説明

α−アルキル置換エステル化合物の製造方法

【課題】エステル化合物とジアルキルカーボネートとを、塩基性触媒の存在下に反応させてα−アルキル置換エステルを高収率で製造する。
【解決手段】γ−ブチロラクトン等のエステル化合物とジメチルカーボネート等のジアルキルカーボネートを塩基性触媒の存在下に反応させて、α−メチル−γ−ブチロラクトン等のα−アルキル置換エステルを製造する方法において、反応系から二酸化炭素を除去する。収率低下の要因である二酸化炭素を反応系から除去することにより、塩基性触媒の触媒活性を有効に作用させて高収率でα−アルキル置換エステルを製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化合物とジアルキルカーボネートとを塩基性触媒の存在下に反応させてα−アルキル置換エステルを製造する方法に関する。
詳しくは、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物とジメチルカーボネート等のジアルキルカーボネートを塩基性触媒の存在下に反応させて、α−メチル−γ−ブチロラクトン等のα−アルキル置換エステルを製造する方法に関する。
【0002】
本発明で製造されるα−メチル−γ−ブチロラクトンは、高機能弾性繊維の製造用原料であるポリエーテルポリオールを製造するためのモノマーとなる3−メチルテトラヒドロフランの製造中間体として工業的に極めて有用である。
【背景技術】
【0003】
テトラヒドロフラン(以下、THFと略記することがある)を開環重合させて得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略記することがある)を用いたポリウレタン樹脂は、弾性特性、低温特性、耐加水分解性などの機械的特性に優れるため、広く弾性繊維や熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして利用されている。このポリウレタン樹脂の機械的特性を向上させる目的で、ウレタン樹脂原料としてTHFに加えて3−メチルテトラヒドロフラン(以下、3−MeTHFと略記することがある)を共重合して得られるポリエーテルポリオールを用いることが行われている。ポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いた場合に比較してTHFと3−MeTHFを共重合したポリエーテルポリオールを用いて製造したポリウレタンは機械的特性が向上することが知られている(特開昭63−235320号公報)。
【0004】
3−MeTHFは有用な物質である一方で製造の難度が高いため、広く合成法の検討がなされ多くの製造方法が提案されている。しかし既報の3−MeTHFの製造方法はいずれも発熱量が大きい、原料として毒物を使用するため安全設備が必要であるなどの製造装置面にかかる負荷が大きいといった課題や、原料が高価である、反応での選択性が低いなどの問題点があった。
【0005】
本発明者らは上記従来技術の問題点に鑑み、安価で容易に入手可能な原料を用い、安全性に優れ、かつ収率が高く、工業的に実施可能な高純度な3−MeTHFの製造方法を提供するべく鋭意検討を重ねた結果、γ−ブチロラクトン(以下、GBLと略記することがある)を出発原料として用い、GBLのα位をメチル化してα−メチル−γ−ブチロラクトン(以下、α−Me−GBLと略記することがある)を経て、3−MeTHFを製造することにより前記課題を解決し得ることを見出し、γ−ブチロラクトン(GBL)を原料とし、GBLのα位をメチル化してα−メチル−γ−ブチロラクトン(α−Me−GBL)を得る工程(1)と、α−Me−GBLから3−メチルテトラヒドロフラン(3−MeTHF)を得る工程(2)とを含むことを特徴とする3−メチルテトラヒドロフランの製造方法について、本出願人より先に特許出願を行った(特願2010−33941。以下、先願という。)。
【0006】
先願の方法では、具体的には、炭酸カリウムの存在下にGBLとジメチルカーボネート(以下、DMCと略記することがある)とを反応させてα−Me−GBLを製造している。
【0007】
なお、このように炭酸カリウム等の塩基性触媒の存在下にGBLとDMCとを反応させてα−Me−GBLを製造する方法は、WO 02/10116号パンフレットにも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−235320号公報
【特許文献2】特願2010−33941
