説明

α−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法

【課題】ニトリラーゼを用いて、α−ヒドロキシニトリルからα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造するに当たって、十分な初期比活性すなわち初期生産速度を有することで工業的に有利なα−ヒドロキシニトリルからのα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法を提供すること。
【解決手段】ニトリラーゼをα−ヒドロキシニトリルに作用させることを含むα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法において、α−ヒドロキシニトリルの添加前の初期反応液中にアンモニアもしくはアンモニウム塩が含まれていることを特徴とするα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリラーゼを用いてα−ヒドロキシニトリルからα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造する、実用的な工業的方法を提供する。特に、本発明は、原料としてグリコロニトリルを用いた時にはグリコール酸又はグリコール酸アンモニウムを製造する実用的な工業的方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
酵素活性を有する生体触媒を利用して目的の化合物を合成する方法は、反応条件が穏和であるため反応プロセスが簡略化できること、あるいは副生成物が少なく高純度の反応生成物を取得できる等の利点があるため、近年、様々な化合物の製造に用いられている。中でもニトリル化合物をカルボン酸(アンモニウム)に変換する活性を持つニトリラーゼやニトリル化合物をカルボン酸アミドに変換する活性を持つニトリルヒドラターゼ等の加水分解酵素は、その特異的な反応挙動から、様々なカルボン酸(アンモニウム)あるいはカルボン酸アミドの製造に用いる検討がなされている。
【0003】
それらの中で、ニトリラーゼ活性を有する生体触媒を用いて、α−ヒドロキシニトリルをα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムに変換するα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法も数多く検討されている。例えばCorynebacterium属を用いてグリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシイソ酪酸を製造する方法(特許文献1)、あるいはRhodococcus属またはGordona属を用いてグリコール酸を製造する方法(特許文献2)、あるいはAcidovorax属を用いてグリコール酸、2−ヒドロキシイソ酪酸を製造する方法(特許文献3)、あるいはRhodococcus属またはGordona属を用いてR-マンデル酸を製造する方法(特許文献7)あるいはAcidovorax属 由来のNitrilaseを遺伝子工学的手法で大腸菌等に発現させたものを用いてグリコール酸を製造する方法(特許文献8)等が開示されている。また本発明者らも既にAcinetobacter属を用いてグリコール酸を製造する方法(特許文献9)について報告している。
【0004】
しかしながら、前述の従来の技術では、用いているニトリラーゼがα−ヒドロキシニトリルに対して必ずしも工業的に満足できる初期生産速度を有しておらず、したがって自ずと平均生産速度やα−ヒドロキシ酸アンモニウムの蓄積濃度が低くなり、リアクターサイズが非常に大きくなる等の問題を抱えており、更なるニトリラーゼ初期生産速度の向上が求められていた。
【0005】
例えば、前記特許文献1では、Corynebacterium属を用いて、グリコール酸(アンモニウム)を合成する実施例が示されているが、初期比活性は29.3[mmol-グリコール酸アンモニウム/g-乾燥菌体/Hr]であることが記載されており、とても十分な初期生産速度を達成していない。また、前記特許文献2では、Rhodococcus属を用いて、グリコール酸アンモニウム蓄積濃度48.2重量%を達成しているが、その時の平均生産速度は47.3[mmol-グリコール酸アンモニウム/g-乾燥菌体/Hr](20℃×24Hr)と計算され、十分な平均生産速度を達成しているとは言えない。また、前記特許文献3では、Acidovorax属を用いて、グリコール酸アンモニウム平均生産速度が0.42[mmol-グリコール酸アンモニウム/g-乾燥菌体/Hr](25℃×40Hr)と低い値であることが記載されており、これもまた十分な平均生産速度を達成しているとは言えない。一方、前記特許文献8及び非特許文献3では、Acidovorax属由来のNitrilaseの改変酵素を大腸菌等の宿主に発現させた生体触媒を用いることで初期比活性が最高で266[mmol-グリコール酸アンモニウム/g-乾燥菌体/Hr](25℃)と高い値を達成しており、また、該大腸菌をカラギーナン等で固定化し繰り返し反応を行うこと及び、反応温度を25℃と低く抑えることで1225[g-グリコール酸アンモニウム/g-乾燥菌体]と非常に高い触媒生産性を達成できているが、グリコール酸アンモニウム蓄積濃度は30重量%以下で十分な蓄積濃度を達成できているとは言えない。これらの例は、いずれも工業的に満足できるレベルの初期生産速度を有しているとは言えず、したがって自ずと平均生産速度やα−ヒドロキシ酸アンモニウムの蓄積濃度や触媒生産性も低く問題があった。
