説明

芯鞘型マルチフィラメント

【課題】細物でありながら高強度のマルチフィラメントを得るために、溶融紡糸時の操業性を良好にし、且つ衣料用布帛として染色性、或いは様々なデザインの施しやすさに富む繊維を提供する。
【解決手段】芯成分にポリアミド、鞘成分に共重合ポリエステルを用いた芯鞘構造であって、鞘成分の共重合ポリエステルが、数平均分子量300〜4000のポリエチレングリコール(PEG)を2〜10重量%共重合している芯鞘型マルチフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣料用布帛の軽量化を可能とする細物高強力繊維に関するものである。更に詳細には、単糸繊度が細く、且つ高い強度をもった繊維とするために、芯成分にポリアミド、鞘成分に共重合ポリエステルを用いた芯鞘型細物高強力糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユニフォームや登山用ジャケットなど、厳しい条件下で用いる機能性衣料において、軽さと強さは重要な要素となる。ポリエステル系繊維は比較的安価で強度もあり、且つ寸法安定性に優れているため、このような機能性衣料を含む様々な分野で使用されていることは周知のとおりである。
【0003】
そこで従来は、ポリエステル系繊維を用いた布帛の軽量化は繊度を細くすることによって図られている。しかしながら、ポリエステル系繊維の強度が高いとは言え、軽量化のみを追及し繊度を細くしすぎると、布帛全体の強力が低下し、容易に破れたり裂けたりするなどの問題が生じる。
【0004】
このように布帛の軽量化のために繊度を細くすることは布帛の強力低下の原因となるが、現在はその対策としてリップストップ組織が採用されている。しかしリップストップ組織によって布帛の強力はある程度保たれるものの、布帛表面に升目状の線が生じるため、デザインの幅が限定されてしまい衣料用布帛としてあまり好ましくない。また、リップストップ組織部分での強力保持は可能となるが、布帛全体の強力が高いとは言えない。更に布帛をリップストップ組織にすることは、織り工程においても大変な手間となる。
【0005】
繊維の強度を上げるためにポリエステル/ポリアミドを成分とする芯鞘型複合繊維に関しては数多くの提案がある。例えば、特許文献1では、芯成分にポリエステル、鞘成分にポリアミドを用いる方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、該方法の芯鞘型複合繊維は単糸繊度が7.7dtexと太く衣料用布帛には適さない。また、芯成分のポリエステルとしてホモポリエステルを用いているため、鞘成分のポリアミドとの融点の差から、溶融紡糸の際にポリマーの劣化が生じる、或いは鞘成分であるポリアミドとの親和性の低さにより、その後の加工工程において芯鞘の剥離などの問題が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−71016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解消するために、細物でありながら高強度のマルチフィラメントを得ることであり、さらには溶融紡糸時の操業性を良好にし、且つ衣料用布帛にした際の染色性、或いは様々なデザインの施しやすさに富む繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、芯成分にポリアミド、鞘成分に共重合ポリエステルを用いた芯鞘構造であって、鞘成分の共重合ポリエステルが、数平均分子量300〜4000のポリエチレングリコール(PEG)を2〜10重量%含んでいることを特徴とするマルチフィラメントに
よって達成できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、布帛の軽量化を可能にする細さでありながら高強度で、且つ布帛にした際の染色性、或いは加工性に優れた芯鞘型細物高強力糸を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の芯成分であるポリアミドとしては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシレンアジパミド等、従来から知られているものが利用可能である。中でも、汎用性からナイロン6が好ましい。
【0012】
一方、本発明の最も重要な点として、鞘成分に共重合ポリエステルを用いることが必要である。鞘成分に共重合ポリエステルを用いることにより、芯成分であるポリアミドとの融点の差が小さくなるため、溶融紡糸時のポリマー劣化を防ぐことができ、更には芯成分のポリアミドとの親和性が高まるため、後工程における芯鞘の剥離を防ぐことができ操業性が良好となる。
【0013】
本発明の鞘成分は共重合ポリエステルであるが、その主成分となるポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸などが挙げられる。中でも、汎用性からPETが最も好ましい。つまり、本発明では下記に詳述するPEGを共重合したPETが最も好ましく用いられる。
