下の領域に行くほど悪くなる。種々検討の結果、直線EFの左側の領域であれば中空パネルの中空部に充填することが可能であることが確認された。図3に例示されるような複雑な「骨格構造」を採用する場合などは、アルカリ金属珪酸塩水溶液の充填操作をより効率的に行う上で直線GHの左側の領域であることがより好ましく、直線IJの左側の領域であることが一層好ましい。ただし、モル比が5.5を超える場合や、含水率が50%未満である場合は、良好な充填が行いにくくなる。したがって、直線DEの左側、かつ直線FAの上側であることが必要である。直線DEに代えて直線IPの左側の領域とすることがより好ましい。
【0023】
発明者らは、アルカリ金属珪酸塩水溶液の組成に関し、さらに詳細な検討を重ねた結果、水溶液中の珪酸塩(R2O・nSiO2)濃度26.5質量%を境に耐火性能のバラツキ挙動が大きく変化することを発見した。すなわち珪酸塩(R2O・nSiO2)濃度が26.5質量%以上になると耐火性能のバラツキが極めて小さくなり、極めて安定して優れた耐火性能を呈するようになるのである。したがって、特に高い信頼性を得るためには上記のようにモル比nおよび含水率wの関係が適正化された組成において、さらに水溶液中における珪酸塩濃度を26.5質量%以上とすることが極めて効果的である。珪酸塩濃度を27質量%以上とすることがより好ましい。
【実施例1】
【0024】
JIS K6719−1、JIS K6719−2に準拠するポリカーボネート樹脂(熱変形温度135℃)を用いて、押出成形により図3に示す断面構造の中空パネルを作製した。透光性部材の厚さは1.2mmである。各透光性部材は1方向(図3で言えば紙面に垂直方向)に対して平行に配置されている。パネルの厚さは24mmであり、炉体に取り付けたときに300mm×300mmの表面が火炎に曝されるような寸法形状を有している。
【0025】
アルカリ金属珪酸塩として、JIS K1408に準拠する市販の珪酸ソーダ(JIS−1号、3号、5号)を用意した。各珪酸ソーダに必要に応じて水を添加し、種々の含水率wを有するアルカリ金属珪酸塩水溶液を作製した。各アルカリ金属珪酸塩水溶液をそれぞれ上記の中空パネルの中空部に充填し、透光性部材によって仕切られた複数の中間層を厚さ方向および板面に平行方向に持つ透光性板状建材の試験体(厚さ24mm)を得た。各試験体において、厚さ方向の片側の表面から深さ10mm以内の領域に占める中間層の平均存在割合は50体積%を超えている。
表1に、使用したアルカリ金属珪酸塩水溶液の組成(分析値に基づくもの)を示してある。
【0026】
各アルカリ金属珪酸塩水溶液についてそれぞれ2体の試験体をJIS A1311、JIS A1304に準拠する方法で60分の耐火試験に供した。試験体を炉体に取り付け、300mm×300mmの片側表面を火炎に曝し、裏面の3箇所に貼り付けた熱電対により裏面温度をモニターした。アルカリ金属珪酸塩水溶液の種類ごとに、測定点3箇所×試験体2体=計6箇所の裏面温度のデータを採取した。一般的に裏面温度の判定基準は、「各測定点で外気温+180℃以下、平均で外気温+140℃以下」の場合を合格とするのが通則であるが、ここでは全ての測定点で裏面最高到達温度がポリカーボネートの熱変形温度135℃未満であるものを合格、それ以外のものを不合格と評価した。表1に、裏面最高到達温度が最も高かった測定点のデータをそのアルカリ金属珪酸塩水溶液における成績として記載した。図1には、使用したアルカリ金属珪酸塩水溶液のモル比nと含水率wの関係を、試験結果を反映して合格;○印、不合格;×印にてプロットした。
【0027】
【表1】

【0028】
表1のデータおよび図1のプロットに示されるように、図1における直線BCの右側の領域の組成を有するアルカリ金属珪酸塩水溶液で中間層を構成した本発明例のものにおいて、JIS A1311あるいはJIS A1304に準拠した耐火試験における壁60分耐火をクリアできることが確認された。
【0029】
