説明

α−リポ酸アルカリ塩の製法

【課題】 遊離のα−リポ酸に比べて、水に対する溶解度と、熱に対する安定性をそれぞれ向上し、胃などの粘膜に対する刺激の低減を図り、その上、特異な硫黄臭のない無臭の形態のα−リポ酸を提供することにある。
【解決手段】 α−リポ酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を、α−リポ酸としての濃度が10重量%以下の水性媒体中で反応させて中和することを特徴とするα−リポ酸アルカリ塩の製法。α−リポ酸とアルカリ金属の水酸化物を、α−リポ酸としての濃度が10重量%以下の水性媒体中で反応させて中和し、その水溶液から噴霧乾燥法によって固体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−リポ酸の重合物や分解物の少ない高含量のα−リポ酸塩を製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
α−リポ酸は、生化学的に強い抗酸化作用を示すと共に、酵素の働きを助ける補酵素の一種で、ミトコンドリア内でのエネルギーを生み出すプロセスで、糖質の代謝を促進する重要な役割を果たす。欧米では、長年にわたり糖尿病の治療薬として使用されてきた医薬成分であり、日本においてもチオクト酸の名で、代謝性ビタミン剤として使用されたり、α−リポ酸含有製剤として、種々の目的の一般的な栄養添加剤として用いられている。
【0003】
ところで、α−リポ酸を経口調剤や栄養剤として用いる場合には、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒、或いはドリンク剤などの形態とする必要があるが、α−リポ酸は不安定で重合しやすい性質、特に水に対する溶解度が低く、熱に対して不安定な点等から、製造や取り扱いが簡便ではなかった。従って、α−リポ酸の製造中などに、重合物や分解物が発生しやすく、含量が落ちてα−リポ酸の効果を充分に発揮できなかった。
【0004】
また、遊離のα−リポ酸には、胃などの粘膜に対する刺激や、特異な硫黄のにおいがあり、使用しにくいという問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情を考慮してなされたもので、その目的は、遊離のα−リポ酸に比べて、水に対する溶解度と、熱に対する安定性をそれぞれ向上し、胃などの粘膜に対する刺激の低減を図り、その上、特異な硫黄臭のない無臭の形態のα−リポ酸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、α−リポ酸をアルカリ塩で中和することにより解決されると考えられる。ところが、α−リポ酸の場合、その特異な性質から、一般的な塩の製法でも、その調整濃度によっては含量の低下を招くという問題が確認された。一般的な塩の製法は、酸性物質とアルカリ金属・アルカリ土類金属を水性媒体中で反応させ、塩を生じさせる方法である。しかしながら、α−リポ酸の場合、製造条件によっては含量が低下するという問題が生じた。そこで本発明者は実験を行って、含量が低下しない条件を以下の通り見出した。即ち、請求項1の発明は、α−リポ酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を、α−リポ酸としての濃度が10重量%以下の水性媒体中で反応させて中和することを特徴とする。
【0007】
α−リポ酸アルカリ塩はこのようにして得られた水溶液であっても良いし、さらなる製造工程を経て得られる固体であっても良い。例えば、減圧雰囲気下に噴霧して粉末としても良いし、請求項2の発明のようにしても良い。即ち、α−リポ酸とアルカリ金属の水酸化物を、α−リポ酸としての濃度が10重量%以下の水性媒体中で反応させて中和し、その水溶液から噴霧乾燥法によって固体とすることである。
【発明の効果】
【0008】
α−リポ酸ナトリウム塩は、通常の条件では長期安定であり、特別な予防手段を講じる必要のないことが見出された。α−リポ酸ナトリウム塩は、結晶性の粉末であり、団塊性も粘着性もないので加工性がよく、また、熱に対する安定性がよいのであらゆる加工に好適である。そして、ナトリウムと同様のアルカリ性を持つアルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いて得られる他のα−リポ酸アルカリ塩についても、α−リポ酸を中和したものであることから、同様のことが言えると推測される。
【0009】
アルカリ金属を利用して、α−リポ酸アルカリ塩の水溶液を生産した場合には、熱に対する安定性が良いから、噴霧乾燥法によって固体(粉末)にすることができ、生産に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に以下の実施例を挙げて本発明を説明する。
【実施例1】
【0011】
実施例1はα−リポ酸ナトリウム塩の製法である。水酸化ナトリウム0.97gを水道水94gに溶解し、水冷下、α−リポ酸5.0gを室温以下で添加する。続いて、攪拌し、α−リポ酸を完全に溶解させて中和し、α−リポ酸ナトリウム塩の水溶液を得た。この溶液の含量を測定すると、100.4%であった。また、その水溶液を噴霧乾燥法にて処理し、微黄色粉末状のα−リポ酸ナトリウム塩を5.1g得た。この生成物の性質は次のとおりである。融点:247〜257℃(分解点)。組成:α−リポ酸:ナトリウム=1:1(モル比)。溶解度34g/100g−水。なお、参考のためであるが、α−リポ酸の水に対する溶解度は0.01g/100g−水である。
【実施例2】
【0012】
実施例2は実施例1と異なる条件でのα−リポ酸ナトリウム塩の製法である。まず、水酸化ナトリウム 98.4gを水道水9390gに溶解し、水冷下、α−リポ酸504.0gを室温以下で添加した。攪拌し、α−リポ酸を完全に溶解させて中和し、α−リポ酸ナトリウム塩の水溶液を得た。この溶液の含量を測定すると100.3%であった。
【実施例3】
【0013】
実施例3はα−リポ酸カリウム塩の製法である。まず、水酸化カリウム 1.36gを水道水93.6gに溶解し、水冷下、α−リポ酸5.0gを室温以下で添加した。攪拌し、α−リポ酸を完全に溶解させて中和し、α−リポ酸カリウム塩の水溶液を得た。この溶液の含量を測定すると102.1%であった。
【実施例4】
【0014】
実施例4はα−リポ酸カルシウム塩の製法である。まず、水酸化カルシウム 1.31gを水道水1000g に溶解し、水冷下、α−リポ酸7.18gを室温以下で添加した。攪拌し、α−リポ酸を完全に溶解させて中和し、α−リポ酸カルシウム塩の水溶液を得た。この溶液の含量を測定すると98.1%であった。また、その水溶液を60℃で濃縮、乾燥を行い、白色結晶のα−リポ酸カルシウム塩を7.94g得た。
【0015】
また、水性媒体中におけるα−リポ酸ナトリウム塩の加熱に対する安定性の評価、及び取水の配合量(濃度)での安定性を評価したものについて以下の表1に示すように、4つの試料を用いて試験を行った。
【表1】