【特許文献3】WO 02/10116号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、先願におけるメチル化反応は、反応温度210℃、反応時間7時間経過時の転化率が70%程度であり、かつα−Me−GBL収率も60%程度で転化率、選択率とも依然低く効率よい工業化プロセス構築のためには、より一層の収率の向上が望まれている。
【0010】
本発明は、エステル化合物とジアルキルカーボネートとを塩基性触媒の存在下に反応させてα−アルキル置換エステルを高収率で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エステル化合物とジアルキルカーボネートとを塩基性触媒の存在下に反応させてα−アルキル置換エステルを製造する際に、ジアルキルカーボネートの分解で発生する二酸化炭素を反応系から除去することにより、α−アルキル置換エステルを高収率で製造することができることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] エステル化合物とジアルキルカーボネートとを塩基性触媒の存在下に反応させてα−アルキル置換エステルを製造する方法において、反応系から二酸化炭素を除去する工程を含むことを特徴とするα−アルキル置換エステル化合物の製造方法。
【0014】
[2] 前記反応系から二酸化炭素を連続的に除去しながら反応を行う[1]に記載のα−アルキル置換エステル化合物の製造方法。
【0015】
[3] 前記反応系から二酸化炭素と同伴されて除去されたジアルキルカーボネートを反応系に戻す工程を含む[1]又は[2]に記載のα−アルキル置換エステル化合物の製造方法。
【0016】
[4] 前記エステル化合物がラクトンである[1]ないし[3]のいずれかに記載のα−アルキル置換エステル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エステル化合物とジアルキルカーボネートとを塩基性触媒の存在下に反応させてα−アルキル置換エステルを製造する際に、反応系から二酸化炭素を除去することによりα−アルキル置換エステルを高収率で製造することが可能となる。
本発明によれば、高機能弾性繊維の製造用原料であるポリエーテルポリオールを製造するためのモノマーとなる3−メチルテトラヒドロフランの製造中間体として工業的に極めて有用なα−メチル−γ−ブチロラクトンを高収率で製造することが可能となり、これにより、3−メチルテトラヒドロフラン、更にはポリエーテルポリオールの生産効率の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明のα−アルキル置換エステル化合物の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明のα−アルキル置換エステル化合物の製造方法は、エステル化合物とジアルキルカーボネートとを塩基性触媒の存在下に反応させてα−アルキル置換エステルを製造する方法において、反応系から二酸化炭素を除去する工程を含むことを特徴とする。
【0020】
[作用機構]
本発明において、反応系から二酸化炭素を除去することにより、α−アルキル置換エステルの収率の向上が達成される効果の作用機構については、以下のように考えられる。
【0021】
即ち本発明に係るα−アルキル化反応では、エステル化合物とジアルキルカーボネートとの反応で、ジアルキルカーボネートが分解してエステル化合物をα−アルキル化すると共に二酸化炭素を生成する。生成した二酸化炭素は、塩基性触媒をトラップ(被毒)し、このことが従来法において、収率が上がらない原因であった。
【0022】
具体的にはGBLを原料としてα−Me−GBLを製造する際に、ジアルキルカーボネートとしてジメチルカーボネート、塩基性触媒として炭酸カリウムを用いたところ、反応後に水溶性の析出物が得られた。この析出物をX線構造解析で分析したところ炭酸モノカリウムモノメチルであった。すなわちこの反応条件下では系内で反応触媒であるカリウムメトキシドとジメチルカーボネート分解により生じた二酸化炭素との中和反応の進行により、反応系中の触媒量が低下し、反応進行を阻害する要因となっていることが推定された。本発明においては、この収率低下の要因である二酸化炭素を反応系から除去することにより、塩基性触媒の触媒活性を有効に作用させて高収率でα−アルキル置換エステルを製造することが可能となる。
【0023】
[α−アルキル化反応]
本発明におけるエステル化合物のα−アルキル化反応とは、エステル化合物のα位の炭素にアルキル基を導入する反応をいう。ここで導入するアルキル基は、水酸基等の置換基を有していてもよく、好ましくは置換基を有さないアルキル基である。
