説明

α−アミラーゼの活性化方法

【課題】 簡易な操作でα−アミラーゼの酵素活性を顕著に高める活性化方法を提供する。
【解決手段】 α−アミラーゼを含む粒子又は液状物を空気中40〜70℃の温度で加熱処理する。これにより、酵素活性が向上したα−アミラーゼを容易に入手できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−アミラーゼの活性化方法、該方法により活性化されたα−アミラーゼ、及び該α−アミラーゼの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
α−アミラーゼ(1,4-α−D-glucan glucanohydrolase[EC3.2.1.1])はデンプン、グリコーゲンなどのα−1,4グルコシド結合をランダムに切断するエンド型の酵素である。工業的には、デンプン加工、食品加工、繊維加工、醸造、医薬、臨床検査、洗剤などに広く利用されており、その起源も微生物、植物、動物と多岐にわたる。
【0003】
この工業的に極めて重要な酵素に関しては、従来からその活性や価格において必ずしも満足できるものではなく、これを解決するための手段として、遺伝子組換えや蛋白工学技術による酵素の高生産化や酵素触媒能の強化、又酵素反応系において酵素の反応速度を向上させる方法、すなわち酵素反応の活性化方法について検討されてきた。
【0004】
酵素の活性化方法としては、酵素反応系に特定のポリマーを添加することによって得られるもの(特許文献1)、特定のアミラーゼに対して塩素イオンを加えることで得られるもの(非特許文献1)、n-ヘキサンにTween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)を添加して得られる逆相ミセル系を利用して酵素活性を高めるもの(非特許文献2)、酵素反応系に特定のアルキル鎖長を有するアルキル硫酸塩及び/又はアルキルスルホン酸塩を添加して酵素活性を高めること(特許文献2)などが報告されている。又、予め酵素を電解生成水に溶解させることにより、酵素反応の前段階で酵素を活性化させる方法(特許文献3)、酵素を発熱性無機塩に溶解することにより酵素を活性化する方法(特許文献4)が報告されている。
【特許文献1】特表平5-507615号
【特許文献2】特開平8-256768号
【特許文献3】特開2000-245453号
【特許文献4】特開2000-37186号
【非特許文献1】Clin. Biochem., 16, 224-228 (1983)
【非特許文献2】Biotechnol. Bioeng., 29, 901-902 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの活性化方法は酵素の反応速度をある程度高めることはできるものの、未だその活性化力が十分とは言えなかった。又、これらの活性化方法では必然的に酵素以外の成分(活性化剤)を添加しなければならず、これら活性化剤が最終製品に混入してその製品価値を下げるなどの課題があった。更には活性化に特別な装置を必要とするために却って経費が高騰し、本来の目的であった酵素を活性化してその使用量を削減し、経済効果を生み出すことが困難になるなどの課題があり、汎用技術として広く使用する上で問題があった。
【0006】
本発明の課題は、簡易な操作でα−アミラーゼの酵素活性を顕著に高める活性化方法、及び該活性化方法により得られたα−アミラーゼを提供し、これを使用することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、α−アミラーゼの活性化方法について鋭意検討を重ねてきた結果、酵素の製造販売メーカーが品質規格証明書等で推奨する酵素の取り扱い方法からは到底予想し得ない環境下にα−アミラーゼを置くことによって、酵素活性が著しく活性化されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、α−アミラーゼを含む粒子又は液状物を、空気中40℃〜70℃の温度で10秒〜20分間加熱処理する、α−アミラーゼの活性化方法に関する。
【0009】
又、本発明は、α−アミラーゼを含む粒子を、空気中40℃〜70℃の温度で10秒〜20分間加熱処理し、次いで該粒子を、水を含む液体と混合して冷却する、α−アミラーゼの活性化方法に関する。
【0010】
又、本発明は、α−アミラーゼを含む液状物を、空気中40℃〜70℃の温度で10秒〜20分間加熱処理し、次いで30℃以下の温度に徐冷する、α−アミラーゼの活性化方法に関する。
【0011】
又、本発明は、上記本発明の方法によって得られるα−アミラーゼの製造方法、及び該α−アミラーゼの使用に関する。
【0012】
