説明

α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法

【課題】粗α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの経済的かつ効率的な精製方法を提供すること。
【解決手段】粗α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルに、特定の高沸点極性有機溶媒を加え、常圧下または減圧下に、230℃以上の温度に加熱することにより、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを該高沸点極性有機溶媒との均一溶液となし、該均一溶液の液相の状態で加熱を継続してα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを該高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、溜出物から2量体環状エステルを回収することを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法に関する。本発明の方法により得られる2量体環状エステルは、生分解性ポリマーや医療用ポリマー等として有用なポリ(α−ヒドロキシカルボン酸エステル)の出発原料(モノマー)等として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
α−ヒドロキシカルボン酸(以下、α−HCAと略記することがある)のオリゴマーを解重合して、その2量体環状エステル(以下、DCEと略記することがある)を製造することは、公知の技術である。ここで、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルとは、α−ヒドロキシカルボン酸の2量体が環状エステル化した構造を有する化合物を意味する。例えば、グリコリドは、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの代表的なものであるが、グリコール酸(=ヒドロキシ酢酸)2分子が無水物化して環状エステルを形成した構造を有している。
【0003】
従来、例えば、グリコリドを得る方法として、以下のような各種の方法が提案されている。
(1)米国特許第2,668,162号明細書(特許文献1)には、グリコール酸オリゴマーを粉末状に砕き、極く少量づつ反応器に供給(約20g/hr)しながら、超真空下(12〜15Torr)で、加熱(270〜285℃)して解重合させ、トラップ内で捕集する方法が開示されている。この方法は、小スケールで実施することは可能であるものの、スケールアップは困難であり、量産化には不適である。しかも、この方法では、加熱時にオリゴマーが重質物化して多量の残渣として反応器内に残るため、収率が低い上、残渣のクリーニングが煩雑である。さらに、生成2量体環状エステルは、高融点の結晶であるため、回収ライン内壁表面に蓄積して、ラインを閉塞するおそれがあり、ラインへの蓄積物の回収も困難である。
【0004】
(2)米国特許第4,727,163号明細書(特許文献2)には、多量のポリエーテルを基体(Substrate)とし、それに少量のグリコール酸をブロック共重合させて共重合体とした後、該共重合体を加熱・解重合して2量体環状エステルを得る方法が開示されている。しかし、ブロック共重合プロセスは、操作が煩雑で、コストが高くなり過ぎる。しかも、この方法では、多量の重質化物が残渣として残るため、収率が低く、反応缶内のクリーニングも煩雑である。さらに、生成2量体環状エステルが回収ライン内壁表面に蓄積してラインを閉塞するおそれがある。したがって、この方法は、スケールアップによる量産化には不適である。
【0005】
(3)米国特許第4,835,293号明細書(特許文献3)には、グリコール酸オリゴマーを加熱して融液となし、該融液の表面に窒素ガスを吹き込んで表面積をある程度押し広げ、その表面から生成し揮発する2量体環状エステルを気流に同伴させて回収する方法が開示されている。この方法では、2量体環状エステルをなるべく速くオリゴマー融液相表面から生成させて揮発させるために、窒素ガスの気流を吹きつけて表面積を押し拡げてはいるが、その表面積は未だ極めて小さく、2量体環状エステルの生成速度は小さい。しかも、加熱中にオリゴマー融液相内部では重質化が進行し、多量の重質化物が残渣として反応缶内に残るため、収率が低く、缶内のクリーニングも煩雑である。
【0006】
(4)米国特許第5,326,887号明細書(特許文献4)及び国際公開第92/15572号パンフレット(特許文献5)には、グリコール酸オリゴマーを固定床触媒上で加熱・解重合して、2量体環状エステルを得る方法が開示されている。この方法では、加熱時に相当量の重質化物が生成し、残渣として残るため、収率が低く、固定床のクリーニングも煩雑である。
【0007】
このように、従来の製造方法では、経済的に効率よくα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを量産することができなかった。その理由は、従来のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを解重合して2量体環状エステルを製造する方法では、原理的に、固体状態の当該オリゴマーを加熱して融液とし、その融液相の表面から解重合生成物である2量体環状エステルを揮発させ、捕集する方法であるため、以下のような問題点があったからである。
【0008】
(1)オリゴマー融液相の表面積が小さいために、2量体環状エステルの発生速度または揮発速度が小さい。
(2)長時間の加熱により、オリゴマー融液相の内部で重縮合が進行し、重質化物が多量に生成するため、2量体環状エステルの収率が低下し、しかも重質化物残渣のクリーニングが煩雑である。
(3)揮発した2量体環状エステルは、高融点結晶であるため、蒸溜ライン内壁表面に蓄積し易く、ラインを閉塞させるおそれがあり、また、ライン内壁表面に蓄積した2量体環状エステルの回収が困難である。
【0009】
以上のような理由から、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーをそのまま加熱して解重合する方法は、スケールアップによる量産化が極めて困難であった。
【特許文献1】米国特許第2,668,162号明細書
【特許文献2】米国特許第4,727,163号明細書
【特許文献3】米国特許第4,835,293号明細書
【特許文献4】米国特許第5,326,887号明細書