例えば、以下の反応式(1)で表される。
【0024】
【化1】

【0025】
上記反応式において、Rは水素原子又は炭素数10以下の1価のアルキル基、Rは炭素数10以下の1価のアルキル基を表し、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。X、Yはそれぞれ独立に通常炭素数1以上10以下の1価のアルキル基を表す。XとYは互いに結合して環を形成していてもよい。好ましくは環を形成していないものが好ましく、より好ましくは直鎖状のアルキル基であり、さらに好ましくはXとYが同一のものが好ましい。
【0026】
より具体的には、エステル化合物としてγ−ブチロラクトン(GBL)を用い、ジアルキルカーボネートとしてジメチルカーボネート(DMC)を用い、塩基性触媒として炭酸カリウム(KCO)を用いた場合のα−メチル化反応は以下の反応式(2)で表される(Meはメチル基)。
【0027】
【化2】

【0028】
[エステル化合物]
本発明においてα−アルキル化の原料となるエステル化合物は、前述の如く、R−CH−C(=O)−ORで表され、Rは水素原子又は炭素数10以下の1価のアルキル基、好ましくは水素原子又は炭素数1以上6以下の1価のアルキル基である。Rは炭素数10以下の1価のアルキル基、好ましくは炭素数1以上6以下の1価のアルキル基である。
,Rは互いに結合して環を形成してもよい。この場合、RとRとが結合して形成される環の炭素数は3以上10以下であることが好ましく、形成される環は、酸素原子1つを有する4〜8員環であることが好ましい。
【0029】
本発明において、原料となるエステル化合物は、製造されるα−アルキル置換エステルの工業的な有用性からγ−ブチロラクトンであることが好ましい。
【0030】
γ−ブチロラクトン(GBL)は従来公知の物質であり、公知の方法に従って製造して使用することも、市販品を入手して使用することもできる。GBLは1,4−ブタンジオールをRu触媒で酸化して得る方法(特開2002−167380)、無水マレイン酸をNi−Re触媒で部分的に還元して得る方法(特開06−306069)、同じく無水マレイン酸をNi−Pd触媒で部分的に還元する方法(特開06−321926)などの公知の方法により得られたものが用いられる。
【0031】
用いるGBLは高純度のものが好ましい。例えばGBLの開環で生じる4−ヒドロキシ酪酸はGBLの不純物の1つであるが、これは本発明の製造方法で使用される塩基性触媒と中和反応を起こして反応に用いられる触媒有効成分の減少を起こすため極力少ない方が良い。
【0032】
[ジアルキルカーボネート]
本発明において、α−アルキル化試薬となるジアルキルカーボネートは、前述の如く、XO−C(=O)−OYで表され、X,Yはそれぞれ独立に通常炭素数1以上10以下の1価のアルキル基、好ましくは炭素数1以上6以下の1価のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1以上6以下の1価の直鎖状アルキル基である。より好ましくは炭素数1以上6以下の1価の直鎖状アルキル基である。さらに好ましくはXとYが同一のものである。
【0033】
また、XとYは互いに結合して環を形成していてもよい。環を形成した場合、炭素数は特に限定されないが、通常1以上10以下、好ましくは6以下である。
XとYが環を形成したもの(以下、環状カーボネートということがある)を、本発明においてジアルキルカーボネートとして用いた場合、ヒドロキシアルキル基が導入されたω−ヒドロキシアルキルエステル化合物を得ることができる。
本発明において用いられるジアルキルカーボネートは、好ましくは工業的な有用性から、XとYが互いに環を形成していない、炭素数1以上10以下の1価のアルキル基を有するものであり、より好ましくはX,Yが同一のものである。
【0034】
製造されるα−アルキル置換エステルの工業的な有用性及び反応性から、ジアルキルカーボネートは、ジメチルカーボネート(DMC)であることが好ましい。
【0035】
ジメチルカーボネート(DMC)は、公知の化合物であり、公知の方法に従って製造して使用することも、市販品を入手して使用することもできる。
【0036】
DMCは低毒性であり、調達が容易で、工業的な量の入手が可能である。α−Me−GBL製造に使用されるDMCは特に限定されないが、純度が高いものが望ましく、特に含有水分、メタノールの含有量は少ないほど好ましい。
【0037】