【0006】
このように初期生産速度及びまたは平均生産速度が低い理由として、一般的にα―ヒドロキシニトリルが水溶液中で対応するアルデヒドもしくはケトンと青酸に部分的に分解・解離(非特許文献1)し、青酸によって酵素活性が阻害されることが挙げられる(非特許文献2)。また、解離したアルデヒドの作用で酵素が短時間で失活する可能性も指摘されている。また、原料であるα−ヒドロキシニトリルは、一般的に対応するアルデヒド水溶液と青酸からアルカリ触媒によるシアンヒドリン化反応を経て合成されており、反応完結度を上げる観点から、どちらか一方を過剰にすることが好ましいため、アルデヒドか青酸のどちらかを微量な不純物として含む。よって、前述のα−ヒドロキシニトリルの部分的な分解・解離と同様の理由でニトリラーゼの初期活性を下げる要因となるため、該微量青酸あるいはアルデヒドを低減することで初期比活性、すなわち初期生産速度の大幅な増加が期待される。
【0007】
この問題を解決する方法として、亜硫酸イオン、酸性亜硫酸イオンまたは亜ジチオン酸イオンを添加する方法(特許文献4)もしくは、亜燐酸イオンまたは次亜燐酸イオンを添加する方法(特許文献5)でアルデヒドと可逆的な複合体を形成させ、反応系内の遊離アルデヒドレベルを大幅に減少させることにより反応を安定化させる方法が開示されているが、いずれも反応系内に不純物を添加することとなり品質的に問題があった。また、反応系内にシアン検出器、調節器およびこれらに連動するα−ヒドロキシニトリル供給装置からなるシアンヒドリン自動制御装置を設置することにより系内のα−ヒドロキシニトリル定常濃度を制御し、結果としてα―ヒドロキシニトリルの部分的な分解・解離によって生成するアルデヒドもしくはケトンと青酸濃度を制御する方法(特許文献6)が開示されているが、アルデヒドもしくはケトンが過剰の系には適用できなかった。また、反応系内のシアン濃度に加えてアルデヒドもしくはケトン濃度を液体クロマトグラフィー等で分析して、その結果を基にアルデヒドもしくはケトン濃度を制御する方法(特許文献7)が開示されているが、分析の結果が出るまでに一定の時間を要するため制御を十分に行うことは不可能である。また、本発明者らは不純物アルデヒドが存在する原料α−ヒドロキシニトリル水溶液にシアン化合物を作用させて不純物アルデヒドを低減する方法(特許文献9)を既に特許出願しているが、反応中にα−ヒドロキシニトリルから部分的に分解・解離するアルデヒドもしくはケトンを低減することはできない。
【0008】
【特許文献1】特公平3−38836号公報
【特許文献2】特開平9−028390号公報
【特許文献3】特開2005−504506号公報
【特許文献4】特開平5−192198号公報
【特許文献5】特開平7−213296号公報
【特許文献6】特開平8−131188号公報
【特許文献7】特開平9−131194号公報
【特許文献8】WO2006069110
【特許文献9】特開2007−289062号公報
【非特許文献1】Chemical Reviews,42,189-283,(1948)
【非特許文献2】Agricultural Biological Chemistry,46,1165-1174,(1982)
【非特許文献3】Adv. Synthe. Catal. 349,1462-1474,(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ニトリラーゼを用いて、α−ヒドロキシニトリルからα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造するに当たって、十分な初期比活性すなわち初期生産速度を有することで、1)十分な平均生産速度、及び2)十分な触媒生産性の2つを同時に達成することができる、工業的に有利なα−ヒドロキシニトリルからのα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ニトリラーゼを持つ生体触媒を用いて、α−ヒドロキシニトリルを原料にα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造するに当たって、1)十分な平均生産速度、2)十分な触媒生産性の2つを同時に達成することができる、工業的に有利なα−ヒドロキシニトリルからのα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法について鋭意検討を行ったところ、驚くべきことにα−ヒドロキシ酸アンモニウム蓄積濃度が高くなるにつれてα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウム生産速度が高くなる現象を見出した。この知見に基づいて、本発明者らは、原料α−ヒドロキシニトリルを添加する直前の初期反応液中に予めアンモニアもしくはアンモニウム塩を添加することによって反応初期からα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの生産速度を高く出来ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下に記載する通りの構成を有する。