【特許文献5】国際公開第92/15572号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、粗α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの経済的かつ効率的な精製方法を提供することにある。
【0011】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを高沸点極性有機溶媒と混合し、加熱して、当該オリゴマーを溶媒中に溶解させて溶液相、好ましくは実質的に均一溶液相の状態となし、該状態で更に加熱して解重合させ、生成した2量体環状エステルを溶媒と共に溜出させることにより、経済的かつ効率的に2量体環状エステルの得られることを見いだした。この方法によれば、2量体環状エステルの量産化が可能である。また、前記従来法などの種々の方法で得られた粗α−ヒドロキシカルボン酸2量体エステルを高沸点極性有機溶媒と混合し、均一溶液相の状態で加熱して、2量体環状エステルを溶媒と共に溜出させることにより、経済的かつ効率的に精製された2量体環状エステルの得られることを見いだした。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らの知見によれば、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを解重合してα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを製造する方法において、
(1)A)α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマー、
B)芳香族カルボン酸アルコキシアルキルエステル、脂肪族カルボン酸アルコキシアルキルエステル、ポリアルキレングリコールエーテル、ポリアルキレングリコールエステル、芳香族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、芳香族エーテル、脂肪族エーテル、芳香族リン酸エステル、脂肪族リン酸エステル、脂肪族イミド化合物、及び脂肪族アミド化合物からなる群より選ばれ、かつ、230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒、並びに
C)一価または二価以上の多価アルコール類、フェノール類、一価または二価以上の多価脂肪族カルボン酸類、脂肪族カルボン酸とアミンとの脂肪族アミド類、及び脂肪族イミド類からなる群より選ばれ、使用する高沸点極性有機溶媒に相溶性ないしは可溶性であり、かつ、沸点が230℃以上である非塩基性有機化合物からなる可溶化剤
を含む混合物を、常圧下または減圧下に、該オリゴマーの解重合が起る温度に加熱して、
(2)該オリゴマーの融液相の残存率が0.5以下になるまで、該オリゴマーを該高沸点極性有機溶媒に溶解させ、
(3)同温度で更に加熱を継続して該オリゴマーを解重合させ、
(4)生成した2量体環状エステルを高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、
(5)溜出物から2量体環状エステルを回収する
ことを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの製造方法が提供される。
【0013】
ここで、「融液相の残存率」とは、流動パラフィンのようにα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーに対して実質的に溶解力のない溶媒中で形成される該オリゴマー融液相の容積を1とした場合に、実際に使用する溶媒中で形成される該オリゴマーの融液相の容積の比率を表す。融液相の残存率が小さいほど、該オリゴマーに対する溶媒の溶解力が大きいことを表す。
【0014】
かくして、本発明によれば、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法であって、
粗α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルに、芳香族カルボン酸アルコキシアルキルエステル、脂肪族カルボン酸アルコキシアルキルエステル、ポリアルキレングリコールエーテル、ポリアルキレングリコールエステル、及びベンジルブチルフタレートからなる群より選ばれ、かつ、230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒を加え、常圧下または減圧下に、230℃以上の温度に加熱することにより、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを該高沸点極性有機溶媒との均一溶液となし、該均一溶液の液相の状態で加熱を継続してα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを該高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、溜出物からα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを回収する
ことを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、留出物を冷却し、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの非溶剤を添加して、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを固化・析出させて回収する前記のα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の2量体環状エステルの精製方法は、従来法の昇華法等による精製方法と大きく異なり、スケールアップが容易であり、大量の2量体環状エステルを工業的に精製することが可能である。この結果、従来、コスト的理由で医療分野等の極く特殊な分野にしか用いることができなかったα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルが、環境負荷の少ない生分解性プラスチックの分野をはじめ、プラスチックの一般用途へも広く使用することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らのα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの製造方法は、いわば「溶液相解重合法」とも言うべき方法である。この製造方法によれば、以下のような理由により、効率よく2量体環状エステルを製造することができるものと考えられる。