本発明におけるα−アルキル化反応に使用するジアルキルカーボネートの使用量は、特に限定されるものではないが、通常、エステル化合物1モルに対して下限が理論当量である1.0モル、好ましくは1.2モル、さらに好ましくは1.5モルである。上限は特に制限はないが、通常10.0モル、好ましくは5.0モル、さらに好ましくは3.0モルである。前記上限超過では、反応器容積に対するジアルキルカーボネートの占有容量が大きくなり空間生産効率が低下してしまう場合がある。
【0038】
[塩基性触媒]
本発明におけるα−アルキル化反応に使用される塩基性触媒は特に限定されるものではないが、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属;リチウムジイソプロピルアミドなどの金属アミド;アミン類;アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、酢酸塩等のカルボン酸塩、酸化物などの金属化合物;金属アルコキシドが用いられる。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属の複合酸化物、塩基処理ゼオライトなどの不均一系塩基性触媒を用いることもできる。
【0039】
前記アミン類の例としては、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチレンヘキサミンなどの鎖状脂肪族アミン類;1,4−ジメチルピペラジン、ピペラジン、ピペリジン、1−ベンジルピペリジン、1−メチル−2,2−ジメチル−6,6−ジメチルピペリジン、DABCO(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ウンデセン)のような環状アミン類;トリフェニルアミンなどのような芳香族アミン類;N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−フェニルジベンジルアミンなどのベンジルアミン類;ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等のピリジン類;イミダゾール、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−メチル−2−メチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、TBZ(2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−のようなイミダゾール化合物;トリフェニルホスフィン又は亜リン酸トリフェニルのような3価のリン化合物、ホスファゼン化合物等が挙げられる。
【0040】
これらのうち、鎖状脂肪族アミン類、環状アミン類、塩基性が強く脱プロトン化が進行しやすい点でホスファゼン化合物が好ましい。鎖状脂肪族アミン類としては、反応物との分離が容易に行える点でトリオクチルアミン等の長鎖アルキル鎖を有する鎖状脂肪族三級アミンが好ましく、環状アミン類としては、好ましくはアシル中間体の形成が進行することで反応活性を高めることが可能な、DBU、DBN等のエン−イミン構造を持つ環状アミン類が好ましい。
【0041】
前記アルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
【0042】
前記アルカリ土類金属化合物の例としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0043】
前記金属アルコキシドの例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのナトリウムアルコキシド、カリウム−t−ブトキシド等のカリウムアルコキシド等が挙げられる。
【0044】
不均一系塩基性触媒の例としてはカルシウム−バリウム−ナトリウム酸化物、カルシウム−バリウム−カリウム酸化物、カルシウム−バリウム−セシウム酸化物などのアルカリ金属−アルカリ土類金属複合酸化物、マグネシウム−カルシウム−バリウム酸化物、マグネシウム−ストロンチウム−バリウム酸化物などのアルカリ土類金属複合酸化物、ナトリウム、カリウムイオンなどで処理した塩基処理ゼオライトなどが挙げられる。
【0045】
これらの中でもアルカリ金属のアルコキシド、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩が反応性が高い点で好ましく、さらにはナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウム−t−ブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムが好ましい。さらには、価格、入手性からナトリウムメトキシド、炭酸カリウムが特に好ましい。