(1) ニトリラーゼをα−ヒドロキシニトリルに作用させることを含むα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法において、α−ヒドロキシニトリルの添加前の初期反応液中にアンモニアもしくはアンモニウム塩が含まれていることを特徴とするα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(2) α−ヒドロキシニトリルの添加前の初期反応液中にアンモニウム塩が含まれている、(1)に記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(3) 初期反応液中に含まれるアンモニウム塩がα−ヒドロキシ酸アンモニウムである、(2)に記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(4) 初期反応液中に含まれるアンモニウム塩がグリコール酸アンモニウムである、(1)から(3)の何れかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(5) α−ヒドロキシニトリルがグリコロニトリルである、(1)から(4)のいずれかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(6) ニトリラーゼが、微生物菌体又はその処理物、あるいは微生物菌体由来のニトリラーゼの固定化物又は懸濁液から選択される何れか1種以上の生体触媒である、(1)から(5)のいずれかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(7) ニトリラーゼが、Acinetobacter sp.AK226(受託番号FERM BP-08590)由来のニトリラーゼ、又はAcinetobacter sp.AK226(受託番号FERM BP-08590)のニトリラーゼ遺伝子によってコードされるタンパク質酵素である、(1)から(6)の何れかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(8) ニトリラーゼがグラム陰性菌及びまたはその処理物の、固定化物及びまたは懸濁液である、(1)から(7)の何れかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(9) ニトリラーゼがAcinetobacter属の菌体及びまたはその処理物の、固定化物及びまたは懸濁液である、(1)から(8)のいずれかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
(10) ニトリラーゼがAcinetobacter sp.AK226(受託番号FERM BP-08590)の菌体及びまたはその処理物の、固定化物及びまたは懸濁液である、(1)から(9)の何れかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ニトリラーゼを用いて、α−ヒドロキシニトリルからα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造するに当たり、十分な初期比活性すなわち初期生産速度を有することで、1)十分な平均生産速度、2)十分な触媒生産性の2つを同時に達成することができる、工業的に有利なα−ヒドロキシニトリルからのα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明について具体的に説明する。
本発明における「カルボン酸又はカルボン酸アンモニウム」という表記についてまず説明する。ニトリラーゼを用いてニトリル化合物を加水分解した場合、ニトリル化合物中のNはアンモニアに変換され、通常、ニトリラーゼを用いる加水分解反応条件においては、該アンモニアが同時に生成されるカルボン酸と瞬時にアンモニウム塩を形成するので最終的にはカルボン酸アンモニウムが生成されることとなる。しかしながら、反応機構的にはカルボン酸を合成する課程を経ているため、本発明においては、カルボン酸あるいはカルボン酸アンモニウムの両方を意味する方法としてカルボン酸又はカルボン酸アンモニウムという表記を採っている。
【0014】
本発明で言うα−ヒドロキシニトリルとは、一般式[I]:RCH(OH)CN(式中Rは水素原子、置換基を有してもよいC1〜C6のアルキル基、置換基を有してもよいC2〜C6のアルケニル基、置換基を有してよいC1〜C6アルコキシル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールオキシ基又は置換基を有してもよい複素環基を示す)で表されるα−ヒドロキシニトリルを言い、例えば、マンデロニトリル、アセトンシアンヒドリン、グリコロニトリル、ラクトニトリル、2−ヒドロキシ4−メチルチオイソブチロニトリル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記の中でも特に好ましくは、グリコロニトリルを用いることができる。
【0015】
本発明で用いるニトリラーゼの形態は特に限定されないが、好ましくはニトリラーゼ活性を有する生体触媒を用いることができる。本発明で言うニトリラーゼ活性を有する生体触媒とは、ニトリル基を、カルボン酸又はカルボン酸アンモニウム基へ直接変換する能力を有する酵素、ニトリラーゼを保有する触媒であれば如何なる形態のものでもよい。
【0016】
生体触媒の形態としては微生物細胞を休眠状態でそのまま使用しても構わないし、あるいは破砕処理したもの、または該微生物細胞から必要なニトリラーゼ酵素を取り出したものをそのまま使用しても構わないし、一般的な包括法、架橋法、担体結合法等で固定化したものを使用してもよい。尚、固定化担体の例としては、ガラスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、アルギン酸、光架橋樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
