説明

α−アルコキシフタロシアニン化合物及びそれを用いた光記録媒体

【構成】
【化1】


〔式(1)中、R基は、下記式を表し、
【化2】


R基中、X、X’及びYは炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基である、1−アルコキシメチル−2−ジアルキルアミノ−エチル基である。OR基の置換位置は、1または4位、5または8位、9または12位、13または16位である。Metは、CuまたはPdを表わす。〕で表されるα−アルコキシフタロシアニン化合物、およびそれを記録層中に含有してなる光記録媒体。
【効果】 本発明の化合物は、反射率、感度、記録特性、再生光安定性、保存安定性等に優れた特性を有する光記録媒体を提供することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、情報記録、表示センサー、保護眼鏡等のオプトエレクトロニクス関連に重要な役割を果たす近赤外線吸収剤として有用な化合物α−アルコキシフタロシアニン化合物(以下、α−APcと略記する。)とそれを記録層中に含有してなる光ディスク及び光カード等の光記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】光ディスクや光カード等の光記録媒体の記録層にフタロシアニン色素、特にアルコキシフタロシアニンを利用する技術は、特開昭61-154888号公報(EP 186404)、同61-197280号公報、同61-246091号公報、同62-39286号公報(USP 4769307)、同63-37991号公報、同63-39888号公報等により広く知られているが、フタロシアニン類は会合し易いためにその吸収能が充分でなかった。そのためにそれを用いた光記録媒体においては、780〜830nmでの反射率が低く、感度、記録特性においても充分な性能を有しているとは言い難かった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】フタロシアニン類は、上述の欠点である感度(C/N比、最適記録パワー)、記録特性(ジッター、デビエイション)の他に、欠陥のない塗布膜の作製が困難であるし、また、有機溶剤等への溶解性に乏しく、溶液塗工による薄膜形成が行えないために、真空蒸着に頼らざるを得ず、大型設備が必要になり、そのため、加工コストも高くなるという問題があった。
【0004】したがって、本発明の目的は、上記、欠点がない新規なフタロシアニン化合物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前項の問題点を解決すべく鋭意検討の結果、上述の目的に合う新規なフタロシアニン化合物を見出し、本発明を完成させた。
【0006】すなわち、本発明は、一般式(1)
【0007】
【化3】


〔式(1)中、R基は下記式を表し、
【0008】
【化4】


R基中、X,X’及びYが炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基である、1−アルコキシメチル−2−ジアルキルアミノ−エチル基を表す。OR基の置換位置は1または4位、5または8位、9または12位、13または16位を表す。Metは、CuまたはPdを表す。〕で表されるα−APc、および、それを記録層中に含有してなる光記録媒体である。
【0009】本発明のα−APcは、650〜900nmにシャープな吸収を有し、分子吸光係数は、150,000以上と高く、半導体レーザーを用いる光記録媒体(光ディスク、光カード等)に有効である。
【0010】また、本発明のα−APcは、一般式(1)中、Rで示されるアルコキシ基の導入により、その立体障害を利用し、フタロシアニンの会合性を小さくすると共に、有機溶剤への溶解性、樹脂への相溶性が良好なフタロシアニン化合物であり、更に、アルコキシ基中の窒素原子により、光記録媒体としたとき反射層である金属層との密着性が向上し、アルキルアミノ基の効果により感度、記録特性及び耐久性に優れた特性を持つ化合物である。
【0011】以下に、本発明の好ましい態様を詳述する。
【0012】一般式(1)中、Rで示される基の具体例としては、アルコキシ基の立体障害が大きく、フタロシアニン環の垂直方向へ張り出しやすく、かつ、近赤外線吸収剤の単位重量当たりの光の吸収量を大きくできる基、また、光記録媒体としたとき、感度向上に有効な基、さらにスピンコート溶媒への溶解性向上に有効な基としては、エチル基の2位にアルキルアミノ基が置換されている1−n−ブトキシメチル−2−ジイソブチルアミノ−エチル基、1−メトキシメチル−2−ジイソブチルアミノ−エチル基、1−イソプロポキシメチル−2−ジエチルアミノ−エチル基等が挙げられる。
【0013】一般式(1)で示されるフタロシアニン化合物の合成法としては、下式(2)
【0014】
【化5】