【0046】
これらの塩基性触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
これら塩基性触媒の使用量は、特に限定されないが、通常エステル化合物1モルに対して5.0モル以下、好ましくは3.0モル以下、より好ましくは1.0モル以下である。前記上限超過では製造コストの増大や反応器内容物の攪拌効率の低下が起こる場合がある。また通常エステル化合物1モルに対して0.01モル以上、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.2モル以上である。前記下限未満では実用的な反応速度が得られない場合がある。
【0048】
[溶媒]
本発明に係るα−アルキル化反応は、無溶媒で行うことも、溶媒を使用して行うことも共に可能である。溶媒を使用する場合は、α−アルキル化反応に影響を与えない限り、使用する溶媒に特に制限はないが、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;ピバル酸メチルなどのピバル酸エステル、安息香酸メチルなどの安息香酸エステル等のカルボキシル基α位に水素原子を有さないカルボン酸のエステル溶媒;などが好適に用いられる。
また、本発明において用いられるジアルキルカーボネートが有するアルキル基と同じアルキル基を有するアルコール、又はそのエステルも溶媒として使用することができる。
【0049】
これら溶媒は単独で用いてもかまわないし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもかまわない。
好ましくは無溶媒で反応を行う。
【0050】
[添加剤]
本発明に係るα−アルキル化反応を行う際は、適当な添加剤を用いてもかまわない。特に原料としてGBL等の環状エステル化合物を用い、また、金属化合物を塩基性触媒として用いる場合、原料や生成物の環状エステル化合物が開環することにより生じるアルコキシドアニオンが他の原料環状エステル化合物ないし生成α−アルキル置換エステルを求核攻撃し二量化する副反応が進行する。これを抑制するために、アルコキシドアニオンの対カチオンである金属イオンを包接する添加剤は反応の選択性を向上させる上で有効である。このような添加剤としては、例えば、18−クラウン−6、15−クラウン−5などのクラウンエーテル類、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのポリエチレングリコール類、シクロデキストリンなどの包接化合物などが挙げられる。
【0051】
[反応形式]
本発明に係るα−アルキル化反応の形式としては、バッチ方式、連続方式、共に採用可能である。
【0052】
[反応条件]
本発明におけるα−アルキル化反応の際の温度は特に限定されるものではないが、副反応の進行を抑制するために重要である。上限は、通常260℃、好ましくは240℃、最も好ましくは230℃であり、下限は、通常170℃以上、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上である。
前記上限超過した場合、例えばGBLとDMCとの反応の場合には、原料のGBL、生成物のα−Me−GBLの開環反応で生じる4−アルコキシドとDMCとの反応生成物である4−(メトキシカルボキシ)酪酸メチル、4−(メトキシカルボキシ)−2−メチル酪酸メチルやメチル化生成物である4−メトキシ酪酸メチル、4−メトキシ−2−メチル酪酸メチルが生じる副反応が起こる場合がある。前記下限未満の場合、実用的な反応速度が得られない場合や、GBL環が開環した副生物、さらには2分子がエステル化して2量化した副生物が生成してしまう場合がある。
【0053】
本発明におけるα−アルキル化反応の反応時間は、特に限定されるものではないが、上限は、通常50時間以下、好ましくは30時間以下、最も好ましくは20時間以下であり、下限は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上である。前記上限超過の場合は、例えば原料としてGBLを用いた場合、GBL環の開環反応が進行する場合があり、一方前記下限未満では、原料であるGBL等のエステル化合物が多く残存してしまう場合がある。
【0054】
[二酸化炭素の除去]
本発明においては、上述のようなα−アルキル化反応において、反応系から二酸化炭素を除去することを特徴とする。
【0055】
二酸化炭素の除去は、連続的に行ってもよく、非連続的に行ってもよい。