【0018】
(1)α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを溶液相、好ましくは均一溶液相で解重合を起させることによって、共存オリゴマーの表面積が飛躍的に拡大されるため、オリゴマー表面から発生・揮発する2量体環状エステルの生成速度が飛躍的に大きくなる。
【0019】
(2)オリゴマー分子同士の接触が溶媒によって抑制されるために、加熱時におけるオリゴマーの重縮合反応の進行が抑制され、重質化物の生成量が極度に低減する。したがって、2量体環状エステルの収率は向上し、缶内のクリーニングの手間も殆ど省くことができる。
【0020】
(3)2量体環状エステルは、高沸点極性有機溶媒の溜出温度で生成し、溶媒と共に溜出するため、回収ライン内壁表面には殆ど蓄積せず、したがって、ラインの閉塞が防止され、また、ライン内の蓄積物の回収という手間も殆ど省くことができる。
【0021】
(4)そして、何よりも、通常の溶媒の蒸溜システムと類似のシステムを用いることができるため、スケールアップが容易であり、工業的スケールでの量産化も容易である。
【0022】
α−ヒドロキシカルボン酸
本発明者らの製造方法は、グリコール酸、乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の2量体環状エステルの製造方法に適用することができる。これらのα−ヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを本発明者らの製造方法により溶液相で解重合させることにより、グリコリドやラクチドなどの各種2量体環状エステルを製造することができる。本発明者らの製造方法は、特にグリコリドの製造に好適である。
【0023】
高沸点極性有機溶媒
本発明者らの製造方法において、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの解重合の際に用いる溶媒としては、沸点が230〜450℃、好ましくは235〜450℃、より好ましくは260〜430℃、最も好ましくは280〜420℃の範囲内の高沸点有機溶媒である。溶媒の沸点が230℃未満では、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの解重合(特に減圧下での解重合)が困難である。該オリゴマーの解重合には、一般に、230℃以上の温度に加熱することが必要である。また、溶媒の沸点が230℃未満では、解重合により2量体環状エステルが生成しても、低沸点の溶媒のみが先に溜出してしまい、2量体環状エステルを溶媒と共に共溜出させることができない。一方、溶媒の沸点が450℃超過では、溶媒が溜出し難く、解重合により生成した2量体環状エステルの溜出と共に溶媒を共溜出させるのが困難となる。
【0024】
高沸点極性有機溶媒は、分子量が、通常150〜500、好ましくは180〜450、より好ましくは200〜400の範囲内のものである。有機溶媒の分子量が150未満でも、500超過でも、2量体環状エステルとの共溜出が難しくなるので好ましくない。
【0025】
本発明者らの製造方法において、解重合の際に使用する溶媒は、極性有機溶媒である。非極性または半極性の有機溶媒は、オリゴマーと均一溶液相を形成し難く、相分離し易い。非極性または半極性の有機溶媒は、後述の可溶化剤と組み合わせて使用しても、同様に相分離し易い。また、非極性または半極性の有機溶媒を用いて解重合を行うと、解重合によって生成する2量体環状エステルと共溜出させた場合にも、回収ライン内壁表面に2量体環状エステルが蓄積し、ラインの閉塞を起こし易い。
【0026】
本発明者らの製造方法において、解重合の際に使用する溶媒は、非塩基性であることが望ましい。例えば、アミン系溶媒、ピリジン系溶媒、キノリン系溶媒などの塩基性有機溶媒は、α−ヒドロキシンカルボン酸オリゴマーや生成する2量体環状エステルと反応するおそれがあり、好ましくない。
【0027】
このような高沸点極性有機溶媒としては、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーに対する溶解力が高いものとしては、例えば、芳香族カルボン酸アルコキシアルキルエステル、脂肪族カルボン酸アルコキシアルキルエステル、ポリアルキレングリコールエーテル、ポリアルキレングリコールエステルなどが挙げられる。これらの高沸点極性有機溶媒は、通常、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーに対して0.3〜50倍量(重量比)の割合で単独で使用することにより、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの解重合が起る温度(230℃以上)において、該オリゴマーを前記濃度の範囲内で溶解し得る溶解力を有する。これらの中でも、ジ(2−メトキシエチル)フタレートなどのフタル酸ビス(アルコシキアルキルエステル)、ジエチレングリコールジベンゾエートなどのジアルキレングリコールジベンゾエート、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテルなどのポリエチレングリコールエーテルは、オリゴマーに対する溶解力、化学的安定性、熱安定性などの観点から特に好ましい。これらの溶解力の高い高沸点極性有機溶媒を(a)グループの溶媒と呼ぶ。
【0028】
本発明者らの知見によれば、上記の(a)グループよりもオリゴマーに対する溶解力の劣る高沸点極性有機溶媒も使用できる。例えば、芳香族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、芳香族エーテル、脂肪族エーテル、芳香族リン酸エステル、脂肪族リン酸エステル、脂肪族イミド化合物、脂肪族アミド化合物などが挙げられる。これらの高沸点極性有機溶媒は、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの解重合が起る温度において、該オリゴマーを単独で溶解し得る溶解力が(a)グループ溶媒に比較して低い。これら溶解力の低い高沸点極性有機溶媒を(b)グループの溶媒と呼ぶ。これらの(b)グループの溶媒は、通常、(a)グループの溶媒と混合して用いるか、あるいは可溶化剤と組み合わせて用いる。
【0029】