〔式(2)中、R基は一般式(1)と同様の基を表す。〕で表される化合物と、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)存在下に、金属誘導体とアルコール中で加熱反応する。あるいは、金属誘導体とクロロナフタレン、ブロモナフタレン、トリクロロベンゼン等の高沸点溶媒中で加熱反応する方法が挙げられる。
【0015】本発明のフタロシアニンを用いて光記録媒体を製造する方法には、透明基板上に本発明のフタロシアニンを含む1〜3種の化合物を1層または2層に塗布あるいは蒸着する方法があり、塗布法としては、バインダー樹脂20重量%以下、好ましくは0%と、本発明のフタロシアニン0.05〜20重量%、好ましくは0.5〜20重量%となるように溶媒に溶解し、スピンコーターで塗布する方法等がある。また蒸着方法としては10-5〜10-7torr、100〜300℃にて基板上に堆積させる方法等がある。
【0016】基板としては、光学的に透明な樹脂であればよい。例えばアクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチレン樹脂、ポリオレフィン共重合樹脂、塩化ビニル共重合樹脂、塩化ビニリデン共重合樹脂、スチレン共重合樹脂等が挙げられる。
【0017】また基板は熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂により表面処理がなされていてもよい。
【0018】光記録媒体(光ディスク、光カード等)を作製する場合、コストの面、ユーザーの取り扱い面より、基板はポリアクリレート基板またはポリカーボネート基板を用い、かつ、スピンコート法により塗布されるのが好ましい。
【0019】基板の耐溶剤性より、スピンコートに用いる溶剤は、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエチレン、ジクロロジフルオロエタン等)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、炭化水素類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロオクタン、ジメチルシクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等)が好適に用いられる。
【0020】記録媒体として加工するには、上記の様に基板で覆う、あるいは2枚の記録層を設けた基板に、エアーギャップを設けて対向させて張り合わせる、または、記録層上に反射層(アルミニウムまたは金)を設け、熱硬化性(光硬化性)樹脂の保護層を積層する方法などがある。
【0021】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の実施の態様はこれにより限定されるものではない。
【0022】実施例1撹拌器、還流冷却器および窒素導入管を備えた容器に、3−(1−n−ブトキシメチル−2−ジイソブチル−エチル)フタロニトリル38.5g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)、およびn−アミルアルコール125gを装入し、窒素雰囲気下で、110℃まで昇温させた。次に、同温度で塩化パラジウム5.3g(0.03モル)を添加し、110〜120℃で8時間反応させる。反応終了後、冷却し、不溶物を濾過して除去した。濾液を減圧濃縮して、溶媒した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)して、目的とするα−アルコキシフタロシアニンパラジウム化合物の濃緑色オイル状物を得た。
【0023】収量は25.0g(収率61%)であった。高速液体クロマトグラフィーによる純度測定の結果は99.0%であった。可視吸光スペクトルおよび元素分析の結果は以下の通りである。
可視吸収:λmax=686nm、εg=1.5×105ml/g.Cm(溶媒:トルエン)
元素分析:C92140128Pd
【0024】
【表1】


上記フタロシアニン化合物のn−オクタン溶液(10g/l)をポリカーボネート基板上に塗布し金を反射層とした光ディスクを作製した。この光ディスクの反射率は70%(at780〜830nm)、回転速度1800rpm,7mWの780nmレーザー光(基板面)反射において60dBの感度を示した。
【0025】実施例2実施例1と同様の容器に、3−(1−メトキシメチル−2−ジイソブチルアミノ−エチル)フタロニトリル34.3g(0.1モル)、DBU15.2g(0.1モル)およびn−アミルアルコール120gを装入し、窒素雰囲気下で110℃まで昇温させた。次に、同温度で塩化パラジウム5.3g(0.03モル)添加し、120℃で12時間反応させた。終了後、冷却し、濾過して不溶物を除去した。濾液を減圧濃縮し溶媒回収後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒トルエン)して、目的とするα−アルコキシフタロシアニンパラジウム化合物の濃緑色オイル状物を得た。収量は21g(収率56.8%)であった。純度は、99.6%であった。
【0026】分光スペクトルおよび元素分析の結果は以下の通りである。
可視吸収λmax=686nm、εg=1.6×105ml/g.Cm(溶媒:トルエン)
元素分析:C80116128Pd
【0027】
【表2】