【0014】
ここで、鞘成分の共重合ポリエステルは、数平均分子量が300〜4000のPEGを全ポリエステルに対して2〜10重量%共重合されたものであることが必要である。数平均分子量が300〜4000のPEGを全ポリエステルに対して2〜10重量%共重合することにより、共重合ポリエステル中の非晶部分が増加し分散染料による低温での染色が可能となる。
【0015】
ここで、PEGの数平均分子量が300未満だと、共重合時にPEGの一部が飛散するため共重合が一定化せず、得られた糸の強度、染色斑などの品質斑が多くなる。一方、PEGの数平均分子量が4000を超えると、共重合されないPEGが増大するため、繊維強度低下が生じる。より好ましいPEGの数平均分子量は400〜3000であり、更にはPEGの数平均分子量が500〜1000の時、品質斑が無く、染色性に優れた、特に好ましい物性の共重合ポリエステルが得られる。
【0016】
また、PEGの共重合率が2重量%未満であると、共重合ポリエステルの溶融温度に影響を与えることがなく、芯成分であるポリアミドとの融点の差が縮まらないため、溶融紡糸時のポリマー劣化が生じやすくなる。更には、芯成分であるポリアミドとの親和性が低く、後工程での芯鞘剥離も起きやすくなる。一方、PEGの共重合率が10重量%を超えると、ガラス転移点の低下が大きすぎ、染色後の強度低下が著しい。より好ましいPEGの共重合率は3〜8重量%であり、更には4〜6重量%が好ましい。この場合、紡糸操業性、及び染色性に優れた共重合ポリエステルを得ることができる。
【0017】
本発明の芯鞘型マルチフィラメントにおける芯鞘体積比率は40/60〜80/20であることが好ましい。芯鞘体積比率が40/60以上であると芯鞘の境界面積が広いため、芯成分と鞘成分の親和性が向上する、或いは芯成分のポリアミドが多いため高強度となる。また、芯鞘体積比率が80/20以下であると、正確な芯鞘構造を形成し、或いは鞘
成分の共重合ポリエステルの性能が損なわれないため、優れた易染性が保たれる。より好ましい芯鞘体積比率は50/50〜67/33であり、この場合、紡糸操業性、易染性に優れた高強度なマルチフィラメントを得ることができる。
【0018】
本発明の芯鞘型マルチフィラメントはどのような繊度においても高強力となるものであるが、衣料用布帛の軽量化、高密度化を達成させる芯鞘型マルチフィラメントであるため、繊度は2.0dtex以下であることが好ましく、より好ましくは1.8dtex以下である。一方、繊度が極端に小さくなると繊維強度が保てなくなるので、実用上使用可能な範囲としては0.8dtex程度が限度となる。
【0019】
本発明の芯鞘型マルチフィラメントの強度は5.5cN/dtex以上であることが好ましく、更には6.0cN/dtex以上が好ましい。この範囲であると、布帛にした際にその強力も高く、衣料用布帛の薄地化、高密度化、及び軽量化に適している。
【実施例】
【0020】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、実施例中の評価は以下の方法に従った。
【0021】
A.紡糸操業性:スピンドロー(SPD)法で紡糸し、1週間の紡糸で糸切れ回数が少なく、完全ボビン率が85%以上で操業性が良好なものを○、多少糸切れし、完全ボビン率が60%以上85%未満で操業性があまり良くないものを△、糸切れが多く、完全ボビン率が60%未満で操業性不良なものを×とした。
【0022】
B.破断強度:JIS−L−1013に準じ、(株)島津製作所製AGS−1KNGオートグラフ引っ張り試験機を用い、試料糸長20cm、引っ張り速度20cm/minの条件で試料が伸長破断したときの強度を求めた。
【0023】
C.染色性:JIS−L−0801に準じ、(株)テキサム技研製MINI−COLOUR染色機を用い、筒編みにした試料1gを分散染料によって100℃で加圧染色した後、JIS−L−0804に規定された変退色用グレースケールとの比較による視感評価を行った。染色斑がなく、変退色グレースケールの色票のうち4級以上の濃さと思われるものを○、染色斑がある、或いは4級の色票未満の濃さと思われるものを×とした。評価が○のものは衣料用布帛に適した染色性を持つ。
【0024】
D.染色後の強力:上記方法により加圧染色したサンプルを、手で引っ張ることにより布帛の強力を比較した。
【0025】
実施例1〜4
芯成分にナイロン6、鞘成分に数平均分子量600のPEGを4.76重量%共重合したPETを用いた22dtex/12fの芯鞘型マルチフィラメントを、SPD法によって得た。巻き取り速度を3000〜4000m/min、芯鞘体積比率50/50、或いは67/33とした。紡糸条件、得られた芯鞘型マルチフィラメントの糸質、紡糸操業性、及び染色性を(表1)に示した。
【0026】
実施例1〜4の各条件において紡糸操業性は非常に良好で、巻き取られた芯鞘型マルチフィラメントは単糸繊度2.0dtex以下であり、強度は5.5cN/dtex以上と高かった。染色状況も良好で、斑なく設定どおりの色に染色できた。これらの繊維から得られた織物は軽くて丈夫であり衣料用途に最適であった。
【0027】
【表1】