前記(b)グループの溶媒の中でも、芳香族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、及び芳香族リン酸エステルは、2量体環状エステルの溶出力、化学的安定性、熱的安定性などの観点から特に好ましい。芳香族カルボン酸エステルとしては、例えば、ベンジルブチルフタレート、ジブチルフタレート、ジアミルフタレート、ジプロピルフタレート等のフタル酸エステル;ベンジルベンゾエート等の安息香酸エステルが好ましい。脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、オクチルアジペート等のアジピン酸エステル、ジブチルセバケート等のセバチン酸エステルが上げられる。芳香族リン酸エステルとしては、例えば、トリクレジルホスフェートが挙げられる。
【0030】
前記(b)グループの溶媒は、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの解重合が起る温度において、該オリゴマーの濃度が大きい場合には、部分的にしか溶解できないものが多い。一方、(b)グループの溶媒は、安価なものが多く、しかもオリゴマーに対する溶解力を高めると、2量体環状エステルを比較的高収率で与えることができるものが多い。そこで、通常、可溶化剤によってα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの(b)グループの溶媒に対する溶解性を高めて使用する。
【0031】
前記(b)グループの溶媒の溶解力を高めるためのひとつの方法としては、前述の(a)グループの溶媒と混合して用いる方法がある。両者の混合割合は、通常、(a):(b)=99:1〜1:99(重量比)である。
【0032】
可溶化剤
高沸点極性有機溶媒、特に前記(b)グループの溶媒に対するα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの溶解性を高める方法として、可溶化剤を用いる方法がある。
【0033】
本発明者らの知見によれば、用いる可溶化剤は、次のような要件を満たすものである。
【0034】
(1)非塩基性有機化合物である。
(2)使用する溶媒に相溶性ないしは可溶性である(液体でも、固体でもよい)。
(3)沸点が230℃以上、好ましくは250℃以上である。使用溶媒よりも沸点の高い方が使い易いので好ましい。
(4)例えば、OH基、COOH基、CONH基などの官能基を有している。
【0035】
これらの中でも、OH基を有するものが、可溶化力及び安定性などの点から最も好ましい。
【0036】
具体的に可溶化剤としては、一価または二価以上の多価アルコール類(部分エステル化物、部分エーテル化物を含む)、フェノール類、一価または二価以上の多価脂肪族カルボン酸類、脂肪族カルボン酸とアミンとの脂肪族アミド類、及び脂肪族イミド類等が挙げられる。特に、アルコール類は、可溶化剤として有効である。アルコール類の中でも、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリデカノール等が好ましい。
【0037】
この可溶化剤の作用は、未だ完全に明らかではないが、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマー鎖の末端と作用して該オリゴマーを溶け易いものに変える作用、該オリゴマー鎖の中間に作用してオリゴマーを切断し、分子量を調制して、該オリゴマーを溶け易くする作用、溶媒系全体の極性を変え、親水性を高めて該オリゴマーの溶解性を高める作用、該オリゴマーを乳化分散させる作用、あるいは、これらの2種以上の複合作用などによるものではないかと推測される。
【0038】
いずれにしても、この可溶化剤を用いることによって、安価な(b)グループの溶媒を用いることができるので、経済効果は極めて大きい。
【0039】
可溶化剤は、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマー100重量部に対して、通常、0.1〜500重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは2〜20重量部の割合で使用する。可溶化剤の割合が小さすぎると、可溶化効果が不充分となり、該オリゴマーと溶媒との相分離が生じる。可溶化剤の割合が大きすぎると、可溶化剤の種類によっては、該オリゴマーとの反応などの不都合な反応を生じたり、可溶化剤の回収が煩雑となったり、また、経済性の見地から不利となる。
【0040】
触媒
本発明者らのα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの製造方法では、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーが高沸点極性有機溶媒に溶解してその表面積が極度に広がるために、解重合による2量体環状エステルの発生速度または揮発速度が大きい。したがって、本発明者らの知見によれば、通常、解重合のための触媒を用いる必要のないことが、この製造方法の大きな特徴の一つである。本発明者らの製造方法において、錫化合物、アンチモン化合物等の従来の解重合触媒は、むしろ均一溶液相を破壊して相分離を起させる傾向があり、通常、有害である。しかし、この「溶液相解重合法」を害しない範囲内において、これらの触媒の使用は許容されよう。
【0041】
オリゴマーの製造方法
本発明者らの製造方法の出発原料として用いるα−ヒドロキシカルボン酸のオリゴマーは、常法により容易に合成することができる。すなわち、α−ヒドロキシカルボン酸またはそのエステルを、必要に応じて縮合触媒またはエステル交換触媒の存在下に、減圧下、常圧下または加圧下に、100〜250℃、好ましくは140〜230℃の温度で加熱し、水、アルコール等の低分子量物の溜出が実質的になくなるまで縮合反応またはエステル交換反応を行う。縮合反応またはエステル交換反応終了後、生成したオリゴマーは、そのままで本発明者らの製造方法の原料として使用することができる。また、得られたオリゴマーを反応系から取り出して、ベンゼンやトルエン等の非溶媒で洗浄して、未反応物や低重合度物を除去してから使用することもできる。
【0042】
オリゴマーとしては、解重合の際の2量体環状エステルの収率の観点から、融点Tmが通常140℃以上、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上のものが望ましい。ここで、Tmは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性雰囲気下、10℃/分の速度で昇温した際に検出される融点である。
【0043】
2量体環状エステルの製造方法
本発明者らの製造方法は、下記のようなプロセスで行う。