上記フタロシアニン化合物をn−オクタンに溶解(10g/l)し、基板にスピンコートして光記録媒体を作製した。780nmの半導体レーザーを用いて、記録した時、8mWで60dBのCN比を得、0.5mWの再生光で百万回再生を行っても変化がなかった。また80℃/80%の条件で1000時間経過後も記録再生に支障はなかった。
【0028】実施例3実施例1と同様の容器に、3−(1−イソプロポキシメチル−2−ジエチルアミノ−エチル)フタロニトリル31.5g(0.1モル)、DBU(0.1モル)、および、n−アミルアルコール120gを装入し、窒素雰囲気下で110℃まで昇温する。同温度で塩化パラジウム5.3g(0.03モル)を添加して120℃で10時間反応した。
【0029】反応終了後、冷却し、不溶物を濾過して除去した。濾液を、減圧濃縮した後カラム精製(シリカゲル300g、溶媒:トルエン)して、目的とするα−アルコキシフタロシアニンパラジウム化合物の濃緑色オイル状物を得た。収量は19.5g(収率57.1%)で、純度99.9%であった。
【0030】可視吸光スペクトルおよび元素分析の結果は以下の通りである。
可視吸収:λmax=688.5nm、εg=1.6×105ml/g.Cm(溶媒:トルエン)
元素分析:C72100128Pd
【0031】
【表3】


上記フタロシアニン化合物10gをジブチルエーテル1000gに溶解した溶液をポリカーボネート製光カード基板上に塗布し、塗布面に保護層を設けて光カードを作製した。この光カードは、線速2m/sec,4mWの半導体レーザー光により記録することが可能で、その際のCN比は55dBであった。また、線速2m/sec,0.8mWのレーザー光により再生可能で、再生光安定性を調べたところ105回の再生が可能であった。さらにこの光カードは保存安定性も良好なものであった。
【0032】実施例4実施例1と同様の容器に、3−(1−n−ブトキシメチル−2−ジイソブチルアミノ−エチル)フタロニトリル38.5g(0.1モル)、DBU15.2(0.1モル)、及びn−アミルアルコール125gを装入し、窒素雰囲気下で、110℃まで昇温させる。同温度で塩化銅3.0g(0.03モル)を添加し、120℃で10時間反応して終了した。冷却後、不溶物を濾過して除去する。この濾液を減圧濃縮して、溶媒を回収した後、カラム精製(シリカゲル500g、溶媒クロロホルム)して目的とするα−アルコキシフタロシアニン銅化合物の青緑色オイル状物を得た。収量は28g(収率68.8%)であった。純度は99.2%であった。可視吸光スペクトルおよび元素分析の結果は以下の通りであった。
【0033】可視吸収:λmax=704nm、εg=1.6×105ml/g.Cm(溶媒:トルエン)
元素分析:C92140128Cu
【0034】
【表4】


得られたフタロシアニン化合物1gをベンゼン100gに溶解し、基板にスピンコートして、光記録媒体を作製した。CN比60dBで感度も良好であった。
【0035】
【発明の効果】本発明のフタロシアニン化合物は、その分子中のアルコキシ基、特にアルキルアミノ基の効果により、これを用いた光記録媒体おいては、反射率が高く、感度、記録特性においても優れた性能を有するものであり、かつ、再生光安定性、保存安定性共に優れ長期間にわたる使用が可能である。また、有機溶剤への溶解性、樹脂との相溶性が良好な化合物であり、塗布法により容易に光記録媒体の大量生産が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(1)
【化1】


〔式(1)中、R基は、下記式を表し、
【化2】


R基中、X,X’及びYが炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基である、1−アルコキシメチル−2−ジアルキルアミノ−エチル基を表す。OR基の置換位置は1または4位、5または8位、9または12位、13または16位を表す。Metは、CuまたはPdを表す。〕で表されるα−アルコキシフタロシアニン化合物。
【請求項2】 請求項1で示されるα−アルコキシフタロシアニン化合物を記録層に含有してなる光記録媒体。

【公開番号】特開平5−171052
【公開日】平成5年(1993)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−338557
【出願日】平成3年(1991)12月20日
【出願人】(000003126)三井東圧化学株式会社 (49)
【出願人】(000179904)山本化成株式会社 (70)