説明

門型プレスフレーム

【課題】大容量のプレスにおいても強度低下を招かず、捻りが作用しない門型プレスフレームを提供する。
【解決手段】クラウンCと、ベッドBと、アプライトUと、これらを互いに結合するタイロッドとTからなり、クラウンCは、横方向に長い前後一対の長辺板1と、一対の長辺板1の両端に結合された左右一対の短辺板2からなる長方体状の箱組構造であり、クラウンCの4隅において、横方向外側に、タイロッドTを通すロッド挿通箱10が設けられており、ロッド挿通箱10に通されたタイロッドTは、その軸芯が長辺板1の延長線上に位置する。前後一対の長辺板1,1および左右一対の短辺板2,2の上面には天板3が固定され、かつ下面には底板4が固定されている。クラウンCの剛性および強度を支配している長辺板1の直近位置にタイロッドTが設置されているため、力をスムーズに伝達できクラウンCの強度の低下を招くことはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、門型プレスフレームに関する。さらに詳しくは、ラム移動プレスのようにクラウンが横方向に長いプレスに特に好適な門型プレスフレームに関する
船殻の曲げ用や板の矯正用には古くからクラウン上でラムが横移動するラム移動プレスが用いられている。このプレスで成形する被成形材である鋼板は、寸法が大きい(例えば、幅3m×長さ10m)ため逐次成形が行われる。逐次成形に際しては、プレスフレーム内の幅方向にラムを横移動させ、ラムに偏心荷重が作用しない状態下で被成形材に荷重をかけて成形を行うのがこのプレスの特徴である。ただし、当然のことながら、プレスフレームには大きな偏心荷重が作用する。
【0002】
なお、被成形材の長手方向の成形位置をラム位置に合せるための手段として、プレスの前面と後面にローラテーブルが設置され、被成形材が搬送される。したがって、搬送可能な被成形材長さはローラ間長さにより決まる。すなわち、搬送可能な最短被成形材長さはローラ間寸法の2倍となる。また、このローラテーブルの搬送面は、負荷時にはローラに負荷が作用しないように降下させられる。
【0003】
最近、被成形材の強度が大きくなり、またその板厚が厚くなる傾向にある。特に矯正用のプレスの場合、従来1500ton程度であった必要能力が3000tonレベルに増大している。また、被矯正材の板厚が厚くなる場合、その長さが短くなる傾向にある。
【背景技術】
【0004】
ところで、ラム移動プレスの基本構造は、特許文献1に記載されている。
この特許文献1によると、プレスフレームはベッドとクラウンとこれらを結ぶコラムとからなる。クラウンの上面にはレールが設置され、ラム装置を固定した台車が横移動する。また、ラム装置の下面には上金型が取付けられている。ベッドの上面では下金型が設置され、ラム装置と同様に横移動するようになっている。
【0005】
ラム移動プレスは、上記のような基本構造であるから、クラウンの中をラム及び油圧タンク油圧ユニットが移動可能とするために、クラウンの内部で横方向に延びる移動用空間を設ける必要がある。したがって、その移動用空間の前後に左右方向(横方向)に伸びる長辺板(縦板)が設けられており、この長辺板のみが主たる強度部材となる。
すなわち、プレス能力が大きくなるほど、また長辺板の左右寸法が大きいほどクラウンの強度確保が困難になる。
【0006】
上記従来のプレスフレームでは、クラウンからサイドフレームを経てベッドヘの力の伝達がキーまたは段加工により行われているのが普通であり、この場合は強度確保が難しくなる。すなわち、クラウンはその構造上左右に伸びる2枚の長辺板が主な強度部材であるのに対し、クラウンと接合されクラウンからベッドに力を伝達するサイドフレームでは幅の広いキーまたは段加工部で行われているため、力の流れがスムーズでなくなる。また、必要能力が大きいほどクラウンに設けられる空間は大きくなりフレーム強度の確保が難しくなる。
【0007】
ラム移動プレスのフレーム構造に用いられてきた上記従来技術を図8に示す。100はクラウンであり、横方向に長い前後一対の長辺板101と、この一対の長辺板101の両端に結合された左右一対の短辺板102から長方体状の箱組構造に組み上げられている。110はコラム状のサイドハウジングであり、クラウン100の4隅に1本づつ4本が取付けられている。クラウン100に作用する力はサイドハウジング110とクラウン100の間に設けられるキー120により伝達する構造となっている。
なお、サイドハウジング110とベッド130との間も、同様のキー120で負荷を受けるようになっている。
【0008】