ニトリラーゼの起源となる微生物種としては多くのものが知られているが、例えばニトリラーゼ高活性を有するものとして、Rhodococcus属、Acinetobacter属、Alcaligenes属、Pseudomonas属、Corynebacterium属等が挙げられる。本発明においてはこれらの中でも、特にグラム陰性菌であるAcinetobacter属、Alcaligenes属が好ましく、更に好ましくはAcinetobacte属がよい。具体的にはAcinetobacter sp.AK226(受託番号FERM BP−08590)、Acinetobacter sp.AK227(受託番号FERM BP−08590)である。これらの菌株は、特開2007-289-62、特開2005-176639、特開2004-305066、特開2004-305058、特開2004-305062、特開2001-299378、特開平11-180971、特開平06-303991、特開昭63-209592、特公昭63-2596号公報等に記載されている。
【0018】
また例えば、天然のあるいは人為的に改良したニトリラーゼ遺伝子を遺伝子工学的手法によって組み込んだ微生物、あるいはそこから取り出したニトリラーゼ酵素であっても構わないが、ニトリラーゼの発現量が少ない微生物あるいはα−ヒドロキシニトリルからα−ヒドロキシ酸アンモニウムへの変換活性の低いニトリラーゼを発現した微生物を少量用いてα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造するには、より多くの反応時間を要するため、可能な限りニトリラーゼを高発現した微生物、及びまたは変換活性の高いニトリラーゼを発現した微生物、あるいはそこから取り出したニトリラーゼ酵素を用いることが望ましい。
【0019】
本発明における原料α−ヒドロキシニトリルの添加前の初期反応液とは、ニトリラーゼを持つ生体触媒懸濁液に原料α−ヒドロキシニトリルをフィードする前の該生体触媒懸濁液のことを指す。該懸濁液にアンモニアもしくはアンモニウム塩が含まれることで初期比活性、すなわち初期生産速度を高くすることができるので、結果として平均生産速度を高くすることができ、更にα−ヒドロキシ酸アンモニウム蓄積濃度及びまたは触媒生産性を高くすることができる。本発明者らはこのメカニズムについて考察、検証した結果、原料α−ヒドロキシニトリルに含まれていたアルデヒド及びまたは該α−ヒドロキシニトリルからの分解・解離反応によって生成したアルデヒドと初期反応液に含まれていた該アンモニアもしくはアンモニウム塩中のアンモニウムイオンが反応して、ヘキサメチレンテトラミンという物質を合成することで反応系内の遊離ホルムアルデヒド濃度を低減することができ、前出のようなアルデヒドの酵素に対する阻害及びまたは失活のような作用を回避することによってα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウム初期生産速度を高くすることができるものと推定しているが、該初期生産速度が高くなる現象が単に反応系内の遊離アルデヒド濃度を減少させることのみに起因しているかどうかは不明である。
【0020】
初期反応液中にアンモニアが含まれている場合、初期比活性を高くする意味においてアンモニアの濃度は高いほどよいが、あまりに高すぎると液性がアルカリとなるため溶菌等の悪影響を及ぼす。通常アンモニアの濃度としては、必ずしも限定されないが、pH=8〜10程度に収まる程度がよい。
【0021】
また、初期反応液中にアンモニウム塩が含まれている場合も、初期比活性を高くする意味においてアンモニア塩の濃度は高いほどよいが、あまりに高すぎるとアンモニウム塩のアンモニウムイオンのカウンターイオンの持ち込みが多くなるため不純物を多くすることになるので宜しくない。そこで、通常は反応生成物であるα−ヒドロキシ酸アンモニウムを用いることになる。この場合も初期比活性を高くする意味において、α−ヒドロキシ酸アンモニウム濃度が高いほどよいが、あまり高すぎると生成物阻害やニトリラーゼ活性の劣化が起こるため適度な濃度がよい。α−ヒドロキシ酸アンモニウムの濃度は、必ずしも限定されないが、通常は0重量%より多く70重量%以下、好ましくは10重量%以上60重量%以下、より好ましくは20重量%以上50重量%、更に好ましくは30重量%以上40重量%以下がよい。
【0022】
本発明で言う初期比活性とは、反応温度30℃、pH=6.5〜7.0、反応基質濃度:1wt%の反応条件で、生体触媒リン酸バッファー懸濁液にα−ヒドロキシニトリル水溶液を添加することで反応を開始し、反応開始から5分におけるα−ヒドロキシ酸アンモニウム生産モル量を使用乾燥生体触媒重量で除し、更に反応時間(5分=1/12時間)で除することにより得られる、乾燥生体触媒重量当たり、1時間当たりのα−ヒドロキシ酸アンモニウム生産量と定義する。但し、菌体使用量はα−ヒドロキシニトリル転化率が15〜30%になるように調整するものとする。
【0023】