【0056】
<バッチ反応方式における二酸化炭素の除去>
バッチ反応方式において二酸化炭素を非連続的に除去する場合、後掲の実施例に示すように、反応を一旦停止し、反応器の気相部を開放して脱ガスする。その後、再び反応を再開することが出来る。
【0057】
また、二酸化炭素の除去方法は本発明の目的を達成する上では特に限定されるものではないが、反応器の気相部にバルブ、ガス抜き出しのラインと耐圧容器を接続し、反応器内圧が所定圧まで上昇した時点で反応温度を保ったままバルブを開放して気相部を抜出し、受器を冷却後気液分離して受器側の気相をパージする方法なども挙げられる。
脱ガスの条件は特に限定されるものではないが、通常、反応停止する際、反応系を冷却して脱ガスを行い、好ましくはジアルキルカーボネートの沸点よりも0〜10℃程度低い温度、例えばジメチルカーボネートであれば80〜90℃に冷却してから脱ガスする。
【0058】
このように、間欠的に二酸化炭素を除去する場合、二酸化炭素の除去頻度は、本発明を達成しうる限りにおいて特に限定されるものではなく、反応系の規模や全反応時間によっても異なるが、通常1〜3時間に1回の頻度で二酸化炭素の除去を行う。
二酸化炭素の除去操作自体に要する時間には特に制限はないが通常1〜30分程度である。
【0059】
バッチ反応方式において、連続的に二酸化炭素を除去する場合には、例えば反応器に還流管を装着して反応器の気相部を系外へ排出しながら反応を行う。
【0060】
上記非連続的、連続的のいずれの二酸化炭素の除去においても、二酸化炭素と共にα−アルキル化剤のジアルキルカーボネートが同伴されて除去された場合には、適宜ジアルキルカーボネートを反応系に補充しながら反応を行うことも可能であるが、好ましくは、二酸化炭素に同伴するジアルキルカーボネートを分離して反応系に戻す。
例えば、反応器に還流管を装着して二酸化炭素を系外に排出しながら気化したジアルキルカーボネートは還流により反応系に戻す方式を採用することができる。或いは、分離膜を用いて二酸化炭素を選択的に除去する方法も適用可能である。
【0061】
<連続反応方式における二酸化炭素の除去>
連続反応方式において二酸化炭素を除去する場合には、特に方法は限定されない。例えば反応器に還流管を装着して連続的に又は非連続的に反応器の気相部を系外へ排出しながら反応を行う方法、反応器上部の気相抜出ラインに所定の圧力で作動して反応器内部の気体を放出するリリーフ弁又は背圧弁を取り付けて反応器内圧力が所定値以上になった際に気体を抜き出す方法、電磁弁のような作動弁を取り付け、断続的に反応器とガス放出ラインの流路を開き内圧によらず反応器内部の気体を少量ずつ抜き出す方法、反応器とガス分離装置の間に複数の仕切り弁を取り付けた循環ラインとこれに接続したパージラインを組み、気相の一部の抜き出し、冷却による気液分離後気体のパージとリサイクルラインからの液体リサイクルでガス成分のみを除去する方法等が挙げられる。
【0062】
間欠的に二酸化炭素を除去する場合、反応系の規模や反応速度によっても異なるが、10秒〜3時間に1回の頻度で1秒〜30分間程度二酸化炭素の除去を行うことが好ましい。
【0063】
上記非連続的、連続的のいずれの二酸化炭素の除去においても、二酸化炭素に同伴するジアルキルカーボネートは、反応系に戻すことが好ましい。
その方法は特に限定されないが、具体的には前述のような還流による方法、充填塔のような熱交換効率の高い装置を使用する方法、塔の上流側から熱交換のための低沸点成分を降らせて気体に同伴する原料、生成物を還流させる方法等が挙げられる。
【0064】
[後処理]
本発明に係るα−アルキル化反応終了後は、蒸留や精製等の通常の後処理によりα−アルキル置換エステルを得ることができる。例えば、そのまま減圧下に過剰に使用したジアルキルカーボネートと副生したアルコールを留去し、引き続き減圧蒸留してα−アルキル置換エステルを留出させて得ることができる。また、ジアルキルカーボネートとアルコールを留去後に溶媒を用いて抽出しても良い。その際に使用可能な溶媒は、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、クロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族溶媒、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒などであり、価格や入手の容易性から好ましくは酢酸エチルやジエチルエーテル、トルエンである。溶媒抽出後は溶媒を留去、必要に応じて蒸留することにより精製することができる。特にGBL等の環状エステル化合物を原料とする場合は、さらにジアルキルカーボネートとアルコールを留去後にアルカリ水溶液を添加して副生したオリゴエステルやカーボネート化合物を加水分解し、引き続き塩酸や硫酸などの酸を添加して液性を酸性にするとα−Me−GBL等に環化することができる。この後に抽出操作を行っても良い。特に反応において副生物が多い場合にこの操作を行うと目的のα−Me−GBLの収率が上がるので好ましい。