(1)α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーと、230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該オリゴマーの解重合が起る温度に加熱して、
(2)該オリゴマーの融液相の残存率が0.5以下になるまで、該オリゴマーを該溶媒に溶解させ、
(3)同温度で更に加熱を継続して該オリゴマーを解重合させ、
(4)生成した2量体環状エステルを高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、
(5)溜出物から2量体環状エステルを回収する。
【0044】
高沸点極性有機溶媒は、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーに対して、通常0.3〜50倍量(重量比)、好ましくは0.5〜20倍量(重量比)、より好ましくは1〜10倍量(重量比)の割合で使用する。高沸点極性有機溶媒が前記(a)グループの溶媒の場合には、オリゴマーに対する高い溶解力を持っているため、それぞれ単独で使用することができる。前記(b)グループの溶媒の場合には、当該溶媒に対するオリゴマーの溶解性を高めるために、通常、(a)グループの溶媒と混合して用いるか、あるいは可溶化剤を添加して使用する。
【0045】
次に、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーと高沸点極性有機溶媒及び必要に応じて可溶化剤とを含む混合物は、常圧下または減圧下に、230℃以上の温度に加熱することにより、オリゴマーの全部若しくは大半が溶媒に溶けて溶液相を形成する。本発明者らの製造方法では、オリゴマーの解重合を溶液相の状態で行う点に最大の特徴を有する。解重合が起こる温度である230℃以上の温度で、オリゴマーの大半が溶媒に溶解しないで融液相を形成する場合には、2量体環状エステルが溜出し難く、融液相中で重質化し易い。オリゴマーの大半を溶液相の状態で加熱を継続することにより、オリゴマー表面から発生・揮発する2量体環状エステルの生成速度が飛躍的に大きくなる。
【0046】
加熱は、常圧下または減圧下に行うが、0.1〜90.0kPa(1〜900mbar)の減圧下で加熱することが好ましい。加熱は、好ましくは不活性雰囲気下で行う。加熱温度は、オリゴマーの解重合が起こる230℃以上とするが、通常、230〜320℃、好ましくは235〜300℃、より好ましくは240〜290℃の範囲である。加熱により、オリゴマーの解重合が起こり、2量体環状エステルが溶媒と共に溜出する。この製造方法では、沸点が230〜450℃の範囲内にある少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒を用いることにより、生成した2量体環状エステルと溶媒とを共溜出させる。2量体環状エステルの溜出に際し、溶媒が一緒に溜出しない場合には、ライン内壁表面に2量体環状エステルが付着して、蓄積する。
【0047】
溜出物中に含まれる2量体環状エステルは、当該溜出物を冷却し、必要に応じてさらに2量体環状エステルの非溶剤を添加し、2量体環状エステルを固化・析出させることにより、容易に分離・回収することができる。析出した2量体環状エステルは、常法により、母液から濾別、遠心沈降、デカンテーション等によって分離し、必要に応じて、シクロヘキサン、エーテル等の非溶剤で洗浄または抽出し、あるいは酢酸エチル等より再結晶すれば、更に精製することができる。あるいは、後述の蒸留法によっても精製することができる。一方、2量体環状エステルを分離した母液は、精製せずにそのままリサイクルで使用したり、活性炭等で処理して濾別精製してからリサイクル使用したり、あるいは再蒸溜してリサイクル使用したりすることができる。
【0048】
本発明者らの製造方法によれば、加熱時にオリゴマーの重質化物が殆どできないので、缶内のクリーニングの手間を省くことができる。また、仮に何らかのトラブル等により缶内に重質化物が付着した場合は、溶媒または溶媒と前述の可溶化剤とを缶に入れて加熱することにより、容易にクリーニングすることができる。前述の高沸点極性有機溶媒は、(a)及び(b)の両グループとも、2量体環状エステルを溜出温度で溶出することができる。したがって、蒸留ライン内壁表面に蓄積される2量体環状エステルは、当該溶媒で溶出されるので、ラインの閉塞を防止することができ、2量体環状エステルの回収も容易である。
【0049】
2量体環状エステルを分離した母液に、一種類の溶媒の外に他の種類の溶媒や可溶化剤も含まれている場合には、この分離した母液を精製せずにそのままリサイクル使用したり、活性炭等で処理し濾別精製してリサイクル使用したり、あるいは単蒸留もしくは分溜して、再び溶剤及び/または可溶化剤としてリサイクル使用することができる。可溶化剤は、重質化物残渣の溶解に効果があるので、可溶化剤を用いた解重合の場合は、特に重質化物量が低減され、缶内のクリーニングが省略若しくは軽減できる。
【0050】
精製方法
本発明者らの「溶液相解重合法」は、粗2量体環状エステルの精製方法にも応用することができる。すなわち、230℃以上の蒸溜温度において2量体環状エステルを溶解できる溶解力を有する高沸点極性有機溶媒を用い、精製すべき粗2量体環状エステルに当該極性有機溶媒を加え、230℃以上の温度に加熱して、2量体環状エステルを均一溶液となし、この状態で加熱を継続して2量体環状エステルを溶媒と共に溜出させる。この場合、2量体環状エステルは、開環重合を起こすことなく、当該溶媒と共に溜出する。当該共溜出物を冷却し、必要に応じてさらに2量体環状エステルの非溶剤を添加して、2量体環状エステルを固化・析出させ、当該共溜出物から2量体環状エステルを分離・回収するという方法によって、2量体環状エステルを精製することができる。
【0051】
この精製方法では、前述の(a)グループの溶媒のみならず、(b)グループの溶媒の一部のものも、それぞれ単独で2量体環状エステルの溶媒として使用することができる。本発明の2量体環状エステルの精製方法は、従来法の昇華法等による精製方法と大きく異なり、スケールアップが容易であり、大量の2量体環状エステルを工業的に精製することが可能である。
【実施例】
【0052】
以下に、合成例、参考例、参考実施例、実施例、及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。
【0053】
[合成例1]