本発明における初期生産速度は、任意の反応条件で、生体触媒懸濁液にα−ヒドロキシニトリル水溶液を連続的あるいは間欠的に添加する事で反応を開始し、反応開始から0.5時間におけるα−ヒドロキシ酸アンモニウム生産モル量を使用乾燥生体触媒重量と反応時間(0.5時間)で除することにより得られる、乾燥生体触媒重量当たり、1時間当たりのα−ヒドロキシ酸アンモニウム生産量と定義する。本発明においては、該初期生産速度が32[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]以上、好ましくは50[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]以上、より好ましくは100[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]以上がよい。
【0024】
本発明における平均生産速度は、任意の反応条件で、生体触媒懸濁液にα−ヒドロキシニトリル水溶液を連続的あるいは間欠的に添加する事で反応を開始してから反応終了時点までの時間平均の生産速度のことであり、その時点までのα−ヒドロキシ酸アンモニウムの生産モル量を反応時間で除することにより得られる。ここでいう反応終了時点とは、実質触媒活性が限りなく0に近づき、それ以上反応時間を延長しても該触媒生産性がほとんど伸びないと判断される時点、あるいは目的とする触媒生産性に達した時点を指す。本発明における平均生産速度は、16[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]以上が必須であり、好ましくは32[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]以上、より好ましくは50[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]以上、更に好ましくは100[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]以上がよい。
【0025】
本発明における乾燥生体触媒重量とは、微生物菌体を用いる場合は該微生物菌体の乾燥重量を表し、ニトリラーゼを用いる場合はニトリラーゼの乾燥重量を表し、微生物菌体あるいはニトリラーゼの固定化物を用いる場合は該固定化物中の微生物菌体あるいはニトリラーゼの乾燥重量を表す。ここで定義する平均生産速度が高いほど、短時間で目的とする濃度のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造できることとなり、実用性を示す指標として非常に重要となる。
【0026】
本発明で定義するα−ヒドロキシ酸アンモニウム蓄積濃度とは、反応終了時点での反応液のα−ヒドロキシ酸アンモニウム重量濃度を表し、単位は重量%である。該α−ヒドロキシ酸アンモニウム蓄積濃度が高いということは、使用したニトリラーゼを持つ生体触媒が生成物(α−ヒドロキシ酸アンモニウム)阻害を受けにくく、高塩濃度においてもニトリラーゼ酵素の活性が維持されることを示す。つまり、本発明の副次的な効果としてα−ヒドロキシ酸アンモニウム蓄積濃度が高いことも挙げることが可能である。前出の平均生産速度が高いと同時に該α−ヒドロキシ酸アンモニウム蓄積濃度が高いということはα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造法としての実用性を示す指標として非常に重要となる。
【0027】
本発明で定義する触媒生産性とは使用する乾燥生体触媒重量当たりの反応終了時点までのα−ヒドロキシ酸アンモニウムの生成重量を表し、単位は[g-α−ヒドロキシ酸アンモニウム/g-乾燥生体触媒重量]である。該触媒生産性が高いということは、前出のα−ヒドロキシ酸アンモニウム蓄積濃度と同様に、使用したニトリラーゼを持つ生体触媒が生成物(α−ヒドロキシ酸アンモニウム)阻害を受けにくく、高塩濃度においてもニトリラーゼ酵素の活性が維持されることを示す。該触媒生産性が高いということはα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造法としての実用性を示す指標として非常に重要となる。
【0028】
原料であるα−ヒドロキシニトリルは非常に不安定な物質であるため、通常、安定剤として硫酸やリン酸あるいは酢酸といった酸成分を含む。よって、反応開始後は、反応系中のpHを調整するため反応系へのアルカリの添加が必須となる。その場合使用するアルカリは反応に影響を及ぼさなければ特に限定されないが、生成物の一つであるアンモニアを使用するのが望ましい。アンモニアの形態はガスであろうが、アンモニア水であろうが構わないが、通常、扱いの容易さからアンモニア水が望ましい。
【0029】
反応液のpHは、1)使用する生体触媒のニトリラーゼ比活性の至適pHと2)基質α−ヒドロキシニトリルのHCNとアルデヒドあるいはケトンへの分解抑制の観点から決定される。1)については、α−ヒドロキシニトリル以外のニトリルの加水分解活性挙動よりpH=7〜11のアルカリ性領域がよいと推定されるが、2)の観点からは、pH=2程度の酸性領域がよいことが判っている。本発明においては反応液のpHは6〜8がよく、好ましくは6.5〜7がよい。
【0030】
反応温度については、反応温度が低すぎると反応活性が低くなり、高濃度のα−ヒドロキシ酸を製造する場合、より多くの反応時間を要する。一方、反応温度が高すぎると生体触媒の熱劣化で、目的とするα−ヒドロキシ酸アンモニウムの濃度が高い場合、該濃度まで到達させることが困難となり、結果として新たな生体触媒の追添等の処置が必要となり触媒コストが高くなる。また、温度が高すぎると、基質α−ヒドロキシニトリルの青酸とアルデヒドあるいはケトンへの分解促進にも繋がり、それらによる反応阻害や失活等、ますますの反応活性低下を引き起こす。よって、通常、反応温度は30〜60℃がよく、好ましくは40〜50℃がよい。