【0028】
比較例1,2
数平均分子量200のPEGを4.80重量%共重合したPETの単独糸を、単糸繊度2.0以下となるよう設定し、実施例と同じ条件にてSPD法による紡糸を行い、得られた単独糸を用いて染色性を検証した。紡糸条件、得られた共重合PETの単独糸の糸質、紡糸操業性、及び染色性を(表2)に示した。
【0029】
比較例1、及び比較例2共に紡糸操業性は良好であったが、強度が安定しなかった。また、染色試験においても染色度合いが不均一であり、同一の試料においても染色斑があった。
【0030】
【表2】

【0031】
比較例3,4
数平均分子量6000のPEGを5.20重量%共重合したPETの単独糸を、単糸繊度2.0以下となるよう設定し、実施例と同じ条件にてSPD法による紡糸を行った。紡糸条件、得られた共重合PETの単独糸の糸質、及び紡糸操業性を(表3)に示した。
【0032】
比較例3、及び比較例4共に紡糸操業性はあまり良好でなく、糸切れ、単糸切れが多発した。実施例1〜4と比較してみても、その強度はかなり低く、また、一般的なPET繊維の強度と比較してみても極端に低強度となっている。
【0033】
【表3】

【0034】
比較例5,6
数平均分子量600のPEGを1.2重量%共重合したPETの単独糸を、単糸繊度2.0以下となるよう設定し、実施例と同じ条件にてSPD法による紡糸を行った。紡糸条件、得られた共重合PETの単独糸の糸質、及び紡糸操業性を(表4)に示した。
【0035】
比較例5、及び比較例6共に紡糸操業性は良くなかった。これはPEGの添加量が少ないために融点の低下が生じなかったためであり、実施例1〜4と同じ条件では紡糸が困難であった。特に比較例6においては、吐出量が少ないためにポリマー劣化が生じ、紡糸不可能であった。従って芯鞘構造マルチフィラメントにPEGの共重合率の少ないPETを用いても、紡糸操業性が悪い。
【0036】
【表4】