図4に、アルカリ金属珪酸塩水溶液の珪酸塩(Na2O・nSiO2)濃度と各測定点における裏面最高到達温度の関係を示す。珪酸塩濃度26.5質量%を境に裏面最高到達温度のバラツキ挙動が急変し、珪酸塩濃度26.5質量%以上の場合に極めて安定して優れた耐火性能を呈することが確認された。
【実施例2】
【0030】
実施例1と同様に透光性部材の厚さが1.2mmである「骨格構造」の中空パネル(厚さ24mmおよび12mm)を作製した。これら2種類の中空パネルの中空部に、実施例1で使用したNo.3−60に相当するアルカリ金属珪酸塩水溶液を充填し、透光性部材によって仕切られた複数の中間層を厚さ方向および板面に平行方向に持つ透光性板状建材の試験体(厚さ12mm、24mm)を得た。各試験体において、厚さ方向の片側の表面から深さ10mm以内の領域に占める中間層の平均存在割合は50体積%を超えている。
【0031】
各試験体についてJIS R3106に準拠した日射透過率試験を行った。その結果を図5に示す。これらの透光性板状建材は塩化ビニル板ないしガラス板相当の透光性を呈することが確認された。
【0032】
各試験体について実施例1と同様の手法で300mm×300mmの片側表面を火炎に曝し、裏面の3箇所に貼り付けた熱電対により裏面温度をモニターした。ただし、厚さ12mmのものは30分加熱、厚さ24mmのものは60分加熱とした。それぞれの試験体について測定した3箇所の測定点での裏面温度の経時変化を図6に示す。厚さ12mmのもので外壁30分の耐火性能を満足し、厚さ24mmのもので外壁60分の耐火性能を満足することが確認された。また、いずれも裏面最高到達温度はポリカーボネートの熱変形温度135℃未満であった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】横軸がモル比n=SiO2/R2O(Rはアルカリ金属元素)の直線目盛、縦軸が含水率w(質量%)の直線目盛である直交座標系グラフ。
【図2】本発明の透光性板状建材の断面構造を模式的に例示した図。
【図3】骨格構造を有する本発明の透光性板状建材の断面構造を模式的に例示した図。
【図4】アルカリ金属珪酸塩水溶液の珪酸塩(Na2O・nSiO2)濃度と裏面最高到達温度の関係を示したグラフ。
【図5】本発明の透光性板状建材について日射透過率試験の結果を例示したグラフ。
【図6】本発明の透光性板状建材について耐火試験における裏面温度の経時変化を例示したグラフ。
【符号の説明】
【0034】
11、12、13 透光性部材
21 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変形温度115℃以上の熱可塑性樹脂からなる透光性部材で構成される中空パネルの中空部にアルカリ金属珪酸塩水溶液からなる中間層を設けた透光性板状建材であって、前記アルカリ金属珪酸塩水溶液は、n=SiO2/R2O(Rはアルカリ金属元素)で表されるモル比nと水溶液中の含水率w(質量%)の関係が図1の直線AB、BC、CD、DE、EF、FAに囲まれる範囲(境界を含む)にある組成を有するものである耐火性に優れる透光性建材。
【請求項2】
アルカリ金属珪酸塩水溶液中に占める珪酸塩(R2O・nSiO2)濃度が26.5質量%以上である請求項1に記載の耐火性に優れる透光性建材。
【請求項3】
透光性部材によって仕切られた複数の中間層を厚さ方向に持つ請求項1または2に記載の耐火性に優れる透光性建材。
【請求項4】
厚さ方向の少なくとも片側の表面から深さ10mm以内の領域に占める中間層の平均存在割合が50体積%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の耐火性に優れる透光性建材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−1625(P2010−1625A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159884(P2008−159884)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】