5リットルのオートクレーブに、グリコール酸〔和光純薬(株)〕2500g(27.8モル)を仕込み、常圧で撹拌しながら170℃から200℃まで2時間かけて昇温加熱し、生成水を溜出させながら縮合反応させた。次いで、缶内圧力を5.0kPaに減圧し、200℃で2時間加熱して、未反応原料等の低沸分を溜去し、グリコール酸オリゴマーを調製した。
得られたオリゴマーのTmは206℃で、ΔHmcは105J/gであった。なお、Tmは、DSCを用い、不活性雰囲気下、10℃/分の速さで昇温加熱した際の値であり、ΔHmcは、その際に検出される溶融エンタルピーである。
【0054】
[参考例1]
合成例1で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、高沸点極性有機溶媒としてジ(2−メトキシエチル)フタレート(沸点=約320℃、分子量=282)170gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、かつ、12.5kPaの減圧下に、オリゴマーと溶媒との混合物を265〜275℃に加熱した。該オリゴマーは、溶媒に均一に溶解し、相分離していないことが目視により確認された。加熱により、解重合反応が開始し、生成した2量体環状エステルと溶媒とが共溜出し、受器にたまり出した。2量体環状エステルの溜出が実質的に止むまで上記温度範囲で加熱して共溜出を続け、溜出物を受器に捕集した。
【0055】
共溜出終了後、フラスコ内を観察したが、重質化物の残渣は殆ど見られなかった。フラスコと受器との間の溜出ラインには、2量体環状エステルの付着が認められたが、その蓄積量は僅少であった。受器に捕集した共溜出物に、非溶剤として約2倍容のシクロヘキサンを加え、一晩静置して2量体環状エステルの結晶を析出させ、この結晶を濾別して回収した。得られた2量体環状エステルをシクロヘキサンで再洗後、酢酸エチルを用いて再結晶し、減圧乾燥した。2量体環状エステルの収率は、81重量%であった。解重合条件及び缶内状況について、表1に一括して示す。
【0056】
なお、解重合による溜出は、2量体環状エステルの溜出が実質的に止んだ時点で溜出を止めた。それ以上、溜出を継続しても溶媒だけしか溜出してこないからである。そこで、収率は、次式より算出した。
収率=(a/b)×100
a:2量体環状エステルの回収量
b:オリゴマー仕込み量
【0057】
[参考例2]
参考例1において、高沸点極性有機溶媒をジエチレングリコールジベンゾエート(沸点=約375℃、分子量=375)に変更し、缶内圧力を4.5kPaとしたこと以外は、参考例1と同様にしてグリコール酸オリゴマーから2量体環状エステルを製造した。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0058】
[参考実施例1]
合成例1で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、高沸点極性有機溶媒としてベンジルブチルフタレート(沸点=370℃、分子量=312)170g、及び可溶化剤としてポリプロピレングリコール〔純正化学(株)製、PPG#400、沸点=約450℃以上、分子量=約400〕4gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、かつ、5.0kPaの減圧下に、オリゴマー、溶媒、及び可溶化剤の混合物を265〜275℃に加熱した。オリゴマーは、可溶化剤を含む溶媒に均一に溶解し、解重合を始めた。上記温度範囲で加熱を継続したところ、生成した2量体環状エステルと溶媒とが共溜出し、受器にたまった。溜出が実質的に止むまで共溜出を続け、溜出物を受器に捕集した。
【0059】
共溜出終了後、フラスコ内を観察したが、重質化物の残渣は殆ど見られなかった。また、フラスコと受器との間の溜出ラインには、2量体環状エステルの付着が認められたが、その蓄積量は僅少であった。受器に捕集した共溜出物に、非溶剤として約2倍容のシクロヘキサンを加え、一晩静置して2量体環状エステルの結晶を析出させ、この結晶を濾別して回収した。得られた2量体環状エステルをシクロヘキサンで再洗後、酢酸エチルを用いて再結晶し、減圧乾燥した。2量体環状エステルの収率は、85重量%であった。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0060】
[参考実施例2]
参考実施例1において、高沸点極性有機溶媒をジブチルフタレート(沸点=約340℃、分子量=278)に、可溶化剤をポリプロピレングリコール〔純正化学(株)製、PPG#400、沸点=約450℃以上、分子量=約400〕8gに、缶内圧力を20.0kPaに、それぞれ変更したこと以外は、参考実施例1と同様にして、グリコール酸オリゴマーから2量体環状エステルを製造した。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0061】
[参考実施例3]
参考実施例1において、高沸点極性有機溶媒をトリクレジルホスフェート(沸点=約420℃、分子量=368)に、可溶化剤をポリプロピレングリコール〔純正化学(株)製、PPG#400、沸点=約450℃以上、分子量=約400〕8.4gに、缶内圧力を0.7kPaに、それぞれ変更したこと以外は、参考実施例1と同様にして、グリコール酸オリゴマーから2量体環状エステルを製造した。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0062】
[参考実施例4]
参考実施例1において、可溶化剤をポリエチレングリコール〔純正化学(株)製、PEG#300、沸点=約400℃以上、分子量=約300〕2.4gに変更したこと以外は、参考実施例1と同様にして、グリコール酸オリゴマーから2量体環状エステルを製造した。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0063】
[参考実施例5]
参考実施例1において、高沸点極性有機溶媒をベンジルブチルフタレート(沸点=370℃、分子量=312)に、可溶化剤をグリセリン〔純正化学(株)製、沸点=約290℃、分子量=92〕3.2gに変更したこと以外は、参考実施例1と同様にして、グリコール酸オリゴマーから2量体環状エステルを製造した。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0064】
[参考実施例6]
参考実施例1において、可溶化剤をテトラエチレングリコール(沸点=327℃、分子量=194)2gに変更したこと以外は、参考実施例1と同様にして、グリコール酸オリゴマーから2量体環状エステルを製造した。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0065】