プレス能力が大きくなった場合は、このキー120の大きさを大きくすると共に、クラウン100の寸法が大きくなるのに合せてキー120の長さを大きくすることで対応している。しかしながら、箱組構造のクラウン100の構造では、荷重を主に負担する長辺板101の延長線上に位置するキー部120の近傍のみしか有効に荷重を保持することができない。また、クラウン100の長辺板101に対し対称に荷重を保持する構造でない場合には、クラウンに捻りが作用しクラウンの強度が極端に低下する。
【0009】
上記問題点を、さらに詳しくする。
図8において、クラウン100の短辺板102に同形状の板が溶接されキーが組み込まれる凹部104が加工されている。一方、サイドハウジング110にはクラウン側に対応する板が溶接されキーが組み込まれる凹部106が加工されている。この凹部104,106にキー120が挿入されている。そして、キー120は長辺板101の延長線上に存在するようになっている。
図8に示す従来例では、キー120によりクラウン100に作用する荷重をサイドハウジング110に伝達している。しかしながら、このキー120に作用するせん断力をキー120の長さに渡り均一に分散させることは不可能である。このため、キー120を非常に大きな断面寸法とせざるを得ない。更に、プレス時に、クラウン100に上向きの力が加わると、キー120を介してサイドハウジング110を外向きに撓ませる力Fが発生し、クラウン100の端部にも捻りが発生する。この捻りが作用しないように、キー102に長辺板からの負荷を伝達することは非常に困難である。
【0010】
そして、ラム移動プレスの場合、プレスフレーム両側に設置されるサイドハウジング110にキー120により伝達される力は、ラム出力の半分ではなく、ラムが移動した際には片側のサイドハウジング110にはシリンダ力の70〜80%、他方のハウジングには30〜20%の負荷が作用する。
すなわち、例えば3000tonのラム移動プレスの場合、一般的に、片側のサイドハウジング110に約2500ton、他方のサイドハウジング110には500ton程度の力が作用することになる。したがって、サイドハウジング110やキー120の設計はラム出力の70〜80%の力が作用するとして設計される。
【0011】
図8に示すキー120の代りに、板103とサイドハウジング110との間に段加工部を形成して、キー120と同様に荷重負荷させようとした従来技術もある。しかし、この段加工部による力の伝達も基本的にキーと同一であり、したがって、非常に大きな断面積の段加工部を必要としたり、クラウンに捻りが作用しないようにすることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−311487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑み、大容量のプレスにおいても強度低下を招かず、捻りが作用しない門型プレスフレームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明の門型プレスフレームは、クラウンと、ベッドと、前記クラウンおよび前記ベッドの間に介在させたアプライトと、これらを互いに結合するタイロッドとからなり、前記クラウンは、横方向に長い前後一対の長辺板と、該一対の長辺板の両端に結合された左右一対の短辺板からなる長方体状の箱組構造であり、前記クラウンの4隅において、横方向外側に、前記タイロッドを通すロッド挿通箱が設けられており、該ロッド挿通箱に通された前記タイロッドは、その軸芯が前記長辺板の延長線上に位置することを特徴とする。
第2発明の門型プレスフレームは、第1発明において、前記前後一対の長辺板および前記左右一対の短辺板の上面には天板が固定され、かつ下面には底板が固定されていることを特徴とする。
第3発明の門型プレスフレームは、第1または第2発明において、前記ロッド挿通箱は、前記長辺板および前記短辺板と同一縦長さを有する板材で外面と両側が閉じられ、一面が開放された断面U字形部材であり、開放面を前記短辺板に当接させて前記クラウンに固定されており、該ロッド挿通箱の上面は前記天板で閉じられ、かつ下面は前記底板で閉じられ、該ロッド挿通孔の上下面の前記天板と前記底板には、前記タイロッドを通す挿通孔が形成されていることを特徴とする。