【0031】
α−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造する反応方法は、固定床、移動層、流動層、撹拌槽等、いずれでもよく、また連続反応でも半回分反応でもよいが、特に固定化されていない微生物菌体を用いる場合、反応の容易性から攪拌槽を用いた半回分反応がよい。その場合、反応効率の観点から、適切な攪拌を行うのがよい。また、半回分反応を行う場合、ニトリラーゼを持つ生体触媒は1バッチ使い捨てでもよいし、繰り返し反応を行ってもよい。但し、繰り返し反応を行う場合、該生体触媒をα−ヒドロキシ酸アンモニウム高濃度から低濃度へ急激に変化させるため、浸透圧の影響等で生産速度が低下する場合があるので注意を要する。
【0032】
反応基質であるα−ヒドロキシニトリルの定常濃度については、2重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1〜1.5重量%、更に好ましくは0.1〜1.0重量%、最も好ましくは0.2〜0.5重量%にコントロールするのがよい。α−ヒドロキシニトリルの濃度が高すぎると、生成物阻害及びまたは失活、あるいは高生成物蓄積濃度で初めて顕著となる基質阻害及びまたは失活の影響が急激に大きくなり、それまで進行していた反応が停止してしまう場合がある。また、α−ヒドロキシニトリルの濃度が低すぎると反応速度を低下させることとなり、効率的にα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造できないので不利である。以上の理由から、反応中のα−ヒドロキシニトリル定常濃度を管理することは非常に重要である。
【0033】
製造されるα−ヒドロキシ酸アンモニウムに対する使用乾燥生体触媒重量比は1/100以下がよく、好ましくは1/100〜1/200、より好ましくは1/200〜1/300、更に好ましくは1/300〜1/500である。製造されるα−ヒドロキシ酸アンモニウムに対する使用乾燥生体触媒重量が多すぎると該生体触媒懸濁液由来の不純物が反応液中に多く同伴されるため精製コストが上がり、製品品質が低下するので好ましくない。逆に、製造されるα−ヒドロキシ酸アンモニウムに対する使用乾燥生体触媒重量が少なすぎるとリアクターボリューム当たりの生産性が低下し、大きなリアクターサイズが必要となり経済的に不利となる。
【実施例】
【0034】
以下実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。尚、本発明はこれらの実施例により必ずしも限定されるものではなく、その要旨を超えない限り、様々な変更、修飾が可能である。特に実施例においては、グリコロニトリル(HO-CH2-CN)を用いた実験のみを示すが、本発明の主旨を考慮すると、反応液中に存在するアルデヒド濃度をコントロールすることが重要なので、グリコロニトリル以外のα−ヒドロキシニトリルについても同様の現象と結果が得られることは容易に類推できるものである。
【0035】
本発明に使用する生体触媒であるAcinetobacter sp.AK226は、本発明者らが独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに国際寄託したものであり、FERM BP−08590の国際寄託番号を有するものである。
【0036】
生体触媒懸濁液中の乾燥生体触媒重量の測定法は、以下のごとく実施した。まず、適当な濃度の生体触媒懸濁液を適量取り、−80℃まで冷却した後、凍結乾燥機を用いて完全に乾燥し、その重量値から前記生体触媒懸濁液の濃度を算出した。固定化物については固定化時における既知となった生体触懸濁液の使用量と架橋剤や固定化担体の使用量から乾燥生体触媒重量を算出した。
【0037】
反応液及び処理液の分析は、以下のごとく実施した。基質であるグリコロニトリル、生成物であるグリコール酸又はグリコール酸アンモニウム、及び副生成物であるグリコロアミドは、高速液体クロマトグラフィーで測定した。カラムはイオン排除カラム(島津Shim-pack SCR-101H)、カラム温度は40℃、移動相はリン酸水溶液(pH=2.3)、流速は0.7mL/min、検出器はUV(島津SPD-10AV vp、210nm)及びRI(島津RID-6A)、注入量は10μLで実施した。
【0038】
また、原料及び反応液中のメタノールの分析はガスクロマトグラフィーで実施した。ガスクロ本体は島津GC-14B、カラムは強極性カラム(GLサイエンス製TC-FFAP)、インジェクション温度は250℃、カラム温度は50℃×5min、昇温20℃/min、220℃×5min、検出器温度:250℃、検出器はFID、試料注入量は2μLで実施した。
【0039】
また、生成物の一つであるヘキサメチレンテトラミンについては、イオンペアー剤を用いたイオンペアクロマトシステム(日立D-7000)で測定した。カラムはODS-80TS(東ソー)、カラム温度は40℃、移動相は50mMリン酸水溶液+10mMペンタスルホン酸ナトリウム溶液、流速は0.5mL/min、検出器はRI、注入量は10μLで実施した。
【0040】
[生体触媒の調製]