[参考実施例7]
参考実施例1において、可溶化剤をトリデカノール(沸点=274℃、分子量=200)10gに変更したこと以外は、参考実施例1と同様にして、グリコール酸オリゴマーから2量体環状エステルを製造した。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0066】
[参考実施例8]
参考実施例1において、可溶化剤のポリプロピレングリコール〔純正化学(株)製、PPG#400、沸点=約450℃以上、分子量=約400〕の仕込み量を2.2gに変更したこと以外は、参考実施例1と同様にして、グリコール酸オリゴマーから2量体環状エステルを製造した。解重合条件、缶内状況、及び収率について、表1に一括して示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(脚注)
(*1)溶媒
DMEP=ジ(2−メトキシエチル)フタレート
DEDB=ジエチレングリコールジベンゾエート
BBP=ベンジルブチルフタレート
DBP=ジブチルフタレート
TCP=トリクレジルホスフェート
(*2)可溶化剤
PPG=ポリプロピレングリコール
PEG=ポリエチレングリコール
TEG=テトラエチレングリコール
(*3)添加量
オリゴマーの仕込み量100重量部に対する可溶化剤の仕込み量(重量部)である。
(*4)融液相残存率
各参考実施例及び比較例と同一仕込み組成の混合物を、それぞれ目盛り付き試験管に仕込み、解重合温度に加熱し、形成されるオリゴマー融液相の容積を目盛りから読み取り、流動パラフィン(オリゴマーに対する溶解力が実質的にない)に溶媒を置換した場合のオリゴマー融液相の容積と比較して求めた。
【0069】
[比較例1]
合成例1で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、有機溶媒として流動パラフィン〔関東化学(株)製〕170gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、かつ、90.0kPaの減圧下に、オリゴマーと溶媒との混合物を265〜275℃に加熱した。オリゴマーは、融液相を形成し、溶媒と相分離していることが目視により確認された。2量体環状エステルの溜出が無く、溶媒のみが溜出し、受器にたまったので、溜出は途中で止めた。オリゴマーは、殆ど全量重質化して、缶残となった。解重合条件及び缶内状況について、表2に一括して示す。
【0070】
[比較例2]
比較例1において、有機溶媒をo−ジクロルベンゼン(沸点=約180℃、分子量=147)に変更し、加熱温度を170〜180℃にしたこと以外は、比較例1と同様に操作した。オリゴマーは、融液相を形成し、溶媒と相分離していることが目視により確認された。溶媒の沸点が低いため、加熱により2量体環状エステルの溜出が無く、溶媒のみが溜出し、受器にたまったので溜出は途中で止めた。解重合条件及び缶内状況について、表2に一括して示す。
【0071】
[比較例3]
比較例1において、有機溶媒を1,2,4−トリクロロベンゼン(沸点=213℃、分子量=181)に変更し、加熱温度を200〜210℃にしたこと以外は、比較例1と同様に操作した。オリゴマーは、融液相を形成し、溶媒と相分離していることが目視により確認された。溶媒の沸点が低いため、2量体環状エステルの溜出が無く、溶媒のみが溜出し受器にたまったので溜出は途中で止めた。解重合条件及び缶内状況について、表2に一括して示す。
【0072】
[比較例4]
比較例1において、有機溶媒をベンジルブチルフタレート(沸点=370℃、分子量=312〕に変更し、缶内圧力を5.0kPaにして、265〜310℃まで昇温加熱したこと以外は、比較例1と同様に操作した。オリゴマーは、融液相を形成し、溶媒と相分離していることが目視により確認された。缶内温度が約290℃までは、2量体環状エステルの溜出は殆ど認められなかった。約290℃を越えると、ベンジルブチルフタレートの分解が始まり、無水フタル酸が溜出してきた。オリゴマーと溶媒とが相分離状態であるため、2量体環状エステルは極少量しか生成しなかった。解重合条件及び缶内状況について、表2に一括して示す。
【0073】
[比較例5]
比較例1において、有機溶媒をジブチルフタレート(沸点=340℃、分子量=278〕に変更し、缶内圧力を20.0kPaにして、265〜305℃まで昇温加熱したこと以外は、比較例1と同様に操作した。オリゴマーは、融液相を形成し、溶媒と相分離していることが目視により確認された。缶内温度が約290℃までは2量体環状エステルの溜出は殆ど認められなかった。約290℃を越えると、ジブチルフタレートの分解が始まり、無水フタル酸が溜出してきた。オリゴマーと溶媒とが相分離状態であるため、2量体環状エステルは生成しなかった。解重合条件及び缶内状況について、表2に一括して示す。
【0074】
[比較例6]
比較例1において、有機溶媒をトリクレジルホスフェート(沸点=約420℃、分子量=368)に変更し、缶内圧力を1.0kPaにして、265〜310℃まで昇温加熱したこと以外は、比較例1と同様に操作した。オリゴマーは、融液相を形成し、溶媒と相分離していることが目視により確認された。缶内温度が約300℃までは2量体環状エステルの溜出は殆ど認められなかった。約300℃を越えると、トリクレジルホスフェートの分解が始まり、缶内の液は真っ黒になった。オリゴマーと溶媒とが相分離状態であるため、2量体環状エステルは生成しなかった。解重合条件及び缶内状況について、表2に一括して示す。
【0075】
[比較例7]
比較例1において、有機溶媒をベンジルブチルフタレート(沸点=370℃、分子量=312)に変更し、さらに、可溶化剤としてポリプロピレングリコール〔純正化学(株)製、PPG#400、沸点=約450℃以上、分子量=約400〕0.8gを加え、缶内圧力を5.0kPaにして、265〜275℃まで昇温加熱したこと以外は、比較例1と同様に操作した。可溶化剤の添加量が少ないため、オリゴマーは、相当量融液相を形成し、溶媒と相分離していることが目視により確認された。オリゴマーと溶媒とが相分離状態であるため、初期に若干量の2量体環状エステルの溜出が見られたが、すぐに溜出しなくなった。解重合条件及び缶内状況について、表2に一括して示す。
【0076】
[比較例8]
比較例1において、有機溶媒をベンジルブチルフタレート(沸点=370℃、分子量=312)に変更し、さらに、可溶化剤としてポリエチレングリコール〔純正化学(株)製、PEG#300、沸点=約400℃以上、分子量=約300〕0.8gを加え、缶内圧力を5.0kPaにして、265〜275℃まで昇温加熱したこと以外は、比較例1と同様に操作した。可溶化剤の添加量が少ないため、オリゴマーは、相当量融液相を形成し、溶媒と相分離していることが目視により確認された。オリゴマーと溶媒とが相分離状態であるため、初期に若干量の2量体環状エステルの溜出が見られたが、すぐに溜出しなくなった。解重合条件及び缶内状況について、表2に一括して示す。