上記試験は、粉末のα−リポ酸ナトリウム塩を、95℃の雰囲気中30分加熱することが、含量に影響を与えるか否かを評価したものである。また、α−リポ酸を水性媒体中に配合する量に関係があるか否かも同時に評価している。表1から分かるように、15日経過しても配合量に関係なく含量がほぼ初期値を維持しており、熱安定性が高い。
【0016】
また、α−リポ酸ナトリウム塩を製造する際の塩調整時の重量濃度と含量低下について図1に示すグラフのように試験を行った。図1は、α−リポ酸の濃度変化に伴う含量変化を示しており、5つの試料と、1つの仮定値(重量:0%の時の含量:100%のポイント)に基づいて、適当なカーブを推測して描いてある。このカーブは以下の4次方程式で表される。
y=0.0019x4-0.0759x3+0.6577x2-1.5541x+99.963
この方程式を利用すると、以下の表2に示すように、10重量%以下の場合には含量90%以上を確保しており、工業的に有益であると考えられ、6重量%以下の場合には含量100%以上を確保しており、さらに有益であると考えられる。
【表2】

【0017】
上述した製法で得られたα−リポ酸アルカリ塩は、錠剤、カプセル剤、粉末剤等の製剤の原料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】α−リポ酸ナトリウム塩を製造する際の塩調整時の濃度と含量低下に関するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−リポ酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を、α−リポ酸としての濃度が10重量%以下の水性媒体中で反応させて中和することを特徴とするα−リポ酸アルカリ塩の製法。
【請求項2】
α−リポ酸とアルカリ金属の水酸化物を、α−リポ酸としての濃度が10重量%以下の水性媒体中で反応させて中和し、その水溶液から噴霧乾燥法によって固体とすることを特徴とするα−リポ酸アルカリ塩の製法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−70303(P2007−70303A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260797(P2005−260797)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(505098269)立山化成株式会社 (1)
【Fターム(参考)】