塩化ナトリウム0.1重量%、リン酸二水素カリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.05重量%、硫酸第一鉄七水和物0.005重量%、硫酸アンモニウム0.1重量%、硝酸カリウム0.1重量%硫酸マンガン五水和物0.005重量%を含む培養液250mlを三角フラスコに仕込み、pHが7になるように水酸化ナトリウムで調整し、121℃で20分間滅菌した後、アセトニトリル0.5重量%を添加した。これにAcinetobacter sp.AK226を接種して30℃で振とう培養した(前培養)。ミーストパウダー0.3重量%、グルタミン酸ナトリウム0.5重量%、硫酸アンモニウム0.5重量%、リン酸水素二カリウム0.2重量%、リン酸ニ水素カリウム0.15重量%、塩化ナトリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.18重量%、塩化マンガン4水和物0.02重量%、塩化カルシウム二水和物0.01重量%、硫酸鉄7水和物0.003重量%、硫酸亜鉛7水和物0.002重量%、硫酸銅5水和物0.002重量%、大豆油2重量%を含む培養液3Lを5Lジャーファーメンターに仕込み、121℃で20分間滅菌した後、前記の前培養液を接種して30℃で通気攪拌を行った。培養開始10時間後から大豆油のフィードを開始した。PHは7になるようにリン酸及びアンモニア水でコントロールし、最終的に約5重量%のAcinetobacter sp.AK226懸濁液を得た。更に0.06Mリン酸バッファーを用いて2回洗浄を行い、最終的にリン酸バッファーに懸濁されたAcinetobacter sp.AK226懸濁液(乾燥菌体濃度10重量%)を得た。
【0041】
[原料グリコロニトリルの調製]
原料グリコロニトリルは三菱ガス化学製ホルマリン(ホルムアルデヒド=37重量%、メタノール8重量%)と青酸ガスを用いて、水酸化ナトリウムを触媒としてpH=4、反応温度40℃でシアンヒドリン化反応を行った。更に脱メタノールを目的として50℃、減圧条件(最終到達圧力50mmHg)でストリッピング操作を行い、水の蒸発に伴う濃縮分だけ蒸留水を添加して、最終的にグリコロニトリル:55重量%、ホルムアルデヒド:5000重量ppm、メタノール:780ppmの水溶液を得た。以下の実施例における生体触媒を用いた加水分解反応の原料には、このグリコロニトリル水溶液を用いた。
【0042】
[比較例1]
上記の55重量%グリコロニトリルを原料に、前記の生体触媒懸濁液を用いて加水分解反応を行った。まず0.06Mリン酸バッファーに懸濁した状態で保存された既知菌体濃度のAcinetobacter sp.AK226懸濁液を濃度が約640重量ppmとなるように15ml試験管に1重量%のリン酸バッファーとともに仕込み全液量を1mLに調製(pH=6.8)した。該試験管を恒温水槽に入れてスターラー攪拌を実施し、内温が30℃になるまでしばらく保持した。次に原料の55重量%グリコロニトリル水溶液を、マイクロピペッターを用いて20μL添加して反応を開始した。10分後にサンプリングを実施し、2M塩酸水溶液で希釈することで反応を停止し、0.2μmフィルター処理で菌体を除いた後、高速液体クロマトグラフィー分析を実施した。得られた初期比活性は26[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]であった。結果を図1に示す。
【0043】
[実施例1]
0.06Mリン酸バッファーに懸濁した状態で保存された既知菌体濃度(乾燥菌体濃度10重量%)のAcinetobacter sp.AK226懸濁液を濃度が約640重量ppmとなるように、及びグリコール酸アンモニウムを濃度が6.1重量%となるように、15ml試験管に1重量%リン酸バッファー液とともに仕込み仕込み全液量を1mLに調製(pH=6.8)する以外は比較例1と同様の操作を行った。得られた初期比活性は30[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]であった。結果を図1に示す。
【0044】
[実施例2]
添加されるグリコール酸アンモニウム濃度が11.4重量%であること以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた初期比活性は35[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]であった。結果を図1に示す。
【0045】
[実施例3]
添加されるグリコール酸アンモニウム濃度が16.5重量%であること以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた初期比活性は46[mmol/g-乾燥生体触媒/Hr]であった。結果を図1に示す。
【0046】
[比較例2]
0.06Mリン酸バッファーに懸濁した状態で保存された既知菌体濃度(乾燥菌体濃度10重量%)のAcinetobacter sp.AK226懸濁液と蒸留水を用いて5L六つ口フラスコに初期反応液811.9g(乾燥菌体8.19g)を仕込んだ。該フラスコにpH計と温度計を設置し反応液のpHと温度をモニタリングできるようにして、50℃恒温水槽に入れてパドル型攪拌羽根を用いて150rpmで攪拌を実施し、内温が50℃になるまでしばらく保持した。次に原料の55重量%グリコロニトリル水溶液を、液体クロマトグラフィー用ポンプを用いて0.59g/minでフィードを開始した。同時に原料グリコロニトリル中に安定剤として含まれる硫酸を中和するため、チューブポンプで1.5重量%アンモニア水をフィードした。尚、アンモニア水フィードポンプはpH計による制御で内液pHが6.9±0.1になるようにセットした。反応中は定期的にサンプリングを行い、高速液体クロマトグラフィーでグリコロニトリルとグリコール酸アンモニウム濃度を測定し、定常グリコロニトリル濃度が0.5重量%以下になるように原料の添加量を調節した。最終反応液の分析結果では、残存ホルムアルデヒドは検出されず、ヘキサメチレンテトラミンが8000重量ppm検出された。その他の反応結果は表1、図2、図3に示す。