【0077】
【表2】

【0078】
(脚注)
(*1)溶媒
o−DCB=オルト−ジクロロベンゼン
1,2,4−TCB=1,2,4−トリクロロベンゼン
DBP=ジブチルフタレート
BBP=ベンジルブチルフタレート
TCP=トリクレジルホスフェート
(2*)可溶化剤
PPG=ポリプロピレングリコール
PEG=ポリエチレングリコール
(*3)添加量
オリゴマーの仕込み量100重量部に対する可溶化剤の仕込み量(重量部)である。
(*4)融液相残存率:表1の脚注と同じである。
【0079】
[参考実施例9]
合成例1と同様の方法で調製したグリコール酸オリゴマー1kg、ベンジルブチルフタレート(沸点=370℃、分子量=312〕4kg、及びポリプロピレングリコール〔純正化学(株)製、PPG#400、沸点=約450℃以上、分子量=約400〕150gを、水冷した受器を連結した10リットルフラスコに仕込み、窒素ガス雰囲気下で、かつ、5.0kPaの減圧下に、265〜275℃に加熱した。オリゴマーは、溶媒に均一溶解し、相分離は認められなかった。引き続き、上記温度範囲で加熱して解重合を行い、生成した2量体環状エステルをジブチルフタレートと共に溜出させた。受器で捕集した溜出物に、非溶剤として約2倍容のシクロヘキサンを加え、1晩静置して2量体環状エステルの結晶を析出させた。析出した結晶を濾別し、シクロヘキサンで洗浄し、次いで、酢酸エチルから再結晶し、真空乾燥した。その結果、2量体環状エステル0.75kgが回収された。この実験により、本発明者らの製造方法がスケールアップ可能であることが分かる。
【0080】
[実施例1]
合成例1と同様の方法で調製したグリコール酸オリゴマーを用い、昇華管を用いた従来の解重法により、270〜320℃の温度、窒素ガス雰囲気下、0.1〜1.0kPaの減圧下で解重合して、粗2量体環状エステルを調製した。粗2量体環状エステルの純度は、89.8%(ガスクロマトグラフ法)であった。氷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに、粗2量体環状エステル20gと、共溜出用溶媒としてベンジルブチルフタレート(沸点=約370℃、分子量=312)200gとを仕込み、265〜275℃の温度、窒素ガス雰囲気下、5.0kPaの減圧下で、2量体環状エステルと溶媒を共溜出させた。受器で捕集した溜出物に、非溶剤として約2倍容のシクロヘキサンを加え、1晩静置して2量体環状エステルの結晶を析出させた。析出した結晶を濾別し、シクロヘキサンで洗浄し、次いで、酢酸エチルから再結晶し、真空乾燥した。得られた2量体環状エステルの純度は、99.9%であった。
【0081】
純度は、以下の条件下でのガスクロマトグラフ法により測定した。
(1)試料溶液:アセトニトリル0.1重量%溶液
(2)試料の量:1μl
(3)カラム:TC−17(ジーエル サイエンス(株)製キャピラリーカラム)
・内径0.53mmφ、30m長、
・充填剤:フェニルポリシロキサン/メチルポリシロキサン混合物
・充填剤:フィルム層1.0μm
(4)温度:80℃(5分 retention)、5℃/分で290℃に昇温
・検出部300℃
(5)キャリアガス:ヘリウム30ml/分
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の2量体環状エステルの精製方法は、従来法の昇華法等による精製方法と大きく異なり、スケールアップが容易であり、大量の2量体環状エステルを工業的に精製することが可能である。この結果、従来、コスト的理由で医療分野等の極く特殊な分野にしか用いることができなかったα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルが、環境負荷の少ない生分解性プラスチックの分野をはじめ、プラスチックの一般用途へも広く使用することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法であって、
粗α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルに、芳香族カルボン酸アルコキシアルキルエステル、脂肪族カルボン酸アルコキシアルキルエステル、ポリアルキレングリコールエーテル、ポリアルキレングリコールエステル、及びベンジルブチルフタレートからなる群より選ばれ、かつ、230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒を加え、常圧下または減圧下に、230℃以上の温度に加熱することにより、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを該高沸点極性有機溶媒との均一溶液となし、該均一溶液の液相の状態で加熱を継続してα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを該高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、溜出物からα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを回収する
ことを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法。
【請求項2】
留出物を冷却し、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの非溶剤を添加して、α−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルを固化・析出させて回収する請求項1記載のα−ヒドロキシカルボン酸2量体環状エステルの精製方法。

【公開番号】特開2008−297307(P2008−297307A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178152(P2008−178152)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【分割の表示】特願平9−38404の分割
【原出願日】平成9年2月6日(1997.2.6)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】