【0037】
比較例7
数平均分子量600のPEGを11.8重量%共重合したPETの単独糸を、単糸繊度2.0以下となるよう設定し、巻き取り速度を3000m/minにてSPD法による紡糸を行った。
【0038】
比較例7は紡糸可能であり、得られた糸の強度も弱過ぎることはなかったが、染色後の強力を調べてみると、手で軽く引っ張っただけですぐに裂けた。実施例1〜4は同様の試験を行っても、引っ張っただけで裂けることはなかった。
【0039】
比較例8,9
ホモPETのみの単独糸を、単糸繊度2.0dex以下となるよう設定し実施例と同じ条件にてSPD法による紡糸を行った。紡糸条件、得られたホモPET単独糸の糸質、紡糸操業性、および染色性を(表5)に示す。
【0040】
比較例8、及び比較例9共に紡糸操業性は良好であったが、実施例1〜4で得られた芯鞘型マルチフィラメントと比較すると強度が低く、且つ染色においても染色不良などの問題が発生した。
【0041】
【表5】

【0042】
比較例10,11
数平均分子量600のPEGを4.76重量%共重合したPETのみの単独糸を、単糸繊度2.0以下となるよう設定し実施例と同じ条件にてSPD法による紡糸を行った。紡糸条件、得られた共重合PETの単独糸の糸質、紡糸操業性、及び染色性を(表6)に示す。
【0043】
比較例10、及び比較例11共に紡糸操業性、染色性は良好であったが、実施例1〜4で得られた芯鞘型マルチフィラメントと比較すると強度は低い。
【0044】
【表6】

【0045】
比較例12〜15
芯成分に高粘度PET、鞘成分に数平均分子量600のPEGを4.76重量%含んだ共重合PETを用いた22dtex/12fの芯鞘型マルチフィラメントを、実施例と同じ条件にてSPD法による紡糸を行った。紡糸条件、得られた芯鞘型マルチフィラメントの糸質、紡糸操業性、及び染色性を(表7)に示す。
【0046】
比較例14は紡糸操業性が良好であったが、比較例12、及び比較例15は鞘成分のギアポンプからの吐出量が少なくなるため、熱劣化を起こしかけ操業性が良くなかった。比較例13にいたっては、鞘成分の共重合PETの吐出量がかなり少ないため、完全な熱劣化を起こし紡糸が困難であった。染色試験において、比較例12、比較例14、及び比較例15は鞘成分に共重合PETを用いているため良好であったが、強度はホモPET単独糸よりは向上するものの、実施例1〜4で得られた芯鞘型マルチフィラメントほどにはならない。また、比較例13は毛羽のため、筒編みによる試料作製ができず、染色試験を実施できなかった。
【0047】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明からなる芯鞘型細物高強力糸は、溶融紡糸時のポリマー劣化や後工程での芯鞘剥離を生じることなく、染色の容易性に優れ、更には単糸繊度が2.0dtex以下と細物でありながら5.5cN/dtex以上の高強度を持つため、衣料用布帛の高密度化、薄地化、及び軽量化に最適な繊維としての可能性を持つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分にポリアミド、鞘成分に共重合ポリエステルを用いた芯鞘構造であって、鞘成分の共重合ポリエステルが、数平均分子量が300〜4000のポリエチレングリコールを2〜10重量%共重合したものであることを特徴とする芯鞘型マルチフィラメント。
【請求項2】
単糸繊度が2.0dtex以下であることを特徴とする請求項1記載の芯鞘型マルチフィラメント。
【請求項3】
強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1、或いは請求項2記載の芯鞘型マルチフィラメント。
【請求項4】
芯鞘の体積比率が40/60〜80/20であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の芯鞘型マルチフィラメント。
【請求項5】
芯成分がナイロン6であり、鞘成分が共重合ポリエチレンテレフタレートである、請求項1〜4いずれかに記載の芯鞘型マルチフィラメント。

【公開番号】特開2010−163739(P2010−163739A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44739(P2010−44739)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【分割の表示】特願2004−98076(P2004−98076)の分割
【原出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】