【0047】
[実施例4]
0.06Mリン酸バッファーに懸濁した状態で保存された既知菌体濃度(乾燥菌体濃度10重量%)のAcinetobacter sp.AK226懸濁液と10.1重量%グリコール酸アンモニウム水溶液を用いて5L六つ口フラスコに初期反応液797.0g(乾燥菌体7.43g)を仕込み、原料の55重量%グリコロニトリル水溶液を、液体クロマトグラフィー用ポンプを用いて0.94g/minでフィードを開始する以外は実施例3と同様の操作を行った。最終反応液の分析結果では、残存ホルムアルデヒドは検出されず、ヘキサメチレンテトラミンが6800重量ppm検出された。その他の反応結果は表1、図2、図3に示す。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、ニトリラーゼを用いて、α−ヒドロキシニトリルからα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムを製造するに当たって、十分な初期比活性すなわち初期生産速度を有することで、1)十分な平均生産速度、2)十分な触媒生産性の2つを同時に達成することができる、工業的に有利なα−ヒドロキシニトリルからのα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、グリコロニトリル水溶液を原料に、生体触媒を用いて、加水分解反応を行った時の初期比活性(実施例1から3、比較例1)を示す。
【図2】図2は、グリコロニトリル水溶液を原料に、生体触媒を用いて、加水分解反応を行った時のグリコール酸アンモニウム濃度(実施例4、比較例2)を示す。
【図3】図3は、グリコロニトリル水溶液を原料に、生体触媒を用いて、加水分解反応を行った時のグリコール酸アンモニウム生産量(実施例4、比較例2)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリラーゼをα−ヒドロキシニトリルに作用させることを含むα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法において、α−ヒドロキシニトリルの添加前の初期反応液中にアンモニアもしくはアンモニウム塩が含まれていることを特徴とするα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
α−ヒドロキシニトリルの添加前の初期反応液中にアンモニウム塩が含まれている、請求項1に記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項3】
初期反応液中に含まれるアンモニウム塩がα−ヒドロキシ酸アンモニウムである、請求項2に記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項4】
初期反応液中に含まれるアンモニウム塩がグリコール酸アンモニウムである、請求項1から3の何れかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項5】
α−ヒドロキシニトリルがグリコロニトリルである、請求項1から4のいずれかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項6】
ニトリラーゼが、微生物菌体又はその処理物、あるいは微生物菌体由来のニトリラーゼの固定化物又は懸濁液から選択される何れか1種以上の生体触媒である、請求項1から5のいずれかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項7】
ニトリラーゼが、Acinetobacter sp.AK226(受託番号FERM BP-08590)由来のニトリラーゼ、又はAcinetobacter sp.AK226(受託番号FERM BP-08590)のニトリラーゼ遺伝子によってコードされるタンパク質酵素である、請求項1から6の何れかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項8】
ニトリラーゼがグラム陰性菌及びまたはその処理物の、固定化物及びまたは懸濁液である、請求項1から7の何れかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項9】
ニトリラーゼがAcinetobacter属の菌体及びまたはその処理物の、固定化物及びまたは懸濁液である、請求項1から8のいずれかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。
【請求項10】
ニトリラーゼがAcinetobacter sp.AK226(受託番号FERM BP-08590)の菌体及びまたはその処理物の、固定化物及びまたは懸濁液である、請求項1から9の何れかに記載のα−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸アンモニウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−165380(P2009−165380A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5477(P2008−5477)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】