以下において、α−アミラーゼという場合には、α−アミラーゼを含む粒子、及びα−アミラーゼを含む液状物を包含する場合もある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特殊な活性化剤を用いることなく簡単にα−アミラーゼを活性化でき、活性化されたα−アミラーゼは各種産業プロセスや洗浄等の分野で広く使用することができる。本発明により活性化されたα−アミラーゼを使用することで、酵素使用量の低減、あるいは反応時間の短縮が達成できる。従って本発明は、α−アミラーゼを用いた酵素反応やその応用分野において、経済的に有益な効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の対象とするα−アミラーゼとしては、バチルス ズブチリス マーバーグ(Bacillus subtilis Marburg)、バチルス ズブチリス ナットウ(Bacillus subtilis natto)、バチルス アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス セレウス(Bacillus cereus)、バチルス マセランス(Bacillus macerans)、シュードモナス シュツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、クレブシェラ アエリゲネス(Klebusiella aerogenes)などの細菌、ストレプトマイセス グリセウス(Streptomyces griseus)等の放線菌、アスペルギウス オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)などのカビ類、イネ科及びマメ科植物の種子、ヒト及びブタなどの動物の消化腺など多くの生物から得られているものを使用することができる。
【0015】
本発明に用いるα−アミラーゼは、前記生物又は、それらの変異株、あるいはこれらの酵素若しくはその変異体をコードするDNA配列を有する組換えベクターで形質転換された宿主細胞等を、同化性の炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従い培養し、一般の酵素の採取及び精製方法に準じて得ることができる。このようにして得られる酵素液はそのまま用いることもできるが、さらに公知の方法により精製、結晶化、粉末化又は造粒化(例えば特公昭58-26315号、特表平7-500013号、特開昭62-255990号、特開平9-48996号)したものを用いることができる。
【0016】
本発明に用いるα−アミラーゼの形態は特に限定されず、酵素蛋白質の乾燥物、酵素蛋白質を含む粒子、及び酵素蛋白質を含む液体を用いることができる。
【0017】
本発明で実施する加熱処理方法は特に限定されず、α−アミラーゼを含む粒子又は液状物を所望の温度に設定した乾熱器の中に置く方法、又は所望の温度に設定した湯浴中に置く方法等、一般的な加熱方法に準じて行なえばよい。
【0018】
α−アミラーゼを加熱処理する温度は、40℃〜70℃、更に50℃〜70℃が好ましい。
【0019】
α−アミラーゼを加熱処理する時間は、10秒〜30分、更に30秒〜20分が好ましい。
【0020】
本発明で実施する加熱処理後の冷却は、α−アミラーゼの形態が乾燥物又は粒子等の、α−アミラーゼを含む粒子の場合、所望の温度雰囲気下で加熱処理を施した後、水を含む液体、好ましくは水と混合することで行なわれる。その際、α−アミラーゼの加熱温度よりも25℃〜65℃低い温度の液体を用いることが好ましく、該液体の温度は、5℃〜30℃の範囲から選ばれることが好ましい。また、最終的な目標冷却温度よりも高い温度の液体を用いて、徐々に冷却することも出来る。
【0021】
α−アミラーゼを含む粒子と水を含む液体との混合物は、そのまま液体酵素調製品として利用できる。このため、本発明によれば、α−アミラーゼを含む粒子を、空気中40℃〜70℃の温度で10秒〜20分間加熱処理し、次いで該粒子を、水を含む液体と混合して冷却する工程を有する、α−アミラーゼ含有液体混合物の製造方法が提供される。
【0022】
加熱処理後のα−アミラーゼを該液体と混合する時期は特に限定されないが、より高い活性化率を得るためには、加熱処理の直後であることが好ましい。なお、この液体は、水の他、酵素にとって有益な成分、例えば、CaCl2等を含有することが好ましい。また、α−アミラーゼを含む粒子と該液体との混合比率は、質量比として、α−アミラーゼを含む粒子/液体=1/112×106〜1/4、更に1/106〜1/4が好ましい。
【0023】
また、α−アミラーゼの形態が液体(α−アミラーゼを含む液状物)の場合は、所望の温度雰囲気下で加熱処理を施した後、徐冷することが好ましく、特に30℃以下の温度に徐冷することが好ましい。一例として、加熱処理後のα−アミラーゼを、5分〜24時間かけて30℃以下とすることが挙げられる。
【0024】
上述の活性化方法に従って得られたα−アミラーゼは、未処理のα−アミラーゼに比べ、織物又は硬質表面の清浄化等において優れた性能を有するものである。従って、本発明により得られたα−アミラーゼを含有する繊維用洗浄剤組成物、本発明により得られたα−アミラーゼを含有する硬質表面用洗浄剤組成物が提供される。また、デンプンを液化するための酵素としても、本発明により得られたα−アミラーゼは好適である。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例で用いたα−アミラーゼ活性の測定法〔ファデバス(phadebas)法〕を示す。