第4発明の門型プレスフレームは、第1,2または第3発明において、前記クラウン上で上型取付台を支持したラムが横移動し、前記ベッド上で下型取付台が横移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明によれば、クラウンの剛性および強度を支配している長辺板の直近位置にタイロッドが設置されているため、力をスムーズに伝達できクラウンの強度の低下を招くことはない。また、力を伝達するタイロッドの軸芯をクラウンの剛性および強度を支配する長辺板の延長線上に一致するように配置することでクラウンに捻りが作用しない。このように、クラウンとの連結部材に曲げが作用しないため能力の大きなラム移動プレスの製造が可能である。
第2発明によれば、天板と底板が長辺板および短辺板に固定されたことにより剛性が高くなり、また、天板と底板を利用して補強板を取付けやすくなるので、さらなる剛性の向上が得られる。
第3発明によれば、ロッド挿通箱の上下の天板と底板に設けた挿通孔にタイロッドを通した状態でタイロッドに螺合したナットを締め付けると、その締め付け力がロッド挿通箱を経て短辺板と長辺板に伝えられ、またアプライトにも伝えられるので、タイロッドによるクラウンとアプライトの結合が強固となり、プレス時の耐負荷力が高くなる。
第4発明によれば、ラムと下型取付台が横移動すればするほどクラウンに作用する偏心荷重が大きくなるが、その荷重はタイロッドに直ぐ伝達されるので、クラウンに捻りが生じない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る門型プレスフレームの斜視図である。
【図2】本発明の門型プレスフレームを適用したラム移動プレスの正面図である。
【図3】図2のラム移動プレスの側面図である。
【図4】図2のクラウンの平面図である。
【図5】図4のクラウンの正面図である。
【図6】図5のVI-VI線横断面図である。
【図7】(A)図は図4のクラウンの側面図、(B)図は図5のVII−VII線縦断面図である。
【図8】従来の門型プレスフレームの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図2および図3に示すプレスはラム移動プレスAであり、このプレスは門型プレスフレームを用いて構成されている。
この門型プレスフレームの基本構成は、クラウンCとベッドBとアプライトUと、これらを互いに結合するタイロッドTからなる。
クラウンCは後に詳述するように長方体状の箱形構造物であり、ベッドBも箱形構造物である。アプライトUは4本のコラム状材料からなり、1本づつクラウンCの下面4隅とベッドBの上面4隅の間に立てられている。このアプライトUの取付位置はキーで拘束されている。4本のタイロッドTは、それぞれクラウンCの4隅、4本のアプライトU、ベッドBの4隅に通され、このタイロッドTの上下両端にナットNが螺合されて、各部材を強固に締結している。
【0018】
前記クラウンCの上面にはレール5が設置されており、その上をラム移動台車6が横行するようになっている。このラム移動台車6の下にはラム7が取付けられ、ラム7の下には上金型取付台8が組付けられている。
一方、ベッドBの上面には下金型取付台9が設置されており、図示しない移動装置でベッドB上を横行するようになっている。
板曲げや矯正をする場合は、上金型取付台8に上金型を固定し、下金取付台9に下金型を固定して、両方を同じ位置に横行させてプレス作用を行わせることになる。
このようにプレス機構部が横移動することから、クラウンCとベッドBは横寸法の長いものとなっており、またクラウンCは内部に空間のあいた構造となっている。
【0019】
図4〜図7に基づき、クラウンCの構造を詳述する。
符号1,1は前後の長辺板であり、2,2は左右の短辺板である。この長辺板1,1と短辺板2,2で長方体状の箱に構成されている。長辺板1,1の横寸法がクラウンCの横寸法となり、その縦寸法がクラウンCの縦寸法となる。もちろん、この長辺板1,1がクラウンCに作用する負荷を主として支える強度部材となる。
【0020】
長辺板1,1と短辺板2,2の上面には、それらの外側に張り出すように天板3が溶接等で固定されている。また、長辺板1,1と短辺板2,2の下面には、それらの外側に張り出すように底板4が溶接等で固定されている。
前面の長辺板1の前面および後面の長辺板1の後面には、それぞれ縦向きの補強リブ21が数枚づつ溶接されている。図示の実施形態では4枚あるが、3枚以下でもよく、5枚以上であってもよい。この枚数は作用する負荷と板厚等で変動する負荷負担力から選択すればよい。
【0021】
また、長辺板1,1と天板3との間には斜めに傾斜し横向きに延びる上補強板22が溶接され、さらに長辺板1,1と底板4との間にも斜めに傾斜し横向きに延びる下補強板23が溶接されている。