【0065】
[反応成績]
本発明において、上記反応条件で実施した場合の原料エステル化合物の転化率は特に限定されるものではないが、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上である。
また、目的物であるα−アルキル置換エステルの収率は特に限定されるものではないが、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上である。
【0066】
また、得られるα−アルキル置換エステルの純度は、特に限定されるものではないが、ガスクロマトグラフィー(GC)などで分析すると、通常、80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上であり、上限は特に制限はないが、好ましくは100モル%である。
【0067】
本反応で得られるα−アルキル置換エステルに含まれる主な不純物は、特に限定されるものではないが、例えば、α−アルキル化剤としてDMCを用いた場合には、通常メタノール、DMC、4−(メトキシカルボキシ)−2−メチル−酪酸メチル、4−メトキシカルボキシ−酪酸メチル、原料エステル化合物、これら化合物が組み合わせ反応したオリゴエステル等である。上記主な不純物の含有量は特に限定されるものではないが、例えば、GBLについては、THFへ誘導することができるのでこのような不純物が20モル%程度含まれていても共重合ポリオール原料としてそのまま次工程に供することができる。ただし後段の精製工程の負荷の軽減するため、GBL含有量は好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【実施例】
【0068】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、以下の実施例及び比較例における反応生成物の分析条件は以下の通りである。
【0069】
(GC測定条件)
装置:島津製作所製 GC−14
カラム:GLサイエンス社製キャピラリーカラム TC−1701
キャリア:ヘリウムガス
検出器:FID
分析はテトラグライムを用いる内部標準物質添加法により行った。
【0070】
(X線構造解析測定条件)
装置:PANalytical社製 X‘Pert Pro MPD
X線源:CuKα(λ=1.54184Å)
出力:40kV、30mA
測定時光学条件 :
自動可変スリット
回折ピークの位置2θ(回折角)
測定範囲:2θ=5〜70度
乾燥窒素気流下測定
【0071】
[実施例1:脱CO1回]
磁気誘導攪拌装置、原料導入口、及び圧力ゲージを取り付けた内容積200mlのオートクレーブ内部を窒素ガスで置換し、ここに炭酸カリウム7.5g(54.0mmol)を入れて再度反応器内部を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下のまま原料投入口からγ−ブチロラクトン47.4g(551mmol)とジメチルカーボネート57.8g(642mmol)を加えた(GBL/DMC/KCO(モル比)=1/1.17/0.10)。この反応条件でのγ−ブチロラクトンとジメチルカーボネートの合計体積が反応器内容量に占める割合は48%である。
【0072】
反応器を電気炉上に設置し、225℃で3時間加熱攪拌を行った後、反応液温度が95℃になるまで攪拌しながら冷却した。内温95℃での内圧は4.0MPaであった。反応器の気相部パージラインを開放し、内圧を0.3MPaとした。脱ガス操作は5分で行い、処理完了時の内温は82℃であった。
【0073】
反応器を再度加熱し、内温225℃で3時間加熱攪拌を行って反応を終了した。終了時の内圧は2.9MPaであった。
【0074】
回収した反応液をGCで分析したところ、γ−ブチロラクトンの転化率は86%、α−メチル−γ−ブチロラクトンの収率は73%であった。
【0075】
[実施例2:脱CO2回]