<α−アミラーゼ活性測定法>
(1)サンプル吸光度の測定
5mLの緩衝液(Britton-Robinson Buffer、pH 8.5、50mM(阿南功一ら著. 基礎生化学実験法6. P277. 丸善株式会社))にネオ.アミラーゼテスト「第一」〔第一化学薬品(株)より入手、製品番号701501-005〕を1錠添加し、約10秒間攪拌した後、2mM塩化カルシウム水溶液で希釈した1mLの酵素溶液を添加して、50℃にて15分間反応させた。1mL の0.5N水酸化ナトリウム水溶液を添加、攪拌することで反応を停止させた後、遠心分離(400×g、5分間)にて不溶成分を沈殿させ、得られた遠心上澄の620nmにおける吸光度を測定した。
【0026】
(2)ブランク吸光度の測定
5mLの緩衝液(Britton-Robinson Buffer、pH 8.5、50mM(阿南功一ら著. 基礎生化学実験法6. P277. 丸善株式会社))にネオ.アミラーゼテスト「第一」を1錠添加し、約10秒間攪拌した。これに1mlの0.5N水酸化ナトリウム水溶液を添加、攪拌した後、1mLの酵素溶液を添加し、50℃にて15分間インキュベートした後、遠心分離(400×g、5分間)を行なった。得られた遠心上澄の620nmにおける吸光度を測定した。
【0027】
(3)酵素活性の算出
ネオ.アミラーゼテスト「第一」同封の国際単位の検量線を基準とし、これに(1)と(2)の吸光度の差をあてはめることでアミラーゼの活性を算出した。
【0028】
実施例1
25℃、60%RHの実験室において、α−アミラーゼを含む粒子として、ノボザイムズ社より市販されているDuramyl 60Tを用い、その200mgをスクリュー管(マルエム(株)製、No.3)の中に入れ、キャップを締めて40℃、50℃、60℃、70℃の温度で0.5分、4分、15分、30分間加熱処理した。加熱処理直後に2mMのCaCl2溶液(15℃)中に投入して冷却し、前述した方法により酵素活性を測定した。加熱処理した酵素顆粒は、加熱処理していない酵素顆粒に比べ高い活性を有していた(表1)。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例2
α−アミラーゼを含む粒子として、ノボザイムズ社より市販されているDuramyl 60T、Termamyl 60T、及びStainzyme 12T、またジェネンコア社より市販されているPurastar OxAm 4000Eを用い、それらの200mgをスクリュー管(マルエム(株)製、No.3)の中に入れ、キャップを締めて50℃、60℃、70℃の温度で5分間加熱処理した。加熱処理直後に2mMのCaCl2溶液(15℃)中に投入して冷却し、前述した方法により酵素活性を測定した。加熱処理した酵素顆粒は、加熱処理していない酵素顆粒に比べ高い活性を有していた(表2)。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例3
ノボザイムズ社より市販されている液体酵素のDuramyl 300L の1gをスクリュー管(マルエム(株)製、No.3)の中に入れ、キャップを締めて60℃の温度で5分間加熱処理した。次いでこれを室温(25℃)まで冷却し、該温度に到達してから前述した方法により酵素活性を測定した。加熱処理した酵素は、加熱処理していない酵素に比べ20%高い活性を有していた。
【0033】
実施例4
特開2001-152199号公報の表1中実施例2に記載の洗剤ベース99質量%に、実施例2の加熱処理を施したStainzyme 12T(60℃)又は加熱処理を施していないStainzyme 12T 0.5質量%、及び香料0.5質量%を配合して洗剤組成物を調製した。この洗剤組成物を30℃に調整した水道水に0.07質量%となる濃度で溶解し、ターゴトメーター(上島製作所(株)製)用ステンレスビーカーにその1Lを移した。ここに、スターチ/色素汚染布(EMPA162、6cm×6cm)の5枚を入れ、80rpmで10分間攪拌洗浄した結果、加熱処理を施したStainzyme 12Tでは高い洗浄効果が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アミラーゼを含む粒子又は液状物を、空気中40℃〜70℃の温度で10秒〜30分間加熱処理する、α−アミラーゼの活性化方法。
【請求項2】
α−アミラーゼを含む粒子を、空気中40℃〜70℃の温度で10秒〜20分間加熱処理し、次いで該粒子を、水を含む液体と混合して冷却する、α−アミラーゼの活性化方法。
【請求項3】
α−アミラーゼを含む液状物を、空気中40℃〜70℃の温度で10秒〜20分間加熱処理し、次いで30℃以下の温度に徐冷する、α−アミラーゼの活性化方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の方法に従って得られるα−アミラーゼ。
【請求項5】
織物又は硬質表面を清浄化するための酵素として用いられる請求項4に記載のα−アミラーゼ。
【請求項6】
デンプンを液化するための酵素として用いられる請求項4に記載のα−アミラーゼ。