なお、長辺板1,1の内側にも、上下方向中段位において横向きに延びる補強材24が溶接されている。
【0022】
前記短辺板2,2の外側において、天板3と底板4の4隅には、ロッド挿通箱10が取付けられている。このロッド挿通箱10は外面板11と2枚の側面板12,12から断面U字形に作られた箱状部材であり、開放面側を短辺板2,2の外面に当接させて、溶接等で固定されている。また、その上下寸法は天板3と底板4との間隔、すなわち短辺板2(そして長辺板1)の上下寸法と等しい。したがって、ロッド挿通箱10の上下面は天板3と底板4で閉じられている。
そして、このロッド挿通箱10の上下面を塞ぐ天板3と底板4には、タイロッドTを通す挿通孔13が形成されている。
【0023】
図4および図6に示すように、前記ロッド挿通箱10の上下の挿通孔13の中心は、長辺板1を外方へ延長した線の延長線上に位置する。
図1は天板3を除いた状態のクラウンCの斜視図である。図1から明らかなように、ロッド挿通箱10に通したタイロッドTは、その軸心が長辺板1の延長線f上に位置することになる。
【0024】
本発明の上記構成によると、プレス加工中にクラウンCを上向きに押し上げる力は直接的にタイロッドTに伝えられ、このような力の伝達経路は直線的で偏心した場所がないので、クラウンCやアプライトUに長辺板1を含む面内の曲げ以外の曲げを発生させることはない。この点を図7(B)で説明する。プレス時に発生する負荷F1もタイロッドに作用する反力F2も、共に長辺板1の厚み方向の中心に作用し、作用点が一致している。このため長辺板1を捻ろうとする捻りモーメント(図示の矢印M方向あるいはその逆方向)は発生しない。これが、本発明の利点である。
また、タイロッドTに作用した負荷は、真っ直ぐに剛性を大きく設計できるベッドBに伝えられるので、プレスフレームにねじりなども生じない。
よって、門型プレスフレーム全体が強固になり、能力の大きなラム移動プレスの製造も可能となる。
【0025】
さらに、ロッド挿通箱10の上下の天板3と底板4に設けた挿通孔13にタイロッドTを通した状態でタイロッドTに螺合したナットNを締め付けると、その締め付け力がロッド挿通箱10を経て短辺板2と長辺板1に伝えられ、またアプライトUにも伝えられるので、タイロッドTによるクラウンCとアプライトUの結合が強固となり、プレス時の耐負荷力が高くなる。
【符号の説明】
【0026】
C クラウン
B ベッド
U アプライト
T タイロッド
10 ロッド挿通箱
13 挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウンと、ベッドと、前記クラウンおよび前記ベッドの間に介在させたアプライトと、これらを互いに結合するタイロッドとからなり、
前記クラウンは、横方向に長い前後一対の長辺板と、該一対の長辺板の両端に結合された左右一対の短辺板からなる長方体状の箱組構造であり、
前記クラウンの4隅において、横方向外側に、前記タイロッドを通すロッド挿通箱が設けられており、
該ロッド挿通箱に通された前記タイロッドは、その軸芯が前記長辺板の延長線上に位置する
ことを特徴とする門型プレスフレーム。
【請求項2】
前記前後一対の長辺板および前記左右一対の短辺板の上面には天板が固定され、かつ下面には底板が固定されている
ことを特徴とする請求項1記載の門型プレスフレーム。
【請求項3】
前記ロッド挿通箱は、前記長辺板および前記短辺板と同一縦長さを有する板材で外面と両側が閉じられ、一面が開放された断面U字形部材であり、開放面を前記短辺板に当接させて前記クラウンに固定されており、該ロッド挿通箱の上面は前記天板で閉じられ、かつ下面は前記底板で閉じられ、
該ロッド挿通孔の上下面の前記天板と前記底板には、前記タイロッドを通す挿通孔が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の門型プレスフレーム。
【請求項4】
前記クラウン上で上型取付台を支持したラムが横移動し、前記ベッド上で下型取付台が横移動する
ことを特徴とする請求項1,2または3記載の門型プレスフレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−207870(P2010−207870A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57440(P2009−57440)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(502235326)住友重機械テクノフォート株式会社 (122)
【Fターム(参考)】