磁気誘導攪拌装置、原料導入口、及び圧力ゲージを取り付けた内容積200mlのオートクレーブ内部を窒素ガスで置換し、ここに炭酸カリウム7.5g(54.0mmol)を入れて再度反応器内部を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下のまま原料投入口からγ−ブチロラクトン47.4g(551mmol)とジメチルカーボネート57.8g(642mmol)を加えた(GBL/DMC/KCO(モル比)=1/1.17/0.10)。この反応条件でのγ−ブチロラクトンとジメチルカーボネートの合計体積が反応器内容量に占める割合は46%である。
【0076】
反応器を電気炉上に設置し、225℃で2時間加熱攪拌を行った後、反応液温度が90℃になるまで攪拌しながら冷却した。内温90℃での内圧は4.2MPaであった。反応器の気相部パージラインを開放し、内圧を0.1MPaとした。脱ガス操作は15分で行い、処理完了時の内温は80℃であった。
【0077】
反応器を再度加熱し、内温225℃で2時間加熱攪拌を行った後、反応液温度が90℃になるまで攪拌しながら冷却した。内温90℃での内圧は3.0MPaであった。反応器の気相部パージラインを開放し内圧を0.1MPaとした。脱ガス操作は10分で行い、処理完了時の内温は81℃であった。
【0078】
反応器を再度加熱し、内温225℃で2時間加熱攪拌を行って反応を終了した。反応終了時の内圧は3.2MPaであった。
【0079】
回収した反応液をGCで分析したところ、γ−ブチロラクトンの転化率は90%、α−メチル−γ−ブチロラクトンの収率は79%であった。
【0080】
[比較例1:脱COなし]
磁気誘導攪拌装置、原料導入口、及び圧力ゲージを取り付けた内容積300mlのオートクレーブ内部を窒素ガスで置換し、ここに炭酸カリウム11.2g(81.3mmol)を入れて再度反応器内部を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下のまま原料投入口からγ−ブチロラクトン65.7g(763mmol)とジメチルカーボネート86.9g(965mmol)を加えた(GBL/α−Me−GBL/KCO(モル比)=1/1.26/0.11)。この反応条件でのγ−ブチロラクトンとジメチルカーボネートの合計体積が反応器内容量に占める割合は47.7%である。
また、反応が進行するにつれ、淡黄色〜黄色の粉末状の析出物が得られた。回収した反応液は析出物の微粉化によりスラリー化していた。
反応液中に析出した析出物を 窒素雰囲気下で吸引濾過し、反応液と析出物を分離した。析出物を前記記載の条件でX線結晶構造解析を行った。測定の結果、この析出物は炭酸モノカリウムモノメチルのリファレンスデータと一致した。
【0081】
反応器を電気炉上に設置し、反応内温225℃で6時間加熱攪拌を行った。反応終了時の反応器内圧は8.3MPaであった。
【0082】
回収した反応液をGCで分析したところ、γ−ブチロラクトンの転化率は65%、α−メチル−γ−ブチロラクトンの収率は60%であった。
【0083】
以上の結果から、本発明によれば、エステル化合物とジアルキルカーボネートとを塩基性触媒の存在下に反応させて、α−アルキル置換エステルを高収率で製造することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル化合物とジアルキルカーボネートとを塩基性触媒の存在下に反応させてα−アルキル置換エステルを製造する方法において、反応系から二酸化炭素を除去する工程を含むことを特徴とするα−アルキル置換エステル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記反応系から二酸化炭素を連続的に除去しながら反応を行う請求項1に記載のα−アルキル置換エステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記反応系から二酸化炭素と同伴されて除去されたジアルキルカーボネートを反応系に戻す工程を含む請求項1又は2に記載のα−アルキル置換エステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記エステル化合物がラクトンである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のα−アルキル置換エステル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−251926(P2011−251926A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126013(P2010−126013)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】